架空請求の被害に遭わないために
「架空請求」という言葉を皆さんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
架空請求は近年増加し続けている犯罪の手口です。
今日はそんな架空請求についてお話したいと思います。
1.架空請求とは
架空請求とは、実際には利用した覚えのないサービスの利用料金や登録料を、あたかもどこかで契約したことがあるかのように消費者に請求し、金銭をだまし取ろうとする詐欺の手口のことです。
架空請求では、メールやはがき等で、無差別に金銭の請求を行います。そのため、誰でも架空請求のターゲットになり得ます。そんな架空請求の被害に遭わないためにも、実際に架空請求ではどのような手口が使われているのかを見ていきましょう。
2.具体的な手口
架空請求は、インターネット上のサービスの利用について、本当は登録の事実がないにも関わらず、「先月分のサイト利用料金が未納です」や「無料期間が経過したが退会手続きが取られていない」などともっともらしい理由をつけて、はがきや郵便、メールなどで料金の請求を行ってきます。
それだけではなく、「訴訟手続きを開始する」や「差押えの強制執行手続きとる」などと消費者の不安を煽る内容を記載した上で、「今日中に支払えば間に合う」「連絡がない場合は裁判になる」などと謳い、すぐに料金を支払うことや連絡を要求してきます。
中には、「民事訴訟 管理センター」などと、行政機関を装い請求してくる場合もあるので、要求に応じてしまう消費者も少なくないようです。
しかし、ここで要求に応じてしまうと相手の思うつぼです。
なぜなら、一度でも金銭を支払ったり、相手に連絡をしてしまうと、電話番号や氏名等の個人情報がばれてしまい、相手から直接電話がかかってきたり、その後も延滞料などと名目をつけて、金銭を要求されるようになってしまうからです。
一度でも金銭を支払ってしまうと二次被害、三次被害に及んでしまうということを覚えておきましょう。
次に、架空請求かどうかの見分け方についてご説明したいと思います。
3.架空請求の見分け方
架空請求は、インターネット上のサービス利用に関しての金銭の請求がほとんどです。自分の身に覚えのないサービス利用に関して請求が来た場合、「あの時にあのサイトを見て、うっかり登録してしまっていたのかな」なんて思い、素直に支払いに応じてしまってはいけません。
インターネットのサービスの登録では、消費者が、「うっかり、いつの間にか登録してしまっていた」という事態に陥らないように、法律上事業者に一定の行為が求められています。
ですので、身に覚えのない請求が来た場合は、架空請求と考えてよいでしょう。では、具体的に事業者には、どのような行為が求められているのでしょうか。
まず、インターネット上のウェブサイトにおけるサービスの提供は、特定商取引法第11条に定められている「通信販売による役務の提供」に当たります。インターネットで契約を結ぶ場合(有料サービスの利用など)、消費者はサービス提供者と会話をしたり、品物を確認したりすることが出来ません。
そのため、消費者の意思に反した売買契約や、サービス提供の申込みが成立してしまうことになりかねません。
このような、消費者が不利益を被ることを防ぐために、事業者がインターネット上で契約申込を受ける場合には、消費者がコンピューター操作を行う際に申込みの内容を簡単に確認でき、訂正できるようにしておくことが求められています(特定商取引法第14条2号、同施行規則第16条2号)。
会員登録を行う際に、以下のような画面が出てくるのを、皆さんも一度は目にしたことがあるかもしれません。これは特定商取引法に基づく登録フォームの形式になっているのです。
このような手順を踏む登録なしに、いきなり金銭の請求のみが来た場合は架空請求を疑いましょう。
次に、架空請求のメールやはがきが届いたら、どのように対処したら良いのかを見ていきましょう。
4.架空請求がきたときの対処法
架空請求と思われるメールやはがきが自分のもとに届いた場合の対処法は、極めてシンプルです。
それは無視することです。具体的な手口でも述べた通り、メールに返信したり、電話をしたりしてしまった場合は、その後もしつこく連絡が来る恐れがあるため、何もしないのが一番重要です。
それでも不安な場合は、消費者向けの相談窓口(例えば、消費者生活センター等)などに相談してみるのがいいでしょう。
ただし、上記はあくまでも基本的なケースであって、中には無視してはいけない架空請求もあります。次はそちらを見ていきましょう。
5.無視すると危険な架空請求
架空請求の手口の中には、裁判所からの支払督促や少額訴訟の手続きを悪用して行うものもあります。この2つの手口は実際に裁判所で手続きを行い、それを犯罪利用してくるというものです。
支払督促手続とは、債権者からの申立てに基づいて、原則として、債務者の住所地の管轄の簡易裁判所の裁判所書記官が、債務者に対して金銭等の支払を命じる制度です。債務者が支払督促を受け取ってから2週間以内に異議の申立てをしなければ、裁判所は、債権者の申立てにより、支払督促に仮執行宣言を付さなければならず、債権者はこれに基づいて強制執行の申立てをすることができます。
少額訴訟とは、60万円以下の金銭の支払い請求を争う訴訟であり、原則として1回の期日で審理を完了して判決を言い渡します。
どちらも比較的簡易な手続きで進めることができるため、架空請求に、より信ぴょう性を持たせるために悪用する手口が見受けられます。
この場合、金銭の請求自体は架空であっても、裁判所から来た通知は本物なので、通知が手元に届いた場合は応じる必要があります。この時なにも対応しなければ、相手方(架空請求をしてきた業者)の請求を認めたこととなり、法律上支払いの義務が発生してしまいます。
そうならないためにも、裁判所から通知があった場合は、裁判所に出頭するか、答弁書を提出し、請求が架空請求であることを主張する必要があります。
この場合は裁判所とのやり取りが必要になりますので、専門家に相談するのが良いでしょう。
6.まとめ
架空請求の手口は近年ますます巧妙化しています。判断を誤って金銭を振り込んだり、必要な手続きを無視したりしてしまうと、思わぬ被害を被ってしまう可能性があります。
そうならないためにも、架空請求か疑わしい場合は、すぐに警察に連絡するか、もしくは専門家へ相談するようにしましょう。
【不動産】近隣トラブルについて
「近隣トラブル」というと、生活音や騒音、ペットの飼育マナー、ごみの出し方、駐車場のマナーなど多種多様なケースが想定されます。
今回は、分譲マンションにおけるトラブルについて見ていきましょう。
1 マンションの階上からの騒音被害
我慢のできる限度を超えた騒音で、私たちは食欲不振や不眠に悩まされるようになってしまいました。こういった場合、真上の部屋の入居者に対して、慰謝料や立ち退きの請求を行うことはできるのでしょうか。
マンション内の騒音に関する紛争は、子供が走り回る音の他に、楽器の音、深夜の大音量でのテレビの音等、様々な発生源が想定されますが、どのケースであっても、慰謝料等を請求するにあたっては、当該騒音が不法行為上違法と評価される必要があります。
そして、違法であるかを判断するに際しては、実際に発生している騒音が被害を受けている住民の受忍限度を超えるものであるのか、という点が重要となります。
分譲マンション内における階上の部屋の子供による飛び跳ねや走り回りによる騒音が階下の住民の受忍限度を超えており、不法行為を構成するとして、階下の居住者である原告2名それぞれからの、慰謝料及び騒音測定にかかった費用、治療費・薬代を含む全額の損害賠償請求を認めた。
上記裁判例では、まず、マンションの外壁や床の構造、防音緩衝材の遮音性、騒音が発生した時間帯、騒音レベル、音の種類等から、被告の子供が一定の時間帯及び頻度で室内において飛び跳ねるなどして騒音を発生させていた事実を認定しました。
そして、騒音が発生していた時間帯が、通常静粛が求められる時間帯(午後9時から翌日午前7時)、及び日中(午前7時から同日午後9時)の間でそれぞれ一般的に「うるさい」と感じる騒音レベルであったことを騒音測定結果から指摘し、このような騒音を階下の居室に到達させていたことは、原告らの受忍限度を超えるものとしました。
その上で、損害として、騒音により原告らが受けた精神的苦痛に対する慰謝料、騒音が原因で体調を崩したことによる通院の治療費・薬代の他に、専門家による客観的な騒音の測定が本件について立証のために必要不可欠であることから、騒音の測定にかかった費用も損害に含めて認めています。
2 マンションの共用部分に私物が置かれている
こういった場合、持ち主に対してどのような請求ができるのでしょうか。
玄関先の通路部分に自転車等の障害物が置かれていると、避難経路としてのみならず、隣接していない他のマンションの居住者(特に高齢者など)のスムーズな通行を妨げ、危険であるために、撤去の必要性が認められると考えられます。
また、今回の事例では「共用部分」に自転車が停められていますが、共用部分はマンションの共有者がそれぞれ使用できるとしても、その通常の用法(今回であれば「通路」としての用法)に従う必要があり、それ以外の用途で使用することはできません(区分所有法13条)。よって、住人が自分の玄関近くの共用部分を自転車置き場として使用することは認められません。
一方で、仮に自転車が停められている部分が、玄関先のポーチ等といった専用使用権が認められる場所であった場合はどうなるのでしょうか。
この場合であっても、マンションの入居者の「共同の利益」に反する行為は禁じられています。そして、自転車のようにある程度の重量がある上に、倒れると危険であること等を考慮すると、勝手な駐輪については一般的には認められず、共同の利益違反であると考えられます。したがって、管理組合や管理会社に相談した上で撤去を依頼するのが良いでしょう。
3 隣室のペットの鳴き声や臭気に悩まされています
マンションでは、ペットの飼育が規約によって禁止されている場合とそうでない場合とが想定されます。
規約で禁止されているケースの裁判例では、規約の他に、そのマンションがそもそもペットの飼育を前提とした構造なのか(排気口などの設置等)等を考慮した上で飼育を認めない判断をしたものもあります。規約で特に禁じられていなかった場合であっても、管理組合などに相談し、改善するよう呼びかける等の手段をとることが考えられます。
4 まとめ
これまでに上げた通り、マンションのトラブルは多種多様なものがあります。軽微なものであれば住民同士の話し合いで解決することもあるかもしれません。しかしながら、双方の「居住している場所」で発生するトラブルである以上、その後の関係性が悪化してしまう可能性や、誤ったアプローチによりトラブルが拡大してしまう可能性も十分に孕んでいます。
もしも自分がトラブルに巻き込まれてしまったら、自分だけで解決しようとせず、管理会社や管理組合、弁護士に相談してより良い解決方法を探すことをお勧めします。
働き方改革について
最近よく耳にするようになった「働き方改革」という言葉ですが、これは一体どのような取り組みのことなのでしょうか?
また、働き方改革によって、これからの私たちの働き方はどのように変わっていくのでしょうか?
1. 働き方改革とは
現在の日本では、長時間労働による過労死や、少子化による労働力・生産性の低下などが社会問題になっています。
皆さんも、ニュースなどで過労による自殺事件が取り上げられているのをご覧になったことがあるのではないでしょうか?このような痛ましい事件が起きてしまうのは、古くから、“長く働くことが偉い”という風潮が根強く存在しているためと言われています。
この記事をご覧になっている方の中にも、有給休暇を取りたいけれど、上司や同僚の目を考えると言い出し辛いという方や、1人で沢山の業務を抱え込んでいて残業をせざるを得ないという方もいらっしゃるかもしれません。
これらの問題を解決するために、政府が推進している取り組みが「働き方改革」です。政府は、働き方改革によって、労働者それぞれの事情に応じた多様で柔軟な働き方を選択できる社会の実現を目指しています。
具体的には、労働基準法などの法律を改正することによって、長時間労働の是正や、非正規雇用の待遇差解消などを図っています。
2. 働き方改革により施行される制度
それでは、働き方改革により施行される制度を1つずつ見ていきたいと思います。
① 時間外労働の上限規制(大企業:2019年4月~/中小企業:2020年4月~)
これまで、時間外労働の限度については会社・労働者間の合意(36協定)に任せられていました。すなわち、36協定で定める時間外労働については、厚生労働大臣の告示によって、上限の基準が定められていました。
しかし、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合には、特別条項付きの36協定を締結すれば、 限度時間を超える時間まで時間外労働を行わせることが可能でした。つまり、実質的に無制限に残業が出来てしまっていたということです。
そこで、時間外労働について、以下のように改正がなされました。
・時間外労働は原則として1か月に45時間、1年に360時間までという上限が条文に明記される
・繁忙期などでどうしても時間外労働をする必要がある場合でも、年720時間以内、月100時間未満かつ複数月平均80時間(休日労働を含む)という上限が設けられる
・月45時間を超えて時間外労働をしていいのは年間6か月までと定められる
②年5日の有給休暇の取得義務化(2019年4月~)
日本は有給休暇の取得率が低いため、取得を促進することが課題とされています。皆さんの中にも、「有給休暇を取りたいと言いづらい…」と思われたことがある方がいらっしゃるのではないでしょうか?
このような現状を改善するため、使用者は、10日以上の有給休暇が付与される労働者に対して、「労働者自らの請求・取得」、「計画年休」及び2019年4月から新設される「使用者による時季指定」のいずれかの方法で労働者に年5日以上の年次有給休暇を取得させなければならないとされました。
③高度プロフェッショナル制度の創設(2019年4月~)
高度プロフェッショナル制度とは、年収1,075万円以上(施行時の水準)で、コンサルタント業務など高度な専門性を必要とする職種について、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しない制度のことです。
これだけ聞くと、「そんな制度を作って大丈夫なの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、この制度は、あくまで本人の同意がある場合のみ適用されます。また、同制度の導入には、労使委員会で決議し、5分の4以上の賛成を得る必要があります。さらに、使用者は、労働者が事業内外で労働した時間の合計を把握し、健康診断の実施など健康確保措置を講ずる義務があります。
④フレックスタイムの清算期間の延長(2019年4月~)
フレックスタイムとは、一定の期間(当該期間のことを、清算期間といいます。)で週平均40時間以内となる労働時間を定め、その間で日々の始業・終業時間、労働時間を労働者自らが決められる制度です。この制度を導入することで、繁忙期に超過した労働時間を閑散期に精算することができます。
今回の法改正で、清算期間が1か月から最長3か月に変更されました。これまでは、1か月以内の清算期間における実労働時間が、あらかじめ定めた総労働時間を超過した場合には、超過した時間について割増賃金を支払う必要がありました。
一方で実労働時間が総労働時間に達しない場合には、①欠勤扱いとなり賃金が控除されるか、 ②仕事を早く終わらせることができる場合でも、欠勤扱いとならないようにするため総 労働時間に達するまでは労働しなければならない、といった状況にありました。
清算期間を延長することによって、2か月、3か月といった期間の総労働時間の範囲内で、労働者の都合に応じた労働時間の調整が可能となったのです。
⑤労働時間の状況の把握の義務化(2019年4月~)
長時間労働をなくすためには、使用者において、労働者の労働時間を適正に把握し、管理を行うことが重要になってきます。しかし、これまでは、管理監督者やみなし労働時間制の労働者は、使用者による労働時間管理の対象から外れていました。
そこで、今回の法改正によって、会社が全ての労働者について労働時間を把握することが義務化されました(ただし、高度プロフェッショナル制度の対象者は除かれます。)。この把握は、タイムカードやICカードなど客観的な記録によることが原則です。そして、一定の労働時間を超えた労働者については、医師による面接指導を実施しなければなりません。
⑥産業医・産業保健機能の強化(2019年4月~)
従業員50人以上の事業所では産業医、従業員1,000人以上の事業所では専業産業医の選任が必要です。
今回の改正で、選任された産業医は、会社に対し労働者の健康管理について必要な勧告が可能になりました。また、使用者は、労働時間その他の必要な情報を産業医に提供することが義務付けられました。
⑦勤務間インターバルの導入推進(2019年4月~)
勤務間インターバルとは、勤務終了後、一定時間以上の休息時間を設ける制度のことです。日本ではあまり普及していませんが、ドイツやフランスなどのEU主要国では広く浸透しています。
今回の改正で、勤務間インターバルを導入することが会社の努力義務として定められました。あくまで努力義務なので強制ではありませんが、導入によって過労死ラインを超える時間外労働の抑止が見込まれます。
⑧同一労働同一賃金(大企業:2020年4月~/中小企業:2021年4月~)
同一労働同一賃金とは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差をなくすという考え方のことです。ニュースでもよく報じられていたので、聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか?
今回の改正で、同じ働き方であれば同じ待遇に(均等待遇)、働き方に違いがあればその違いを考慮してバランスを保った待遇(均衡待遇)にしなければならないことになります。また、労働者から「待遇について知りたい」と求められた場合、会社は待遇について説明する義務が生じます。
加えて、派遣労働者については、①派遣先の労働者との均等・均衡待遇又は②一定の要件を満たす労使協定による待遇のいずれかを確保することを義務化されます。
⑨月60時間超の時間外労働の割増賃金率50%以上(2023年4月~)
現在、大企業は、月60時間を超える時間外労働に対して、50%以上の割増賃金を支払わなければならないことになっています。しかし、中小企業については、この割増賃金率の適用が猶予されています。
今回の改正で、中小企業についての猶予措置が2023年4月になくなるため、2023年4月から、全ての会社が月60時間超えの時間外労働について50%以上の割増賃金を支払う必要があります。
3. まとめ
現在の日本企業には、決められた時間よりも長く働き続ける文化が根強く残っていますが、長時間労働は労働者の健康被害の原因になります。会社としても大事な従業員を失うわけにはいかないので、今回の働き方改革を機に、様々な会社が従来の働き方の見直し・改革に取り組んでいます。
しかし、それでも労働者に違法な労働を行わせようとする会社が存在しているのが現状です。「違法だから会社に抗議しよう!」とお考えになる方もいらっしゃるかもしれませんが、第三者を通さずに解決しようとすることはトラブルのもとです。会社に先手を打たれて泣き寝入りすることに……ということもあり得ます。
もし、この記事を読んでくださっている皆さんの中に、働いている会社から不当な労働を強いられていると感じている方がいらっしゃれば、すぐに専門家に相談されることをお勧めいたします。
収入印紙とは?
会社で何か高額な買い物をしたときなど、領収書に切手によく似た「収入印紙」というものが貼ってあるのを見たことがありませんか?
普段の生活では、この「収入印紙」を中々目にすることがないかもしれませんが、契約書に貼り付けることもありますので、この記事を読んで、いざという時に役立ててください。
1.収入印紙とは
そもそも、収入印紙とは何なのでしょうか?言葉だけなら聞いたことがある、初めて聞いた、使ったことがあるなど、人によって様々だと思います。
収入印紙とは、印紙税等の租税を収めるために使用される証票のことをいいます。国税のひとつに印紙税というものがありますが、課される金額は、取引の金額や、書類によって異なります。印紙税を収める流れとしては、郵便局や市役所、コンビニ、法務局などで収入印紙を購入し、それを書類に貼り付けて、消印をすることによって税金を納めたことになります。
では、収入印紙を貼らなければならない書類にはどのようなものがあるのでしょうか?
まず、代表的なものとして領収書があります。5万円以上の金額が記載されている場合には、その金額に応じた収入印紙を貼り付けなければなりません。なお、この5万円は本体価格を指します。
例えば、領収書に「5万1,840円」と記載があったとしても、本体価格4万8,000円、消費税3,140円の場合には課税対象ではないため、収入印紙は不要となります。ただし、この場合は領収金額のうち、いくらが本体価格なのか、いくらが消費税なのかを明記する必要があります。
2つ目は契約書です。請負、不動産、消費貸借、信託などに関する契約書は、契約書の種類ごとに、契約書に記載された金額に応じて支払うべき印紙税が異なってきます。ですので、収入印紙を貼付する場合には注意が必要です。
3つ目は、約束手形、為替手形です。これも、領収書や契約書と同じく、金額に応じて収入印紙を貼り付けて、印紙税を収めます。
2.英文の契約書だった場合はどうする?
最近では、海外の会社と契約を結んだり、海外に進出したりする会社も増えて来ましたよね。1.で、契約書にはその種類及び契約書記載の金額に応じて収入印紙を貼らなければならないとお話しましたが、日本と海外で結んだ英文の契約書の場合も、収入印紙は必要なのでしょうか?
これについては、「契約書が作成された場所によって変わってくる」が答えになります。日本の法律で、印紙税が適用されるのは日本国内のみと定められているため、仮に契約書が作成された場所が海外だとすると、収入印紙を貼る必要はないのです。
それでは、印紙税を貼るべき契約書(以下「課税文書」といいます)の成立時期はいつなのでしょうか?ここで、印紙税法の課税文書の作成とは、単なる課税文書の調製行為をいうのではなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これをその文書の目的に従って行使することをいいます。
そのため、課税文書の成立時期としては、相手方に交付する目的で作成する課税文書(例えば、株券、手形、受取書など)は、その交付の時になりますし、契約書のように当事者の意思の合致を証明する目的で作成する課税文書は、その意思の合致を証明する時になります。
例えば、日本のA社、カナダのB社が契約を結ぼうとしているとします。まず、A社が日本で契約書を2通作成、署名押印し、それをカナダのB社に送りました。カナダのB社は、日本のA社から送られてきた契約書に署名押印し、1通を日本のA社に返送しました。こうして契約書が作成された場合、返送されてきた契約書、つまりA社が日本で保管しておかなければならない契約書に収入印紙の貼り付けは必要なのでしょうか?
この場合、A社が署名押印した段階では、契約当事者の意思の合致を証明することにはなりません。契約当事者の残りのB社が署名等するときに課税文書が作成されたことになり、その作成場所は日本国外ですから、結局、この契約書には印紙税法の適用はないことになります。したがって、収入印紙を貼る必要はありません。
逆に、カナダのB社が契約書を2通作成、署名押印し、それを日本のA社に送ります。日本のA社はB社から送られて来た契約書2通に署名押印し、1通をカナダのB社に返送し、B社はその1通を自社で保管します。
この場合、契約当事者の意思の合致を証明する時は、A社が契約書に署名等したときであり、この時に課税文書が作成されたことになるため、収入印紙の貼り付けが必要となるのです。また、収入印紙の貼り付けは、日本のA社で保管する1通だけでなく、カナダのB社で保管する契約書分についても必要となります。
3.収入印紙を貼り忘れてしまったとき
例えば、領収書に本体価格5万円以上の金額が記載されているときには、収入印紙を貼り付けることが必要だとお話しましたが、もしこの収入印紙の貼り付けを忘れていた場合、どうなってしまうのでしょうか?
仮に、収入印紙の貼り付けが必要な領収書や契約書に、印紙を貼り付けることを忘れてしまったとしても、領収書や契約書そのものが無効になることはありません。例えば、契約書の場合ですと、契約は双方の合意があれば有効なものとなり、契約書はその合意を形に残したものにすぎません。ですので、「収入印紙を貼り忘れたから契約が無効になるのではないか」、という心配をする必要はないのです。
しかし、契約書の効力に問題がないからと言って、貼り忘れた印紙税を収めなくて良いという訳ではありません。収入印紙を貼り忘れていた、貼らなければならないことを知らなかったなどの場合でも、過怠税という税金が課されることになります。過怠税とは、印紙税法第20条に基づき、印紙税を納付しなかった場合に課されるもののことです。
過怠税として納めなければならない金額は、本来納付すべき金額の3倍となります。ただし、文書の作成者が管轄の税務署長に対し、収入印紙を貼り忘れていた旨の申し出を自主的に行った場合には納付する金額は本来の金額の3倍ではなく、1.1倍で済む場合があります。
さらに、収入印紙を貼り付け忘れた場合だけでなく、消印をしていなかった場合にも過怠税がかかってきます。金額は、消印をしていなかった収入印紙の金額と同額のものとなりますので、消印の押し忘れにも気を付けてください。
4.まとめ
今回は、収入印紙の基本についてお話しました。
普段の生活の中で、収入印紙を使う機会は中々ないかもしれませんが、いざ使う機会が訪れたとき、貼り忘れてしまった、貼ったのに消印をわすれてしまったなど、本来収めるべき金額以上の金額を収めなくて良いように、この記事を読んで、いつか訪れるかもしれない、収入印紙を使う機会に役立ててください。
【交通事故】ひき逃げ・無保険車との事故にあってしまったら・・・
自賠責保険に未加入の自動車や盗難車両による交通事故の被害にあった場合や、ひき逃げ事故により加害者が判明していない場合、被害者はどの様な方法で補償を受ければ良いのでしょうか。
今回はその様な事態に陥ったときに補償を受ける方法について説明していきます。
1 ひき逃げ事故と無保険事故
(1)自賠責保険・責任共済と被害者請求
自動車(農業作業用小型特殊自動車を除く)や原動機付自転車を運転するには、法律によって自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)、または自動車損害賠償責任共済(責任共済)への加入が義務付けられています。通常、交通事故で被害者となり、加害者から損害の賠償がなされない場合、自賠責保険会社(以下、「自賠責」といいます。)に対して被害者請求をすることになります。
被害者請求では、被害者は、加害者に代わり加害者の加入している自賠責に対し、損害賠償請求をすることが可能です。
また、当面の費用が必要な場合には、損害賠償額の一部を仮渡金(*1)として請求することができます。
*1仮渡金
自賠責から保険金が支払われるまでには、「被害者が必要書類を揃え自賠責に請求を行い、自賠責による審査を経たうえでの支払い」となるため、一定の日数を要します。しかし、支払いがなされるまでの期間、経済的に困窮してしまう方もいるため、その様な方を救済するために仮渡金の制度が設けられています。
(2)被害者請求ができない場合
しかし、現実には全ての自動車が自賠責保険に加入しているとは限りません。自動車の中には、一切の保険に加入していない自動車があることも事実です。もし、自賠責保険に未加入の自動車、若しくは盗難車による交通事故の被害を受けた場合、被害者は自賠責保険からの補償を受けることが出来ません。ひき逃げにより加害者が特定出来ない場合も同様です。
その様な状況に陥ると、被害者は加害者から直接の補償を受けられない限り、何らの補償を受けることが出来なくなります。実は、その様な状況を避けるためにも、政府が被害者を救済する政府保障事業というものが存在しています。以下では、政府保障事業について詳しく説明をしていきます。
2 政府保障事業
政府保障事業とは、国が被害者に対し交通事故による損害を補償する制度のことです。なお、政府保障事業を利用できるケースは、「被害者が加害者から損害賠償を受けることが出来ずに被害者が利用できる社会保険を使用しても不足するとき」に限られています。
つまり、損害の補償を受けることが出来ない被害者を救済する最終方法として位置づけられているのです。そのため、加害車両が自賠責保険に加入している場合は、被害者請求により保険金の請求が可能となるため、政府保障事業を利用することが出来ません。
それでは、被害者が損害賠償を受けられないケースとはどの様な状況を想定しているのでしょうか?一般的には、『ひき逃げにより加害者の特定が困難な交通事故・加害車両が無保険である交通事故により被害を受けたケース』で利用されることが多い制度となっています。
例えば、ひき逃げによる被害を受けた場合、加害者が特定できないため、加害者・加害車両が加入する保険会社に対し請求が行えません。そのため、政府保障事業の利用が可能となります。なお、交通事故の被害にあったことを証明する必要があるため、警察が発行する交通事故証明書が必要となります。
仮に、軽い当て逃げで、その場では怪我も痛みも感じない状況であったとしても、後々事故の影響により痛みが出ることもあります。警察は加害者が逃亡していたとしても事故の処理を行ってくれるので、必ず警察に連絡をすることを怠らないようにすることが大切です。
また、医療費について、社会保険の給付が可能な部分については政府保障事業による補償の対象とはなりません。具体的な例を挙げて考えてみましょう。
【例】
① 損害額………180万円
② 社会保険からの給付額…70万円
③ 政府保障事業の補償額…50万円(補償限度額120万円―70万円(②))
ここで、政府保障事業では、補償限度額が定められており、その額は120万円となっています。被害者の損害額全額を補償するわけではないので、注意しましょう。
そして、例のケースでは損害額が社会保障事業の補償限度額120万円を上回っているので、120万円を補償の総額として取り扱い、社会保険からの給付額70万円を差し引いた50万円が政府保障事業により補償される金額となります。損害額全額から社会保険の給付額を差し引くわけではないため注意しましょう。
3 まとめ
今回は、ひき逃げ等により加害者からの損害賠償を受けることが出来ないときに、利用できる制度として政府保障事業についてご説明しました。手続きをご自身で行う場合は、制度をきちんと把握した上で手続きを進めることが大切になります。
ご自身が利用対象である可能性のある方、今から手続きを進めるご予定の方は、弁護士等の専門家に一度ご相談されてみることをお勧めします。
起業する前に知っておくべきこと3~法人成りのメリット・デメリット~
前回の記事では、個人事業主が法人成りする「給与にかかる税金」、「給与以外にかかる税金」に関するメリットをお話しました。今回は、その続きとして、「税金以外のこと」に関するメリットについてお話します。また、メリットばかりでなく、皆さんが一番気になるであろうデメリットについても詳しくご説明します。
前回の記事はこちらから→「起業する前に知っておくべきこと2~法人成り~」
1. 個人事業主が法人成りするメリット
<税金以外のこと>
(1)借入れ
銀行などの金融機関で借入れを行うとき、個人事業主の場合は自分自身が契約者となり、保証人を求められた場合は、保証人になってくれる人を探す必要があります。
これに対して、法人の場合は、契約者を法人にして、その保証人を自分自身にするということができます。
大多数の人は「借入れをしたいから保証人になってほしい」と言われると身構えてしまいますから、保証人になってくれる人を探すのには相当の時間がかかると思われます。そのような手間が省けることを考えると、個人事業主よりも法人である方が有利に働くでしょう。
(2)助成金
助成金とは、借入れとは異なり、返済をする必要がない国から支給されるお金のことです。受給が認められるためには、各助成金について定められた要件を満たす必要があります。しかし、返済しなくてよいということは事業主にとって大きいので、要件を満たす助成金があれば申請したいですよね。
個人事業主でも申請できるものはありますが、法人でなければ受けられない助成金もあります。これらを踏まえると、法人のほうが、申請できる可能性のある助成金が多くなります。
(3)新規取引や許認可事業
新規取引や許認可事業を始めるとき、個人事業主では難しいことがあり、「法人」であることが前提となっている場合もあります。
(4)採用活動
個人事業主と法人で比べると、やはりどうしても法人の方が信用度が高いので、新たに従業員を採用する必要があるとき、法人である方が求人に対する反応が多い可能性が高いです。
2. 個人事業主が法人成りするデメリット
これまで、法人成りするメリットについてお話してきましたが、もちろんデメリットもあります。具体的には以下のとおりです。
(1)社会保険の加入義務
個人事業主の場合、5人以上従業員を雇用したら社会保険に加入しなければなりません。従業員が4人以下であれば、任意加入となります。
これに対し、法人の場合は、従業員数に関わらず社会保険に加入する義務があります。たとえ従業員を雇用しておらず、社長1人しかいない会社であったとしても、必ず加入しなければなりません。
社会保険料は、事業主(会社)と被保険者(従業員)で折半する決まりなので、今までに社会保険に加入する必要がなかった方にとっては、負担に感じてしまうかもしれません。
(2)法人登記費用
個人事業を始めたい場合は、税務署に開業届を提出するだけで手続きが完了します。
しかし、法人を設立しようとすると、定款の作成、登記申請など個人事業主に比べて様々な手続きを踏まなければなりません。また、設立時だけでなく、設立後も、本店の移転や代表者の引っ越し、役員の更新など登記をしなければならないタイミングが発生します。その際、登録免許税や、登記を司法書士に依頼する場合はその報酬を支払う必要があります。
(3)法人住民税
住民税には、「均等割(広く均等に負担する)」と「所得割(所得に応じて負担する)」があります。この均等割額は、地域によって差があります。
個人事業主の場合、住民税の均等割額は5,000円程度です。
しかし、法人の場合、法人住民税の均等割額は、最低でも7万円程度です。
したがって、個人事業主よりも法人の場合のほうが住民税を多く納税しなければなりません。
(4)事務負担
個人事業主の場合、必要な手続きを自分で行うことは難しくありません。
しかし、法人の場合、(2)で述べたように個人事業主よりも多くの手続きが発生しますし、作成しなければならない書類も増えます。煩雑であったり、専門的な知識が必要だったりする作業も多いので、慣れていない場合は負担に感じてしまうかもしれません。全てを自分で処理するのが難しければ、税に関しては税理士などの専門家に依頼する必要があるので、その分費用がかかってしまいます。
(5)税務調査
税務調査とは、会社が申告・納税を正しく行っているかどうかを税務署や国税局の職員が調べるものです。
一般的に、税務調査が入る確率は、個人事業主と比べて法人の方が高いです。
(6)様々な契約の価格
何かのサービスを利用するとき、個人事業主であれば個人として無料で利用できるものでも、法人だと法人契約に該当して手数料を取られることがあります。また、個人と法人では価格が異なるサービスもあります。様々なサービスを契約している場合、今よりも出費が増えてしまうかもしれません。
3. まとめ
今回の記事では、前回の記事の続きとして、法人成りの税金以外に関するメリットと、法人成りするデメリットについてお話しました。
デメリットを考えると、法人成りを躊躇われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、それ以上にメリットがあるので、最初は個人事業として始めた場合でも、ある程度利益が増えてきたら法人成りすることを検討してみましょう。
起業する前に知っておくべきこと2~法人成り~
前回の記事に引き続き、今回も「起業する前に知っておくべきこと」がテーマです。
今回と次回の記事にわたって、個人事業主が法人成りするメリット・デメリットについてお話します。起業するにあたり、「ひとまず個人事業として始めてみようかな」と考えていらっしゃる方はもちろん、「個人事業として始めてみたけれど、法人化しようかな」といった既に個人事業主として活動されている方にも読んでいただけたらと思います。
前回の記事はこちらから→「起業する前に知っておくべきこと1~注意点~」
1. 法人成りとは
法人成りとは、「個人事業主が、株式会社や合同会社などの法人を設立し、個人として行っていた事業を法人に移行すること」を指します。
2. 個人事業主が法人成りするメリット
法人成りによる一番のメリットは、節税できる点です。
現在の日本の税制では、個人に係る所得税は、累進課税制度が採られており、法人に係る法人税は比例課税制度が採られています。つまり、利益があればあるほど、個人事業主よりも法人のほうが節税できるということです。
それでは、具体的にどのように節税できるのか、1つずつ見ていきましょう。
<給与にかかる税金>
(1)給与所得控除
そもそも、給与には、給与所得者が収入から差し引くことができる給与所得控除があります。この給与所得控除は、みなし経費と呼ばれるもので、一定額について経費とみなすため、控除をすることができることになっています。
個人事業主だと、給与ではなく事業所得という扱いになりますが、法人成りした場合、社長である自分自身に給与を支払うことができます。つまり、社長の収入から給与所得控除として一定額を差し引くことができるため、その分の所得税を節税できるというわけです。
(2)家族に対する給与の支払い
個人事業主の場合、事前に税務署に届出をしていれば、青色事業専従者制度によって家族に給与を支払うことができますが、年齢や期間など働き方に制限があります。
しかし、法人成りすると、個人事業主と違って前述したような制限がないので、パートタイムで働かせるなど働き方を自由に決めることができます。
また、日本は、累進課税制度を採用しているため、所得額が多くなればなるほど高い税率が課されます。つまり、個人事業主が一人で稼ぐよりも、法人化して家族への給与支払いという形で分散して還元することによって1人あたりの収入が下がり、それに応じて税率も下がるので、家族全体で考えると税金が安くなります。
(3)配偶者控除・扶養控除の適用
個人事業主の場合、事業専従者である家族に支払う給与について、配偶者控除や扶養控除を適用することはできません。
しかし、法人成りして、家族の給与を年間103万円以下にすると、配偶者控除や扶養控除を適用することができるため、その分所得税を節税できます。
(4)退職金
個人事業主だと自分自身に退職金を支給することができないのに対し、法人の場合は自分に対して退職金を支給することができます。また、退職金が以下の金額までであれば、課税されません。
・勤続20年以下の場合
40万円×勤続年数 ※最低80万円
・勤続20年を超える場合
800万円+70万円×(勤続年数-20年)
⇒勤続20年を超えると、より優遇されます!
<給与以外にかかる税金>
(1)赤字繰越
年度の収支が赤字になってしまった場合、この赤字は翌年度以降に繰り越すことができます。
前回の記事でも少し触れましたが、個人事業主の場合、赤字は3年間しか繰り越すことができません。
しかし、法人成りすると、赤字を9年間(平成30年4月以降は10年間)繰り越すことができます。
(2)消費税を2年間免税できる
2年前(法人の場合は2期前)の売上高が1,000万円を超えている、または、前年上半期(法人の場合は前期の上半期)の売上高が1,000万円を超えている場合、消費税を納税しなければなりません。
個人事業主が、売上高が1,000万円を超えて納税義務が発生するタイミングで法人成りをすることで、通常の会社設立をした場合と同様に、2年間免税されます。
ただし、前述したとおり、第1期目の上半期の売上高と給与(役員報酬含む)の金額がいずれも1,000万円を超えた場合は、第2期目から消費税納入義務が発生しますので、注意が必要です。
(3)出張手当
個人事業主の場合、自分自身に出張手当を支払うということはできません。
しかし、法人かつ出張規程を作成している場合は、出張手当を支給できます。出張手当は経費扱いになる上、消費税法上、仕入税額控除の対象になります。出張手当は、受け取った従業員の給与には加算されないので、社会保険料や所得税がかからず、従業員にとっても負担になりません。
(4)役員社宅
個人事業主の場合、居住用に借りている自宅の家賃は経費とすることはできません。
しかし、法人の場合は、自宅を法人名義で契約して、社宅として貸し出せば、家賃の半分ほどを経費として計上できます。
(5)生命保険
個人事業主の場合、生命保険に加入すると、最大12万円まで所得税の生命保険料の控除をすることができます。
これに対し、法人の場合、法人名義で契約し、被保険者を従業員、受取人を法人とすることで、保険料を経費とすることができます。
3. まとめ
今回の記事では、法人成りをする税金に関するメリットについてお話してきましたが、いかがでしたでしょうか?個人事業として始めた場合でも、売上が1,000万円程度になったら、法人成りした方がお得になります。
次の記事では、今回の続きとして、法人成りの税金以外に関するメリットと、法人成りのデメリットについてご説明します。
テレビ製作において注意すべきポイント~著作権の取り扱い~
これまで数回にわたり、テレビ番組製作において注意すべきポイントをご紹介してきましたが、今回は、「著作者が死亡している場合の著作権の取り扱い」についてご説明したいと思います。
さまざまな場面において、盗作や無断使用等で何かと話題になる「著作権」ですが、著作者が死亡していた場合、その権利はどうなるのでしょうか。
1.著作権とは?著作者の人格的権利とは?
著作者には、著作財産権(狭義の著作権)と著作者人格権の2つの権利があります。著作財産権は、複製権や上映権、貸与権、二次的著作物の利用権などが挙げられます。これらの権利は全部または一部を、家族や他人などに譲渡することができます。
一方、著作者人格権とは、自分の作品を自由に公表することができる権利(公表権)や氏名表示権、同一性保持権のことを指し、一身専属性の権利です。したがって、著作財産権とは異なり、相続したり譲渡することはできません。
しかしながら、著作権法第60条では、著作者が死亡した後の著作人格権についても、一定程度保護するべきとしています。
第60条 著作物を公衆に提供し、又は提示する者は、その著作物の著作者が存しなくなつた後においても、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない。ただし、その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合は、この限りでない。
以上を前提にして、話を進めていくことにしましょう。
2.著作者が死亡している場合の許諾申請
(1)著作者死亡後、著作権は70年間保護される
ある写真を、テレビ番組内で使用するため許諾申請を行おうとした際、撮影した写真家が今から60年前に死亡していたとします。この場合、そもそも著作権の許諾申請は必要なのでしょうか。許諾申請が必要な場合、誰に著作権の使用申請を行えばよいのでしょうか。
著作権法では、著作者の権利を認め、著作権を保護する目的としてこれまで「著作者の死後50年間は保護期間(映画についての保護期間は70年間)として存続される」としていました。しかし、著作権法は、平成28年に環太平洋パートナーシップ協定の締結及び環太平洋パートナーシップ協定に関する包括的及び先進的な協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律(以下、「TPP整備法」といいます。)により改正されました。
そのため、現在は原則全ての著作物の保護期間が「著作者の死後70年間」に変更になっています(著作権法第51条以下)。
ですので、TPP整備法が制定される以前でしたら、今回の写真家の作品は許諾を得なくても使用することができていましたが、保護期間が著作者の死後70年間となった現在の著作権法においては、許諾申請が必要となります。
では、誰にこの許諾申請を行えばいいのでしょうか。上の例であげたように、著作物を番組内で使用する際、許諾を得なければならないのは、著作者の相続人となります。既に説明したように、著作権には、著作者人格権と著作財産権(狭義の著作権)に分類されますが、著作財産権は相続の対象になるため、相続人が権利を引き継ぐこととなるのです。
そして、著作権を相続する人が決まっている場合には、その相続人から許諾を得ればよいのですが、著作者の死後間もない場合や相続で揉めている場合など、権利を取得する相続人がはっきり決まっていないこともあります。
そのような場合は、法定相続人や受遺者等、相続対象となる人全員から許諾を得なければなりません。
(2)財団や管理団体が管理するケースも
では、著作者に相続人が誰もいない場合はどうなるのでしょうか。この場合でも、生前贈与や遺言により、第三者に権利が譲渡されている場合には、当該受贈者・受遺者が著作権を取得するため、これらの者を相手に許諾申請を行います。
著作者が著名な作家や芸術家などの場合、財団や管理団体を設立し一括して著作物の管理を行っていることもあります。
このケースでは、遺族ではなく財団や管理団体に許諾申請をすることとなりますので、スムーズに番組制作を進めるためには、早い段階でどの人物や団体に著作権が移っているのかを確認し、承諾を得ることがポイントです。
なお、誰にも譲渡されず、相続する者もいない場合は、著作権法第62条1項1号に基づいて著作権は消滅することとなります。
3.具体例
例えば、著名な作家の死亡後に未公開の小説が発見された際など、書籍化やドラマ化を検討することもあるかと思います。このようなケースでも、遺族や権利を有している相続人へあらかじめ許諾申請を行うことで、公開後のトラブルを防ぐことができるでしょう。
この場合も、2.(2)のように、管理団体や遺言により第三者へ権利が譲渡されていることがありますので、誰が問い合わせの窓口になっているか確認が必要です。
また、相続人に著作権が譲渡された作品の使用許諾申請が認められたとして番組内で使用する際などに、すでに著作者本人は死亡しているからといって、作品へ必要以上の改変を行ったり、著しく誤解を招くような不適切な表現を用いて紹介するなどした場合、著作権法第60条により、その遺族や団体から侵害を受けたとして差し止めを求められることもあり得ます。
著作者本人がすでに死亡しているからといって、過度な改変などを行うことは好ましくないといえます。節度を守り使用するようにしましょう。
4.まとめ
今回は著作者が死亡した場合の著作権について見ていきましたが、著作者が生存している場合、テレビ番組の制作時において著作権は当然に重要な権利となります。権利の特徴や期間などをよく理解した上で許諾申請等を行うことが大切です。
また、死亡後に著作権の行方がわからなくなっており、相続人の判明に時間がかかることも予想されますので、制作に間に合わないといったことがないよう、スケジュールに余裕を持って調査、交渉や申請を進めて行きましょう。
【離婚問題】離婚と子供の問題―面接交渉権―
離婚に伴い子供の親権を取得することが出来なかった場合、今後子供との面会が出来るのか、どの位の頻度で面会が出来るのか分からないことはありませんか?今回は子供との面会交流についてご説明します。
1.面会交流権とは
離婚時に親権を取得することが叶わず、子供と離れて暮らすことになった親には、面会交流権が認められています。面会交流権とは、訪問、文通、電話などを通じて子供と交流する権利のことです。
この権利に基づいて、子供と親が連絡を取り合ったり、会ったりすることを一般的に面会交流と言います。なお、以前は「面接交渉」という言葉がよく使われていましたが、現行民法に、「父又は母と子との面会及びその他の交流」という文言が明記されたことから、「面会交流」という言葉で使われることが多くなりました。どちらも同じ意味ですので、ここでは「面会交流」という言葉を使います。
2.面会交流の内容を決めよう
面会交流の取り決めについては、離婚の成立前に離婚協議書等で文書化して残すことが理想ですが、実際にどの様な項目について調整する必要があるのでしょうか?
◆頻度と時間……週、月当たりの回数、1回当たりの所要時間
◆場所……面会場所の制限の有無
◆宿泊の有無……宿泊の可否
◆子供の受渡し……受け渡し場所、受け渡し場所までの交通費の負担
◆学校行事等……入学式、卒業式、運動会等の行事への参加の可否
◆長期休暇時……夏休み、冬休み等の連休中の対応
◆間接的な交流…手紙や電話、メール等間接的な交流の可否、制限
◆お小遣い等……面会時にお小遣いやプレゼントを渡すことの可否
以上が、面会交流に関して一般的に取り決めておくべき内容となります。他にも互いの生活状況によって個別に決めておくべきこともあるため、事前に弁護士などの専門家に相談し、決めるべきことを整理しておくことが理想です。
なお、夫婦間での協議が不調に終わったときには、家庭裁判所において調停等の手続きを利用することになります。
3.面会交流の拒否・制限について
離婚したときの理由、状況によっては、子供を監護している親側に、子供の面会交流を実施させたくない理由があるかもしれません。しかし、面会交流を拒否するだけの一定の理由がなければ面会交流を拒否することは認められません。
では、どの様な理由があれば面会交流を拒否することが可能なのでしょうか?基本的には「面会交流を実施することが子供の福祉に悪影響を及ぼす」場合には面会交流の拒否を認められる可能性があります。代表的な理由の一例を紹介します。
②子供の連れ去りの可能性がある
これらの理由については面会交流を拒否する理由として認められる可能性があります。その他にも、子供が自分の意志で考え話すとことが可能な年齢であれば、子供自身が面会交流を拒否する「子の拒否」も理由の1つになります。
仮に、例に挙げたような理由で面会交流の拒否を相手に伝え、相手が納得しないときは、家庭裁判所において調停等の手続きをとることになります。
面会交流の拒否についてはこちらもご覧ください。
面会交流~面会交流をさせたくないときは?~
4.子供が連れ去られたときの対処
もし、子供の親権を取得していたのに、相手が子供を引き渡してくれない場合や、面会交流時にそのまま連れ去ってしまった場合はどの様に対処すべきなのでしょうか?以下に具体的な対処法についてご説明致します。
①子の引き渡しを求める調停・審判
家庭裁判所に「子の引き渡し」の調停を申し立てます。調停では、調停委員を介して話し合いでの解決を目指します。しかし、親権者が子の引き渡しについて裁判所を利用するようなケースでは、問題が複雑化していることも多いため、調停では相手が引渡しに応じない可能性が高く、調停が不調に終わることも多くあります。
その様な場合は、自動的に審判に移行します。審判では、話し合いではなく裁判官が一切の事情を考慮して決定します。
②審判前の保全処分
子の引渡しの調停、審判は解決までに一定の時間を要するため、同時に「審判前の保全処分」を申し立てるケースが多いです。審判前の保全処分とは、調停、審判の終結を待っていると当事者の権利の実現が難しくなる場合に、裁判所が権利対象に対する保全(保護)を行うものです。あくまで調停、審判が終結するまでの暫定的な処置となります。
子の引渡しのケースでは、「審判前の保全処分」が認められると、調停、審判の決定を待たずに「子供を仮に引き渡すように」という保全命令が下されます。また、審判前の保全処分では「間接強制」をつけることもできます。具体的には「子供を引き渡すまで1日○○円を支払え」というような金銭的な負担を与え、相手が保全命令を履行することを促す効果が期待されます。
③人身保護請求
人身保護法第2条に基づく人身保護請求は要件が厳格であり、相手の手元に子供が居るというだけでは請求が認められることはありません。子の引き渡しの場合で言うと、子供の拘束について顕著な違法性があり、子供の自由な意思に反していることが要件となります。
そのため、個別具体的事情に鑑みて法律の要件を満たしているのか検討しなければなりません。また、要件のうちどれが問題となるかで主張すべき点が大きく異なってくるため、法的な知識も必要となります。更に、原則として弁護士を代理人として請求する必要もあるため、専門家へ相談のうえ、当該手続きを利用すべきかも含め検討すべきです。
5.おわりに
面会交流を実施するうえで大切なことは、子供の福祉を一番に考えつつ、将来的に面会交流についてトラブルが起きないように、離婚時に将来的なことも含めた条件を決めておくことです。
万が一、トラブルが発生したときには、子供が当事者であることからも可能な限り迅速に必要な手続きを進めることが大切です。もしトラブルが発生した場合には、速やかに専門家へ相談し、子供の安全の確保、その後の対策等について相談することをお勧めします。
【不動産】マンションでペットを飼育するとき
Q.私の住んでいるマンションは、ペットの飼育が管理規約で禁止されています。ところが、隣室の居住者は犬を飼っている様子で、犬の鳴き声や臭気などに悩まされています。このような状況のとき、隣室の入居者に対して私からどのような請求ができるのでしょうか?
A.マンションとペットの飼育について考える際には、以下に挙げたポイントに注意して検討する必要があります。
□ 飼育禁止の管理規約の存在の有無
□ 管理規約の変更により、飼育禁止の条項が追加された場合
□ 違反行為に対する措置
1 ペットの飼育を禁止できるのか
(1)飼育禁止の管理規約が存在しない場合
マンションにおいて、ペットの飼育を禁止する管理規約が存在しない場合、ペットの飼育を禁止することは可能なのでしょうか。
この点、マンションにおいては多数の住民が1棟の建物で共同生活を営むことを考慮すれば、専有部分内における行為であっても、無制約に認められるものではありません。
例えば、専有部分において猛獣を飼育することなどは、管理規約の定めが無くとも、共同利益背反行為に該当し、建物の区分所有等に関する法律(以下、「区分所有法」といいます。)57条ないし60条記載の措置、例えば「共同の利益に反する行為の停止等の請求」が可能となります。
(2)飼育禁止の管理規約が存在する場合
管理規約の中にマンション内における動物飼育を一律に禁止する管理規約がある場合は、当該規定は有効なのでしょうか。
もしマンション内で動物を飼育するとなると、
・ 動物の糞尿によるマンションの汚損や臭気
・ 動物を介した病気の伝染、衛生上の問題
・ 動物の鳴き声による騒音
・ 動物による噛み付きの事故
といった、建物の維持管理や他の居住者の生活に目に見えて影響をもたらす危険があるほかに、動物を建物内で飼うこと自体が他の居住者に対して不快感を与えるといった目に見えない影響をも及ぼす恐れがあります。
そして、上記のような影響を与える可能性のあるペットの飼育は、区分所有者の共同の利益に反する行為であると認められます。
故に、ペット飼育を一律に禁止する規定は有効であると考えられています。
2 管理規約の変更により、飼育禁止の規定が追加された場合
もしマンションに入居した時点では、管理規約内にペット飼育禁止の規定が無く、一部の区分所有者がペットを飼育している状況であったところに、管理規約の変更によりペットの飼育を禁止する規定が加えられた場合はどうなるのでしょうか。
この場合も、ペットの飼育が区分所有者の共同の利益に反する行為に該当しうるため、管理組合の構成員の多数意思として管理規約の規定を追加する場合には、この追加された規定に基づくペットの一律飼育禁止も有効となります。
しかしながら、区分所有法31条1項後段においては
と定められていることから、既にペットを飼育していた居住者に対しては、管理規約にペット飼育禁止の規定を追加することについて承諾を求めなければならない場合があることに注意が必要です。
3 居住者による違反行為に対する措置
ペット飼育禁止に違反している居住者に対しては、区分所有法第57条ないし60条に挙げられた措置の他に、
・ 飼育禁止
・ 飼育する動物の即時退去
・ 糞尿の除去・消臭措置
といった請求を行うことが考えられます。
4 ペット飼育に関する裁判例
(1)ペット飼育を禁止する管理組合の規約が有効とされた事例(東京地判平成8・7・5)
当該マンションにおいては、ペットの飼育を禁止する管理規約がありましたが、一方で一部の組合員はペットを飼育していました。そこで、ペットを飼育中の組合員により構成されるペットクラブが設立され、設立時点で組合員が飼育していたペット一代に限って飼育を認め、それぞれの寿命が来れば、ペットを飼育する組合員は自然消滅することとしていました。
ところが、ある居住者はこのペットクラブ設立の数年後より飼育を始めたために、管理組合側よりペットの飼育を辞めるよう通知があったものの、これに応じなかったために、管理組合はこの居住者を訴え、裁判で争うこととなりました。
本判決においては、「マンションは入居者が同一の建物内で共用部分を共同して利用し、専有部分も上下左右又は斜め上若しくは下の隣接する他の専有部分と相互に壁や床等で隔てられているにすぎ」ないため、当該マンションの構造が「必ずしも防音、防水面で万全の措置がとられているわけではない」こと、また、「ベランダ、窓、換気穴を通じて臭気が侵入しやすい場合も少なくない」ことを考えると、各居住者の生活形態が相互に重大な可能性を及ぼす可能性を否定できない」とした上で、「本件マンションは、14階建の居住用の分譲マンションであり、動物の飼育を配慮した設計、構造にはなっていない」ということも認定の要素とし、被告による本件マンションでのペットの飼育を認めませんでした。
(2)管理規約の変更によりペット飼育禁止規定が追加された場合(横浜地判平成3・12・12)
本件は、被告が当該マンションへ犬を連れて入居した後、管理規約において動物の飼育を禁止する規定が新設された事案です。
被告は、当該規約の改正が被告の権利に「特別の影響を及ぼす」ものであるにもかかわらず、被告の承諾なしに改正されたものであるため、区分所有法第31条1項に反しており無効であるとして争いました。
しかしながら、裁判所では、当該マンションに入居する際、「動物の飼育は一応禁止されている」という旨の記載がある入居案内が配布されていた点を考慮した上で、当該マンションが以前からペット飼育禁止という共通認識があったと認定し現在の社会情勢・国民意識に照らし、全面的禁止には相当の必要性・合理性が認められると判断し、区分所有法31条1項後段の「特別の影響」は認められないとしました。
5 まとめ
判例を見ると、マンションは多くの人が共同生活を営む場所である以上、管理規約の内容、組合員の要望、マンションそのものの構造が動物を飼育することを考慮されたものであるかといった様々な観点から検討されていることがわかります。
ペットを飼いたい場合には、こういったトラブルを回避するためにも、マンションを購入する前に必ず管理規約や周知事項を確認するようにしましょう。