弁護士コラム

2019.09.30

安全衛生管理体制の重要性

労働安全衛生法(以下「安衛法」といいます。)とは何かご存知でしょうか。安衛法は、1972年に職場における、労働者の安全と健康を確保するために制定されました。
安衛法では、主に「労働災害の防止」「健康の保持増進」「快適な職場環境の形成」等を促進するための規定が定められています。

そこで、使用者は労働者が安全に作業できる環境を作るため、及び労働災害を防止するために安全衛生管理体制というものを確立し、統括安全衛生管理者、安全管理者及び衛生管理者を選任しなければいけないこととなっています。

1.統括安全衛生責任者とは

統括安全衛生責任者とは、現場の混乱や思わぬ労災を防ぐために、特定元方事業者(建設業・造船業)の事業所で働く労働者の安全を統括する人のことです。
なぜ統括する必要があるのかというと、労働者が1つの会社(雇い主)から派遣されている場合は、指導・指揮も統一しやすいのですが、複数の会社(雇い主)から派遣されている労働者が混在している職場では、指導・指揮系統が乱れがちになるためです。

建設現場等では、関連して行われる事業が複数の元請人に分割して発注されたり、複数の下請人に分割して発注される等、複数の事業場の作業員が混在して働いています。
このように、複数の事業場の作業員が安心・安全に作業を行うことができるように努めることが、統括安全衛生責任者の職務と言えます。

<統括安全衛生責任者になるには?>
特定安全衛生責任者の業務を行うにあたり、必要な免許等はありません。資格要件としては、「建設現場においてその事業の実施を統括管理する者」であり、統括安全衛生責任者は、実質的に現場を統括する立場にあること(現場をよく把握していること)が大切なのです。つまり、現場の責任者として仕事を管理している人が適任と言えるでしょう。

2.安全管理者とは

職場の安全全般を管理する人のことです。林業・鉱業・建設業・運送業・清掃業・製造業などの業種で、常時50人以上の従業員を雇用している事業場(会社単位ではなく、支店や営業所などの場所ごと)は選任が義務付けられています。
しかし、従業員が50人未満の事業場は安全管理をしなくてもよいというわけではありません。常時10人以上50人未満の従業員を雇用している場合は、別途、安全衛生推進者(中規模な事業場において、その事業場の安全・衛生に関する事項を統括管理する者)を選任する必要があります。

なお、安全責任者の選任人数は決まっていません。ですので、安全管理者を多く選任しすぎてしまうと、今度は安全管理者同士の情報共有が難しくなるため、選任人数も踏まえて考えることが望ましいと言えます。

3.安全管理者になるには?

安全管理者になるためには、①労働安全コンサルタントの資格を取得するか、②一定期間の実務経験を積んだ後に厚生労働大臣が定める研修を修了する必要があります。
研修は、厚生労働省に登録した民間の業者が請け負っており、全国で受講が可能です。研修の長さは2日間で、必要経費は1万円~1万5千円となっています。

②のうち、必要となる実務経験の期間は、理科系の大学・高等専門学校の過程を卒業した方で2年、同じく高校で理科系の過程を選択し、卒業した方で4年、理科系以外の課程の中学・高校・大学を卒業した方は4年~7年です。

4.衛生管理者とは

衛生管理者とは、従業員が安全に衛生に仕事ができるように職場環境を調えたり従業員の健康を管理したりする人のことです。常時50人以上を雇用している職場では対して、衛生責任者の選任が義務付けられています。
そのため、安全管理者の選任が義務付けられていない職場であっても、衛生管理者の選任は絶対に必要です。

なお、雇用する従業員の勤務形態は問われません。正社員1人にパートやアルバイトが49人の職場でも、衛生管理者の選任が必要です。
また、事業所に常時ほとんど人がいない場合でも、書類上50人以上の従業員が所属している場合は選任が必要になります。

①衛生管理者の種類と専任の条件

衛生管理者には、第一種衛生管理者と第二種衛生管理者があります。第一種免許は全業種で衛生管理を行うことが可能ですが、第二種免許では、有害業務と関連の少ない小売業や情報通信業などの職場においてのみ、衛生管理を行うことができます。

②衛生管理者になるには?

(1)大学(工学か理学に関する課程)を卒業し、厚生労働省の定める研修と修了試験を受ける。
(2)一定期間労働衛生に関する実務経験を積み、資格試験に合格する。
(3)歯科医師・医師・薬剤師等の資格を取得し、必要書類を労働基準監督署に提出する。
(4)労働コンサルタントの資格を取得する。

などの方法があります。実際に労働衛生の職務についている方はそのまま実務経験を積んで試験に合格するのが一番の早道です。安全管理者のように研修を受ければなれるものではないので、難易度は衛生管理者の方が高くなっています。

5.衛生管理者と安全管理者の違い

衛生管理者は、職場で働く従業員の健康や衛生管理を行い、安全管理者は職場の安全管理を行います。2つの職務についている方がそれぞれの職務を全うすることにより、従業員は安全な職場で衛生的に働くことができるのです。

安全管理と衛生管理は共通する部分も多いため、お互いに協力して職務を行うことも多いでしょう。また、職場によってはより安全で衛生的に仕事を行うために、衛生管理者・安全管理者が構成メンバーとなる安全衛生委員会の設置が、法律で義務付けられています。

6.まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は安全衛生管理体制についてお話しました。
統括安全衛生管理者、安全管理者及び衛生管理者がそれぞれの職務を全うするだけでは、安全衛生管理体制の構築には不十分です。従業員の観点から見た危険箇所(不衛生な箇所)があれば逐一報告してもらえるよう、従業員との信頼関係を作ることも大切です。

2019.09.25

業務災害の定義と起因性

会社及び労働者の双方にとって、業務災害を発生させない方が良い環境だと言えます。
では、完全に業務災害を発生させない方法はあるのでしょうか?
答えは「NO」です。職種にもよりますが、一般的には何らかのモノを建造したり製造したりする建設業や製造業の現場や、多くの建材や機械が導入されている場所では業務災害が発生しやすいとされており、事務だけの会社でも発生する可能性ももちろんあります。

では、何をもって業務災害と言うのか、どういう方法をとれば業務災害を発生させにくい会社にすることができるのかについて、定義や事例を挙げて説明していきます。

1.業務災害とは

「業務災害」とは、労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡をいいます。
業務上とは、業務が原因となったということであり、業務と傷病等の間に一定の因果関係があることをいいます(いわゆる「業務起因性」。)。

また、業務災害に対する保険給付は労災保険が適用される事業(原則、国の直営事業、非現業の官公署、船員法の適用を受ける船員を除いて、1人でも労働者を使用している事業が適用事業となります。)に、労働者として雇われて働いていることが原因となって発生した災害に対して行われるものですから、労働者が労働関係のもとにあった場合に起きた災害でなければなりません。(いわゆる「業務遂行性」。)

以上のことから、業務上と認められるためには、「業務起因性」が認められなければならず、その前提条件として「業務遂行性」が認められなければなりません。
「業務遂行性」の判断にあたっては、①事業主の支配・管理下で業務に従事している場合、②事業主の支配・管理下にあるが業務に従事していない場合、③事業主の支配下にはあるが、管理下を離れて業務に従事している場合に分けて検討することができます。

2.事例の検討

ここからは、具体的な事例を用いて、業務災害に当たるかどうかを検討していくことにします。

(1)作業中

作業中に発生した災害は、業務災害として認定されることが大半を占めます。しかし、業務外の原因である場合や、担当している業務以外で発生した災害は業務災害として認められない場合も多々あります。
したがって業務遂行性は、労働者が労働契約に基づいて事業主の管理・支配下にある状態にないといけないのです。

(2)出張中

出張とは事業者の命令等で、通常働く勤務地から離れて別の所で働き、戻ってくるまでの一連の流れのことを指します。
つまり、出張中は事業主の支配下にあるということであり、私的行為以外の行動については業務遂行性が認められるとされています。

(3)通勤途上

通勤途上とは、いわゆる通勤中のことです。この時は、自宅と就業場所の往復をするものの事業主の支配下にあるとは言えず、業務遂行性があるとは言えません。
ただし、次のような場合は、業務災害となります。

①事業主が提供する労働者専用バス・車
②事業主の命令を受けて出勤した際の事故・災害等

(4)療養中

療養中の災害とは、例えば、業務中にケガをして入院又は通院した場合に、治療を受けたその帰り道の途中で転んでまた同じ箇所をケガして悪化させた場合などです。

この療養中の業務災害の判断は困難な事例が多いのが現状です。 業務上の傷病の療養中、業務外の災害によって傷病が加重または増悪する場合がありますが、通院や日常的な行為などの業務外の行為が介在しているので、当該傷病の増悪に業務起因性が認められるか否かにより、「業務上」の傷病と言えるか判断されることになります。

(5)天変地異

天変地異とは暴風雨、水害、土砂崩れ、落雷、雪害等のことで、業務と無関係の自然現象です。
そのため、天災地変による災害が業務遂行中に発生したとしても、業務起因性が認められないのが原則です。
したがって、天災地変による災害は労災とは認定されません。ただし、業務の性質・内容、作業条件・作業環境、事業場施設の状況などから、天災地変に際して災害を被りやすいという場合は、天災地変による災害も業務に伴う危険としての性質を持ってきます。

天災地変による災害が、天災地変による災害を被りやすい業務上の事情があり、天変地異と当該事情とあいまって発生したと認められる場合は、業務に伴う危険が現実化したとして業務起因性が認められます。

(6) 第三者による行為災害

第三者行為災害とは、たとえば通勤中や営業中の交通事故などにおいて、一般的に事故の相手方である加害者が存在する災害のことです。
「第三者行為災害」となる災害には次のものがあります。

<第三者行為災害の例>
①交通事故
②通勤途上でペットに噛まれたなどの理由で負傷した場合
③業務に起因して他人から暴行を受けた場合

ここでは、③を例に説明します。
たとえば、鉄道の駅員などが酔っ払いの乗客に注意したことで暴行を受けてしまった場合、駅員が職務上の義務として注意をした結果、乗客による暴行を誘発したと考えられます。

その場合は業務上で起こった第三者行為災害となります。一方、同じく業務中に起こった暴行でも、労働者同士のケンカが原因の場合は第三者行為災害とはなりません。
それは労働者の故意により発生したものであり、業務に起因した災害とはみなされないからです。

以上のように、第三者行為災害は業務に起因して意図せず起こった災害を指し、労災保険の当事者以外の加害者が「第三者」となります。

3.まとめ

様々な事例を基に、どういったことが原因で業務災害となるのか見ていきました。
結論としては業務災害の原因は、身近なところに潜んでいます。事業主としては、業務災害防止のために労働安全衛生関係法令の順守、自主的な安全衛生活動、リスクアセスメント(作業に伴う危険性又は有害性を見つけ出し除去、低減する手法)に基づく取組などが大切です。

危険性というものは一定ではなく、環境面の変化や人の異動などに左右されますので、取組を行っているからといって安心するのではなく、半年に1回は実施中の取組みを見直すようにした方が良いかもしれません。

2019.09.19

健康診断の義務と健康の保持増進のために

従業員が仕事をする上で事業者が注意しなければいけないことは多岐にわたります。
その注意しなければならないことの1つとして従業員の健康管理があります。
特に重労働が多い職場では精神的にも肉体的にも大きな負担がかかってしまうことから、健康管理ができていないと労災に発展したり、トラブルに発展したりと最悪の事態にもなりかねません。
そのため、労働安全衛生法第66条では事業者による健康診断が義務化されており、精神面においても、面接指導や一定の従業員数以上の事業場ではストレスチェックが義務付けられています。

1.一般健康診断について

(1)雇入れ時の健康診断

事業者が、常時使用する労働者を雇入れる場合は、医師による健康診断を実施しなければなりません。

「常時使用する労働者」とは、①雇用期間の定めのない者、②契約期間が1年以上である者、⑶契約更新により1年以上引き続き使用されている者、④契約更新により1年以上使用されることが予定されている者であり、かつ、その者の1週間の所定労働時間が、当該事業場において同種の業務に従事する通常労働者の1週間の所定労働時間の4分の3以上である者をいいます。

したがって、アルバイトやパート等の短時間労働者についても、上記の基準に該当すれば,健康診断の対象者となります。

(2)定期健康診断

事業者は、1年以内ごとに1回、定期的に健康診断を受けさせなければなりません。
ただし、雇入時の健康診断、2以降で説明する特殊健康診断を受けた者については、当該健康診断の実施日から1年間に限り、その者が受けた当該健康診断の項目に相当する項目を省略することができます。

2.特殊健康診断について

特殊健康診断とは、有害な業務(高圧室・潜水・放射線・鉛・四アルキル鉛・有機溶剤・石綿・除染)に関連する業務を行う者に対して設けられている健康診断のことです。

有害な業務に従事させている場合は、6カ月以内ごとに1回(但し、四アルキル鉛業務については3ヶ月以内に1回)、定期的に特別項目についての健康診断を行わなければいけません。
特別な項目とは一般健康診断の際に実施する項目のほかに、四肢の運動機能調査、皮膚検査、被ばく検査などで、それぞれの有害な業務で発生しうる状態異常(機能障害や皮膚が変色している等の症状が出ていないか)の確認をするために必要な項目です。
健康診断を忘れないように注意しましょう。

3.臨時健康診断について

臨時健康診断とは、都道府県労働局長が労働衛生指導医の意見に基づいて、その実施を指示することができる健康診断のことです。
感染が疑われるような病気(結核やノロウイルス)などは医師や本人から連絡が事業主にあるかと思いますので、速やかに労働局に報告しましょう。
その後で、労働局から健康診断の項目や受診対象者についての連絡が文書にて通知されます。通知された場合は速やかに健康診断を実施又は受診しましょう。

4.面接指導について

事業者は、労働者の労働時間の状況や健康面(精神的・身体的)に何らかの状態異常を感じた場合は、面接指導の対象となる労働者の申出により、医師による面接指導を実施しなければなりません。具体的には下記の通りです。

【面接指導】
①1週間に40時間を超えて労働させたときに、その40時間を超えた部分を通算して1月あたり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる者が対象です。
②ただし、研究開発業務従事者及び高度プロフェッショナル制度対象労働者については、1月あたり100時間を超える場合は、労働者の申出なしに、医師による面接指導を実施する必要があります。
②面接指導の対象でない者でも面接指導を受けさせることは可能です。ただし、対象でない人に関して面接指導を受けさせるかどうかは事業者の任意(努力義務)となっています。

【面接指導を実施する場合の注意事項】
(1)労働時間の算定は毎月1回以上実施し、労働時間の状況の記録の3年間の保存義務。
(2)上記①に該当する労働者に対する、時間外労働時間に関する情報の通知義務。
(3)面接指導の記録は5年間の保存義務。
(4)面接指導の結果に基づき医師の意見を聴くこと。
(5)医師の意見を基に対策すべき場合は、就業場所の変更・作業転換・労働時間の短縮・残業の短縮などの措置をとらなければならない。

なお、個人情報の観点からいうと、労働者が医師の面接指導を受けた場合、事業者は労働者の同意を得ないで医師から結果を聞いてはいけませんし、医師は労働者の同意を得ないで提供してはいけません。

5.ストレスチェックの実施について

上記4.のとおり、事業者は一定の労働者に対して、面接指導を実施しなければなりません。
しかし、事業者は企業規模が大きくなると、労働者全員の状態を確認することは困難になるため、そういった場合にストレスチェックを実施します。
このストレスチェックは、自己評価だけではなく、自分以外の労働者を見た時の項目もあり、職場全体のストレス状況の把握に役立ちます。
この結果に応じて、先ほどと同様に面接指導や職場環境の改善などの措置を講じることになります。なお、ストレスチェックについては常時50人以上の労働者を使用する事業場の場合に、1年以内ごとに1回、定期的に管轄の労働基準監督署に提出することになっていますのでお気を付けください。50人未満の場合は努力義務となります。

6.まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は健康診断や面談、ストレスチェックについてお話しました。事業者が労働者のストレスに配慮し、ストレスが生まれにくい環境をつくることが一番いい方法ですが、それは難しい方法です。
従って、ストレスチェックを行うことが職場の状況を早く知り、改善するのに最適なのです。

また、健康でいるためには心身の不調の早期発見が大切となっており、健康診断には2つの目的があります。
1つ目は、一次予防で健診結果から生活習慣の改善を行い、病気を予防することや、自分自身の生活習慣の問題点を自覚し、改善に取り組むきっかけとすることです。
2つ目が二次予防で病気を早期発見し治療につなげ、からだや時間・費用などの負担の軽減をはかることです。そのためにも、しっかり労働者の健康管理を行いましょう。

2019.09.15

労働者と通勤災害

労働者の方は全員、公共交通機関、徒歩、自転車、バイク、又は車に乗って仕事場まで通勤しているかと思います。通勤災害とは、労働者が通勤中に被った負傷、疾病、障害又は死亡のことを言います。
では、どのような場合を通勤途中と指すのか、通勤の定義や通勤災害となるパターンについて見ていきましょう。

1.通勤の定義(労働者災害補償保険法第七条)

労働者災害補償保険法第7条において、「通勤」とは、労働者が就業に関し、次に掲げる移動を合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとすると定められています。

そして、「次に掲げる移動」として、以下の3つが定められています。
① 住居と就業の場所との間の往復
② 厚生労働省令で定める(※)就業の場所から他の就業の場所への移動
③ 第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)

※厚生労働省令で定める就業の場所とは、労災保険適用事業場に係る就業の場所、特別加入者(個人タクシー業者等を除く。)に係る就業の場所等のことです。

次からは、この「通勤」の要件を詳しく説明していくことにします。

2.通勤の要件

(1)「就業に関し」とは

通勤とされるには、移動行為が業務に就くため、又は業務を終了したことにより行われるものであることが必要です。
したがって、被災当日に就業することとなっていたこと、又は現実に就業していたことが必要となります。

(2)「住居」とは

「住居」とは、労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、本人の就業のための拠点となるところをいいます。
したがって、就業の必要上、労働者が家族の住む場所とは別に就業の場所の近くにアパートを借り、そこから通勤している場合には、そこが住居となります。

さらに、通常は家族のいる所から出勤するが、別にアパートを借りていて、早出や長時間の残業の場合には当該アパートに泊り、そこから通勤するような場合には、家族の住居に加え、アパートの双方が住居と認められます。

(3)「就業の場所」とは

「就業の場所」とは、業務を開始し、又は終了する場所を指します。一般的には、会社や工場等の本来の業務を行う場所をいいますが、外勤業務に従事する労働者で、特定区域を担当し、区域内にある数か所の勤務先を受け持って自宅との間を往復している場合には、自宅を出てから最初の用務先が業務開始の場所となり、最後の用務先が業務終了の場所となります。

(4)「住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動」とは

転任に伴い、当該転任の直前の住居と就業の場所との間を日々往復することが、その往復距離(片道60km以上等)を考慮して困難となったため住居を移転して労働者であって、一定のやむを得ない事情により、当該転任の直前の住居に居住している配偶者と別居することになった者の住居間の移動のことをいいます。

(5)「合理的な経路」とは

「合理的な経路」とは、住居と就業の場所との間を往復する場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路及び方法をいいます。最短経路のことではありませんので注意してください。
合理的な経路については、通勤のために通常利用する経路であれば、複数あったとしてもそれらの経路はいずれも合理的な経路となります。
また、当日の交通事情により迂回してとる経路、マイカー通勤者が月極の駐車場などを経由して通る経路など、通勤のためにやむを得ずとる経路も合理的な経路となります。
しかし、特段の合理的な理由もなく、著しく遠回りとなる経路をとる場合などは、合理的な経路とはなりません。
また、合理的な方法には、鉄道・バス等の公共交通機関を利用する場合、自動車・自転車等を本来の用法に従って使用する場合、 徒歩の場合などが当てはまります。

(6)「移動の経路を逸脱し、又は中断した場合」とは

逸脱とは、通勤の途中で就業や通勤と関係のない目的で合理的な経路をそれることをいい、中断とは、通勤の経路上で通勤とは関係ない行為を行うことを言います。ただし、逸脱や中断が日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合は、当該又は中断の間を除き通勤途中としてみなされます。 (タバコやジュースの購入、公園での小休息、お手洗いなどがその例です)

通勤途中として認められた点が下記の通りとなります。

<日常生活上必要な行為(厚生労働省令で定められた行為)の例>
日用品を購入する
帰途に惣菜等を購入する
独身者が食事のため食堂に立ち寄る
クリーニング店に立ち寄る
選挙で投票する
医療機関などへ通院する
要介護状態にある家族を介護する(ただし、介護を継続的に又は反復している場合に限る)

3.通勤災害の際の対応方法

万が一、通勤災害が発生した場合は、会社は速やかに下記の手続きを行いましょう。

・公共交通機関の場合
社員が診療を受けた病院に、通勤災害用の書類(「療養給付たる療養の給付請求書」)を提出します。
裏面に、通勤経路や時間等を細かく記載する欄があるので、自宅から最寄り駅までの交通手段や所要時間、乗り換え方法など、会社に到達するまでのすべてを記載します。

・マイカー通勤時の事故の場合
マイカー通勤をしている社員が通勤時に事故にあった場合、前提として、労災保険で処理するか自動車損害賠償責任保険(以下、自賠責)で処理するかを判断し、選択する必要があります。
どちらを選ぶかは会社の担当者が自由に決定できます。あとは担当者が社員に代わって保険会社に連絡を取り、保険会社から求められる書類を作成することになります。

なお、マイカー通勤による交通事故で第三者と接触事故を起こした場合、従業員の治療費などは、相手(加害者)の自賠責を使って損害賠償をしてもらうことが一般的です。

4.まとめ

通勤災害が発生した場合、それが本当に通勤災害となるのか、会社の担当者の確認作業が大事です。特に今日では、通勤災害の範囲は拡大傾向にあります。

実際に事故が生じた場合、担当者が「基準を知らなかった」、「判断を間違えた」という事態にならないよう、最新の情報に気を配っておきましょう。

2019.08.10

意外と知らない会社法5~会社の分割など~

前回の記事では、 M&A、事業譲渡、合併についてお話をしました。
今回は、前回の続きとして、「会社分割」、それに加えて「会社の終わり」「倒産」についてお話していきたいと思います。

1.「会社分割」とは

「会社分割」とは、会社のすべての事業、もしくは一部の事業を他の会社に譲渡することを言います。
前回の記事で、事業譲渡についてお話しましたが、事業を他社に譲渡するという点では、事業譲渡と会社分割は共通しています。ですが、事業譲渡は買い手側の企業が譲渡される事業を選ぶことができるのに対し、会社分割は、譲渡する事業に関する全ての権利義務を他社に引き継がなければなりません。
もちろん、従業員についても引き継がれます。

また、会社分割には「吸収分割」「新設分割」の2種類が存在します。
「吸収分割」とは、ある事業に関する権利義務の一部または全部をすでに存在している会社に承継する組織再編の方法、「新設分割」とは、ある事業に関する権利義務の一部または全部を新たに設立する会社に承継する組織再編の方法をいいます。
どちらの方法を取るにしても、分割会社は事業を譲渡する対価として、買い手側の企業の株式が付与されます。
吸収分割ではこの場合、株式は分割会社もしくは分割会社の株主に付与され、分割会社に付与されることを「物的分割」、株主に付与されることを「人的分割」と呼びます。

2.「会社の終わり」とは

みなさんは、「会社の終わり」と聞いて、どんなことを思い浮かべますか?
恐らく、ほとんどの人が「倒産」を思い浮かべたのではないでしょうか。
ですが、「会社の終わり」が必ずしも「倒産」というわけではありません。
会社の終わりとは、「解散」「清算」をすることを言います。

会社法では、会社法第471条によって以下のように定められています。

  • 1. 定款で定めた存続期間の満了
  • 2. 定款で定めた解散事由の発生
  • 3. 株主総会の決議
  • 4. 合併(合併により当該株式会社が消滅する場合に限る。)
  • 5. 破産手続開始の決定
  • 6. 第824条第1項又は第833条第1項の規定による解散を命ずる裁判

さらに、長期間活動を行っていない会社、会社法で言うところの第472条第1項では「株式会社であって、当該株式会社に関する登記が最後にあった日から12年を経過したもの」を「休眠会社」と呼び、長期間登記がなければ、みなし解散となります。

会社が解散すると、「清算手続」に移ります。
清算では、会社の設立から現時点までに発生した債権や債務を整理し、株主に対して残余財産を分配します。その後、法人格が消滅することになります。
加えて、会社を清算したこと、清算が完了したことについては登記が必要になるので、忘れずに行ってください。

3.「倒産」とは

3で、「会社の終わり」と聞いて、どんなことを思い浮かべるか、お尋ねしたと思います。
4では、その質問の答えとして多くの方が1番最初に思い浮かべたであろう「倒産」についてお話していきたいと思います。

まず、会社の「倒産」とは、会社や個人が債務超過などによって経済的に破綻し、業務を続けて行くことができなくなる状態のことを言います。

明確な規定は存在しませんが、もし会社が「倒産」することになったとき、経営者は会社を再生する、もしくは破産するか、選択しなければなりません。

再生することを選んだ場合、「民事再生手続」もしくは「会社更生手続」のどちらかを行います。
「民事再生手続」は、業務は今まで通り継続しながら、「再生計画案」を立て、裁判所に提出します。
これが債権者の多数決で承認されると、再生手続が開始されます。
民事再生は、破綻、破綻寸前の企業がとる手続になりますので、手遅れになる前に行うことができる最善の方法と言えますし、会社を倒産させてしまった本人がもう一度経営を担うことになりますので、「私的整理」と近い再建方法と考えられているのです。

では、もう一方の「会社更生手続」とはどんなものでしょうか?

これは、「会社更生法」に基づいた手続で、民事再生と異なる点として株式会社のみが対象であること、大企業が行うことを想定していることが挙げられます。
さらに、経営権が管財人に移ること、担保権の実行が禁止されるという点においても民事再生とは異なります。

また、裁判所から任命された管財人は大きな権力を有し、会社を再建させます。
ですが、民事再生に比べるとかなりの時間と費用がかかってきますので、大企業の利用率が高くなっています。民事再生手続きや、破産が上手くいかなかった場合、会社更生手続きに移ることも可能となっています。

次に、破産することを選んだ場合、この場合は倒産した会社、もしくは倒産した会社の債権者が裁判所に申立てを行うことで手続が開始されます。
破産の手続が開始されると、破産する会社の業務は停止します。つまり、解散したことになるのです。

先ほど、手続きが開始されると業務が停止するとお話しましたが、ある一部の事業では収益をあげていると言った場合、この場合は、裁判所の許可を得ることで事業を継続していくことができます。
さらに、一部の事業のみを事業譲渡することも可能ですので、その場合は速やかに事業譲渡の手続きを開始しましょう。

4. まとめ

今回は、「会社分割」「会社の終わり」「倒産」についてお話してきました。
これらの言葉を聞くと、どうしてもマイナスなイメージを持ってしまいがちですが、そんなことはないということを、今回の記事で知って頂ければと思います。

2019.08.06

国際結婚後の配偶者ビザ、名字、戸籍などについて

国際結婚をした場合、日本人同士の結婚と比較して様々な手続きが必要となります。また、戸籍、名字などについての取り扱いも日本人同士の結婚の場合と異なります。
今回は、国際結婚後の、配偶者ビザ、名字、戸籍などについてご説明致します。

1.日本人配偶者のビザの内容とは?

国際結婚をした場合、外国人配偶者は在留資格「日本人の配偶者等」を取得するのが一般的です。在留資格「日本人の配偶者《等》」とは、「等」という言葉が表す通り、配偶者だけでなく、子や特別養子も対象となっています。

<日本人の配偶者>
この場合の「配偶者」とは、現に法的に婚姻中の夫婦の一方の者をいうため、内縁関係、離婚や死別をしている場合は含みません。
また、有効に婚姻している者であっても、同居、相互扶助、社会的通念上の夫婦の共同生活の実体がない場合には、在留資格は認められません。

これは、在留資格目的での偽装結婚を防止するための措置となります。したがって、入国管理局では、夫婦の実体を証明出来るだけの資料と説明を申請者に求めています。

<日本人の子として出生した者>
日本人の子供であればいいので、婚姻をしていない日本人との間に生まれた子でも、認知さされていれば「日本人の配偶者等」として在留資格を取得することができます。

<日本人の特別養子>
特別養子縁組が認められるには、6歳未満で、実父母と身分関係が法的に消滅する要件を満たしており、家庭裁判所で定められた手続きを経る必要があります。
普通養子縁組では、実父母との法的関係が切れないため、日本人の配偶者等在留資格を取得することは出来ません。

2.日本人配偶者ビザ申請で同居って必要なの?

上記1で説明したとおり、日本人配偶者として在留資格を取得するためには、同居、相互扶助、社会的通念上の夫婦の共同生活の実体が必要となるため、夫婦の同居が実務上重要視されています。
新規での申請、ビザ更新時に同居の実態が無い夫婦は、細心の注意を払い入局管理局へ文書で説明する必要があります。入局管理局は夫婦の同居を当たり前のように押し付けてくる傾向がありますが、それは、偽装結婚で配偶者ビザを取ろうとする人が多いからです。
愛のない男女が同居するのは苦痛のはずなので、偽装結婚によるビザ取得の犯罪を防ぐために夫婦の同居が実務上重要視されているのです。

3.国際結婚をしたら名字はどうなるの?

日本人同士が結婚した場合は、戸籍が一緒になるため名字は夫婦のどちらか一方の名字に統一され、夫婦は同じ名字を使うことになります。日本では、女性が男性側の名字に変更するのが一般的です。
では、国際結婚をした場合はどうなるのでしょうか。

日本人女性が外国人男性と国際結婚をした場合、外国人には戸籍がないため、日本人女性は結婚前の本名の名字を使い続けることになります。
つまり、結婚しても名字は変わらず、夫とは名字が別々になります。しかし、結婚して「名字を統一したい」と思った場合は、結婚から6か月以内に本籍地又は所在地のいずれかの市区町村役場に「外国人配偶者の氏への氏変更届」を提出することにより、日本人は外国人配偶者の名字を使うことができます。
但し、婚姻の日から6か月を超えているときは、家庭裁判所に申立てをする必要があるため、注意が必要です。

以上の手続きを経て、戸籍の名前の名字が変わります。そして、子供が生まれた場合でも、親と同じ名字にすることができます。
では、離婚してしまった場合はどうなるのでしょうか。離婚した場合、自然と元の名字に戻るのではなく、3か月以内に「氏変更届」を提出する必要があります。
また、外国人女性が名字を日本人男性の名字にしたい場合は、「通称名」の登録申請をすればできます。
これは、あくまで「通称名」としての位置づけなので、外国人の本名自体は変わりません。
また、一度「通称名」を登録すると、変更が認められるのは離婚して通称名を廃止するとき、及び再婚時に姓を変更するときのみとなるため、注意が必要です。

4.国際結婚をしたら戸籍はどうなるの?

日本人と外国人が国際結婚をした場合、戸籍はどのように記載されるのでしょうか。
日本人には戸籍がありますが、外国人には当然戸籍がありません。
結婚前(つまり未婚の日本人)は、両親の戸籍に入っています。日本人同士で結婚した場合は、2人が一緒に入っている戸籍が作られますが、国際結婚の場合は両親の戸籍から抜けて、日本人配偶者一人の戸籍ができることになります。

外国人配偶者は戸籍がありませんが、日本人配偶者の戸籍謄本の身分事項欄に外国人配偶者の氏名や国籍が記載されることになり、これで婚姻しているという状態が分かります。
しかし、あくまでも外国人配偶者には戸籍謄本はありません。(ちなみに住民票は外国人にもありますので、日本人と同じように取得することができます。)

5.おわりに

以上のように、日本人同士の結婚と国際結婚では大きな違いがあります。
戸籍については日本人同士の結婚と国際結婚では記載事項が異なりますし、名字についてもたとえ夫婦の片方が日本人で、日本に住むからと言っても国際結婚であれば当然に同じ名字になるわけでもありません。
諸々の手続きで困ったときは、専門家に相談しましょう。

2019.08.05

起業する前に知っておくべきこと5~登記~

前回の記事で、株式会社の設立手順の1つとして、「登記申請書を作成し、法務局に提出すること」を挙げました。
今までに登記申請手続きをされたことがない場合、登記とはどのようなものなのかよく分からない、という方も多いのではないかと思います。

そこで、今回の記事では、株式会社設立に必要な登記についての基礎知識をご紹介いたします。
前回の記事はこちらから「起業する前に知っておくべきこと4~会社の設立~」

1.株式会社設立に必要な登記とは

登記とは、ある事項について登記簿に記載し、その内容を公示するための制度のことです。登記には、商業・法人登記、不動産登記など様々な種類がありますが、株式会社を設立する際に必要なのは、商業・法人登記の株式会社設立登記です。

2.登記事項証明書(登記簿謄本)

①登記事項証明書とは

会社を設立すると、「登記事項証明書」が必要な場面が出てきます。この登記事項証明書とは一体何のことを指すのでしょうか?
登記事項証明書とは、登記事務をコンピューターにより行っている登記所で発行される、登記記録に記録されて事項の全部又は一部を記載した証明書のことです。

②登記事項証明書の種類

登記事項証明書には、全部事項証明書、一部事項証明書などの種類があります。基本的に、「登記事項証明書が要る」と言われたときは、これまでの登記の記録が全て記載されている全部事項証明書のことを指します。全部事項証明書には、3つの種類があります。

(1)現在事項証明書:現在効力がある登記事項の証明書

(2)履歴事項証明書:現在事項証明書の内容に加えて、履歴事項証明書交付請求日の3年前の日の属する年の1月1日(基準日)から請求日までの間に抹消をする記号を記録された登記事項、及び基準日から請求日までの間に登記された事項で現に効力を有しない事項の証明書

(3)閉鎖事項証明書:会社の解散などを理由に閉鎖した登記事項の証明書
通常、登記事項証明書が必要な場合は、履歴事項証明書を取得しておけば安心です。

③登記事項証明書の内容

登記事項証明書には、以下のような項目についての記載がなされます。

会社法人等番号 法務局が商業・法人登記の識別のため、登記記録1件毎に記録している12桁の番号のこと。
似た言葉として法人番号があるが、法人番号は行政の効率化のため、マイナンバー法に基づき国税庁が指定する13桁の番号のことであり、会社法人等番号とは異なる。
商号 会社の名称のこと。
本店 本店の所在地が記載される。
本店とは、登記上の会社の本拠地のこと。あくまで登記上の所在地なので、いわゆる本社の所在地と一致している必要はない。
公告をする方法 決算後や会社の合併をしたときなどの情報を公に知らせる方法を記載する。(例えば、官報等)
会社成立の年月日 最初に登記をした日付が記載される。
目的 会社が行う事業内容のこと。複数の事業内容を記載することができ、現在行っている事業に限らず、今後行う予定の事業も記載して良い。
<注意点>
・広く一般的に使われている言葉を使用し、また、明確性が必要である。
・許認可が必要な事業を行う際、目的の文言が特定の要件を満たしていなければならない場合がある
⇒その事業の管轄の役所のホームページを確認し、特に記載がなければ電話等で確認する。
・株式会社は利益を得ることを目的としているため、営利性のある事業でなければならない。
・法や公序良俗に反しない事業でなければならない。
発行可能株式総数 会社が発行することができる株式数の上限のこと。
資本金の額 現在の会社の資本金の額が記載される。
株式の譲渡制限に関する規定 株式に譲渡制限をつけた場合、その旨が記載される。株式会社の場合、所有する株式に応じた議決権が付与されるが、株式の自由な譲渡を認めると、会社にとって好ましくない人に株式が渡り、不都合が生じる可能性があるため、一般的に譲渡制限はつけることが多い。
役員に関する事項 取締役および監査役(監査役を設置する場合)の氏名、登記原因(就任、退任など)、その年月日が記載される。また、代表取締役については、住所も記載される。
登記記録に関する事項 会社の設立や合併など登記記録の編成に関することが記載される。

④登記事項証明書の取得方法

登記事項証明書を取得するためには、大きく分けて(1)オンラインによる交付請求、(2)窓口での交付請求、(3)郵送での交付請求の3つの方法があります。

(1)オンラインによる交付請求
自宅や会社のパソコンを利用して、インターネットでオンライン請求ができます。
請求した証明書は、自宅や会社に郵送してもらうこともできますし、最寄りの登記所・法務局証明サービスセンターで受け取ることも可能です。手数料は、インターネットバンキングやPay-easyを用いて納付します。

オンラインによる交付請求は、窓口での交付請求に比べて、手数料が安かったり、受付時間が長かったりというメリットがあります。

オンラインによる交付請求 窓口での交付請求
手数料 ・郵送受取:500円
・登記所等受取※:480円
600円
受付時間 平日午前8:30~午後9:00 平日午前8:30~午後5:15

※登記所または法務局証明サービスセンターでの受取り

(2)窓口での交付請求
登記所または法務局証明サービスセンターの窓口に行って請求・取得ができます。

(3)郵送での交付請求
登記所に申請書、収入印紙、切手を貼付した返信用封筒を送付することで請求・取得ができます。

⑤登記内容に変更が生じた場合

役員の就任・退任など登記事項に変更があった場合には、変更登記手続きを行う必要があります。
変更登記手続きをすると、登記事項証明書には、変更前の事項と変更後の事項がいずれも記載されます。また、変更前の内容には下線が引かれます。

3.まとめ

今回の記事でご説明した内容は、株式会社設立をお考えの方にはぜひ知っておいていただきたいと思います。

また、もし、登記事項証明書を取得する必要はなく、登記の内容を確認されたいだけであれば、ホームページ上で商業・法人登記情報(335円)を閲覧できる「登記情報提供サービス」の利用をおすすめいたします。

※この記事に記載されている情報は、令和2年3月1日時点のものです。

2019.08.05

【離婚問題】保護命令・接近禁止令について

配偶者や事実婚のパートナーなどの親密な関係にある相手から、DV(ドメスティック・バイオレンス)の被害を受け、解決策が分からずに悩まれている方は多くいらっしゃると思います。
今回はその様な方々のために、法的なDVへの対応策のひとつである「保護命令」についてご説明したいと思います。

1.保護命令とは

保護命令とは、被害者の生命または身体に危害を加えられることを防ぐために裁判所が発する命令のことです。
具体的な命令の内容としては、被害者、被害者の子供、被害者の親族等への付きまといの禁止、被害者と一緒に生活している場合は期間を限定して本住居からの退去等を命じるという内容になります。
DVの被害者が裁判所に申し立てることで、裁判所から加害者に対し命令が発せられることになり、命令に違反した加害者に対しては刑罰が科せられます。

2.保護命令の要件は?

では、DVの被害を受けたと被害者が申立てれば必ず裁判所は保護命令を発するのでしょうか?
裁判所が保護命令を発するには5つの要件を満たしている必要があります。5つの要件は『配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(以下、「DV防止法」と言います。)』において定められており、具体的な内容は以下の通りとなります。

<保護命令の要件>
①申立人が「被害者」であること(DV防止法第10条1項)

②配偶者からの身体に対する暴力を受けた被害者の場合は、配偶者からのさらなる身体に対する暴力により、その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいこと(DV防止法第10条1項)

③被害者からの申立てであること(DV防止法第10条1項)
④支援センター又は警察(生活安全課)の職員に援助若しくは保護を求めて相談した事実があること(DV防止法第12条1項5号)

⑤ ④の事実がない場合は、DV防止法第12条1項の1号から4号に係る事項について被害者の供述書面を作成し、公証人に認証を受けたものを申立書に添付すること(DV防止法第12条2項)

⑤において定められている、DV防止法12条1項1号から4号は次のようになります。

<DV防止法第12条1項>
1号
配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫を受けた状況

2号
配偶者からの更なる身体に対する暴力又は配偶者からの生命等に対する脅迫を受けた後の配偶者から受ける身体に対する暴力により、生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいと認めるに足りる申立ての時における事情

3号
第10条第3項の規定による命令の申立てをする場合にあっては、被害者が当該同居している子に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため当該命令を発する必要があると認めるに足りる申立ての時における事情

4号
第10条第4項の規定による命令の申立てをする場合にあっては、被害者が当該親族等に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため当該命令を発する必要があると認めるに足りる申立ての時における事情

3.保護命令の内容

裁判所が発する保護命令とは具体的にどの様な内容が含まれているのでしょうか?以下に保護命令の具体的な内容を説明致します。

(1)被害者への接近禁止命令

命令の効力が生じた日から6か月間、被害者の住居(当該配偶者とともに生活している住居を除く)その他の場所でのつきまといや、被害者の住居、勤務先その他通常所在する場所付近の徘徊を禁止します。

(2)未成年の子への接近禁止命令

加害者である配偶者が被害者の子を連れ去ってしまうと、被害者がその子の監護のために自ら配偶者に会いに行かなくてはならなくなる等の事態が考えられます。
そのような場合、被害者に対する接近禁止令が発せられていても、結局、被害者が配偶者との接近を余儀なくされ、さらなる暴力を加えられてしまう危険が生じます。
そこで、被害者への接近禁止命令の実効性を確保するために、子への接近禁止命令の発令も可能となっています。

(3)被害者親族等への接近禁止命令

被害者への接近禁止令が発令されていても、加害者が被害者の親族等の住居に押しかけた場合に、被害者がその行為をやめさせるために、自ら配偶者と接触せざるを得なくなる可能性があります。
そこで、被害者への接近禁止令の実効性を確保するため、親族等についても接近禁止令の発令が可能となりました。

(4)退去命令

被害者と配偶者が共に生活の本拠としている住居から、配偶者を2か月間退去させて被害者を保護する命令です。退去命令は、被害者の身辺整理や転居先の確保等の準備のために設けられています。

(5)電話等禁止命令

被害者に対する面会要求、電話等を禁止する命令です。被害者等への接近禁止命令が発令されていた場合でも、加害者である配偶者が被害者に電話やメール等で連絡を続けると被害者は恐怖心を募らせ、配偶者のもとに戻らざるを得なくなったり、要求に応じて接触をせざるを得なくなったりして、生命、身体への危険が高まります。
そこで、接近禁止命令の実効性を確保するために一定の電話等の禁止を命ずることができるようになりました。

4.おわりに

今回は保護命令についてご説明致しましたが、実際にDVで悩んでいる方にとって有効な手続であることをご理解いただけましたでしょうか?

DVの被害にあわれている方は、ご自身の身体、生命を守るためにも一日でも早く保護命令の手続きを検討していただきたいと思います。また、保護命令の発令に必要となる要件の立証など手続きが難しいため、専門家に相談することをお勧めいたします。

2019.08.04

起業する前に知っておくべきこと4~会社の設立~

前回前々回の記事では、個人事業主が法人成りするメリット・デメリットについてお話しました。今回は、それらの記事を踏まえて、法人成り(会社の設立)をお考えの方が知っておくべき知識をご紹介します。

1.会社の種類

会社には、「株式会社」「合同会社」「合資会社」「合名会社」の4つの形態があります。それでは、実際に会社を設立する場合、この中のどれを選べば良いのでしょうか?

合資会社と合名会社に関しては、以下に記載しているとおり、無限責任社員が存在し、事業に失敗したときに経営者が直接リスクを負わなければならないため、現在、これらの形態で会社を設立する人は少なくなっています。

<合資会社>
・全ての出資者が無限責任社員となり、会社の債権者に対して無限に責任を負う
・無限責任社員は、倒産などで会社が債務を負ったが履行できない場合、自らの全財産を弁済に充てなければならない=自分の財産をもって会社の債務に対する責任を負わなければならない

<合名会社>
・前述した無限責任社員と、出資額を限度として会社の債権者に対して責任を負う直接有限責任社員とで構成される

これに対し、株式会社合同会社有限責任社員で構成されます。つまり、事業で失敗してしまった場合でも、社員は出資額の範囲内でしか責任を負う必要がないということです。

以上のことから、会社を設立するときは株式会社または合同会社を選択することをおすすめします。

2.株式会社と合同会社の違い

「1.会社の種類」から、会社設立時には株式会社か合同会社が良いということがお分かりいただけたかと思います。それでは、株式会社と合同会社ではどちらを選択すれば良いのでしょうか?

<株式会社と合同会社の違い>

株式会社 合同会社
議決権 出資割合に応じて、株主総会の議決権の割合が変わる 出資割合に関わらず、原則として1人1票の議決権を持つ(=複数の出資者が存在し、意見に相違があった場合、収集がつかなくなる可能性がある)
配当 出資割合に応じて配当金を支払う 定款の定めにより、出資割合とは異なる割合で自由に配当金の支払いができる
認知度 日本の多くの法人が株式会社なので、認知度が圧倒的に高い 日本の多くの法人が株式会社なので、認知度が圧倒的に高い
設立費用 ・登録免許税:資本金の7/1000
(15万円に満たないときは、申請件数1件につき15万円)
・定款認証手数料:5万円
・印紙代:4万円
(電子定款の場合は不要)
・登録免許税:資本金の7/1000
(6万円に満たないときは、申請件数1件につき6万円)
・定款認証手数料:5万円
・印紙代:4万円
(電子定款の場合は不要)
決算公告 決算公告をして、会社の決算書を公表する義務がある 決算公告は不要

「どちらで設立したほうが良いのか分からない…」という方には、株式会社をお勧めします。なぜなら、海外では合同会社はLLCとして認知度が高いですが、日本においては多くの法人が株式会社であり、合同会社の認知度は低いです。
社会的信用度を考慮すると、株式会社にしておいたほうが、取引や採用の場面などで安心できるかと思います。

3.株式会社設立の流れ

それでは、株式会社はどのように設立したら良いのでしょうか?

① 商号の調査
まず、同じ所在地に同じ会社名(商号)がないかを確認します。この調査が必要な理由は、同じ所在地に同じ会社名を登記することができないためです。

② 出資者(以下、「発起人」といいます。)、取締役の印鑑証明書取得
会社を設立するにあたり、印鑑証明書が必要な場面が2回(定款認証をするとき、登記申請をするとき)あります。印鑑証明書は、住民登録をしている自治体で取得することができるので、各自治体のホームページなどで持参する必要があるものを調べた上で窓口に行きましょう。

③ 定款の作成
定款は会社の運営に関するルールであり、会社を設立するときは必ず作成しなければなりません

<絶対的記載事項>
(1)目的 (2)商号 (3)本店所在地 (4)設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
(5)発起人の氏名又は名称及び住所 (6)発行可能株式総数
以上の事項が定められていなければ、定款の認証を受けることはできません。

<相対的記載事項>
(1)取締役会等の設置
(2)取締役等の任期の伸長
(3)株式譲渡制限に関する定め
これらはあくまで例であり、相対的記載事項は上に述べたもの以外にも多く存在します。相対的記載事項が定められていなくても、定款自体は無効になりませんが、定款に定めの無い事項の効力は認められません。

<任意的記載事項>
(1)定時株主総会の招集時期
(2)株主総会の議長
(3)営業年度
これらもあくまで例であり、任意的記載事項は上に述べたもの以外にも多く存在します。任意的記載事項は、定めていなくても定款・事項の効力は否定されませんが、定款に記載することでルールが明確になるので、会社にとって重要な事項は定めておいた方が良いでしょう。

④ 定款認証
定款を作成したら、発起人の署名または記名押印をした上で、公証役場で定款認証を受けます。この認証を受けなければ、定款の効力は認められません。公証役場には、定款3通(公証役場保存用・会社保存用・登記用)、印鑑証明書(発起人全員分)を持参します。また、手数料として5万円、収入印紙代4万円が必要です。

⑤ 資本金の振込み
登記申請では、払込申請書(資本金の振込みがあったことを証明する書類)を添付しなければなりません。そこで、発起人は、出資金を通帳に振り込む必要があります。この時点ではまだ会社は設立できておらず、会社の口座は存在しないので、発起人個人の口座に振り込みます。振込みが完了したら、通帳をコピーして、払込証明書とします。

⑥ 登記申請書の作成・申請
株式会社登記申請書を作成し、本店となる場所を管轄している法務局に申請します。

<全ての株式会社が登記する事項>
(1)商号 (2)本店所在地 (3)設立日※ (4)公告の方法 (5)事業の目的
(6)資本金の額 (7)発行可能株式総数 (8)発行済株式総数 (9)取締役の氏名
(10)代表取締役の氏名、住所 
※設立日は登記を申請した日になります。
  
<定款等の定めがある場合に登記すべき事項>
(1)譲渡制限株式に関する定め (2)取締役会の設置会社である旨 
(3)監査役の設置会社である場合には「その旨」と「監査役氏名」 等
 一度登記してしまうと、内容を変更するためには手数料がかかってしまうので、よく考えて登記をする必要があります。

①から⑥までの手順を経ることで、株式会社を設立することができます。

4.まとめ

「会社を設立したいけれど、株式会社・合同会社・合資会社・合名会社のどれを選択すれば良いか悩んでいる」という方には、ぜひ今回の記事を参考にしていただけたらと思います。

「3.株式会社設立の流れ」でお話した通り、会社を設立する手続きはとても煩雑です。手続きに漏れがあって会社を設立するまでに時間がかかってしまったり、誤った内容の登記をして変更手数料を支払ってしまったりすることを考えると、依頼費用は必要ですが、弁護士や司法書士などの専門家に依頼するのがおすすめです。

2019.08.03

【不動産】専用部分で漏水事故が発生した時

8階建のマンションの3階に住んでいるのに、天井から水漏れが発生しています。最上階ではないので、雨漏りではなく上の階からの漏水だと思うのですが、どのように対応すればよいのでしょうか?

【事例】
マンションの305号室に居住するXは、天井からの水漏れにより、浸水の被害を受けました。管理組合へ相談し、水漏れの原因を調査した結果、Xの居室の真上にある405号室の専有部分からの水漏れであることが判明しました。
405号室にはSという人が居住をしています。

一軒家で天井から雨漏りが発生すれば、その理由はたいていが「雨漏り」なので、天井や屋根の補修さえしてしまえば問題は解決します。
ところが、マンションの最上階ではない部屋で漏水が発生した場合には、雨漏り以外の要因が想定されるため、問題を解決するための方法も、その原因によって全く変わってきます。

ケースによってどのような対応を取るべきか検討していきましょう。

1 Xは、漏水で被害を受けた今回の件について、誰に、どのような請求をすることができるのか

誰に対してどのような請求をすればよいかは、漏水の原因によって異なります。
例えば、Sが不注意で浴室に貯めていた水を溢れさせてしまった場合のように、単純にSの不注意であった場合であれば、Sに対して不法行為に基づく損害賠償を請求することが出来ます。

一方で、例えば405号室の排水設備が老朽化していたために漏水が発生し、Xの居室への浸水に繋がった場合であれば、Xは、不法行為に基づく損害賠償請求の他に、漏水が発生した当該居室の占有者本人には過失が無かったとしても、土地工作物責任に基づく損害賠償請求(民法717条1項)をすることが想定されます。

土地工作物責任では、危険物の占有者及び所有者に対しては重い責任を負わせるという危険責任の法理に基づいて、占有者に対しては中間責任、所有者に対しては無過失責任を定めています。

2 漏水事故が発生した当時、短時間で集中豪雨があったときには、原因をどのように考えるべきか。

漏水の原因が気象条件によるものであった場合には、建物の構造上大雨に弱かったのか、配水管が詰まっていたせいで水が溢れ出し、居室への漏水に繋がったのかといった細かい条件により対応が変わってきます。

いわゆる「大雨」の程度であれば、普通の建物であれば防げる程度であると想定されるため、大雨の時に漏水が発生した場合には、建物に何らかの瑕疵(防水設備が不十分であった、配水管が塵芥で詰まっており清掃・点検が不十分であった)の存在が想定されます。

一方で、近年各地で発生しているような豪雨の場合には、上述したような瑕疵の有無にかかわらず、漏水が発生することが考えられます。
こういった場合には、実際に発生した漏水による被害の程度が、上述のような瑕疵が存在したためにより大きいものになってしまったか否かを焦点に争うことが想定されます。
 

3 漏水の原因が、マンション建築当時からの構造上の問題であった場合は、誰が責任を取るのか。

漏水事故について、Sが土地工作物責任に基づき、Xに対し損害賠償を行った後に、実は今回発生した漏水事故は、マンションが建築された当時から存在していた瑕疵に起因するものであることが判明した場合には、どのような対応が考えられるのでしょうか。

まず、発生した漏水事故について、占有者ないし所有者(S)が土地工作物責任を果たした場合であって、損害の原因について他にその責任を負う者がいる場合には、Sは、この「責任を負う者(マンションの分譲業者や施工業者等)」に対し、SがXに対して賠償した内容について求償することが出来ます。

また、漏水の原因となった瑕疵が、いわゆる「隠れた瑕疵」であった場合には、Xは当該マンションの分譲業者(売主)に対して、瑕疵担保責任を請求することも考えられます。

瑕疵担保責任については、民法上は除斥期間を、当該瑕疵を発見した時から1年と定めており、宅建業法においては物件の引渡しから2年以内に制限されています。
一方、当該瑕疵が住宅の構造上主要な部分などの隠れた瑕疵であった場合には、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)によって、除斥期間は物件の引渡しから10年間とされています。

4 土地工作物責任の要件

以上のように、XはSに対して土地工作物責任に基づく損害賠償請求を行うことが出来る場合がありますが、ここからは、具体的に土地工作物責任の要件を検討していくことにします。

まず1つ目の要件として、「土地の工作物」からの被害が必要となります。この「土地の工作物」とは、土地に接着して、人工的作業を加えることによって成立した物をいい、マンションの建物がこれに該当することは明らかです。

例えば、マンションの漏水の原因が、漏水が発生した浴槽の防水が不完全であったことであった場合、この「浴槽の防水設備」は、マンションの一部であるため、「土地の工作物」に該当します。
そして、漏水の原因が排水設備の劣化にあった場合、この「排水設備」は「建物の附属物」に該当するため、建物と一体のものとして「土地の工作物」に含まれると解されます。

2つ目の要件として、「設置・保存の瑕疵」の存在が必要です。土地工作物の「瑕疵」とは、建物が通常備えるべき安全性を欠くことであり、工作物の設置当初から存在する瑕疵を「設置の瑕疵」、工作物が維持管理されている間に生じた瑕疵を「保存の瑕疵」といいます。

3つ目の要件は、「損害」の発生です。この「損害」は、実際に発生した者であることを必要とします。

そして、最後の要件が「因果関係」の存在です。前提として「事実的因果関係」が認められる必要があります。次に、特に気象条件等の不可抗力が影響した上での損害の発生の場合には、「相当因果関係」が問題となり、検討が難しくなります。

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