弁護士コラム

2020.06.12

【相談事例68】給付金の二重振込、自由に使っていいの??

【相談内容】

コロナウイルスの関係で1人あたり10万円の給付金がもらえるということで早速オンラインで申請手続きを行いました(妻と子供の3人家族です。)。
後日、通帳を記帳しに行くと給付金が入金されていたのですが、30万円ではなく倍の60万円が振り込まれていました。
明らかに二重振込だと思うのですが、市から振り込まれている以上、60万円全額を自由に使っていいのでしょうか。

【弁護士からの回答】

コロナウイルスの感染拡大により、国や自治体から様々な給付金や補助金の制度が創設されています。
もっとも、自治体も急遽大量の人に対して支給の手続きを行っている状況であるため、全国各地でご相談者様の事例のように二重給付がされている事例が多数ニュースで報道されております。

そこで、本日は、誤って二重に給付された給付金に関する法律問題についてご説明させていただきます。

1 入金処理がされる前について

自治体などが誤って二重に支給(入金処理)されてしまった場合、振込処理(入金記帳)前であれば、「組戻し」という手続きを利用することにより、誤って振り込んでしまった人が銀行に対し連絡することで、入金先の口座の名義人の同意なく振り込みを取り消すことができます。

これに対し、振込処理(入金記帳)がされてしまった後については、同じく「組戻し」という制度は使えるのですが、入金記帳後については、入金先の口座の名義人の同意が必要になります。

したがって、振込処理後に関しては、連絡先などがわからない振込先に対しては組戻しができなくなってしまうため、誤って振り込んでしまった場合には早急に組戻しの手続きを行ったほうがよいでしょう。

2 二重給付を引き出した場合の問題について

それでは、ご相談者様の事例のように二重給付であることを知りながらお金を引き出してしまった場合、どのような問題が起きるのでしょうか。

まず、誤って振り込まれた金額については、口座に入金されているものの、法律上口座の名義人のお金ではありません。
口座の名義人は、法律上の原因なく金銭を取得しているため、民法上の不当利得(民法703条)に該当します。

したがって、誤振込であること知りながら返金しなかったり、使い込んでしまった場合には、誤振込された金額に加え、返金するまでの利息も支払う義務を負うことになります(民法704条)。
もっとも、誤振込であることを知らずに引き出してしまった場合には、残っている金額(法律上「現存利益」といいます。)のみを返還すればいいのですが、誤振込であることを認識しないで使用するケースというのはあまり想定し難いため、誤振込であると気づいた場合には、直ちに入金者に連絡するのが適切です。

さらに、誤振込であることを知りながら、銀行の窓口で預金を引き出した場合には、法律上自分のものではない預金であるにも関わらずに、自分の預金であるかのように銀行員をだまして預金を引き出したことになるため、刑法上の詐欺罪(刑法246条1項)が成立します。

また、ATMで引き出した場合には、ATMは機会であり、だまされるということが観念できないため、最高裁の判例上、窃盗罪(刑法235条)が成立するという理解が確立されております。

したがって、誤振込であることを知りながら預金を引き出した場合には、窓口であってもATMであっても犯罪になってしまいますので、くれぐれもお控えいただき、誤振込であることを知った時点で早急に入金者に連絡するのが良いと思います。

 

掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。

「相談事例集の掲載にあたって」

2020.05.22

【相談事例67】従業員が支払った賠償金を会社に請求できるの??

【相談内容】

会社でミスをしてしまい、お客さんに損害を与えてしまいました。
会社からは、「お前のミスなんだからお前が全額負担しろ」と言われたため、私の方で、お客さんに対し、全額賠償しました。

私のミスなので私が支払わなければならないということはわかるのですが、会社が少しも負担しないというのは納得いきません。

【弁護士からの回答】

前回は、従業員のミスにより会社が損害を被った場合、会社は従業員に対して賠償請求は認められるものの、信義則により全額請求することはできないことをご説明させていただきました。

今回は、前回の事例とは異なり、従業員が、損害を与えた第三者に賠償した際、会社に対して負担を求めることができるのかという問題についてご説明させていただきます。

1 問題の所在(逆求償は認められるか)

前回、ご説明させていただきましたが、従業員が会社の事業に関し、第三者に損害を加えてしまった場合、被害者は会社に対し損害賠償を請求できるのですが(民法715条1項)、会社は、従業員に対して、被害者に支払った賠償金の支払うように求めることができます(民法715条3項。求償権といいます。)。

では、従業員が、被害者に対して損害賠償を行った場合、従業員は使用者(会社)に対して、求償することができるのでしょうか。

民法715条3項では、使用者から従業員への求償については規定しているものの、従業員から使用者への求償(逆求償といわれています。)については、何ら規定されていないことから、問題となります。

2 最高裁での判断

この、従業員からの逆求償が認められるか否かについて争われた事件があり、第1審では、従業員からの逆求償を認めたものの、第2審では、従業員が起こした賠償責任は、事業の際に行われたものであっても、不法行為を行った者である従業員が全額賠償する責任があるとして、逆求償を否定しました。

そして、この問題は、最高裁判所にて判断されることになり、令和2年2月28日の判決では、民法715条1項の使用者責任について、損害の公平な分担の見地から規定されたものであると判断し、使用者は、従業員との関係においても、損害の全部又は一部について負担すべき場合があると判断し、事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度で逆求償を認められると判断しました。

3 最後に

このように、従業員に行為により損害が発生した場合に、従業員と会社のいずれが負担すべきであるかについては、非常に複雑な問題となっているため、是非一度弁護士にご相談ください。

 

掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。

「相談事例集の掲載にあたって」

2020.04.30

【相談事例66】自分のミスで会社に大損害!全額支払う義務があるの??

【相談内容】

私は、とある会社で、主に商品の発注業務を行っているのですが、会社において、他に発注業務を担当している従業員が一気に退職してしまい、私のもとに膨大な発注業務の仕事が舞い込んできました。
連日夜遅くまで発注の依頼を掛けていたなかで、とある業者に対し、本来50個発注すべきところを、間違って、5,000個発注してしまい、大量の商品が会社に届くことになりました。
会社には仕入先業者に対する多額の代金支払等多額な損害が発生することになってしまいました。
会社からは、「お前のミスなのだから全損害を賠償しろ」と言われています。

ミスをしたのは私なのですが、全額私が負担しなければならないのでしょうか。

【弁護士からの回答】

労働事件という一般的には残業代請求や解雇の有効性を争うという案件が一般的ですが、従業員のミスによる損害の問題も少なからず存在します。
ご相談者様のように労働者側からのご相談のみならず、会社の経営者の方からのご相談も少なくありません。
そこで、今回は、従業員のミスによる損害賠償請求についてご説明させていただきます。

1 損害賠償請求は認められる?

一般に雇用契約では、従業員には、業務を行う義務を負っており、かかる労働義務を果たしていたとしても、従業員のミスにより会社に損害を与えてしまう可能性があり、法律上では、故意(わざと)または過失(ミス)により会社に損害を与えてしまったといえるため、会社は不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)権を有し、会社が被った損害の全額を賠償しなければならないとも思われます。

また、今回のご相談とは異なりますが、従業員が会社の事業に関し、第三者に損害を加えてしまった場合、被害者は会社に対し損害賠償を請求できるのですが(民法715条1項)、会社は、従業員に対して、被害者に支払った賠償金の支払うように求めることができます(民法715条3項。求償権といいます。)。

2 信義則による制限

しかし、会社(使用者)は、従業員を使って事業を行い、利益を得ているのであるから、かかる従業員のミスにより損害が発生した場合に、そのミスを全額従業員に請求することができるとすると、会社はいっさいリスクを背負わなくなってしまい、不公平になります。
そこで、最高裁判所第一小法廷昭和51年7月8日判決では、求償権の問題ですが、

「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被つた場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。」

としており、諸般の事情を考慮して、求償権の有無を判断しています。
この最高裁の判断は、会社が従業員に対して直接損害賠償請求をする場合にもあてはまると言われています。

3 本件では?

ご相談者様の事例では、人員不足の状態になっていること、連日遅くまで1人で仕事をしており、業務過多の状態になっていることなどから、会社からご相談者様へ請求することができる金額は相当程度減額されることになると思われます。

もっとも、どの程度減額されるのかという点については、事実の認定や法的評価を伴う非常に専門的な問題であるため、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

 

掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。

「相談事例集の掲載にあたって」

2020.04.14

【相談事例65】産まれた前後で大違い(養子の子と代襲相続)

【相談内容】

先日、祖父が亡くなりました。祖父には私の父を含め2人子どもがおり、私の父は祖父よりも先に亡くなっていました。もう1人の子(私の叔父)は存命です。

実は、父は祖父の実の子ではなく、私が産まれてしばらくしてから養子縁組を行っています。私には弟がいるのですが、弟は父と祖父が養子縁組を行ったあとに生まれています。

父が祖父よりも先に亡くなっているので、私は代襲相続人という立場になり相続できると思うのですがどうすればいいでしょうか。

【弁護士からの回答】

結論からお伝えすると、ご相談者様はおじいさまの財産を相続することができません。
今回は、養子の子が代襲相続人になることができるかという問題についてご説明させていただきます。

1 代襲相続

民法878条1項では「被相続人の子は、相続人となる。」と規定しており、2項では、「被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき」は、「その者の子がこれを代襲して相続人となる。」と規定しており、代襲相続について規定しています。

この規定だけを読むと、ご相談者様のお父様はおじい様よりも先に亡くなっているので、ご相談者様も代襲相続人になるようにも思えます。

2 養子と直系卑属の関係

もっとも、民法878条2項但し書きでは、「被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。」と規定しており、被相続人の子の子であっても被相続人の直系卑属でない人は代襲相続人にならないと規定しています。

そして、養子縁組について定めた民法727条では、「養子と養親及びその血族との間においては、養子縁組の日から、血族間におけるのと同一の親族関係を生ずる。」と規定しています。
すなわち、養子縁組を行った日に養子と養親(養親の血族)との間には親族関係が発生することになり、養子は養親の直系卑属になります。
しかし、民法727条では、養子と養親との間の親族関係については規定していますが、「養子の子」と養親との間の親族関係については何ら規定していません。

養子縁組をするときにすでに生まれている養子の子については、自らの意思に反して新たな親族関係が結ばれるべきではないとの理由から、養子縁組前に生まれた養子の子は、養子の親との間に血族関係はないと判断されています。

これに対し、養子縁組後に生まれた養子の子については、血族関係にある養子から生まれてきているため、養子の親との血族関係が認められると判断されています(大判昭和7年5月11日)。

これをご相談者様の事例でみると、ご相談者様は養子縁組をする前に生まれてきているので、養親(おじい様)との間に血族関係はなく、残念ながら代襲相続人にはなれません。

これに対し、ご相談者様の弟様は、養子縁組後に生まれているため、代襲相続人になれます。

生まれたのが養子縁組を行った前か後かということのみをもって、代襲相続人になれるか否かという非常に大きな問題に影響を及ぼすことになります。

もっとも、ご相談者様ご本人がおじい様と直接養子縁組を結んでいれば、子として相続人になることができます。

このように、誰が相続人になるのかという問題は、簡単なように見えて非常に複雑な問題があるため、相続が発生した場合には、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

 

掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。

「相談事例集の掲載にあたって」

2020.04.13

【相談事例64】コロナウイルスによる影響

【相談内容】

コロナウイルスの蔓延のより、外出の自粛などが要請されていて様々な業界に大きな影響を与えているのをニュースで見かけます。

弁護士の先生や法律事務所では、コロナウイルスによる影響は受けているのでしょうか。

【弁護士からの回答】

前回お伝えした飲食業のみならず、様々な業界に悪影響を与えているコロナウイルスですが、弁護士が仕事を行う法律事務所においても影響を受けていることは否定できません。
そこで、今回は、コロナウイルスによる法律事務所が受ける影響をご説明するとともに、当事務所の対応についてもご説明させていただきます。

1 裁判所での期日の問題

本店の博多オフィスだけでなく、当事務所も福岡に所在するため、ご依頼いただいた事件において交渉での解決が困難である場合には、そのほとんどが福岡の裁判所において訴訟や調停等を行うことがほとんどです。

しかし、2020年4月7日に福岡県にも非常事態宣言が出されたことにより、4月8日から5月6日までの間に実施される予定の期日については、原則として取り消されるようになりました(もっとも、民事保全事件、DV事件等緊急性のある事件については期日が例外的に行われるそうです。)

これにより、現在裁判などになっている事件の進行が遅くなってしまうことになります。

したがって、裁判を行いたいと考えられている方がいらっしゃる場合には、ただでさえ裁判だと解決までに時間を要するところさらに時間がかかる状況になってしまいます。

できるだけ早期に解決するためには、交渉段階で弁護士を代理人につけたほうがよいと思いますので、ぜひ一度ご相談ください。

2 法律相談について

緊急事態宣言は出たものの、日々の生活の中で起こる法律トラブルがなくなるというわけではありません。

当事務所でも通常とおり営業は行っており、法律相談も受け付けております(もっとも、出勤・移動時による従業員スタッフの感染予防のため、時差出勤やテレワーク等を行う予定であるため、時間帯によっては、お電話やお問い合わせのご対応に時間を要する場合がございますので何卒ご容赦いただけますと幸いです。)。

したがって、今トラブルなどでお悩みの方はお気軽に相談に来られてください。
しかしながら、当事務所でも感染リスクはできるだけ避けたいと考えているため、発熱がある方や、体調不良の状態の方は、相談の予約を入れた場合であっても、ご来所をお控えいただけますと幸いです。
  
そのような場合でも、至急弁護士にアドバイスを受けたい方もいらっしゃると思われます。
そのような場合には、コロナウイルスが収束する当面の期間についてはできる限り柔軟にweb相談や電話相談等でも対応させていただきますので、お困りの際には、とりあえずお問い合わせください。

3 その他(今後想定される対応について)

上記のとおり自粛要請により様々な事業に影響を与えている以上、今後中小企業や個人事業主の方において、事業を継続することができず、任意整理、破産、個人再生等の債務整理案件等が一定程度増加することが想定されます。

当事務所も、債務整理案件について、ノウハウや経験も十分な弁護士及びスタッフがおりますので、万が一事業を継続することが困難であると判断された場合には、是非お気軽にお問い合わせください。

掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。

「相談事例集の掲載にあたって」

2020.04.10

【相談事例63】居酒屋でどうしてビール瓶の栓が開けられてるの?

【相談内容】

最近はコロナの影響で、外でお酒を飲むことができず、家で晩酌をする機会が増えました。
家でビール瓶を開けていて思ったのですが、居酒屋などで瓶ビールを頼むと、いつも決まって栓が開けられた状態で持って来られている気がします。

私は自分で栓を開けて飲みたいなと思うのですが、予め栓が開けられて提供されているのには何か理由があるのでしょうか。

【弁護士からの回答】

コロナウイルスの影響で、福岡県にも緊急事態宣言が出され、外出の自粛要請により、飲食店を経営されている方の損失は計り知れない状況ではないかと心配していますが、2020年4月9日に、居酒屋などの飲食店において、期間限定ではありますが酒類の持ち帰り用の販売認めるための期限付酒類販売小売業免許を付与する制度が開始されるとの発表が国税庁より出されました。

今回の相談内容も酒類販売と関わって来る問題の為ご説明させていただきます。

1 飲食店を営むには

一般的に飲食店を営むには、飲食店営業許可をえればよく、飲食店営業許可があれば、お店でお客さんに酒類を提供することが可能になります。

2 酒類を販売するには

しかし、酒類を販売する場合には、お酒の販売に対する税金を適切に徴収するために酒税法という法律により、酒類小売業免許を取得する必要があります。

すなわち、居酒屋で瓶ビールの中身のビールを提供する場合には免許は不要ですが、仮に、栓を開けずにお客に提供した瓶ビールをお客さんが持ち帰ってしまった場合には、酒類小売業免許を有していないにもかかわらず、酒類を「販売」したことになってしまい、酒税法違反になってしまう可能性があります。

このように、栓を開けずに瓶ビールを提供してしまうと、酒類を販売しているとなってしまうリスクがあるため、わざわざ栓を抜いて(栓を抜く手間よりも、免許をとる方が何倍も手間です。)、持って帰らずにこの場で飲むよう働きかける必要があるのです。

3 期限付酒類販売小売業免許

このように持ち帰りのために酒類を販売する場合には免許が必要になるのですが、コロナウイルスの影響で、飲食店の売り上げが減収となっていることへの対策として、簡単な申請で取得できる期限付きの免許制度が開始されました。  

この制度を利用して、酒類を販売して出来る限り損失を減らして、事業が継続できる飲食店の方が増えるよう願うばかりです。

掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。

「相談事例集の掲載にあたって」

2020.04.09

【相談事例62】婚活アプリでのトラブル②

【相談内容】

婚約に至っていなくても慰謝料請求できる場合があるのですね。
認められる可能性があるのであれば、是非、元交際相手に対して慰謝料請求を行いたいと考えています。

ですが、彼に慰謝料請求を行った場合、彼の奥さんにも知られてしまった場合、彼の奥さんから逆に慰謝料請求をされるのではないかと不安なのですが大丈夫でしょうか。

【弁護士からの回答】

前回は、既婚者であるにもかかわらず独身と嘘をつかれて交際継続していた場合には貞操権侵害を理由として慰謝料請求が認められる場合があることについて説明しました。

男性は、既婚者である以上、配偶者である奥さんがいるにもかかわらず他の女性と肉体間関係を行っているため、不貞行為に該当するようにも思えます。
 
交際相手の配偶者からの慰謝料請求が認められるかについてご説明させていただきます。

1 不貞行為を原因とする慰謝料請求の要件

不貞行為を原因とする慰謝料請求が認められるためには、①故意、または過失により②他人の権利又は法律上保護される利益を侵害し、③ ②の行為に損害が発生することが必要になります。

2 本件について

仮に、ご相談者様の元交際相手の夫婦間が円満であることを前提とすると、交際相手とご相談者様のとの間の交際関係(性的関係)を行ったことにより、元交際相手と配偶者との間の円満な夫婦関係が害されるという損害が発生しているため、上記②と③の要件については認められる可能性が高いです。

もっとも、ご相談者様は、交際相手に独身であると嘘をつかれて、交際相手方独身であると信じて交際を行っていたのであるため、①の要件のうち、 故意(既婚者であると知りながら交際関係に至った場合)の要件は満たさないことは明らかです。

では、過失があるか、すなわち、独身であると信じたことについて過失が認められるか(通常の人であれば既婚者であると認識すべきであるにも関わらず認識していなかった)と認められるかという点が問題になります。

この点については、交際中の具体的なやり取りなどを正確に把握しなければ判断できませんが、婚活アプリに登録しているという時点で、独身者が前提であること、自身の家族にも会っていることからすれば、独身者であると信じてもやむを得ないと認められると思いますので、過失についても認められない可能性が高いと思います。

3 最後に

このように、独身であるとだまされていた場合には、慰謝料請求が認められない可能性は高いですが、配偶者が感情的になり、認められなくても請求してくる可能性は否定できません。

貞操権侵害を理由とする慰謝料請求の場合には、認められるか否かという問題だけでなく複雑な問題が絡んでいるため、請求を考えられている方は是非一度弁護士にご相談ください。

掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。

「相談事例集の掲載にあたって」

2020.04.08

【相談事例61】婚活アプリでのトラブル①

【相談内容】

婚活アプリで知り合った男性と交際をしていました。
男性とは約2年程度交際しており、私の両親も挨拶しており、彼からは、「そのうち自分の両親にも相談する」と言われており、私も真剣に結婚を考えていました。

しかし、彼のSNSをたまたま見つけて中を見たところ、彼が既婚者であることが分かりました。
これまで2年もの間裏切られていたのかと思うと彼を許せないため、慰謝料請求を行いたいと思っています。

【弁護士からの回答】

婚活という言葉が一般的に知れ渡るようになり、最近では、ご相談者様のように婚活アプリを使って婚活を行う方も増えていると思います。

婚活アプリでは、知り合うまでに相手の情報を詳しく知ることができないケースも多く、既婚者であるにも関わらず独身を装って女性と会う男性も少なくないと聞きます。
そこで、今回は、既婚者であるにも関わらず独身と偽って交際をした男性に対する慰謝料請求等についてご説明いたします。

1 交際関係の解消は原則自由

まず、婚約状態になっている場合は別ですが(婚約破棄に関しては別の機会にご説明させていただきます。)、単に交際している状態を解消する場合には、原則として慰謝料は発生しません。

交際関係は、一般的に、婚約関係と違い、法的に保護される関係であるとは認められていないため、他に好きな人ができたという理由などで交際関係を解消した場合であっても、恋愛自体は自由であることから、原則として元交際相手に対して慰謝料の請求は認められません。

2 貞操権侵害を理由とする慰謝料請求

もっとも、ご相談者様の事例のように、既婚者であることを秘して交際関係(性的関係)に至った場合には、貞操権を侵害されたとして、慰謝料請求が認められる場合があります。

既婚者であることを秘している場合だけでなく、全く結婚する意思がないにもかかわらず、結婚をすることを約束し、交際関係を継続していた場合にも認められる場合があります。

この貞操権侵害に関する慰謝料請求に関しては、事案の具体的な内容を踏まえ、「貞操権を侵害された」と認められるような場合でなければ認められないものであり、その認定は非常に複雑であることに加え、認められる金額についても、交際期間、その間の交際内容、妊娠・中絶の有無などで大きく変化しうるものであるため、慰謝料請求を検討されている方は是非一度弁護士にご相談ください。

掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。

「相談事例集の掲載にあたって」

2019.11.22

【不動産】管理組合と管理会社の法律関係

Q. 私の住んでいるマンションで、管理費の長期滞納者に対する督促の文書を管理会社から送ってもらいました。しかしながら、管理費の支払いは無く、管理会社はそれ以上の対応をしてくれません。回収の対応まで管理会社でやってくれるのではないのでしょうか?

1 管理会社と管理組合の関係について

区分所有法3条

区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分(以下「一部共用部分」という。)をそれらの区分所有者が管理するときも、同様とする。

マンションの管理の適正化の推進に関する法律4条

1 管理組合は、マンション管理適正化指針の定めるところに留意して、マンションを適正に管理するよう努めなければならない。

2 マンションの区分所有者等は、マンションの管理に関し、管理組合の一員としての役割を適切に果たすよう努めなければならない。

上記の2つの条文を見ると、管理組合がマンション管理業務を担当することが想定されている、と考えられます。そして、管理会社がマンションの業務を行うことを要請するような文言はありません。あくまでも、管理組合が管理会社にマンション管理を委託することによって、管理会社によるマンション管理が可能となる、ということです。

つまり、管理組合と管理会社の関係は、管理委託契約を通じた委任・準委任関係となります。

2 トラブルはなぜ発生するのか

管理組合と管理会社の間で管理委託契約を締結した際、管理組合はその契約内容が「全部委託型」だと思っていたとしても、管理会社はあくまでも委託契約によって委託した業務に対してのみ責任を負うこととなります。

マンション標準管理委託契約書を見ると、管理会社が委託業務としてできることは助言等に留まる事項が少なくありません。管理組合が管理会社に対して、マンションの管理のすべてをやってもらえるものと期待する一方で、管理会社に対する委託内容はその期待のすべてに答える内容ではないために、双方の認識にずれが生じると、紛争に発生する可能性があるのです。

3 マンション設備に不備があった場合

事例①

私のマンションには排水設備に不備があり、排水状況が悪い状態です。管理会社に対して建物の点検業務を委託したのですが、全く補修が進んでいません。

建物に今回のような欠陥があった場合には、管理会社が、管理組合に代わって補修工事の依頼をしたり、施工業者と交渉したりといった対応をしてくれると思っていたのですが、どうして補修が進まないのでしょうか。

管理組合は、管理会社が主体となって完全な補修工事を行ってもらえるものと期待していたところ、実際の管理会社への委託業務の内容は、補修すべきことを指摘し、工事の発注等について管理組合へ助言する義務を負うにとどまっている、という、管理組合の期待と管理会社の委託業務内容が行き違っていないケースです。

判例では、マンション分譲時点からの欠陥の補修については、本来、販売会社・施工業者に対して主張すべきであり、管理会社については、直ちに販売会社等と同様の補修責任があるとはいえないと判示し、建物の補修に関する管理業者の義務としては、管理委託契約書上、

①補修工事、設備の保守点検等の外注に関する義務
②販売会社、施工会社等との業務折衝等
の項目があるとしても、その文言からは、販売会社あるいは施工業者に対し、
・管理組合の補修工事の要望を伝えることで行動を促す
・工事が実際に施工されているかどうかを確認する
・施工された工事内容に問題があった場合には追加で補修を求めるか、それとも他社に外注するか、等について、管理組合の意向に従い、決定された方針での事務を補助する
といった対応に留まるとして、管理委託契約上、管理会社には債務不履行は無いとしています。

4 管理費を滞納している区分所有者に対する請求

事例②

管理会社から、管理費を長期間滞納している区分所有者に対し、管理組合名義での内容証明郵便で管理費の支払いを求める通知を発送してもらいました。しかしその後、管理会社はそれ以上の対応は出来ないと言われています。管理会社が取り立て業務までやってくれると思っていたのに、通知の発送しかして貰えず、納得がいきません。

マンション標準管理委託契約書10条では、

乙(管理会社)は、・・・出納業務を行う場合において、甲(管理組合)の組合員 に対し別表第一1(2)②(下記参照)の督促を行っても、なお当該組合員が支払わないときは、 その責めを免れるものとし、その後の収納の請求は甲(管理組合)が行うものとする。
2 前項の場合において、甲(管理組合)が乙(管理会社)の協力を必要とするときは、甲(管理組合)及び乙(管理会社)は、その協力方法について協議するものとする。

別表第一1(2)② 管理費等滞納者に対する督促
一 毎月、甲の組合員の管理費等の滞納状況を、甲に報告する。
二 甲の組合員が管理費等を滞納したときは、支払期限後○月の間、電話若しくは自宅訪問又は督促状の方法により、その支払の督促を行う。
三 二の方法により督促しても甲の組合員がなお滞納管理費等を支払わないときは、乙はその業務を終了する。

と記載されています。

つまり、管理会社が管理委託契約に従って滞納者への督促をしたものの、結局未払のままであった場合、管理会社の業務としてはその時点で終了となり、その後の対応(督促を続けるか、それとも未払管理費回収のために法的手段をとるか)を検討するのは管理組合となります。

また、そもそもマンションの管理費は、管理組合の債権であるため、管理会社が債権回収をすることは出来ないため、管理会社に債権回収の結果まで責任を追及することが出来ないのは当然のことなのです。もし回収をする場合には、弁護士等に依頼する必要があります。

5 まとめ

「管理会社」という呼び名からも、マンションの管理について全て対応してもらえる、と誤って認識してしまうこともあるかもしれません。しかしながら、管理会社も契約に従って業務を行っているので、管理会社の対応に疑問を持った時には、まず先に管理委託契約書を確認して、どこまでの業務に対応してもらえるのかを確認することが、行き違いを起こさないためにも大切となるのです。

2019.11.01

年俸制で企業が気を付けるリスク

国内の企業では年俸制を採用している企業は少ないですが、外資系の企業やベンチャー企業などでは、従業員に労働時間を意識せずに業務に取り組んで欲しいといった思いから、年俸制を採用している企業、若しくは導入を検討している企業が多く存在しています。

今回は企業にとって年俸制を採用することによる、月給制との相違点、リスクについてご説明します。

1.年俸制について

年俸制とは、支払われる給与が1年単位で固定されている給与体系の事を指します。金額については従業員との合意に基づき決定されますが、年俸金額の決定方法が不合理でなければ、特別に法的な制限は設けられていません。

一部の経営者の方は、年俸制を採用すれば従業員との間で合意した金額を年に1回支払うことで給与の支払いが済むという認識をお持ちの方もいらっしゃいますが、その考えは誤りです。
年俸制を採用しても、一般的には月給制と同じように年俸を12等分に分割して各月に1度は支払う必要があります。

万が一、従業員が傷病により働けないといった場合にも毎月年俸を12分割した金額を支払わなくてはなりません。
また、年俸制を採用したとしても、労働時間の管理、残業代の支払い、といった点は月給制と同様に対応する必要があるため、それらの手間を省くことを目的に年俸制を採用するといったことは出来ません。

よって、月給制と年俸制の違いは、給与の金額が月単位で変動するのか、もしくは年単位で変更するのかという部分のみになります。

それでは、年俸制を採用することによる企業のメリットとはどこにあるのでしょうか?メリットの1つとして人件費が年単位で固定されるため、長期的な経営計画が立てやすくなるという点があります。
月給制では営業手当等によって賃金が大きく変動することがあるため、当初の経営計画より人件費が大きく変わる可能性があります。

しかし、年俸制では基本的に残業代以外の賃金が変動する可能性は少ないため、経営計画通りの人件費で事業を進めることが可能となります。
もっとも、従業員にとっては、仕事の成果が賃金に反映されるのは最長で1年後となるため、モチベーションの維持することが難しいという問題点も存在します。

2. 年俸制における残業代

前述した通り、企業は年俸制を採用したとしても、法定労働時間を超えた労働時間について残業代を支払う義務を負っています。

企業としては毎月の残業代を算出する手間を省くために、年俸に固定残業代を含めて支払うケースがあります。なお、年俸に固定残業代を含めるという扱いをする場合には、雇用契約書において基本給と固定残業代を明確に区分して明示する必要があります。
これに加えて、固定残業代が何時間分の残業に対して支払われているのかを明確にしておく必要があります。

これらが雇用契約書に明示がされていない場合、従業員との間で残業代のトラブルに発展すると、裁判所等から、固定残業代は無効として年俸の全額が基本給であると判断されてしまい、年俸とは別に残業代を支払わなければならないリスクが生じます。

そのため、年俸制を取り入れる場合には、企業と従業員に認識のずれが生まれないように正確な雇用契約書を作成し、年俸制に適応した就業規則を整備してリスクを排除する必要があります。

3.年俸制で減額をする際のリスク

企業は年俸制の採用によって長期的な経営計画が立てやすくなる一方で、従業員との間で年単位の契約を結んでいるため、業績不振に陥ったとしても企業側の一方的な理由で減額を行う場合には、従業員にとっては明らかな不利益変更であって、従業員の個別同意がない限り、許されません。

したがって、年棒を減額する場合は、必ず従業員の合意を得るように注意が必要です。
また、従業員の同意を得るときに注意すべき点は、企業が従業員に同意を強要していないこと、つまり従業員の意思に基づいて合意がなされているという点が重要になります。年俸額の合意決定権は従業員が有していると考えておくことが相当です。
賃金規定等で年俸の増減の規定が定められている場合には、その規定を超える減額は認められません。

仮に、賃金規定等が整備されておらず企業側の判断によって翌年の年俸が決まる場合では、一般的に年俸額の減額に限度はありませんが、社会通念上認められない不合理な減額については権力の濫用と判断されるリスクもありますので注意が必要です。

4.まとめ

今回は年俸制について説明をしましたがメリット、リスク等を含めご理解いただけましたでしょうか?リスクを軽減するには、正確な雇用契約書の作成、就業規則の整備、従業員との合意、が大切なポイントとなります。
 
年俸制の採用を検討している企業は専門家に相談したうえで、現状のまま年俸制をスタートさせて問題がないか精査を行い、必要であれば就業規則等を整えたうえで、年俸制への移行を進めましょう。

1 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 53
WEB予約 Nexill&Partners Group 総合サイト
事務所からのお知らせ YouTube Facebook
弁護士法人サイト 弁護士×司法書士×税理士 ワンストップ遺産相続 弁護士法人Nexill&Partners 福岡弁護士による離婚相談所