弁護士コラム

2019.06.24

ハンコの持つ効力と役割

前回、「ハンコ」の種類と特徴についてお話しましたが、今回は「ハンコ」の持つ効力と役割についてお話したいと思います。

前回の記事を読むにはこちらから→「ハンコの種類と特徴

1. ハンコの持つ効力

個人が使うハンコには主に実印、銀行印、認印、シャチハタがあり、会社が使うハンコには主に代表社印、社印、割印があると前回お話しましたが、これらの効力はどのようになっているのでしょうか?

そもそもハンコには、ハンコの持ち主が契約書などの書類の内容を理解して、持ち主本人の意思でハンコを押したと思わせる力があります。これに加えて、それぞれ違った大きさの力を持っているのです。

例えば、借主の欄に自分の名前が書かれた、5000万円の借用書が3枚あったとして、それぞれに実印、銀行印、認印が押してあるとします。この場合、どの借用書が1番効力を持っているのでしょうか?
もちろん、実印が押された借用書です。実印は、他のハンコとは違い、印鑑登録を行うにも本人確認が必要であり、法律上、社会上の権利や義務の発生を伴う重要なハンコのため1番効力があるといえます。

一方、認印は大量生産され、100円ショップなどでも簡単に手に入れることができるもののため、本人ではない誰かが,自分で認印を準備して勝手に押したという可能性も考えられます。ですので、1番効力を持っているとは言えないのです。

2. ハンコの持つ役割

では次に、ハンコの持つ役割についてです。ハンコは、契約をするときに押すだけで
なく、様々な使い方をすることができます。以下に、使い方の例を挙げていきます。

(1)契印

2枚以上にわたる文書があるときに、その文書の境目のページに押した印影のことを言います。

意味:文書が勝手に追加されたり、差し替えられたりしていないもので、そのつながりが真正であることを証明します。法的な力はなく、契印があってもなくても文書としての効果に違いはありません。

(2)訂正印

文書に記載した文字や言葉を書き直したり、書き加えたり、削除したりしたいときに訂正部分に押すハンコになります。契約書などの書類の注釈のところに、「間違えた場合は該当部分に二重線を引いたうえで、訂正印を押してください。」という旨の記載が書かれているのを見たことがある方も多いと思います。

意味:訂正印を押すことで、その訂正が勝手に行われたものでないという証明になります。そのため、訂正印は、文書の最後に押したハンコと同じものを使う必要があります。最後の方で間違えてしまうと、修正液や修正テープを使いたくなりますが、訂正印を押して修正を行わなければなりません。

(3)捨印

文書の余白部分に押された印影のことを言います。この印影も、文書の最後に押されたものと同じものである必要があります。

意味:捨印があることで、文書の交付を受けた人に対し、捨印を押した人の了解を得なくても、ある程度まで文書の内容を訂正して良いという権限を与えるということを意味します。
ですが、捨印が押してあるからと言って、契約書の重要な部分まで訂正することはできませんので、注意してください。

(4)消印

収入印紙や切手、はがきなどの文書に使用済みのしるしとして押された印影のことを言います。
押す場所について、特に決まりはありませんが、角に押すことが多いようです。また、ハンコについてもその文書の最後に押されたものと同じものを使うことが多いようですが、違うハンコを使ったとしても効力に変わりはありません。

意味:はがきや切手が再利用されることを防ぎます。

3. ハンコをきれいに押すことができなかったときはどうする?

1と2で、ハンコの持つ効力と役割についてお話しましたが、実際にハンコを押す場面になったとき、斜めになってしまったり、印影が薄くなってしまったりした経験はありませんか?

せっかく大きな契約をとったのに、契約書に押したハンコが滲んでいたり、薄くついてしまったりしていたら、契約書が無意味なものになってしまうのではないかと不安になりますよね。ですが安心してください。押したハンコが薄くても、上下逆さまになっていても、契約が無効になることはありません。なぜなら、契約書は契約の存在を証明する重要な客観的証拠ではありますが、契約自体は当事者双方の合意により有効に成立するからです。

では、なぜわざわざハンコを押すのか。それは、合意があったことを形に残すものである契約書の価値を高めるためです。ですので、印影さえあればハンコがきれいに押されているかなんて関係ないのです。

4. まとめ

今回は、ハンコの持つ効力、役割、そしてハンコをきれいに押すことができなかった場合はどうなるのかについてお話しました。
ハンコは、大事な書類の最後に押すだけでなく、様々な使い方、意味があること、また、きれいにまっすぐ押さないといけないと思いがちですが、意外とそんなことはないということも分かっていただけたかと思います。
この記事を読んだ後、ハンコを押す機会があれば、ぜひ今回知ったことを生かしてみて下さい。

2019.06.19

【離婚問題】面会交流~面会交流をさせたくないときは?~

離婚後も親子の交流を維持することは、子供の健全な成長にとって大変重要です。そのため、離婚した父母の協議により、月1回、2か月に1回等、子供との面会交流が行われています。
しかし、中には離婚した元配偶者に子供を会わせたくないという方も多くいらっしゃいます。今回は、様々なケースを想定して、調停や審判を行った際に、それぞれ面会交流をさせないという方法を取り得るかご説明していきます。

1 面会交流を禁止・制限できる例

(1) 非監護親が子供を虐待していたケース

子供を現実に養育する親のことを「監護親」、養育しない親のことを「非監護親」といいます。

子供が過去に非監護親から虐待を受けており、非監護親に恐怖心を抱いているような場合や、面会交流を行った際に非監護親が虐待を加えるおそれがある場合には、面会交流を実施することが子の利益を害するため、面会交流を禁止・制限すべき理由があるとされています。

ただ、監護親からこの種の主張がなされる場合、非監護親は虐待の事実そのものや程度、子供が恐怖心を抱いていることについて争うことが多く、事実認定が困難となる傾向が見られます。調停では、診断書や怪我をした写真、警察や医師に相談した記録等の提出を求められることが多いので、証拠をきちんと確保しておきましょう。

(2) 非監護親が過去に子供を連れ去ったことがあるケース

子供を現在の生活環境から強引に離して連れ去ることは、養育環境の安定を害することになり、子供に精神的打撃を与える可能性が高いと言われています。そのため、非監護親が過去に子供を連れ去ったことがある場合には面会交流を禁止・制限すべき理由があるとされています。

もっとも、過去に連れ去りの事実があっても、非監護親が真摯に反省し、二度と子供を連れ去らないという確約をしているような場合は、面会交流が認められる可能性があります。その場合でも、決して子供を連れ去ることがないように、弁護士等の第三者の立会いや、面会の場所を制限する等して連れ去り防止策を講じることが重要です。

(3) 非監護親が監護親にDVをしていたケース

監護親が非監護親によるDVの被害者で、非監護親に対する恐怖心やPTSDのため、非監護親との接触に耐えられない場合には、面会交流の実現が現実的に困難なことがあります。特に子供が年少者だと、監護親の協力なしに面会交流を実施できないこともあり、面会交流を禁止・制限せざるを得ない場合も考えられます。

ただ、非監護親から監護親へDVがあっても、子供に対しての暴力は一切なく、子供が非監護親を慕っているという場合もあります。面会交流を禁止・制限すべきかどうかはあくまでも子供の利益の観点から判断されるべきものなので、監護親についての事情をもって当然に面会交流を禁止・制限されるわけではありません。監護親と非監護親の接触を回避することによって面会を実現することが可能になることもあるので、家族の協力や第三者機関の利用も考えられます。

(4) 監護親が非監護親を嫌悪しているケース

実務上、面会交流をさせたくない要因として一番多いのが、監護親が非監護親に対する感情的反発等から面会交流を拒絶するケースです。しかし、面会交流は子供の利益の観点から実施の当否等を検討すべきものなので、監護親の非監護親に対する拒絶を理由に面会交流の禁止・制限が認められることはあまりありません。

場合によっては、非監護親との紛争によって監護親に抑うつ状態が現れ、育児放棄に至る等、子供の利益を害する事態が懸念されることもあります。その際は当分の間直接的な面会交流を見合わせるなどの措置がとられることもあります。間接的な面会交流として、手紙のやりとりをしたり、写真や動画を送付するといった方法もあります。

(5) 子供が面会交流を拒んでいるケース

監護親から、「子供が非監護親に会いたくないと言っている」と主張されるケースも多く見られます。例えば子供が非監護親の監護親へのDVを目撃して恐怖心を抱いており、非監護親に会いたくないという場合には、面会交流を禁止・制限することも考えられます。
しかし、子供が非監護親に会いたくないと言っていることが事実でも、監護親が非監護親を嫌悪している影響から、子供が非監護親に対して拒否的感情を抱いている場合があります。
また、本当は子供が非監護親に会いたくても、同居している監護親に対する遠慮から、面会交流をしたくないと言っている場合もあります。もしくは、監護親と非監護親が面会交流をめぐって対立することを嫌い、面会交流に否定的になることもあります。

いずれにせよ、子供の真意を把握するには慎重な検討を要するところであり、調査官による子供の意向、心情や監護状況等の調査を行った上で、子供の意思を把握する必要があります。

(6) 監護親が再婚し、子供が再婚相手と養子縁組しているケース

子供が監護親の再婚相手と養子縁組をしても、非監護親が子供の実親であることに変わりはないため、子供が非監護親からの愛情を実感する機会としての面会交流の重要性は変わりません。したがって、再婚し、養子縁組をしているという理由のみで面会交流を制限したいというのは難しいです。

2 面会交流を拒否するリスク

もし面会交流の取決めが調停等でなされた場合、それを拒否すると非監護親は強制的に面会交流を実現できる立場にあるため特に大きな問題となります。ただし、この「強制的」というのは、無理やり子供を連れて行くことができるという意味ではなく、間接強制のことを意味しています。間接強制とは、義務を履行しない者に対して、「義務を履行せよ。もし履行しないときは、1回の不履行につき10万円を支払え。」という命令を家庭裁判所が出す制度です。

義務を履行しないとお金を支払わなければならないので、心理的なプレッシャーを受け、義務を履行するようになることを意図しています。
したがって、面会交流が決まっているのに子供を会わせないという方法はお勧めしません。 

3 まとめ

今回は、面会交流をさせたくない場合に、どのような理由であれば面会交流の禁止・制限が調停・審判において認められるのかご説明しました。面会交流をさせたくない理由として様々なものがありますが、面会交流が子供に悪影響を及ぼさない限り、非監護親と子供の交流維持にできるだけ協力しましょう。

また、子供によっては、面会交流自体は楽しみでもその前後の監護親の態度に心を痛めストレスを感じる場合があります。子供が面会交流を行う際は笑顔で送り出し、非監護親とどのような話をしたのか詮索したり、日頃から非監護親の悪口を言うことは避け、子供が楽しく過ごせるように心がけましょう。

2019.06.19

テレビ番組制作において気をつけたいポイント~番組内容の著作権~

テレビ番組制作において一番重要なのは、その番組がどのような内容であるかという事ではないでしょうか。視聴者を惹きつけるような企画や番組構成であれば視聴率も上がり、話題になることでスポンサー広告収入なども得られることでしょう。
他方で、このような人気番組と内容も構成も似ている・・・というような番組も見かけることがあります。このような番組は法的に問題ないのでしょうか。

1.番組の企画は、著作物となる?

世の中にはたくさんのテレビ番組があり、ドラマ、クイズ番組、トークバラエティなどジャンルも様々です。そんな中、例えば、新しいクイズ番組の企画を立ち上げ、以前とは違った斬新なセットを組み、出題形式も目新しいものを制作したとします。その結果、高視聴率をあげる人気番組になりました。

しかしながら、その後この番組と似たような構成のクイズ番組が他局でも放送されるようになってしまいました。この場合、類似性の観点から著作権侵害にあたり違法ではないかと思われるかもしれませんが、実は違法ではありません。
まず、著作権が保護される著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいいます。

先ほどの、クイズ方式やルール、競技は上記のような「思想」や「表現」ではなく「アイデア」と見なされており、著作権法の対象となる「著作物」にあたらないためです。
もちろん、その番組自体はテレビ局や制作会社の「著作物」ですので権利は発生しますが、企画や構成、ルールなどはアイデアと同等なので、他者がその部分を真似しても問題はありません。実際に、アイデアは著作物ではないことを示した裁判例もあります。

内容としては、独自のルールを用いてゲームを考案したXさんがいました。Xさんは、とある映画内で自分が考案した独自ルールに類似したゲームが使われていることを知ったため、当該映画の制作会社に対し著作権侵害を訴えましたが、裁判所は、アイデア自体は「著作物」ではないとして訴えを退けました。

なお、アイデアは著作物しかしながら、セット自体や小道具は「表現」として著作物とみなされる場合はあります。したがって、番組のセット(出演者の後ろに映るパネルや座席のデザインなど)や小道具が他の番組のセット等とよく似ていた場合、著作権侵害のおそれがあります。

前述しましたが、番組には様々なジャンルがあり、放送局も増えてきた中、番組を作ろうとするとどうしても企画が他の番組と似通ってきてしまうものです。現時点では、似たような番組構成についての訴訟で違法となった例はないようですが、あからさまに人気番組と同じ構成であった場合、視聴者に「二番煎じだ」と思われ不快感を与えかねません。
許容範囲を超えない、適切な番組制作・企画を行うようにしましょう。

2.ドラマや映画のパロディは問題ない?

1.ではクイズ番組を例に挙げましたが、他にもテレビ番組で見られるのがドラマなどのワンシーンをコント番組でパロディにし、笑いをとるといった場面です。
ドラマ自体は著作物となるわけですが、こういった「他人の著作物」を利用するということについて、どんな場合においても許諾が必要なのでしょうか。また、許諾申請をしなければ必ず著作権侵害になるのでしょうか。

(1)他人の著作物の利用

判例によると、他人の著作物と自身の著作物とで照らし合わせて、表現上の本質的特徴が同じと判断できれば類似性があると認められるため、他人の著作物の使用許諾が必要であり、許諾がなければ著作権侵害として違法となります。これに対し、本質的特徴が同じでなければ類似性が認められないため、他人の著作物の使用許諾は不要となります。

たとえば、時代劇や大衆演劇などについては話の展開や殺陣、振る舞いに一定のパターンがありますが、これは上記判例のいう、「表現の本質的特徴が同じ」と判断され、類似性が認められるのでしょうか。
まず、前提として、1.で述べた通り、著作物として保護されるものは、「思想」又は「表現」ですので、単なる「事実」や「事件」などは著作物にあたりません。そのため、著作物として保護されるためには、当該事実や事件を題材にして創作的な「表現」になっていることが前提です。

その上で、話の展開や、振る舞い等に一定のパターンがある場合は、他人の著作物の利用に該当するのではないかが問題になりますが、過去の裁判例の中には、こういった表現は武士の作法など歴史的史実も含まれており、さらに既存の作品にも多く登場していることから、「表現上の本質的特徴」とはいえないとして訴えを退けた裁判例があります。

以上を踏まえて、ドラマのパロディに上記の表現上の本質的特徴を照らし合わせてみると、ドラマの登場人物の設定はアイデアの部類になる、つまり表現に含まれないので、この設定を利用したコメディは問題ないといえます。

(2)節度を守った番組作りを

このようなドラマや映画のパロディは頻繁に行われていますが、今のところ、訴訟になった際に違法になった例はありませんが、著作権侵害にあたり違法になる可能性もゼロではありません。
パロディ元を揶揄したり、馬鹿にしたようなもの、質を落とすようなパロディは、権利者側が看過できないとして訴訟になってしまうこともあります。
そのパロディを放送することで、元となったドラマや映画の人気も上昇するなど、お互い有益になるような番組制作・企画作りを行うことがポイントです。

3.まとめ

今回は番組を企画する際や、他人の著作物の利用時に気をつけたい著作権や表現についてご説明しましたが、番組や作品というのはテレビや映画が存在する限り、これからも増えていくものです。

過去に似たような作品や番組がなかったか、また既存作品のパロディを行う場合は、既存作品の表現上の本質的特徴が同じではないか確認し、同じ場合は許諾を得るようにするなど、対策を行った上で番組制作を行いましょう。

2019.06.18

中小事業主に対する1ヶ月60時間超の時間外労働の割増賃金率引上げ

平成30年改正労働基準法(以下、「平成30年改正労基法」といいます。)により、令和5年4月1日から、中小事業主を含む全事業主に対して、1ヶ月間に60時間を超える時間外労働に「5割以上」の割増賃金率が適用されることになります。
施行日後、事業主に求められる実務の対応とはどのようなものでしょうか?

1.平成30年改正労基法「5割以上」の割増賃金率規定の経緯

すでに、平成22年4月1日に施行された改正労働基準法(以下、「平成22年改正労基法」といいます。)により、1ヶ月間に60時間を超える時間外労働について、法定の割増賃金率が「5割以上」に引き上げられています。ただし、この時間外労働の割増賃金率の引き上げについては、一定の中小事業主については、当分の間、適用が猶予されていました。

平成30年改正労基法では、中小事業主への月60時間を超える時間外労働に対する「5割以上」の割増賃金率の適用を猶予している平成22年改正労基法138条の規定が廃止されました。ただし、この規定についての施行日は、中小事業主への影響を考慮して、令和5年4月1日とされています。

2.平成30年労基法改正後の割増賃金の割増率

使用者は、時間外労働または休日労働を行わせた場合には、労働者に割増賃金を支払わなければなりません。時間外労働の割増賃金率は、通常の労働時間の賃金の「2割5分以上」です。ただし、1ヶ月間に60時間を超える時間外労働分については、「5割以上」です。また、休日労働の割増賃金率は、通常の労働日の賃金の「3割5分以上」です。

これらの割増賃金の支払義務は、法定労働時間及び週休制の原則の維持を図るとともに、労働者の過重な労働に対して補償を行おうという趣旨から定められているものです。

更に、使用者は、労働者に深夜労働(当日午後10時から翌日午前5時までの間の労働)を行わせたときは、それが所定労働時間内の労働であっても、通常の労働時間の賃金の計算額の「2割5分以上」の割増賃金を支払わなければなりません。

時間外・休日労働が深夜労働と重複する場合の取扱いについては、時間外労働が深夜労働の時間帯にわたる場合には通常の労働時間の賃金の「5割以上」の割増賃金を支払わなければなりません。

そして、1ヶ月間に60時間を超える時間外労働が深夜労働の時間帯にわたる場合には、通常の労働時間の賃金の「7割5分以上」の割増賃金を支払わなければなりません。また、休日労働が深夜労働の時間帯にわたる場合には通常の労働日の賃金の「6割以上」の割増賃金を支払わなければなりません。

3.割増賃金支払いの注意点は

使用者の労働者に対する割増賃金の支払いについては、次のことに注意が必要ですので、この機会に改めて確認をしましょう。

①2つの事業場で働いた場合は

1日のうちに甲事業場と乙事業場で労働した場合に、それぞれの事業場では法定労働時間内であっても、2つの事業場の労働時間の合計が法定労働時間を超えるときは、後で働いた事業場の使用者に割増賃金の支払義務が生じます。
甲事業場と乙事業場が同一企業、別企業のいずれであっても支払義務があります。

②法定労働時間内の残業の場合は

所定労働時間7時間の事業場で1時間残業するような法定労働時間内の残業については、時間当たりの賃金を支払えば良いとされており、割増賃金を支払う必要はありません。尚、法定労働時間は、1日8時間1週40時間と労基法に規定されています。

③法定外休日の出勤の場合は

労基法の定める割増賃金が必要なのは、4週間に4日の法定休日が確保できなかった場合です。ですので、法定外休日(例えば法定休日が日曜日である週の土曜日)の出勤であれば、休日労働として割増賃金(3割5分以上)を支払う必要はありません。
ただし、1週40時間の法定労働時間を超える場合は、時間外労働として割増賃金(2割5分以上)を支払う必要があります。

4.月給制の場合の平成30年労基法改正後の時間外労働の割増賃金の計算方法

割増賃金の計算手順は、まず「1時間あたりの基礎賃金」を計算し、そこに割増率と時間外・休日・深夜の実労働時間数を掛ける方法によります。
月給制の場合について説明しますと、割増賃金の計算の基礎となるのは「通常の労働時間(労働日)の賃金」で、これを一般的に「基礎賃金」といいます。

基礎賃金の内訳を大雑把にいうと、基本給に各種手当を加えた賃金です。ただし、各種手当のうち、「家族手当」「通勤手当」「別居手当」「子女教育手当」「住宅手当」「臨時に支払われる賃金(結婚手当、私傷病手当、退職金等)」「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等)」は、基礎賃金に含まないとされています。

これを一般に「除外賃金」といいます。労基法において、賃金とは名称の如何を問わず、労働の対象として支払われるすべてのもののことです。わが国の賃金の実態をみると、家族手当、通勤手当など、労働との直接的な関係ではなく、各労働者の個人的事情に基づいて支払われる賃金が多くあります。

これらの賃金も全て割増賃金の算定基礎に含めると、同一職種で同一時間給を得ている労働者の間で、個人的事情に基づく手当の違いによる割増賃金額の差異が出てくることとなり妥当でないところから、労基法では「除外賃金」とされています。
上記より、時間外労働割増賃金の計算方法は次のとおりです。

※1 1年間の所定労働時間の総数を12か月で割って得た時間数のことです。
※2 1か月間に60時間を超える時間分については「1.5」となります。

5.まとめ

残業時間が1ヶ月間に60時間を超えると、割増賃金率が大幅にアップします。頭書のとおり、割増賃金の支払義務の趣旨は、法定労働時間及び週休制の原則の維持と、労働者の過重な労働に対して補償です。

この趣旨に鑑み、作業効率の見直しなど、事業者には残業時間の短縮を図る対応が求められます。事業者の皆様は、今後の労働時間整備について、一度専門家に相談されることをお勧めいたします。

2019.06.17

【不動産】専有部分のリフォーム

Q.私は現在、中古マンションに母と同居しています。将来的に母の介護が必要になることを見据え、床材を全面フローリングに張り替え、段差をなくしたいと考えています。
加えて、防犯対策のために現在の窓枠の内側にもう1枚窓枠を取り付け、二重サッシにすることも検討しています。こういった工事をする場合、管理組合の理事会の承認は必要ですか?

1.問題の所在

区分所有者が専有部分を利用するにあたっては、室内の不具合の補修や、居住する家族構成の変化などに応じた住環境の改善のため、模様替えや家具の取り付け、取り換え、修繕工事などのリフォームが必要となる場合があります。

しかしながら、マンション標準管理規約では、区分所有者は、

・建物の保存に有害な行為
・その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為

をしてはならないと定められています。マンション標準管理規約とは、国土交通省によって、管理組合が各マンションの実態に応じて、管理規約を制定、変更する際の参考として作成されたものです。

そして、リフォームの要否や内容に関する判断を区分所有者へ全面的に委ねた場合、後々管理組合や他の区分所有者との間でトラブルを発生させかねません。こういった状況を回避するため、マンション標準管理規約では、占有部分の修繕等の実施について、以下の規定が定められています。

理事会の承認が必要な場合

まず、専有部分の修繕の実施に際して、管理組合の理事会の事前承認が必要な場合があります。規約は以下のとおりです。

区分所有者が専有部分の修繕等を行おうとする場合、予め理事長に申請し、書面による承認を得なければならない。

① 対象となる修繕の内容

「床のフローリング、ユニットバスの設置、主要構造部に直接取り付けるエアコンの設置、配管(配線)の枝管の取り付け及び取り換え、間取りの変更」等が、理事会による承認の必要な工事として想定されています。
よって、見出しで挙げた「床材を全面フローリングに張り替える」ことは上記に該当するため、理事会の承認が必要になります。

② 申請時に必要なもの

区分所有者が理事会に修繕の申請を行うに際しては、設計図・仕様書・工程表を添付した申請書を理事長に提出することと定められています。施工業者等へ依頼し、必ず準備しておきましょう。

(書式:国土交通省 「マンション標準管理規約」より)

③ 理事会による承認

理事長が区分所有者から修繕工事の承認申請を受けたとき、その申請について、理事会の決議により、その内容を承認するか、それとも不承認とするかを決定します。
 
承認申請時に提出された設計図等をもとに検討することとなりますが、その内容によっては専門的な判断が必要なケースも想定されることから、専門知識を有する者(建築士、建築設備の専門家等)の意見を仰ぐことが望ましいとされています。特に、今回例として挙げたフローリング工事の場合には、床の構造、工事の仕様、使用する材料等により影響が異なるため、専門家への確認の必要性が高いと言えます。
 
また、実際に専門家へ確認を依頼した場合には、区分所有者の提出した設計図等では情報が足りないため、工事予定の箇所を直接視認して調査を実施できる状況にする必要があります。つまり、理事長又はその指定を受けた者(専門家等)は、工事の施工の判断について必要な範囲内で、修繕予定の箇所に立ち入り、必要な調査を行うことが出来ます。調査時には区分所有者の専有部分に立ち入ることとなりますが、正当な理由が無ければ、当該区分所有者は、立ち入りの要請に応じなければなりません。

(書式:国土交通省「マンション標準管理規約」より)

3.理事会の承認が不要な場合

次に、例示したケースの後半で挙げている、「既存の窓の内側に窓枠を設置して二重サッシにする」という工事について検討していきます
 
まず、窓に関わる工事は理事会の承認が必要なのかという点です。区分所有建物における窓は、専有使用権が付着する共用部分であるため、マンション標準管理規約では、窓を対象とする工事のうち、「現在と異なる部材を用いるもの」が、理事会の承認を必要とする工事であると定められています。

よって、例えば、現在設置されている窓ガラスを防音ガラスや強化ガラスの窓へ交換する場合は、「現在の窓を異なる部材(=防音ガラス・強化ガラス)」を用いた他の窓と交換することになるため、理事会の承認が必要となります。

一方、今回例に挙げたケースでは、窓の素材を交換するわけではなく、「内側にもう1枚窓枠を取り付け、二重サッシにする」という工事内容であり、共用部分である窓そのものを修繕したりするものはないため、理事会の承認は不要であるといえます。

しかしながら、窓枠の取り付け工事に限らず、リフォームを行う際には建物を工事業者が出入りすることが想定されます。また、工事の種類によっては騒音や粉塵が発生することもあります。これらの状況が他の区分所有者に何ら告知の無い状況で発生した場合、他の区分所有者に迷惑をかける可能性が高く、後から苦情が発生しかねません。

これらを避けるために、たとえ理事会の承認が不要であっても、工事を実施する際には、
・管理組合へ工事期間や工事の内容、業者名を届け出る
・騒音や振動の発生が予想される場合には、他の区分所有者にもわかる形で工事期間と工事内容を掲示する
・工事予定の物件の上下、また隣戸には、事前に騒音等が発生することを直接伝えに行く
といったような対策を取ることが良いと考えられます。

4.まとめ

区分所有建物内で専有部分のリフォームをする際には、必ず事前に管理規約を確認し、理事会の承認の要否、他の区分所有者に与える影響、事前調査の可能性等々あらゆる点を注意する必要があります。

折角自分がより住みやすい環境を整えるためにすることですから、後からトラブルが発生しないよう心掛けることが望ましいですね。

2019.06.14

【離婚問題】離婚と子供の問題―養育費について―

離婚をすることになった夫婦の間に未成年の子供がいる場合、子供に関する問題を解決しなければなりません。
親権者の決定、養育費の金額や支払い方法、子供の戸籍と姓、面会交流については離婚前によく考えて決めておくことが大切です。今回は子供の養育費について詳しく説明します。

1.養育費について

養育費とは、子供が生活するために必要な費用のことです。衣食住の費用のほかにも教育費、医療費に加え、娯楽費用(お小遣いなどの適度な金額)も含まれます。父母の収入によりますが、一般的には子供を引き取り育てている親に、引き取らなかった親が養育費を支払うケースが多くなります。

例え離婚して親権を有しない親であっても、未成年の子供を扶養する義務があり、子供には扶養を受ける権利があるためです。ですので、養育費は子供から親に請求することもできます。

養育費を支払うべき対象となる子供の年齢については、父母の話し合いで決める事ができます。家庭裁判所の調停や審判の場合は、「子供が成人するまで」とすることが一般的ですが、「高校を卒業するまで」「大学を卒業するまで」とすることももちろん可能です。

2.養育費の金額について

養育費の金額は法律で定められているものではありません。父母の収入や財産、生活レベルなどに応じて話し合いで決められます。離婚後も、親には子供に親と同レベルの生活をさせる義務があると考えられているため、生活に最低限必要な金額を支払えばいいという訳ではありません。

なお、裁判所を利用し養育費を取り決める場合には、「養育費算定表」が参考資料として広く活用されています。養育費算定表とは、夫婦の収入、子供の年齢、人数などから養育費の目安となる金額を示すものです。協議離婚、調停離婚など当事者の話し合いで養育費を決める場合、最終的な養育費は算定表の額を参考にその他の状況を考慮に入れて定められます。

以上のような方法で養育費は決められますが、養育費の支払いは長期にわたるため、将来的に様々な事情により取り決めた養育費の支払いが難しくなるケースがあります。その様な場合は、当初の取り決めた養育費の金額を変更することも可能です。

養育費の変更については、双方の話し合いによって決めることも可能ですし、話し合いがつかない場合は、家庭裁判所に養育費の変更を目的とした「養育費請求」の調停を申し立てることになります。ただし、当初取り決めた養育費の金額を変更するためには正当な理由が必要です。

《養育費を増額する場合の正当な理由の例》
■子供の進学や授業料の値上げによって教育費が増加した
■子供の病気やケガで多額の医療費がかかる
■監護者の病気やケガで収入が低下した
■リストラや会社の倒産などで、監護者の収入が低下した 等

《養育費を減額する場合の正当な理由の例》
■リストラや会社の倒産などで、支払う側の収入が低下した
■監護者が再婚や就職などで、経済的に安定した 等

3.養育費について決めたなら…

養育費の支払いは長期間に及ぶため,養育費の支払い義務を負う親の経済状況や生活環境の変化で、養育費が途中から支払われないというトラブルも多くあります。そのため、離婚時に養育費の内容が取り決められた場合、口約束だけでなく文書化することをお勧めします。後に養育費について「約束した」「していない」の水掛け論になることを避けるためです。

文書には、①支払いの期間(例:子供が満○歳になる月まで)②金額(例:子供一人につき●円)③支払い方法(例:毎月●日までに●●の口座に振り込む)を必ず明記しましょう。また文書については公正証書で作成することが望ましいです。当事者間で作成した念書、合意書等の文書では、記載内容に不備があり後々文書の有効性を争われることもあります。

また、養育費の未払いが発生して、相手の給与等の財産を差し押さえるにしても、公正証書が無ければ、例えば、訴訟を提起したり、養育費調停を申し立てる等して、債務名義を取得してからでなければ強制執行の手続きに移行できません(公正証書以外の債務名義の取得については、4.で具体的に説明致します)。

その点、公正証書は公証役場で公証人の助言を受けながら作成できるため、法的に不備の無い内容での作成が可能となります。また、公正証書には強制執行認諾文言が付いていることが一般的であり、強制執行認諾文言がある場合、養育費の未払いがあった場合に訴訟の提起等を挟まずに、強制執行の手続きが可能となります。

4.養育費の支払いが滞ったときの対応

養育費の未払いが発生した場合には、手紙や電話などで支払いの催促を行います。それでも支払われない場合は、養育費をどの様な方法で定めたかによってその後の方針が変わってきます。

協議離婚で離婚協議書は作ったものの、協議書を公正証書にしていない場合は、強制執行をすることができません。なので、まず、相手方の所在地を管轄する家庭裁判所に「養育費請求」の調停の申立てをします。調停でも解決しない場合は審判に移行します。調停や審判で解決すると、「調停調書」「審判書」が作成されます。その後も支払いがない場合には、この「調停調書」「審判書」を債務名義として、「強制執行」ができるようになります。

ここで、強制執行は相手方(債務者)の預貯金や不動産、給与、退職金、賞与といった財産の差押を行い、支払いを受ける権利のある人(債権者)がそこから取り立てることができる制度です。給与の差押えの範囲は、一般の債務では給与の4分の1までですが、子供の養育費や婚姻費用などについては給与の2分の1まで差押えることが可能となります。

強制執行は調停離婚、審判離婚、判決(裁判)離婚、和解離婚のほか、協議離婚の場合でも養育費の支払いについて執行文認諾文言付公正証書を作成していれば申し立てができます。ただし、差し押さえるべき相手方の財産を把握できていなければ強制執行をすることはできません。強制執行を申し立てる場合には、差し押さえるべき財産を調査する必要があります。

また、調停離婚、審判離婚、判決(裁判)離婚、和解離婚で養育費の支払いについて取り決めがある場合は、家庭裁判所の「履行勧告」「履行命令」制度を利用しましょう。履行勧告を裁判所に申し立てると、裁判所が支払い状況を調査し、相手方に支払うように説得、勧告します。申出に費用はかかりません。

ただし、法的な強制力はありません。相手方が勧告を受けても支払わない場合は、裁判所が期限を決めて支払いを命じることができます。これが「履行命令」です。法的な拘束力はありませんが、相手方が支払わない場合は10万円以下の過料が課せられます。

5.おわりに

養育費の支払い期間は長いものだと20年以上になるものもあります。この20年の間に養育費を支払ってもらう権利がある側も、養育費を支払う義務がある側も様々な変化が生じると思われます。養育費について取り決めたときには予想していなかった状況の変化が生じることもあるでしょう。

その時は、冷静になって適切な対処をとることが大切です。養育費の算定、未払養育費の請求について当事者で全ての決定をすることも可能ですが、子供にとって最も良い選択をするために一度専門家に相談することをお勧めします。

2019.06.14

企業が備えておくべき試用期間のリスク

多くの企業では、本採用前に一定の試用期間を置き、面接では知り得なかった社員の能力や適性を見極める期間を設けています。実際に試用期間とは、どのような目的で設定されており、試用期間中の雇用契約はどうなっているのでしょうか?

また、企業は試用期間中の従業員に対して、解雇や試用期間の延長、本採用の拒否などを行いたい場合はどのような点に気を付けなければならないのでしょうか?今回は企業が理解しておくべき試用期間の法的性質についてご説明いたします。

1. 試用期間とは法的に見てどのような雇用形態なの?

試用期間は、正社員に限らず、アルバイトやパート、契約社員などに対しても設けることが可能です。企業は試用期間を定める場合には、期間を明確に定めなければなく、「〇ヵ月前後」といった不明確な取り決めは認められていません。

試用期間の長さについて制限する法律は定められていませんが、過去に1年を超える試用期間を設けたケースは、公序良俗違反と判断され試用期間が無効となった裁判例があり、過度に長期となる試用期間の設定は認められないものと考えられます。(裁判例:名古屋地判昭59.3.23)

では、試用期間中の企業と従業員の雇用契約は厳密にどの様な状況になっているのでしょうか?試用期間中の雇用契約は「解約権留保付労働契約」が締結されていると考えられています。「解約権留保付労働契約」とは、企業が従業員を解雇することが出来る解約権を有している労働契約を意味しています。ただ、企業側が解約権を有しているからといって、何の制限もなく企業側が従業員を解雇できるというわけではありません。

試用期間中の従業員の立場は、不安定で不利な立場であり、試用期間中は他の企業へ就職する機会を放棄している状態になります。よって、企業が試用期間中の従業員に対して解雇や延長を行うのであれば、客観的で合理的な社会通念上相当の理由が必要です。

次からは、企業が試用期間を延長する場合及び試用期間中に解雇を行う場合について具体的に見ていくことにします。

2. 試用期間の延長は法律に違反するの?

試用期間が終了したときに企業側が本採用とするか否かの判断がつかずに、試用期間を延長してもう少し様子を見たいといったケースもあると思います。その様な場合、試用期間を延長すること自体は法律に違反しませんが、次の点に注意しなければなりません。

① 就業規則や雇用契約書などに試用期間を延長する可能性を明記しておくこと
② 試用期間の延長について従業員との間で合意がなされたこと
③ 客観的で合理的で社会通念上相当性のある理由があること

以上3点については企業側が試用期間の延長という選択をする場合に必ず守らなければならない事情となります。もし、これらを守らずに一方的に試用期間の延長を決定した場合、従業員から試用期間の延長の是非について争われ、その結果試用期間の延長を無効と判断されるケースもあるため注意が必要です。

ここからは、上記の各注意点についてもう少し詳しく説明することにします。
前述した通り、試用期間中の従業員は非常に不安定な立場であるため、企業は試用期間の延長が可能であること、及び延長する場合の期間などを、予め就業規則や雇用契約書などに明記しておく必要があります(①)。

また、従業員との間で試用期間の延長について合意がなされていなければなりません(②)。ただ、仮に従業員との間で合意がなされたとしても、試用期間については延長前の期間を含めて最長でも1年以内であるべきと考えられています。試用期間の延長について合意がなされたとしても、延長前の試用期間がリセットされるわけではありませんので、気を付けましょう。

最後に、試用期間の延長には、客観的で合理的な社会通念上相当性のある理由が必要になります(③)。延長の理由が認められる可能性が高いとされる例は、従業員が何らかの理由により長期の欠勤があり試用期間中に従業員の適性を見極めることが難しいケースや、業務内容の変更に伴い改めて適性を見極める必要性が認められるケースなどが挙げられます。

3. 試用期間中の解雇はできるの?

試用期間中において、企業は解約権留保付労働契約に基づく解約権を留保しているため、一定の「解雇の自由」が認められています。しかし、どの様な理由でも解雇が認められるわけでは無く、試用期間の延長と同じように「客観的に合理的で社会通念上相当と是認できる」場合に限られています。具体的には、重大な経歴詐称、正当な理由なく遅刻・欠勤を繰り返す場合等です。

また、試用期間の開始から14日を経過して解雇する場合、本採用後の社員を解雇する場合と同様の手順を踏む必要があります。解雇という判断をした場合には、従業員に対し解雇日の30日前までに解雇予告を行うか、解雇予告を行わなかった場合には従業員に対して「解雇予告手当」を支払う必要があります。

もし、企業側が本採用をしない決定をした場合でも、企業側の意思表示が従業員に明確に伝えられていないまま試用期間を終えると、従業員は本採用になったものと判断されます。試用期間に解雇を判断した場合は、試用期間が経過する前に従業員へ解雇の意思表示を行いましょう。
 

4.まとめ 

企業側にとって試用期間を設けることは、正確な採用判断を行うことが可能であり必要な期間となります。しかしながら、予め就業規則や雇用契約書を整備しておかなければ、試用期間の運用を誤った場合の企業へのリスクを防ぐことはできません。

就業規則や雇用契約書を不備の無いようにきちんと整えることで、リスクから会社を守るツールとして役立てましょう。就業規則の整備等については、法的な知識が必要となるため一度専門家へ相談することをお勧めいたします。

2019.06.12

ハンコの種類と特徴

会社や家、銀行など様々な場面で使う機会のあるハンコ。どんな種類があるのか、特徴は何なのか、知っていますか?

まず、ハンコとは何でしょうか。よく、「ハンコお願いします。」「ハンコ押してください。」と言ったり言われたりすることがありますよね。このハンコとは、あの小さな物体のことなのか、それとも紙についたインクのことなのか、どちらのことを指しているのでしょうか?

1.「ハンコ」とは?

実は、私たちがよく言う「ハンコ」とは、物体のことで、「印章」と呼ばれるものになります。紙についたインクの方は「印影」と呼ばれています。分かりやすく言うと、「ここにハンコお願いします。」のハンコは、「印影」、「ハンコ買わないと。」のハンコは「印章」のことなのです。
ちなみにハンコと同じくらいよく使う言葉である「印鑑」とは、市区町村に印鑑登録を行った「印章」のことを指し申請をすれば証明書がもらえます。「実印」とも言います。

このように、ハンコひとつでも、「印章」「印影」「印鑑」などいくつかに分けることができるのです。

2.「ハンコ」のもつ力

普段の生活の色々な場面でハンコを使いますが、なぜ書類や契約書など手続きを行うのにハンコが必要なのでしょうか?
日本は「ハンコ文化」と言われるほど、何かとハンコが必要とされます。銀行に行って手続きをしようと思ったら、「登録されているハンコと違うので手続きができません。」と言われたり、後日これだ!と思って違うハンコを持って行ったのに、また違うハンコだと言われ、どのハンコが正解なのか分からなくなってしまった経験が1度はあると思います。

免許証や保険証で本人確認をせず、登録されているハンコで手続きできるかどうかが決まるほど、日本ではハンコのもつ力が大きいのです。

例えば3,000万円の借用書があり、そこに自分の印影があったとします。そして、借用書の印影が、自分の印章によって顕出されたものであるときは、事実上その印影は自分の意志に基づいて顕出されたものとだと推定されます。その結果、自分が3,000万円という大金を借りたことが推定されてしまうのです。
例え自分がハンコを押したのではなく、誰かが勝手に押していたとしても、です。

では、ハンコにはどれくらいの種類があるのでしょうか?3では、ハンコの種類と、それぞれの特徴についてみていきたいと思います。

3.「ハンコ」の種類と特徴

ハンコにはどんな種類、特徴があるのでしょうか。
初めに、個人が使うハンコについてです。主に、実印、銀行印、認印、そしてシャチハタがあります。

実印:
市区町村に登録を行い、申請をすれば証明書がもらえるもの。
登録するには本人確認が必要で、証明書を出してもらうにも、身分証明書による本人確認が行われる。

銀行印:
銀行や信用金庫などの金融機関に印影を届け出ているもの。
預金を払い戻してもらう際に、お金を受け取る人が本人かどうかを確認するために必要。

認印:
印鑑登録をしていないハンコ全般のこと。
書類に確認や承認の証明としてよく使われる。

シャチハタ:
使う度に朱肉をつかって捺印するのではなく、印章自体にインクが入っている「浸透印」のこと。認印に含まれる。
シャチハタとよばれているが、シャチハタとは製造しているメーカーのことで、重要な書類や公的な場面などでは使うことができない。

上記のように、個人が主に使う印鑑だけでも4種類存在します。

では次に、会社が使うハンコについてお話します。種類として、代表者印、社印、割印等があります。

代表者印:
会社の実印のことで、会社を設立する際に法務局に登録したもの。
印鑑証明は法務局で発行することができ、丸印と呼ばれることもある。
「株式会社〇〇 代表取締役印」と彫られていることが多い。

社印:
会社の認印のこと。会社の認印として、主には注文書や請求書などの社外文書の他、稟議書などの社内文書に用いる。角印と呼ばれることもある。
「株式会社〇〇之印」と彫られていることが多い。

割印:
複数ある書類にまたがって押すハンコのこと。
書類が2部になる場合などに、同一、関連書類であることを証明するために押す。割印を押しておくことで、「契約書」を作成したあとに、内容を改ざんされるリスクを回避することができる。
「株式会社〇〇之印」と彫られていることが多いが、形は押しやすいように、縦長になっている。

以上が、会社でよく使われるハンコになります。
ハンコによって、持つ効力や役割も異なりますので、それらについては、次回お話ししたいと思います。

4.まとめ

今回は、ハンコとは何なのか、種類や特徴にはどんなものがあるのかについてお話ししました。
普段よく使うハンコですが、種類や呼び方など意外と知らないことばかりですし、この契約書だからこのハンコを押す、これは認印でも大丈夫なものだから社印を押す、などといった覚え方をしている方も少なくないと思います。

きちんと、それぞれのハンコについて知っておけば役に立つ場面がたくさんあると思いますので、この記事を読んで今後の生活に生かしていってください。

2019.06.11

テレビ番組制作において気をつけるべきポイント~未成年者の実名報道編~

テレビ番組などでは、未成年者が起こした事件について実名などを伏せて報道されているかと思います。
なぜ匿名でなければならないのでしょうか。また、過去に起きた事件の中には、未成年である被告人に死刑判決が下された後から一部メディアで実名報道されるということもありました。
そこで浮かんでくる疑問は、未成年者の実名報道についての特例や、例外があるのか、ということです。以下では、未成年の犯罪に関する報道について見ていくことにします。

1.未成年の犯罪についての報道と少年法

(1)少年法61条

少年法61条では、「記事等の掲載の禁止」として下記のように未成年者の報道について定めています。

第六十一条 家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。

※ここでいう「少年」とは、20歳未満の男子女子すべての未成年者を意味しています。

(2)テレビ報道と少年法61条

未成年者の犯罪等が発生し逮捕された場合、新聞などでは少年法に基づき匿名で報道されています。しかしながら、テレビ報道は、出版物ではないため、同条の適用はないのでしょうか。新聞と並び記載されている「その他の出版物」について、テレビ報道が含まれないのでしょうか。

現在、テレビ局の報道番組では実名を伏せ、「18歳男子が殺傷事件を起こし逮捕された」というような報道を耳にするかと思います。同条の「その他の出版物」の中に、雑誌やテレビ局、いわゆるメディア全般が行う報道も含まれるとする裁判例があり、現在はこれに基づいてテレビ局も報道を行っています。
多くのテレビ局はこの少年法61条を重視しており、自局のガイドラインで報道について細かく定めるなどし、後述する死刑や死亡の場合を除いて、現時点では実名報道をしないとしているようです。

(3)「推知することができる」とは?

「推知」という言葉自体、あまり聞きなれないかもしれませんが、文字通り推測して知ることができるかどうかという意味です。そして、判例によって同条の「推知」は、「不特定多数の人間が、その報道によって本人を推察し知ることができるかどうか」と解釈されています。

例えば、報道番組の中で、未成年被疑者についての詳細が放送されたとします。
被疑者がどんな人物であったかという部分で、被疑者の職歴や友人、知人との関係を放送しても視聴する多くの人は、本人を推察し特定することはできないため、少年法的には問題ないとされます。
ただし、被疑者本人を知っている者が、この放送で言われている内容で、本人の名前や顔などが推知できる場合、肖像権やプライバシーの侵害にあたる可能性もあります。

少年法61条には罰則がなく、違反しても刑事責任は問われませんが、民事上の責任(賠償責任)を問われることも過去の裁判例ではあるようです。
事例として、ある週刊誌が、被疑者である少年の職歴、交友関係、非行歴、法廷での様子を記した記事を掲載したため、被疑者である少年が、当該週刊誌の出版社を相手取り、少年法61条違反と肖像権・プライバシー権の侵害を主張して損害賠償を求めたケースがあります。

上記の事例で裁判所は、不特定多数の一般人からしてみれば、面識のない少年について、この記事だけでは本人を特定することはできないとして、少年法には違反しないと結論づけました。
しかしながら同じようなケースで訴訟となった際、民事上の責任を負うという判決も示された事例もあり、すべての裁判例が同様であるとは言えない現状となっています。

2.少年法をどこまで適用させるのか

さて、少年法61条に基づくと、犯行時に未成年だった場合、永久に匿名のまま取り扱われるということになります。これを、どこまで匿名報道し続けるのか、どういった場合に実名報道に切り替えるのかは、テレビ局によって違いがあるようです。

多くのテレビ局が、実名報道に切り替えるケースとしては、
・被疑者・被告人が死亡したとき
・被告人の死刑が確定したとき
が多く、なぜ切り替えるのかを明確に説明した上で実名や顔写真を報道しています。その理由としては、
・死刑の対象は明らかに報道すべきであるという指針
・社会復帰の可能性が事実上消失したこと
・事件の重大性、社会に与える影響を考慮した
などという点を挙げています。

当時18歳の少年が起こしたいわゆる光市母子殺害事件では、少年に死刑判決が言い渡された後、社会復帰の見込みがなくなったとして実名報道に切り替えるメディアと、再審の可能性もあるなどして、匿名報道を続けたメディアとで対応が分かれました。
当時の法務大臣や法務省は、上記のような理由に基づき行う被告人への実名報道に対しては、経緯を説明して行っているので、一定程度の理解はできると会見しています。

3.まとめ

テレビ局などのマスコミは、ガイドライン(放送指針)を定めています。
特にNHKや民放連のガイドラインは未成年の実名報道がどんな時になされるのか、などを詳しく表記しています。テレビ事業に新規参入するなど、ガイドラインを新たに策定する場合や、現在のガイドラインを見直しする際には参考にするとよいでしょう。

警察庁の調査によると、1900年代と比較して2000年代以降、未成年者による犯罪は減少傾向にあるようです。しかしながら、未成年の凶悪犯罪は依然として注目を集めやすく、社会に与える影響も大きいものです。
取り扱う場合には十分注意を払い、法的な問題やガイドラインに抵触していないかをよく確認するようにしましょう。

2019.06.10

起業する前に知っておくべきこと1~注意点~

「起業したい!」と思った場合、「今勤めている会社を辞めずに起業しても大丈夫?」「法人を設立すべき?それとも、個人でやっていくべき?」といった様々な疑問が浮かんでくるのではないかと思います。
そこで、今回の記事から数回にわたり、起業する方または起業するかどうか悩んでいる方に、実際に起業をする前に知っておいていただきたいことについてご説明します。

1. 会社勤めの人が起業するときの注意点

今、どこかの会社で働いている人にとっては、一口に「起業する」といっても、(1)会社を辞めて起業する(独立)、(2)会社は辞めずに起業する(副業)という2つの選択肢があります。以下では、選択肢ごとに注意点を見ていくことにします。

(1)会社を辞めて起業する(独立)

今勤めている会社を辞めて起業する場合、いくつか気を付けなければならないことがあります。

住民税や国民健康保険料は前年度の収入に基づいて決まる
⇒会社を辞めてから収入が減ってしまうということは十分に考えられます。しかし、納付する住民税、国民健康保険料は、前年度の収入、つまり会社勤めで収入が多かった頃の金額に基づいて決定されます。収入が減ってしまう可能性を考えて、余裕を持って貯金しておきましょう。

起業したばかりだとクレジットカードが作りにくい
⇒クレジットカードの作成を申し込んだとき、クレジットカード会社は「この人はちゃんと貸したお金を返してくれるかな?」という点を見て判断します。会社勤めの頃は、安定した収入がありますが、起業してすぐだと何の実績もなく信用度は低いため、審査に必ずしも通るとは限りません。
しかし、事業がうまくいかず資金繰りをしなければならないという状況になることもあり得ます。それを見越して、会社を辞める前にクレジットカードを作っておきましょう。

家の購入や引っ越しが難しくなる
⇒クレジットカードの作成申し込みと同様に、家を購入するときや引っ越しをするときにも、不動産会社はその人が信用できるかどうかを見ています。会社勤めの場合は、源泉徴収票を見せれば大丈夫なところが多いですが、起業した場合は源泉徴収票と会社の決算書が必要となることが多いです。

それらに記載されている金額で信用度が変わってくるので、会社勤めであればある程度の信用は得られます。しかし、「起業したもののあまり事業がうまくいっていない…」という場合、どうしても信用度が低くなるため、家の購入や引っ越しは当分難しいかもしれません。クレジットカードの作成と同様、家の購入や引っ越しを考えている場合も、会社を辞める前に済ませておきましょう。

(2)会社は辞めずに起業する(副業)

(1)に対して、今の会社で働きながら起業するということも考えられます。例えば、今働いている会社の休日に活動するといった場合です。この場合も、注意すべき点があります。

副業が禁止されていないか確認
⇒会社によっては、業務への影響や、利益相反等を理由に副業を禁止していることがあります。会社を辞めずに起業したいという場合は、まず、会社において副業が禁止されていないかどうか、就業規則などの規程を見て確認しましょう。

会社に副業がばれてしまう可能性がある
⇒もしかすると、「副業は禁止されていないけれど、なんとなく会社にばれるのは嫌だ」という方もいらっしゃるかもしれません。しかし、確定申告のやり方によっては、会社に副業がばれてしまう可能性があります。
(確定申告とは、毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた全ての所得と、その所得にかかる所得税を計算し、精算する手続きのことです。)

基本的に、従業員の住民税は、給与から天引きをして、会社から市町村に納付します。この天引きは、毎年5月頃までに会社に送られてくる特別徴収税額決定通知書をもとに行われます。そのため、会社から支給されている給与と副業で得た収入を合算して確定申告をしてしまうと、それに基づいた住民税額が会社に通知されてしまいます。この通知書を見て、会社が支給した給与よりも総所得額が多いことが発覚して、会社にばれてしまうというわけです。

このような事態を防ぐために、確定申告の際に、副業の収入について「普通徴収(給与から天引きするのではなく、自分で納付する)」を選択すれば、納付書によって別途自分で納付することになるので、会社にばれにくくなります。

ただし、会社との思わぬトラブルを避けるためには、副業を禁止する定めの有無にかかわらず、事前に会社に相談することをおすすめします。

2. 個人事業と法人の違い

1を踏まえて、早速起業しようと考えた方に質問です。個人事業と法人の違いをご存知ですか?「個人事業と法人って何が違うの?どっちにすればいいの?」とお思いの方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
個人事業とは、会社を作らず個人で行う事業のことをいいます。俗に言う自営業のことです。これに対し、法人は想像しやすいかと思いますが、会社のように、法律上別の人格が認められたもののことをいいます。

では、個人事業で始めるか、法人を設立して始めるか、どちらが良いのでしょうか。

一概には言えませんが、個人事業と法人にはこのような違いがあります。どちらにも良い点、悪い点があるので、「絶対にこっちにすべき!」と言い切ることは難しいです。両者を比較して、自分にはどちらが合っているか考えてみましょう。

3. まとめ

今回は、会社勤めの人が起業するにあたり気を付けるべきことと、個人事業と法人の違いについてご説明しました。
「何事も早いに越したことはない!」と考え、急いで起業の準備を始めたい方もいらっしゃるかもしれませんが、起業には金銭面など多くのリスクがあります。「ちゃんと考えてから動けばよかった…」と後悔しないように、この記事を参考にしていただければ幸いです。

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