【相談事例56】転居先に弁護士から通知が~職務上請求について~
【相談内容】
数年前に知人から大きい金額を借りていましたが、生活が苦しくなってしまい、払うことができず、申し訳ないという思いがありながらそのまま別のところへ引っ越してしまいました。その後、借りていた知人の代理人であるという弁護士から、借りたお金の返却を求める書面が届いてびっくりしています。
知人は、引っ越す前の住所は知っていますが、当然のように転居先については教えていなかったのになぜ現在の住所がわかったのでしょうか。
【弁護士からの回答】
ご依頼者様の代理人として、相手方に対し、弁護士として受任したことを連絡する書面(通常、「受任通知」といいます。)を送付するのですが、受任通知を送付した後、相手方の人から「どうして住所がわかったのですか」とお問合せいただくことが少なくありません。
そこで、今回は、弁護士などによる住民票の職務上請求についてご説明させていただきます。
1 住民票とは
まず、住民票についてご説明させていただきます。
住民票とは、市町村役場において住民がどこに住んでいるのかについて記録したもので、各市町村役場において住民基本台帳という市町村がまとめている帳簿(「公簿」といいます。)にまとめられています。世帯ごとにまとめられており、氏名、本籍、生年月日や前住所地や、住民となった日や住所を設定した日などが記載されています。
2 住民票を取得することができる人は?
上記のとおり、住民票には前住所、現在の住所など重要な個人情報が記載されているものであるため、原則として、本人及び同一世帯の人しか取り寄せることができず、第三者では自由に住民票を取得することができません。
もっとも、弁護士、司法書士等の一定の職業についている人(「特定事務受任者」といいます。)であれば、依頼者から受けている事件において必要な範囲で、第三者の住民票を取得することが可能であり、これを職務上請求といいます。
したがって、ご相談者様のように、お金を払わなければいけないのにも関わらず、転居して雲隠れをしようとしても、弁護士が職務上請求を行うことにより、転居先の住所が判明してしまうので、雲隠れしようとすることはお控えいただいたほうがよいでしょう。
逆に、お金を貸した人がどこかに行ってしまったという場合であっても、旧住所がわかっていれば弁護士において職務上請求を行うことにより、相手方の所在が判明するケースもあるため、泣き寝入りするしかいないのかとあきらめる前にぜひ一度弁護士にご相談ください。
なお、弁護士の職務上請求ですが、ご依頼者様の法律上問題に関し必要な範囲でのみ取得することができるものですので、単なる人探しの場合や、所在を知りたいという目的のみでは弁護士であっても職務上請求を行うことはできないので、ご承知おきください。
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【相談事例55】「お子様お断り」のお店は違法?
【相談内容】
子どもと用事があり外出し、お昼になったためどこか食べるところを探しており、おいしそうなレストランを見つけたため、入ろうとしたところ、入り口に「小さいお子さんのご入店はお断りさせていただきます」という張り紙が貼ってあり、入ることができませんでした。
子どもの入店を断るなんて、違法ではないですか。
【弁護士からの回答】
小さいお子さんがいらっしゃる場合、周囲の人に配慮したりなど入ることができるお店も限られて、お店を探すことも大変な場合もあり、ご相談者様のようにお子さんの入店を断られてしまう方も少なくないと思います。
今回は、店側による入店拒否の行いの適法性についてご説明させていただきます。
1 契約自由の原則
日本の民法においては、私的自治の原則という制度が採用されています。私的自治の原則とは、私人間の法律関係(権利、義務の発生)については、基本的に国家が干渉すべきではなく、私人の自由な意思によって決定すべきであるという原則です。
その私的自治の原則の1つとして、契約自由の原則というものがあります。それは、契約をするかしないか、誰と契約の相手方とするか、どのような内容の契約を締結するか等契約に関する事項については当事者の自由に任せるべきであるという原則です。
この契約自由の原則については、法律で特別の定めがない限りあらゆる契約に認められる原則です。契約自由の原則の例外、すなわち、定の場合に当事者が制限される法律として、労働者を保護するために制定された労働基準法、取引の公正を確保するための、独占基準法などがあります。
2 飲食店での契約について
飲食店での契約関係についてみると、飲食店では、お客が代金を支払い、店側が料理を提供するという契約関係になります。そして、飲食店に関しては基本的に相手方等を限定されるような法律は基本的にありません。
考えられるものとしては、各都道府県において制定されている暴力団排除条例によって、暴力団に対して飲食を提供することは禁じられているぐらいでしょう。
したがって、飲食店においては、誰に料理を提供するのかという点や、誰の入店を許可するのかという点について、店側が自由に決定することができます。
よく、高級レストランで設定されているドレスコードについても、店側において入店することができる客の服装を自由に決定することができるという点で、契約自由の原則が採用されています。
このように飲食店での法律関係においても店側において「小さいお子様の入店はお断りします。」として、小さいお子さんの入店を拒否することができます。
小さいお子さんを抱えた方からしてみると、自分たちだけ差別されているような気持になってしまうかもしれませんが、自由な入店を認められなければならないということになると、店側に入店を強要させてしまうことになり、契約自由原則に反してしまうことになります。
もっとも、喫茶店やレストランにおいても、逆に小さいお子さんに配慮が行き届いたお店も多く存在していると思いますので、そういったお店を探されるのがよいのではないかと思います。
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【不動産】マンション設備・建築の適法性に関する売主の説明義務
Q.新築マンションを購入して住み始めたのですが、外壁が剥がれ落ちている箇所があり、マンションの建築工事の段階で不備があったのではないかと思っています。こういったとき、売主に対して損害賠償請求をすることは可能なのでしょうか?
A.マンションの設備や建築の問題としては、最初に挙げたような
の他にも、
といったように、一つの不備があったことから複数の重大な問題が発生することが想定されます。
こういった被害が実際に発生した時、誰に、どのような根拠に基づいて請求をすることができるのかを考えていきます。
1 民法上の瑕疵担保責任
例①の場合、当該マンションの買主としては、まずは売主に対する瑕疵担保責任の追及を試みることが考えられます。瑕疵担保責任とは、購入したものに何らかの瑕疵(不備)があった場合に、その瑕疵の補修や損害賠償などを求める権利のことです。
民法では、瑕疵担保責任について1年間の除斥期間(時効のようなものです)を設けていることから、買主が瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求をする場合、隠れた瑕疵の存在を知った時点から1年以内に行わなければなりません。
また、この「瑕疵担保責任」は、一般債権の消滅時効の規定が適用されると解されています。よって、買主が瑕疵の存在に気付かず、消滅時効期間が経過してしまった場合には、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求は困難になってしまいます。
更に、民法上の瑕疵担保責任の規定は任意規定であるため、売買契約の中で瑕疵担保責任の行使期間が短縮されているケースも多くあるため注意が必要です。
以上を踏まえて、購入した年月日、瑕疵を発見した年月日、売買契約書の中に売主が瑕疵担保責任を負わない旨の規定が入っていないかなど、確認されてみてください。これらを確認し、どのような瑕疵があるのかを明確にして、弁護士などの専門家に損害賠償請求ができないか、売主に補修をするよう請求できないかを相談してみましょう。
2 住宅の品質確保の促進等に関する法律による瑕疵担保責任
上記1の通り、民法の規定を前提とした場合、除斥期間が1年とかなり短い上に、個別の売買契約において更に期間が短縮されていることも多く、買主にとって大変不利な状況にあるように思われます。
しかしながら、住宅の瑕疵は、購入時や入居時にある程度確認するため、実際に見つかる瑕疵は、なかなか気付かないような瑕疵が多いものです。(簡単に見つかるような瑕疵なら、購入時や入居時に気付いているでしょう。)実際のところ売買からそれなりの期間を経過した後に判明するケースが多いため、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」という法律によって、民法上の瑕疵担保責任の特例として、住宅新築請負契約や新築住宅の売買契約においては、「構造耐力上主要な部分(基礎、基礎杭、壁、床板、屋根板など)」、「雨水の侵入を防止する部分(屋根、外壁など)」に関する請負人または売主の瑕疵担保責任の除斥期間を10年と定めており、この期間の短縮は出来ないものと定めています。
これらを踏まえて例①のケースを考えると、新築マンションの買主であり、また、問題となっている瑕疵は外壁に関するものであるため、住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づき、当該マンションの引渡しから10年経過より前であれば、買主は売主に対して瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求をすることができると考えられます。
3 資産価値の下落による損害賠償
例②及び例③について検討します。
マンションの瑕疵について売主により補修工事が実施され、マンションの機能上の問題が解消されたとしても、大規模な補修工事が行われたという事実によって、そのマンションの価値が低下するという事態は十分に想定されます。
仮に自分が中古マンションを買う側であれば、瑕疵があって大規模修繕をしたマンションは、他にも瑕疵があるかもしれないと思ってなかなか購入する気にならないですよね。こうした価値の下落部分の損害について、損害賠償を請求することが可能なのかが問題となります。
この点、福岡高判H18・3・9では、新築直後から外壁タイルの剥落を生じていたマンションを、この外壁の問題を知らずに購入した買主が、売主による補修工事後に、交換価値の下落による損害等の賠償を求めた事案について、「外壁タイル以外にも施工不良が存在するのではないかという不安感や新築直後から本件マンションの外壁タイルに対して施工された大規模な本件補修工事から一般的に受ける相当な心理的不快感、ひいてはこれらに基づく経済的価値の低下分は、本件補修工事によっても払拭しがたいといわざるを得ない」ことであり、「売主である分譲業者は、売主の瑕疵担保責任として、瑕疵の存在を知らずに合意した売買代金額と瑕疵を前提とした目的物の客観的評価額の差額に相当する、この経済的価値の低下分について、損害賠償義務を負わなければならない」ことになると判示しました。
なおこの事件では、資産価値下落に掛かる損害賠償を認める前提として、単に当該マンションが新築であったことだけではなく、補修工事の規模・方法、当該マンションが高級感やデザイン性を重視していたことといった様々な事情を総合的に考慮しているため、類似した状況であったとしても、この事件と同様の損害賠償請求が認められるとは限りません。
よって、マンションや実際の損害の程度を、個別案件によって十分に検討する必要があると考えられます。
4 慰謝料請求
瑕疵担保責任に基づいて損害賠償責任が認められる場合には、財産的損害(=建物の瑕疵)に加えて、精神的損害(=建物の瑕疵について補修工事を行った際に騒音等によって被害を受けた場合)についても賠償責任は認められるかが問題となります。
この点、上記3であげた判決においては、居住者は本件瑕疵の補修工事の施工そのものは受けいれなければならなかったものの、上記補修工事によって発生する騒音や粉塵等の生活被害についてまで負担を強いられる理由は無く、これらの生活被害については売主の負担により回復されるべきとの理由から、慰謝料請求を認めました。
よって、例④のようなケースでも慰謝料の請求を検討する余地はあるといえます。
5 まとめ
以上の通り、購入した物件に何らかの瑕疵がある場合、売主に対して様々な請求をすることが可能です。
ただし、やはり事案次第というところが大きく、どのような瑕疵なのかによりますので、しっかりと弁護士などの専門家に相談して検討してみてください。
【離婚問題】養育費を決めるために知っておくべきこと
子供がいる夫婦が離婚する際、親権だけではなく養育費の取り決めは必ず付きまとう事柄でしょう。では、そもそも養育費とはなんでしょうか?
1 そもそも養育費とは?
当然のこととして民法でも定められていますが、子供を扶養する義務は両親にありますので、未成年の子と離れて暮らしている親(以下「義務者」といいます。)も、子供の生活費や教育費などを負担しましょうというものが養育費制度となります。この養育費の請求とは、子供が親に対して行う扶養請求ですので、本来は法的には子供に請求権が認められる権利になります。
しかし、子供に支払っても子供自身が養育費を適切に使えませんので、実際に請求する際は、監護親(子供と一緒に暮らしている者)が請求することが多いです。そして、一般的に親権者が子供と一緒に暮らしている監護親であるケースがほとんどですので、離婚した夫婦は親権者が非親権者に対して、養育費を請求することとなります。
様々な離婚を見ていると、夫婦間では離婚を成立させることが先決となっており、養育費の取り決めを明確にすることなく、離婚される方が多くいらっしゃいます。(口約束で決めている夫婦も見受けられますし、おおよその金額だけ決めている夫婦も見受けられます。)
また、明確に支払日や支払金額を決めている夫婦であっても、それを明記したものが単なる離婚協議書の場合が多く、養育費の支払いが滞った場合、強制的に養育費を支払わせるというのが困難なケースが散見されます。
養育費は、子供に安心した日常生活を与え、十分な教育費を与えるためのお金ですので、子供の成長にとって非常に重要なお金であり、不払いが許されてはならないものです。必ず、不払いが発生したときに対応できるよう、養育費の決め方などをきちんと理解しておきましょう。
2 公正証書で離婚協議書を作成することの重要性
義務者(養育費を支払う側の親)は、自身の生活と同程度の生活レベルを子供にも保持させる義務があります。そのため、養育費の金額については、義務者及び監護親それぞれの収入によって決めることになります。
まず、養育費を決める段階としては、①協議・②調停・③審判の3段階があります。協議の場合は、当事者間での話し合いとなりますので、口約束や離婚協議書で決めることが多くなっています。
しかしながら、もし養育費の支払いが滞り最終的には支払ってもらえなくなった場合、強制的に支払わせる効力がありませんので、相手方が応じてくれなくなったらどうすることも出来ません。そこで、協議の段階で強制力を持たせる方法として、公正証書で離婚協議書を作成する方法があります。
公正証書とは、法務大臣に任命された公証人(元裁判官や検察官などの法の専門家)が作成する公文書になります。この公正証書は証明力及び執行力を有していますので、仮に養育費の支払いが滞った場合は、給与等の差押えをすることが出来ます。
裁判所を使わずに、当事者同士の話し合いで養育費を決めて離婚する際は、口約束や協議書だけではなく、必ず公正証書も作成するようにしましょう。
3 話し合いで決まらない場合
次に、協議で決まらなかった場合や協議書等のみで養育費の支払いがなされなくなった場合には、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てます。調停とは、裁判官のほかに調停委員という第三者が間に入り、裁判所で話し合いを行う制度です。
それぞれの感情だけで意見を言い合うのではなく、客観的な視点で物事を判断することが出来ますが、第三者を交えた話し合いですので、まとまらなければ調停不成立となります。(もちろん裁判所が関与する以上、法律論として養育費の決定を促していきますが、あくまでも裁判所を間に挟んだ話し合いでしかないため、どれだけ法的に合理的な結論であっても、互いの合意が得られなければ調整は成立しません。)
そして、調停が成立しなければ、審判という制度に移行します。こちらは、提出された資料及び双方の事情に基づいて、裁判官が養育費の額を決定します。(一般的に「裁判」とイメージされているものです。)では、どのように養育費額が決まるのでしょうか?
家庭裁判所では、過去の養育費に関する審判例などを踏まえながら、養育費の算定表というものを発表しており、夫婦互いの収入状況と子供の人数や年齢によって養育費額を算出するための表を作成しています。
審判で養育費額を決める場合、裁判官は基本的にこの養育費算定表に基づいて養育費額を決めますので、これが養育費の相場のようなものになります。しかし、世の中の監護親が感じている通り、この算定表で算出される養育費額は、子供に十分な生活レベルを維持させながら十分な教育を与えるには不十分な金額と感じる人も多いかと思います。
そのため、審判までいくと、もしかしたら希望の金額より低い金額になってしまう可能性もあるため、出来るだけ調停まででまとめたほうがいいでしょう。
なお、調停及び審判となると、裁判所から調停調書又は審判書というものが発行されますので、支払が滞った場合でも、履行勧告や給与等の差押え等を行うことが可能となります。
4 養育費の算定表
では、養育費額はどのように決めたらいいのでしょうか?
養育費額には特段法的定めはなく、前述の通り、自身と同等の生活レベルを維持できるだけの額を支援することが望ましいとされています。監護親側としては、子供には生活費や教育費など、思いのほかお金がかかるため、できるだけ多くの養育費をもらいたいところだと思います。
しかしながら、義務者の収入に見合わないような金額を取り決めてしまうと、義務者自身の生活が圧迫され、養育費の支払いがストップしてしまう恐れがあります。そのため、きちんと義務者の収入に考慮した無理のない金額にしましょう。
ただ、そうは言っても、「じゃあ収入に応じた無理のない金額って一般的にいくらなの?」という疑問が浮かぶと思います。そこで、家庭裁判所が作成した養育費の算定表というものが裁判所のHPに掲載されています。
http://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/tetuzuki/youikuhi_santei_hyou/
これは、実際に裁判所も養育費を決める際に参考にしている表で、双方の収入から養育費の相場を算定できるものとなっています。しかしながら、子供にはそれなりに費用がかかってきますので、この算定表はあくまでも参考程度にして頂き、双方の収入及び子供の将来設計に応じた金額の設定をするようにしましょう。
5 養育費の変更
何度も話に出ている通り、子供がひとり立ちするまでの間には何かとお金がかかります。毎月の生活費だけでなく、習い事の費用、進学時の諸費用など、大きくなるにつれて、節目節目で高額な費用が必要になってきたり、私立学校に進学し学費の負担が増加したりすることも考えられます。
また義務者や監護親の収入に増減が生じる、新たなパートナーと籍を入れるなど、両親の状況の変化もないとはいえません。
そのため、そういった状況の変化に合わせて養育費の減額や増額を請求することが可能となっています。ただし、一度取り決めた養育費を変更するためには、それ相応の事情変更があることが必要とされています。(義務者と再度話し合い、新しい金額で合意がとれればそれで問題ありません。)
養育費変更の調停を行った場合は、調停委員から増額減額を求める理由について、具体的な事情を聴取され、それを裏付ける資料の提出を求められます。また、現在の養育費を決めた際に、将来の子供の進学状況に変更が生じる可能性を考慮して金額を取り決めたか否かも影響してきます。
このように事情変更があるかどうかについては、慎重な検討が必要とされており、調停委員が事情変更があると認める方向性になった際は、具体的な金額の調整に進むことになります。変更があると認められない場合には、審判に移行しても認められない可能性が高いため、当事者同士で折り合うことの出来る金額を模索するほかありません。
6 まとめ
養育費は、子供のためのお金です。子供が十分な生活をしながら、適切な教育を受け、一人前の大人になっていくために必要なお金です。離婚当時は当事者の感情だけで物事を進めてしまいがちですが、子供の将来のこともきちんと考え、養育費もきっちり取り決めをしておきましょう。
【相談事例54】「殺す!」といったら殺意あり?~故意について③
【相談内容】
殺意の認定というのは非常に難しいのですね。よくドラマなどで「ぶっ殺してやる!」などと言って殴ったりする場面があると思うのですが、その場合には殺してやると言っているので、殺意があることは間違いないですよね?
【弁護士からの回答】
前回に引き続き、今回も殺意の認定の判断要素についてご説明させていただきます。
前回ご説明した考慮要素は、殺意の認定において重要な考慮要素でしたが、今回の考慮要素は、一般の方からすると重要と思われがちですが、裁判上での重要度は前回の内容よりも下がる傾向になります。
1 動機(犯行前の事情)について
通常、人を殺害しようと考えている人は、快楽殺人鬼などの場合を除いて、対象となる人に対して、相当程度の恨みを有している場合や、殺さなければならないような事情を有しているのが通常です。
したがって、喧嘩の際の突発的に殺意が生じた場合を除いて、被害者の方に対して何らかの動機を有している場合には、殺意が認定される方向に働くことになります。
もっとも、単に嫌っていたという程度の動機では足りず、殺意を抱いてもやむを得ないと認められる相当程度強い動機である必要があります。
2 犯行後の事情について
例えば、犯行後に犯人が自ら119番通報した場合や救助行為を行った場合には、死の結果を企図していなかった可能性が高く、殺意を否定する方向に働きうる事情になります。
逆に、何ら救助行為を行わず被害者を放置した場合には、死の結果を容認していたと認定される方向になり得ます。
もっとも、救助行為を行った場合であっても、「行為」時には殺意があり、思い直したという可能性も否定できませんし、放置した場合であっても、致命傷には程遠い傷害結果であるのにも関わらず追撃しなかった場合には、逆に殺意を否定する方向にも働きうるため、行為後の事情の評価は非常に相対的であるため、考慮要素としての重要性は若干下がるといえるでしょう。
3 その他(行為の言動について)
では、ご相談者様のご質問にあるように、犯行時に、犯人が「殺してやる」などと発言している事情はどうでしょうか。
確かに殺意があることをうかがわせるような発言を行っていること自体は、殺意を認定する方向に働きうる事情ですが、そのような発言を常日頃から行っている人もおり、そのような乱暴な言葉を使っている人に限って本当に殺してやるとまでは思っていないケースもよくあります。
したがって、発言を行ったことのみをとらえるのではなく、犯人の性格や従前の言動についても考慮する必要があります。
4 最後に
前回から殺意の認定についてご説明させていただきましたが、殺意があるか否かという問題は、成立する犯罪や量刑が非常に異なる非常に重大な争点であるにも関わらず、判断が非常に難しい問題でもあります。
裁判員裁判ではそのような非常に重大かつ難しい争点について一般の人が判断せざるを得ないため、選ばれた裁判員の方のフォローも必要になってくるのではないかと思います。
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「相談事例集の掲載にあたって」
マイナンバーの将来予測~先進国の事例から
マイナンバーの利活用に当たっては、2015年6月30日の政策閣議で決定された「世界最先端IT国家創造宣言(修正版)」がその道標として参考になります。宣言には、医療分野や金融等にも活用していく展開について、今後の継続的検討課題として挙げられており、こうした活用が拡がれば、国民の利便性は飛躍的に高まると考えられています。
世界でも最高水準といわれる韓国の電子政府やID活用方法をはじめ、先進国の事例をヒントとしてひも解き、日本のマイナンバー制度の活用法の将来を考えてみましょう。
1.先進諸国のIDカード制度
マイナンバー制度と同様のIDカード制度は、先進諸国ではすでに導入されています。アメリカのソーシャル・セキュリティ・ナンバー(社会保障番号)をはじめ、EU諸国やアジア地域でも、同制度はなくてはならないものになっています。
翻って日本を振り返ると、行政の手続きが煩雑且つ非効率で、そうした背景が外国人の企業を妨げる一因となっているとも言われています。こうした行政の手続きの煩雑さを解消するためにも、マイナンバー制度が始まったとも言えるわけですが、先進国の事例をひも解くことによって、マイナンバー制度の方向性がある程度見えてくるかと思います。
特に参考になるのは、世界最高水準とも言われる韓国の制度「e-GOV3.0」です。
2.世界最高水準と言われる韓国の電子政府「e-GOV3.0」
この電子政府は、他人への成りすましといった様々な問題も生んではいるものの、そのデメリットを補ってあまりあるメリットをもたらし、国民の利便性の向上を実現させました。世界各国の政府関係者が視察に行くことも少なくないようです。
実際に韓国の行政機関(税務署、市役所、ハローワーク等)に足を運んでみると、人がいないことに驚きます。電子化によって様々な手続き業務が自宅や会社のPC等でできてしまうため、日本のようにわざわざ役所等に出向く必要がないのです。
3.ID活用により年末調整業務がなくなる?
韓国では、個人のID番号(または携帯電話番号)を買い物の際にレジで提示することで、経費処理が幅広く認められています。
また、国税庁は、ID番号の提示を簡素化させる目的で「現金領収証カード」というものを希望者に配布しているため、IDカードの現物を持ち歩く必要もないようです。
韓国では、この購入履歴の蓄積により、確定申告時期には個人ごとのポータルサイトに、「あなたの確定申告書ができ上がりましたので承認ボタンを押してください」といった通知が届き、サイト内で税金の不足分の入金や還付手続きができてしまいます。
従来の「国が国民に申告を促す」から、「集まった情報をもとに、国が国民に申告書を提供する」という高次元のフローが実現しています。
この仕組みが構築された結果、企業での年末調整業務がなくなり、個人が確定申告する流れに変わったことで、企業の総務部門はスリム化し、現地の税理士の仕事も代行業務からコンサルティングへとシフトしたと言われています。
日本において、消費税の増税にともなう軽減税率の処理のために、国民がスーパー等で買い物をする際にマイナンバーを提示する案が以前検討されていましたが、この「e-GOV3.0」を意識しているものと推測できます。
4. マイナンバーの医療分野への利活用
ここまで韓国の電子政府「e-GOV3.0」の事例から、主に税分野で今後どのように利活用が拡がるかについて、ひも解いてみました。
それ以外でも、頭書のとおり「世界最先端IT国家創造宣言(修正版)」においてマイナンバーの活用の拡大が予定される分野が挙げられています。中でも、国民医療費が増大しているなかで、医療分野への活用は必然となっていると言えます。
医療制度と介護制度が将来的に統合されていく可能性があるなか、介護保険関係の給付等でマイナンバーの紐づけが行われることがすでに決定しており、2015年9月に成立した改正マイナンバー法においても、以下の場面でマイナンバーを活用することが決定しました。
・メタボ検診にマイナンバーを紐づけ
・予防接種の履歴管理をマイナンバーで実施
直近の方向性として、政府は2019年2月15日、マイナンバーカードを健康保険証として使えるようにすることを盛り込んだ健康保険法などの改正案を閣議決定、2021年3月からの施行を目指しています。
これは、医療機関における診療報酬の請求事務で、間違った保険証を提示する、例えば退職したにも関わらず前職の健康保険証を提示するといった患者からの請求ミスなどがあまりにも多い状況の改善を図る施策です。
これまで、医療機関としては本人の申告を信じるしかなかったのが、ICチップ付きのマイナンバーのカードを用いるようになれば、カードを照会することで診療報酬の請求間違いと混乱の防止につながることが期待されます。
また、地域内の医療機関等との情報共有にもデータ照会が活用され、薬剤管理等が統一的に行われていくものと考えられます。つまり、重複受診の抑制による薬剤費等の医療費の抑制に大きく寄与するとことが期待できるのです。
国民の視点に立っても、確定申告時に請求書等の整理が不要になる可能性もあることから、利便性の向上且つ国民医療費の削減という国家的課題の解決にもつながり得ると考えられます。
5.まとめ
政府は、東京オリンピックが開催される2020年をめどに、「ITイノベーション社会の実現」「国民生活の豊かさ向上」を目指しています。来る日までに、多くの国民がICチップ付きのプラスチック製「個人カード」を保有することになると考えられています。
そうした環境が整えば、企業における総務業務の多くも、入退社手続きを含めた各種手続きの社内からのオンライン申請が可能となると思われ、国民にとっても企業にとっても効率的な社会が実現することが予測されます。
その反面、マイナンバーが医療分野はじめあらゆる分野と紐づけられることで、情報漏えい時のリスクも甚大となる事から、情報漏えいを防ぐ体制づくりが今後より一層の課題となります。
【交通事故】交通事故の過失相殺について
交通事故の示談交渉において、相手から提示された過失割合が本当に正しいものなのか疑問に思われる方は多々いらっしゃると思います。
しかし、自分自身でも正しい過失割合が分からないため相手に反論できず、納得していないまま示談書に署名する結果になることも多いでしょう。
今回はそのような方のために「過失割合」や「過失相殺」についてご説明します。
1 過失割合・過失相殺とは?
交通事故では、加害者だけではなく、被害者にも事故の発生原因となる何らかの落ち度・注意義務違反(=過失)が認められることが多くあります。この加害者と被害者の過失の程度を「過失割合」といいます。
被害者にも過失がある場合、被害者の過失を無視して、加害者にすべての損害を負担させることは、当然に公平性を欠くことになります。
「過失相殺」とは、こうした不公平をなくすために、加害者と被害者の過失割合に応じて、当事者間で損害賠償責任を負担しあうという制度です。もちろん、無免許での泥酔運転や、法定速度オーバーといった、加害者側の常識外の危険運転が専ら事故の原因のような場合には、加害者側に100パーセントの過失が認められるケースもあります。
しかし、被害者側にも信号無視や道路への飛び出しなどにより一定の過失が認められる場合、加害者に交通事故によって生じた損害額を全額負担させると、加害者と被害者の間で不公平が生じてしまいます。そのため、過失の程度によって損害の負担は相殺されます。
例として「横断歩道の無い道路を渡ろうとした歩行者が車にはねられた事故」で考えてみましょう。この事故により、被害者は骨折等の重傷を負い総額1,000万円の損害が発生したと仮定します。
しかし、被害者は横断歩道の無い道路を横切ろうとしたため、被害者と加害者の過失割合は「被害者3:加害者7」となりました。この様になると、被害者は損害額1,000万円を全額補償して貰えるわけでは無く、1,000万円の内3割は被害者の過失として相殺され、加害者の過失7割相当分の700万円のみ補償されることになります。
つまり、過失相殺されることで、被害者が実際に受け取れる損害賠償額は加害者の過失割合分となるのです。過失相殺は、治療費、休業損害、慰謝料等、交通事故により発生する全ての損害を対象とするのが一般的です。
また、人身事故ではなく、車同士の車両事故(物損事故)の場合には、「それぞれの損害額」に、「それぞれの過失割合」を応じて自己負担額を算出し、互いに相殺処理して差額を支払うという処理をすることが多いです。
例として「車Aと車Bが衝突し、それぞれに修理代金が発生したケース」で考えてみましょう。この事故の過失割合を「50%:50%」とします。
車Aは、車の修理費用が20万円、車Bは車の修理費用が30万円かかりました。過失割合が「50%:50%」のため、A車の所有者は、B車の修理費用の50%を支払う義務があります。A車の所有者は、30万円×50%で15万円をB車の所有者に支払わなくてはいけません。
反対に、B車の所有者は、A車の修理費用の50%を支払う義務があります。そのため、20万円×50%で10万円の支払いをしなくてはいけません。
こういった場合、勿論それぞれが負担額を相手方に支払うこともできますが、手続きが煩雑ですので、通常A車の所有者は、相殺後の差額5万円をB車に支払うという形で処理することが一般的です。
2 過失相殺と保険金の支払い
過失割合を決めるのは警察ではなく、当事者若しくは当事者が加入する保険会社との話合いにより決定することが一般的です。警察は事故現場において現場確認を行い、当事者から事情を聴取し事故の記録を行います。
しかし、警察が行うのはあくまで確認された事故の記録を実況見分調書として作成することと、刑事上の責任の捜査であり、過失割合の決定は民事上の問題となるため警察が介入してくることはありません。
過失割合については、警察作成の実況見分調書や実際の事故現場の状況を考慮し、当事者双方若しくは当事者が加入する保険会社が協議し合意するのが通常です。
過失割合を協議する際に根拠となるのは、過去の交通事故判例等です。保険会社は、過去の判例と今回の事故を照らし合わせて、過失割合の数字を事務的に決めている事が多々あります。
保険会社が判断の基準とする過去の判例上の過失割合は一見すると適正な資料とも言えますが、過去の判例と全く同じ状況の交通事故があるとは限りません。よって、「よく似た事故判例」を探して出して当てはめることになります。
しかし、似たような交通事故でも過失割合が違うこともあるため、保険会社から提示される過失割合は保険会社にとって都合が良いものを選んでいる可能性も考慮することが大切です。当然、保険会社としては自社の出費を抑えることを優先的に考えます。
また、当事者の大半は適切な過失割合についての認定基準を知らないことが多いです。そのため、保険会社から「過失割合はこのくらいです」と言われてしまったら「そういうものかな」と納得してしまうケースが多く存在します。
また、自分が加害者側であったとしても、保険会社は支払いを抑えたいと思っている部分はありますが、同時に早く事件を終わらせたいとも考えています。
そうなると、厳密に過失割合の認定をすることなく、適当なところで纏まった示談金を提示し納めてしまうこともよくあります。このようなことから、保険会社は必ずしも適切な過失割合で話を進めていない可能性も認識しておきましょう。
3 まとめ
交通事故において、過失割合が争点になるケースは非常に多いですが、過失割合を決定するために保険会社と交渉をするためには、過去の交通事故判例などと事故を照らし合わせていく等、幅広い知識が必要です。
過失割合が争点となり協議が難航しているといったお悩みをお持ちの方は、弁護士等に相談した方が良いでしょう。
*本ブログに搭載されている内容はあくまで一般的な流れであり、発生事故によって異なることもございます。ご了承ください。
【相談事例53】殺意の有無はどうやって判断するか?~故意とは②~
【相談内容】
その行為が犯罪になると知らなくても故意が認められるのですね。
でも、故意があるかないかという問題は、その人の内心の問題であって、他の人や外からではわからないと思うのですが・・・
殺意が争われている事件などではどうやって殺意があるかないかを判断するのでしょうか。
【弁護士からの回答】
前回は、故意の定義などについてご説明させていただきましたが、今回は、故意の有無についてどのように判断するのかについてご説明させていただきます。
故意について問題となるケースのほとんどが、殺人罪における殺意の有無が争点となるケースです。
殺意があり殺人罪が成立するか、殺意はなく傷害致死罪が成立するにとどまるかという非常に重要な問題であり、裁判員裁判対象事件として皆さんも判断しなければならない機会が来るかもしれませんので、今回、ご説明させていただきます。
1 故意=内心の問題
犯人が行為を行う際に「殺すつもりでやった」のか否かという問題は、内心の問題であり、少なくとも現代においては、内心を直接知りうる手段としては、犯人本人に確認するしか方法がありません。
しかし、本人の当時の記憶に基づいて殺意の有無を確認するとなると、本当は殺すつもりでやったにも関わらず「殺すつもりはなかった」と発言すれば、みんな傷害致死罪が成立するということになってしまいます。
したがって、殺意の有無にとどまらず、故意の有無の判断においては、その客観的に存在する証拠(状況証拠)をもとに、その行為の時点で故意があったのか否かを判断することになります。
以下では、殺人罪においてどのような状況証拠をもとに殺意の有無を判断するかについてご説明させていただきます。
2 創傷の部位、程度
犯人が被害者に対し行った行為により、被害者にどのような創傷(傷、ケガ)が発生し、死に至ったのかという点については、殺意を認定する際に、非常に重要な考慮要素になります。
具体的には、身体の四肢(手足)以外の部分(腹部や頭部などの「枢要部」)に対し、重大な創傷をつけたという事実が認められた場合には、殺害する意図があったと認定される方向に働きます。
また、腹部に複数回ナイフで刺した傷がある場合には、相当程度強い殺意があったという認定がされるのが一般的です。
もっとも、いくら枢要部に創傷があったとしても、犯人が枢要部に損害を加えることを認識している必要があり、例えば抑え込まれて咄嗟に手を前に出したところ腹部に包丁が刺さったというような場合には、枢要部であることを認識していなかったとして殺意が否定される場合もあります。
3 凶器の種類・用法
刃物の場合、形状や刃の長さ、鈍器の場合には形状や重さなど、犯人がどのような凶器を有していたか、そしてその凶器をどのように使用したかという点についても殺意の有無の判断には非常に重要に重要な考慮要素になります。
たとえばナイフを手にもって刺した場合とナイフを投げて刺さった場合では前者の方が殺意を認定する方向に働きうる状況です。また、自動車をつかって衝突する場合や、自動車につかまっている人を振り落とそうとする行為などの場合には、自動車の速度や運転の内容等から殺意の有無を判断することになります。
次回以降も殺意の有無の考慮要素についてご説明させていただきます。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」
【不動産】賃貸物件からの退去の流れと確認すべき点
賃借人が賃貸物件から転居するとき、賃貸人との間で居住している賃貸物件の退去手続、敷金の清算等が必要になります。明日退去しますと言って荷物を持ち出すだけで、簡単に全ての手続きが完了するものではありません。
以下では、退去手続が一般的にどの様な手順で進み、退去する前に確認しておくべき点として何があるか等について説明します。
① 解約日の調整
賃借人が、転居が決まって最初に行うことは、賃貸人との間で賃貸借契約の解約日を確定させることでしょう。引っ越す日を決めて、実際に明け渡しが完了し、鍵を返却できる日を固めなくてはなりません。
では、解約日は賃借人が希望した日がそのまま解約日になるのでしょうか?まずは、賃貸借契約書の解約予告に関する条文を確認する必要があります。一般的には、居住用賃貸マンションであれば、賃借人から賃貸人に対し賃貸借契約を解約する旨の連絡がなされた日から1ヵ月後若しくは2ヵ月後を最短の解約日とするものが多いです。
当然、解約日までの賃料は発生するため、転居先の契約日(賃料発生日)をよく確認して、現住居、転居先の二重契約になる期間を可能な限り少なく調整出来ると経済的な負担も少なくなります。
ただ、あまり早く新しい転居先を探そうと思っても、なかなか物件が見つかりませんし、二重契約を避けるためにギリギリで転居先を探そうと思ってもなかなか思うような物件が見つからないものです。
多少は賃料が二重で発生することも覚悟した方が、結果として良い物件探しができるかもしれません。
② 明渡しの準備
賃貸借契約を解約するということは、賃借人は解約日以降、部屋を使用する権原が無くなり、賃貸人へ明け渡すことが必要となります。
明渡しの際に何をどこまで行わなくてはならないかについては、貸借契約書の明渡しに関する部分を確認する必要がありますが、一般的には、解約日までに「①室内にある私物の撤去」「②賃貸人への鍵の返却」「③電気・ガス・水道の解約」を行うことで明渡しは完了したことになります。
仮に、解約日なっても私物の撤去が完了していない場合は、どの様に取り扱われるのでしょうか?
賃貸借契約において、明渡しの条件に私物の撤去が定められている場合、賃貸人へ部屋の鍵を返却していたとしても明渡しが認められない可能性があります。
しかし、解除日が到来することで賃貸借契約は解約されており、賃借人は何の権原もなく部屋を使用している状況となるため、不法占拠と見なされる可能性があります。
不法占拠と判断された場合、明渡しが完了するまで、賃貸借契約に定められた賃料相当損害金を請求されることが一般的です。賃料相当損害金についての取り決めは個々の賃貸借契約書の確認が必要ですが、一般的に賃料の2倍から3倍の金額と定められていることが多いでしょう。
以上の通り、解約日までの明渡しが完了しないときには、大きな経済的負担が発生することもあるので、必ず解約日までに明渡しを完了させることを心がけましょう。
③退去立会い
明渡しの準備が整うと、解約日迄に賃貸人との退去立ち合いを行うことが一般的になります。退去立会いが義務化されているかは、賃貸借契約の内容により異なるため確認が必要となります。
退去立会いの主な目的は、「①私物の撤去等を含め建物の明け渡しが完了していることを賃貸人との間で互いに確認すること」、「②賃貸人に対する鍵の返却」、「③室内の損傷等の状態について互いに確認すること」、の3つとなります。①及び②の必要性については前述している通りのため割愛し、③の趣旨、内容について説明します。
賃貸人は、空室となった部屋へ新しい賃借人を募集しますが、当然、他人が使用した部屋をそのまま借りる人は居ないため、退去する賃借人が入居する前の状態に戻すための様々な工事を行います。
原状回復工事にかかる費用を誰がどこまで負担するのかは、各賃貸借契約により異なり、現時点では原状回復の負担割合について法律では定められておりません(2020年4月施行予定の民法改正において新たに原状回復の定義について盛り込まれることが予定されています)。
そこで、現在は原状回復の費用負担について詳細な取り決めがなされていない場合、国土交通省が発行している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参考に処理をされることが一般的となっています。
ガイドラインでは大まかに、通常の生活を原因とする通常損耗の工事費用については賃貸人、賃借人の故意、過失により補修等が必要となった部分については賃借人が工事費用を負担することが推奨されています。
そこで、退去立会いでは、賃貸人と賃借人が一緒に室内を確認することで、賃借人の故意・過失に基づく損傷部位を確認し、原状回復の内容について確認を行い、原状回復の負担割合について現場を確認しながら説明を受ける機会となります。
仮に、退去立会いを実施しないとなると、後々の原状回復費用の負担割合で賃貸人との間に認識の違いが生じ、紛争に結び付くことが多くあります。
賃借人自身の利益を守るためにも、退去立会いは積極的に実施しましょう。
なお、地域によっては、「敷引き」といって、敷金を一切返金せず、その代わりに一般的な原状回復はその範囲で完了させるのが一般的な地域もあります。
そのような地域では、原状回復工事の内容がどうであれ、賃借人に敷金の返金がされないため、退去立会いを行わないことが一般的な地域もありますので、ご注意ください。
④敷金清算
退去立会いが完了し一定期間が経過すると、賃貸人より原状回復費用等の見積りを含む敷金の清算書が送付されてきます。
原状回復費用の見積もりについては、退去立会いのときに受けた説明と違いがないかを中心に確認する必要があります。
敷金の清算書は、預け入れている敷金から何に基づきいくら引かれ、最終的な過不足がどうなるかの確認が必要となります。基本的には、敷金から賃借人が負担する原状回復費用、未払賃料等の金銭債務を差し引かれ、敷金に余剰があれば賃借人へ返還され、敷金が不足すれば不足費用を賃貸人に支払うことになります。
また、契約によっては敷金を敷引きとして取り扱っていることがあります。敷引きの場合は、敷引き金から原状回復費用等を差し引き余剰が出ても、賃借人への返還はなされないことになっています。しかし、敷引きは金額が極端に高額であれば契約が無効となる可能性もあるため、状況によっては専門家への相談も考慮すべきかもしれません。
⑤まとめ
今回は賃貸物件の退去について一般的な流れ、注意点を説明しましたが、退去にかかる細かい条件については賃貸借契約の内容により個別に変わるため、事前に賃貸借契約の内容を確認することが大切になります。
また、原状回復の費用負担、敷金の清算内容についてはトラブルになることも多いため、退去清算についての話が纏まらない場合には弁護士など専門家への相談も一つの方法となります。
【相談事例52】故意がないとどうなるか?~故意とは①~
【相談内容】
ニュースなどを見ていると、殺人罪の容疑で逮捕された被疑者の人が、「殺意を否認しています。」などと報道されているのを見かけます。
殺意を否認するとどうなるのですか?殺意とか故意とかニュースで聞くのですが、故意とはどういった場合に認められるのでしょうか。
【弁護士からの回答】
一般の言葉でも「故意」という言葉は使われると思いますが、刑事事件において、故意が認められるのと認められないのでは、成立する犯罪が変わることや、無罪になるなど大きな意味を持ちます。
そこで、今回から複数回にかけて刑事事件における故意についてご説明させていただきます。
1 故意犯処罰の原則
辞書などでは、「故意」とは「わざとすること」などと規定されています。つまり、知りながらあえてすることを一般に故意ということになります。
日本の刑法では、原則として、故意がある場合のみ犯罪として成立するという「故意犯処罰の原則」を採用しており、故意がなくても犯罪が成立する場合、すなわち、過失犯については特別に規定がある場合にのみ犯罪が成立するとされています(刑法38条1項では「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。」と規定し、故意犯処罰の原則を規定しています。)。
2 故意の有無でなにが変わるか
上記のように、刑法では故意犯処罰の原則を採用しています。したがって、同じ行為をしたとしても故意が認められなければ犯罪が成立しない、もしくは成立する犯罪が異なることになります。
たとえば、人を殴った結果、その人が死亡してしまったという事件において、人を殺す故意(殺意)がある場合には殺人罪が成立しますが、殺意がなかった場合には殺人罪は成立せず、傷害致死罪が成立するにとどまります。
また、結果的に他人の物を自分のものとして持ち帰ってしまったとしても、他人の物と知りながら持ち帰れば窃盗罪が成立しますが、自分の物であると誤信して持ち帰った場合には、窃盗の故意がないとして犯罪は成立しないことになります。
3 故意
このように、故意とは、犯罪の成立に関し大きな意味を有するものではありますが、では、刑法上の故意とは何を意味するのでしょうか。
刑法上の故意(「罪を犯す意思」)とは、「特定の犯罪構成要件に該当する具体的事実の認識、認容」をいうとされています。
簡単にいうと、刑法に規定されている犯罪が成立する要件に該当する事実を認識しかつ認容することで故意が認められることになります。この「認容」ですが、積極的に求める場合(例えば「その人を殺したい」と思って行動する場合)のみならず、その結果が生じてしまっても構わないという程度の認識(先ほどの例では「その人を殺してしまうかもしれないが構わない」と思って行動する場合)でも足りるとされています。
よく、「この行為が犯罪になるなんて知らなかった」などという言い訳をされるかたもいるかもしれませんが、刑法上では、その行為が犯罪に該当すると知らなくても、その犯罪に規定されている要件に該当する事実を認識していれば故意が認められることになるため、かかる言い訳は通用しないことになります。
次回では、殺意を中心にどのように故意があるか否かを判断していくかについてご説明させていただきます。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」