弁護士コラム

2019.06.07

【離婚問題】離婚と子供の問題ー親権についてー

未成年の子供がいる夫婦の離婚では、親権、養育費、子供の姓、面会交流等の様々な内容について決めなければなりません。

今回は親権に関わる部分に特化して説明したいと思います。

1.親権者の権利

未成年の子供がいる夫婦の離婚では必ず親権者を決めなければなりません。親権の取得を簡単に説明すると、子供を引き取り育てていく権利という理解が一般的ではないかと思います。では、実際には親権の取得により具体的にどの様な権利が発生するのでしょうか?代表的な権利として2つの例を挙げます。

① 身上監護権
子供の衣食住にかかる日常の世話、教育やしつけをする権利・義務。

②財産管理権
子供の財産を管理し、契約等の財産管理に関する法律行為を代理で行う権利・義務。

以上2つの権利は、子供を育て教育すると同時に、金銭管理と未成年の期間における契約行為を代理で行うという権利です。両方の権利とも子供を育てるにあたり必ず必要な権利になります。
また、親権のうち、①身上監護権には次のような内容も含まれています。

㋐子供の住む場所を指定する権利
㋑子供が悪いことをしたときに注意し罰を与える権利
㋒子供が仕事をするときに判断し許可を与える権利

以上、親権に含まれる代表的な権利を紹介しました。このように、親権と一括りになっているものの、本来は細かい権利を複合して親権という言葉が成り立っています。

2.親権者の決定

離婚では親権の取得が最大の争点となり、離婚に際し取り決めるべき事項のうち、その他の問題点については全て合意していても親権の問題がネックとなり、離婚手続が長期化、複雑化するケースは少なくありません。
離婚手続には、協議離婚や調停離婚等、段階に応じて各手続が用意されていますが、親権の問題が各離婚手続へどの様に影響するのかを簡単に説明します。なお、各手続の詳細は別記事で改めて説明していますので、そちらをご参照ください。

① 協議離婚
協議離婚では、当事者が離婚届を市町村役場へ提出し、役所から受理された場合に離婚が成立します。提出する離婚届の必要記載事項には、親権者の欄があり、夫婦のうちどちらが親権者になるかを明記する必要があります。
もし、親権者の欄が空欄であれば離婚届は受理して貰えないため離婚自体が成立しないことになります。夫婦間で話し合って親権者を決定出来ない場合には、協議離婚での解決はできないため、離婚手続は離婚調停へと進んでいきます。

② 離婚調停
調停離婚は、家庭裁判所を利用し、調停委員という第三者を介して離婚の内容や条件を話し合う手続となります。真っ向から親権が争われる場合は、家庭裁判所の調査官が選任され、夫婦のどちらが親権者として適切かの調査が行われ、調査結果を基に協議を行う場合も多いです。
ここで親権者について合意することが出来れば問題無いのですが、あくまでも話し合いであり、裁判所が親権者を指定することはできないため、お互いに主張が対立した場合は不成立となり審判、若しくは訴訟に移行します。

③ 審判
審判離婚は、離婚やその条件の大筋については当事者間で合意がまとまっているものの、合理的な理由によらずに細かい点について合意がまとまらない場合に、裁判官の決定で離婚、親権を含めたその他の諸条件を決定することが出来る手続きです。親権で互いの主張が真っ向から対立している場合に裁判所が審判を出すケースはほとんどないと思われます。
また、審判の通知を受け取ったとしても異議申し立てにより審判の効力を失わせることが可能なため審判で離婚が決定するケースは離婚手続全体の割合から見ても少ないです。審判の効力が失われると、次は離婚訴訟となります。

④ 離婚訴訟
調停の不成立、審判の取り消しから移行するのが離婚訴訟です。訴訟では実際に裁判期日が開かれ、裁判官が離婚の成立を認める判決を出した場合には親権者等の諸条件も合わせて決定されます。

 

以上、①から④で分かるように離婚手続きにおいて親権者を話し合いで決定できるのは②の離婚調停の段階までで、審判、訴訟となると裁判官が決定権を持つことになります。
家庭裁判所が親権者を指定するときの傾向として、子供が乳幼児の場合は母親が優先されています。母親に育児放棄、虐待等で子供を養育出来ないことが明らかな場合などの特別な事情が認められる場合は、父親が親権者に指定されるケースもあります。

そして、家庭裁判所は子供の現在の生活環境を維持することを優先的に考えられています。裁判所を利用して離婚手続を進めている夫婦は別居しており、子供は夫婦どちらかが監護していることが一般的です。その様な状態で、裁判官が現在監護していない親を親権者として指定した場合には、子供にとっては家、同居人などの生活環境全般、保育園や小学校などに通っている場合は周辺との関係性も含め大きく変わることになるため、子供への負担を強いることになってしまうためです。

では、仮に子供が2人以上いるケースでは、親権者はどの様に指定されるのでしょうか?子供が2人居る場合には、子供1人1人につき親権者が定められます。そして、兄弟姉妹は同一の親権者が指定されることが一般的です。

また、子供が満15歳以上であれば、裁判所は親権者の指定について子供の意思を確認することが義務付けられています。仮に15歳未満であった場合でも発達状況により子供の意思が親権者の指定に大きな影響を与えることは多々あります。

もし、子供を妊娠している間に離婚することになってしまった場合はどうなるのでしょうか?その時点では子供生まれていないため、親権者という立場も存在しません。そして、この様な場合では原則として生まれた時点で母親が親権者となります。もしろん、生まれた後に親権者を父親に変更する手続きも可能となります。

稀なケースとしては、親権から身上監護権(子供の世話や教育に関する権利、義務)を分けて親権者と監護者(監護権者)に分ける事で解決をはかることもあります。このケースでは、監護者が子供を引き取り日常的な世話や教育を行っていくことになりますが、あくまでももう一方の親が親権者として親権の内、他の権利を有することとなります。

3.離婚後の親権者の変更について

離婚時に定めた親権者を後日変更することは可能です。しかし、元夫婦間の話し合いだけで全てを決定できるわけではありません。もし、話し合いで簡単に親権者を変更出来てしまうと、その都度子供の生活環境が大きく変わるため、子供に不利益を与える結果となります。

その様な状況を防ぐために親権者を変更したい場合には、家庭裁判所へ親権者変更調停の申立てを行う必要があり、調停が成立すれば親権者を変更することが可能となります。調停が不成立となった場合には審判に移行することになります。
親権者の変更が認められるには主に次のようなケースが考えられます。

①親権者が病気等により子供の世話が不可能となった場合
②子供への虐待が認められる場合
③子供の養育環境が著しく劣悪な状態であるとき
④ その他、親権者の変更が子供にとって必要であると認められるとき

親権者の変更が確定したら、確定した日から10日以内に市町村役場へ「親権者変更届」を提出します。なお、親権者と監護者がそれぞれ分かれているケースで、監護者のみを変更したいとうときは当事者の話し合いだけで変更をすることが可能です。

4.おわりに

以上のように親権者の決定は離婚手続全般と大きく連動しており、互いに影響を及ぼしています。また、一度指定された親権者を後日変更するには一定の条件があるため簡単ではありません。離婚時の親権者の決定は、その後への影響を考えると互いに簡単に折り合いがつかないケースが多いです。

加えて、親権の問題は互いに感情面の対立に発展するケースが多く、本来は対立していなかった部分まで問題化してしまうこともあります。その様な事態に陥る前に、弁護士に問題点の整理や見通しなどを相談することも解決策への1つとなります。

2019.06.04

標準報酬月額②~算定基礎届(定時決定)のポイント~

毎年6月ごろに年金事務所から届く「算定基礎届」。今年もこの時期がやってきました。毎年1回、実際の報酬と標準報酬月額が大きくかけ離れないように、「算定基礎届」を提出しなければなりません。全員提出すればいいというものでもありませんので、しっかり要件を確認してみましょう。
ちなみに、提出期限は、7月1日~7月10日ですので、ご注意ください。

1.定時決定とは

原則として毎年7月1日現在の被保険者全員が対象となり、標準報酬月額の見直しを行います。これを、定時決定といいます。

▼定時決定(健康保険法41条)
標準報酬月額は、原則として、当然被保険者全員について毎年1回決定され、その決定された標準報酬月額が、1年間使用されます。
(1)算定方法

定時決定の算定の対象となる、4月・5月・6月のことを「算定基礎月」と言い、算定基礎月に支払われた給与(報酬額)を対象とします。
この金額を、期間の月数で割った額を報酬月額として、標準報酬月額を決定します。

例:末日締め、翌月10日払いの場合
4月…4月10日支給 21万円
5月…5月10日支給 18万円 → 合計60万円÷3か月
6月…6月10日支給 21万円   =平均20万円

支払われた給与・・・?どの手当を含むの?こちらの記事に詳しく解説があります。

標準報酬月額①~基礎知識と報酬に含む手当~ はこちらから

4・5・6月の給与が多いと、その後1年間の社会保険料が高くなります。
7月以降の給与が少なかったとしても、この3ヶ月で算出された社会保険料は基本的に変わらないので、4-6月は極力残業を少なくすることをお勧めします。
しかし、業務の性質上、4-6月に残業や歩合が多く発生することが見込まれる場合については(算定基礎月とその他の月を比べて2等級以上の差がある場合)、「定時決定の特例」として扱われ、年間平均額を算出し、別途、理由を記載した申立書や同意書を提出し、年間平均額にて決定することもできます。

(2)支払基礎日数

「支払基礎日数」とは、給与を起算する基礎となった日数のことをいいます。
間違えやすいのが、4月・5月・6月に出勤した日数ではなく、それぞれに支払った給与の計算基礎となった日数となります。つまり、4月支給分の基礎日数は3月勤務分となります。

フルタイム勤務の場合
 4月…31日
 5月…30日
 6月…31日
(3)算定の対象月

①支払基礎日数(出勤日数)が17日以上ある月を計算の対象とします。

②短時間労働者:同一の事業所に使用される通常の労働者の、1週間の所定労働時間の4分の3未満、又は、1か月間の所定労働日数の4分の3未満であるときは、11日未満
※4分の3以上であれば、短時間労働者でも①と同様に17日。

③月給制:支払基礎日数の暦日数、休日や有休休暇も含み、欠勤は含みません。
     所定労働日数が20日で、2日欠勤した → 18日(支払基礎日数)

④日給制・月給制:支払基礎日数の出勤日数に有給休暇を足した日数。

⑤17日を満たしていない月は?(短時間労働者かつ4分の3未満の人は11日)
支払基礎日数が17日未満の場合は、算定の基礎から外して、給与を平均します。
 例:4月は20日勤務 5月は18日勤務 6月は15日勤務
 →17日未満となる、6月を除き、4月と5月だけで給与を平均します。

(4)「算定基礎届」の提出が不要な人

7月1日現在、被保険者である人で以下に該当する人は定時決定を行いません。

6月1日から7月1日までの間に被保険者の資格を取得した人
 →定時決定ではなく、入社時決定方法で標準報酬月額が決まります。
 →7月1日に退職した人は、届出が必要です。

②4~6月に賃金の変動があり、7月~9月に標準報酬月額が随時改定される人、又は、産前産後休業や育児休業等を終了した際に標準報酬月額を改定される人。
 →定時決定ではなく、「月額変更届」が優先されます。
  4月や5月に昇給降給し2等級以上変更となる人は、9月の定時決定を待たずに、「月額変更届」と同様の改定となります。
 →産前産後・育児休業の方は、終了した後に提出する、報酬月額変更届により決まります。

(5)届出までの流れ

<有効期限>
定時決定によって決定された標準報酬月額は、原則として、その年の9月から翌年の8月までの各月の標準報酬月額とする。

2.事務手続き

届出先 管轄する年金事務所
期日 7月1日~7月10日
必要書類 健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届
※70歳以上の方は、「厚生年金保険 70歳以上被用者算定基礎届」を提出します。
添付書類 健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届総括表
注意1 算定基礎届出用紙は、管轄の年金事務所より事前に郵送で届きます。
被保険者1人ひとりについて、氏名・生年月日など印字されています。退職者の記載があったり、入社した人が記載されていないことがありますので、注意が必要です。
注意2 提出が不要な人やその他記載が必要な方は、備考欄に記載しましょう。
パートや短時間労働者な、備考欄の確認は必須です。

 

3.まとめ

算定基礎届出用紙がまだ届いていない場合は、管轄の年金事務所へ問い合わせてみましょう。「算定基礎届出」は、被保険者の報酬額に応じた保険料を算出する大切な作業ですが、各事業所の報酬の支払い状況や被保険者数などを年金事務所が把握する為というのも兼ねています。
提出が遅れたり金額を間違えると、本人たちが迷惑することもですが、会社も後日精算した金額を支払ったり手間となりますので、期限内の提出、適正な記入を行いましょう。

2019.05.31

クーリング・オフ期間を過ぎて契約を解除するにはどうするの?

前回、『一度結んだ契約が取り消せる?「クーリング・オフ制度」とは?』の記事で、エステの契約をし、契約書面を受領した日から8日間がクーリング・オフ制度の対象期間となり、その期間を過ぎてしまうと、原則としてクーリング・オフはできない、ということをご説明しました。
しかし、クーリング・オフできないからといって、契約を一切解除できないわけではありません。
今回は、クーリング・オフ以外に商品購入の契約を解除する方法を見ていきましょう。

1. 中途解約

まず1つ目の契約解除の方法が中途解約です。
クーリング・オフ期間が過ぎても中途解約できることが、特定商取引法第49条で定められていて、以下のように記されています。

役務提供事業者が特定継続的役務提供契約を締結した場合におけるその特定継続的役務の提供を受ける者は、第四十二条第二項の書面を受領した日から起算して八日を経過した後においては、将来に向かつてその特定継続的役務提供契約の解除を行うことができる。

こちらを分かりやすく解説すると、
サービス提供事業者が、エステ等の特定継続的役務提供契約を締結した場合、消費者は契約書面を受け取った日から数えて8日が経過した後は、サービス提供期間内であれば、将来に向かって、契約を解除することができる、ということです。ここでいう「将来に向かって」というのは、それまでに提供されたサービスについては返金対象外であるが、それ以降の、まだサービス提供を受けていない部分に関しては返金を受けることができるという意味です。

このように、クーリング・オフ期間が過ぎても中途解約で契約解除をすることが可能なことがわかりましたが、中途解約の際に、注意しておかないといけないことがあります。

2.中途解約時に注意が必要なこと

中途解約時、気を付けておかなければならないことの1つ目が解約料についてです。

① 解約料

特定商取引法で定められている通り、中途解約を申し出ることで、サービスを受けていない分に関しては返金を受けることはできますが、一方で中途解約では、事業者に対して解約料(違約金・損害賠償額)を払わなければならないときがあります。この解約料を払う必要があるかどうかは、事業者の方針によって異なりますが、その額の上限は2万円と決められているので、この上限を超えた金額をエステの中途解約時に請求されることはありません。

上限2万円の範囲で解約料が発生するので、特に事業者で解約料の定めがなければ、
・サービスを受ける前であれば2万円、
・既にサービスを受けている場合は、2万円か、契約残額の10%のうちの低いほう
が解約料となります。つまり、契約残額の10%の額が2万円より少ない場合は、そちらが解約料となります。契約残額とは、契約に関するサービスの対価の総額から、すでに受けたサービスの分の対価を差し引いた金額のことです。

次に知っておいたの方が良いのが、関連商品についてです。

② 関連商品の中途解約

エステの契約を結んだ際に、サプリメントやボディケア商品などの関連商品も一緒に購入することがあります。これらの関連商品も、エステのサービス同様に中途解約の対象となります。
ただし、未使用品のみ解約の対象になりますので、開封・使用・消費したものに関しては対象外となってしまうので、注意が必要です。

このように、中途解約はサービスを受けた部分は返金対象外で、また解約には一定の解約料が発生します。また、使ってしまった関連商品は解約の対象外となりますので、その点を注意しておきましょう。
次に、クーリング・オフでも、中途解約でもない方法での契約解除の仕方を見ていきましょう。

3. 消費者契約法における契約取消

消費者契約法においては、消費者取消権というものが認められていて、不当な勧誘によって結ばれた契約は、取り消すことができます。
エステにおける不当な勧誘による契約とは、以下のような、消費者に誤認や困惑がある状態で勧誘し、契約を結ぶことを言います。

① 不実告知

不実告知とは、重要事項について、事実と異なることを告げることです。その結果、消費者が告げられた内容を事実と誤認してしまうことにより、消費者取消権が認められます。
具体的には、施術内容やその効果について嘘(「エステを受ければ若返る」という)をつくこと、専門用語や専門知識を使い、消費者には理解し難い説明を行い契約させることや、クーリング⁺オフや中途解約に関する消費者の権利・義務について告げていないこと、「無料」と謳いながら、実際には有料の施術を受けさせた場合などが不実告知にあたります。

② 断定的判断の提供

断定的判断の提供とは「絶対に痩せます」「二度と元の体型には戻りません」などのように「絶対」、「二度と」などの断定的な表現を使い勧誘・契約を行うことを言います。代金を払いエステを受けたことで「絶対に」その効果を体感できるということは言い切れないので、そのような勧誘は消費者契約法違反になり、取消の対象となります。

このように、契約時に述べた内容が実際は違っていたり、「絶対」などと言い切れないことを断定したりして契約に結び付けると、消費者契約法の違反になるので、取消の対象となります。
また、いずれも取消できる期間は、誤認に気が付いたときから6か月間、また契約時から5年間です。契約後5年以上が経過してしまうと原則として取り消せなくなってしまうので注意が必要です。契約を解約したい人は、ご自身が契約時にどのようなやり取りをしたのか、記憶を辿ってみましょう。

4.まとめ

クーリング・オフは期間が短いですが、期間を過ぎてしまったからといって、後悔している契約の解除を諦めるのは早いです。
中途解約もできますし、また勧誘や契約の仕方が不当である場合は法律の定めで契約の取り消しが可能です。
しかし、不当な勧誘・契約と言っても様々なケースがあり、一概には言えず、ご自身で判断するのは難しいので、困ったときは専門家に相談するのが良いでしょう。

2019.05.31

意外と知らない会社法3~会社の設立~

世の中に数多く存在している「会社」ですが、それらは、どのようにして誕生するのでしょうか?

1. 「定款」の作成

会社を設立するためにはいくつかの手続きが必要になってくるのですが、その流れにはどのようなものがあるのでしょうか?

手続きの最終段階である登記が完了するまでには、大きく分けて4つの過程があり、その1つ目が「定款」の作成です。「定款」とは、会社を運営していく上で必要な基本的規則を定めたもので、「会社の憲法」と呼ばれるものになります。
これを、「発起人」と呼ばれる会社の設立を企画し、会社の経営を担っていく人物が作成し、会社の定款に認証を与える権限を有する「公証人」の認証を受けることになります。

定款の内容として、「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」の記載が必要で、これらの記載がないと定款の認証を受けることが不可能、つまり定款が無効となってしまいますので気を付けましょう。

・絶対的記載事項:定款に必ず記載しなければならない事項
(項目)会社の目的、商号、本店の所在地、出資額、発起人の氏名・住所、発行可能株式総数

・相対的記載事項:定款に定めなければ効力が生じない事項
(例)現物出資、財産引受、発起人の報酬・特別利益など

・任意的記載事項:定款ではなく、他の方法で定めても良いもの。会社法の規定や公序良俗に違反しない限りは定款で定めることが可能
(項目)定時株主総会の招集時期、役員の数、事業年度(決算期に関する事項)

2. 資金を集める

2つ目は、会社の資本金を集めることです。
「資本」とは一般的に、事業を行うために必要なお金のことですが、会社法で言う資本とは、「設立」又は「株式の発行」に際して株主となる者が、株式会社に対して「払込み」「給付」をした「財産の額」のこと(会社法第445条参照)つまり、会社の財産を確保するために株主から払込み、給付をされたお金のことになります。

会社にある程度の財産がないと、取引先の業者や銀行など、会社からお金を払ってもらう、返してもらう立場の人々に、お金が返ってこないのではないかという不安を与えかねませんし、信用の度合いも低くなってしまします。ですので、初めにある程度の資本金を集めておき、安心して取引を行えるようにしておく必要があるのです。
 
では、用意する資本金の最低額はいくらなのでしょうか?
平成18年に会社法が施行されるまでは、「最低資本金制度」という制度により、有限会社を設立するには最低でも300万円、株式会社だと1,000万円の資本金を用意しなければなりませんでした。しかし、会社法ができたことにより、「最低資本金制度」は廃止され、現在は設立時の資金が0円でも設立ができるようになったのです。

厳密に言うと、出資額を0円にすることはできません。しかし、例えば20万円出資したとして、登録免許税や定款の認証手数料に20万円使ったとなると手元には1円も残らないことになります。つまり、会社の資金が0円となるのです。
一般的には、会社の設立費用に20万円強かかりますので、それ以上の金額は資本金として会社に最初から入れておくケースが多いです。

3. 会社経営陣の選任と登記

定款の作成、資金集めが終わると今度は会社の経営陣を決定します。
まず経営陣とは、取締役、監査役、会計参与を総称して表す言葉のことで、簡単に言えば会社役員のことです。選任する際に気を付けることとして、取締役や監査役は、誰でもなれるわけではないということです。以下の人はなることができません。

【取締役の欠格事由】(会社法第331条参照)
一 法人
二 成年被後見人若しくは被保佐人又は外国の法令上これらと同様に取り扱われている者
三 この法律若しくは一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成18年法律第48号)の規定に違反し、又は金融商品取引法第197条、第197条の2第1号から第10号まで若しくは第13号、第198条第8号、第199条、第200条第1号から第12号まで、第21号若しくは第22号、第203条第3項若しくは第205条第1号から第6号まで、第15号若しくは第16号の罪、民事再生法(平成11年法律第225号)第255条 、第256条、第258条から第260条まで若しくは第262条の罪、外国倒産処理手続の承認援助に関する法律(平成12年法律第129号)第65条 、第66条、第68条若しくは第69条の罪、会社更生法(平成14年法律第154号)第266条 、第267条、第269条から第271条まで若しくは第273条の罪若しくは破産法(平成16年法律第65号)第265条 、第266条、第268条から第272条まで若しくは第274条の罪を犯し、刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から二年を経過しない者
四 前号に規定する法律の規定以外の法令の規定に違反し、禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)

上記の欠格事由に該当しない人を、1でも出てきた発起人が選任し、選任が終わると、発起人は選任決定書を作成します。
そして、最後に登記を行います。必要書類を揃え、本店所在地の管轄法務局に登記申請を行います。不備がなければ、申請から1週間ほどで登記が完了し、会社が誕生します。

4. まとめ

今回は、会社を設立するために必要な流れをおおまかに説明しました。
実際に会社を設立するとなると、印鑑を作成したり、誰から出資を募るかを決定したり、書類を集めたりと、様々な準備が発生しますので、まずは、登記までの流れを把握し、必要な準備を始めていきましょう。
その後、出資金をいくらにして、どのようなビジネスを行っていくか等は、専門家に相談しながら進めて行くことをお勧めします。

2019.05.30

会社に関する事務って何をするの? ~総務・人事・経理の定例業務~

皆さんは、「事務」と聞くとどのような仕事を思い浮かべますか?総務や経理、一般事務、営業事務など、偏に事務といっても業務内容は様々です。

今回は、その中でも、総務、人事、経理といった「会社に関する事務」に着目してお話します。これから会社に関する事務に携わる予定の方はもちろん、就職・転職活動をされている方にもぜひ読んでいただけたらと思います。

1. 会社に関する事務

会社に関する事務は、大きく以下の3つに分けられます。まずは、それぞれの分野について、一般的な業務をご説明します。
※会社によって、各分野の業務領域は異なります。

(1)総務
総務は、会社の各部署がスムーズに業務を遂行できるようにサポートを行います。また、官公庁や取引先など社外の人とも関わる機会が多いです。幅広い業務について柔軟に対応することが求められます。
<例> 印鑑や重要書類などの管理 官公庁や取引先などの対応 株主総会の準備・開催 など

(2)人事
人事は、主に従業員に関する手続き全般を行います。従業員の大切な個人情報を保有することになるので、漏洩することのないように、慎重に情報を扱うことが求められます。
<例> 各種保険手続き 給与計算 年末調整 など

(3)経理
経理は、主に会計や税金に関する業務全般を行います。会社の成長に直結するので、迅速かつ正確に業務を進めることが求められます。
<例> 現金・預金管理などの会計処理 法人税など各種申告書の提出・納付 など

ここからは、総務・人事・経理の毎年定例の業務をご紹介します。

2. 総務の年間定例業務

〇株主総会の準備・開催(4月~5月※)
会社の決算が終わったら、株主総会を開催します。決算日から2~3か月以内に行うのが一般的です。開催に伴い、事業報告書や計算書類などを準備する必要があります。また、開催したら、必ず株主総会議事録を作成します。
※ 3月末決算の場合

〇役員改選等の登記申請手続き(5月※)
株主総会において役員の改選等があった場合、変更が生じた日から2週間以内に登記をする必要があります。
※ 3月末決算の場合

3. 人事の年間定例業務

〇健康保険・介護保険の料率改定の確認(3月)
健康保険と介護保険の保険料率は毎年3月に改定されます。必ず最新の保険料額表を準備して、改定内容を確認しましょう。

〇雇用保険の料率改定の確認(4月)
雇用保険の保険料率は毎年4月に改定されます。必ず最新の雇用保険料率表を準備して、改定内容を確認しましょう。

〇労働保険の年度更新手続き(6月)
毎年6月1日から7月10日までの間に、前年度の保険料を精算するための確定保険料の申告・納付と、新年度の概算保険料を納付するための申告・納付を労働基準監督署に行う必要があります(労働保険概算・確定保険料申告書)。

〇特別徴収税額の更新(6月)
毎年5月末頃までに、会社に特別徴収税額通知書が送られてきます。6月からはこの通知書に基づき、従業員の給与から住民税を差し引くことになるので、必ず変更された税額を確認しましょう。

〇社会保険の定時決定(7月)
社会保険料は、原則として年に1回見直しを行います。そのため、7月1日時点で使用している全被保険者の3か月間(4~6月)の給与をもとに「標準報酬月額」を見直し、7月10日までに年金事務所に届出をする必要があります(健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額算定基礎届)。

〇社会保険の標準報酬月額等級の更新(9月)
前述した算定基礎届を提出して決定した新しい社会保険料は、その年の9月から適用されます。必ず変更された社会保険料を確認しましょう。

〇厚生年金保険の料率改定の確認(9月)
厚生年金保険の保険料率は毎年9月に改定されます。必ず最新の保険料額表を準備して、改定内容を確認しましょう。健康保険・介護保険(3月改定)、雇用保険(4月改定)とは改定時期が離れているので、確認を忘れないように注意してください。

〇年末調整(12月)
「毎月の給与計算で差し引かれた所得税額」と「1年間に支払った給与をもとに計算した納付すべき所得税額」における過不足額を精算し、税務署・市町村に書類を提出する必要があります(給与支払報告書、源泉徴収票、法定調書合計表)。

4. 経理の年間定例業務

〇償却資産申告書の提出(1月)
毎年1月1日時点で所有している、事業のために用いることができる構築物・機械・工具・器具・備品等の固定資産(これらを償却資産といいます。)について、1月31日までに市町村に申告をする必要があります。償却資産の例としては、パソコンなどの事務機器、看板、印刷機などがあります。

〇所得税の納付(1月、7月)
毎月給与から差し引く所得税の納付は、原則として翌月10日までに行います。ただし、給与を支払う従業員が常時10名未満で、納期の特例制度が適用されている場合は、1月と7月に6か月分をまとめて納付します。

〇決算準備・決算(3月~4月※)
会社は、決められた事業年度における業績について、貸借対照表や損益計算書などの書類を作成します。それらをもとに、株主総会において株主へ業績の報告と承認を求め、承認された内容に基づいて税金の申告を行う必要があります。この書類作成業務のことを決算といいます。申告については後述します。

※3月末決算の場合

〇法人税申告書、法人事業税・住民税申告書、消費税申告書の提出(5月※)
決算に基づき、納税額を確定するため、法人税申告書、法人事業税・住民税申告書、消費税申告書を作成し、期末から2か月以内に税務署に提出する必要があります。これらの書類の作成は、多くの場合、会計事務所に依頼します。

※3月末決算の場合

〇住民税の納付(6月、12月)
所得税同様、毎月給与から差し引く住民税の納付は、原則として翌月10日までに行います。ただし、給与を支払う従業員が常時10名未満で、納期の特例制度が適用されている場合は、6月と12月に6か月分をまとめて納付します。

5. まとめ

今回は、会社に関する事務について、年間スケジュールに基づいてお話しました。従業員の少ない会社だと、全ての事務を1人で担当するということも十分あり得ます。これから会社に関する事務を担当される予定の方もいらっしゃるかと思いますが、実際に勤務を開始すると、毎日沢山の業務に追われてしまい、1年間の予定をゆっくり確認する時間が取れないと思います。
事前に、いつ頃、何の業務をする必要があるのかということを把握しておくだけでも全く違うと思いますので、ぜひこの記事を参考にしていただければ幸いです。

2019.05.30

警察(警察官)にクレームをお持ちの方へ

突然ですが皆さんは「3歳にも満たない子どもがバラバラに切断された」という事件を知って、数日後「その事件の容疑者が逮捕された」という報道がなされたときどう思いますか?

「よかった、逮捕されたんだ!」
「こんな残酷なやつは死刑にしてしまえばいい!」
「サイコパスじゃないのこの人?」

もしかするとそんなことを思うかもしれません。
しかしながら、逮捕された人=犯人とは必ずしも限りません。

1 約7割は有罪にはなっていない

我が国では、公訴が提起(刑事訴訟法247条)されればそのほとんどが有罪になりますが、逮捕されたのちに起訴される確率は、31%程度にとどまっています(平成29年犯罪白書)。
つまり、逮捕された人の約7割は(実際に犯罪を行ったかはさておき)有罪にはなっていないのです。

逮捕された人というのは、その段階では罪を犯したことを疑うに足りる相当の理由がある者(刑事訴訟法199条、通常逮捕の場合)であって、逮捕の段階では、犯人とは限りません。この段階で疑われている人(しばしば容疑者といわれます)のことを被疑者といいます。

刑事訴訟手続では「疑わしきは被告人の利益に」という原則がありますが(刑訴336条、憲法31条)、その一方で、警察段階では、条文に従うと、少なくとも疑わしい者を逮捕することとなっています。

もしかすると、あなたが何らかの理由で犯行の行われた現場にいて、疑われる状況になり、逮捕されることも十分にあり得る話なのです。

そうすると、最初に例に出した逮捕された人に対して感じた、「悪いことをした人が捕まった」という印象が、もしかすると間違っていた可能性もありますよね。
人にはあまり物事の判断に時間を割かず、白黒をつけてしまう性質があるので、それ故の仕方のないことであると思われます。

例えば、「カルテット」というドラマの主題歌にもなった椎名林檎さんの「おとなの掟」という曲の歌詞にこんなものがあります。

“ああ、白黒つけるのは恐ろしい
切実に生きればこそ“

本当に切実に、ものごとと向き合って考え、悩んだとき、苦悩しながら白黒つけることの難しさや恐ろしさに直面するものと思われます。

さて、ここで本題に戻りますが、反対に何かを悪いと決めて断ずる人がいなければどうなるでしょう。誰も何も悪いと言わない結果、物事がうやむやになってしまう事態が考えられるのです。そのため、一定の秩序を保たなければいけないという要請もあります。

秩序を保つためには、誰かを罪人であると主張する役割(つまり公訴の提起を行う人)もいなければいけないのです。その役割は検察官が職務の一貫として担っています(刑事訴訟法247条)。そして、その検察官の判断材料を集めるのが警察官の一つの役割となっています。このような役割の下では警察が行き過ぎた行為を行うことや、反対に、捜査に対して消極的になることも想定できます。

2 警察の責務に関する法律の定め

皆さんは警察官というとどのような人をイメージしますか?青島刑事でしょうか?シバトラでしょうか?警察官で思い出される人は結構刑事さんが多いような気がするのですが、実際に関わるとなると街の警察官であると思います。そして、みなさんがトラブルに巻き込まれるのも街の警察官との間であると思われます。

 なお、警察法によると、警察の責務は以下のように定められています。

(警察の責務)
第二条 警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。
1 警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあってはならない。

警察官は、①犯罪の予防、②犯罪の鎮圧、③犯罪の捜査、④被疑者の逮捕、⑤交通の取締、⑥その他公共の安全と秩序の維持にあたること、を責務としていて、責務の遂行にあたってはその権限の濫用があってはならないこととされているのです。

3 警察官の行き過ぎた行為の報告先

当然、犯罪を行った可能性のある者を捜査するものですから、捜査が行き過ぎることも考えられます。逆に警察官にも色々いらっしゃいますので、なかなか捜査や取締に積極的でない警察官もいると思われます。
例えば警察官から、行き過ぎた行為を受けたとか、告訴を行っているのに受理しようとしないなどの事情で、警察官に対する苦情をお持ちになる場合もあるかもしれません。その際は、苦情の通報先がありますのでご利用になってみるのもよいかもしれません。

(1) 都道府県警本部 監察官室等
福岡県では監察官室という窓口が設置されています。警察官が実名を名乗らなかった場合については、制服を着た警察官の場合は胸にある識別章の番号【AA111】などアルファベット2文字と数字3文字をメモしておくと、のちのち特定することができます。福岡県警察の場合、以下が苦情の申出先になっています。
 〒812-8576
  住所:福岡市博多区東公園7番7号
     福岡県警察本部(相談コーナー)
  電話:092-641-9110

(2) 都道府県の公安委員会
 都道府県公安委員会は、都道府県知事の直下におかれる組織です。都道府県公安委員会が管理しているのが都道府県警察本部で、その下に県警本部と本部長、警察署があります。都道府県公安委員会に対し苦情を申し出ることも出来、その申出の根拠は警察法で定められています。以下が警察法の規定と、申出の方法に関する規則です。

(苦情の申出等)
第七十九条 都道府県警察の職員の職務執行について苦情がある者は、都道府県公安委員会に対し、国家公安委員会規則で定める手続に従い、文書により苦情の申出をすることができる。
2 都道府県公安委員会は、前項の申出があつたときは、法令又は条例の規定に基づきこれを誠実に処理し、処理の結果を文書により申出者に通知しなければならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
(省略)

そして、国家公安委員会規則に『苦情の申出の手続に関する規則』という規則がありこのように定められています。

『苦情の申出の手続に関する規則』
(苦情申出書の提出)
第二条 苦情申出を行おうとする者(以下「申出者」という。)は、次の各号に掲げる事項を記載した文書(以下「苦情申出書」という。)に署名又は押印をしてこれを提出するものとする。
一 申出者の氏名、住所及び電話番号
二 申出者が住所以外の連絡先への処理の結果の通知を求める場合には、当該連絡先の名称、住所及び電話番号
三 苦情申出の原因たる職務執行の日時及び場所、当該職務執行に係る警察職員の執務の態様その他の事案の概要
四 苦情申出の原因たる職務執行により申出者が受けた具体的な不利益の内容又は当該職務執行に係る警察職員の執務の態様に対する不満の内容
2 (省略)
第三条 苦情申出書の受理に関する事務を行う警察職員は、申出者が苦情申出書を作成することが困難であると認める場合には、当該申出者の口頭による陳述を聴取し、苦情申出書を代書するものとする。
2 警察職員は、苦情申出書を代書した場合には、申出者に当該苦情申出書を読み聞かせ、又は閲読させた上で、その署名又は押印を求めるとともに、自己の所属、官職及び氏名を記載し、押印するものとする。
3 警察職員は、苦情申出書を代書するに当たり通訳その他の者を立ち会わせた場合には、当該苦情申出書にその者の署名又は押印を求めるものとする。

4 まとめ

なお、都道府県公安委員会宛のものは苦情の申出の手続に関する規則による決まりで必ず結果がお知らせされるというようになっているので、調査したうえでの結果をお知りになりたい方はこちらを選ばれる事が望ましいようです。
上記に定められるような苦情申出書には書かなければならない事項が難しく作成が難しいかもしれません。もしも記載が難しければ、法律上の規定ともからめて苦情申立書を作成することも出来ますので身近な法律家に相談するのがよいものと思われます。

2019.05.30

年5日の有休義務化とは?~事業者に向けて

2019年4月1日から、1年間に10日以上の年次有給休暇(以下「年休」と略します)を取得できる労働者について、使用者は、毎年、そのうち5日の年休について時季を指定して取得させなければならないことになりました。
いわゆる「年5日の有休義務化」というフレーズで耳にする機会も増えてきた昨今、事業者はどのような対応を求められるのでしょうか?

1.使用者の年休指定権新設のねらいは

平成30年改正労働基準法(平成31年4月1日施行)に、使用者の年休指定権の規定が新設されました。新設までの経緯は平成22年6月の閣議決定に遡り、「新成長戦略」において、年休の取得率を2020年までに70%にすることが政府目標とされました。

しかし、年休の取得率は平成12年以降50%を切る水準で推移しています。また、正社員の約16%が年休を1年間に1日も取得していないという調査結果も示されています。
このような状況にあることから、年休の取得をすすめるため、使用者に、従業員に対して年休取得の時季を指定して与えることを義務付けることとしたものです。

2.労基法改正による使用者の年休時季指定権とは

改正労基法では、1日も取得していない従業員などの年休の取得率を向上させるため、1年間に10日以上の年休が付与されている労働者に対し、そのうちの5日間については使用者が時季を定めて与えなければならないとされています。

ただし、労働者の時季指定や計画的付与制度によって年休を与えた場合は、その日数が使用者の時季指定しなければならない5日間から除かれることとなります。

3.労働者の時季指定とは

年休は、労働者が休暇を取得する前に、取得したい日を指定して請求した場合に与えるもので、原則として、休暇の時季選択権は労働者に与えられています。労働者の時季指定とは、労働者が年休をとりたい日を指定することを指します。

したがって、労働者が具体的な時季を指定した場合には、使用者は、時季変更権を行使する場合を除いて、その指定された時季に年休を付与しなければなりません。尚、使用者の時季変更権とは、年休を労働者の請求する時期に与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時季に変更することができるというものです。

4.年休の計画的付与とは

労基法にもとづき、各従業員がその年に取得できる年休のうち「5日を超える日数分」については、会社が日を指定し、その日に年休を付与することができます。これを「年休の計画的付与」といいます。

例えば、取得できる年休が15日ある従業員については、5日を除いた10日分が計画的付与の対象になります。「5日分」については、従業員の個人的事由による取得のため留保しておかなければなりません。年休の計画的付与を実施するか否かは、会社の自由です。
年休の計画的付与の方式には次の3つが考えられます。

①一斉付与方式
これは、その事業場を特定の日に休業とし、全従業員に対し同一の日に年休を与えるものです。この方式の場合、事業場全体を休業とするので、5日を超える年休がない従業員も休ませなければなりません。このようなものに対しては、会社独自の特別の有給休暇を与えるか、平均賃金の60%以上の「休業手当」を支払う等の措置をとることが必要です。

なお、休業手当とは、使用者が休業期間中に労働者に支払う手当で、労基法に定められています。同法規定には「使用者の責任に帰すべき事由による休業の場合、使用者は休業期間中当該労働者に、その平均賃金(直近3か月間の賃金の総額の平均)の60%以上の手当を支払わなければならない。」とあり、事業場を特定の日に休業とし、全従業員に同一の日に年休を与える場合は、この使用者の責任に帰すべき事由による休業に当たります。

②グループ別付与方式
これは、課、係などの従業員を2つあるいはそれ以上のグループに分け、交替で年休を与えるものです。例えば、
・Aグループ…7月21~24日
・Bグループ…8月11日~14日
の4日間ずつ計画年休を付与するといった方法です。

③個人別付与方式
これは、会社側が個人別に従業員の年休付与計画を作成し、付与するものです。例えば次のような形です。
・○田○男…7月20日・21日
・○山○子…7月22日・23日
・○川○美…8月1日・2日

5.「年5日の有休義務化」への対応は

事業者は、1年間に10日以上の年休が付与されている労働者に対し、そのうちの5日間については使用者が時季を定めて与えなければなりません。ただし、労働者の時季指定や計画的付与制度によって年休を与えた場合は、その日数が使用者の時季指定しなければならない5日間から除かれることは前述したとおりです。

つまり、労働者による時季指定、年休の計画的付与、使用者による時季指定、いずれかの方法で年5日の年休を労働者に取得させることが使用者の義務となります。
具体的には、労働者自身が付与された日から1年以内に5日の年休を取得していない場合に、年休の計画的付与によって年5日の年休を付与すれば、上記義務を果たすこととなります。

ただし、年休の計画的付与を実施するかは自由ではあるものの、実施する場合には、あらかじめ、従業員の過半数代表者と労使協定を結ぶ手続きが必要です。
年休の計画的付与を実施しない場合は任意に5日の有休を取得しない労働者には、使用者が取得時季を指定して年5日の有休を取得させる方法によらなければなりません。

6.まとめ

改正法の使用者の時季指定権を行使するためには、就業規則に規定する必要があります。また、時季指定においては労働者の意見を聴取しなければならないとされています。
事業者には、就業規則の変更と合わせて、労働者に取得時季の意見を聴取し、その意見を尊重し取得時季を指定するといった対応が求められます。

2019.05.30

テレビ番組制作において気をつけるべきポイント~未成年者への取材・番組収録編~

テレビ番組においては、番組のコンセプトに基づいた視聴者層に向けて制作されることが多く、それにより番組に出演するタレントや、番組内で使用する街頭インタビューの取材対象者も変わってくることかと思います。この中には未成年者への出演なども検討されることがありますが、未成年者をテレビ番組で取り扱うには、どのような点に注意すべきでしょうか。
今回は、1.未成年者へのインタビュー、2.未成年タレントの利用(出演)について考えてみましょう。

1.未成年者へインタビューする際、親の同意は必要?

テレビ局の取材班や番組制作会社は、情報番組等を制作する際、街頭インタビューを行うことがあるかと思いますが、やはり流行の商品や話題のサービスについては、中高校生や大学生を対象としたインタビューを行えば反響も大きいことでしょう。
では、このような未成年者へのインタビューは、保護者の同意が必要なのでしょうか。

(1)15歳以上であれば、保護者の同意は原則不要

街頭インタビューをテレビ番組で使用する場合、誰に対して行ったとしても使用について承諾を得る必要があると言えます。他方で、未成年者の場合、成人と異なり、何らかの契約行為を行う場合は原則として法定代理人である保護者の同意が必要とされるため(民法第5条)、街頭インタビューを行う場合も保護者の同意を得なければならないとも思えますが、必ずしもそうでもありません。

民法に関する法制審議会の報告書等で示されている見解によると、未成年者であったとしても、15歳以上の者であれば個人情報の取り扱いについての認識や意思能力、判断能力が備わっており、保護者の同意がなくともこのようなインタビューを受けることができるとされています。
例えば、高校卒業とともに就職した18歳の人へインタビューをする場合、成人と同等な個人の意見を発せられる状況において、インタビューすることに親の同意が必要であるか?と想像すれば分かりやすいかもしれません。

(2)15歳未満でも、受忍限度の範囲内で認められる

一方、15歳未満の未成年者へのインタビューについては、その未成年者が同意していたとしても保護者からの同意が得られなければ行うことができません。保護者からの同意なく使用すると肖像権、プライバシー侵害のおそれがあります。
しかしながら、社会通念上、公表しても差し支えない内容であり、個人情報や性的な質問といった不相当な内容ではない「受忍限度の範囲」内であれば、保護者の同意がなくとも上記権利の侵害にはならないこともあります。
想定されるケースとして、幼稚園児や小学生に田植え体験の感想を聞いたり、好きな遊具を尋ねるインタビューなど、一般常識として相当な場合は問題とならないでしょう。

2.未成年タレントは深夜まで働いてもいい?

最近では未成年者のタレント(芸能人)も多くテレビに出演するようになりました。ドラマやバラエティに登場し、子役タレントが大人顔負けの演技や受け答えをし、人気を博す、といったことも珍しくありません。
さぞかし多忙なスケジュールをこなしているのではと思うのですが、未成年者が深夜の生放送番組や収録等に参加しても良いのでしょうか。

(1)未成年タレントに労働基準法が適用される

多くの18歳未満のタレントは、労働基準法に定める「時間制限のある労働者」に該当するとされています。これは、所属する芸能プロダクションによりスケジュールが決定し、仕事を割り振られることが芸能プロダクションの従業員扱い(=労働者)となるからです。
後述しますが、年齢や活動内容ごとに制限される時間が異なりますので、未成年者を収録等に参加させる場合は注意が必要です。

(2)労働基準法が適用されない芸能タレント通達

爆発的な人気を得ているアイドルのようなタレントの場合は、労働基準法第9条の労働者に該当しないこともあります。
これは、歌唱や演技が他人に替えることができず、その番組において芸術性の個性が重要な場合、労働者とはならないという趣旨の通達によるもので、通称、「芸能タレント通達」と呼ばれています(昭和63年7月30日 基収355号)。
この通達が出されたのには、昭和末期に人気絶頂だったアイドルグループが午後8時より生放送の歌番組に出演した際、当時中学生だったメンバーも参加していたことが問題となったという背景があります。
これにより、影響力、人気のある未成年タレントは労働者というよりは一種の事業者として見なされ、深夜の収録等でも参加できるようになったのですが、プロダクションとの契約内容によっては、人気があってもこの通達にあてはまらないタレントも存在するようです。
まずは所属するプロダクションに条件等の確認を取ることが重要です。

(3)実際に何時まで出演することができる?

上記で説明した、芸能タレント通達に該当しない未成年のタレントは労働基準法第61条により労働者とされ、出演時間制限は以下のように分けるとしています。

・義務教育中のタレント→午後8時から午前5時の間は使用禁止
・義務教育終了後で18歳未満のタレント→午後10時から午前5時の間は使用禁止

この「使用」という部分には、生放送出演、収録はもちろんのこと、打ち合わせやリハーサルなども含まれます。カメラに映さず放送しなければ使用してもいいということにはなりません。
これに加え、義務教育中のタレント使用については労働基準監督署の事前許可を得なければ、そもそも制限時間に関わらず使用することができません。必ず許可申請を行いましょう。

一方、テレビではなく演劇に義務教育中のタレントが出演する場合には、制限時間が少し異なります。演劇の場合、夜公演時のカーテンコールへの参加などを配慮し、午後8時ではなく、午後9時までの使用が認められています。テレビと演劇で制限時間が異なりますので、混同しないようにしましょう。

しかしながら、テレビ・演劇に関わらず未成年タレント(特に13歳以下)を制限時間いっぱいまで出演させる行為はたびたび問題視され、さらには制限時間を超えて使用するという違反ケースも発生しています。
成長期における睡眠不足の問題や、就学時間確保のために制限時間を縮小するべきという意見と、子供の才能を生かし、伸ばすためには学習塾と同様、さらに遅い時間まで延長するべきといった両極の意見があり、使用時間については今後も検討の余地があるとされています。

3.まとめ

未成年者の年齢による行為規制は、各法律、法規ごとに「18歳以下」、「20歳以下」、「15歳以下」などと一定ではなく、また取材やタレント使用について許容される範囲、条件も異なります。
今から行おうとしているインタビュー取材やタレントのキャスティングについて、どの法律に当てはまるのか、年齢や時間帯、一般人については肖像権やプライバシー保護について問題ないかをよく確認し、検討することが必要です。

2019.05.30

【不動産】物件の瑕疵~目に見えない瑕疵があった場合

Q.私は現在、妻と小学生の子供2人の4人家族ですが、家族全員で住むためにマンションを購入することにしました。ところが契約後に、前の所有者の家族が、室内で自殺をしていたことが分かりました。このような部屋に家族で入居することは躊躇われるため、契約を解除して支払い済みの代金を返還してもらいたいのですが、このような請求は可能なのでしょうか?

A.マンションを購入する際に問題になるのは、前回(マンション設備・建築の適法性に関する売主の説明義務)でご説明したような、「マンション本体の構造に関わるような瑕疵」だけではありません。
最初に挙げたいわゆる
例①:自殺物件
であったり、
例②:暴力団員のマンションへの出入りの疑い
などのように、その物件に居住することを躊躇ってしまう目に見えない事情が潜んでいるケースもあります。

契約前の段階でこれらの事情が分かっていれば、契約締結を回避することもできますが、代金を支払った後にこれらの事情が判明し、「やはりこのマンションの購入は止めたい」と考えた場合に、どのような根拠に基づいて契約解除を請求することが出来るのかを考えていきます。

1 自殺物件のケース

(1)問題の所在

「自殺物件であった」という事実自体は、売買契約の目的であるマンションの物理的な欠陥ではなく、物理的には居住が可能です。そのため、このような場合でも売買の目的物の欠陥(瑕疵)と評価できるのでしょうか。売買の目的物の欠陥(瑕疵)と評価できれば、買主は売主に対し、瑕疵担保責任(民法570条)に基づき、契約を解除することができます。そこで、「自殺物件であった」というような心理的な嫌悪感を、「物件の瑕疵」といえるかどうかが問題となります。

(2)「自殺物件であった」ことは「物件の瑕疵」に該当するのか

民法570条が前提としている「瑕疵」とは、
・客観的に目的物が通常有すべき性質・性能を有していない物理的欠陥
だけではなく、
・目的物の通常の用法に従って利用することが心理的に妨げられる主観的な欠陥
も含むものと理解されています。

瑕疵担保責任の根拠は、売買の目的物に支払われる対価が、目的物の交換価値・利用価値と等価性を保ち、当事者間の衡平を図ることにあります。そのため、目的物が一部損傷しているといった「物理的欠陥」が無かったとしても、一般にその目的物を買うことを控えるような事情が存在していた場合には、交換価値の下落と評価でき、瑕疵担保責任が認められケースがあります。

よって、売買対象の不動産において、自殺や殺人の発生などの嫌悪される事情が存在した場合、買主が当該事情を知れば、その不動産の購入を敬遠するケースが一般的に予想されるため、「瑕疵」に該当すると考えられます。

しかしながら、買主によっては自殺物件であることをあまり気にしない場合もあります。つまり、同じ自殺物件について、一方では契約解除を望む人もいれば、他方でそのまま購入をする人もおり、個々人の主観によって結論が大きく左右されてしまいます。このように、買主の主観によって売買契約の成否が左右されると、円滑な不動産取引が阻害されてしまうため、瑕疵担保責任の有無を判断するにあたっては、一定の制約が必要になります。

そこで、裁判例では、自殺があった等の心理的欠陥が「瑕疵に該当する」とするためには、買主本人のみだけではなく、一般の人にとっても住み心地の良さを欠くと感じることに合理性があると判断される程度であることが要求されています。

(3)裁判例

横浜地判平成元・9・7では、例①と同様に、小学生の子2人を含む家族4人が居住するために購入したマンションに「自殺物件であった」という瑕疵があった場合について以下のように判示し、瑕疵担保責任による契約の解除を認めました。
「単に買主において・・・(自殺があったという)建物の居住を好まないだけでは足らず、それが通常一般人において、買主の立場に置かれた場合、(自殺があったという)事由があれば、住み心地の良さを欠き、居住の用に適さないと感ずることに合理性があると判断される程度に至ったものであることを必要とする」

「原告らは、小学生の子供2名との4人家族で永続的な居住の用に供するために本件建物を購入したものであって、・・・本件建物に・・・(購入の)6年前に縊首自殺があり、しかも、その後も(自殺をした者の)家族が居住しているものであり、本件建物を、他の・・・(こういった事情の)無い建物と同様に買い受けるということは通常考えられないことであり、右居住目的から見て、通常人において右自殺の事情を知ったうえで買受けたのであればともかく、子供も含めた家族で永続的な居住の用に供することは甚だ妥当性を欠くことは明らか」である。

2 暴力団員の出入りがあるケース

(1)問題の所在

もしも自分が居住する予定で購入を検討している物件に、実は暴力団員の出入りがあったと判明した場合、何かしらのトラブルに巻き込まれないか心配になり、購入の取り止めを希望される方もいると思います。
そこで、「暴力団員の出入りがあること」も、「自殺物件であること」と同じく目に見えない欠陥(いわゆる「心理的欠陥」)として、瑕疵担保責任(民法570条)に基づき売買契約を解除できるか否かが問題になります。

(2)裁判例

それでは、実際の判例を見て見ましょう。

【事案】
原告が居住目的でマンションを購入したところ、同じマンション内に暴力団幹部が所有者となっている部屋があり、組合員の出入りが判明したため、売主に対し責任追及を行った。
【判旨】
「居住環境として通常人にとって平穏な生活を乱すべき環境が、売買契約において・・・一時的ではない属性として備わっている場合には・・・瑕疵にあたる」。また、暴力団幹部が、マンションの管理室に私物を置いて物置として使用する等、マンションの共用部分を私物化する等の迷惑行為を継続していたこと、マンションの敷地内及び前面道路において、大人数で長期間にわたり飲食し騒ぐ等でマンションの区分所有者らに迷惑をかけている状態は、通常人にとって明らかに住み心地の良さを欠く状態に至っており、また、係る状態は一時的な状態とは言えないとして瑕疵があると判断しました。

そして、瑕疵担保責任に基づき、瑕疵を前提とした本件不動産の価値と実際の売買代金との差額について損害賠償をすべきとしましたが、居住の目的に用いられない程度の瑕疵であるとは言えないとして、契約の解除は否定しています。

3 まとめ

今回は「自殺物件であること」「暴力団員の出入りがあること」を例にご説明しましたが、他にも、「墓地の隣であったこと」「産廃処理場の隣であったこと」等、様々な心理的瑕疵が想定されます。

いずれにせよ、前回のような物理的欠陥ではないために、買主側が主張する欠陥が実際に「瑕疵」として認められるか否かは個別案件によって左右されやすいものなので、何を根拠にどういった主張をすれば認められるのか等、弁護士などの専門家に一度相談してみると良いでしょう。

 

2019.05.29

労働基準法とは? ~賃金の支払いについて~

昨今、採用市場は売り手市場化が進み、企業は必要な人材を確保することが極めて難しくなってきています。また、ブラック企業に対比して、「ホワイト企業」という言葉が広まり、年間休日が多い・離職率が低い・残業が少ない・福利厚生が充実しているなどの様々な労働条件だけでなく、仕事内容、職場の雰囲気などが重要な時代になってきました。
そして、これらを適切に伝えることで、採用力を向上させることが大切です。その中でも今回は生活していく上で大切な給料についてお話していきます。

1.賃金におけるルール(原則)と注意すべき事項

賃金におけるルールというものが労働基準法第24条で定められています。

①通貨払いの原則
②直接払いの原則(本人名義の口座等)
③全額払いの原則
④毎月1回以上払いの原則(月に1回は振込を行うこと)
⑤一定期日払いの原則(毎月支払日がばらばらではいけない)

上記が、賃金の支払いの5原則と言われるものです。
では、これらを一つずつ説明していきます。

➀通貨払いの原則

賃金は必ず通貨(国内で通用する貨幣)でないといけません。したがって、外国通貨や小切手は通貨と認められませんし、ましてや現物での支払いもできません。しかし、一般的な会社であれば、現金で手渡しではなく銀行振込で給与を支給するのが通常でしょう。そのため、銀行振込で支払いをする場合には、従業員の同意を得た上で行わなくてはなりませんので、銀行振込に関する労使協定を締結しておきましょう。

②直接払いの原則

従業員に対する賃金は、従業員本人に支払わなくてはならないという原則になります。本人に直接支払えないような場面に出くわす可能性がありますので、緊急時にどのように支払うのかも決めておいた方が良いでしょう。
例外…使者(本人の意思を伝達する者。例えば労働者が療養中で、家族が賃金を受取る場合など)

③全額払いの原則

賃金はその全額を支払わなくてはなりません。賃金の一部を無断で差し引いたり、会社の立替金を勝手に相殺したりすることはできません。ただし、社会保険料や源泉所得税、住民税など、法律で認められているものを差し引くことはできます。
なお、会社が一方的に相殺することは禁止されていますが、従業員本人の承諾の下、従業員が会社に対して負っている債務と相殺することは構いません。その場合には、きっちり相殺に関する同意書を作成するようにしましょう。

④毎月1回以上払いの原則

賃金は少なくとも毎月1回は支払わなくてはいけません。一方で臨時給・賞与などには、この原則は適用されませんので混同しないようにしてください。注意事項として、月給制だけではなく、年俸制を採用していても毎月1回は支払わなければいけませんので、気を付けましょう。
補足ですが新入社員(4月1日入社)の場合、給料が入るのが1か月以上先という企業が多々あります。例えば新入社員が月末締め翌月10日払いの会社に入社したとして4月勤務分が5月10日に支給されるような場合です。この場合は原則に該当しないというのが通説になっています。理由としては入社月に支払義務の生じる賃金債権自体が発生していないためです。
通常の会社であれば、月に一度は給料日があるでしょうから、それほど気にしなくて良いでしょう。

⑤一定期日払いの原則

賃金は毎月一定の期日を定めて、支払わなければいけません。なぜなら、賃金の支払日が毎月変動すると労働者の生活自体が不安定になるためです。支払日(期日)については特定できれば差し支えありませんが、「毎月第〇・〇曜日」とするという定め方では、月により支払日が異なり、期日が特定できないため認められません。したがって、「毎月15日」「月末」といった定め方が必要です。

2.賃金の支払いの5原則ポイント

上記で説明した賃金の支払いの5原則は、違反した場合に罰則が設けられており、労基法上遵守することが義務付けています。
では、会社が従業員に対して支払うものは全て「賃金」として、上記5原則が適用されるのでしょうか。「賃金」と評価されるためには、➀労働の対償かどうか、➁使用者が支払うものかどうかを検討しなくてはなりません。

次に、「賃金」に該当するとしても、上記5原則が適用されずに例外的に控除が認められているものがあります。つまり、労働基準法第24条1項は、法令に別段の定めまたは労使協定のある場合に賃金の控除を認めています。これは、公益上の必要があるもの及び社宅料や購買代金等の明白なものについてのみ例外を認める趣旨であると説明されています。

3.まとめ

賃金の支払いの5原則はいかがでしたでしょうか?今回は賃金の支払いに関してまとめました。基本的には賃金の支払いの5原則を遵守し、労働者に対して支給することが大切です。もし、原則通りに支給できないのであれば、事前に労働者との間で個別に労使協定を結んでおき、事前に対策しておくことが必要でしょう。
知っているようで、意外と知らないことがあったのではないでしょうか?

この法律は労働者を保護し生活を安定させるために生まれた法律です。
理解しづらい部分もあるかと思いますので、そういった場合は管轄の労働基準監督署や労働局に尋ねてみるのも一つの方法です。そこで一歩を踏み出すことがより良い会社を創る上で大切なことだと思います。従業員や会社の成長のために、会社の規則を見直すきっかけの一助となれば幸いです。

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