【離婚問題】子連れ離婚とお金の問題
子連れ離婚に限らず、離婚にはお金の問題が絡んできます。
離婚成立前の「婚姻費用」や成立後の「慰謝料」、「財産分与」という言葉を何となく耳にしたことがある人も多いかと思います。
今回はこの3つについて詳しく見ていきましょう。
1. 慰謝料
離婚とお金と聞くと、多くの方が「慰謝料」を思い浮かべるのではないでしょうか。
では、そもそも「慰謝料」とはどういうときにもらえるお金なのでしょう?
慰謝料とは、精神的被害に対する損害賠償のことで、その被害の度合いを金銭に換算し、賠償するものです。
離婚をすると慰謝料が必ずもらえると勘違いされていることもありますが、慰謝料が発生するのは、賠償をしてもらうだけの被害があったときだけですので、必ずしもすべての離婚案件で慰謝料が認められるわけではありません。
例えば、離婚原因が「性格や価値観の不一致」などに該当する場合は、ある程度お互い合意の上での離婚になりますので、損害賠償をもらうに値する原因にはならず、慰謝料請求は難しいと考えられます。
慰謝料請求というのは、法律論で言うところだと、不法行為に基づく損害賠償請求ですので、違法性がある場合にしか認められません。そのため、「性格や価値観の不一致」などではなかなか認められないのが一般的です。
では、具体的にどのような場合であれば慰謝料請求を行えるのでしょうか?
離婚の際の慰謝料が認められるものとしては、以下の4つが代表的です。
② 悪意の遺棄があった場合
③ DVを受けた場合
④ モラルハラスメントを受けた場合
不貞行為や悪意の遺棄、DVは「認められる離婚理由と離婚方法・離婚後の手続きってどうなっているの?法定離婚事由」で述べている法的離婚事由にも該当しています。
モラルハラスメントは、相手に対して暴言を吐いたり、無視や過度な束縛を行ったりするなど、道徳を外れた行為で相手を精神的に追い詰めることをいい、精神的被害の程度によって慰謝料額が算定されます。
また、離婚が成立した後に元配偶者の不貞が発覚した場合など、離婚後であっても慰謝料請求を行うことは可能です。
ただし、離婚後の慰謝料請求には時効が存在しますので、該当する事由があったとしても慰謝料請求ができないケースもあります。
慰謝料の発生原因から3年が経過すると時効が完成し慰謝料を請求する権利が消滅してしまいますので、注意しておきましょう。
2. 婚姻費用
婚姻費用とは、夫婦の間で支払われる生活費のことで、夫婦双方の収入と未成年の子どもの人数などから算定されます。
「なんで離婚前提で別居してるのに、相手の生活費を払わないといけないの?」と思われる方も多いと思いますが、民法上、夫婦には収入の多い方がもう一方に生活費としてお金を渡すという扶養義務があり、この義務は婚姻関係が継続している限り果たさなければなりません。
民法第七百六十条 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。
ですので、まだ離婚が成立する前であれば、たとえ別居中であっても、配偶者の生活費を分担しなければならないのです。
婚姻費用を受け取っていない場合は配偶者に対し請求ができますが、一つ注意をしておきたいのはその支払いの期間についてです。
婚姻費用の支払い義務は、請求をした日以降の分のみとなっているため、それ以前の婚姻費用については法的には支払わなくてもよいとされています。
ですので、過去にもらえるはずだった婚姻費用については、相手が任意で払ってくれなければ受け取ることは難しいといえます。
これは、裁判所での調停や審判でも同じことで、申し立てを行った時点より前の支払いが命じられることはほとんどありません。
慰謝料や次に説明する財産分与のようにさかのぼって請求することができないので、別居を始める前に取り決めて書面に残しておくとよいでしょう。
また、請求をしていたことを履歴として残しておいた方が良いでしょうから、婚姻費用を支払って欲しい旨の内容証明郵便などを早めに発送して記録化しておきましょう。
<婚姻費用と養育費>
配偶者と子どもの生活費である婚姻費用の支払い義務が生じるのは離婚前までです。
離婚が成立した段階で、婚姻費用は支払う必要がなくなりますが、新たに支払い義務が発生するものがあります。それが「養育費」です。
養育費は子どもの権利として認められており、離れて暮らす親にはこれを支払う義務があります。(なお、養育費はあくまで「子どものための」生活費ですので、元配偶者の生活費は含まれません。)
たとえ離婚で子どもと離れたとしても、親としての扶養義務は消えることはありません。
子どもの生活のためにも、離婚時は必ず養育費についても取り決めをし、万が一支払いが滞った場合に強制執行がかけられるよう、公正証書にしておくことが望ましいです。
3. 財産分与
財産分与とは、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産を、離婚の際に2人で分け合うことを言います。
民法第七百六十八条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
財産分与は慰謝料とは異なり、離婚原因を作った側でも請求をすることができます。
また、離婚成立後でも請求は可能ですが、離婚後2年が経過した段階で時効にかかってしまうので、その点は注意が必要です。
では、具体的にどこまでが財産分与の対象となるのでしょうか?
夫婦が所有している財産は、大きく分けて以下の2種類があります。
① 共有財産・・・結婚後に二人で得た財産
② 特有財産・・・結婚前から互いが所有していた財産
このうち財産分与の対象となるのは共有財産で、以下のようなものが例として挙げられます。
・預貯金
・自動車
・不動産
・家財道具
・生命保険・年金
・住宅ローン
「結婚後に2人の共同生活の中で」得たものは、基本的に共有財産に分類されます。
ですので、「貯金の大半は夫の稼ぎである」「住宅の名義も夫」という場合でも、これは妻の協力があっての財産であるため、共有財産として財産分与の対象になります。
ただし、住宅ローンなど夫婦が共同で作ったマイナスの財産についても共有財産として分与の対象になりますので、そこは注意が必要です。
反対に、結婚前からお互いに所有していた預貯金や親から受け継いだ財産など、一方が独自で形成した財産については夫婦が共同して築いたとはいえないので財産分与の対象にはなりません。
また、婚姻中に一方が個人的に抱えた借金に関しても同様です。
財産の分け方については、平等に1対1の割合で分与するのが一般的ですが、夫婦のどちらかのみが著しく財産を築いていた場合は、その貢献度を考慮した割合での分与になるケースもあります。
万が一、夫婦間で協議をしても話がまとまらなかった場合は、家庭裁判所を通して何をどこまで分与するかを決めることになりますが、調停や訴訟となるとご自身のみでの対応が難しくなってくる場面も多くみられます。
当事者間のみでの対応が厳しそうな場合は、早い段階で一度弁護士にご相談に行かれることをお勧めします。
4.まとめ
離婚とお金の問題は切っても切り離せません。
とりあえず離婚をしたいという点だけを優先させ、養育費や財産分与については取り決めをしていなかったことが原因で、後々揉めてしまうケースもあります。
難しい問題だからと先延ばしにせず、しっかり話し合ってから離婚を進めることが大切です。
【相談事例41】警察官のコスプレは違法?~軽犯罪法違反について③~
【相談内容】
軽犯罪法では、列に割り込む行為なんてものも取り締まっているのですね。
そういえば、昨年、ハロウィンの時にコスプレをして街に行ったのですが、その際、警察官の人がいると思ったらよく見るとコスプレをした人でした。
本物の警察官と間違う人も多く、ふざけて取り締まりのような行為もしていたのですが問題ないのですか?
【弁護士からの回答】
これまで2回にかけて軽犯罪法違反の行為についてご説明させていただきましたが、今回も軽犯罪法違反に関する問題です。
近年ハロウィンでの大騒ぎなどがニュースなどで取り上げられ問題となっていますが、警察官のコスプレを行うことも問題点についてご説明させていただきます。
1. 官名詐称(軽犯罪法1条15号)
軽犯罪法1条15号では、「官公職、位階勲等、学位その他法令により定められた称号若しくは外国におけるこれらに準ずるものを詐称し、又は資格がないのにかかわらず、法令により定められた制服若しくは勲章、記章その他の標章若しくはこれらに似せて作つた物を用いた者」処罰すると規定しています。
簡単にいうと、警察官等であると偽る行為や、警察官の制服やバッジや警察手帳等を偽造したりする行為は軽犯罪法違反になります。
2. 警察官のコスプレは違法か?
軽犯罪法にて、官名詐称が禁じられている理由は、警察官等の制服等について資格を持っていない人が着用し警察官になりすますことにより、警察官等一定の職業や資格に対しうる国民の信頼を損なうことにつながるため処罰対象となっています。
すなわち、警察官を装っている人が横行することにより、一般の人においてこの人が本当に警察官であるのかと疑い、助けを求められない場合や、国民の信頼が損なわれることにより、警察官の職務の遂行を妨げることになってしまうため、法律で行為を制限しています。
したがって、ご相談者様の事例のように精巧なコスプレにより一般の人から見て単なるコスプレとしての範疇を越えて、本物の警察官であると見間違うような場合であれば、軽犯罪法違反ということで処罰の対象にはなってしまいます。
特に、近年では、ハロウィンにより非常に多くの人が集団で集まり時には暴徒のように暴れてしまうことも少なくないときに、警察官と見間違うようなコスプレをしてしまうと、本物の警察官による騒動を抑える仕事も邪魔してしまう可能性が非常に高いため、くれぐれもそういったコスプレは控えた方が良いでしょう。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例40】こんな行為が犯罪に?~軽犯罪法違反について②~
【相談内容】
フェイク動画の投稿をしたとしてもそこまで重い犯罪になるわけではないのですね・・・
いろんな人に迷惑をかけているのですからもう少し厳重に処罰してもらいたい気がします。
それ以外に軽犯罪法だと、どのような罪が規定されているのですか?
【弁護士からの回答】
前回は、軽犯罪法についての総論的な説明と、虚偽申告の罪についてご説明させていただきました。
今回は、その他の軽犯罪法に規定されている犯罪についてご説明させていただきます。
前にもご説明しましたが、「こんな行為も犯罪に?」というような内容も規定されています。
1. 刃物等の携帯(1条2号)
「正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者」を処罰の対象にしています。
こうした凶器を正当な理由なく隠し持っている者は、その凶器を使用し何か別の犯罪を行う可能性があるため、予防法的な観点から処罰されています。
2. 浮浪の罪(1条4号)
「生計の途がないのに、働く能力がありながら職業に就く意思を有せず、且つ、一定の住居を持たない者で諸方をうろついたもの」も処罰の対象になります。
要は、働けるにも関わらず、働かずにおり浮浪していると軽犯罪違反になってしまいます。
この犯罪で検挙されることはないのではと思っていたのですが、調べてみると、過去にこの罪で検挙された人自体はいるようです。
3. 行列割込み等の罪(1条13号)
条文は長いため省略しますが、公共の場所において、バスや、電車に乗るための列や切符を購入するための列に乱暴な態様や言動で割り込む行為は軽犯罪法違反になります。
電車でできるだけ座席に座りたいからと、並んでいる列に無理やり割り込む行為は軽犯罪法違反になる可能性があるので注意が必要です。
近年ではスマートフォンの普及により誰でも動画を撮影しネットに投稿することができる時代ですので、今後、割り込んだ人を撮影した人の投稿により検挙されるというケースが出てくるかもしれません。
4. 排せつ等の罪(1条27号)
「公共の利益に反してみだりにごみ、鳥獣の死体その他の汚物又は廃物を棄てた者」、すなわち、道に唾を吐く行為や、立ち小便をする行為は軽犯罪法違反になります。
この犯罪も、誰かがスマートフォンで撮影し、投稿する行為により検挙されるケースも増えてくるかもしれません。
5. 追随等の罪(1条28号)
「他人の進路に立ちふさがつて、若しくはその身辺に群がつて立ち退こうとせず、又は不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとつた者」も処罰対象になります。
例えば、執拗にナンパ行為や声掛け行為をし続ける行為についてはこの犯罪が成立することになります。
なお、つきまとい行為が恋愛感情に基づくものであり、かつ程度もひどいものである場合には、この犯罪ではなく、ストーカー規制法の規制対象となります。
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「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例39】フェイク動画の投稿は犯罪!~軽犯罪法違反について①~
【相談内容】
先日、人を殺害している現場を撮影したかのような迷惑動画を投稿していた人が、軽犯罪法違反により書類送検されたというニュースを目にしました。
迷惑動画を投稿すると、刑事処分を受けるというのは本当だったのですね。
少し気になったのが軽犯罪法違反というのはどういった罪になるのですか?あまり聞きなれない犯罪なので教えてください。
【弁護士からの回答】
先日、ニュースで殺人現場を装ったフェイク動画がアップロードされ、実際に警察が出動するなどしたなど社会的に問題となった事件で、動画をアップロードした人が書類送検されたとニュースを目にしました。
安易な気持ちでの迷惑動画の投稿がなされないために、こうした迷惑動画を投稿するときちんと検挙されるということが周知された点ではとても有意義であると感じています。
今回の迷惑動画の投稿では、軽犯罪法違反という罪で書類送検されていますが、軽犯罪法という犯罪については、あまり耳にされたことがない方も多いと思いますので、今回は軽犯罪法についてご説明させていただきます。
1. 軽犯罪法とは
軽犯罪法とは、日常生活の中で発生しうる比較的軽微な罪を規定した法律であり、1条の1号から34号までに列挙された罪(21号が削除されているため、33個あります)に違反した場合、拘留または科料に処すると規定されている犯罪です。
拘留とは30日未満の日数拘置所に収容される刑罰であり、科料とは1,000円以上1万円未満の金銭の支払いが求められる刑事罰であり、比較的軽微な犯罪について規定された犯罪であることが分かると思います。
この軽犯罪法ですが、制定されたのが昭和23年と非常に古い罪であるため、規定されている罪の中身として「こんな行為も対象になるのか」と驚くような内容も含まれています。
今回は、上記相談事例に該当する犯罪行為のみご説明しますが、次回以降、通常耳にしない珍しい犯罪行為の種類についてご説明させていただきます。
2. 虚偽申告の罪(16号)
軽犯罪法では「虚構の犯罪又は災害の事実を公務員に申し出た者」を処罰する旨規定しています。
今回書類送検された事件では、公務員(警察官)に対して直接犯罪の申告を行ったわけではありません。
しかし、報道等をみると、殺人フェイク動画を投稿した人は、動画を投稿した際広く他の人に拡散するよう求めていたとのことであり、公務員を含めて広く多数の人に虚偽の犯罪を申告したと認定しているのだと思います。
3. フェイク動画を抑止するには・・・
上記のように、虚偽の犯罪事実を投稿した場合には、単なる軽犯罪法違反という非常に軽微な犯罪しか成立しない状況であり、その行為による社会的影響の大きさや迷惑の程度に比してあまりにも罪が軽すぎるのではないかと考えています。
刑法や軽犯罪法は制定されたのが非常に古く、インターネットを介した迷惑動画やフェイク動画等の投稿などの犯罪行為を想定した法律が制定されていないのが現状です。
迷惑動画やフェイク動画の投稿により被る社会的影響や被害は多大なものであることから、厳重な罰則を設けた法律を制定することにより、迷惑動画を防止する必要があると考えています。
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「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例38】合意をすればすべて有効?~契約(法律行為)の有効性について~
【相談内容】
平成32年という合意であっても無効になることは少ないようですね。
先日、妻の不貞相手との間で、慰謝料の和解をして、慰謝料として5,000万円支払うと相手も言っていたため、その旨の和解契約書を作成しました。
相手は学生で、到底払えきれないとは思うのですが、一度当事者で合意をした以上、問題ないですよね?
【弁護士からの回答】
前回は、契約(法律行為)の客観的有効性の要件のうち、内容の確定性についてご説明させていただきました。
今回は、内容の確定性以外の客観的有効性の要件についてご説明させていただきます。
1. 内容の「実現可能性」について
前回ご説明したとおり、契約が成立すると、契約の当事者には、契約内容にしたがった権利(債権)と義務(債務)が発生することになり、義務を履行することができない場合には、損害賠償をしなければならないリスクを背負うことになります。
したがって、契約の内容が実現することが不可能な契約の場合には、当事者間で合意をしたとしても、契約は無効となります。
例としては、既に消失してしまっている物の売買や、「3時間以内に月に行って帰ってくる」といったような、社会通念上実現不可能な契約(そもそもこんな契約を行うこと自体考えられませんが、分かりやすい例としてご説明しています。)についても無効となります。
2. 内容の「適法性」について
法律の中には、契約の当事者を保護するために、その規定に反する合意を行ったとしてもその合意が無効になる効力を有する規定があり、これを「強行規定」といいます。
強行規定の例としては、民法146条で「時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。」と規定されており、時効の利益(消滅時効や取得時効により生ずる利益(債務の消滅や、物の所有権の取得など)をいいます。)については時効期間が満了する前に契約書等で時効の主張を行わないと定めていても、上記強行規定に反し無効ということになります。
3. 内容の「社会的妥当性」について
当事者がいかに合意していたとしても、公の秩序や善良な風俗(社会における一般的な倫理)に反し、社会的な妥当性を欠く法律行為(契約)については、公序良俗違反として民法90条によりとなるとされています。
例えば、「人を殺したら200万円支払う」といったような犯罪行為に関する契約や、愛人、妾の契約については、家族若しくは性道徳に反する契約として無効になります。
また、不当に高額な利息を付した契約や、莫大な賠償金などを設定するようないわゆる暴利行為に関しても、公序良俗違反として無効になるとされています。
ご相談者様の事例でも、不貞行為の慰謝料の金額がどの程度の金額になるかについては、不貞行為の内容や、不貞を行った人の経済能力などが考慮の対象となります。しかしながら、5000万円というあまりにも高額な金額について、学生が支払うことができ金額ではないことは誰がみても明らかであるため、示談書を作成していたとしても公序良俗に反し無効とされてしまう可能性が非常に高いでしょう。
ご相談者さまの事例については、あまりに極端な事例ですが、上記のような契約の有効性については意識しておかなければ、要件を満たしていない契約書を作成してしまう可能性は少なくないと思いますので、契約書等の合意書面を作成する際には、是非一度弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。
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「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例37】「平成32年」と書かれた契約書は有効?~内容の確定性について~
【相談内容】
ニュースで、新元号が発表されたのを見て、気になったことがあります。
私は、5年前(平成26年)に、ある人にお金を貸しており、その際借用書も作成しているのですが、返済期間として「平成26年9月~平成32年8月まで」と記載されています。
新しい年号に変わったことにより、「平成32年」というものが存在しなくなってしまったのですが、契約が無効になったりすることはないのでしょうか。
【弁護士からの回答】
平成31年4月1日に、新元号が「令和」になることが発表されました。これにより、「平成」は平成31年4月30日で終わり、翌日の5月1日からは、新元号の令和元年5月1日ということになります。
元号が変わること(「改元」といいます。)に伴い、ご相談者様の事例のように従前の元号で表記していた契約の有効性に影響を及ぼすのか否かについて、契約の有効性の要件の説明と併せてご説明させていただきます。
1. 契約(法律行為)の有効性
契約(法律行為)が有効であるための要件のひとつに、法律行為の客観的有効要件というものがあります。
契約が成立する場合には、その契約の内容にしたがった権利、義務が発生することになり、義務に反した場合には損害賠償などのリスクを負うことになります。
したがって、契約(法律行為)内容に関し、内容が確定しない場合や、実現できない場合にまで、権利を取得させたり、義務を負わせたりするべきではないと考えられています。
したがって、契約が成立するためには、契約内容に関する客観的有効要件を満たしている必要があります。
客観的に有効要件には、
①内容の「確定性」
②内容の「実現可能性」
③内容の「適法性」
④内容の「社会的妥当性」
の4つの要件があります。
そして、改元にともなって、存在しなくなった従前の元号による契約書の有効性の問題は、上記要件のうち①内容の「確定性」の問題であるため、内容の確定性の要件についてご説明させていただきます(他の要件については次回以降ご説明させていただきます。)
2. 内容の「確定性」とは
上記のとおり、契約が成立すると、契約内容に沿った義務を負うことになります。
したがって、契約が有効であるためには、契約の内容、すなわち、どのような権利を有し、どのような義務を負っているのかについて(契約の重要な部分)は確定していることが必要であり、内容を確定することができない契約は無効になります。
3. 「平成32年」とする契約は有効か
それでは、ご相談者様の事例のように「平成32年」という期限が設定されている契約は、確定性の要件を満たしているといえるのでしょうか。
確定性については、当事者の合意した内容を合理的に解釈することにより、内容が特定することができる場合でも満たされると解されています。
そして、平成32年を期限とする場合、当事者の意思として「平成という元号が続いている場合のみ有効とする」というような合意をしているということは通常考えられず、平成32年=西暦2020年を期限とするという合意をしていることは解釈上明らかです。
したがって、「平成32年」という期限を設定していたとしても、当事者において西暦2020年が期限であるという契約の内容は確定しているといえるため、内容の確定性の要件を満たしているといえます。
4. 改元にあたっての注意事項
このように、改元が発生した場合に、旧元号のままの書面を作成したとしても、契約の有効性については問題ないのですが、旧元号のまま契約書等を作成することで、相手方との間でトラブルが発生する可能性は否定できません。
したがって現時点で契約書や請求書等の文章を作成する際に5月1日以降に期限などが到来する場合には、新元号により記載するか、西暦を併記するなどして、内容に誤解を与えないよう工夫が必要です。
次回以降にもご説明させていただきますが、契約の有効要件を満たしているかについては意外にも専門的な知識が必要になってきます。
したがって、契約書の作成に際しては、弁護士にご相談いただいたほうがよいでしょう。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」
【不動産】マンションへの日照に関する売主等の説明義務
日当たりの良い部屋を探していたところ、南側の開けた部屋を見つけ、仲介業者からは「南側には新たにマンションが建築されることはない」という説明を受けたためその部屋を購入しました。
ところが、入居して暫く経った頃、購入時の説明に反して購入した部屋の南側にマンションが建築されてしまい、日照が妨げられてしまいました。こんな時、仲介業者に対して責任を追及することはできるのでしょうか?
このようなケースを考える場合には、
①日照に関する売主の説明義務
②仲介業者の説明義務、仲介業者の説明義務と売主の説明義務との関係
という2点を理解する必要があります。
1.売主の説明義務の根拠
(1)消費者契約法と説明義務
売主が宅地建物取引業者の場合は、宅地建物取引業法により売主である宅地建物取引業者に説明義務が課されています。
他方で、売主が宅地建物取引業者でない場合であっても、売主が事業者であり、かつ買主が消費者である場合には、当該契約は消費者契約として消費者契約法が適用され、売主に情報提供努力義務が課されます。
具体的には、消費者契約法3条1項は、事業者に対し、消費者契約の締結について勧誘する際には、消費者の理解を深めるために、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努力するように定められています。
これによって、売買契約が消費者契約に該当する場合は、そうでない場合に比べて、売主の説明義務がより重いものになっていると考えられます。
※その他下記の項目については、前回の記事「マンションからの眺望に関する売主の説明義務」にて解説しているため、そちらをご覧ください。
2.日照に関する売主の説明義務
(1)日照の利益に関する一般論
日照の利益は、主に南側隣接地の利用形態によって確保されるものです。
マンションの売主であるマンション所有者と南側隣接地の所有者が同一人であれば、マンション所有者の方で南側隣接地の利用方法に関与できますが、南側隣接地がマンション所有者とは別人の所有である場合、その土地の利用方法は他人の意思に委ねられるものであり、マンションの売主から、「日当たりが悪くなるから高い建物を建てないでほしい」といった要望を出すような形での関与することはできません。
そのため、このような場合は、日照の利益は売主の裁量によって確保できないため、原則として、マンションの売主には、その売買に際し、南側隣接地にどのような建築物が建てられる可能性があるのかや、その建築物がマンションにどのような影響を与えるかなどを調査し、その結果を買主側に正確に告知説明しなければならないという義務は課せられるものではないと一般的には解されています。
(2)判例
ア 説明義務違反が肯定された事例
① 東京地判H10.9.16
仲介業者の作成したチラシに「日照、環境良好」との記載があったこと、購入の際に仲介業者や売主の従業員らが買主に対して、マンションの隣地に建物の建設が既に予定されていたにも関わらず、マンションの住人の承諾が無ければ建物が建築されることは無く、日照も確保されるという説明をしていたところ、予定通りに隣地に建物が建設され日照が阻害されたという事案です。
裁判所は、仲介業者や売主の従業員による説明が結果的に虚偽であったと言わざるをえず、そのような説明をしたことは、本件マンションについて売買契約を締結しようとした買主に対する関係で、説明義務違反に該当すると評価せざるを得ないとしました。
イ 説明義務違反が否定された事例
①東京地判S49.1.25
南側隣接地が他人所有である場合に関するものです。上記2(1)の原則論の通り、裁判所は、南側隣接地の利用方法については、所有者である他人の意思に委ねられるものであって、マンションの売主が関与することができないものである以上、マンションの南側にどのような建物が建築されるのか、そして、その建築物がマンションにどういった影響を与えるかなどについて調査し、その結果を買い受け人側に誤りなく告知説明しなければならないという信義則上の義務は一般的に課せられているものとは解されないとしました。
3.まとめ
以上の通り、マンションにおける日照は、特に南側隣地の利用形態によって影響を受ける事柄であるため、売主側において南側隣地の利用計画等を逐一調査した上で買主に告知説明する義務まで負うような義務は課せられていません。
一方で、売主側が、特に良好な日照をセールスポイントにしていたり、南側隣地の所有者からその利用形態に関する説明を買主になしたりといったこと(例えば、隣地にこれから高層マンションを建設することが決まったため、日照が遮られることが予想されるといった事情)を要請されていたような場合や、売主側が買主側に対し虚偽の説明や誤解を招くような説明をなした場合には、売主の説明義務違反が認められやすいと言えます。
【離婚問題】不貞と離婚~不倫がばれても離婚できる?~
芸能人の不倫のニュースが話題になったり、身近でも不倫が原因で離婚をしたという人の話を聞くことがあると思います。
不倫をされて離婚を決意するというケースはよく聞きますが、不倫した側から、交際相手と再婚したいなどの理由で離婚を申し出ることはできるのでしょうか。いわゆる不倫のことを法律用語で「不貞」といいます。今回は、不貞と離婚にまつわる問題についてご説明します。
1.離婚原因
日本では夫婦で話し合って離婚の合意をし、離婚届を提出する協議離婚が一般的です。しかし、どちらか一方が離婚に反対している場合や、慰謝料などの離婚条件をめぐって合意が成立しない場合には、家庭裁判所での離婚調停を経て、それでも決着がつかなければ離婚判決をもらって離婚するしかありません。
裁判離婚が認められるのは、法律上、次のいずれかに該当する場合に限られます(民法770条1項)。
①配偶者に不貞な行為があったとき
②配偶者から悪意で遺棄されたとき
③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
このうち①の不貞とは、夫婦間の貞操義務に反すること、不倫のことです。したがって、婚姻中に配偶者以外の異性と性交渉をした場合は「不貞」にあたり、配偶者から離婚裁判を起こされ裁判所が不貞を認定すると、離婚判決が出されます。
なお、特定の異性とメールやSNSで親密なやりとりを行ったり、継続的に食事やデートに行く関係にあったとしても、性交渉に至っていない場合には「不貞」にはあたりません。
ただし場合によっては、この事実を知った配偶者がショックを受け、⑤の「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当する可能性はあります。
2.有責配偶者からの離婚請求
では反対に、不貞をした側から離婚を求めることはできるでしょうか。これは「有責配偶者からの離婚請求」と呼ばれる問題です。有責とは、夫婦関係が破綻するに至った原因を作り出した責任があるということです。
かつての最高裁判所は、有責配偶者からの離婚請求を認めてしまうと、相手配偶者は踏んだり蹴ったりであるという理由で離婚を認めませんでした(最判昭和27年2月19日)。しかしその後最高裁判所は方針を変更して、一定の要件の下では有責配偶者からの離婚請求を認めるようになりました(最大判昭和62年9月2日)。
一定の要件とは、
①別居期間が長期間に及ぶこと
②未成熟の子どもが存在しないこと
③離婚することによって配偶者が精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態にならないこと
の3要件です。
①は、5年程度以上の別居期間が必要とされるのが一般的です。したがって、再婚するために離婚判決を勝ち取るには、相当長い期間、配偶者と別居しておかなければなりません。
②の未成熟の子どもとは、未成年者という意味ではなく、まだ経済的に独立していない子どもを指します。ただし、未成熟の子どもがいても、有責配偶者からの離婚請求が認められる場合があります。例えば、高校生の子どもがいても、3歳のときから一貫して妻が育て、夫は生活費の送金を続けてきたことから、未成熟の子どもがいることは離婚請求の妨げにならないとした判例があります(最判平成6年2月8日)。
③は、様々な事情が考慮されます。裁判例の中には、約13年間もの長期間別居しているにもかかわらず、有責配偶者からの離婚請求を認めなかったものがあります(東京高判平成9年11月19日)。
この事案は、夫が不貞をして、妻とは約13年間も別居生活を続けていましたが、夫は月額約80万円の給料を得るなどの高額所得者でありながら、妻子(子は高校生と中学生)には少額を送金するのみで、やむを得ず妻が実家から援助を受けていたという事情がありました。
このような状況で離婚を認めてしまうと、ますます妻子の生活が苦しくなってしまうおそれがあることが考慮されています。
これらの3要件に照らしてみると、不貞を行った有責配偶者からの離婚請求が認められるのは、相当にハードルが高いことがわかります。
3.婚姻が破綻した後の不貞
一方、夫婦関係が破綻した後に不貞が行われた場合には、前述の考え方は当てはまらず、不貞を行った者からの離婚請求であっても離婚が認められます。なぜならこの場合は、不貞が原因となって夫婦関係が破綻したのではなく、ほかの理由で既に破綻しているからです。
とはいえ、早く離婚したいからといって自ら積極的に夫婦関係を破綻に至らせると(たとえば生活費を全く家に入れない、暴力をふるって妻を家から追い出すなど)、このこと自体が理由となって、不貞以外の理由で有責配偶者と認定されてしまい、離婚請求が認められないことになってしまいます。
どういう状態になれば夫婦関係の「破綻」といえるのでしょうか。これは一概には言えません。例えば夫婦仲が悪く口論ばかりしている、寝室が別々、性交渉がないという事情があってもこれだけではまだ破綻とは言えません。
夫婦関係が破綻したか否かは、離婚の意思が相当に固く、修復する気持ちが皆無であるといった内心の事情のほかに、ある程度の長期間別居しているといった外形的な事情を総合的に考慮して判断することになります。家庭内別居という夫婦もいますが、同じ屋根の下で生活している以上、それだけでは夫婦関係が破綻したとは言いにくいでしょう。
4.まとめ
裁判実務では、不貞を行った有責配偶者からの離婚請求はなかなか認められないのが実情です。しかし、不貞相手と再婚したい等、どうしても離婚したいと考える方も多いでしょう。その場合、有責配偶者としては、離婚裁判では敗訴してしまうリスクが高いので、裁判を回避しなければなりません。
つまり、できるだけ話合いで離婚するように、協議離婚または調停離婚で決着をつける必要があります。そのためには、高額の慰謝料や財産分与に関する相手方の要求をそのまま受け入れるといった厳しい選択を迫られることになるかもしれません。慎重に行動する必要があるでしょう。
知っていれば役に立つ!経費のこと4
自社のキャラクターやオリジナルグッズをつくりたい!でも「経費」にできるのかな・・・なんて思ったこと、ありませんか?
1.自社のキャラクターを製作しました
とある会社では、自社のキャラクターを作っています。このキャラクターの製作にかかった費用は「経費」になるのでしょうか?
世の中には、数えきれないくらいのキャラクターが存在していて、その宣伝効果は計り知れませんし、キャラクターは作ったその時だけでなく、何年間も宣伝効果が続いていきます。
ですから、制作にかかったときの費用だけを「経費」にするのではなく、いったん「資産」にして毎年少しずつ「経費」にしていくのが原則となります。
これは、最初の記事で説明をした「減価償却」のことです。
では、この宣伝効果は、何年くらい続くものなのでしょうか?これは誰にも分らないため、基準となる年数が定められています。
・キャラクターの商標登録をしたとき・・・・・10年
・キャラクターの商標登録をしなかったとき・・5年
10年というのは、商標登録の有効期限、5年というのは、通常の「減価償却」と同じ期間になります。
これは、会社やブランドのロゴを製作したときと同じ考え方になるので、新しくロゴを製作する場合にも是非参考にしてみてください。
2.「着ぐるみ」も「経費」になる?
自社のキャラクターを製作したあとに、着ぐるみを作りました。キャラクターの製作費は「減価償却」で、毎年少しずつ「経費」として計上していくのが原則でしたが、着ぐるみの製作費はどうでしょうか?
実はこれも、キャラクターを製作したときと同じように、いったん「資産」にしておいて「減価償却」で、5年かけて「経費」にしていきます。
着ぐるみを製作すると、それを着て様々なイベントに参加したり、たくさんの人と交流をしたりする機会が多くなります。一緒に写真を撮ったり、ハイタッチをしたりするだけならいいのですが、時にはパンチやキックをされることもあります。
このようなことを考えると、「減価償却期間」である5年間、着ぐるみを使うことができない可能性も出てきますよね。この場合、いったいどのようにして「減価償却」をするのでしょうか?
実は、着ぐるみを使用できる期間が1年未満であれば、制作時に「経費」とすることができるのです。
しかし、相当なダメージを受けない限り、1年以上は使用可能なはずですが、減価償却の法定耐用年数はどうなるのでしょうか。
着ぐるみの耐用年数は、耐用年数省令別表一「器具及び備品」の「看板及び広告器具」のうち、掲げられているいずれの細目にも該当しないため「その他のもの5年」と考えられることが一般的です。
3.オリジナルグッズをつくりました
自社のキャラクター、着ぐるみに続いて今度はオリジナルグッズを製作しました。会社に来て頂いたお客様に配るためです。皆さんも、会社の名前入りのボールペンやメモ帳など、1度はもらったことがあると思います。
では、これらオリジナルグッズの製作費は「経費」にできるのでしょうか?
これは、「広告宣伝費」として「経費」にすることができます。
ただし、宣伝が目的のため、オリジナルグッズには社名が入っていなければなりません。
社名だと使ってくれる人が少ないから、社名以外のものを記載したいという場合は、会社のホームページアドレスでも代用が可能です。
社名やアドレスなど、宣伝要素のある記載が何もなく、「広告宣伝費」にできないと判断された場合には、「接待交際費」となるので気をつけましょう。
では、社名入りの図書カードはどうでしょうか?
実はこれも、「広告宣伝費」として「経費」にすることができます。
条件としては、「限定された人だけでなく、不特定多数の人に配ること」「1枚あたりの単価が1000円以内であること」「現金と同等の役割を果たすものではないこと」があげられます。
宣伝につながる社名やアドレスを記載する、不特定多数の人に配るなど、「広告宣伝費」にするための条件を満たして、会社の知名度向上や、集客に役立てましょう!
4.まとめ
今回は、「広告宣伝費」についてお話をしました。
自社のキャラクターやグッズを製作し、それを様々な場面で上手く利用することで、大きな宣伝効果が期待できるはずです。
「広告宣伝費」にするための条件を満たしながら、是非会社の知名度向上や集客、売上アップにつなげてください。
経営法務リスクマネジメント ~退職に関するリスクについて~
最近、退職したいけど「退職したい」と言い出せない人のため、退職手続きを代行する「退職代行サービス」が新しいビジネスとして話題になっています。
このサービス自体は弁護士法違反ではないかなど、賛否両論がありますが、ビジネスとして成り立つほど、企業と従業員の間で退職時にトラブルが多いことを示しているのではないでしょうか。
企業としてはトラブルを最小限にとどめ円滑に退職手続きを行いたいと考えていると思います。この回では、企業側が従業員の退職に備えておくべきリスクについてご紹介致します。
1. 退職の形式
退職の形式としては大きく分けると「自己都合退職」と「会社都合退職」の二つがあります。
「自己都合退職」とは、転居や結婚または療養など自身の意思や都合に基づいて行う退職の事を指しています。
「会社都合退職」とは、企業側の経営不振や倒産などを理由として一方的に労働契約を解除する事を指しています。
それでは、自己都合退職か会社都合退職かの形式の違いにより、どのような差異が生じるのでしょうか。
まず、退職後の雇用保険(失業保険)の給付内容が異なってきます。
「自己都合退職」の場合、失業保険は退職日から3ヶ月と1週間待機しなければ給付されないのに対し、「会社都合退職」の場合には退職日から1週間後より給付が開始されます。
他にも、支給日数や最大支給額の違いがあり「会社都合退職」の方が従業員にとって優遇された扱いになっています。
これは、自分の意思で職を失った人よりも、会社の一方的な都合で職を失った人の方が保護の必要性が高いからです。
さて、では会社都合退職の方が従業員にとって都合が良いのであれば、「本来は自己都合退職であっても会社都合退職にしてあげようか」という発想もあり得ますね。
実際に、従業員が退職することは変わらないからといって、従業員からの要望に応じ、特段の理由なく「会社都合退職」として手続をしてしまう会社もあります。
しかし、会社都合退職としてしまうと、しばらくの間、助成金申請ができなくなったり、後々従業員から「企業から解雇された。解雇は不当だ!」と主張されてしまうリスクがあります。
従業員がまさかそんな不徳なことをするはずがない、と考える方が多いですが、実際にはそのことを原因として紛争が起こっていることも事実です。
仮に従業員から会社都合退職にして欲しいと要望があったとしても、会社を守るため、その要望は聞かないようにしましょう。
2. 従業員の失踪
従業員が行方不明になり失踪してしまった場合には、どのような形式で退職手続きを行えばよいのでしょうか。
一般的に解雇する際には、30日以上前に解雇予告を行うこと、もしくは、解雇予告手当を支払うことが義務付けられています。但し、次の場合には解雇予告や解雇予告手当の支払いが不要とされています。
・天災事変やその他事業を継続することが不可能である場合
・労働者の責に帰すべき理由に該当する場合
従業員が失踪した際、解雇予告を行いたくても行えないですよね。従業員が失踪し、「2週間以上の無断欠勤」があった場合には、労働者の責に帰すべき理由に該当するとされているため、労働基準監督署にて解雇予告除外認定を受けることにより、解雇予告や解雇予告手当の支払いが不要となります。
従業員を解雇する際には、会社から従業員に対する解雇の意思表示が必要となりますが、それが従業員の失踪により事実上不可能な場合には、意思表示の方法として公示送達を行うことも検討しなくてはなりません(裁判所に解雇する旨を掲示して、本人へ意思表示したものとみなす制度です)。
しかしながら、この手続きには相当の時間と労力が掛かってしまいます。
そのため、予め就業規則に無断欠勤が続いた場合について普通解雇・懲戒解雇事由として規定を定めておくと、簡易的に退職手続きを行うことができます。
3. 退職届の有効性
従業員が退職する際、意思表示として退職届を提出します。
就業規則にて、退職届の提出期間を定めている会社も多いですが、さて、従業員から就業規則にて定められている退職届の提出期限より後に提出された退職届は有効なのでしょうか。
民法では
「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する」(民法627条 第1項)
と定められています。
つまり、有期雇用契約でない従業員の場合、民法上では退職届を2週間前に提出することによって退職が認められることになっています。
就業規則にて退職届の提出期間が定められていたとしても、民法627条第1項は、強行法規(当事者の意思にかかわらず、法として画一的に適用される規定)であることから、企業側が退職時期の延長を行うことは難しいという見解が多くなされています。
「就業規則には2か月前に退職届を提出しなければならないと定めているのに、1か月を切ってから提出してきた従業員に対して、損害賠償などできないか。」というご相談も見受けられます。
しかし、民法で2週間と定められている以上、それは難しい要望となりますので、いざ退職者が出たとしても、短期間で引き継ぎが可能な業務フローの構築が会社としては不可欠となるでしょう。
4. まとめ
従業員が退職する際には様々な事情があり、気持ちよく送り出せる円満な退職だけでなく、事情によっては業務の引継ぎさえ不十分なまま、退職を認めざるを得ない状況に陥ることも考えられます。
退職時のトラブルや退職後の紛争を避けるためにも、就業規則の規定を整備し見直しを行い、専門家(弁護士や社労士)に相談しながら不備の無いように備えることでリスクマネジメントを行いましょう。