弁護士コラム

2019.08.05

起業する前に知っておくべきこと5~登記~

前回の記事で、株式会社の設立手順の1つとして、「登記申請書を作成し、法務局に提出すること」を挙げました。
今までに登記申請手続きをされたことがない場合、登記とはどのようなものなのかよく分からない、という方も多いのではないかと思います。

そこで、今回の記事では、株式会社設立に必要な登記についての基礎知識をご紹介いたします。
前回の記事はこちらから「起業する前に知っておくべきこと4~会社の設立~」

1.株式会社設立に必要な登記とは

登記とは、ある事項について登記簿に記載し、その内容を公示するための制度のことです。登記には、商業・法人登記、不動産登記など様々な種類がありますが、株式会社を設立する際に必要なのは、商業・法人登記の株式会社設立登記です。

2.登記事項証明書(登記簿謄本)

①登記事項証明書とは

会社を設立すると、「登記事項証明書」が必要な場面が出てきます。この登記事項証明書とは一体何のことを指すのでしょうか?
登記事項証明書とは、登記事務をコンピューターにより行っている登記所で発行される、登記記録に記録されて事項の全部又は一部を記載した証明書のことです。

②登記事項証明書の種類

登記事項証明書には、全部事項証明書、一部事項証明書などの種類があります。基本的に、「登記事項証明書が要る」と言われたときは、これまでの登記の記録が全て記載されている全部事項証明書のことを指します。全部事項証明書には、3つの種類があります。

(1)現在事項証明書:現在効力がある登記事項の証明書

(2)履歴事項証明書:現在事項証明書の内容に加えて、履歴事項証明書交付請求日の3年前の日の属する年の1月1日(基準日)から請求日までの間に抹消をする記号を記録された登記事項、及び基準日から請求日までの間に登記された事項で現に効力を有しない事項の証明書

(3)閉鎖事項証明書:会社の解散などを理由に閉鎖した登記事項の証明書
通常、登記事項証明書が必要な場合は、履歴事項証明書を取得しておけば安心です。

③登記事項証明書の内容

登記事項証明書には、以下のような項目についての記載がなされます。

会社法人等番号 法務局が商業・法人登記の識別のため、登記記録1件毎に記録している12桁の番号のこと。
似た言葉として法人番号があるが、法人番号は行政の効率化のため、マイナンバー法に基づき国税庁が指定する13桁の番号のことであり、会社法人等番号とは異なる。
商号 会社の名称のこと。
本店 本店の所在地が記載される。
本店とは、登記上の会社の本拠地のこと。あくまで登記上の所在地なので、いわゆる本社の所在地と一致している必要はない。
公告をする方法 決算後や会社の合併をしたときなどの情報を公に知らせる方法を記載する。(例えば、官報等)
会社成立の年月日 最初に登記をした日付が記載される。
目的 会社が行う事業内容のこと。複数の事業内容を記載することができ、現在行っている事業に限らず、今後行う予定の事業も記載して良い。
<注意点>
・広く一般的に使われている言葉を使用し、また、明確性が必要である。
・許認可が必要な事業を行う際、目的の文言が特定の要件を満たしていなければならない場合がある
⇒その事業の管轄の役所のホームページを確認し、特に記載がなければ電話等で確認する。
・株式会社は利益を得ることを目的としているため、営利性のある事業でなければならない。
・法や公序良俗に反しない事業でなければならない。
発行可能株式総数 会社が発行することができる株式数の上限のこと。
資本金の額 現在の会社の資本金の額が記載される。
株式の譲渡制限に関する規定 株式に譲渡制限をつけた場合、その旨が記載される。株式会社の場合、所有する株式に応じた議決権が付与されるが、株式の自由な譲渡を認めると、会社にとって好ましくない人に株式が渡り、不都合が生じる可能性があるため、一般的に譲渡制限はつけることが多い。
役員に関する事項 取締役および監査役(監査役を設置する場合)の氏名、登記原因(就任、退任など)、その年月日が記載される。また、代表取締役については、住所も記載される。
登記記録に関する事項 会社の設立や合併など登記記録の編成に関することが記載される。

④登記事項証明書の取得方法

登記事項証明書を取得するためには、大きく分けて(1)オンラインによる交付請求、(2)窓口での交付請求、(3)郵送での交付請求の3つの方法があります。

(1)オンラインによる交付請求
自宅や会社のパソコンを利用して、インターネットでオンライン請求ができます。
請求した証明書は、自宅や会社に郵送してもらうこともできますし、最寄りの登記所・法務局証明サービスセンターで受け取ることも可能です。手数料は、インターネットバンキングやPay-easyを用いて納付します。

オンラインによる交付請求は、窓口での交付請求に比べて、手数料が安かったり、受付時間が長かったりというメリットがあります。

オンラインによる交付請求 窓口での交付請求
手数料 ・郵送受取:500円
・登記所等受取※:480円
600円
受付時間 平日午前8:30~午後9:00 平日午前8:30~午後5:15

※登記所または法務局証明サービスセンターでの受取り

(2)窓口での交付請求
登記所または法務局証明サービスセンターの窓口に行って請求・取得ができます。

(3)郵送での交付請求
登記所に申請書、収入印紙、切手を貼付した返信用封筒を送付することで請求・取得ができます。

⑤登記内容に変更が生じた場合

役員の就任・退任など登記事項に変更があった場合には、変更登記手続きを行う必要があります。
変更登記手続きをすると、登記事項証明書には、変更前の事項と変更後の事項がいずれも記載されます。また、変更前の内容には下線が引かれます。

3.まとめ

今回の記事でご説明した内容は、株式会社設立をお考えの方にはぜひ知っておいていただきたいと思います。

また、もし、登記事項証明書を取得する必要はなく、登記の内容を確認されたいだけであれば、ホームページ上で商業・法人登記情報(335円)を閲覧できる「登記情報提供サービス」の利用をおすすめいたします。

※この記事に記載されている情報は、令和2年3月1日時点のものです。

2019.08.05

【離婚問題】保護命令・接近禁止令について

配偶者や事実婚のパートナーなどの親密な関係にある相手から、DV(ドメスティック・バイオレンス)の被害を受け、解決策が分からずに悩まれている方は多くいらっしゃると思います。
今回はその様な方々のために、法的なDVへの対応策のひとつである「保護命令」についてご説明したいと思います。

1.保護命令とは

保護命令とは、被害者の生命または身体に危害を加えられることを防ぐために裁判所が発する命令のことです。
具体的な命令の内容としては、被害者、被害者の子供、被害者の親族等への付きまといの禁止、被害者と一緒に生活している場合は期間を限定して本住居からの退去等を命じるという内容になります。
DVの被害者が裁判所に申し立てることで、裁判所から加害者に対し命令が発せられることになり、命令に違反した加害者に対しては刑罰が科せられます。

2.保護命令の要件は?

では、DVの被害を受けたと被害者が申立てれば必ず裁判所は保護命令を発するのでしょうか?
裁判所が保護命令を発するには5つの要件を満たしている必要があります。5つの要件は『配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(以下、「DV防止法」と言います。)』において定められており、具体的な内容は以下の通りとなります。

<保護命令の要件>
①申立人が「被害者」であること(DV防止法第10条1項)

②配偶者からの身体に対する暴力を受けた被害者の場合は、配偶者からのさらなる身体に対する暴力により、その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいこと(DV防止法第10条1項)

③被害者からの申立てであること(DV防止法第10条1項)
④支援センター又は警察(生活安全課)の職員に援助若しくは保護を求めて相談した事実があること(DV防止法第12条1項5号)

⑤ ④の事実がない場合は、DV防止法第12条1項の1号から4号に係る事項について被害者の供述書面を作成し、公証人に認証を受けたものを申立書に添付すること(DV防止法第12条2項)

⑤において定められている、DV防止法12条1項1号から4号は次のようになります。

<DV防止法第12条1項>
1号
配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫を受けた状況

2号
配偶者からの更なる身体に対する暴力又は配偶者からの生命等に対する脅迫を受けた後の配偶者から受ける身体に対する暴力により、生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいと認めるに足りる申立ての時における事情

3号
第10条第3項の規定による命令の申立てをする場合にあっては、被害者が当該同居している子に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため当該命令を発する必要があると認めるに足りる申立ての時における事情

4号
第10条第4項の規定による命令の申立てをする場合にあっては、被害者が当該親族等に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため当該命令を発する必要があると認めるに足りる申立ての時における事情

3.保護命令の内容

裁判所が発する保護命令とは具体的にどの様な内容が含まれているのでしょうか?以下に保護命令の具体的な内容を説明致します。

(1)被害者への接近禁止命令

命令の効力が生じた日から6か月間、被害者の住居(当該配偶者とともに生活している住居を除く)その他の場所でのつきまといや、被害者の住居、勤務先その他通常所在する場所付近の徘徊を禁止します。

(2)未成年の子への接近禁止命令

加害者である配偶者が被害者の子を連れ去ってしまうと、被害者がその子の監護のために自ら配偶者に会いに行かなくてはならなくなる等の事態が考えられます。
そのような場合、被害者に対する接近禁止令が発せられていても、結局、被害者が配偶者との接近を余儀なくされ、さらなる暴力を加えられてしまう危険が生じます。
そこで、被害者への接近禁止命令の実効性を確保するために、子への接近禁止命令の発令も可能となっています。

(3)被害者親族等への接近禁止命令

被害者への接近禁止令が発令されていても、加害者が被害者の親族等の住居に押しかけた場合に、被害者がその行為をやめさせるために、自ら配偶者と接触せざるを得なくなる可能性があります。
そこで、被害者への接近禁止令の実効性を確保するため、親族等についても接近禁止令の発令が可能となりました。

(4)退去命令

被害者と配偶者が共に生活の本拠としている住居から、配偶者を2か月間退去させて被害者を保護する命令です。退去命令は、被害者の身辺整理や転居先の確保等の準備のために設けられています。

(5)電話等禁止命令

被害者に対する面会要求、電話等を禁止する命令です。被害者等への接近禁止命令が発令されていた場合でも、加害者である配偶者が被害者に電話やメール等で連絡を続けると被害者は恐怖心を募らせ、配偶者のもとに戻らざるを得なくなったり、要求に応じて接触をせざるを得なくなったりして、生命、身体への危険が高まります。
そこで、接近禁止命令の実効性を確保するために一定の電話等の禁止を命ずることができるようになりました。

4.おわりに

今回は保護命令についてご説明致しましたが、実際にDVで悩んでいる方にとって有効な手続であることをご理解いただけましたでしょうか?

DVの被害にあわれている方は、ご自身の身体、生命を守るためにも一日でも早く保護命令の手続きを検討していただきたいと思います。また、保護命令の発令に必要となる要件の立証など手続きが難しいため、専門家に相談することをお勧めいたします。

2019.08.04

起業する前に知っておくべきこと4~会社の設立~

前回前々回の記事では、個人事業主が法人成りするメリット・デメリットについてお話しました。今回は、それらの記事を踏まえて、法人成り(会社の設立)をお考えの方が知っておくべき知識をご紹介します。

1.会社の種類

会社には、「株式会社」「合同会社」「合資会社」「合名会社」の4つの形態があります。それでは、実際に会社を設立する場合、この中のどれを選べば良いのでしょうか?

合資会社と合名会社に関しては、以下に記載しているとおり、無限責任社員が存在し、事業に失敗したときに経営者が直接リスクを負わなければならないため、現在、これらの形態で会社を設立する人は少なくなっています。

<合資会社>
・全ての出資者が無限責任社員となり、会社の債権者に対して無限に責任を負う
・無限責任社員は、倒産などで会社が債務を負ったが履行できない場合、自らの全財産を弁済に充てなければならない=自分の財産をもって会社の債務に対する責任を負わなければならない

<合名会社>
・前述した無限責任社員と、出資額を限度として会社の債権者に対して責任を負う直接有限責任社員とで構成される

これに対し、株式会社合同会社有限責任社員で構成されます。つまり、事業で失敗してしまった場合でも、社員は出資額の範囲内でしか責任を負う必要がないということです。

以上のことから、会社を設立するときは株式会社または合同会社を選択することをおすすめします。

2.株式会社と合同会社の違い

「1.会社の種類」から、会社設立時には株式会社か合同会社が良いということがお分かりいただけたかと思います。それでは、株式会社と合同会社ではどちらを選択すれば良いのでしょうか?

<株式会社と合同会社の違い>

株式会社 合同会社
議決権 出資割合に応じて、株主総会の議決権の割合が変わる 出資割合に関わらず、原則として1人1票の議決権を持つ(=複数の出資者が存在し、意見に相違があった場合、収集がつかなくなる可能性がある)
配当 出資割合に応じて配当金を支払う 定款の定めにより、出資割合とは異なる割合で自由に配当金の支払いができる
認知度 日本の多くの法人が株式会社なので、認知度が圧倒的に高い 日本の多くの法人が株式会社なので、認知度が圧倒的に高い
設立費用 ・登録免許税:資本金の7/1000
(15万円に満たないときは、申請件数1件につき15万円)
・定款認証手数料:5万円
・印紙代:4万円
(電子定款の場合は不要)
・登録免許税:資本金の7/1000
(6万円に満たないときは、申請件数1件につき6万円)
・定款認証手数料:5万円
・印紙代:4万円
(電子定款の場合は不要)
決算公告 決算公告をして、会社の決算書を公表する義務がある 決算公告は不要

「どちらで設立したほうが良いのか分からない…」という方には、株式会社をお勧めします。なぜなら、海外では合同会社はLLCとして認知度が高いですが、日本においては多くの法人が株式会社であり、合同会社の認知度は低いです。
社会的信用度を考慮すると、株式会社にしておいたほうが、取引や採用の場面などで安心できるかと思います。

3.株式会社設立の流れ

それでは、株式会社はどのように設立したら良いのでしょうか?

① 商号の調査
まず、同じ所在地に同じ会社名(商号)がないかを確認します。この調査が必要な理由は、同じ所在地に同じ会社名を登記することができないためです。

② 出資者(以下、「発起人」といいます。)、取締役の印鑑証明書取得
会社を設立するにあたり、印鑑証明書が必要な場面が2回(定款認証をするとき、登記申請をするとき)あります。印鑑証明書は、住民登録をしている自治体で取得することができるので、各自治体のホームページなどで持参する必要があるものを調べた上で窓口に行きましょう。

③ 定款の作成
定款は会社の運営に関するルールであり、会社を設立するときは必ず作成しなければなりません

<絶対的記載事項>
(1)目的 (2)商号 (3)本店所在地 (4)設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
(5)発起人の氏名又は名称及び住所 (6)発行可能株式総数
以上の事項が定められていなければ、定款の認証を受けることはできません。

<相対的記載事項>
(1)取締役会等の設置
(2)取締役等の任期の伸長
(3)株式譲渡制限に関する定め
これらはあくまで例であり、相対的記載事項は上に述べたもの以外にも多く存在します。相対的記載事項が定められていなくても、定款自体は無効になりませんが、定款に定めの無い事項の効力は認められません。

<任意的記載事項>
(1)定時株主総会の招集時期
(2)株主総会の議長
(3)営業年度
これらもあくまで例であり、任意的記載事項は上に述べたもの以外にも多く存在します。任意的記載事項は、定めていなくても定款・事項の効力は否定されませんが、定款に記載することでルールが明確になるので、会社にとって重要な事項は定めておいた方が良いでしょう。

④ 定款認証
定款を作成したら、発起人の署名または記名押印をした上で、公証役場で定款認証を受けます。この認証を受けなければ、定款の効力は認められません。公証役場には、定款3通(公証役場保存用・会社保存用・登記用)、印鑑証明書(発起人全員分)を持参します。また、手数料として5万円、収入印紙代4万円が必要です。

⑤ 資本金の振込み
登記申請では、払込申請書(資本金の振込みがあったことを証明する書類)を添付しなければなりません。そこで、発起人は、出資金を通帳に振り込む必要があります。この時点ではまだ会社は設立できておらず、会社の口座は存在しないので、発起人個人の口座に振り込みます。振込みが完了したら、通帳をコピーして、払込証明書とします。

⑥ 登記申請書の作成・申請
株式会社登記申請書を作成し、本店となる場所を管轄している法務局に申請します。

<全ての株式会社が登記する事項>
(1)商号 (2)本店所在地 (3)設立日※ (4)公告の方法 (5)事業の目的
(6)資本金の額 (7)発行可能株式総数 (8)発行済株式総数 (9)取締役の氏名
(10)代表取締役の氏名、住所 
※設立日は登記を申請した日になります。
  
<定款等の定めがある場合に登記すべき事項>
(1)譲渡制限株式に関する定め (2)取締役会の設置会社である旨 
(3)監査役の設置会社である場合には「その旨」と「監査役氏名」 等
 一度登記してしまうと、内容を変更するためには手数料がかかってしまうので、よく考えて登記をする必要があります。

①から⑥までの手順を経ることで、株式会社を設立することができます。

4.まとめ

「会社を設立したいけれど、株式会社・合同会社・合資会社・合名会社のどれを選択すれば良いか悩んでいる」という方には、ぜひ今回の記事を参考にしていただけたらと思います。

「3.株式会社設立の流れ」でお話した通り、会社を設立する手続きはとても煩雑です。手続きに漏れがあって会社を設立するまでに時間がかかってしまったり、誤った内容の登記をして変更手数料を支払ってしまったりすることを考えると、依頼費用は必要ですが、弁護士や司法書士などの専門家に依頼するのがおすすめです。

2019.08.03

【不動産】専用部分で漏水事故が発生した時

8階建のマンションの3階に住んでいるのに、天井から水漏れが発生しています。最上階ではないので、雨漏りではなく上の階からの漏水だと思うのですが、どのように対応すればよいのでしょうか?

【事例】
マンションの305号室に居住するXは、天井からの水漏れにより、浸水の被害を受けました。管理組合へ相談し、水漏れの原因を調査した結果、Xの居室の真上にある405号室の専有部分からの水漏れであることが判明しました。
405号室にはSという人が居住をしています。

一軒家で天井から雨漏りが発生すれば、その理由はたいていが「雨漏り」なので、天井や屋根の補修さえしてしまえば問題は解決します。
ところが、マンションの最上階ではない部屋で漏水が発生した場合には、雨漏り以外の要因が想定されるため、問題を解決するための方法も、その原因によって全く変わってきます。

ケースによってどのような対応を取るべきか検討していきましょう。

1 Xは、漏水で被害を受けた今回の件について、誰に、どのような請求をすることができるのか

誰に対してどのような請求をすればよいかは、漏水の原因によって異なります。
例えば、Sが不注意で浴室に貯めていた水を溢れさせてしまった場合のように、単純にSの不注意であった場合であれば、Sに対して不法行為に基づく損害賠償を請求することが出来ます。

一方で、例えば405号室の排水設備が老朽化していたために漏水が発生し、Xの居室への浸水に繋がった場合であれば、Xは、不法行為に基づく損害賠償請求の他に、漏水が発生した当該居室の占有者本人には過失が無かったとしても、土地工作物責任に基づく損害賠償請求(民法717条1項)をすることが想定されます。

土地工作物責任では、危険物の占有者及び所有者に対しては重い責任を負わせるという危険責任の法理に基づいて、占有者に対しては中間責任、所有者に対しては無過失責任を定めています。

2 漏水事故が発生した当時、短時間で集中豪雨があったときには、原因をどのように考えるべきか。

漏水の原因が気象条件によるものであった場合には、建物の構造上大雨に弱かったのか、配水管が詰まっていたせいで水が溢れ出し、居室への漏水に繋がったのかといった細かい条件により対応が変わってきます。

いわゆる「大雨」の程度であれば、普通の建物であれば防げる程度であると想定されるため、大雨の時に漏水が発生した場合には、建物に何らかの瑕疵(防水設備が不十分であった、配水管が塵芥で詰まっており清掃・点検が不十分であった)の存在が想定されます。

一方で、近年各地で発生しているような豪雨の場合には、上述したような瑕疵の有無にかかわらず、漏水が発生することが考えられます。
こういった場合には、実際に発生した漏水による被害の程度が、上述のような瑕疵が存在したためにより大きいものになってしまったか否かを焦点に争うことが想定されます。
 

3 漏水の原因が、マンション建築当時からの構造上の問題であった場合は、誰が責任を取るのか。

漏水事故について、Sが土地工作物責任に基づき、Xに対し損害賠償を行った後に、実は今回発生した漏水事故は、マンションが建築された当時から存在していた瑕疵に起因するものであることが判明した場合には、どのような対応が考えられるのでしょうか。

まず、発生した漏水事故について、占有者ないし所有者(S)が土地工作物責任を果たした場合であって、損害の原因について他にその責任を負う者がいる場合には、Sは、この「責任を負う者(マンションの分譲業者や施工業者等)」に対し、SがXに対して賠償した内容について求償することが出来ます。

また、漏水の原因となった瑕疵が、いわゆる「隠れた瑕疵」であった場合には、Xは当該マンションの分譲業者(売主)に対して、瑕疵担保責任を請求することも考えられます。

瑕疵担保責任については、民法上は除斥期間を、当該瑕疵を発見した時から1年と定めており、宅建業法においては物件の引渡しから2年以内に制限されています。
一方、当該瑕疵が住宅の構造上主要な部分などの隠れた瑕疵であった場合には、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)によって、除斥期間は物件の引渡しから10年間とされています。

4 土地工作物責任の要件

以上のように、XはSに対して土地工作物責任に基づく損害賠償請求を行うことが出来る場合がありますが、ここからは、具体的に土地工作物責任の要件を検討していくことにします。

まず1つ目の要件として、「土地の工作物」からの被害が必要となります。この「土地の工作物」とは、土地に接着して、人工的作業を加えることによって成立した物をいい、マンションの建物がこれに該当することは明らかです。

例えば、マンションの漏水の原因が、漏水が発生した浴槽の防水が不完全であったことであった場合、この「浴槽の防水設備」は、マンションの一部であるため、「土地の工作物」に該当します。
そして、漏水の原因が排水設備の劣化にあった場合、この「排水設備」は「建物の附属物」に該当するため、建物と一体のものとして「土地の工作物」に含まれると解されます。

2つ目の要件として、「設置・保存の瑕疵」の存在が必要です。土地工作物の「瑕疵」とは、建物が通常備えるべき安全性を欠くことであり、工作物の設置当初から存在する瑕疵を「設置の瑕疵」、工作物が維持管理されている間に生じた瑕疵を「保存の瑕疵」といいます。

3つ目の要件は、「損害」の発生です。この「損害」は、実際に発生した者であることを必要とします。

そして、最後の要件が「因果関係」の存在です。前提として「事実的因果関係」が認められる必要があります。次に、特に気象条件等の不可抗力が影響した上での損害の発生の場合には、「相当因果関係」が問題となり、検討が難しくなります。

2019.08.02

定年後再雇用の企業リスク

今般、多くの企業が定年退職後の再雇用制度を導入しています。再雇用の前後で労働条件が全く同じというわけでは無く、特に再雇用後の賃金が下がるケースも多くなっています。

この様な労働条件の変化について、果たして、企業側は法的なリスクは無いのでしょうか?今回は再雇用制度の導入に伴う企業のリスクと対処方法についてご説明していきます。

1.高年齢者雇用確保措置について

政府は、平成25年に65歳までの安定した雇用を確保するため高年齢者雇用確保措置を実施し、定年を65歳未満に定めている企業に対し、「65歳までの定年の引上げ」、「65歳までの継続雇用制度の導入」、「定年の廃止」のいずれかの措置を実施する必要がある(高年齢者雇用安定法第9条)」と定めています。

高年齢者雇用確保措置の実施後は、継続雇用制度(再雇用制度)の導入を選択する企業が多くなりました。
継続雇用制度は労働者が希望すれば定年後も引き続いて雇用する制度となるため、定年を迎えた65歳未満の労働者が希望すれば継続して働くことが出来る環境が整っています。

2.労働契約法第20条のリスク

それでは、再雇用時の労働条件は従前と同一の条件で雇用する必要があるのでしょうか?それとも、企業が一方的に労働条件を定めることが出来るのでしょうか?

多くの企業では、再雇用時の雇用形態を正社員から嘱託社員やパートタイマーなどの有期雇用労働者へと変更しています。
なお、雇用形態を変更するのであれば、業務内容等も雇用形態に応じて変化する必要がありますが、企業によっては雇用形態を変更し、賃金を下げるが、労働内容、範囲などが以前と全く同じ場合には労働契約法第20条に違反するリスクが存在します。

労働契約法第20条とは、有期雇用労働者と正社員との間で、労働者の義務の内容、業務に伴う責任、職務の内容及び配置の変更範囲に関して、不合理な差をつけることを禁止する法律です。

労働契約法第20条の趣旨は、再雇用の有期雇用労働者と正社員(無期雇用労働者)の待遇や労働範囲を同一に規定するというものではなく、あくまでも不合理な労働条件の相違や待遇の差があり、それらの点について労働者から裁判所へ訴えがなされた場合に労働契約法第20条に違反していると判断され、損害賠償を命じられるリスクが生じます。

3.無期転換ルールの特例制度について

前述した通り、多くの企業は定年後に再雇用を希望する労働者について、雇用形態を無期雇用から有期雇用に変更しながら継続雇用制度を運営しています。
しかしながら、有期雇用契約では、雇用期間が5年を超え、労働者から使用者に対し期間の定めのない無期雇用契約へ切り替えを求めた場合は、無期雇用へ労働条件を変更する必要があります(労働契約法第18条1項)。

例えば、60歳で定年を迎えた労働者を有期契約で65歳まで再雇用した場合、労働者は65歳になったときに(有期契約の開始から5年が経過した時点)無期転換申込権を取得することになります。
無期雇用となると、企業は雇用期間満了を理由に雇用を終了させることができないため、人件費の増額に繋がることが予測されます。

企業側は人件費の増加というリスクがあると積極的に継続雇用制度を運営しない可能性が大きくなるため、企業側のリスクを軽減するために有期雇用特別措置法(正式名は、専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法といいます。)が設けられています。

有期雇用特別措置法では、企業が再雇用した有期労働者に対して、無期雇用転換の申込権発生までの期間において特例を設けた特別措置をとることができます。特別措置を行う場合には、労働局の認定が必要となりますが、有期雇用特別措置の申請が認定されると、無期転換ルールの対象から除外されます。
但し、有期雇用特別措置の制度を導入するには、企業が予め就業規則を整備し、有期雇用特別措置に適応した雇用契約書を作成することが重要です。

4.まとめ

今回は高年齢者雇用確保措置の実態と企業側のリスクについて説明を致しました。高年齢者雇用確保措置を実施により、定年を迎えた65歳未満の労働者は希望をすれば継続して働くことが出来る環境が整いました。

一方で、企業には、労働者からの再雇用の希望に対し、拒否をした場合は損害賠償を請求されるリスクや、再雇用をしたとしても有期雇用で5年以上が経過すると無期雇用へ雇用形態を変更する必要に迫られ人件費の増加に繋がるというリスクに直面しています。

なお、後者のリスクに対しては事前に、労働局から有期雇用特別措置法の認定を受けるなどの対策を講じることも可能なため、労働者との間でトラブルに発展する前に、事前にリスクに備えたいという方は、一度専門家へ相談することをお勧めします。

2019.08.01

ネットに書き込みをした人物を特定するには?その1

削除依頼申請では書き込みをした人物を特定することまではできません。相手を特定するには、以下に説明する開示請求という方法をとることとなります。

今回は、発信者情報開示請求と仮処分の方法についてご紹介します。

1.ネットの仕組みを理解して、開示請求を

(1)適切な手順を踏めば、情報開示は可能

個人情報や誹謗中傷の書き込みがされてしまった場合、必ず思うのが「誰が書き込みをしたのか」ということではないでしょうか。たとえ思い当たる人物が存在していたとしても、匿名で書き込みされている場合が大半であり、書き込みがなされた時点では人物を特定することは不可能です。

しかしながら、然るべき手順で各プロバイダへ情報の開示請求を行えば書き込みをした人物を特定することができます(これを発信者情報開示請求といいます)。

(2)まずはコンテンツプロバイダへ開示請求を

私たちがインターネットを利用する際、「プロバイダ」と呼ばれるネット接続サービスを契約することがほとんどかと思いますが、このプロバイダのことを正しくは「インターネットサービスプロバイダ(ISP)」と言います。

私たちは、このインターネットサービスプロバイダを通じて、様々なSNSや掲示板、情報サイトなどへアクセスしていることになります。

また、そのSNSや掲示板、情報サイトを運営している事業者のことを「コンテンツプロバイダ」と呼び、掲示板などに書き込んだ情報が保管されているサーバーを管理しています。

<インターネットの流れ>

コンテンツプロバイダが有している情報は、サーバーにアクセスされた履歴やIPアドレス、タイムスタンプと呼ばれるアクセスのあった時間の記録などが主になります。

IPアドレスは、書き込みをした人物が、どのインターネットサービスプロバイダと契約しているのかの手がかりになります。

しかし現在のIPアドレスというのは、一定時間経過すると新しい値がユーザーに割り振られてしまうため、それだけでは特定をすることができません。IPアドレスとともに、タイムスタンプも合わせることにより、「この時間にこのIPアドレスを与えられた人物が書き込みをした」という情報がコンテンツプロバイダへ開示請求することにより判明するのです。

2.コンテンツプロバイダへの開示請求の方法

コンテンツプロバイダへの開示請求の方法は、前回の記事の削除依頼と同様、テレコムサービス協会が提供している書式を用いてコンテンツプロバイダへ請求する方法と、裁判所へ仮処分の申請を行う方法の2通りがあります。

テレコムサービス協会が提供している書式は「発信者情報開示請求書」というもので、身分証明書の写しや印鑑証明書などを添付しコンテンツプロバイダへ郵送します。

ここで忘れてはならないのが、実際に書き込まれた時の状況が分かる証拠です。

画面のスクリーンショットや、その時表示されたWEBページをPDF形式で保存したものなど、そのサイトの特定の場所に書き込みされているという証拠も準備し合わせて送ります。

ですので、書き込みを発見した際には慌てずに、落ち着いてスクリーンショットを取ったりブラウザを用いて該当ページをPDF形式で保存するなど、証拠の確保を行いましょう。

次にそのサイトを訪れた際、どこに記載されていたのか辿れなくなってしまう場合もあるため、なるべく早い段階で保存します。

(例)google chromeには、印刷機能にPDFデータで書き出す機能があります。
保存した日時や当該URLなども表示することができ、有用です。

詳しい書き方などについては、プロバイダ責任制限法 関連情報WEBサイト
http://www.isplaw.jp/index.htmlを参照してください。

コンテンツプロバイダへ開示請求がされた場合、プロバイダ側はIPアドレス等の情報を開示してもよいか発信者へ尋ねることとなります。同意が得られない場合、開示することはできません。しかし、明らかに権利を侵害しているとプロバイダ側が判断すると、開示されることもあります。

3.発信者情報開示仮処分の申請

このように、情報開示請求を行っても一概に開示されるとは言いきれません。ですので、裁判所による発信者情報開示仮処分を行うのが良いでしょう。

こちらも前回ご紹介したように、仮処分は通常より早く決定が下されることが多いので、専門家などに依頼するなどして、速やかに手続きを行いましょう。

また、仮処分にあたっては、早く決定を行わないと適切な措置ができなくなることを明記することがポイントです。インターネットの世界では、瞬く間に新しい情報がどんどん保存され積み重ねられ、放っておくと膨大なデータが蓄積することになります。

そのため、保存期間を過ぎた古い情報から定期的に削除されてしまうことが常であり、書き込まれた際のログ(記録)も期間が経過すると削除されてしまうことになります。ですから迅速に仮処分を行う必要性があることを説明するのです。

裁判所が開示の仮処分を決定したら、大半のコンテンツプロバイダは決定に従い情報の開示を行います。(削除依頼と同様、数十万円の担保金が必要です。)

これで、書き込みをした人物のIPアドレスとタイムスタンプという情報が得られることになります。

そして、これらの情報を用いて行うのが、インターネットサービスプロバイダへの契約者情報開示請求です。こちらについては次回、ご説明したいと思います。

4.まとめ

今回はコンテンツプロバイダへの開示請求についてご説明しましたが、前述したとおり、この後、インターネットサービスプロバイダへの開示請求も行わなければ、発信者の特定はできません。

何段階も手順を踏まなければなりませんが、請求の流れを把握しておけば、万が一トラブルにあった際も、まずは2.で説明したような「証拠の保存をする」という行動に移せるはずです。落ち着いて状況の判断をするようにしましょう。

2019.07.30

【刑事事件】捜査への協力の要否・強制捜査とはどんな捜査か

今回は、以前別の記事でご紹介した、警察官の行き過ぎた行為の報告先に関連して、捜査機関の種類や強制捜査がいかなるものであるか、また関連する刑事訴訟法の原則をご紹介します。

以前の記事を読むにはこちらから→警察(警察官)にクレームをお持ちの方へ

1.捜査機関

犯罪について捜査を行う権限と責務を有する捜査機関は、警察と検察、正確には、司法警察職員と検察官、検察事務官です。実際には、司法警察職員は一般司法警察職員と特別司法警察職員とに分けられており、この特別司法警察職員の中に、労働基準監督官など、専門の分野に限って捜査を行うことのできる者が規定されています。

刑事訴訟法(以下「刑訴法」といいます。)では司法警察職員は「犯罪があると思料するとき」、検察官は「必要があるとき」に捜査をすると定められています(刑訴法189条2項、191条1項)。

この規定からも分かりますが、犯罪捜査を行うのは第一次的には司法警察職員です。実際にも司法警察職員によって捜査が開始される事件が多いため、司法警察職員を「第一次捜査機関」、検察官を「第二次捜査機関」と呼ぶことがあります。

2.捜査の原則

(1)捜査関係者の心構え

捜査というのは、私人の私生活に踏み込み、権利侵害のおそれがあるものですので、必要最小限度の合理的なものに留めるべきとされています。
一方で、平和で安全な社会を守るために国民が捜査機関に付託した重要な作用ですから捜査についても尊重しなければなりません(刑訴法196条)。

また、捜査は、関係者の名誉、そして捜査の目的達成のためにも、秘密を守って捜査を行わなければなりません。これは、「捜査密行の原則」などといわれることもありまます(犯罪捜査規範第9条参照)

(2)捜査に必要な取調べ

刑訴法第197条1項本文では、「捜査については、その目的を達するために必要な取調をすることができる。」と定められています。
同条中の「取調」というのは、単に人から話をききとるといった取調べだけでなく、犯人の発見、証拠収集のためのすべての処分、すなわち捜査活動一般を指します。

既に述べたとおり、捜査はその性質上、任意であっても市民の私生活部分に公権力が介入するものです。
したがって、捜査機関は、私生活への介入を必要最小限度にとどめなければならず、これを裏返せば、市民の側は、捜査機関のする適法な取調べに対しては協力、少なくともこれを受忍しなければならない、ということになります。

このように、捜査に必要な取調べは、刑訴法が特に捜査機関に認めたものあり、捜査機関は、刑訴法に従って、適法な捜査を行わなければならないことはいうまでもありません。

3.強制処分に関する原則

(1)強制処分法定主義

以上の通り、捜査は、人の権利に対する侵害を必要最小限度に止めて謙抑的に行う必要があることが分かりますが、そのために捜査機関が有すべき必要な権限は刑訴法によって定められています。

そして、刑訴法197条1項但書は「強制の処分は、この法律に特別の定めがある場合でなければ、これをすることができない。」旨を定めています。これが「強制処分法定主義」と呼ばれるものです。

ここで、憲法では、逮捕・捜索・押収などの強制処分を行うには、原則として司法官憲、すなわち裁判官が発する令状が必要であると定められています(令状主義)。
刑訴法はこれを受けて、逮捕・捜索等の強制処分の要件を定めているわけですが、強制処分について単に「特別の法律の定め」を必要とするのではなく、刑訴法に定めがなければできないと規定する点できわめて厳格なものといえます。

(2)任意捜査の原則

強制処分に関する刑訴法197条1項但書と対比し、同項本文の規定(「捜査については、その目的を達するために必要な取調べをすることが出来る。」)は「任意捜査の原則」を指すものだというのが一般的な理解です(警察官に対する捜査規則である犯罪捜査規範99条は「捜査は、なるべく任意捜査の方法によって行わなければならない。」として、この原則を明示しています。)。

しかし、この「任意捜査の原則」というのは、常に任意捜査が強制捜査に優先する、すなわち、任意捜査で行える場合には、強制捜査を行ってはならないということを意味している訳ではありません。

例えば、逮捕・勾留という人身の拘束については、逮捕・勾留しなくても捜査の目的を達することができる場合に逮捕・勾留を認めてはならないのは当然でしょう。

しかしながら、任意捜査ができる場合には強制捜査を行うことが許されないとすると、強制捜査を行う前に相手に逐一捜査を承諾するかどうか確かめなければいけないことになり、これは、不合理です。

また、任意捜査が可能な場合であっても強制捜査によるべき場合もあります。犯罪捜査規範は、住居等については、たとえ住居主又は看守者の任意の承諾があっても任意捜査として捜査を行ってはならない、つまり住居等については、必ず強制捜査を行わなければならないと定めています(犯罪捜査規範108条)。
一見すると任意捜査の原則に反しているように思えるのですが、この規定は、当該捜索による住居主等に対する権利侵害の程度が決して小さくないことから、警察官が相手方にむりやり承諾させて捜査をすることがないように任意捜査を許さないことにしたものです。

4.強制捜査について

それでは、強制の処分(強制捜査)というのはどのようなものを指すのでしょうか。

【最高裁決定昭和51年3月16日】では、強制捜査を「個人の意思を抑圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味する」と定義しています。

そして、任意捜査においては有形力の行使は一切許されないとする考え方がありますが、判例その他の裁判例は、任意捜査においても一定の有形力の行使を認めています。上記最高裁決定では、任意捜査でも一切の有形力の行使が許されないわけではないとして、その限界を「必要性、緊急性なども考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される」か否かとしています。

【最高裁決定昭和51年3月16日】
「捜査において強制手段を用いることは、法律の根拠規定がある場合に限り許容されるものである。しかしながら、ここにいう強制手段とは、有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味するものであつて、右の程度に至らない有形力の行使は、任意捜査においても許容される場合があるといわなければならない。ただ、強制手段にあたらない有形力の行使であつても、何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれがあるのであるから、状況のいかんを問わず常に許容されるものと解するのは相当でなく、必要性、緊急性などをも考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されるものと解すべきである。」

5.まとめ

このように、刑事訴訟法では捜査の必要性と基本的人権の尊重が図られています。予め捜査機関による捜査を許容すべき場合を事前に知っておくことで、本来協力する必要性のない捜査については拒否することもできます。

また、もし任意の協力の名目のもと、具体的状況において個人の意思を抑圧するような捜査が行われてしまった場合は、当該捜査は強制捜査にあたり、令状がない限り違法ですから、速やかに専門家に相談のうえ、適切に対処してもらう必要があります。

2019.07.26

各種ハラスメントについて

皆さんは、「ハラスメント」という言葉をご存知ですか?よく問題になっているセクシャルハラスメント、パワーハラスメントなどの単語は、耳にしたことがある方も多いかと思います。

今回の記事では、「ハラスメントにはどのようなものがあるのか?」「ハラスメント被害に遭った場合はどうしたら良いのか?」「ハラスメントが発生した場合に行為者・会社が問われる責任は何か?」についてご説明します。

1.ハラスメントの種類

ハラスメントとは、嫌がらせいじめのことです。近年、ハラスメントによるトラブルは増加しており、「〇〇ハラ」という言葉を見かける機会が増えてきました。では、ハラスメントには一体どのようなものがあるのでしょうか?ここでは、代表的なハラスメントを取り上げてご説明します。

パワーハラスメント

パワーハラスメントパワハラ)とは、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えたり、職場環境を悪化させたりすることを指します。

<具体例>
・挨拶を無視されたり、会話をしてくれなかったりする
・蹴られたり、物を投げつけられたりする
・他の社員もいる中、大声でミスを責められる
・一人では終わらせることができない膨大な量の仕事を強要する

セクシャルハラスメント

セクシャルハラスメントセクハラ)とは、相手方の意に反する性的言動のことを指します。セクハラと聞くと、「男性の性的な言動によって、女性が被害に遭う」というケースを想像される方が多いかもしれません。しかし、「女性の性的な言動によって、男性が被害に遭った」という場合も、もちろんセクハラに該当します。また、同性に対する性的な言動もセクハラに含まれます。

<具体例>
・性的な関係を持つことを要求され、断ったところ解雇される
・上司に度々腰や胸を触られ、苦痛に感じて仕事への意欲が低下している

マタニティハラスメント

マタニティハラスメントマタハラ)とは、職場における妊娠・出産等に関するハラスメントのことを指します。

<具体例>
・妊娠したことを報告したことにより、「妊娠をしたのであれば辞めてもらう」、「もう昇進はできない」と言われる
・育児休業制度の利用を申出・取得したことにより、「休みを取るのであれば辞めてもらう」と言われる

スメルハラスメント

スメルハラスメントスメハラ)とは、体臭や煙草・香水などの匂いに関するハラスメントのことを指します。

<具体例>
・煙草の匂いがする従業員がいる
・生乾きの衣類を着ていることにより、衣類から匂いが発せられる従業員がいる

2.ハラスメント被害に遭ったら

では、実際にハラスメント被害に遭った場合はどうしたら良いのでしょうか?「ハラスメント被害に遭っていると感じるけれど、何をしたらいいのか分からない…」という方もたくさんいらっしゃるかと思います。

もし、ハラスメント被害に遭った場合は、以下の行動を起こしましょう。

(1)いつ、どこで、どのような被害に遭ったのか、近くに誰がいたかなどの具体的状況を詳細に残しておく

メモや録音などの方法によって記録を残しておくことで、後から事実確認をするときの証拠になります。
また、口頭で「ハラスメントをやめてほしい」という要求をして、それでも続くようであれば文書でもやめてほしい旨を申し入れることで、「ハラスメントが行われていたこと」、「やめてほしいと伝えたこと」を証拠に残すという手もあります。

(2)会社の窓口に相談する

人事部や、社内に相談窓口が設けられていれば相談窓口で相談しましょう。

(3)外部の相談窓口に相談する

社内に相談窓口が設けられておらず、社内に相談できる人がいない場合は、全国の労働局・労働基準監督署や、弁護士・社会保険労務士などの専門家に相談しましょう。

3.ハラスメントが発生した場合の行為者・会社の責任

(1)行為者の責任

ハラスメント被害に遭った場合、被害者は行為者(ハラスメントを行った本人)に対して、不法行為責任に基づく損害賠償請求をすることができます。
また、ハラスメントの種類によっては、傷害罪や暴行罪、強制わいせつ罪などに該当し、行為者は刑事責任を追及される可能性があります。

(2)会社の責任

もし、会社がハラスメントを放置し、改善しなかった場合、会社は不法行為責任使用者責任債務不履行責任を負う可能性があり、その場合、被害者は損害賠償請求をすることができます。
また、被害者がハラスメントによりショックを受け、うつ病等の精神障害を発症した場合、労災申請をすれば、労働災害と認定される場合があります。この労働災害認定の頻度・程度によっては、会社について労働基準監督署の調査が行われたり、翌年以降の保険料が増額されたりします。

4.まとめ

本来であれば、会社が、職場でのハラスメントを防止するために対策を講じる必要があります。しかし、ハラスメント防止対策が十分になされていない会社も多く存在しています。
ハラスメントは、個人の尊厳や人格を不当に傷つける許されない行為です。会社がハラスメントを放置することは、従業員が十分な能力を発揮して働くことを妨げる上、職場秩序の乱れに繋がります。「ハラスメント被害に遭っていて辛いけれど、会社に相談しても対応してくれないから我慢するしかない…」と思っていらっしゃる方も、一人で悩まずに、まずは弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談することをご検討ください。

2019.07.25

意外と知らない会社法4「M&Aについて」

M&Aや、事業譲渡、合併など、詳しくは知らないけれど、言葉だけなら聞いたことがある、という方はたくさんいらっしゃるのではないでしょうか?
今回は、M&Aとその種類についてお話していきます。

1.M&Aとは

M&Aとは、いったい何のことでしょうか?
Mは、Mergers、Aは、Acquisitionsの略、つまりM&Aとは合併と買収の総称であり、2つの会社が1つの会社になったり、会社が他の会社の株式取得等により当該会社の経営権を取得することを意味します。
 
M&Aを行うねらいとしては、「業種の異なる会社を手に入れて、事業領域を拡大すること」「後継者問題の解決」「業界の再編」などがあります。
 
さらに、M&Aの代表的な手法として、「事業譲渡」「合併」「会社分割」「TOB」「MBO」「株式移転」「株式交換」などが挙げられますが、1ではまず、M&Aの進め方についてお話していきます。
 
M&Aを行うと、今まで全く関係のなかった会社が自社のものになったり、関連会社、子会社になったりします。
その時、もしM&Aの対象企業に不祥事などの問題があったら、自分たちの会社は、多大な損失を被ったり、社会の信頼を失ったりすることになりかねません。

そうならないためにも、M&Aを行おうとしている側の企業は、買収の対象となる企業の精査を行います。これを「デューデリジェンス(DD)」といいます。
 
このデューデリジェンスも様々な種類が存在し、財務デューデリジェンス、税務デューデリジェンス、法務デューデリジェンス等があります。

例えば、財務デューデリジェンスでは、対象先会社の財務状況を調査します。また、法務デューデリジェンスでは、紛争可能性の有無、知的財産権の登録の有無などについて調査します。

これらを行った結果、何かしらの問題がみつかった場合には、M&Aの中止、もしくは問題を解決するといった判断が必要となります。

2.事業譲渡とは

1で、M&Aには様々な種類があるとお話しましたが、2ではM&Aのうち、「事業譲渡」についてお話します。

事業譲渡とは、言葉の通り、自社の一部、またはすべての事業を他社に譲渡することを言い、ここで言う「事業」とは、一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産を指し、取引先、ノウハウなど利益を生むもの全てを指します。

事業譲渡を行うことが決定すると、基本合意契約を締結し、買い手が売り手の事業調査「デューデリジェンス」を行います。問題がなければ、最終的な事業譲渡契約を締結します。

仮に、事業譲渡の対象が譲渡会社の事業の全部、または一部だった場合、譲渡会社は株主総会の特別決議が必要となります。

ここまで完了すると、譲受会社は名義変更手続や、許認可の手続を行い、事業譲渡の効力発生日を迎えて初めて手続が完了となります。事業譲渡に要する期間としては、早くて3ヶ月、時間を要する場合だと半年~1年かかる場合もあります。

大まかな流れだけを聞くと、簡単にできるもののように感じますが、実際はもっと多くの段階を踏まなければなりませんし、株主総会で事業譲渡に反対する株主がでてきて、スムーズに進まない可能性もあります。ですが、事業譲渡を行うことで様々なメリットを得ることもできますので、事業譲渡を考えている企業は是非前向きに検討してみてください。

3.合併とは

2に続き、3ではM&Aの代表的手法のひとつである「合併」についてお話します。

まず、合併には「吸収合併」と「新設合併」が存在します。
「吸収合併」とは、ある会社が別の会社のすべてを吸収することを言い、この場合、吸収する側の会社のことを「存続会社」、吸収される側の会社のことを「消滅会社」と呼びます。吸収合併をした場合、消滅会社は解散し、存続会社は消滅会社のすべてを受け継ぐことになります。

次に「新設合併」とは、合併する各会社は解散し、新しく会社を作り、新設会社に各会社の全ての資産を移すことを言います。この場合、新たに会社をスタートすることとなり、手間がかかります。そのため、合併をするほとんどの場合は、吸収合併の形がとられます。

2つの合併の共通点としては、様々な商品やサービスを取り扱うことができるようになる、事業領域を広げることができる、などが挙げられます。

では、新設合併では手間がかかる、という理由以外に吸収合併を選ぶ理由は何でしょうか?
吸収合併の場合、存続会社は消滅会社のすべての権利義務を受け継ぎますので、免許の再申請などの必要がなく、課税対象も合併後に増加した分のみとなるため、新設会社と比べてコストを抑えることが可能となります。

さらに、親会社が子会社を吸収合併した場合だと、子会社は今まで以上に新しい商品やサービスの開発に資金を投資し、それが世の中に出て広まることで、親会社にとっても、信頼度の向上、売上のアップなど沢山のメリットが発生することになります。

4.まとめ

今回は、M&Aとその種類についてお話しました。
ただ単にM&Aと言っても、実は多くの種類が存在しますし、一見簡単そうに聞こえるものでも、M&Aが完了するまでには、デューデリジェンスを行ったり、各種申請、届出を行ったりと、時間、手間がかかるものばかりです。

ですが、M&Aを行うことで事業領域の拡大や、売上のアップなどメリットも多く発生しますので、まずはM&A、その種類を知って、チャレンジしてみてください。

2019.07.24

【交通事故】保険会社から治療費を打ち切られてしまった際の対応について

まだ通院が必要だと思っているのに、保険会社から治療費の支払いを打ち切られた場合、どの様に対応したら良いのでしょうか?通院することを止めてしまうのか、自分でお金を支払って通院するしかないのでしょうか。
今回は、保険会社から治療費の支払いを打ち切られたときの対応についてご説明致します。

1 基本的な治療費の負担と期間について

人身事故に遭い、被害者が病院で診療をしてもらった場合、病院へ対する治療費の支払義務は患者である被害者にあります。
しかし、加害者側が任意保険に加入している場合、任意保険会社は被害者が通院している病院へ直接治療費を支払うという運用が一般的です。このように、任意保険会社が病院へ直接治療費を支払う場合は、基本的に被害者が窓口で治療費を支払うことはありません。

しかし、任意保険会社によっては、まず被害者側が治療費を立て替え、後日任意保険会社に立替金を請求するように、提案されることがあります。そのような場合、後々治療費について加害者側と争いになると『治療費が支払われない』というリスクもあります。
任意保険会社から立替払いの提案がなされた場合には、早い段階で任意保険会社が直接病院に支払うよう交渉をすることが、後々のリスクを回避することに繋がります。

また、加害者が任意保険に加入していない場合には、被害者の加入する健康保険を利用し、一時治療費を立て替えた後に加害者の加入している自賠責保険に請求することになります(被害者請求と言われる手続きです。)。ただし、当面の費用が必要な場合には、損害賠償額の一部を仮渡金(*1)として請求することができます。なお、自賠責保険では傷害の場合120万円が上限であることに注意が必要です。


*1 仮渡金…
通常の立替金請求方式だと、自賠責から保険金が支払われるまでには、「被害者が治療を終え、必要書類を揃えて自賠責に請求を行い、自賠責による審査を経たうえでの支払い」となるため、一定の日数を要します。しかし、支払いがなされるまでの期間、経済的に困窮してしまう方もいるため、その様な方を救済するために仮渡金の制度が設けられています。

2 保険会社からの打ちきりを延期してもらえないのでしょうか?

一般的に、症状固定時期までの治療費については、必要かつ相当なものとして、交通事故と相当因果関係のある損害となります。
しかし、例外的に「必要性がない」、又は「相当性がない」治療費については、交通事故と相当因果関係の認められない損害として、支払義務が生じません。

そして、症状固定後の治療費は原則として損害賠償の対象とはなりません。
症状固定とは、傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法をもってしても、その効果を期待し得ない状態で、かつ、残存する症状が、自然的経過によって到達すると認められる最終の状態に達した時をいいます。
要は、治療しても、治療しなくても症状が変わらなくなった状態のことをいいます。

特にむち打ちなど軽傷であることが比較的多い症状の場合、任意保険会社は事故後6か月を目途に被害者側に治療の打ち切りを促してきます。
しかしながら、治療の打ち切りの提案があったとしても、引き続きの治療が必要な状態であれば治療は継続すべきであり、その治療費も加害者側から支払われるべきものです。

もし、治療費を打ち切られてしまうと、被害者が治療費を負担しなければならない危険がありますので、保険会社から打ち切りを提案された場合には、担当の医師に治療継続の必要性を書いてもらった診断書を作成してもらうなどして、粘り強く治療の継続を訴えるべきです。
弁護士が入って治療継続の必要性を具体的に説明すれば、保険会社が継続に応じてくれる場合もあります。

3 打ち切りをされてしまった場合、何も手段はないのでしょうか?

被害者が治療の継続を希望しても保険会社が治療費の支払いを打ち切る決定をした場合はどの様に対応したら良いのでしょうか?
最初に行うべきことは自賠責保険へ仮渡金を請求することです。しかし、自賠責保険が支払ってくれる金額には上限がありますし、必ずしも支払いに応じてくれるわけではありません。
その場合、考えられる手続きは①裁判所に損害賠償金の仮払いを求める仮処分を申し立てる、②自己負担で治療を継続して後日支出分を損害賠償請求する、③症状固定診断を経て後遺症認定申請を行う、の3通りです。

まず、①の仮払い仮処分とは、交通事故の問題が最終的に解決するまでの間、一定額の治療費や生活補償費を加害者側から被害者側に支払ってもらう裁判所の命令です。
仮とはいえ加害者に実際の支払いを命じるものになるため、相当の基準をクリアする必要があります。
具体的には、「訴訟で被害者側に勝訴の見込みがあること」、「被害者とその家族の生活が困窮し、生存を維持するうえで仮処分が不可欠であること」が認められなければならず、これらは被害者側で証明しなければなりません。

また、仮払い仮処分で請求できるのは、基本的に治療費と最低生活補償費であり、休業損害・慰謝料等の仮払いは難しいです。このように、①の実現は容易ではなく、得られる利益も限定的です。
しかし、裁判所の仮払い仮処分命令が出ると強制執行をすることも可能となり、加害者の家財道具(家や車)、事業をやっていれば機械や商品などの動産を差押え、競売にかけ現金にすることができます。

次に、②③の手続きですが、②は「後日加害者あるいは保険会社が支払いを拒否するリスクも抱えて治療を継続する」というものです。③は治療の継続を諦めることを意味します。

いずれの手続きを選択すべきであるかは、事故で負った傷害の程度、打ち切り時点での回復状況、担当医師の意見、被害者の生活状況等一切の事情を考慮して判断することになり、極めて専門的な知識、経験が求められます。

4 まとめ

今回は、保険会社から治療費を打ち切られてしまった際の対応についてご説明しました。
急に打ち切りを言い渡されると、これからどうしていけばいいのだろうと不安になられる方も多くいらっしゃると思います。

事故に対する保険会社の対応に不安や不満をお持ちの方は、弁護士等の専門家に一度ご相談されてみることをお勧めします。

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