営業職に潜む企業リスク
営業職は、外回りなどにより外勤の時間が多いことから、正確な業務時間の把握が難しいため適切な残業代の算出が難しくなります。
そのため、残業代の代わりとして営業手当を支給している企業も多く存在します。今回はこの様な対応について生じる企業側のリスクについて説明します。
1.営業手当とは
営業職は仕事の成果に応じて報酬が支払われる成果主義であるという考え方から、適切な残業代を計算していない企業が多く存在します。
しかしながら、労働基準法では法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた時間外労働時間に対して残業代を支払わなければならないと定められています。
つまり、営業手当を残業代の代わりに支払っているからといって、残業代を支払わなくて良いということにはなりません。
仮に営業手当を固定残業代として支給している場合、何時間分の残業代に相当するのか従業員へ明確に示す必要があります。
そして、固定残業代に相当する時間数を超える時間外労働が発生した場合、企業側は残業代を支払う義務が発生します。
2.事業外のみなし労働時間制
多くの企業は、労働時間の把握が難しい営業職に対し、労働時間の計算が容易になることから「事業場外のみなし労働時間制」を取り入れています。
実際の労働時間にかかわらず、会社以外の場所で仕事をする場合に始業時刻から終業時刻までの所定労働時間を労働したものとみなし、業務を行う上で通常の所定労働時間を超えた労働が必要となる場合においては、業務を行うために必要とされる時間を労働したものとみなして取り扱う制度のこと。
この制度を利用すると、従業員が事業場外において実際には所定労働時間より多く働いていたとしても、所定労働時間が労働時間数とみなされるため残業代の支払いが不要になります。
しかしながら、ここで企業が注意しなければならないのは、「事業場外のみなし労働時間制」を取り入れているからといって、残業代を一切支払わなくて良くなるということではない点です。
労使協定で定めた労働時間や、従業員との間で定めたみなし労働時間を超えた労働時間が発生している場合には、実労働時間に対する残業代を支給する必要があります。また、深夜勤務手当、休日勤務手当などについても通常通り支給しなければならないため、気を付けましょう。
「事業場外のみなし労働時間制」が認められる前提として、事業場外で業務を行い、会社の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間の算定が困難なときという要件を満たしている必要があります。
例えば、電話で上司からの指示を受けながら業務を行っている、上司に対して業務報告を行っている場合では、企業の指揮監督が及んでいる状態であると言えるため「事業場外のみなし労働時間制」の適用が認められず、未払残業代が発生するリスクがあります。
事業場外のみなし労働時間制を採用している企業は、実際の労働状況が制度を利用できる要件を満たしているか確認をすることが大切です。
3.労働時間性について
労働時間を算定する前提として、具体的にどこまでの範囲を労働時間と認定するのでしょうか?業務中の待機時間、又は従業員が自宅へ仕事を持ち帰り作業を行っていた場合でも労働時間に含まれるのでしょうか。
労働時間に該当するか判断するうえでも、前述したように使用者の指揮監督が及んでいたか、黙示の業務命令が行われていたかという点が重要になります。
よって、業務中の待機時間については、従業員が常に稼働可能な状態で待機していると状態であるため、従業員は指揮命令下にあった判断され労働時間に該当する可能性があります。
労働時間であると判断された場合、例え待機時間であったとしても企業は従業員に対して賃金を支払う必要があります。
それでは、企業側が特段の指示をしていないにも関わらず、従業員が自宅へ仕事を持ち帰り作業を行っていた場合は自宅での業務を行った時間に対し賃金を支払う必要があるのでしょうか?
この問題については具体的な状況によって判断が分かれる部分ではありますが、企業側が明確な指示を行っていない場合でも、従業員がその業務に対応しなければ何らかの不利益が課される可能性があるときには、従業員は労働から解放されていないと見なされ、指揮命令下にあったと判断される可能性もあります。
以上の通り、実際に業務を行っていたかという点や、明確な業務命令の有無だけで判断されるわけでは無いということについて注意することが大切です。
4.まとめ
営業手当を残業代の代わりとして支給していることや、営業は成果主義だから残業を支払わないという事は何の法的根拠にもなりません。
また、事業場外のみなし労働時間制について、残業代を支払わなくて良い制度という間違った認識を元に制度を取り入れていた場合、後に従業員から未払残業代を請求される可能性があります。
自社の労働時間の管理体制について見直しを行い、社労士や弁護士などの専門家に相談しながらリスクを洗い出すことは、安定的に継続した企業運営に繋がります。一度自社の労働管理体制を検討されてみてはいかがでしょうか。
【離婚問題】離婚後に受けられる各種補助について
離婚を考えていても、特に子供がいると金銭的な心配からなかなか離婚に踏み切れない方は数多くいらっしゃいます。離婚の際には財産分与、毎月の養育費、場合によっては慰謝料を得ることもありますが、相手が本当に支払ってくれるか不安という場合も多いでしょう。
今回は、離婚後に受けられる公的な補助についてご説明します。なお、紹介する金額等はいずれも令和元年6月現在のものです。
1.児童扶養手当
児童扶養手当は、父母の離婚などにより、父又は母と生計を同じくしていない児童のいるひとり親家庭等の保護者に支給される手当で、ひとり親家庭の生活の安定と自立の促進を通して児童の福祉の増進を図ることを目的とした制度です。
(1) 対象者
対象年齢 | 18歳に到達した日以降の最初の年度末まで |
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該当する児童 |
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支給対象外 |
|
(2) 支給額
子供の人数 | 全部支給 | 一部支給 |
---|---|---|
1人 | 42,910円 | 10,120円から42,900円(所得に応じて決定) |
2人 | 53,050円 | 15,190円から53,030円(所得に応じて決定) |
3人 | 59,130円 | 18,230円から59,100円(所得に応じて決定) |
4人以上 | 以降、1人増えるごとに第3子の加算額が加算 |
2.児童手当
児童手当は、家庭等における生活の安定に寄与するとともに、次代の社会を担う児童の健やかな成長を図ることを目的とした制度です。
子供を養育している人に対し手当を支給するものなので、離婚した家庭に限られず、要件を充たせば受けられます。
(1) 対象者
15歳到達後の最初の3月31日までの間にある児童を養育する者
(2) 支給額
対象となる児童の年齢等 | 児童1人あたりの月額 | |
---|---|---|
3歳未満(3歳の誕生日の属する月まで) | 15,000円 | |
3歳~小学生 | 第1子、第2子 | 10,000円 |
第3子以降* | 15,000円 | |
中学生 | 10,000円 | |
所得制限限度額以上の場合 | 5,000円 |
*「第3子以降」とは、18歳の誕生日後の最初の3月31日までの養育している児童のうち、3番目以降の児童をいいます。
(3) 所得制限限度額
世帯の合算所得ではなく、受給資格者と配偶者それぞれ単独の所得で判定し、所得の高い方が受給資格者となります。
控除額は様々なものがあるため、収入額は控除前の額としておおよその額となります。
扶養親族等の人数 | 所得制限限度額 | 収入額の目安(控除前) |
---|---|---|
0人 | 622万円 | 833.3万円 |
1人 | 660万円 | 875.6万円 |
2人 | 698万円 | 917.8万円 |
3人 | 736万円 | 960.0万円 |
4人 | 774万円 | 1002.1万円 |
5人 | 812万円 | 1042.1万円 |
3 特別児童扶養手当・障害児福祉手当
精神又は身体が障がいの状態にある20歳未満の児童について、児童の福祉の増進を図ることを目的として、手当を支給する制度です。
・支給額
重度障がい児(1級) | 1人につき 52,200円 |
---|---|
中度障がい児(2級) | 1人につき 34,770円 |
4 生活保護制度
生活保護は、資産や能力等全てを活用してもなお生活に困窮する者に対し、困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保護し、その自立を助長する制度です。
・扶助内容
生活を営む上で生じる費用 | 扶助の種類 | 支給内容 |
---|---|---|
日常生活に必要な費用 (食費、被服費、光熱費等) |
生活扶助 | 基準額は、①食費等の個人的費用②光熱水費等の世帯共通費用を合算して算出。特定の世帯には加算(母子加算等) |
アパート等の家賃 | 住宅扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
義務教育を受けるために必要な学用品等 | 教育扶助 | 定められた基準額を支給 |
医療サービスの費用 | 医療扶助 | 費用は直接医療機関へ支払い(本人負担なし) |
出産費用 | 出産扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
就労に必要な技能の習得等にかかる費用 | 生業扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
葬祭費用 | 葬祭扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
5 母子(父子)福祉資金貸付金
母子家庭の母等が、就労や児童の就学などで資金が必要となったときに、都道府県、指定都市又は中核市から無利子又は低金利で貸付を受けられる資金です。
母子(父子)家庭の母等の経済的自立を支援するとともに生活意欲を促進し、その扶養している児童の福祉を増進することを目的としています。貸付資金の種類により、無利子の条件が異なりますので、事前に確認する必要があります。
なお、文字通り本制度は貸し付けを行う制度ですので、返済の必要があります。
6 母子(父子)家庭自立支援教育訓練給付金
母子家庭の母又は父子家庭の父の主体的な能力開発の取組みを支援することを目的とした制度です。
雇用保険の教育訓練給付の受給資格を有していない人が対象教育訓練を受講し、修了した場合、経費の60%(上限20万円、1万2000円を超えない場合は支給対象外)が支給されます。
支給については、受講前に都道府県等から講座の指定を受ける必要があります。
(1) 対象者
対象者は、母子家庭の母又は父子家庭の父であって、現に児童(20歳に満たない者)を扶養し、以下の要件を全て満たすことが必要です。
・児童扶養手当の支給を受けているか又は同等の所得水準にあること
・雇用保険法による教育訓練給付の受給資格を有していないこと
・就業経験、技能、資格の取得状況や労働市場の状況などから判断して、当該教育訓練が適職に就くために必要であると認められること
(2) 対象となる講座
・雇用保険制度の教育訓練給付の指定教育訓練講座
・その他、上記に準じ都道府県等の長が地域の実情に応じて対象とする講座
7 母子(父子)家庭高等職業訓練促進給付金
母子家庭の母又は父子家庭の父が看護師や介護福祉士等の資格取得のため、1年以上養成機関で修業する場合に、修業期間中の生活の負担軽減のため、高等職業訓練促進給付金が支給されます。
また、入学時の負担軽減のために、高等職業訓練修了支援給付金が支給されます。
(1) 対象者
対象者は、母子家庭の母又は父子家庭の父であって、現に児童(20歳に満たない者)を扶養し、以下の要件を全て満たすことが必要です。
・児童扶養手当の支給を受けているか又は同等の所得水準にあること
・養成機関において1年以上のカリキュラムを修業し、対象資格の取得が見込まれること
・仕事又は育児と修業の両立が困難であること
(2) 支給額
〇高等職業訓練促進給付金
【支給額】 月額100,000円(市町村民税非課税世帯)
月額70,500円(市町村民税課税世帯)
【支給期間】 修業期間の全期間(上限3年)
〇高等職業訓練修了支援給付金
【支給額】 50,000円(市町村民税非課税世帯)
25,000円(市町村民税課税世帯)
【支給期間】 修了後に支給
(3) 対象となる資格
対象となる資格は、就職の際に有利となるものであって、かつ法令の定めにより養成機関において1年以上のカリキュラムを修業することが必要とされている者について都道府県等の長が指定したものです。
例として、看護師、介護福祉士、保育士、歯科衛生士、理学療法士などがあります。
8 まとめ
以上のように、離婚後に子供を養育しながら受けられる公的扶助制度には様々なものがあります。離婚後に手当を受けながら生活することができ、また、たとえ婚姻中に仕事をしていなくても、離婚後に給付金を受けながら資格を取得すれば、安定した職業に就くことも可能です。
本当は離婚したいにもかかわらず、金銭的に不安という点だけで何年も我慢してしまうのは、ご本人にもお子様のためにも良い環境とは言えないかもしれません。
弁護士や最寄りの役所等に相談しながら、前向きに新しい生活についても考えてみることをお勧めします。
クレジットカードが不正利用されたときの対処法
クレジットカードは手元に現金が無い時にも買い物をすることが出来るとても便利なものです。
しかし、クレジットカードを落としてしまったり、カード情報が漏れてしまったりすると、第三者に不正利用される恐れがあります。
今回は、クレジットカードの不正利用についてお話していきたいと思います。
1.不正利用の手口
クレジットカードの不正利用には数々の手口が存在します。以下、不正利用の種類について簡単に説明していきたいと思います。
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①クレジットカードの盗難
財布の盗難等によりクレジットカードが第三者の手に渡ってしまうと、他人に悪用されてしまう恐れがあります。具体的には、サインレス決済が可能な店舗での利用や、クレジットカード裏のサインを真似て、クレジットカードの持ち主になりすまして利用されてしまうことが考えられます。
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②フィッシング詐欺
- フィッシング詐欺とは、会員制ウェブサイトや有名企業を装い、偽のウェブサイトへのURLリンクを貼ったメールを送りつけ、偽のホームページに誘導し、受取者の利用しているアカウントや暗証番号、クレジットカードの会員番号等の個人情報を入力させて盗み出す手口です。
- クレジットカードの情報を抜き取る場合「カードの有効期限が近いです」や「カードが無効になっています」等ともっともらしい理由をつけて情報を入力させます。
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③スキミング
- スキミングとは、スキマーと呼ばれる機械で、クレジットカードの磁気データを不正に読み取り、複製カードを作成して、それ使用する犯罪行為のことをいいます。
- 具体的な方法としては、目を離したときにクレジットカードを一時的に抜き取って情報のみをスキマーで盗み、再びカードを戻すという方法もあれば、会計時に、支払い用の機械(スキマー細工済み)にクレジットカードを通したときに、カード情報のみを盗むという方法もあります。
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④ネットショッピング詐欺
ネットショッピング詐欺とは、架空のネットショップを立ち上げて、架空の商品を販売し、購入画面で顧客のクレジットカードの情報を入力させることで情報を盗みだす行為をいいます。ネットショップも商品も架空なので、購入した商品が届くことはありません。
販売されている商品が相場に比べて格安であったり、日本語やフォントなどが不自然であったりするサイトは、ネットショッピング詐欺のサイトである可能性があります。ですので、ネットショッピングを利用する場合は十分に注意しましょう。
次は実際に不正利用に遭った場合に、どのように対処したらよいかをご説明します。
2.不正利用に遭ったときの対処法
クレジットカードの不正利用(盗難・紛失)に気づいたら、すみやかに以下の手順で対処しましょう。
①クレジットカード会社への連絡
不正利用に気づいたら、ただちにクレジットカード会社へ連絡をし、利用停止の手続きを取りましょう。クレジットカード会社に連絡をすることで、クレジットカードは利用停止となるため、被害の拡大を防ぐことができます。
また、併せて、本当に不正利用なのかどうか、クレジットカード会社による調査が行われます。調査の結果不正利用だと判明したら、後述する盗難保険の申請を行いましょう。
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② 警察に連絡をする
クレジットカード会社への連絡が済んだら、次は警察に連絡し、被害届を出しましょう。
被害届を出すと、警察から受付番号を発行してもらえるので、カード会社に再度連絡し、番号を伝えましょう。
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③ カードの再発行
不正利用されたカードは二度と使用できなくなるので、クレジットカードを再発行する必要があります。再発行後は再び紛失や盗難に遭わないように取扱いには十分に注意しましょう。
クレジットカードは現金とは違い、盗まれたとしても上記のように利用停止の手続きを取ることができるので被害の拡大を防ぐことが可能です。もしクレジットカードの不正利用被害にあってしまっても、落ち着いて対処しましょう。
次に、クレジットカードの盗難や不正利用に遭ったときの補償サービスについてご説明したいと思います。
3.盗難保険とは?
ほとんどのクレジットカード会社のカードには、盗難保険というサービスがついています。盗難保険は、クレジットカードが不正利用された日から60日以内にカード会社に連絡をし、不正利用だと判明すれば被害全額を補償してもらえる制度です。
盗難保険を適用させるには、不正利用から60日以内にカード会社に連絡をしなければならないので、利用から61日以上経過して不正利用に気づいた場合は、補償の対象外となってしまいます。普段から注意してクレジットカードの利用明細の確認を行いましょう。
ただし、実は不正利用された場合であっても、盗難保険が適用されず、補償が受けらえない以下のようなケースも存在しますので、ご注意ください。
4.盗難保険が適用されない場合
クレジットカードの盗難・不正利用発覚から60日以内にクレジットカード会社に連絡をしたとしても、補償を受けられないのは、以下のようなケースです。
・暗証番号が推測しやすい誕生日や車のナンバーである場合
・カードの裏面に署名をしていない場合
・暗証番号が第三者にも分かるようになっている場合 (カード裏面に暗証番号をメモしている・財布に暗証番号が書かれたメモを入れている場合など)
・家族や友人など近しい間柄の人物による利用の場合
・カードを他人に預けていた場合
・天災に起因する不正利用の場合
・警察に届出を出していない場合
このような場合は、クレジットカードの所有者にも非があるとみなされてしまうので、盗難保険が適用されません。ですので、クレジットカードを利用する際には常に危機感を持ち、セキュリティ対策をしておきましょう。
【離婚問題】認知について
近年、未婚のシングルマザーが増加しており、未婚で出産した芸能人の報道なども目にすることが増えました。未婚のまま子供を出産した場合、そのままでは子供の法律上の父親はいないということになり、戸籍の父親欄は空欄となります。
弊所では、子供の母親から、父親に認知をしてほしいが、相手に拒まれているという相談がよくあります。今回は、認知の手続や認知の効果についてご説明します。
1.認知とは
婚姻中に妻が懐胎した子供は、夫の子と推定され(民法第772条1項)、これを「嫡出推定」といいます。一方、婚姻関係にない男女の間に生まれた子供(非嫡出子)は、嫡出推定が及ばないため、当然には法律上の父がいないということになります。その場合、ある男性が子供の父親であると認め、法律上の父子関係を発生させる行為を「認知」といいます。
認知をして法律上の父子関係が認められると、父親の戸籍には認知した子供の名前が、子供の戸籍には父親の名前が記載されます。また、親子としての権利義務関係が発生するので、父親に対して養育費の請求が可能になり、父親が死亡した場合には認知した子供にも相続権があります。
ただし、親子間の扶養義務は互いに負うため、将来的に父親の介護や金銭的な援助が必要となった場合、子供が面倒を見なければならない可能性もあります。
2.認知の方法
認知には任意認知と強制認知という二種類があります。
(1) 任意認知
任意認知は、父親である男性の側から行う認知です。基本的には市町村役場に認知届を提出することにより行いますが、遺言でも認知することが可能です。
子供の出生前、胎児の段階でも認知をすることができますが、その場合は母の承諾が必要です(民法第783条1項)。また、成年の子供を認知する場合には、子供本人の承諾が要ります(民法第782条)。任意認知は、父親が未成年者であっても、法定代理人の同意を要せずに行うことができます。
(2) 強制認知
母親は認知をしてほしいと考えていても、父親が認知を拒むというケースはよく見られます。妊娠を伝えたら父親側から中絶するように言われたが、それでも母親が出産した場合では、相手(父親)から「お前が勝手に産んだんだろう。」と言われる場合もあるようです。しかし、父親の同意なしに出産したからと言って、父親に認知をしてもらえないというわけではありません。
男性が認知を拒む場合は、法的な手続をとって認知させることができ、これを強制認知といいます。子供、その直系卑属(孫やひ孫)又はこれらの法定代理人が認知の訴えを提起することにより行います。
具体的な手続としては、まず相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所に認知調停を申し立て(調停前置主義)、調停に父親が出席することが必要ですが、そこで認知をするという合意が成立し、家庭裁判所が必要な事実の調査等を行った上で、その合意が正当であると認めれば、合意に従った審判がなされます。
父親が調停に参加してくれない場合や、合意が成立しない場合は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に認知の訴えを提起します。生物学的に父子関係があるかどうかは、DNA鑑定を行えばすぐに分かります。もし相手方がDNA鑑定に協力してくれない場合、強制的に鑑定をすること等はできませんが、鑑定を拒むという態度も含めて裁判所の判断材料となります。以上の手続きを経て認知がされると、出生のときに遡って法律上の親子関係が生じます。
なお、認知の訴えは、父親が死亡しても3年以内であれば行うことができ(民法787条)、この場合は検察官を相手方として請求することになります。死後に父子関係が認められた場合は、認知された子供は父親の相続人となるため、遺産分割協議に参加することができるようになります。
3.認知してほしくないとき
では反対に、父親に認知をしてほしくないという場合はどうでしょうか。認知をしてほしくない理由としては、子供の父親に一切関わりを持ってほしくない場合、子供の父親が他に家庭を持っていて、父親の戸籍に子供の名前が載ると、配偶者に不貞の慰謝料請求をされるおそれがある場合、父親と子供が面会交流などを行うのが嫌な場合、父親に借金等があり将来子供が迷惑を被るかもしれない場合など、いろいろなケースが考えられます。
しかし、子供が生まれる前の胎児認知には母親の承諾が要りますが、出生後は母親の承諾なく実の父親が認知をすることが可能です。そのため、いくら母親が認知をしてほしくないと思っていたとしても、認知を拒むことはできないという結論になります。
なお、認知をされると父親に子供の親権を取られてしまうのでは、と心配される方もいらっしゃいます。これについては、仮に父親から親権者変更調停が申立てられたとしても、これまで母親が子供を監護してきたという実績があるため、母親が子供を虐待している等の特別な事情がなければ、子供の親権が父親に変更されるということはありません。
4.まとめ
今回は、認知についてご説明しました。父親から認知を受けると、父親に対して養育費を請求することができます。非嫡出子だからといって、養育費の金額が嫡出子よりも低いということなどもありません。
人により様々な事情があるかとは思いますが、シングルマザーで子供を育て上げる際、養育費をもらうことが生活の助けになることも多いでしょう。本当に子供の父親であれば認知をさせることは可能ですが、相手方とトラブルになることが予想されますので、お悩みの方は弁護士に相談することをお勧めします。
労働基準法とは? ~年少者の雇用について~
労働者の雇用にあたり、年少者(満18歳未満の者)の雇用について考えたことはありますでしょうか。
近年の人口減少に伴い、外国人労働者の受け入れを積極的に行うところもあるほど、様々な企業が人手不足に頭を悩ましているかと思います。今後、更に人手不足になる可能性が高いことから、今回は年少者を雇用する際の注意点などについて見てきます。
1.年少者の労働契約
まず、年少者と労働契約を結ぶときに注意しないといけない点は年齢です。労働基準法では、原則として、使用者は、児童(15歳に達した日以降の最初の3月31日までの者)と労働契約を結んではいけないとされています。例外として、非工業的業種又は農林水産業の事業に係る職業で、児童の健康及び福祉に有害ではなく、労働が軽易なものであれば、行政官庁(管轄の労働基準監督署)の許可を得て、満13歳以上の児童を修学時間外に使用することが出来ます。また、映画製作や演劇の事業では満13歳未満の者でも同様に使用することができます。
年少者の使用に関する許可が下りた場合は、年齢を証明する戸籍証明書※を事業場に備え付けることが必要です。更に、児童を使用する場合には、以上に加えて修業に差し支えないことを証明する学校長の証明書及び親権者又は後見人の同意書も事業場に備え付けなければいけません。
また注意点として、労働基準法上では親権者は未成年者(満20歳未満の者)に代わって労働契約を締結してはならず、未成年者の賃金を代わりに受け取ることはできません。そのため、まだ子どもが小さい場合は労働契約締結の場に同席し、事前に年少者本人の口座を作っておくことが望ましいでしょう。
※戸籍証明書は、戸籍をコンピュータ化した自治体が発行する証明書で、従前の紙戸籍で発行していた戸籍謄本・戸籍抄本と同じものです。戸籍謄本は戸籍全部事項証明書に、戸籍抄本は戸籍個人事項証明書に名称が変わりました。年齢が証明できれば大丈夫ですので、どちらの証明書でも問題ありません。
2.年少者の労働条件
次に、年少者の労働条件の中身について見ていきたいと思いますが、年少者の労働条件には以下のような様々な制限があります。具体的に見ていくことにしましょう。
(1)労働時間及び休日
年少者の労働時間及び休日については、以下のような制限があります。
- ①変形労働時間制・フレックスタイム制、36協定による時間外労働・休日労働は適用できません。ですので、今日10時間労働、明日6時間労働ということが出来ませんし、当然ながら残業もできません。
- ②児童は修学時間を通算して、1週間について40時間、1日について7時間を超えて労働させてはなりません。
- ③使用者は、満15歳年度末後を修了した年少者については、次に定めるところにより労働させることが出来ます。
ア 1週間の労働時間が40時間を超えない範囲内において、1週間のうち1日の労働時間を4時間以内に短縮する場合は、他の日の労働時間を10時間まで延長することが出来ます。ただし、割増賃金が発生するので注意が必要です。
イ 1週間について48時間、1日について8時間を超えない範囲内において、月単位の変形労働時間制又は1年単位の変形労働時間制の規定により労働させることが出来ます。
(2)深夜業(労働基準法61条)
労働基準法上、年少者は非常災害の場合を除き、原則として深夜業(午後10時から午前5時までの労働)を行わせてはならないことになっていますが、以下のように例外が設けられています。
①交替制によって使用する満16歳以上の男性については、深夜業が認められています。
②厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、①の時刻を、地域または期間を限って、午後11時及び午前6時とすることができます。
③交替制によって労働させる事業においては、行政官庁の許可を受けて、①に関わらず午後10時30分まで労働させ、又は②に関わらず午前5時30分から労働させることが出来ることとなっています。
④労働基準法第61条は、災害時には適用されません。また、農林水産業、保健衛生業、電話交換の業務に従事する場合も適用されません。
更に、労働基準監督署の許可を得て使用する児童については、午後8時から午前5時の時間帯に働かせることはできません。
(3)危険有害業務(労働基準法62条)
労働基準上では、年少者は肉体的、精神的に未成熟であることから、重量物を取り扱う業務や危険な業務、衛生上または福祉上有害な業務(これを「危険有害業務」と言います。)に就業させることが禁止されています。年少者が就業を制限されている業務には以下のようなものがあります。
- ・運転中の機械等の掃除、検査、修理等の業務
- ・ボイラー、クレーン、2トン以上の大型トラック等の運転または取扱いの業務
- ・深さが5メートル以上の地穴または土砂崩壊のおそれのある場所における業務
- ・高さが5メートル以上で墜落のおそれのある場所における業務
- ・有害物または危険物を取り扱う業務
- ・著しく高温もしくは低音な場所または異常気圧の場所における業務
- ・バー、キャバレー、クラブ等における業務
(4)坑内労働(労働基準法63条)
労働基準法上、年少者を坑内(炭坑やトンネル)で労働させてはいけません。年少者は成年と比較して、体格的にも精神的にも未熟であり、安全や福祉の観点から危険な業務をさせないようにするためです。なお、事務作業(現場での労働時間の管理)であっても、年少者を坑内で働かせることは禁止されています。
(5)帰郷旅費(労働基準法64条)
年少者の労働条件とは異なりますが、満18歳に満たない者が解雇の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は必要な旅費を負担しなければなりません。ただし、満18歳に満たない者がその責に帰すべき事由に基づいて解雇され、使用者がその事由について行政官庁の認定を受けたときは、この限りではありません。従って、使用者の都合で解雇する場合や行政官庁の認定を受けることが出来なかった場合は帰郷旅費が発生しますので、ご注意ください。
3.まとめ
年少者の労働について、意識していないと知らないうちに、労働基準法上禁止されている時間外労働、深夜業、危険有害業務、坑内労働をさせていたということになりかねません。そのため、今後の法改正にも注意しながら、年少者を雇用する際は十分に注意しましょう。
知らない間に自分の個人情報がネットに掲載されている!削除するには?
現代の生活やビジネスにおいて欠かせない存在となったインターネットですが、様々なサービスが登場し、個人の意見や情報の発信が気軽にできるようになった反面、匿名性を利用して特定人物の個人情報をネットの掲示板やSNS上に掲載し拡散させたり、誹謗中傷を行う等の悪質な行為も増えてきています。
以上のような行為により書き込まれた個人情報を削除したい場合はどのような対応をすれば良いのでしょうか。今回から複数回にわたり、書き込みの削除方法や、書き込みをした人物を特定する場合について説明します。
1.放置しておくと個人情報が悪用されてしまう
よくある例としては、ネットの匿名掲示板に、個人の氏名、住所、電話番号が書き込まれ、誹謗中傷されているケースです。当然ながら匿名のため、誰が書き込みをしたのかその時点ではわかりません。個人情報が書き込まれた場合に、対処方法が分からないから仕方がない、といって放置してしまうと、当該住所や電話番号が拡散され、更なる嫌がらせを受ける可能性があります。
実際に、個人情報が書き込まれた後に、イタズラ電話がかかってきたり、ダイレクトメールが大量に送り付けられた、という被害にあった人もいます。
多くのサイトでは、書き込んだ本人やサイトの管理者でなければ当該書き込みを削除することができないため、以下に紹介する方法で書き込みの削除を依頼することになります。
2.該当する書き込みを削除するには
(1)サイト管理者、プロバイダを調べる
書き込みを削除する方法としては、当該書き込みが行われているサイトの管理者やプロバイダへ依頼する方法があります。
まずは書き込みがあるサイト内に、連絡先が記載されているかどうか調べましょう。大抵のサイトには運営会社や会社概要などが記載されているページが存在します。
サイトの中には連絡先等の記載が全くないサイトもありますので、そういった場合には、登録されているドメイン名を検索できるサービスなどを利用し、サイト管理者やプロバイダを特定します。
有名な検索サービスでは、日本レジストリサービス社が提供する「JPRS Whois」があり、.jp/.co.jp/.or.jpなどのドメインが検索できます。
(2)サイトにある問い合わせフォームなどで削除依頼する
サイトの連絡先とともに掲載されていることが多い「問い合わせフォーム」。
「問い合わせフォーム」には、氏名やメールアドレス、問い合わせ内容等を記入する欄があり、削除依頼にかかわらず、サイトについての意見や要望などを送るために設置されています。このフォームから、サイト管理者へ直接連絡ができるようになっているので、氏名とメールアドレス、削除してほしい内容について詳細に記載し、送信します。
削除して欲しい内容については、問題となっている当該URLとその部分を示して削除箇所を厳密に特定し、なぜ削除が必要なのかを詳しく説明しましょう。特定した書き込みが、自分の権利を侵害していること、書き込みされた内容が自分のことであるとわかる理由や事情などをわかりやすく記載します。また、オンラインでの削除請求を行う場合、問題の情報が削除されると同時に、その書き込みが行われた際の通信ログも削除されてしまう可能性があります。
誰が書き込みをしたのか情報を開示してもらう「発信者情報開示請求」という制度の利用を予定している場合には、ウェブ上の問い合わせフォームから削除請求を行う場合でも、併せて発信者情報開示請求を予定していること、通信ログを消去しないでほしいことは記載しましょう。発信者情報開示請求については、次回説明致します。
なお、サイトによっては、削除依頼の手順を公開しているところもありますし、問い合わせフォームでの削除依頼自体が不可のところもあります。
したがって、問い合わせフォームを送信する前に、まずはサイト内をよく探し、削除を依頼するにはどのような手順を踏めばよいかを確認するようにしましょう。
(3)プロバイダ責任制限法に基づいた書式で削除依頼をする
サイトに削除依頼の問い合わせ先がなかったり、フォームでの削除依頼に対応しない場合、プロバイダ責任制限法に基づいた書式で削除依頼をする方法があります。
一般社団法人テレコムサービス協会が作成、発信している、プロバイダ責任制限法関連のガイドラインでは、ネットでの権利侵害に対する削除手続きとして、「送信防止措置」を定めています。具体的な削除手続きは以下のとおりです。
まず、2(1)で説明した方法でサイト管理者やプロバイダを調べたら、同ガイドラインで公開されている「侵害情報の通知書 兼 送信防止措置依頼書」に必要事項を記載し、サイト管理者やプロバイダへ郵送します。ガイドライン内に、提出時に必要な本人確認書類等も記載されていますので併せて準備し、「侵害情報の通知書 兼 送信防止措置依頼書」と一緒に郵送しましょう。
参照①:プロバイダ責任制限法 関連情報WEBサイト
http://www.isplaw.jp/index.html
参照②:テレコムサービス協会 名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン(第4版)
https://www.telesa.or.jp/ftp-content/consortium/provider/pdf/provider_mguideline_20180330.pdf
サイトの管理者にこの依頼書が届けられると、サイトの管理者は、書き込みをした発信者へ削除するかどうか照会を行います。そして、当該発信者から、定められている期間(7日以内)に反論がなければ、サイトの管理者が削除依頼を受けた書き込みを削除します。
(4)裁判で削除仮処分の手続きをする
送信防止措置依頼をしても削除に応じないサイトもあります。任意の削除がなされなかった場合は、裁判所に対し、民事保全法の仮処分を申し立てることもできます。裁判所というと手続きや申し立てに時間がかかるイメージを持っている方もいるかもしれませんが、仮処分であれば1,2カ月で決定が出ます。削除仮処分命令の裁判管轄は、削除を求める相手である債務者の住所地又は債権者の住所地を管轄する裁判所のいずれかとなります。
記事削除の仮処分は、仮処分命令の発令により債権者の請求が実現する「仮の地位を定める仮処分」「満足的仮処分」に当たるため、仮処分命令発令後の実効性の面においても訴訟と遜色はありません。「仮の地位を定める仮処分」に関する仮処分命令は、原則として債権者のみではなく、債務者に反論の機会を与えた上でなければ発令できません(民事保全法第23条④)。そのため記事削除の仮処分は、訴訟と同様に双方が主張立証を戦わせることになります。また、債権者側の主張が認められた場合は、仮処分決定発令のために供託する担保金が必要となります。
そのため、サイト管理人に直接削除を依頼したり、送信防止措置依頼に比べると手順も少し複雑になりますので、裁判所への仮処分手続きについては法律の専門家に依頼することも一つの方法です。
仮処分の申し立てが認められれば、多くのサイト管理者やプロバイダが削除に応じます。
3.まとめ
今回はネット上に掲載された個人情報の削除方法について解説しましたが、削除と併せて「発信者の情報開示請求」も行っておくと良いかと思います。「発信者の情報開示請求」については、次回詳しくご紹介したいと思います。
最近では「削除依頼ページ」を分かりやすく表示したり、「問題のある投稿を報告する」ボタンを設置するサイト、ルール違反についての説明を掲載しているサイトも増えてきました。ネットサービスを利用する前に、サイトに利用規約や問題が発生した場合についての記載があるかをよく確認し、万が一個人情報が掲載されていた等の問題が起こってしまった場合には慌てずに、今回ご紹介した削除申請を行いましょう。
労働基準法とは? ~労働時間の算定方法~
労働基準法では、労働者の労働時間を管理することが使用者側に義務付けられています。また、労働時間は労働者の残業代に関わってくることから、なるべく労働時間の集計ミスを減らしたいと思っている方も多いのではないでしょうか。
労働時間の集計ミスをしてしまうと、翌月の労働時間の計算や給与計算も面倒になり、更なるミスが発生しまった結果、従業員に不満を持たれる可能性があります。こういったことを未然に防ぐため、労働基準法上の労働時間の算定方法を見ていきたいと思います。
1. 事業場外・坑内・2事業所以上の場合
一般的に労働者の労働時間は、労働基準法で定められた1日8時間、週40時間労働であり、そのほとんどを事業場内で過ごすことになります。ただ、営業職などは、直行直帰や出張により、事業場以外のところで勤務することも多くあるかと思います。そのような場合、労働時間はどのように算定するのでしょうか?
事業場での勤務以外だと、事業場外勤務・坑内勤務・2事業所以上勤務というのが考えられますので、以下に具体的に説明します。
・坑内勤務…炭坑やトンネルの掘削現場での勤務のことを言います。
・2事業所以上勤務…2カ所以上での勤務のことを言います。
(1) 事業場外勤務
坑内勤務や2事業所勤務といった事例と比較すると一番多い事例で、出社と退社の時間以外は外で仕事を行う方がいる時、労働時間を算定しにくいかと思います。
そういった場合は、労働基準法上の「事業場外のみなし労働時間制」という制度を利用することによって所定労働時間を働いたものとしてみなすことができます。
所定労働時間分(法定の8時間以内)働いたとみなす場合には労使協定の締結は必要なく、就業規則に記載するだけで構いません。
ただし、みなしの労働時間を仮に10時間に設定するとなると、労使協定の締結が必要となり、またこの場合、2時間は法定外時間労働となるため、毎日2時間分の割増賃金の支払いをしなければならなくなりません。
みなし労働時間を決める際には、ご注意下さい。更に、みなし労働時間の場合であっても、深夜労働や法定休日労働に関しては割増賃金が発生するため、注意が必要です。
(2) 坑内勤務
通常の労働であれば休憩時間は労働時間とみなされません。しかし、労働基準法上、坑内労働は坑内に入った時刻から出た時刻まで休憩時間を含めて労働時間とみなします。
例えば、トンネル内での掘削(坑内労働)の場合には、労働者が、坑内へ入坑し出抗するには、安全確認等の時間や、坑口と作業場の距離があるため、移動に時間がかかったりすることが考えられます。
そのため、休憩時間に安全確認の時間や移動時間をかけて外へ出るよりも、そのまま坑内にとどまる方が合理的に作業を進められます。このような事情を勘案して、坑内労働については、休憩時間も労働時間に含めることとされています。
(3) 2事業所以上
例えば、A支店とB支店(AとBは同じ会社)があるとします。その両方(AとB)で働いている労働時間は、労働基準法上通算することになっています。また、A社とB社(別会社)で従業員が兼業する場合も、労働時間は通算する必要があるため、残業代が不払いにならないように注意しなければなりません。
そこで、就業規則に兼業時には事前に申し出るように記載しておくことによって、知らない間に未払い残業代が発生してしまうのを防ぐことが出来ます。なお、兼業している会社の担当者同士で連絡を取り合い情報共有することが大切ですが、一般的には後で働くことになった事業所にて残業代を支払うのが適切ですので、そのあたりも踏まえて連絡してみましょう。
もし、兼業を認めない場合は兼業の禁止を就業規則や雇用契約書に事前に明記しておき、面接時に本人に了承を得て採用することがトラブルを防止する一つの方法です。
2. 専門業務型裁量労働制
この制度は、研究・開発職や企画職といった、労働の質や成果によって報酬が決定される専門的業務(厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務19種 ※1が対象)において、実際の労働時間によらず、一定の労働時間だけ働いたとみなされる制度です。そのため、業務の性質上その実施方法(業務遂行の手段や方法、時間配分等)を労働者の裁量に委ねる必要があります。
この制度を使用する場合は、労使間で書面による協定を締結し、労働基準監督署へ届け出ることが必要です。会社に過半数を超える労働組合がない場合は、過半数代表者と協定を結ぶようにしましょう。
また、当該制度を導入した場合であっても、みなし労働時間が法定労働時間を超える場合、深夜労働や法定休日労働の場合は、割増賃金が発生することは、「事業場外のみなし労働時間制」と同様ですので、ご注意ください。
3.まとめ
今回は、労働時間の算定方法についてまとめました。外回りが多い職種(営業)や特殊(研究・開発職や企画職)な職種を持つ会社では特に注意が必要です。
もし、人員を増やす場合や新規募集する職種の場合、今回説明した内容を踏まえて雇用契約書や就業規則の見直し、面接時の確認事項など、労務面での再考が必要ですので、そこも注意してみてください。
※1 業務内容は省略しています。
(1) 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
(2) 情報処理システムの分析又は設計の業務
(3) 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送番組の制作のための取材もしくは編集の業務
(4) 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
(5) 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
(6) コピーライターの業務
(7) システムコンサルタントの業務
(8) インテリアコーディネーターの業務
(9) ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
(10) 証券アナリストの業務
(11) 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
(12) 学校教育法に規定する大学における教授研究の業務
(13) 公認会計士の業務
(14) 弁護士の業務
(15) 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
(16) 不動産鑑定士の業務
(17) 弁理士の業務
【離婚問題】離婚と子供の問題―子供の戸籍と氏―
子供がいる夫婦が離婚したとき、離婚後の子供の戸籍、氏はどうなるのでしょうか?
今回は離婚後の子供の戸籍と氏、そして親権者が再婚した場合の子供の戸籍についてお話したいと思います。
1.子供の戸籍と氏について
夫婦が離婚をして、両親のどちらが子供の親権者になっても、子供の戸籍は変わりません。
例として、父を筆頭者とする戸籍に母、子供がいるケースで考えてみましょう。離婚に伴い、母が父を筆頭者とする戸籍から抜けて、新しい戸籍を作り旧氏に戻ったとします。この場合、子供は自動的に親権者である母の新しい戸籍に転籍するのでしょうか?
この場合、子供は、離婚後も夫を筆頭者とする戸籍に残り、子供の氏も妻の旧氏に変わることはありません。ただ、親権者は母となるため、子供の戸籍の記載事項に「父母が協議離婚をして親権者を母とする」という旨が記載されるだけなのです。
2.子供の戸籍と氏を変更する手続きについて
では、どの様にすれば子供を親権者の戸籍に入籍させ、氏を親権者と同一に出来るのでしょうか?
子供を親権者の戸籍に入籍させるためには、①子の氏の変更許可申立てを行い、子の氏を親権者の氏と同一にしたうえで、②親権者の戸籍への入籍手続きが必要となります。
なぜ、①子の氏の変更許可申立てを先に行う必要があるのでしょうか。それは、子供と親の氏が異なる場合、子供は親の戸籍に入ることができないからです。また、両親が離婚しても、子供の氏は当然には変更されません。離婚によって子供の親権者が旧姓に戻っても、子供の氏が変わるわけではありません。
そのため、母親が親権者であり旧氏に戻った場合には、親権者である母親と子供の氏が異なるということになります。また、親権者が婚氏続称の届け出をした場合であっても、「婚姻中の氏」と「続称の手続をとった氏」は、法律上、別の氏とされます。
ですので、呼び方は同じであってもその親と子の氏は異なることになります。そのため、親と子の氏を同一にする為には、「子の氏の変更許可」の申立てを行う必要があるのです。
以下では、各手続を具体的に見ていくことにしましょう。
《子の氏の変更許可申立て》
子供の氏を変更するには、子供の住所地を管轄する家庭裁判所に「子の氏の変更許可」を申し立てます。なお、申立人は子供自身になりますが、子供が満15歳未満の場合は法定代理人(通常は親権者)が申し立てを行います。申し立てを認める審判がなされれば、子の氏が変更されることになります。
《入籍届の提出》
次に子供の戸籍を親権者の戸籍へ入籍する手続きへと移行します。手続きの方法は、子の氏の変更許可の審判書の謄本等を添えて市区町村役場の戸籍係へ入籍届を提出します。ここでも、子供が満15歳以上であれば子供自身で手続きを行うことができますが、満15歳未満であれば、法定代理人(通常は親権者)が行います。
◎親権者でない場合は?
前述した通り、子供が満15歳未満の場合は、子の氏の変更許可の申立ては親権者(法定代理人)でなければ行うことができません。つまり、離婚時に親権者と監護者を分ける方法を選択した場合、看護者が子供の氏を自身と同一にしたいと希望しても、親権者ではないため、子の氏の変更許可の申立ては出来ないのです。
監護者と子供の氏を同一にするためには、親権者から子の氏の変更許可を申立てるか、親権者変更の調停・審判を申し立て、監護者を親権者とするしか方法はありません。
3.離婚後に生まれた子供の戸籍はどうなるの?
では、離婚後に生まれた子供の戸籍はどうなるのでしょうか。離婚した日から300日以内に生まれた子供は、民法772条2項に基づき婚姻中に懐胎した夫の子供であると推定されます。つまり、離婚後300日以内に生まれた子供は、実際には父親が違っていても前夫の子供と推定され、出生届を提出すると、嫡出子として前夫の戸籍に入籍することになります。
例外として、妊娠時期が離婚後である場合には、その旨を証明する「懐胎時期に関する証明書」を医師に発行してもらい、その証明書を添付して出生届を出す方法があります。
この場合には、子供の出生日が離婚後300日以内であっても、元夫以外を父とする出生届を受理してもらえますので、子供が元夫の戸籍に入ることもありません。
では、子供が前夫の戸籍に入籍した場合に、子供の戸籍を前夫の戸籍から外すにはどのような手続きを行う必要があるのでしょうか。以下に説明致します。
《嫡出否認の手続き》
生まれてくる子供、あるいは生まれた子供が前夫との子供ではない場合、前夫が、子供又は親権を行う母の住所地の家庭裁判所家庭裁判所に「嫡出否認」の調停の申立てることになります。「嫡出否認」は調停前置主義が採られているため、まずは嫡出否認調停を申し立てることになります。また、申立ては母側から行うことはできず、戸籍上の父親である前夫が行う必要があるため、注意が必要です。
そして、調停で当事者同士が「前夫の子供ではない」と合意することができ、家庭裁判所が調査を行い、その合意が正当であると認めれば、合意に従った審判がなされます。その結果、前夫と子供との父子関係は否定されることになります。
この申立ては子供が生まれたことを知った時から1年以内にしなければなりません。また、嫡出否認の調停を申し立て、一度前夫が自分の子供であると認められると、再度「嫡出否認」の申立てをすることはできません。
《親子関係不存在確認手続きについて》
離婚後300日以内に生まれた子供であっても、夫が長期出張中であるなど、妻が夫の子供を妊娠する可能性がないことが客観的に明らかである場合には、相手方の住所地の家庭裁判所(例えば、母が前夫を相手方に申立てる場合は、前夫の住所地の家庭裁判所)に「親子関係不存在確認」の調停の申立てをすることができます。
この申立ては父母、実の父のみならず、子供自身も申立てをすることができ、摘出否認の申立てと違い、申立てる時期に制限はありません。
この場合も、当事者双方の間で、親子関係の不存在の合意ができ、家庭裁判所が必要な事実の調査等を行った上で、その合意が正当であると認めれば、合意に従った審判がされます。
以上の手続きを行い、子供の戸籍を前夫の戸籍から外した後は、2.で述べたように、子の氏の変更許可申立てを経て母親の戸籍への入籍手続きを行うことになります。なお、前夫と子供の親子関係が否定されたとしても、それだけでは父親が誰であるかが確定していません。法律上も実の父の子供にするためには、実の父に認知してもらう必要がありますので、注意が必要です。
また、離婚した日から300日を過ぎて生まれた子供は「非嫡出子」として母親の戸籍に入ることになります。もし、子供が前夫の子供である場合は、前夫に対し認知請求をするという流れになります。
4.再婚した場合の子供の戸籍はどうなるの?
前夫と離婚後、子供を自分の戸籍に入れている母親が再婚した場合、母親と再婚相手は新しい戸籍を作ることになります。しかし、子供は母親と再婚相手の新しい戸籍に入るのではなく、再婚前の母親の戸籍に入っているままになります。そして、再婚により母親の氏が変わっても子供の氏は変わりません。
子供を母親と同じ戸籍に入れるためには、再婚相手と子供の養子縁組をする必要があります。養子縁組をすると、子供は母親と再婚相手の戸籍に入り、同じ氏になります。
そして、子供は再婚相手の嫡出子と同じ身分を得ることになるので、養父の財産も相続できるようになります。また、子供の戸籍や氏が変わっても実父との親子関係は継続するので、実父の財産も相続することができます。
5.おわりに
以上のように、子供の戸籍と氏についての手続きは多岐に及ぶため、状況に応じた対応が必要になります。裁判所での手続きなど不安に感じる方は一度弁護士に相談することをお勧めします。
未払い残業代の企業リスク
近年では、残業を前提とする働き方が変わり、可能な限り不要な残業を削減し定時で業務を終了させる働き方が一般的になっています。
一方で、未払残業代、長時間労働に付随する様々な問題も発生しています。今回は会社にとって未払残業代がどの様なリスクを及ぼすのか説明します。
1.法定時間外労働と割増賃金
労働基準法第32条では、法定労働時間を原則1日8時間、1週間40日と定めています。この法定労働時間を超えた労働を、「法定時間外労働」と言います。法定時間外労働については、労働基準法第37条により、使用者に割増賃金の支払義務が生じます(当然ながら、労働者に法定外時間外労働をさせる場合には、36協定の締結が必要となります。)。
これに対して、所定労働時間(企業で定められている始業時間から終業時間までの時間から、休憩時間を差し引いた時間)を超えた労働ではあるが、法定労働時間を超えない場合(法定内時間外労働と言います。)は、労働基準法上、使用者に割増賃金の支払義務は生じません。
この場合、労働基準法上、使用者は労働者に対して通常の賃金を支払えばよく、割増賃金を支払うか否かは労働契約、又は就業規則の規定によります。
では、実際に割増賃金を支払う場合、どのように計算すればいいのでしょうか。割増賃金は①時間外労働、②深夜労働、③休日労働に対して支払われますが、各割増率は次の通りとなります。
① 時間外労働
法定労働時間を超える労働に対して通常の賃金の25%以上
(大企業の場合、1か月の時間外労働時間が60時間を超える場合は、通常の賃金の50%以上)
② 深夜労働
午後10時から午前5時までの労働に対して通常の賃金の25%以上
③ 休日労働
法定休日の労働に対して通常の賃金の35%以上
なお、上記が重複する場合には割増率を合算して支払うことになります。例えば、時間外労働と深夜労働が重複した場合の割増率は50%となり、休日労働と深夜労働が重複した場合の割増率は60%となります。
また、法定外休日(所定休日とも言います。)での労働に対しては、その日の勤務により1週間の労働時間が法定労働時間を上回る場合に、時間外労働分につき割増賃金(通常の賃金の25%以上)を支払う必要があります。
2.残業が引き起こすリスク
残業によって発生する主なリスクとして、企業にとって支払賃金が増加するコスト面でのリスク、労働者にとっては健康面でのリスクが考えられます。
企業にとって割増賃金の支払いは人件費の増大に繋がり、予定以上のコストが発生するため、避けたいものです。特に必要性のある残業であれば仕方がないですが、従業員の中には不必要な残業を重ねる労働者が居ることも事実です。
企業としては、その様な不必要な残業を削減するために、社員の意識改革と同時に、業務フローを構築することにより効率的な労働が実現するような体制作りが必要です。また、労働時間を正確に把握することも重要となるため、勤怠管理システムの導入なども1つの対策となります。
更に、残業の場合の事前申請制を導入する等して不必要な残業を行わせない体制作りも重要になります。
また、長時間労働は労働者の健康面にも影響を及ぼすことがあります。労働者に長時間の時間外労働が続いて過重労働の状態になると、心身ともに悪影響を及ぼすことがあります。
なお、厚生労働省では、労働者の心身に生じた疾患の原因が過重労働であるとして、当該労働者に対する労災を認定する基準として、「発症前の1ヵ月間におおむね100時間又は発症前の2ヵ月~6ヵ月間にわたって1ヵ月あたり80時間を超える時間外労働が認められる場合には業務と発症の関連性が強い」という基準を設けています。
このように、時間外労働の時間数は、労災認定の上で重要な目安になっていることがわかります。
労災が認定された場合、企業は労働者から安全配慮義務違反に対する損害賠償請求され、代表者は会社法429条第1項(役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う)に基づき、役員等の第三者に対する損害賠償責任を問われるリスクが生じます。
ですので、企業としては、従業員が過重労働に陥らないように徹底した労務管理を行いましょう。
3.未払残業代を請求されたら
では、実際に労働者から未払残業代を請求された場合、企業にはどのようなリスクが生じるのでしょうか。労働者から未払残業代を請求された場合、残業時間の認定が大きな争点となることが多々あります。
一般的には、タイムカードや出勤簿、パソコンのログ等の客観的な資料から出勤時間と退勤時間を推定し、残業時間を認定します。仮に、労働者が必要な仕事を終えた後に私的な事を行いながら残っていた場合も、訴訟を起こされた場合、裁判所ではタイムカード等の資料を元に判断を行われることが多いため、企業は本来であれば不必要な未払残業代を支払うことになってしまいます。
未払残業代の請求が裁判所を通して争いになった場合のリスクとして、未払残業代に付加金を加算して支払いを命じられることがあります。付加金の金額についてはケースによって異なりますが、キャッシュに余裕がない中小企業では経営を圧迫する大きなリスクになり得ます。
また、未払残業代請求の消滅時効は2年間と定められていますが、企業側が悪質な残業隠しを画策したり、労働基準監督から是正勧告をうけても全く是正しないなどの悪質なケースでは、企業の不法行為責任が認められる場合があります。
不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は3年になるため、3年分の未払残業代とそれに加えた付加金の支払いを命じられる可能性もあります。
4.まとめ
以上の事から、未払残業代を放っていると経営を圧迫するリスクや訴訟に発展するリスクがあることを理解して頂けたと思います。企業は労働者の労働時間を正確に管理し、不要な残業を行わないように、残業を許可制にするなどの対策を取り工夫をしましょう。
労務管理がきちんとできていない企業は未払残業代のリスクが高まるため、確実に労務管理を行う事が重要です。
労働基準法とは? ~年次有給休暇~
労働基準法では、使用者は、雇入れから6箇月継続勤務し、その期間の全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、10労働日の年次有給休暇を与えなければなりません。
また、下記の表のように、その後1年経過するごとに、1年間継続勤務し、その期間の出勤率が8割以上であれば有給休暇を付与する必要があります。今回は全労働日とは何か、全労働日に含まれる日と含まれない日にはどういった日があるのか、そもそも年次有給休暇にはどういった付与要件や取得方法があるのか見ていきたいと思います。
継続勤務年数 | 6箇月 | 1年6箇月 | 2年6箇月 | 3年6箇月 | 4年6箇月 | 5年6箇月 | 6年6箇月 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
年次有給休暇付与日数 | 10 | 11 | 12 | 14 | 16 | 18 | 20 |
1.年次有給休暇の付与要件である全労働日について
まず、全労働日とは総暦日数(365日又は366日)から就業規則その他で定められた所定休日等を除いた日のことを指します。所定休日等とは具体的に所定休日、不可抗力による休業日、使用者側に起因する経営・管理上の障害による休業日、正当な同盟罷業(ストライキ)その他正当な争議行為(事業所閉鎖・サボタージュなど)により労務の提供が全くなされなかった日、1箇月60時間超の時間外労働に係る上乗せ部分(25%に25%を上乗せ)の割増賃金の支払いに代えて、有給の休暇(「代替休暇」と言います。)を取得して、終日出勤しなかった日のことを指します。
また、出勤率を算出する際に出勤日数に含まれるものは、業務上の傷病により療養のために休業した期間、育児・介護休業法の規定による育児休業又は介護休業をした期間、産前産後休業した期間、年次有給休暇を取得した日です。誤って出勤日数から除かないように注意しましょう。
2.年次有給休暇
(1) 比例付与の要件
アルバイトやパートタイマーの場合は、年次有給休暇が付与されないと思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか?実はそのようなことはありません。労働基準法第39条3項に比例付与というものがあり、所定労働日数及び所定労働時間が通常の労働者と比較して少ない場合は、その所定労働日数に応じて年次有給休暇の付与を行うこととしています。
年次有給休暇の比例付与の対象労働者は、週の所定労働時間が30時間未満かつ、週の所定労働日数が4日以下または年間所定労働日数が216日以下の人と定められています。
比例付与の日数の算出式は以下の通りです。
例として、勤続年数が6ヶ月、1日の労働時間が5時間で、週の所定労働日数が3日の場合を挙げます。
通常の労働者の6箇月間継続勤務の有給休暇付与日数が10日の時は以下の計算式となります。
(1日未満の端数は四捨五入ではなく切り捨てなのでご注意ください。また、通常の労働者の1日の所定労働時間8時間×5日が付与されるのではなく、上記の例の場合、1日の労働時間である5時間×5日が付与されることになります。)
もし、アルバイトやパートタイマーであっても、比例付与の要件に当てはまらない場合(週の所定労働時間が30時間以上かつ週の所定労働日数が5日以上または年間所定労働日数が217日以上)は、通常の労働者と同じ日数の年次有給休暇が付与されることになります。
(2)時間単位の取得
近年では働き方改革により、時間単位で年次有給休暇を取得するケースが増えています。ただし年次有給休暇は、必ずしも時間単位で与えないといけないということではなく、労働組合や労働者の過半数を代表する従業員と書面による協定を結ぶことによって、時間単位での年次有給休暇を与えることが出来るようになります。
なお、時間単位の年次有給休暇の取得制度を整えるにあたって、以下の内容を労使協定に定めなければなりません。
② 時間単位年休の日数(時間単位で取得可能なのは、前年度繰越日数を含めて1年間5日分以内である。)
③ 1時間以外の時間を単位とする場合(2時間や4時間など)は、その時間数
④ 時間単位年休1日の時間数(所定労働時間が7時間30分の場合は、その30分は切り上げ、8時間分の時間休となる。)
(3) 希望時季での取得
使用者は労働者が希望する時季(日時)に年次有給休暇を与えなければならないと決められています。しかし、タイミングによっては事業の運営に支障をきたす場合も考えられます。その際は、使用者による時季変更により、労働者が希望する時季とは異なる時季に与えても良いとされています。
(4) 計画的付与
労使協定を結び年次有給休暇の時季の定めをした場合は、有給休暇の5日を超える部分については、その定めにより有給休暇を与えることが出来ます。例えば20日の有休を持っていたら、15日は計画的付与ができるということです。
注意点としては、この労使協定を結んだ場合は、労働者は時季指定権(従業員が年次有給休暇を取得する時季を決められる権利)の行使ができず、使用者は時季変更権(事業の正常な運営を妨げる場合において、使用者が従業員の有給取得の時季を変更できる権利)を行使できなくなります。
そこで、労使どちらかに不都合が生じ、年休の計画的付与の時季を変更する必要が生じたときのために、労使協定内に、「双方の確認のもと問題がなければ変更可能とする。」といった一文を加えておくことをお勧めいたします。
3.まとめ
一口に年次有給休暇といっても取得方法や付与要件には様々な種類があります。労働者側にとっては正当な権利となりますので、アルバイトやパートの方含め、自身の年次有給休暇の状況がどうなっているのか、また、使用者側においては、自社の労働者への年次有給休暇付与が法律に違反していないか、今一度確認してみてはいかがでしょうか。