【交通事故】交通事故の過失相殺について
交通事故の示談交渉において、相手から提示された過失割合が本当に正しいものなのか疑問に思われる方は多々いらっしゃると思います。
しかし、自分自身でも正しい過失割合が分からないため相手に反論できず、納得していないまま示談書に署名する結果になることも多いでしょう。
今回はそのような方のために「過失割合」や「過失相殺」についてご説明します。
1 過失割合・過失相殺とは?
交通事故では、加害者だけではなく、被害者にも事故の発生原因となる何らかの落ち度・注意義務違反(=過失)が認められることが多くあります。この加害者と被害者の過失の程度を「過失割合」といいます。
被害者にも過失がある場合、被害者の過失を無視して、加害者にすべての損害を負担させることは、当然に公平性を欠くことになります。
「過失相殺」とは、こうした不公平をなくすために、加害者と被害者の過失割合に応じて、当事者間で損害賠償責任を負担しあうという制度です。もちろん、無免許での泥酔運転や、法定速度オーバーといった、加害者側の常識外の危険運転が専ら事故の原因のような場合には、加害者側に100パーセントの過失が認められるケースもあります。
しかし、被害者側にも信号無視や道路への飛び出しなどにより一定の過失が認められる場合、加害者に交通事故によって生じた損害額を全額負担させると、加害者と被害者の間で不公平が生じてしまいます。そのため、過失の程度によって損害の負担は相殺されます。
例として「横断歩道の無い道路を渡ろうとした歩行者が車にはねられた事故」で考えてみましょう。この事故により、被害者は骨折等の重傷を負い総額1,000万円の損害が発生したと仮定します。
しかし、被害者は横断歩道の無い道路を横切ろうとしたため、被害者と加害者の過失割合は「被害者3:加害者7」となりました。この様になると、被害者は損害額1,000万円を全額補償して貰えるわけでは無く、1,000万円の内3割は被害者の過失として相殺され、加害者の過失7割相当分の700万円のみ補償されることになります。
つまり、過失相殺されることで、被害者が実際に受け取れる損害賠償額は加害者の過失割合分となるのです。過失相殺は、治療費、休業損害、慰謝料等、交通事故により発生する全ての損害を対象とするのが一般的です。
また、人身事故ではなく、車同士の車両事故(物損事故)の場合には、「それぞれの損害額」に、「それぞれの過失割合」を応じて自己負担額を算出し、互いに相殺処理して差額を支払うという処理をすることが多いです。
例として「車Aと車Bが衝突し、それぞれに修理代金が発生したケース」で考えてみましょう。この事故の過失割合を「50%:50%」とします。
車Aは、車の修理費用が20万円、車Bは車の修理費用が30万円かかりました。過失割合が「50%:50%」のため、A車の所有者は、B車の修理費用の50%を支払う義務があります。A車の所有者は、30万円×50%で15万円をB車の所有者に支払わなくてはいけません。
反対に、B車の所有者は、A車の修理費用の50%を支払う義務があります。そのため、20万円×50%で10万円の支払いをしなくてはいけません。
こういった場合、勿論それぞれが負担額を相手方に支払うこともできますが、手続きが煩雑ですので、通常A車の所有者は、相殺後の差額5万円をB車に支払うという形で処理することが一般的です。
2 過失相殺と保険金の支払い
過失割合を決めるのは警察ではなく、当事者若しくは当事者が加入する保険会社との話合いにより決定することが一般的です。警察は事故現場において現場確認を行い、当事者から事情を聴取し事故の記録を行います。
しかし、警察が行うのはあくまで確認された事故の記録を実況見分調書として作成することと、刑事上の責任の捜査であり、過失割合の決定は民事上の問題となるため警察が介入してくることはありません。
過失割合については、警察作成の実況見分調書や実際の事故現場の状況を考慮し、当事者双方若しくは当事者が加入する保険会社が協議し合意するのが通常です。
過失割合を協議する際に根拠となるのは、過去の交通事故判例等です。保険会社は、過去の判例と今回の事故を照らし合わせて、過失割合の数字を事務的に決めている事が多々あります。
保険会社が判断の基準とする過去の判例上の過失割合は一見すると適正な資料とも言えますが、過去の判例と全く同じ状況の交通事故があるとは限りません。よって、「よく似た事故判例」を探して出して当てはめることになります。
しかし、似たような交通事故でも過失割合が違うこともあるため、保険会社から提示される過失割合は保険会社にとって都合が良いものを選んでいる可能性も考慮することが大切です。当然、保険会社としては自社の出費を抑えることを優先的に考えます。
また、当事者の大半は適切な過失割合についての認定基準を知らないことが多いです。そのため、保険会社から「過失割合はこのくらいです」と言われてしまったら「そういうものかな」と納得してしまうケースが多く存在します。
また、自分が加害者側であったとしても、保険会社は支払いを抑えたいと思っている部分はありますが、同時に早く事件を終わらせたいとも考えています。
そうなると、厳密に過失割合の認定をすることなく、適当なところで纏まった示談金を提示し納めてしまうこともよくあります。このようなことから、保険会社は必ずしも適切な過失割合で話を進めていない可能性も認識しておきましょう。
3 まとめ
交通事故において、過失割合が争点になるケースは非常に多いですが、過失割合を決定するために保険会社と交渉をするためには、過去の交通事故判例などと事故を照らし合わせていく等、幅広い知識が必要です。
過失割合が争点となり協議が難航しているといったお悩みをお持ちの方は、弁護士等に相談した方が良いでしょう。
*本ブログに搭載されている内容はあくまで一般的な流れであり、発生事故によって異なることもございます。ご了承ください。
【相談事例53】殺意の有無はどうやって判断するか?~故意とは②~
【相談内容】
その行為が犯罪になると知らなくても故意が認められるのですね。
でも、故意があるかないかという問題は、その人の内心の問題であって、他の人や外からではわからないと思うのですが・・・
殺意が争われている事件などではどうやって殺意があるかないかを判断するのでしょうか。
【弁護士からの回答】
前回は、故意の定義などについてご説明させていただきましたが、今回は、故意の有無についてどのように判断するのかについてご説明させていただきます。
故意について問題となるケースのほとんどが、殺人罪における殺意の有無が争点となるケースです。
殺意があり殺人罪が成立するか、殺意はなく傷害致死罪が成立するにとどまるかという非常に重要な問題であり、裁判員裁判対象事件として皆さんも判断しなければならない機会が来るかもしれませんので、今回、ご説明させていただきます。
1 故意=内心の問題
犯人が行為を行う際に「殺すつもりでやった」のか否かという問題は、内心の問題であり、少なくとも現代においては、内心を直接知りうる手段としては、犯人本人に確認するしか方法がありません。
しかし、本人の当時の記憶に基づいて殺意の有無を確認するとなると、本当は殺すつもりでやったにも関わらず「殺すつもりはなかった」と発言すれば、みんな傷害致死罪が成立するということになってしまいます。
したがって、殺意の有無にとどまらず、故意の有無の判断においては、その客観的に存在する証拠(状況証拠)をもとに、その行為の時点で故意があったのか否かを判断することになります。
以下では、殺人罪においてどのような状況証拠をもとに殺意の有無を判断するかについてご説明させていただきます。
2 創傷の部位、程度
犯人が被害者に対し行った行為により、被害者にどのような創傷(傷、ケガ)が発生し、死に至ったのかという点については、殺意を認定する際に、非常に重要な考慮要素になります。
具体的には、身体の四肢(手足)以外の部分(腹部や頭部などの「枢要部」)に対し、重大な創傷をつけたという事実が認められた場合には、殺害する意図があったと認定される方向に働きます。
また、腹部に複数回ナイフで刺した傷がある場合には、相当程度強い殺意があったという認定がされるのが一般的です。
もっとも、いくら枢要部に創傷があったとしても、犯人が枢要部に損害を加えることを認識している必要があり、例えば抑え込まれて咄嗟に手を前に出したところ腹部に包丁が刺さったというような場合には、枢要部であることを認識していなかったとして殺意が否定される場合もあります。
3 凶器の種類・用法
刃物の場合、形状や刃の長さ、鈍器の場合には形状や重さなど、犯人がどのような凶器を有していたか、そしてその凶器をどのように使用したかという点についても殺意の有無の判断には非常に重要に重要な考慮要素になります。
たとえばナイフを手にもって刺した場合とナイフを投げて刺さった場合では前者の方が殺意を認定する方向に働きうる状況です。また、自動車をつかって衝突する場合や、自動車につかまっている人を振り落とそうとする行為などの場合には、自動車の速度や運転の内容等から殺意の有無を判断することになります。
次回以降も殺意の有無の考慮要素についてご説明させていただきます。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」
【不動産】賃貸物件からの退去の流れと確認すべき点
賃借人が賃貸物件から転居するとき、賃貸人との間で居住している賃貸物件の退去手続、敷金の清算等が必要になります。明日退去しますと言って荷物を持ち出すだけで、簡単に全ての手続きが完了するものではありません。
以下では、退去手続が一般的にどの様な手順で進み、退去する前に確認しておくべき点として何があるか等について説明します。
① 解約日の調整
賃借人が、転居が決まって最初に行うことは、賃貸人との間で賃貸借契約の解約日を確定させることでしょう。引っ越す日を決めて、実際に明け渡しが完了し、鍵を返却できる日を固めなくてはなりません。
では、解約日は賃借人が希望した日がそのまま解約日になるのでしょうか?まずは、賃貸借契約書の解約予告に関する条文を確認する必要があります。一般的には、居住用賃貸マンションであれば、賃借人から賃貸人に対し賃貸借契約を解約する旨の連絡がなされた日から1ヵ月後若しくは2ヵ月後を最短の解約日とするものが多いです。
当然、解約日までの賃料は発生するため、転居先の契約日(賃料発生日)をよく確認して、現住居、転居先の二重契約になる期間を可能な限り少なく調整出来ると経済的な負担も少なくなります。
ただ、あまり早く新しい転居先を探そうと思っても、なかなか物件が見つかりませんし、二重契約を避けるためにギリギリで転居先を探そうと思ってもなかなか思うような物件が見つからないものです。
多少は賃料が二重で発生することも覚悟した方が、結果として良い物件探しができるかもしれません。
② 明渡しの準備
賃貸借契約を解約するということは、賃借人は解約日以降、部屋を使用する権原が無くなり、賃貸人へ明け渡すことが必要となります。
明渡しの際に何をどこまで行わなくてはならないかについては、貸借契約書の明渡しに関する部分を確認する必要がありますが、一般的には、解約日までに「①室内にある私物の撤去」「②賃貸人への鍵の返却」「③電気・ガス・水道の解約」を行うことで明渡しは完了したことになります。
仮に、解約日なっても私物の撤去が完了していない場合は、どの様に取り扱われるのでしょうか?
賃貸借契約において、明渡しの条件に私物の撤去が定められている場合、賃貸人へ部屋の鍵を返却していたとしても明渡しが認められない可能性があります。
しかし、解除日が到来することで賃貸借契約は解約されており、賃借人は何の権原もなく部屋を使用している状況となるため、不法占拠と見なされる可能性があります。
不法占拠と判断された場合、明渡しが完了するまで、賃貸借契約に定められた賃料相当損害金を請求されることが一般的です。賃料相当損害金についての取り決めは個々の賃貸借契約書の確認が必要ですが、一般的に賃料の2倍から3倍の金額と定められていることが多いでしょう。
以上の通り、解約日までの明渡しが完了しないときには、大きな経済的負担が発生することもあるので、必ず解約日までに明渡しを完了させることを心がけましょう。
③退去立会い
明渡しの準備が整うと、解約日迄に賃貸人との退去立ち合いを行うことが一般的になります。退去立会いが義務化されているかは、賃貸借契約の内容により異なるため確認が必要となります。
退去立会いの主な目的は、「①私物の撤去等を含め建物の明け渡しが完了していることを賃貸人との間で互いに確認すること」、「②賃貸人に対する鍵の返却」、「③室内の損傷等の状態について互いに確認すること」、の3つとなります。①及び②の必要性については前述している通りのため割愛し、③の趣旨、内容について説明します。
賃貸人は、空室となった部屋へ新しい賃借人を募集しますが、当然、他人が使用した部屋をそのまま借りる人は居ないため、退去する賃借人が入居する前の状態に戻すための様々な工事を行います。
原状回復工事にかかる費用を誰がどこまで負担するのかは、各賃貸借契約により異なり、現時点では原状回復の負担割合について法律では定められておりません(2020年4月施行予定の民法改正において新たに原状回復の定義について盛り込まれることが予定されています)。
そこで、現在は原状回復の費用負担について詳細な取り決めがなされていない場合、国土交通省が発行している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参考に処理をされることが一般的となっています。
ガイドラインでは大まかに、通常の生活を原因とする通常損耗の工事費用については賃貸人、賃借人の故意、過失により補修等が必要となった部分については賃借人が工事費用を負担することが推奨されています。
そこで、退去立会いでは、賃貸人と賃借人が一緒に室内を確認することで、賃借人の故意・過失に基づく損傷部位を確認し、原状回復の内容について確認を行い、原状回復の負担割合について現場を確認しながら説明を受ける機会となります。
仮に、退去立会いを実施しないとなると、後々の原状回復費用の負担割合で賃貸人との間に認識の違いが生じ、紛争に結び付くことが多くあります。
賃借人自身の利益を守るためにも、退去立会いは積極的に実施しましょう。
なお、地域によっては、「敷引き」といって、敷金を一切返金せず、その代わりに一般的な原状回復はその範囲で完了させるのが一般的な地域もあります。
そのような地域では、原状回復工事の内容がどうであれ、賃借人に敷金の返金がされないため、退去立会いを行わないことが一般的な地域もありますので、ご注意ください。
④敷金清算
退去立会いが完了し一定期間が経過すると、賃貸人より原状回復費用等の見積りを含む敷金の清算書が送付されてきます。
原状回復費用の見積もりについては、退去立会いのときに受けた説明と違いがないかを中心に確認する必要があります。
敷金の清算書は、預け入れている敷金から何に基づきいくら引かれ、最終的な過不足がどうなるかの確認が必要となります。基本的には、敷金から賃借人が負担する原状回復費用、未払賃料等の金銭債務を差し引かれ、敷金に余剰があれば賃借人へ返還され、敷金が不足すれば不足費用を賃貸人に支払うことになります。
また、契約によっては敷金を敷引きとして取り扱っていることがあります。敷引きの場合は、敷引き金から原状回復費用等を差し引き余剰が出ても、賃借人への返還はなされないことになっています。しかし、敷引きは金額が極端に高額であれば契約が無効となる可能性もあるため、状況によっては専門家への相談も考慮すべきかもしれません。
⑤まとめ
今回は賃貸物件の退去について一般的な流れ、注意点を説明しましたが、退去にかかる細かい条件については賃貸借契約の内容により個別に変わるため、事前に賃貸借契約の内容を確認することが大切になります。
また、原状回復の費用負担、敷金の清算内容についてはトラブルになることも多いため、退去清算についての話が纏まらない場合には弁護士など専門家への相談も一つの方法となります。
【相談事例52】故意がないとどうなるか?~故意とは①~
【相談内容】
ニュースなどを見ていると、殺人罪の容疑で逮捕された被疑者の人が、「殺意を否認しています。」などと報道されているのを見かけます。
殺意を否認するとどうなるのですか?殺意とか故意とかニュースで聞くのですが、故意とはどういった場合に認められるのでしょうか。
【弁護士からの回答】
一般の言葉でも「故意」という言葉は使われると思いますが、刑事事件において、故意が認められるのと認められないのでは、成立する犯罪が変わることや、無罪になるなど大きな意味を持ちます。
そこで、今回から複数回にかけて刑事事件における故意についてご説明させていただきます。
1 故意犯処罰の原則
辞書などでは、「故意」とは「わざとすること」などと規定されています。つまり、知りながらあえてすることを一般に故意ということになります。
日本の刑法では、原則として、故意がある場合のみ犯罪として成立するという「故意犯処罰の原則」を採用しており、故意がなくても犯罪が成立する場合、すなわち、過失犯については特別に規定がある場合にのみ犯罪が成立するとされています(刑法38条1項では「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。」と規定し、故意犯処罰の原則を規定しています。)。
2 故意の有無でなにが変わるか
上記のように、刑法では故意犯処罰の原則を採用しています。したがって、同じ行為をしたとしても故意が認められなければ犯罪が成立しない、もしくは成立する犯罪が異なることになります。
たとえば、人を殴った結果、その人が死亡してしまったという事件において、人を殺す故意(殺意)がある場合には殺人罪が成立しますが、殺意がなかった場合には殺人罪は成立せず、傷害致死罪が成立するにとどまります。
また、結果的に他人の物を自分のものとして持ち帰ってしまったとしても、他人の物と知りながら持ち帰れば窃盗罪が成立しますが、自分の物であると誤信して持ち帰った場合には、窃盗の故意がないとして犯罪は成立しないことになります。
3 故意
このように、故意とは、犯罪の成立に関し大きな意味を有するものではありますが、では、刑法上の故意とは何を意味するのでしょうか。
刑法上の故意(「罪を犯す意思」)とは、「特定の犯罪構成要件に該当する具体的事実の認識、認容」をいうとされています。
簡単にいうと、刑法に規定されている犯罪が成立する要件に該当する事実を認識しかつ認容することで故意が認められることになります。この「認容」ですが、積極的に求める場合(例えば「その人を殺したい」と思って行動する場合)のみならず、その結果が生じてしまっても構わないという程度の認識(先ほどの例では「その人を殺してしまうかもしれないが構わない」と思って行動する場合)でも足りるとされています。
よく、「この行為が犯罪になるなんて知らなかった」などという言い訳をされるかたもいるかもしれませんが、刑法上では、その行為が犯罪に該当すると知らなくても、その犯罪に規定されている要件に該当する事実を認識していれば故意が認められることになるため、かかる言い訳は通用しないことになります。
次回では、殺意を中心にどのように故意があるか否かを判断していくかについてご説明させていただきます。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例51】大麻の使用は犯罪ではない??
【相談内容】
近年、芸能人の薬物使用などが問題となっており、残念に思います。
ふと気になったのですが、同じ薬物犯罪でも覚せい剤を使用した人は使用の罪で逮捕されているのですが、大麻を使用した人は使用ではなく大麻を所持していたことで逮捕されていることに気づきました。
大麻を使用したことが明らかであるのであれば、大麻の使用の罪で逮捕すればいいと思うのですが・・・。
【弁護士からの回答】
芸能人に限らず薬物犯罪は後を絶ちません。薬物は一度手を付けてしまうと依存度が強く簡単にやめることはできないため、絶対に手をつけてはいけません。
今回は、大麻取締法に関して、大麻の使用に関しての規律についてご説明させていただきます。
1 覚せい剤取締法
大麻についてご説明させていただく前に、覚せい剤に関する規定についてご説明させていただきます。
覚せい剤に関しては、覚せい剤取締法が存在し、覚せい剤の輸入、所持・譲渡・譲り受け、使用等が処罰の対象となっており、営利目的で輸入・所持などを行った場合には、罪が加重されています。
2 大麻取締法
大麻に関しては、大麻取締法により規制がされています。大麻取締法では、大麻取扱者(適法に栽培している人や大麻の研究者などをいいます。)でなければ大麻の所持、譲り受け、譲り渡しについては、覚せい剤取締法と同様に罰則を定めています。
しかし、大麻取締法では、覚せい剤取締法において規制されている使用に関する規定が存在していません。つまり、大麻に関しては所持に関しては犯罪になるものの、大麻を使用したことに関しては犯罪にならないのです。
もっとも、大麻を使用したことが認められれば、少なくとも所持していたか、譲り受けたことは間違いないため、大麻を使用しただけなので無罪ですという主張は通用しないでしょう。
覚せい剤と同様、大麻も違法薬物であり、使用することがもっとも禁じられるようにも思えるのですが、なぜ、大麻の使用が処罰されていないのでしょうか。
3 大麻とは
大麻取締法1条では
と規定されています。すなわち、大麻草の成熟した茎の部分や種子の部分は所持していたとしても、大麻取締法の「大麻」には含まれないため、罪にはならないことになります。
大麻草に関しては、大麻草全体に中毒性のある有害物質が存在するというわけではなく、大麻草の花や葉の部分に有害物質が多く含まれているのですが、茎の部分や種子の部分にはほとんど有害物質が含まれていないのです。
そして、日本では、茎委の部分は麻織物や麻縄として昔から伝統的に使用されています。さらに、種子については、七味唐辛子の中の1つである麻の実であり、語弊を恐れずにお伝えすると、七味唐辛子を食事の際に使用している方は、大麻草の一部を服用していることになります。
このように、大麻草の一部については、日本で伝統的に使用されているものであるため、茎の部分及び種子の部分は所持をしていたとしても、処罰されないことになります。
4 使用は処罰できない?
このように、茎の部分や種子の部分については、所持をしていたとしても、罪にはなりません。そして、厄介なのが、この茎の部分や種子の部分には有害物質が全く含まれていないわけではなく、微量に含まれている場合があるそうです。
そして、所持することが違法でない茎の部分や種子の部分を使用したとしても当然罪にはならないため、使用も処罰はできません。
したがって、体内から大麻の成分が検出されたとしても、それが違法な花や草の部分を使用したものであるのか、茎や種子を使用したものであるのかについて区別がつかないため、大麻の使用については犯罪として立件することが困難になります。
このように、大麻の使用について処罰の対象になっていないのは、日本特有の理由がありますが、最初にも伝えた通り、一度違法薬物に手を染めてしまうと、抜け出すことは非常に困難になってしまいます。
したがって安易な気持ちで薬物に手を出すことは絶対にやめてほしいと思います。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」
【離婚問題】離婚時に行うべき手続きについて
配偶者の方と離婚することになったとき、何を決めなければならず、どんな手続きをしなければならないかは、夫婦ごとに様々です。子供がいるかどうか、財産があるかどうか、揉めているかどうか等によってしなければならないことは大きく異なります。
以下では、その判断の前提として、一般的に必要となる手続きや決めなければならないことについて説明致します。
①離婚をするために必要なこと
まず、離婚を行う上で絶対的に必要となる手続きは離婚届の提出であり、逆に、お互いが納得して離婚届をきちんと作成し提出しさえすれば、離婚は成立します。
しかしながら、一方が離婚に同意しない、離婚条件に折り合いがつかない、となると離婚届を提出する前に協議や調停、場合によっては裁判をしなければなりません。また仮に離婚届を提出したとしても、その後一方が財産分与や慰謝料などを求めてくれば、同様に手続きをしなければいけなくなります。
②離婚の条件
ところで、そもそも離婚をするにあたって協議が必要となり得る事項についてですが、一般的には以下の通りとなります。
ア 親権
イ 養育費
ウ 面会交流
エ 財産分与
オ 慰謝料
カ 年金分割
このうち、親権は離婚届に記載しなければならないため離婚時点に決めておく必要がありますが、その他については後日取り決めることが可能です(ただし、慰謝料は3年、財産分与と年金分割は2年で時効により請求権が消滅してしまいます。)。
今回、これらの事項に関する具体的な説明は割愛致しますが、それぞれについて決めなければいけないケースは以下の通りです。
ア 親権
⇒お子さんがおられる場合です。ただし、お子さんが未成年の場合に限ります。お子さんが複数おられる場合、親権者を別々にすることも可能です。
イ 養育費
⇒お子さんがおられる場合です。「●円でなければならない」「●歳まででなければならない」という決まりはありません。仮に裁判所の審判に付される場合、原則として夫婦それぞれの収入を基準に金額を算出し、お子さんの就学状況や夫婦の学歴等によって終期を決定します。
金額に関しては、家庭裁判所が養育費相場について算定表を公開していますので、これを基準として決定するケースが多いです(http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/santeihyo.pdf)。また、近年は大学進学率の向上に伴い、両親が大卒の家庭では、養育費も子供が大学を卒業する年の3月までと決められる家庭が多い現状にあります。
ウ 面会交流
⇒お子さんがおられる場合。こちらも決め方に決まりはありませんが、「原則として面会交流は実施されるべきである」というのが裁判所の考え方です。裁判所の審判に付される場合、具体的な頻度や時間、場所等については、夫婦やお子さんの意見、これまでの面会状況を踏まえて内容が決定されます。
一般論としては、十分に面会を実施しながらも、子供や監護親の負担も考慮して、月1日程度の面会交流を実施するケースが多いです。
エ 財産分与
⇒離婚時に財産がある場合。預貯金、自宅不動産(所有の場合)、積立型の生命保険、退職金等が一般的です。こちらも具体的な分け方、割合について決まりはありませんが、法律上「婚姻時から別居時(あるいは離婚時のいずれか早い方)までの間に形成された夫婦の財産」を対象とすることになっています。
あくまで夫婦が協力して築き上げた財産を分け合うための制度ですので、婚姻関係が続いていて、同居しながら共に生活している期間に築き上げた財産が対象となります。その中でも退職金の財産分与が問題となるケースが多く見受けられますが、退職金は必ず財産分与の対象となる訳ではありません。
退職金とは、退職時の会社の状況に応じて金額が変動する可能性もありますし、支給されない可能性すら存在します。したがって、退職金が財産分与の対象となるためには、一定程度確実に退職金が支給されるであろうケースに限られますので、ご注意ください。
オ 慰謝料
⇒離婚の原因が一方の違法な行為にある場合。こちらも「いくらでなければならない」という決まりはありません。「離婚しなければいけなくなったこと」を内容とする、いわゆる離婚慰謝料の他、「離婚とは関係なく、婚姻中に一方当事者が違法行為を行ったこと」を根拠とする慰謝料が考えられます。
前者の場合は離婚成立から、後者の場合は違法行為による損害が発生したとき(通常は、違法行為時)から3年の間に請求する必要があります。
なお、離婚の原因がいずれにあるかと、法的に慰謝料が発生するかは別問題ですので注意が必要です。法律論として慰謝料が発生するためには、一方が他方に対して不法行為を行ったと評価できないといけませんので、それなりのハードルがあります。慰謝料が発生すべきケースかどうかは、必ず専門家に相談しましょう。
カ 年金分割
⇒一方が厚生年金または共済年金に加入している場合。ただし、いわゆる「3号分割」の要件を満たせば、合意の必要はなく、分割を求める配偶者が単独で手続きできます。
この年金分割は、厚生年金部分(老齢基礎年金は含まない)のみの分割であるため、単純にもらえる年金額が夫婦で半分になるというものではありません。年金分割をするとどの程度の年金がもらえるのかは、年金事務所でシミュレーションしてくれますので、相談してみましょう。
③トラブルを防止するために
①でご説明した通り、離婚は離婚届を提出するだけで成立しますので、離婚やその条件に争いが無ければ、法律上は離婚届の作成・提出以外に手続きを行う必要はありません。しかしながら、どのようなご夫婦であっても、②記載のいずれかの条件に関し、離婚後争いが生じる恐れは存在します。
したがって、仮に円満に離婚をしようとしておられる夫婦であっても、離婚協議書を作成し、離婚後にトラブルが生じないよう予防しておく必要があるといえます。「揉めないから作らない」のではなく、「円満に離婚するために作る」のです。
離婚協議書の形式に関して法律上の決まりはありませんが、仮に相手方配偶者から何らかの金銭給付(養育費、財産分与等)を受けられる場合には、給付がなされなかった場合に備えて公正証書の形式で作成されるのがベストです。
これは、公正証書で作成していなかった場合、別途裁判をしなければ相手方の財産を差し押さえることができないためです。公正証書で作成し、執行認諾文言というものを付していれば、万が一支払いがなされないときは即座に給与の差押え等を行うことができますので、ぜひご活用ください。
また、作成される際には、内容を明確に、他の解釈を許さない文言で記載し、後日漏れが発覚した場合に備えて「その他一切の債権債務が無いことを確認する」旨のいわゆる清算条項を設ける必要があるでしょう。
④まとめ
以上、離婚手続きと離婚条件の概要と、トラブル防止策についてご説明致しました。
これらを十分踏まえて手続きを行って頂ければ問題ありませんが、冒頭に述べた通り、具体的に行うべき手続、取り決めなければならない内容は個々のケースによって異なり、協議書の記載方法等についてもそれに応じて慎重に検討する必要があります。
これらを専門的に学んでいない方が対応するのは相当に困難でしょうから、やはり専門家に相談しながら、幸せな未来に向けて十分な準備を行うよう心掛けてみられてください。
手荷物検査と飛行機内のルール~航空法について~
ゴールデンウィークの10連休、飛行機を利用してどこかへ旅行に行かれた方も多いかと思いますが、意外と知らない航空機の法律をご紹介します。
保安検査場を通るときって少し緊張しませんか?自分の荷物をX線で見られて、あのゲートを通る時です。実は、保安検査場での手荷物検査は航空会社が実施する保安措置の一つなのですが、その根拠は法律で定められています。
1.保安検査には法律の根拠がある
飛行機に乗る時に絶対通るのが保安検査場です。保安検査場ではライターを2本持っていたりしたら捨てるように言われますが、あれは何かの根拠があってのことなのでしょうか。
飛行機への持ち込みに関しては、航空法にこのような決まりが定められています。
第86条 爆発性又は易燃性を有する物件その他人に危害を与え、又は他の物件を損傷するおそれのある物件で国土交通省令で定めるものは、航空機で輸送してはならない。
2 何人も、前項の物件を航空機内に持ち込んではならない。
上記の通り、保安検査を受ける以前に、航空機に乗る人(私たち、運航乗務員、客室乗務員、その他航空機に乗る全ての方)は、危険なモノを航空機に持込んではならないと法律で定められております。さらに第86条の2では以下の様に明記されています。
このように実は、航空会社は私達の手荷物の中に危険な物あると疑われるとき、持込みを拒絶して取り卸すことが出来るのです。
そしてその疑いを発見するのが手荷物検査です。
なお、手荷物検査は航空会社が行う保安措置の一つですが、保安措置には様々なものがあります。日本において航空会社が航空運送業を営む為には、国土交通大臣に対し、「事業計画(航空法第100条第2項)」を提出したうえで「許可(航空法第100条)」を受ける必要があります。
その事業計画には「航空機強取等防止措置の内容(航空法施行規則第210条第1項第7号、同法232条第1項第7号ホ)」を記載することと明記されています。
この「航空機強取等防止措置の内容」が私たちの手荷物検査を含む保安措置内容ということになります。
このようにして、私たちは保安検査場において法律で禁止されている物品の持ち込みをしていないことを確認されて、飛行機に乗り込むことになります。
2.機長の権限
飛行機のドアが閉まった後にゆっくり滑走路を走っていくとき、こんなアナウンスは聞こえませんか。
「航空法の定めるところにより禁止されており、刑罰の対象となることがあります。」
え!?なんかこわい!
と初めて乗った時は思われたかもしれません。
実は、あの状態のとき・・・ゆっくり空港の中を走っている時や、順番待ちで止まっている時でも航空法違反行為をした場合、機長の強い権限で拘束されることがあります。
航空会社は、ビデオなどを使ってやんわりと禁止行為を説明していますが、ついつい聞き流してしまいます。一体航空機の中でやってはいけないことって何なのでしょうか。
具体的には航空法施行規則という規則で以下の行為が禁止されています。
もしかすると、意外に違反してしまっているかもしれません。
① 乗降口又は非常口の扉の開閉装置を正当な理由なく操作する行為
② 便所において喫煙する行為
③ 航空機に乗り組んでその職務を行う者の職務の執行を妨げる行為であつて、当該航空機の安全の保持、当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産の保護又は当該航空機内の秩序若しくは規律の維持に支障を及ぼすおそれのあるもの
④ 航空機の運航の安全に支障を及ぼすおそれがある携帯電話その他の電子機器であつて国土交通大臣が告示で定めるものを正当な理由なく作動させる行為
⑤ 離着陸時その他機長が安全バンドの装着を指示した場合において、安全バンドを正当な理由なく装着しない行為
⑥ 離着陸時において、座席の背当、テーブル、又はフットレストを正当な理由なく所定の位置に戻さない行為
⑦ 手荷物を通路その他非常時における脱出の妨げとなるおそれがある場所に正当な理由なく置く行為
⑧ 非常用の装置又は器具であつて国土交通大臣が告示で定めるものを正当な理由なく操作し、若しくは移動させ、又はその機能を損なう行為
意外にもルール違反をしてしまいそうなルールではありませんか?
ちなみに機長には、違反者だけでなく、このような違反行為をやろうとしている人についても、該当者を拘束したり飛行機から降ろしたりする権限が与えられているのです。航空法には、以下の通り機長の権限が定められています。
上記の通り、機長は飛行機の全部のドアが閉まった瞬間から、客室内で迷惑な行為をして、客室乗務員を困らせたりする人を拘束したり、飛行機からおろしたりする強い権限を持っているのです。
3.まとめ
パイロットは頭がよくてスマートというイメージですが、その中でも機長はただ飛行機を飛ばすだけではなくて、航空機の秩序や乗客の安全も守らなければいけない重大な任務を遂行しているようですね。
連休にかかわらず、この先も航空機を利用していろんな国や地域へ旅行される方も多いかと思いますが、こうした航空機のルールを守って楽しい旅行にしましょう。
振り込め詐欺救済法に基づく手続きで被害金を取り戻そう
皆さんは「振り込め詐欺」という言葉をご存知でしょうか?その悪質な犯罪行為はニュースでもたびたび取り上げられているため、ほとんどの方が耳にしたことがあるのではないでしょうか。
では、振り込め詐欺に遭ってしまった場合、もうお金を取り返すことはできないのでしょうか?やはり、詐欺グループから取り返すことは困難なのかもしれません。そこで、今回は、万が一振り込め詐欺の被害に遭ってしまったとき、どのように救済してもらえるか、法律に基づく手続きについてご説明したいと思います。
1.振り込め詐欺の定義
「振り込め詐欺」とは、オレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺及び還付金等詐欺などの犯罪行為の総称で、2004年に警視庁によって命名されました。この振り込め詐欺は、「特殊詐欺」に該当します。そもそも特殊詐欺とはどのような詐欺行為のことなのでしょうか。
警察によると、特殊詐欺は「面識のない不特定多数の者に対し、電話その他の通信手段を用いて、対面することなく被害者をだまし、不正に入手した架空または他人名義の預貯金口座への振り込みなどの方法により、被害者に現金などを交付させたりする詐欺」と定義されています。
特殊詐欺の中でも代表格といえるのが、今回取り上げる振り込め詐欺で、特に高齢者が被害に遭う傾向が強く、平成30年の警察庁の調査によると、被害者の7割以上が高齢者となっています。
もしも、自分や周りの人たちがこれらの詐欺の被害に遭ってしまった場合、どうしたらよいのでしょうか。被害に遭ってしまった場合の救済処置を定めた法律があるので、次はそちらを見ていきましょう。
2.振り込め詐欺救済法とは
振り込め詐欺と思われる電話を受けたときは、詐欺だと気づいて被害を未然に防ぐことが出来たら一番良いですが、残念ながら多くの方が被害に遭っているのが現状です。このように振り込め詐欺の被害に遭ってしまった被害者の方々を助けるために作られたのが「振り込め詐欺救済法」という法律で、平成20年6月21日から施行されました。
振り込め詐欺救済法では、振り込め詐欺の被害者に対する被害回復分配金の支払い手続等を定めています。被害回復分配金とは簡単に言うと、振り込め詐欺の加害者の預金口座から取り戻し、各被害者に分配(返還)される資金のことです。その手続は以下の3つに分かれて進められます。
① 取引停止(口座凍結)
② 債権消滅手続
③ 被害回復分配金の支払手続
ここからはそれぞれの手続について詳しく見ていきましょう。
3. 振り込め詐欺救済法に基づく手続①取引停止(口座凍結)
被害にあってしまった際に、まず行うのが取引停止手続です。取引停止手続では、金融機関に対し、犯罪行為に利用された疑いのある預金口座に関する取引の停止等の措置をとることができます。いわゆる口座凍結のことです。口座凍結後は該当の預金口座では、入金や振り込み、預金の引き出しなどが一切できなくなります。
この口座凍結を行うには、振り込め詐欺の被害者側が、払込先(加害者)の預金口座を開設している金融機関に対して、その口座が犯罪利用の疑いがあるということを情報提供しなければなりません。情報提供の方法としては、金融機関に直接口座情報を提供するやり方以外に、警察や弁護士会、金融庁や消費者センター等の公的機関や、弁護士や認定司法書士を通して情報提供を行うことも可能です。情報提供を受けて金融機関により、すみやかに取引停止の措置が取られます。
もともと、振り込め詐欺救済法が施行される以前は、振り込め詐欺の被害に遭った際の口座凍結の手続は加害者の名前が分からなければ行えませんでした。また、名前が分かったとしても、預金は口座名義人のものということで被害金を取り戻すことは容易ではありませんでした。
しかし、振り込め詐欺救済法に基づく口座凍結は、振込先の口座番号と口座名義人が分かれば可能で、かつ要請後に早急に口座凍結が行われるので、加害者は預金を引き出すことが出来なくなり、被害金の回復の可能性が大きくなりました。
取引停止手続がとれたら、次は債権消滅手続へと移ります。
4.振り込め詐欺救済法に基づく手続②債権消滅手続
債権消滅手続では、加害者が振り込め詐欺に利用した預金口座の所有権がはく奪されます(=失権)。所有権がはく奪されることで、口座内の預金等の債権も加害者のものではなくなります。実際にこの手続きがどのような流れで進んでいくのかを見ていきましょう。
まず、①の取引停止措置を行った金融機関が、加害者の失権のための公告を預金保険機構に要請し、それを受けた預金保険機構が、ホームページで「債権消滅手続開始」の公告を実施します。この預金保険機構の公告というのは、預金保険機構のホームページにアクセスすれば誰でも見ることができ、「債権消滅手続き開始」の公告では、加害者の口座情報(金融機関、店舗、預金の種類、口座番号)や名義人の氏名や名称、預金額の情報を公開しています。
この公告開始から60日以内に、口座名義人からの届出がなければ、債権は消滅し、「債権消滅」の公告が実施されます。この公告を受け、次の被害回復分配金の支払手続へと進みます。
5. 振り込め詐欺救済法に基づく手続③被害分配金の支払手続
「債権消滅」の公告の実施を受け、今度は金融機関が「支払い手続開始」の公告を預金保険機構に要請しなければなりません。この公告では、②「債権消滅手続開始」で公開した情報に加え、被害者に対して、被害回復金の支払申請期間を掲載しています。
そのため被害者は金融機関に対して被害回復分配金の支払い申請を行う必要があります。 被害者からの支払い申請を受付けた金融機関は、申請人が支払いを受けるに値するのかを判断した上で、値すると判断した場合は被害回復分配金の支払いを行います。
この時の支払額は消滅預金等債権の額(=凍結口座の預金額)×(各被害者の被害額/総被害額)となります。つまり、複数の被害者から支払い要請がある場合は、口座に残っている残高を、それぞれの被害額に比例した額を配分したうえで支払われることになります。
このような仕組みで振り込め詐欺救済法に基づく被害回復分配金の支払いは行われているため、総被害額分の預金が残っていなければ、被害者の方は全額返金を受けることが出来ません。
さらに残高がない、もしくは1000円未満の場合は振り込め詐欺救済法による支払い手続の対象にもなりません。また支払いまでに1か月程度の期間を要しますので、これらの点を心得ておかなければなりません。
6.まとめ
以前は、振り込め詐欺にあってしまったら犯人の特定をしなければ、その被害金を取り戻すことは困難だとされていました。しかし、振り込め詐欺救済法の施行後は、犯人の特定が出来なくても預金口座の凍結を行うことができるようになり、その後の手続きも定められたため、被害金を取り戻せる可能性が大きくなりました。
それでも、被害金を全額取り戻せる保証はないですし、取り戻すまでには期間を要します。日頃からご自身や、周りの人たちが被害に遭わないように振り込め詐欺の手段や実体を把握し、注意しておくとともに、万が一被害にあってしまった時は、早急に対処をすることが必須です。
弁護士を通じて金融機関に情報提供を行うことも可能ですので、もし一人で対応することが難しいと感じた場合はすぐに専門家に相談をしてください。
【不動産】マンション設備に関する売主の説明義務
「駐車場付きマンション」という広告・説明を受けてマンションを購入したのですが、実際には、マンションとは別に第三者である地主と駐車場の賃貸借契約を締結しなければなりませんでした。こんな時、分譲業者には責任を追及することは可能でしょうか?
1. 売主の説明義務に関する一般論
売買契約における売主の本来的な義務は、契約の目的物である財産権を買主に移転することです。しかしながら、マンション購入の意思決定に際し重要な意義を持つ事項に関しては、売主には、信義則上の付随義務として説明義務が認められます。
2. マンション設備に関する売主の説明義務
まずは、マンション販売に関する売主の説明義務が争点となった事例を、具体的な裁判例を通してみて見ましょう。
(1)駐車場の利用権(横浜地判平成9・4・23)
【事案】
Xらは、マンションの分譲業者であるY社が分譲したマンションを、駐車場付きの広告を見たり説明を受けたりして購入したが、実際には、Y社とは全く別の地主(第三者)と駐車場の賃貸借契約を締結する必要があった。
Xらは、Yに対し、債務不履行及び契約締結上の過失に基づき、駐車場利用権の相当額や慰謝料の損害賠償を請求した。
【判旨】
一般にマンション(集合住宅建物)の区分所有権の売買契約においては、買主に駐車場利用権を取得させる債務が契約の給付の内容に含まれない場合であったとしても、乗用車が日常生活における重要な生活手段となっていることに鑑みれば、売主には駐車場の存否とその利用契約締結の可否について買主に正確に説明すべき付随義務があると解するのが相当である。
したがって、特に買主から駐車場の有無が契約を締結するか否かの判断のために必要である旨が表示されている場合においては、付随義務とはいえ、信義則上、売主の説明義務違反を軽んじることはできない。
また、売買契約が締結される前の勧誘行為において、説明義務に違反する行為があった場合においても、いわゆる契約締結上の過失の問題として、売買契約の成否にかかわらず、売主に債務不履行責任が生じる余地があると解される。
これを本件についてみるに、Xらは、Yの販売担当者から本件マンションの販売勧誘を受けた際に駐車場の存否を尋ねているか、又は駐車場が確保されていることがマンション購入の必要条件となるという趣旨を告げていたため、本件各売買契約が締結される前の状態ではあったが、販売担当者には、本件駐車場の所有関係、利用契約の趣旨内容を、Xらに説明すべき信義則上の義務があったということができる。
この説明義務は、本件売買契約が成立した場合には、当然にこの契約の付随義務となるものと解されるが、契約締結前における説明義務違反は、契約の成否にかかわらず、いわゆる契約締結上の過失の一態様として、売主に債務不履行責任を発生させるものと解するのが相当であり、右の債務不履行責任は、実際に行われた説明を信じたことによる買主の損害の賠償を義務付けるものというべきである。
(2)マンション内の防火設備(最判平成17・9・16)
【事案】
宅地建物取引業者であるY2社は、Y1社(Y2はY1の100%子会社)から販売代理業務の委託を受け、Aに対してマンションの専有部分を売却する売買契約を締結した。本件専有部分には中央付近に防火扉が設置されていたが、その電源スイッチが一見してそれとはわかりにくい場所に設置され、電源が切られた状態で専有部分の引渡しがされた。Aは妻Xとともに居住していたが、専有部分内で発生した火災により死亡した。
Y2は、Aらの入居時までに、Aらに重要事項説明書や図面等を交付したが、本件防火扉の電源スイッチの位置や操作方法、火災発生時の作動の仕組み等を説明しなかった。
XはY1に対しては瑕疵担保責任に基づき、Y2に対しては説明義務違反があったとして不法行為に基づき、損害賠償を請求した。
裁判所は、Y1及びY2の説明義務違反を認め、不法行為に基づく損害賠償義務を負うものであると判示した。
【判旨】
本件防火扉は、火事が発生した際の防火設備の一つとして極めて重要な役割を果たし得るものであることが明らかであるところ、被上告人Y1から委託を受けて本件売買契約の終結手続きをした被上告人Y2は、本件防火扉の電源スイッチが、一見してそれとはわかりにくい場所に設置されていたにも関わらず、A又はXに対して何ら説明せず、Aは防火設備の電源スイッチが切られた状態で802号室の引渡しを受け、そのままの状態で居住を開始したため、本件防火扉は、本件火災時に作動しなかったというものである。
また、記録によれば、Y2はY1による各種不動産の販売等に関する代理業務等を行うために、Y1の全額出資の下に設立された会社であり、Y1から委託を受け、その販売する不動産について、宅地建物取引業者として取引仲介業務を行うだけでなく、Y1に代わり、またはY1と共に、購入希望者に対する勧誘、説明等から引渡しに至るまで販売に関する一切の事務を行っていること、Y2は、802号室についても、売主であるY1から委託を受け、本件売買契約の締結手続きをしたにとどまらず、Aに対する引渡しを含めた一切の販売に関する事務を行ったこと、Aは、このようなY2の実績や専門性を信頼し、Y2から説明等を受けた上で802号室を購入したことがうかがわれる。
上記の事実関係を考慮すると、Y1には、Aに対し、少なくとも、本件売買契約条の付随義務として、上記電源スイッチの位置、操作方法等について説明すべき義務があったと解されるところ、上記の事実関係が認められるものとすれば、宅地建物取引業者であるY2はその業務において密接な関係にあるY1から委託を受け、Y1と一体となって本件売買契約の締結手続きのほか、802号室の販売に関し、Aに対する引渡しを含めた一切の事務を行い、AにおいてもY2を上記販売にかかる事務を行うものとして信頼した上で、本件売買契約を締結して802号室の引渡しを受けたこととなるのであるから、このような事情のもとにおいては、Y2には信義則上、Y1の上記義務と同様の義務があったと解すべきでありその義務違反によりAが損害を被った場合には、Y2はAに対し、不法行為による損害賠償義務を負うものというべきである。
3. 結論
以上、マンションの設備の説明義務が問題になったケースとして、駐車場、及び防火設備にまつわる判例を見てきました。
まず、契約締結交渉の段階で、買主側が売主側(分譲業者)に対し、対象となる設備(駐車場など)の有無を尋ねていたなど、当該設備があるからこそマンションを購入したという趣旨が売主(分譲業者)側に伝えられていた場合には、買主は売主(分譲業者)に対して、説明義務違反として損害賠償請求をすることが出来ます。
また、防火設備のようにマンション設備として重要な役割を果たすべきものについては、その設備が売買契約書上に直接内容として記載されていない場合であっても、売主側には買主に対する説明義務が課されるものであり、売主側がその義務に違反した場合には、買主に対し損害賠償義務を負うことになるのです。
知っていれば役に立つ!経費のこと5 ―食べ歩きは経費になる?―
業務には直接関係ないけれど「経費」にしたいもの、自己負担でもいいけれど、金額も大きいし、できることなら「経費」にしたいもの、ありますよね。
もちろん、業務と関係ないお金は、その事業のための経費ではありませんので、経費化できる訳はありません。
あくまで、業務との関連性について説明ができないと、経費化はできませんのでそこは悪しからず。
1.業務に関係のない本や雑誌を読んでいます
業務を行っていくなかで様々な情報を集めるために、専門書や経済新聞など、仕事に直接つながるような本や新聞を読むことがありますよね。けれど、専門的な文書ばかり読んでいても、偏った情報が集まりやすいため、たまには仕事とは全く関係のない分野の本や雑誌を読むこともあると思います。
そんなとき仕事の分野とは関係ない、一般的な本や雑誌などを購入するために使った費用は経費になるのでしょうか?
答えは、「なる」です。仕事に関係のない本や雑誌を読んだって、役に立ちそうな情報は得られないでしょ!と思ってしまいそうですが、関係のない内容だからこそ、得られるものがあるのです。
もちろん、専門分野の本を読むことで知識が深まったり、新しいことを知ったりすることもたくさんありますが、それでは視野が狭くなってしまいます。
そこで、いつもとは違った分野の本や雑誌を読むことで、新しいアイデアを思いついたり、今まで疑問に思っていたことが解決したりすることがあるのです。
これら本や雑誌の購入費は、「新聞図書費」として「経費」にできるのですが、条件として「従業員なら誰でも、いつでも読めるようにしておく」ことが必要となります。
もちろん、マンガを買って経費にするとなれば、そのマンガを購入することがどのように業務上必要なのか説明が付かないといけませんので、なかなか難しいと思われます。
ご自身のビジネスとの兼ね合いで、どのような書籍なら業務上の必要性ありと説明できそうか考えてみてください。
2.食べ歩きをしています
飲食店を経営しています。フレンチのお店なのですが、今度新しいメニューを開発するにあたってヒントを得るために、和食やイタリアン、中華など様々なジャンルのお店で食べ歩きをしています。
さて、こんな場合、食べ歩きに使った費用は「経費」になるのでしょうか?
経営しているのはフレンチのお店ですが、1でお話ししたように、自分とは異なった分野に触れることで、新しいアイデアを思いつくこともあります。そのため、この場合は「研究開発費」や「研修費」、「調査費」として「経費」にすることができます。
しかし、ただ食事をしただけと思われないように、お店で食べた料理の分析や、新しいメニューの案をレポートとして残しておくことが必要となります。
細かくレポートを作成することが難しい場合は、実際に行ったお店でパンフレットなどをもらい、そこに味や、何か参考になったことなど、メモを残しておきましょう。
つまり、書籍の箇所でご説明した通り、使ったお金がどのように業務上必要となるのかの説明ができなくてはならないということです。税務調査を受けた際、「なるほど、そういうことであれば確かに必要な経費ですね。」と調査官に思わせられるかがカギとなります。
3.結婚式を挙げます!
結婚式を挙げることになりました。招待しているのは取引先の方々ばかりです。この場合、結婚式にかかる費用は「経費」にすることができるのでしょうか?
招待しているのが取引先ばかりの場合、仕事の延長のようなものなので、「経費」にしたいところですよね。しかし、結婚式は個人的なものになるので、「経費」にすることができないのです。
もし、結婚式をビジネスにしているのならば「経費」にすることが可能なのですが、該当する人はなかなかいないため、ほとんどの場合は自己負担で式を行うことになります。
では、取引先の結婚式に招待されたときのご祝儀はどうでしょうか?
これは、「経費」にすることができます。1年に数回など、頻度が少ない場合であれば、自己負担だとしてもそこまで金額は大きくならないですが、取引先が多かったり、これから増えていったりすると式の頻度も増え、自己負担が厳しくなってきますよね。
そのため、ご祝儀に関しては「接待交際費」として「経費」にすることができます。
ただし、誰の結婚式に参列したのか、どのような立場で招待されたのかなど、後で説明しないといけない場面が訪れたときのため、招待状を残しておくことを忘れないようにしてください。
また、会社から自社の従業員に対してご祝儀を支払った場合は、「福利厚生費」として「経費」にすることができますが、社内で規定を作成し、金額に関しては地域相場を意識したものにしましょう。
従業員に対するお祝いなので、他の会社よりも高い金額を払ってあげたいと考えたとしても、税務署は全額を経費と認めてくれないかもしれません。
その場合は、一部が否認されたとしても仕方ありませんので、その腹積もりでご祝儀を払ってあげるようにしてください。
4.まとめ
今回は、ご祝儀や食べ歩きで使った飲食代など、一見「経費」にできないようなお金のことについてお話をしました。直接業務には関係なくても、新しいアイデアのヒントや問題解決につながるものであれば「経費」にすることが可能なので、これを利用して視野を広げ、仕事に役立てていきましょう!
何かお金を使う際は、業務との関連性を意識しながら、経費化できそうかどうか検討しましょう。そして、迷った際は、税理士に相談するようにしましょう。