マイナンバーに関する従業員教育の進め方
2016年1月から社会保障、税、災害対策の分野で行政機関等へ提出する書類にマイナンバーの記載が必要となり本格始動したマイナンバー制度。企業も、税と社会保険の手続きでマイナンバーを利用するなど対応を求められ、外部への漏えい防止等、安全管理対策の徹底が急務となりました。
企業には、人的安全管理措置として、マイナンバーの事務を行う担当者に対し、適切な教育を実施することが求められることはもちろん、担当者の管理者等や一般従業員にも段階に応じた教育の実施が重要となります。
今回はマイナンバーに関する従業員教育の進め方について検討してみましょう。
1.情報管理教育の必要性
2015年5月、日本年金機構が保有している個人情報の一部が、職員の端末に対する外部からのウイルスメールを介した不正アクセスにより、外部に流出したことが判明しました。その件数は約125万件にものぼるといわれています。
こうしたウイルスメール感染による流出は、知り合いを装ってメールを送信する等、年々手口も巧妙化しており、企業規模や知名度に限らず、どんな企業であっても、いつ攻撃の標的にされるとも知れません。
そのため、マイナンバーに関する従業員教育のみならず、情報管理全般についての教育は、時代の潮流といえます。
ウイルスメール感染等のトラブルで自社のマイナンバーをはじめとする重要な情報が漏えいしないように、技術的な安全管理措置(ウイルス対策ソフトによる定期的なチェック等)を実施するとともに、パソコンやタブレット端末を貸与しているすべての従業員に対し、社内文書の回覧や掲示などで、定期的に注意喚起を行うようにしましょう。タイミングとしては、たとえば新聞報道などで、企業等の情報漏えい事案が報じられたときなどが最適です。
2.定期的な従業員教育の進め方
マイナンバーの取得・管理などの取扱いにあたっては、情報が漏えいすることがないよう、安全に扱うことを伝える教育が必要です。
特に、マイナンバーを取り扱う担当者が人事異動や退職で入れ替わったりすることは十分にあり得ることであり、そのタイミングが急であるほど十分な引継ぎもできず、情報が漏れやすい環境となるリスクも高くなります。
そういった意味では、業務の引継ぎがスムーズになるようにマニュアルや業務フロー図の作成などが重要となる一方で、マイナンバー関連の事務をしない管理者への教育の重要性が言えます。従業員への教育は、取扱担当者向けの教育と管理者向けの教育、分けて考える必要があります。
取扱担当者に対しては、その管理の重要性等を伝えて理解してもらう必要があり、管理者については、今後、従業員以外のマイナンバーを取り扱うこともあり得ることから(例えば外部講師を招いて研修をし、講師料を支払った際の支払調書の作成にあたり、外部講師のマイナンバーを取得する場合など)、管理者として部下の情報管理を徹底させるために、幅広い視野による教育の実施が必要です。
次では、特に重要となる取扱担当者への教育について詳述しましょう。
3.取扱担当者への定期的な教育
企業によっては、マイナンバーの取扱担当者が今後将来にわたって何十年も変わらないと推測されるケースがあります。実際、様々な企業の人事労務担当者で、もう何十年も人事労務手続き業務や給与計算業務を手掛けている例はきわめて多く、特に中小企業では体制を基本的に変えない傾向があります。
長期間の同一業務への従事は、プロ意識を促すメリットがある反面、マンネリ化が生じたり、業務手順がずっと見直されなかったり、不正行為があっても発覚しにくい等のデメリットもあります。
そこで、社内外から業務遂行方法について監査(モニタリング)を実施する以外に、定期的な教育の実施を検討することが有効です。定期的な教育もルーティン化してしまうことがあるので、取扱担当者が管理者等への情報管理教育の講師役を担うようにするとよいでしょう。
通常、管理者に対しての研修は、外部の講師を招くか総務部長がその役割を担いますが、総務部長も多岐の業務を抱え内部研修にまで手が回らないケースが少なくありません。
講師役を担うことをとおして、取扱担当者にマイナンバー管理への高い意識が芽生え、様々な情報漏えい事故の情報収集をするクセがつくことが期待できます。
情報収集を意識すれば、必然的に自社の体制との比較を行い、自社の体制を改善させる取り組みも期待できることから、結果として外部から講師を招いて講義を受けるよりも高次元の体制を構築できる可能性があります。
つまり、講師役となって情報収集して発表するプロセスが教育につながるわけです。
4.まとめ
前述の社内研修の実施の例のように、マイナンバーを取り扱う事務担当者のみならず、その担当者の管理者等にも情報管理の教育を行い、指導内容が継続性をもって運用全体に活かされるようなしくみを考えていきましょう。
そして、マイナンバーに関する従業員教育のみならず、情報管理全般についての教育は、時代の潮流としてとらえ、全従業員に対し定期的に実施し、情報管理の徹底を促していくことが重要です。
労働基準法とは? ~労働時間の原則~
労働時間に関する法規制について全て把握していますか?
例えば、労働時間を1日〇時間とした場合、休憩時間はどれくらい必要なのか。1日に最大何時間・週に最大何時間まで働かせても良いのか。など多くの疑問があるかと思います。そこで今回は労働時間について詳しくご説明したいと思います。
1.労働時間の原則
皆さんが労働時間の原則と言われて思いつくことは何でしょうか。
例えば人事や総務、管理職の方は1日8時間・週40時間という数字を頭に思い浮かべる方も多いのではないかと思います。労働基準法第32条の下記条文は特に重要です。
2.使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
つまり、1日8時間・週40時間というのが原則的な労働時間として労働基準法で定められております。しかし、このような原則形態にも例外が定められており、それが労働基準法第40条、労働基準法施行規則第25条の2第1項です。
①商業
②映画・演劇業(映画製作事業を除く)
③保健衛生業
④接客娯楽業
①~④の事業で、かつ、従業員の数が「常時10人未満」の場合は、1週間の法定労働時間が44時間となります。ただし、1日について労働させることができる上限が1日8時間であることは変わりませんので、そこは注意が必要です。
なお、労働時間(実際に拘束されている時間)とは、休憩時間を除いた実際に労働に従事している時間を指しますので、気をつけてください。
さて次は、曜日についてお話したいと思います。先ほど、労働時間の原則は1日8時間・週40時間とお伝えしましたが、「週」とは何曜日から何曜日のことでしょうか? 1週間は〇曜日~〇曜日?と聞くと、働き始めるのが月曜日という人が多いため、おそらく月曜日から日曜日と答える人が多いのではないでしょうか。
しかしながら、労働基準法では異なる定めがされております。就業規則等で定めがない場合は日曜日から土曜日のことを指すことになっていますので、週40時間という法規制も日曜日から土曜日で算定しないといけません。
ここまで、労働時間の原則についてお話ししましたが、「毎日8時間まで、週は40時間まで」と言われても、それがビジネスモデルとしてマッチしない業態もあると思います。特に不動産業などは、やはり入社・入学シーズンもあり、2月~4月などが極端な繁忙期となり、夏などは相当な閑散期となってしまいます。
そのような業種であっても1日8時間・週40時間を厳守しなさいと言われても、繁忙期は1日8時間では足りない、ただ閑散期は1日8時間もいらない、というニーズがあると思います。
そこで、変形労働時間制という定められた労働時間を効率的に割り振って、労働者と使用者共に無駄なコストを減らす制度が存在しています。ここからは変形労働時間制についてお話ししていきます。
2.変形労働時間制
この制度は、労働者と使用者において生活に影響を及ぼさない範囲で、労働時間において柔軟な対応ができるようにし、結果として労働時間を短縮するために整備された制度です。
ただし、変形労働時間制の場合、労務管理をする立場にとっては毎週・毎月の労働時間が異なってくるため、労務管理が極めて煩雑で管理コストが大き過ぎるというデメリットがあったり、制度を整備するにあたっても法律上の要件があったりと、導入するためには労力もコストも必要な制度となっています。
そこで1ヶ月単位の変形労働時間制とフレックスタイム制についてみていきます。
①1ヶ月単位の変形労働時間制
A.労働者の過半数で組織する労働組合がある場合
B.労働組合がない場合
AかBのいずれかによって、採るべき手続きが変わって来ます。前提として、労働者との労使協定を締結し、1ヶ月単位の変形労働時間制を採用する旨の就業規則を定めなくてはなりませんが、Aの場合は労使協定を労働組合と会社で締結します。これに対して、Bの場合は労働者の過半数を代表する従業員個人と会社で労使協定を締結します。
これによって、平均して1週間あたりの労働時間が、1週間の法定労働時間(40時間、特例の場合44時間)を超えなければ、以下の場合でも、法定労働時間内に収まっているとする制度です。
・特定週に、1週間の法定労働時間(40時間、特定の場合44時間)を超えて労働する
・特定日に、1日の法定労働時間(8時間)を超えて労働する
➁フレックスタイム制
簡単に言うと、1日の労働開始・終了を自分の裁量で決められるという制度です。
この制度を導入するには以下の事項に関する定めが必要です。
A.就業規則等に始業・終業を労働者に委ねる定め
B.労使協定に以下の事項を定める届出不要)
(1) 対象労働者
(2) 1ヶ月以内の清算期間
(3) 清算期間の起算日
(4) 清算期間における総労働時間
(5) 1日の標準の労働時間
(6) コアタイム・フレキシブルタイムを導入する場合はその時間帯
3.まとめ
いかがだったでしょうか。労働に関してのニュースとして最近では働き方改革に伴い、在宅ワークを導入する企業や、週休3日制を採用する企業が出てきています。労働に関する法律としては有給休暇5日の取得義務化など大きく変容しています。
難しい言葉が出てくるからすぐに目を背けるのではなく、時事問題や最新の法律に少しずつでも目を向けていくことが、会社を守るために必要なことではないでしょうか。
少しでも気になった方は、本やインターネットを参考にしてみてください。もし従業員との関係が良くない場合は状況が悪化する前に法律事務所を訪ねるなど、早めに手を打ち相談されることをおすすめいたします。
【相談事例57】婚前契約とは?~結婚前に契約書を作成する理由は?~
【相談内容】
芸能人などが結婚する前に、婚前契約書というものを作成したとして話題になっているのをテレビで見たことがあるのですが、婚前契約書とはどういったものをいうのでしょうか。
「婚前」ということは結婚する前に作成するものだと思うのですが、どうして結婚前に作成しなくてはいけないのでしょうか。
【弁護士からの回答】
欧米などでは、一般的に行われているのですが、日本ではあまりなじみのなかった婚前契約ですが、最近では日本でも婚前契約を行ったうえで夫婦になれるかたは少なからずいらっしゃいます。
そこで、今回は婚前契約の内容についてご説明させていただきます。
1 婚前契約とは
婚前契約とは、結婚をする前に結婚に関する取り決めをしておくことをいいます。
具体的には、同居中における生活のルールやお子さんの育て方に関するルールを定めることや、金銭管理の方法について規定することに加え、慰謝料についてもあらかじめ定めておくことがあります。
例えば、「夫が妻に暴力を振るったら1回あたり〇〇万円支払う。」といった内容や、「不貞行為をした場合には1回あたり〇〇万円を支払う。」などといった文章を入れることもあります。また、結婚期間中の決め事だけでなく、離婚時に関する条件についても定めることが一般的です。例えば、離婚の際の財産分与の対象となる財産を特定する条項を設ける場合や、分与の割合についてあらかじめ合意しておくことが多いです。
2 婚前契約のメリットとは
日本では、結婚する前に離婚に関する話し合いなどをすることに抵抗を感じるなどの理由から、婚前契約の普及率は極めて低いです。
しかし、夫婦の間で事前に合意事項を作成することで、結婚生活後の生活上の無用なトラブルを避けることが可能になります。また、慰謝料の関する金額などを定めておくことで、不貞行為等違法な行為をしないという強い誓いにもなるため、離婚を避けるために婚前契約を締結する方もいらっしゃいます。
また、会社を経営されている方の場合には、自社の持ち株についても共有財産の対象となりうるものであることから、財産分与の対象となってしまうと、離婚後の会社の経営に影響を及ぼすことになりかねないため、あらかじめ婚前契約において、株式は財産分与の対象とならないことについて合意しておく方がよい場合があります。
3 なぜ「婚前」に作成?
それでは、なぜ、婚「前」契約というように婚姻前に作成しなくてはならないのでしょうか。
それは民法上の規定を理由としており、民法744条では、「夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。」と規定されており、婚姻中行った契約については、夫婦の一方から取り消すことができると規定されているため、婚姻中に合意したとしても、その実効性がありません。
婚姻前に関する契約については、民法758条1項に、「夫婦の財産関係は、婚姻の届出後は、変更することができない」と規定されており、婚姻前に行った夫婦間の財産契約については、届出後に変更することができないという強い拘束力を有することになるため、届出前に作成する必要性があります。
入籍予定の方で婚前契約したほうが良いのではないかと検討されている方は、是非一度当事務所までご相談ください。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」
WEBサービスを始めるなら必要!利用規約やプライバシーポリシーについて
WEBサービスを立ち上げる際、必ず準備しておきたいのが「利用規約」です。
対面での契約と違い、WEB上では購入者と書面で契約書を取り交わすことは不可能に近いと言えます。その契約書と同様の利用規約を作成し、プライバシーポリシーと併せてサイトに掲載、さらに利用者に同意をしてもらうことで、万が一トラブルが起こった際、適切に対処することができます。つまり、契約書の代わりになるのが利用規約やプライバシーポリシーとなります。
ではその利用規約やプライバシーポリシーについて、どのような点に注意して作成すれば良いのでしょうか?
1.サービスに沿った利用規約を作成しましょう
(1)契約書と同様の意味をもつ利用規約
上記の繰り返しになりますが、通常、物品の購入やサービスを受けるには売る側と買う側の間に「売買契約」が生じます。紙の契約書を取り交わしたり、同意書に署名したり、というようなことを行いますが、WEB上では同じように書面のやり取りをするということは現実的ではありません。
そこで、利用規約としてWEBサービスの利用者、商品の購入者に対して、サービスの内容やサイト内で守ってほしい項目や禁止行為、免責事項などを明記し、同意してもらうことで契約書の代わりとするのです。
(2)トラブルが起こった場合に備える
万が一トラブルがあった際などには、サイト管理者が利用規約に基づいてトラブルの対応をすることになります。
よく見受けられるのが、商品注文後の返品・返金・キャンセル等(ここでは返品等とします)ですが、利用規約に記載があり内容に則した返品等であれば対応が必要です。
しかしながら、すべての返品等に応えていては売り上げも立ちませんし、労力ばかりが増えてしまいます。返品等についての対応期限を設けたり、初期不良以外の返品不可といった条件を設定し、サイト管理者側が不利にならない内容にしましょう。
とりあえず返品に対応する、というようなあいまいな内容では利用する側も不安を覚えてしまいます。具体的に記載し、どんなケースでも対応できるようにすることが重要です。
(3)その他、利用規約に必要な具体的な項目は?
上記で例に挙げた返品対応についてはなんとなく思い浮かぶものですが、他の項目を一から考えて利用規約を作成する、と言っても法律の専門家でない限り、なかなか最初の文字すら出てこないものです。
すでに多くのWEBサービスがネット上に存在しているので、まずは参考として、自分が始めたいサービスと同様の形態を取っているサイトを見てみましょう。
多くのサイトでは、メニュー部分やサイトマップ(サイトの目次一覧)のページに利用規約へのリンクが掲載されていることが多いですので、そのリンクからアクセスし確認することができます。
また、検索エンジン(yahooやgoogleなど)の検索窓に「〇〇ショップ(サイトの名前) 利用規約」などのキーワードを入れ検索すると、そのショップの利用規約ページに直接アクセスできることもあります。
見てみるとどのサイトの利用規約も似通っており、「ではこれを丸写しすればいいんだ!」と思ってしまうかもしれませんが、あくまで参考とし、普遍的な部分以外は自身が行うサービスに則した内容にしていきましょう。利用規約にも著作権が認められたケースもありますので十分注意が必要です。
また、「サービス利用前に、こんなに膨大な文章の利用規約なんて誰も読まないだろう」と考え、利用者が不利になるような内容にするのも危険です。これまでも、利用者が作成したデザインの著作権はサイト管理者側へ譲渡されるといった規約内容が問題であるとされ、SNSで拡散炎上、利用規約の変更を迫られた他、企業イメージのダウン、更にはサービスの終了や業績低迷につながった例もあります。
近年起こっているSNSでの問題発覚は、上記のような規約以外でも多大な影響を及ぼしています。たとえ小規模なサイトであっても、全世界に向けてサイトを公開していること、細かい部分まで誰かが見て読んでいることを念頭に置いて運営していきましょう。
2.プライバシーポリシーって必要?
(1)利用者の個人情報を取得し、適切な利用を
プライバシーポリシーとは、そのWEBサイトを運営する管理者が、サイト上で得た個人情報の取り扱い方について方針を示すものです。個人情報保護方針とも言われ、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)により、個人情報の利用目的や第三者への情報提供などについて明記する義務があります。
こちらも多くのWEBサイトでは、利用規約と同様にメニュー部分やサイトマップのページにリンクが掲載されていますので、そのリンクからアクセスし内容を確認することができます。サイトによっては利用規約の中に組み込まれていることもあります。
プライバシーポリシーは、単に個人情報を適切に扱いますよ、という方針を記載するだけでは内容が不十分です。会員登録などで知り得た個人情報を、今後どのように取り扱うのかを具体的に説明せねばなりません。
例えば、
・販売後のフォローや、関連情報を知らせるために利用することがある
・購入者の解析や分析のため、データ解析会社や広告代理店など第三者へ情報を提供することがある
・新商品が発売されたら、案内をする際に使用する
…など、今後個人情報を利用するシチュエーションを考え、作成していくようにしましょう。この個人情報の利用目的を明確化しておかないと、後日個人情報を使いたいと思ったときに、プライバシーポリシーに記載されている利用目的と異なる利用はできないこととなってしまいます。今後のビジネスの発展や展開を考えながら、個人情報の利用目的を検討しましょう。
(2)プライバシーポリシーには必ず同意を!
問い合わせフォームや資料請求のページなど、利用者自身の個人情報を入力する部分にもプライバシーポリシーを掲載しておきます。そしてポリシーに同意しなければフォーム内容を送信できないようにすることがポイントです。
同意がなければ、上記のような販売後のフォローや関連情報の提供などを購入者へ対して行うことができませんし、販売拡大のためのデータ活用もできないため、必ず同意を得るようにしましょう。
3.まとめ
利用規約、プライバシーポリシーどちらにしてもWEBサービスにおいては欠かせないものとなっています。消費者トラブルや情報漏えいを起こした場合、この2つの記載内容が不十分だった際には、責任の所在を問われることになります。
WEBサービスを早く始めるにはその作成を専門家に依頼し、自分は他の準備に専念するのも一つの方法ですが、専門家もそのサービスについて熟知しているとは限りません。任せきりにせず、しっかり事業内容や事前情報を伝えた上でアドバイスを受け、より良い規約を作成していくようにしましょう。
給与計算業務②~給与計算の流れ~
前回の記事では、給与計算を行うにあたって必要な知識についてお話しました。今回は、それを踏まえて、実際の給与計算業務の流れについてご説明します。
前回の記事はこちら
給与計算業務① ~給与とは~
https://www.nakagawa-lawoffice.jp/blog/business/3370/
1. 給与計算の流れ
(1)支給項目の計算
初めに、支給項目の計算を行います。
まず、基準内賃金(基本給のほか、役職手当、通勤手当など毎月決まった金額で固定的に支払われる手当)と基準外賃金(時間外労働をさせた場合に支払う手当など毎月変動的に支払われる賃金)を合計します。また、前回の記事でも述べた通り、給与は労働の対償として支払われるものなので、欠勤や遅刻、早退のように、従業員の労務の提供がない場合は、給与を支払う必要はありません。ですので、基準内賃金と基準外賃金の合計額から、欠勤や遅刻、早退をした場合の欠勤控除、遅早控除の額を差し引き、総支給額を算出します。
支給額が毎回変動する給与は、支給する度に計算する必要があります。変動がある項目として代表的なのが残業手当です。タイムカード等で記録している残業時間のうち、法定時間内労働、法定時間外労働、法定休日労働、深夜労働について、それぞれ分けて集計する必要があります。
(2)保険料の計算
(a)社会保険料
社会保険料とは、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料(40歳以上65歳未満の従業員のみ)のことです。
各従業員の社会保険料を確認するために、まず、保険料額表を準備します。健康保険料率と介護保険料率は毎年3月、厚生年金保険料率は毎年9月に改正されるので、最新のものを準備するようにしてください。
保険料額表を準備したら、報酬月額を算出します。この報酬月額とは、基本給のほか、通勤手当、家族手当、住宅手当、残業手当など労働の対償として会社が支払う報酬のことを指します。臨時に支払われるものや、3か月を超える期間ごとに支払われる賞与などは含まないので注意しましょう。
算出した報酬月額を保険料額表にあてはめることで、標準報酬月額が決定します。この標準報酬月額に保険料率を掛けることで、保険料が決定します。
標準報酬月額を決定するのは、従業員の入社時、毎年7月に標準報酬月額の見直しを行う定時決定時、大幅な昇給・降給があった場合の随時改定時です。
<控除する社会保険料の求め方>
※この表は例ですので、実際に計算する際は必ず前述した保険料額表を準備・参照してください。
例えば、報酬月額が22万5千円である場合、標準報酬月額は22万円になるので、標準報酬月額が220,000の行を参照します。社会保険料は、会社と従業員で折半するので、従業員の給与から控除するのは全額ではなく、折半額です。
健康保険料については、40歳未満の従業員であれば、「介護保険第2号被保険者に該当しない場合」の折半額(今回の場合、11,264円)、40歳以上の従業員であれば「介護保険第2号被保険者に該当する場合」の折半額(今回の場合、13,167円)を控除します。
厚生年金保険料については、一般の被保険者の折半額(今回の場合、20,130円)を控除します。
(b)雇用保険料
雇用保険料は、総支給額に雇用保険料率を掛けて計算するため、総支給額が変わる度に計算しなければなりません。雇用保険料率は、会社の事業の種類によって異なるので、厚生労働省のホームページで確認しましょう。
<控除する雇用保険料の求め方>
※この表は例ですので、実際に計算する際は必ず厚生労働省のホームページを参照してください。
雇用保険料も、従業員が負担する分と会社が負担する分に分かれるので、従業員の給与から控除するのは①労働者負担にあたる額のみです。
例えば、一般の事業に該当する会社の従業員で、総支給額が20万円である場合、20万円に①労働者負担率0.3%を掛けた600円を控除します。
(3)所得税・住民税の計算
所得税は、源泉徴収税額表を用いて計算します。この源泉徴収税額表には、月額表と日額表があります。
給与を月、半月、10日、月の整数倍の期間ごとに支払う従業員に対しては月額表を使います。「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している従業員については甲欄、その他の従業員については乙欄を使います。
これに対して、日や週ごとに支払う従業員、日割で支払う従業員、日雇賃金を支払う従業員に対しては日額表を使います。日や週ごと、日割で支払う従業員で、「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している人については甲欄、その他の従業員については乙欄を使います。日雇賃金を支払う従業員については丙欄を使います。
また、扶養控除等申告書を提出している場合、配偶者、子、親といった扶養親族等の人数を確認しましょう。
<控除する所得税の求め方>
※この表は例ですので、実際に計算する際は必ず国税庁のホームページを参照してください。
例えば、月ごとに給与を支払っており、その月の社会保険料等控除後の給与等の金額が29万円、扶養控除等申告書を提出している従業員で、扶養親族等が2人の場合、4,800円を給与から控除します。
住民税は、毎月5月頃までに会社に送られてくる特別徴収税額決定通知書をもとに控除します。
(4)給与明細の作成
最後に、給与明細を作成します。たとえ給与を振込みで支給していたとしても、必ず給与明細を作成して、役員を含む従業員に渡す必要があります。
2. まとめ
前回の記事と今回の記事にわたって、給与計算に関する基本的な知識・流れについてご説明してきましたが、いかがでしたでしょうか。給与計算は、支払日までに、思っている以上に多くの手順を踏む必要がある難しい業務です。慣れないうちは特に大変ですが、1つ1つの項目を丁寧に理解して業務を進めていきましょう。
意外と知らない会社法
「会社」や「株式会社」、よく聞く言葉ですよね。
しかし、何のことを指す言葉なのか聞かれると意外と答えられない言葉でもあると思います。世の中には本当に多くの会社があり、総務省統計局による平成26年経済センサスによれば、日本中の企業の数は382万社にのぼります。
これだけ多くの会社が世の中にはあり、様々な種類の会社がありますが、会社経営と縁のない立場としては、会社の種類なんて気にしたことないですよね。世の中の構造を理解することは、人生を賢く生きる術でもありますから、ぜひ知っておいてください。
今回は、そんな会社の種類について説明します!
1.「会社」とは
世の中には、数え切れないほどの「会社」が存在していますよね。株式会社、合同会社などいくつか種類がありますが、そもそも「会社」とは一体何のことでしょうか?
「会社」とは、営利行為を業とすることを目的として設立された社団法人のことを言います。細かく分類して説明すると、以下の通りです。
営利行為:利益を得ることを目的とする行為のこと
(得られた利益を構成員に配当するところまでを含みます。法律用語として厳密な説明をすると、儲けるためにビジネスをしていることではなく、株主に対して配当を行っていることを「営利」と呼びます。)
業とする:反復継続すること(実際に反復継続している場合だけでなく、実際には1回限りだったとしても、反復継続する意思で行われている場合も含まれます。)
社団:一定の目的を持った人々の集まり
法人:人ではないが、法律で人格を認められたもので、権利義務の主体とされるもの(要するに、契約の主体として、契約書に署名押印できる立場を言います。)
つまり「会社」を簡単に説明すると、継続的に利益を得ることを目的とした人々の集まりで、権利義務の主体となることができるものとなります。
では、「会社」は利益を得るという目的があれば何をしても良いのでしょうか?
もちろん、そんなはずはなく、どのような事業を行っていくのかを定めなければなりません。これが「会社」の目的となります。「会社」は定められた目的の範囲内でのみ、法人格が与えられるため、目的外のことについては権利義務の主体となることができません。
通常、会社の登記簿には「会社の目的」が列挙されています。例えば、飲食店を経営する会社であれば、登記簿の目的の欄に「飲食店経営」と書かれており、飲食店経営に必要な事柄については権利義務の主体になれる(契約を行うことができる)のですが、全く関係のない事柄に関しては権利義務の主体にはなれません。
そのため、新しいビジネスを始める場合、現状の会社の目的の欄に関係しそうなものが見当たらない場合には、登記簿の目的欄を追加して、会社の目的として新しいビジネスを書き込みます。
会社の登記簿なんて見たことないかもしれませんが、法務局に行けば誰でも何の会社でも登記簿を取得することができますので、自分が知っている会社や働いている会社の登記簿を取得して、会社の目的や役員構成などを見てみても面白いかもしれません。
2.「株式会社」とは
会社法では、現在設立することのできる会社の種類として、株式会社、合同会社、合資会社、合名会社の4つが定められています。この中で、最も多く使われているのが「株式会社」になります。
よく耳にするこの「株式会社」という言葉ですが、どのような会社のことを指すのでしょうか?
「株式会社」は、設立する際に出資者(会社に対してお金を出してくれる人々)が集まります。この出資者のことを株主と呼び、株主は会社の持ち主となり、会社に対して様々な権利を持つことができます。
株主の持つ権利は株式とよばれ、株式を具体化したものを「株券」といいます。(一昔前であれば、どこかの会社の株式を持っている人は株券を保有しているのが通常でした。例えば、キティちゃんなどで知られる株式会社サンリオの株券は、キティちゃんが印刷された株券でした。これも東京証券取引所に行けば見学できますので、見てみてください。しかし、現在では株券は発行しなくても良いことになっていますので、株券をいちいち発行していない会社が大半でしょう。なので、世の中で株券というものを保有している人は多くないと思われます。)
また、株主はあくまでも会社の所有者でしかなく、経営のプロという訳ではありません。そのため、会社を経営する取締役として、株主でない他の人に経営を委ねて経営してもらうことを前提としています。これを「所有と経営の分離」と呼びます。
株主には会社を経営する義務がないと先程お伝えしましたが、経営しなくて良いということは、会社に対して出資のみをすることになります。
ですので、もし株主をやめたいと思った時には、株式を他の人に売り、出資したお金を回収することが可能です。原則として、株主は株式を自由に譲り渡すことができるのです。(ただし、譲渡制限株式という株式を譲渡する際には会社の承諾が必要となるタイプの株式も存在し、上場企業でなければ譲渡制限株式であることが多いですので、確認されてみてください。これも会社の登記簿を確認すれば書いてあります。)
3.「持分会社」とは
2では、株式会社についてお話をしましたが、ここでは株式会社以外の会社について説明をしたいと思います。2で、会社法では4つの種類の会社が定められていることを紹介しました。1つは株式会社、残りの3つは合同会社、合資会社、合名会社となり、この3つを合わせて持分会社と呼びます。
持分会社とは、社員と出資者が同じで、比較的自由度が高い会社になるため、その分社員同士の関係性が大切になってきます。このことから、持分会社は少人数や仲間内で設立するのに適している会社となります。
また、持分会社の社員には、出資額の範囲内で責任を負う「有限責任社員」と出資額に関わらず、会社の負債のすべてにおいて責任を負う「無限責任社員」の2種類が存在し、有限責任社員のみで構成される会社を「合同会社」、無限責任社員のみで構成される会社を「合名会社」、有限責任社員と無限責任社員の両方がいる会社を「合資会社」と言います。
どの会社についても、株式会社と比べて設立手続きが簡単で、社員間の取り決めも簡単にできるようになっています。
最近は、有限責任で簡単に設立でき、設立時のコストも安いことから、合同会社で立ち上げられるベンチャー企業も多くなっています。
4.まとめ
今回は、「会社」、「株式会社」、「持分会社」についてお話をしました。よく聞く言葉でも、いざどんなものかと聞かれると答えることが難しいですよね。
また、これらの言葉や会社法について、知っていて損をすることはないと思いますので、是非この記事を読んで日々の生活に役立ててください。
【相談事例56】転居先に弁護士から通知が~職務上請求について~
【相談内容】
数年前に知人から大きい金額を借りていましたが、生活が苦しくなってしまい、払うことができず、申し訳ないという思いがありながらそのまま別のところへ引っ越してしまいました。その後、借りていた知人の代理人であるという弁護士から、借りたお金の返却を求める書面が届いてびっくりしています。
知人は、引っ越す前の住所は知っていますが、当然のように転居先については教えていなかったのになぜ現在の住所がわかったのでしょうか。
【弁護士からの回答】
ご依頼者様の代理人として、相手方に対し、弁護士として受任したことを連絡する書面(通常、「受任通知」といいます。)を送付するのですが、受任通知を送付した後、相手方の人から「どうして住所がわかったのですか」とお問合せいただくことが少なくありません。
そこで、今回は、弁護士などによる住民票の職務上請求についてご説明させていただきます。
1 住民票とは
まず、住民票についてご説明させていただきます。
住民票とは、市町村役場において住民がどこに住んでいるのかについて記録したもので、各市町村役場において住民基本台帳という市町村がまとめている帳簿(「公簿」といいます。)にまとめられています。世帯ごとにまとめられており、氏名、本籍、生年月日や前住所地や、住民となった日や住所を設定した日などが記載されています。
2 住民票を取得することができる人は?
上記のとおり、住民票には前住所、現在の住所など重要な個人情報が記載されているものであるため、原則として、本人及び同一世帯の人しか取り寄せることができず、第三者では自由に住民票を取得することができません。
もっとも、弁護士、司法書士等の一定の職業についている人(「特定事務受任者」といいます。)であれば、依頼者から受けている事件において必要な範囲で、第三者の住民票を取得することが可能であり、これを職務上請求といいます。
したがって、ご相談者様のように、お金を払わなければいけないのにも関わらず、転居して雲隠れをしようとしても、弁護士が職務上請求を行うことにより、転居先の住所が判明してしまうので、雲隠れしようとすることはお控えいただいたほうがよいでしょう。
逆に、お金を貸した人がどこかに行ってしまったという場合であっても、旧住所がわかっていれば弁護士において職務上請求を行うことにより、相手方の所在が判明するケースもあるため、泣き寝入りするしかいないのかとあきらめる前にぜひ一度弁護士にご相談ください。
なお、弁護士の職務上請求ですが、ご依頼者様の法律上問題に関し必要な範囲でのみ取得することができるものですので、単なる人探しの場合や、所在を知りたいという目的のみでは弁護士であっても職務上請求を行うことはできないので、ご承知おきください。
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【相談事例55】「お子様お断り」のお店は違法?
【相談内容】
子どもと用事があり外出し、お昼になったためどこか食べるところを探しており、おいしそうなレストランを見つけたため、入ろうとしたところ、入り口に「小さいお子さんのご入店はお断りさせていただきます」という張り紙が貼ってあり、入ることができませんでした。
子どもの入店を断るなんて、違法ではないですか。
【弁護士からの回答】
小さいお子さんがいらっしゃる場合、周囲の人に配慮したりなど入ることができるお店も限られて、お店を探すことも大変な場合もあり、ご相談者様のようにお子さんの入店を断られてしまう方も少なくないと思います。
今回は、店側による入店拒否の行いの適法性についてご説明させていただきます。
1 契約自由の原則
日本の民法においては、私的自治の原則という制度が採用されています。私的自治の原則とは、私人間の法律関係(権利、義務の発生)については、基本的に国家が干渉すべきではなく、私人の自由な意思によって決定すべきであるという原則です。
その私的自治の原則の1つとして、契約自由の原則というものがあります。それは、契約をするかしないか、誰と契約の相手方とするか、どのような内容の契約を締結するか等契約に関する事項については当事者の自由に任せるべきであるという原則です。
この契約自由の原則については、法律で特別の定めがない限りあらゆる契約に認められる原則です。契約自由の原則の例外、すなわち、定の場合に当事者が制限される法律として、労働者を保護するために制定された労働基準法、取引の公正を確保するための、独占基準法などがあります。
2 飲食店での契約について
飲食店での契約関係についてみると、飲食店では、お客が代金を支払い、店側が料理を提供するという契約関係になります。そして、飲食店に関しては基本的に相手方等を限定されるような法律は基本的にありません。
考えられるものとしては、各都道府県において制定されている暴力団排除条例によって、暴力団に対して飲食を提供することは禁じられているぐらいでしょう。
したがって、飲食店においては、誰に料理を提供するのかという点や、誰の入店を許可するのかという点について、店側が自由に決定することができます。
よく、高級レストランで設定されているドレスコードについても、店側において入店することができる客の服装を自由に決定することができるという点で、契約自由の原則が採用されています。
このように飲食店での法律関係においても店側において「小さいお子様の入店はお断りします。」として、小さいお子さんの入店を拒否することができます。
小さいお子さんを抱えた方からしてみると、自分たちだけ差別されているような気持になってしまうかもしれませんが、自由な入店を認められなければならないということになると、店側に入店を強要させてしまうことになり、契約自由原則に反してしまうことになります。
もっとも、喫茶店やレストランにおいても、逆に小さいお子さんに配慮が行き届いたお店も多く存在していると思いますので、そういったお店を探されるのがよいのではないかと思います。
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【不動産】マンション設備・建築の適法性に関する売主の説明義務
Q.新築マンションを購入して住み始めたのですが、外壁が剥がれ落ちている箇所があり、マンションの建築工事の段階で不備があったのではないかと思っています。こういったとき、売主に対して損害賠償請求をすることは可能なのでしょうか?
A.マンションの設備や建築の問題としては、最初に挙げたような
の他にも、
といったように、一つの不備があったことから複数の重大な問題が発生することが想定されます。
こういった被害が実際に発生した時、誰に、どのような根拠に基づいて請求をすることができるのかを考えていきます。
1 民法上の瑕疵担保責任
例①の場合、当該マンションの買主としては、まずは売主に対する瑕疵担保責任の追及を試みることが考えられます。瑕疵担保責任とは、購入したものに何らかの瑕疵(不備)があった場合に、その瑕疵の補修や損害賠償などを求める権利のことです。
民法では、瑕疵担保責任について1年間の除斥期間(時効のようなものです)を設けていることから、買主が瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求をする場合、隠れた瑕疵の存在を知った時点から1年以内に行わなければなりません。
また、この「瑕疵担保責任」は、一般債権の消滅時効の規定が適用されると解されています。よって、買主が瑕疵の存在に気付かず、消滅時効期間が経過してしまった場合には、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求は困難になってしまいます。
更に、民法上の瑕疵担保責任の規定は任意規定であるため、売買契約の中で瑕疵担保責任の行使期間が短縮されているケースも多くあるため注意が必要です。
以上を踏まえて、購入した年月日、瑕疵を発見した年月日、売買契約書の中に売主が瑕疵担保責任を負わない旨の規定が入っていないかなど、確認されてみてください。これらを確認し、どのような瑕疵があるのかを明確にして、弁護士などの専門家に損害賠償請求ができないか、売主に補修をするよう請求できないかを相談してみましょう。
2 住宅の品質確保の促進等に関する法律による瑕疵担保責任
上記1の通り、民法の規定を前提とした場合、除斥期間が1年とかなり短い上に、個別の売買契約において更に期間が短縮されていることも多く、買主にとって大変不利な状況にあるように思われます。
しかしながら、住宅の瑕疵は、購入時や入居時にある程度確認するため、実際に見つかる瑕疵は、なかなか気付かないような瑕疵が多いものです。(簡単に見つかるような瑕疵なら、購入時や入居時に気付いているでしょう。)実際のところ売買からそれなりの期間を経過した後に判明するケースが多いため、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」という法律によって、民法上の瑕疵担保責任の特例として、住宅新築請負契約や新築住宅の売買契約においては、「構造耐力上主要な部分(基礎、基礎杭、壁、床板、屋根板など)」、「雨水の侵入を防止する部分(屋根、外壁など)」に関する請負人または売主の瑕疵担保責任の除斥期間を10年と定めており、この期間の短縮は出来ないものと定めています。
これらを踏まえて例①のケースを考えると、新築マンションの買主であり、また、問題となっている瑕疵は外壁に関するものであるため、住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づき、当該マンションの引渡しから10年経過より前であれば、買主は売主に対して瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求をすることができると考えられます。
3 資産価値の下落による損害賠償
例②及び例③について検討します。
マンションの瑕疵について売主により補修工事が実施され、マンションの機能上の問題が解消されたとしても、大規模な補修工事が行われたという事実によって、そのマンションの価値が低下するという事態は十分に想定されます。
仮に自分が中古マンションを買う側であれば、瑕疵があって大規模修繕をしたマンションは、他にも瑕疵があるかもしれないと思ってなかなか購入する気にならないですよね。こうした価値の下落部分の損害について、損害賠償を請求することが可能なのかが問題となります。
この点、福岡高判H18・3・9では、新築直後から外壁タイルの剥落を生じていたマンションを、この外壁の問題を知らずに購入した買主が、売主による補修工事後に、交換価値の下落による損害等の賠償を求めた事案について、「外壁タイル以外にも施工不良が存在するのではないかという不安感や新築直後から本件マンションの外壁タイルに対して施工された大規模な本件補修工事から一般的に受ける相当な心理的不快感、ひいてはこれらに基づく経済的価値の低下分は、本件補修工事によっても払拭しがたいといわざるを得ない」ことであり、「売主である分譲業者は、売主の瑕疵担保責任として、瑕疵の存在を知らずに合意した売買代金額と瑕疵を前提とした目的物の客観的評価額の差額に相当する、この経済的価値の低下分について、損害賠償義務を負わなければならない」ことになると判示しました。
なおこの事件では、資産価値下落に掛かる損害賠償を認める前提として、単に当該マンションが新築であったことだけではなく、補修工事の規模・方法、当該マンションが高級感やデザイン性を重視していたことといった様々な事情を総合的に考慮しているため、類似した状況であったとしても、この事件と同様の損害賠償請求が認められるとは限りません。
よって、マンションや実際の損害の程度を、個別案件によって十分に検討する必要があると考えられます。
4 慰謝料請求
瑕疵担保責任に基づいて損害賠償責任が認められる場合には、財産的損害(=建物の瑕疵)に加えて、精神的損害(=建物の瑕疵について補修工事を行った際に騒音等によって被害を受けた場合)についても賠償責任は認められるかが問題となります。
この点、上記3であげた判決においては、居住者は本件瑕疵の補修工事の施工そのものは受けいれなければならなかったものの、上記補修工事によって発生する騒音や粉塵等の生活被害についてまで負担を強いられる理由は無く、これらの生活被害については売主の負担により回復されるべきとの理由から、慰謝料請求を認めました。
よって、例④のようなケースでも慰謝料の請求を検討する余地はあるといえます。
5 まとめ
以上の通り、購入した物件に何らかの瑕疵がある場合、売主に対して様々な請求をすることが可能です。
ただし、やはり事案次第というところが大きく、どのような瑕疵なのかによりますので、しっかりと弁護士などの専門家に相談して検討してみてください。
【離婚問題】養育費を決めるために知っておくべきこと
子供がいる夫婦が離婚する際、親権だけではなく養育費の取り決めは必ず付きまとう事柄でしょう。では、そもそも養育費とはなんでしょうか?
1 そもそも養育費とは?
当然のこととして民法でも定められていますが、子供を扶養する義務は両親にありますので、未成年の子と離れて暮らしている親(以下「義務者」といいます。)も、子供の生活費や教育費などを負担しましょうというものが養育費制度となります。この養育費の請求とは、子供が親に対して行う扶養請求ですので、本来は法的には子供に請求権が認められる権利になります。
しかし、子供に支払っても子供自身が養育費を適切に使えませんので、実際に請求する際は、監護親(子供と一緒に暮らしている者)が請求することが多いです。そして、一般的に親権者が子供と一緒に暮らしている監護親であるケースがほとんどですので、離婚した夫婦は親権者が非親権者に対して、養育費を請求することとなります。
様々な離婚を見ていると、夫婦間では離婚を成立させることが先決となっており、養育費の取り決めを明確にすることなく、離婚される方が多くいらっしゃいます。(口約束で決めている夫婦も見受けられますし、おおよその金額だけ決めている夫婦も見受けられます。)
また、明確に支払日や支払金額を決めている夫婦であっても、それを明記したものが単なる離婚協議書の場合が多く、養育費の支払いが滞った場合、強制的に養育費を支払わせるというのが困難なケースが散見されます。
養育費は、子供に安心した日常生活を与え、十分な教育費を与えるためのお金ですので、子供の成長にとって非常に重要なお金であり、不払いが許されてはならないものです。必ず、不払いが発生したときに対応できるよう、養育費の決め方などをきちんと理解しておきましょう。
2 公正証書で離婚協議書を作成することの重要性
義務者(養育費を支払う側の親)は、自身の生活と同程度の生活レベルを子供にも保持させる義務があります。そのため、養育費の金額については、義務者及び監護親それぞれの収入によって決めることになります。
まず、養育費を決める段階としては、①協議・②調停・③審判の3段階があります。協議の場合は、当事者間での話し合いとなりますので、口約束や離婚協議書で決めることが多くなっています。
しかしながら、もし養育費の支払いが滞り最終的には支払ってもらえなくなった場合、強制的に支払わせる効力がありませんので、相手方が応じてくれなくなったらどうすることも出来ません。そこで、協議の段階で強制力を持たせる方法として、公正証書で離婚協議書を作成する方法があります。
公正証書とは、法務大臣に任命された公証人(元裁判官や検察官などの法の専門家)が作成する公文書になります。この公正証書は証明力及び執行力を有していますので、仮に養育費の支払いが滞った場合は、給与等の差押えをすることが出来ます。
裁判所を使わずに、当事者同士の話し合いで養育費を決めて離婚する際は、口約束や協議書だけではなく、必ず公正証書も作成するようにしましょう。
3 話し合いで決まらない場合
次に、協議で決まらなかった場合や協議書等のみで養育費の支払いがなされなくなった場合には、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てます。調停とは、裁判官のほかに調停委員という第三者が間に入り、裁判所で話し合いを行う制度です。
それぞれの感情だけで意見を言い合うのではなく、客観的な視点で物事を判断することが出来ますが、第三者を交えた話し合いですので、まとまらなければ調停不成立となります。(もちろん裁判所が関与する以上、法律論として養育費の決定を促していきますが、あくまでも裁判所を間に挟んだ話し合いでしかないため、どれだけ法的に合理的な結論であっても、互いの合意が得られなければ調整は成立しません。)
そして、調停が成立しなければ、審判という制度に移行します。こちらは、提出された資料及び双方の事情に基づいて、裁判官が養育費の額を決定します。(一般的に「裁判」とイメージされているものです。)では、どのように養育費額が決まるのでしょうか?
家庭裁判所では、過去の養育費に関する審判例などを踏まえながら、養育費の算定表というものを発表しており、夫婦互いの収入状況と子供の人数や年齢によって養育費額を算出するための表を作成しています。
審判で養育費額を決める場合、裁判官は基本的にこの養育費算定表に基づいて養育費額を決めますので、これが養育費の相場のようなものになります。しかし、世の中の監護親が感じている通り、この算定表で算出される養育費額は、子供に十分な生活レベルを維持させながら十分な教育を与えるには不十分な金額と感じる人も多いかと思います。
そのため、審判までいくと、もしかしたら希望の金額より低い金額になってしまう可能性もあるため、出来るだけ調停まででまとめたほうがいいでしょう。
なお、調停及び審判となると、裁判所から調停調書又は審判書というものが発行されますので、支払が滞った場合でも、履行勧告や給与等の差押え等を行うことが可能となります。
4 養育費の算定表
では、養育費額はどのように決めたらいいのでしょうか?
養育費額には特段法的定めはなく、前述の通り、自身と同等の生活レベルを維持できるだけの額を支援することが望ましいとされています。監護親側としては、子供には生活費や教育費など、思いのほかお金がかかるため、できるだけ多くの養育費をもらいたいところだと思います。
しかしながら、義務者の収入に見合わないような金額を取り決めてしまうと、義務者自身の生活が圧迫され、養育費の支払いがストップしてしまう恐れがあります。そのため、きちんと義務者の収入に考慮した無理のない金額にしましょう。
ただ、そうは言っても、「じゃあ収入に応じた無理のない金額って一般的にいくらなの?」という疑問が浮かぶと思います。そこで、家庭裁判所が作成した養育費の算定表というものが裁判所のHPに掲載されています。
http://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/tetuzuki/youikuhi_santei_hyou/
これは、実際に裁判所も養育費を決める際に参考にしている表で、双方の収入から養育費の相場を算定できるものとなっています。しかしながら、子供にはそれなりに費用がかかってきますので、この算定表はあくまでも参考程度にして頂き、双方の収入及び子供の将来設計に応じた金額の設定をするようにしましょう。
5 養育費の変更
何度も話に出ている通り、子供がひとり立ちするまでの間には何かとお金がかかります。毎月の生活費だけでなく、習い事の費用、進学時の諸費用など、大きくなるにつれて、節目節目で高額な費用が必要になってきたり、私立学校に進学し学費の負担が増加したりすることも考えられます。
また義務者や監護親の収入に増減が生じる、新たなパートナーと籍を入れるなど、両親の状況の変化もないとはいえません。
そのため、そういった状況の変化に合わせて養育費の減額や増額を請求することが可能となっています。ただし、一度取り決めた養育費を変更するためには、それ相応の事情変更があることが必要とされています。(義務者と再度話し合い、新しい金額で合意がとれればそれで問題ありません。)
養育費変更の調停を行った場合は、調停委員から増額減額を求める理由について、具体的な事情を聴取され、それを裏付ける資料の提出を求められます。また、現在の養育費を決めた際に、将来の子供の進学状況に変更が生じる可能性を考慮して金額を取り決めたか否かも影響してきます。
このように事情変更があるかどうかについては、慎重な検討が必要とされており、調停委員が事情変更があると認める方向性になった際は、具体的な金額の調整に進むことになります。変更があると認められない場合には、審判に移行しても認められない可能性が高いため、当事者同士で折り合うことの出来る金額を模索するほかありません。
6 まとめ
養育費は、子供のためのお金です。子供が十分な生活をしながら、適切な教育を受け、一人前の大人になっていくために必要なお金です。離婚当時は当事者の感情だけで物事を進めてしまいがちですが、子供の将来のこともきちんと考え、養育費もきっちり取り決めをしておきましょう。