【相談事例43】4月1日生まれは早生まれなのはなぜ?
【相談内容】
私の息子は4月2日が誕生日で6歳になりました。
来年から小学校に通うことになるのですが、息子より1日早く4月1日に生まれたお友達は、今年から小学校に通うので、学年が違ってしまい少しかわいそうです。
気になったのですが、どうして4月1日生まれと4月2日生まれで学年が変わってしまうのでしょうか。
どうして3月31日と4月1日というような、ちょうどよいところで区切っていないのでしょうか。
【弁護士からの回答】
4月に入り、お子さんが小学校に入学される方も多いと思います。
今回は法的なトラブルに関するものでなく、豆知識といった内容にはなりますが、4月1日生まれのお子さんが早生まれになる理由についてご説明させていただきます。
1.小学校へ進学するのはいつから?
学校教育法22条では、保護者は、子どもが「満6才に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから」小学校へ通わせる義務があると規定しています。
そして、学校教育法施行規則では、「小学校の学年は、4月1日に始まり、翌年3月31日に終る。」と規定されております。上記各規程だけを見てもどういったことになるのかについては分かりづらいと思いますが、簡潔にいうと、「満6歳になった日の次の日以降で最初に来る4月1日」に小学校に進学することになります。
この内容だけ素直に読むと、4月1日生まれの子は、4月1日に満6歳になるのだから、その次の日(4月2日)以降で最初に来る4月1日は翌年の4月1日になり、4月1日生まれの子は早生まれにならないのではないかとも思われるのですが、実際はそうではありません。
2.人はいつ年を取るのか?
人がいつ年を取るのかについてですが、それに関して規定している法律があります。
年齢計算ニ関スル法律という明治時代に制定された法律に規定されており、年齢については生まれた時間にかかわらず、生まれた日を1日目として起算するとされています。
また、上記法律で準用されている民法143条2項により、出生日(起算日)に応答する前日をもって満了することになります。
簡単な言葉で言うと、年を取るタイミングは、生まれた日ではなく、「生まれた日の前日の午後(夜)12時」となります。
午後12時は、翌日の午前0時と時刻的には同じですが、すくなくとも年を取る瞬間は、厳密には、誕生日の前日ということになります。
話はそれますが、うるう年の2月29日生まれの人はよく4年に1度しか年を取らないなどと冗談で言うことはありますが、法律上は、誕生日の前日(2月28日)の午後12時に年を取っていることになります。
3.日本で一番多い誕生日は4月2日??
上記の年を取るタイミングを進学するタイミングに当てはめると、4月1日生まれの人が年を取るタイミング、すなわち満6歳になるタイミングは、3月31日の午後12時ということになります。
そして、小学校に進学するタイミングは、満6歳になった日(3月31日)の翌日以降で最初に来る4月1日であり、「以降」とはその日も含まれますので、4月1日生まれの子は早生まれとなり、4月2日生まれの子よりも1年早く小学校に進学することになります。
厚生労働省の統計では、1985年から2015年までの間では4月2日が誕生日である人が日本では1番多いとされています。
これは、本当は3月末や4月1日に出産した人であってもお医者さんなどが気を利かせ、4月2日生まれとする出生証明書等を出して、4月2日生まれとして出生届を出すことが多いからではないかと言われています。
進学については年齢という一律の基準により判断すべきという点は原則ではありますが、個人的には、同じ年齢であってもお子さんの成熟や個性は様々であるため、進学に関しても柔軟に対応することができる仕組みを考えてもよいのではないかなと感じております。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例42】子どもの不法行為で親が賠償責任を?
【相談内容】
子どもがこの春から小学校に進学します。
新しい環境で頑張ってほしいと思っているのですが、子どもが他のお子さんをケガさせたり、物を壊してしまったりしたときには親が賠償責任を負わなければならないと聞きました。本当でしょうか。何か対策はないでしょうか。
【弁護士からの回答】
未成年の不法行為と親の賠償責任については、以前迷惑動画の投稿に関するコラムの中でも少し書かせていただきましたが、4月からお子さんが小学校に進学するかたもいらっしゃると思いますので、改めてご説明させていただきます。
お子さんの行為であっても、多額の賠償義務が発生する場合は少なくありませんので注意が必要です。
1. お子さんの行為で多額の賠償責任が発生
小学校に進学するとなると、お子さんの活動範囲も増えることに伴い、お子さんの行為がきっかけでさまざまなトラブルに発生する可能性は否定できません。
例えば、お子さんが自転車に乗るようになり、お子さんの不注意で自転車で歩行者に衝突し、歩行者が転倒し死亡してしまった場合には数千万円という多額の賠償義務が発生することなども珍しくありません。
2. 子どもの不法行為の賠償責任
では、お子さんが起こした不法行為については誰が賠償責任を負うのでしょうか。
民法712条では、「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。」と規定しており、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能(責任能力といいます。)がない場合には、不法行為責任を負わないとしています。
この責任能力の有無については、具体的なお子さんの状況などを考慮して事例ごとに判断されるものなのですが、おおむね11歳~12歳程度のお子さんであると責任能力がないと判断されるのが一般的です。
そして、責任能力がないと判断された場合の賠償義務については、民法714条1項に規定があり、
「前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」
と規定しており、未成年者を監督する法定の義務を負う者、すなわち通常の家庭であれば、親権者である両親が賠償責任を負うことになります。
714条1項ただし書きには、「監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったとき」には賠償義務を負わないとされており、従前、このただし書きの規定が適用される場面はほとんどなかったのですが、近年事例に即して、ただし書きが適用された最高裁判所の判例も出てきております。
3. 親としてできる対策は?
とはいえ、原則として責任無能力の未成年のお子さんが起こした不法行為については、親権者のご両親が賠償責任を負うことになります。
上記のとおりお子さんの行為であっても多額の賠償義務を負う可能性は少なくありません。
また、お子さんの自転車での事故については、自動車の任意保険の対象とはなりません。
そこで、親としてできる対策として、個人賠償責任保険に加入することをおすすめします。
個人賠償責任保険は、通常の医療保険や生命保険などにセットで特約として入れることができ、わずかな保険料で高額な賠償を補填することができるため、是非、個人賠償責任保険にも加入をご検討ください。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例41】警察官のコスプレは違法?~軽犯罪法違反について③~
【相談内容】
軽犯罪法では、列に割り込む行為なんてものも取り締まっているのですね。
そういえば、昨年、ハロウィンの時にコスプレをして街に行ったのですが、その際、警察官の人がいると思ったらよく見るとコスプレをした人でした。
本物の警察官と間違う人も多く、ふざけて取り締まりのような行為もしていたのですが問題ないのですか?
【弁護士からの回答】
これまで2回にかけて軽犯罪法違反の行為についてご説明させていただきましたが、今回も軽犯罪法違反に関する問題です。
近年ハロウィンでの大騒ぎなどがニュースなどで取り上げられ問題となっていますが、警察官のコスプレを行うことも問題点についてご説明させていただきます。
1. 官名詐称(軽犯罪法1条15号)
軽犯罪法1条15号では、「官公職、位階勲等、学位その他法令により定められた称号若しくは外国におけるこれらに準ずるものを詐称し、又は資格がないのにかかわらず、法令により定められた制服若しくは勲章、記章その他の標章若しくはこれらに似せて作つた物を用いた者」処罰すると規定しています。
簡単にいうと、警察官等であると偽る行為や、警察官の制服やバッジや警察手帳等を偽造したりする行為は軽犯罪法違反になります。
2. 警察官のコスプレは違法か?
軽犯罪法にて、官名詐称が禁じられている理由は、警察官等の制服等について資格を持っていない人が着用し警察官になりすますことにより、警察官等一定の職業や資格に対しうる国民の信頼を損なうことにつながるため処罰対象となっています。
すなわち、警察官を装っている人が横行することにより、一般の人においてこの人が本当に警察官であるのかと疑い、助けを求められない場合や、国民の信頼が損なわれることにより、警察官の職務の遂行を妨げることになってしまうため、法律で行為を制限しています。
したがって、ご相談者様の事例のように精巧なコスプレにより一般の人から見て単なるコスプレとしての範疇を越えて、本物の警察官であると見間違うような場合であれば、軽犯罪法違反ということで処罰の対象にはなってしまいます。
特に、近年では、ハロウィンにより非常に多くの人が集団で集まり時には暴徒のように暴れてしまうことも少なくないときに、警察官と見間違うようなコスプレをしてしまうと、本物の警察官による騒動を抑える仕事も邪魔してしまう可能性が非常に高いため、くれぐれもそういったコスプレは控えた方が良いでしょう。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例40】こんな行為が犯罪に?~軽犯罪法違反について②~
【相談内容】
フェイク動画の投稿をしたとしてもそこまで重い犯罪になるわけではないのですね・・・
いろんな人に迷惑をかけているのですからもう少し厳重に処罰してもらいたい気がします。
それ以外に軽犯罪法だと、どのような罪が規定されているのですか?
【弁護士からの回答】
前回は、軽犯罪法についての総論的な説明と、虚偽申告の罪についてご説明させていただきました。
今回は、その他の軽犯罪法に規定されている犯罪についてご説明させていただきます。
前にもご説明しましたが、「こんな行為も犯罪に?」というような内容も規定されています。
1. 刃物等の携帯(1条2号)
「正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者」を処罰の対象にしています。
こうした凶器を正当な理由なく隠し持っている者は、その凶器を使用し何か別の犯罪を行う可能性があるため、予防法的な観点から処罰されています。
2. 浮浪の罪(1条4号)
「生計の途がないのに、働く能力がありながら職業に就く意思を有せず、且つ、一定の住居を持たない者で諸方をうろついたもの」も処罰の対象になります。
要は、働けるにも関わらず、働かずにおり浮浪していると軽犯罪違反になってしまいます。
この犯罪で検挙されることはないのではと思っていたのですが、調べてみると、過去にこの罪で検挙された人自体はいるようです。
3. 行列割込み等の罪(1条13号)
条文は長いため省略しますが、公共の場所において、バスや、電車に乗るための列や切符を購入するための列に乱暴な態様や言動で割り込む行為は軽犯罪法違反になります。
電車でできるだけ座席に座りたいからと、並んでいる列に無理やり割り込む行為は軽犯罪法違反になる可能性があるので注意が必要です。
近年ではスマートフォンの普及により誰でも動画を撮影しネットに投稿することができる時代ですので、今後、割り込んだ人を撮影した人の投稿により検挙されるというケースが出てくるかもしれません。
4. 排せつ等の罪(1条27号)
「公共の利益に反してみだりにごみ、鳥獣の死体その他の汚物又は廃物を棄てた者」、すなわち、道に唾を吐く行為や、立ち小便をする行為は軽犯罪法違反になります。
この犯罪も、誰かがスマートフォンで撮影し、投稿する行為により検挙されるケースも増えてくるかもしれません。
5. 追随等の罪(1条28号)
「他人の進路に立ちふさがつて、若しくはその身辺に群がつて立ち退こうとせず、又は不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとつた者」も処罰対象になります。
例えば、執拗にナンパ行為や声掛け行為をし続ける行為についてはこの犯罪が成立することになります。
なお、つきまとい行為が恋愛感情に基づくものであり、かつ程度もひどいものである場合には、この犯罪ではなく、ストーカー規制法の規制対象となります。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例39】フェイク動画の投稿は犯罪!~軽犯罪法違反について①~
【相談内容】
先日、人を殺害している現場を撮影したかのような迷惑動画を投稿していた人が、軽犯罪法違反により書類送検されたというニュースを目にしました。
迷惑動画を投稿すると、刑事処分を受けるというのは本当だったのですね。
少し気になったのが軽犯罪法違反というのはどういった罪になるのですか?あまり聞きなれない犯罪なので教えてください。
【弁護士からの回答】
先日、ニュースで殺人現場を装ったフェイク動画がアップロードされ、実際に警察が出動するなどしたなど社会的に問題となった事件で、動画をアップロードした人が書類送検されたとニュースを目にしました。
安易な気持ちでの迷惑動画の投稿がなされないために、こうした迷惑動画を投稿するときちんと検挙されるということが周知された点ではとても有意義であると感じています。
今回の迷惑動画の投稿では、軽犯罪法違反という罪で書類送検されていますが、軽犯罪法という犯罪については、あまり耳にされたことがない方も多いと思いますので、今回は軽犯罪法についてご説明させていただきます。
1. 軽犯罪法とは
軽犯罪法とは、日常生活の中で発生しうる比較的軽微な罪を規定した法律であり、1条の1号から34号までに列挙された罪(21号が削除されているため、33個あります)に違反した場合、拘留または科料に処すると規定されている犯罪です。
拘留とは30日未満の日数拘置所に収容される刑罰であり、科料とは1,000円以上1万円未満の金銭の支払いが求められる刑事罰であり、比較的軽微な犯罪について規定された犯罪であることが分かると思います。
この軽犯罪法ですが、制定されたのが昭和23年と非常に古い罪であるため、規定されている罪の中身として「こんな行為も対象になるのか」と驚くような内容も含まれています。
今回は、上記相談事例に該当する犯罪行為のみご説明しますが、次回以降、通常耳にしない珍しい犯罪行為の種類についてご説明させていただきます。
2. 虚偽申告の罪(16号)
軽犯罪法では「虚構の犯罪又は災害の事実を公務員に申し出た者」を処罰する旨規定しています。
今回書類送検された事件では、公務員(警察官)に対して直接犯罪の申告を行ったわけではありません。
しかし、報道等をみると、殺人フェイク動画を投稿した人は、動画を投稿した際広く他の人に拡散するよう求めていたとのことであり、公務員を含めて広く多数の人に虚偽の犯罪を申告したと認定しているのだと思います。
3. フェイク動画を抑止するには・・・
上記のように、虚偽の犯罪事実を投稿した場合には、単なる軽犯罪法違反という非常に軽微な犯罪しか成立しない状況であり、その行為による社会的影響の大きさや迷惑の程度に比してあまりにも罪が軽すぎるのではないかと考えています。
刑法や軽犯罪法は制定されたのが非常に古く、インターネットを介した迷惑動画やフェイク動画等の投稿などの犯罪行為を想定した法律が制定されていないのが現状です。
迷惑動画やフェイク動画の投稿により被る社会的影響や被害は多大なものであることから、厳重な罰則を設けた法律を制定することにより、迷惑動画を防止する必要があると考えています。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例38】合意をすればすべて有効?~契約(法律行為)の有効性について~
【相談内容】
平成32年という合意であっても無効になることは少ないようですね。
先日、妻の不貞相手との間で、慰謝料の和解をして、慰謝料として5,000万円支払うと相手も言っていたため、その旨の和解契約書を作成しました。
相手は学生で、到底払えきれないとは思うのですが、一度当事者で合意をした以上、問題ないですよね?
【弁護士からの回答】
前回は、契約(法律行為)の客観的有効性の要件のうち、内容の確定性についてご説明させていただきました。
今回は、内容の確定性以外の客観的有効性の要件についてご説明させていただきます。
1. 内容の「実現可能性」について
前回ご説明したとおり、契約が成立すると、契約の当事者には、契約内容にしたがった権利(債権)と義務(債務)が発生することになり、義務を履行することができない場合には、損害賠償をしなければならないリスクを背負うことになります。
したがって、契約の内容が実現することが不可能な契約の場合には、当事者間で合意をしたとしても、契約は無効となります。
例としては、既に消失してしまっている物の売買や、「3時間以内に月に行って帰ってくる」といったような、社会通念上実現不可能な契約(そもそもこんな契約を行うこと自体考えられませんが、分かりやすい例としてご説明しています。)についても無効となります。
2. 内容の「適法性」について
法律の中には、契約の当事者を保護するために、その規定に反する合意を行ったとしてもその合意が無効になる効力を有する規定があり、これを「強行規定」といいます。
強行規定の例としては、民法146条で「時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。」と規定されており、時効の利益(消滅時効や取得時効により生ずる利益(債務の消滅や、物の所有権の取得など)をいいます。)については時効期間が満了する前に契約書等で時効の主張を行わないと定めていても、上記強行規定に反し無効ということになります。
3. 内容の「社会的妥当性」について
当事者がいかに合意していたとしても、公の秩序や善良な風俗(社会における一般的な倫理)に反し、社会的な妥当性を欠く法律行為(契約)については、公序良俗違反として民法90条によりとなるとされています。
例えば、「人を殺したら200万円支払う」といったような犯罪行為に関する契約や、愛人、妾の契約については、家族若しくは性道徳に反する契約として無効になります。
また、不当に高額な利息を付した契約や、莫大な賠償金などを設定するようないわゆる暴利行為に関しても、公序良俗違反として無効になるとされています。
ご相談者様の事例でも、不貞行為の慰謝料の金額がどの程度の金額になるかについては、不貞行為の内容や、不貞を行った人の経済能力などが考慮の対象となります。しかしながら、5000万円というあまりにも高額な金額について、学生が支払うことができ金額ではないことは誰がみても明らかであるため、示談書を作成していたとしても公序良俗に反し無効とされてしまう可能性が非常に高いでしょう。
ご相談者さまの事例については、あまりに極端な事例ですが、上記のような契約の有効性については意識しておかなければ、要件を満たしていない契約書を作成してしまう可能性は少なくないと思いますので、契約書等の合意書面を作成する際には、是非一度弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例37】「平成32年」と書かれた契約書は有効?~内容の確定性について~
【相談内容】
ニュースで、新元号が発表されたのを見て、気になったことがあります。
私は、5年前(平成26年)に、ある人にお金を貸しており、その際借用書も作成しているのですが、返済期間として「平成26年9月~平成32年8月まで」と記載されています。
新しい年号に変わったことにより、「平成32年」というものが存在しなくなってしまったのですが、契約が無効になったりすることはないのでしょうか。
【弁護士からの回答】
平成31年4月1日に、新元号が「令和」になることが発表されました。これにより、「平成」は平成31年4月30日で終わり、翌日の5月1日からは、新元号の令和元年5月1日ということになります。
元号が変わること(「改元」といいます。)に伴い、ご相談者様の事例のように従前の元号で表記していた契約の有効性に影響を及ぼすのか否かについて、契約の有効性の要件の説明と併せてご説明させていただきます。
1. 契約(法律行為)の有効性
契約(法律行為)が有効であるための要件のひとつに、法律行為の客観的有効要件というものがあります。
契約が成立する場合には、その契約の内容にしたがった権利、義務が発生することになり、義務に反した場合には損害賠償などのリスクを負うことになります。
したがって、契約(法律行為)内容に関し、内容が確定しない場合や、実現できない場合にまで、権利を取得させたり、義務を負わせたりするべきではないと考えられています。
したがって、契約が成立するためには、契約内容に関する客観的有効要件を満たしている必要があります。
客観的に有効要件には、
①内容の「確定性」
②内容の「実現可能性」
③内容の「適法性」
④内容の「社会的妥当性」
の4つの要件があります。
そして、改元にともなって、存在しなくなった従前の元号による契約書の有効性の問題は、上記要件のうち①内容の「確定性」の問題であるため、内容の確定性の要件についてご説明させていただきます(他の要件については次回以降ご説明させていただきます。)
2. 内容の「確定性」とは
上記のとおり、契約が成立すると、契約内容に沿った義務を負うことになります。
したがって、契約が有効であるためには、契約の内容、すなわち、どのような権利を有し、どのような義務を負っているのかについて(契約の重要な部分)は確定していることが必要であり、内容を確定することができない契約は無効になります。
3. 「平成32年」とする契約は有効か
それでは、ご相談者様の事例のように「平成32年」という期限が設定されている契約は、確定性の要件を満たしているといえるのでしょうか。
確定性については、当事者の合意した内容を合理的に解釈することにより、内容が特定することができる場合でも満たされると解されています。
そして、平成32年を期限とする場合、当事者の意思として「平成という元号が続いている場合のみ有効とする」というような合意をしているということは通常考えられず、平成32年=西暦2020年を期限とするという合意をしていることは解釈上明らかです。
したがって、「平成32年」という期限を設定していたとしても、当事者において西暦2020年が期限であるという契約の内容は確定しているといえるため、内容の確定性の要件を満たしているといえます。
4. 改元にあたっての注意事項
このように、改元が発生した場合に、旧元号のままの書面を作成したとしても、契約の有効性については問題ないのですが、旧元号のまま契約書等を作成することで、相手方との間でトラブルが発生する可能性は否定できません。
したがって現時点で契約書や請求書等の文章を作成する際に5月1日以降に期限などが到来する場合には、新元号により記載するか、西暦を併記するなどして、内容に誤解を与えないよう工夫が必要です。
次回以降にもご説明させていただきますが、契約の有効要件を満たしているかについては意外にも専門的な知識が必要になってきます。
したがって、契約書の作成に際しては、弁護士にご相談いただいたほうがよいでしょう。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例36】裁判員裁判について④~裁判員裁判にまつわるその他の事項~
【相談内容】
裁判員裁判についてだいぶわかってきましたが、いざ自分が裁判員に選ばれたらと思うと緊張してしまいます。
他にも気になることがいろいろあるので、この機会に教えてください。
【弁護士からの回答】
これまで裁判員裁判制度についてご説明させていただきましたが、今回は最後に裁判員裁判にまつわる質問に回答する形で、裁判員制度の課題や問題点についてご説明させていただきます。
A裁判員に選ばれると、裁判員には事件に関し守秘義務が課されることになります。
具体的には、評議(有罪無罪の判断や量刑判断)の内容や、誰がどのような意見を行ったのかという点について第三者や親族にも明らかにしてはいけません。
守秘義務違反を犯してしまうと、罰金等の刑罰が科されることになります。
Q殺人事件等の場合には、殺害状況等の凄惨な証拠については見ないということもできるのですか?
A裁判において判決を行うためには、採用された証拠全てに目を通す必要があります。
したがって、裁判員の方は、殺害状況等の凄惨な場面が記録された証拠等についても全て目を通す必要があります。
このように、凄惨な内容の証拠に目を通すことにより、裁判員の方に精神的なショックを与えてしまう恐れがあり、かつ、上記の守秘義務によりその悩みなどを打ち明けることができず、裁判員の方に精神的苦痛を与えてしまう可能性が存在することが裁判員裁判の検討課題となっています。
Q裁判員裁判の期間はどのくらいかかるのですか?
A期間について明確な定めがあるわけではないのですが、争点が少ないような一般的な事件の場合には5日間で終了すると言われています。
もっとも、複数人を殺害しているような重大な犯罪事件の場合には、審理が終結するまでに半年以上要する事件もあり(最長で207日も審理期間が経過している事件もあります。)、そのような長期間、裁判員として拘束されることより被る負担を軽減することも、裁判員裁判制度の課題となっています。
Q裁判員として法廷に参加することにより、被害者や被告人の関係者から反感を買わないかとても不安です。
A裁判員の名前や個人情報については開示されることはありません。
もっとも暴力団員による殺人事件の裁判員裁判において、被告人の関係者である暴力団関係者が、裁判所外で裁判員に対し脅す行為を行った事件がありました。
裁判員に対し不当な介入をする行為自体犯罪に該当するのですが、裁判員の安全を確保することも今後の課題といえるでしょう。
裁判員制度が始まって10年が経過しようとしており、今後も様々な検討課題などがでてくるのは間違いないと思いますが、裁判制度に市民感覚を反映させること自体は有意義な制度であると考えています。
今後の、刑事裁判にも携わるものとして裁判員裁判の動向には注視していきたいと考えています。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例35】裁判員裁判について③~有罪か無罪、量刑の決め方は??~
【相談内容】
裁判所から通知がきて、ある事件の裁判員に選ばれることになりました。
裁判員となった以上、被告人が有罪か無罪か、どのような罪を科すのかについて私が決めなければならないのですか。私の判断でその人の人生が決まってしまうようで非常にプレシャーを感じてしまいます。
【弁護士からの回答】
以前お伝えしたように、裁判員に選ばれ、裁判に参加した場合には、起訴された被告人が有罪であるのか、無罪であるのか、有罪である場合にはどのような刑罰を科すべきなのか(量刑判断)を行う必要があります。
今回は、どのようにして有罪、無罪の判断や量刑判断を行っているかについて、ご説明させていただきます。
1 有罪無罪の判断について
先述のとおり、裁判員裁判は、裁判官3名、裁判員6名の合計9名で構成されます。
そして、量刑判断においても同じですが、有罪無罪の判断はこの9名全員で行うことになります。
有罪無罪を判断する人と、量刑を判断する人が分かれているわけではありません。
具体的は、多数決をとり、過半数により決定するのですが、多数派の中に最低でも1人裁判官が入っている必要があります。
例えば、有罪と判断したのは、裁判官2人と裁判員3人、無罪と判断したのが、裁判官1人と裁判員3人の場合、有罪と判断したのが5名と過半数でありかつ裁判官も有罪と判断しているため、結論的には有罪と判断されることになります。
一方、有罪と判断したのが、裁判員5名、無罪と判断したのが裁判官3名と裁判員1名の場合、多数決の観点では、有罪の方が過半数となっていますが、裁判官全員が無罪と判断しているため、この場合の結論は無罪と判断されることになります。
2 量刑判断について
量刑判断についても、裁判官、裁判員全員で判断することになります。
そして、量刑判断においても有罪、無罪の判断において多数決で決定することになり、かつ、裁判員と裁判官が各1名以上賛成している必要があります。
ここで、量刑の判断の場合には、有罪、無罪という2択だけではなく、法律で定められている範囲内で量刑を定めるため、裁判員や裁判官ごとに量刑に関する意見がばらばらになる場合もあり、その場合には、最も重い刑を主張した人の数に、その次に重い刑を主張した人の数を足していき、裁判官が1人以上含めて過半数に達した時点で、量刑が決定されることになります。
例として、懲役10年と判断したのが裁判員3名、懲役8年と判断したのが裁判員3名、懲役6年と判断したのが裁判官1名、裁判員1名、懲役5年と判断したのが裁判官2名の場合、過半数(5名)に達するのは、懲役8年ですが、その中に裁判官が含まれていないため、裁判官は最低1名入っているところまで下がるため、この例では、懲役6年が科されることになります。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例34】裁判員裁判について②~裁判員裁判対象事件とは~
【相談内容】
仕事もせず、お金がなかったため、コンビニやスーパーなどで万引きを繰り返していました。
また、夜のタクシー等であれば使っても暗くてバレないだろうと思い、1万円札をプリンターでコピーし、偽札としてタクシーの料金の支払いに何度が使っていました。
コンビニやタクシーの防犯カメラが原因で先ほど逮捕されてしまいました。以前にも窃盗で逮捕・起訴されたことがあり、その時は裁判官1人で裁判がなされました。
今回も起訴されると思うのですが、今回も裁判官1人でそんなに時間もかからず終わりますか??
【弁護士からの回答】
このご相談事例では、結論からお伝えすると、起訴された場合には裁判員裁判として審理が行われる可能性が非常に高いです。
今回は、どのような事件が裁判員裁判として取り扱われることになるのかという裁判員裁判対象事件についてご説明させていただきます。
1 裁判員裁判対象事件とは
どのような事件が裁判員裁判対象事件になるかについては、「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」に記載されており、
①死刑又は無期の懲役・禁錮に当たる罪に関する事件(法2条1項1号)
または
②法定合議事件(法律上合議体で裁判することが必要とされている重大事件)であって故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に関するもの(法2条1項2号)
と規定されています。
簡単に言うと、①法律で死刑や無期懲役(禁固)と規定されている犯罪か、②故意の犯罪に行為により人が死亡した事件(法定合議事件であることも要件になります。)が裁判員裁判対象事件となります。
2 具体例①(法律で死刑や無期懲役にあたる罪)
殺人罪や、強盗致死罪(強盗殺人罪)、現住建造物等放火罪のように、法定刑に死刑が定められているものは裁判員裁判の対象です。
また、身代金目的略取罪、強盗致傷罪のように法定期に無期懲役等が規定されているものも対象事件になります。
ご相談者様の事例では、万引きの犯罪(窃盗罪)は裁判員裁判対象事件ではありませんが、1万円札をコピー機でコピーし、偽札をタクシーの支払いに使う行為は、通貨偽造罪及び偽造通貨行使罪(刑法148条)に該当します。
そして通貨偽造の罪は「無期又は3年以上の懲役」と規定されているため、仮に、今回の事件で窃盗罪のみならず、通貨偽造及び同行使罪についても起訴された場合には、裁判員裁判対象事件ということになります。
通貨偽造罪がこのように非常に重い罪になっている理由は、刑法自体が制定されたのが明治時代であり、当時の通貨(紙幣)には、今のように偽札防止の技術が発展していなかったため、無期懲役という非常に重い刑罰を定めておくことで犯罪を抑止する必要があったためです。
3 具体例②(故意の犯罪に行為により人が死亡した事件)
故意(意図的に、わざと)に行った犯罪行為により、人が死亡してしまった場合には、重大な事件として裁判員裁判の対象となります。
具体的な罪名としては、傷害致死罪、危険運転致死罪、保護責任者遺棄致死罪などがこれにあたります。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」
Q裁判員になったら事件のことをブログ等に書いてもいいのですか?