【不動産】マンションへの日照に関する売主等の説明義務
日当たりの良い部屋を探していたところ、南側の開けた部屋を見つけ、仲介業者からは「南側には新たにマンションが建築されることはない」という説明を受けたためその部屋を購入しました。
ところが、入居して暫く経った頃、購入時の説明に反して購入した部屋の南側にマンションが建築されてしまい、日照が妨げられてしまいました。こんな時、仲介業者に対して責任を追及することはできるのでしょうか?
このようなケースを考える場合には、
①日照に関する売主の説明義務
②仲介業者の説明義務、仲介業者の説明義務と売主の説明義務との関係
という2点を理解する必要があります。
1.売主の説明義務の根拠
(1)消費者契約法と説明義務
売主が宅地建物取引業者の場合は、宅地建物取引業法により売主である宅地建物取引業者に説明義務が課されています。
他方で、売主が宅地建物取引業者でない場合であっても、売主が事業者であり、かつ買主が消費者である場合には、当該契約は消費者契約として消費者契約法が適用され、売主に情報提供努力義務が課されます。
具体的には、消費者契約法3条1項は、事業者に対し、消費者契約の締結について勧誘する際には、消費者の理解を深めるために、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努力するように定められています。
これによって、売買契約が消費者契約に該当する場合は、そうでない場合に比べて、売主の説明義務がより重いものになっていると考えられます。
※その他下記の項目については、前回の記事「マンションからの眺望に関する売主の説明義務」にて解説しているため、そちらをご覧ください。
2.日照に関する売主の説明義務
(1)日照の利益に関する一般論
日照の利益は、主に南側隣接地の利用形態によって確保されるものです。
マンションの売主であるマンション所有者と南側隣接地の所有者が同一人であれば、マンション所有者の方で南側隣接地の利用方法に関与できますが、南側隣接地がマンション所有者とは別人の所有である場合、その土地の利用方法は他人の意思に委ねられるものであり、マンションの売主から、「日当たりが悪くなるから高い建物を建てないでほしい」といった要望を出すような形での関与することはできません。
そのため、このような場合は、日照の利益は売主の裁量によって確保できないため、原則として、マンションの売主には、その売買に際し、南側隣接地にどのような建築物が建てられる可能性があるのかや、その建築物がマンションにどのような影響を与えるかなどを調査し、その結果を買主側に正確に告知説明しなければならないという義務は課せられるものではないと一般的には解されています。
(2)判例
ア 説明義務違反が肯定された事例
① 東京地判H10.9.16
仲介業者の作成したチラシに「日照、環境良好」との記載があったこと、購入の際に仲介業者や売主の従業員らが買主に対して、マンションの隣地に建物の建設が既に予定されていたにも関わらず、マンションの住人の承諾が無ければ建物が建築されることは無く、日照も確保されるという説明をしていたところ、予定通りに隣地に建物が建設され日照が阻害されたという事案です。
裁判所は、仲介業者や売主の従業員による説明が結果的に虚偽であったと言わざるをえず、そのような説明をしたことは、本件マンションについて売買契約を締結しようとした買主に対する関係で、説明義務違反に該当すると評価せざるを得ないとしました。
イ 説明義務違反が否定された事例
①東京地判S49.1.25
南側隣接地が他人所有である場合に関するものです。上記2(1)の原則論の通り、裁判所は、南側隣接地の利用方法については、所有者である他人の意思に委ねられるものであって、マンションの売主が関与することができないものである以上、マンションの南側にどのような建物が建築されるのか、そして、その建築物がマンションにどういった影響を与えるかなどについて調査し、その結果を買い受け人側に誤りなく告知説明しなければならないという信義則上の義務は一般的に課せられているものとは解されないとしました。
3.まとめ
以上の通り、マンションにおける日照は、特に南側隣地の利用形態によって影響を受ける事柄であるため、売主側において南側隣地の利用計画等を逐一調査した上で買主に告知説明する義務まで負うような義務は課せられていません。
一方で、売主側が、特に良好な日照をセールスポイントにしていたり、南側隣地の所有者からその利用形態に関する説明を買主になしたりといったこと(例えば、隣地にこれから高層マンションを建設することが決まったため、日照が遮られることが予想されるといった事情)を要請されていたような場合や、売主側が買主側に対し虚偽の説明や誤解を招くような説明をなした場合には、売主の説明義務違反が認められやすいと言えます。
【離婚問題】不貞と離婚~不倫がばれても離婚できる?~
芸能人の不倫のニュースが話題になったり、身近でも不倫が原因で離婚をしたという人の話を聞くことがあると思います。
不倫をされて離婚を決意するというケースはよく聞きますが、不倫した側から、交際相手と再婚したいなどの理由で離婚を申し出ることはできるのでしょうか。いわゆる不倫のことを法律用語で「不貞」といいます。今回は、不貞と離婚にまつわる問題についてご説明します。
1.離婚原因
日本では夫婦で話し合って離婚の合意をし、離婚届を提出する協議離婚が一般的です。しかし、どちらか一方が離婚に反対している場合や、慰謝料などの離婚条件をめぐって合意が成立しない場合には、家庭裁判所での離婚調停を経て、それでも決着がつかなければ離婚判決をもらって離婚するしかありません。
裁判離婚が認められるのは、法律上、次のいずれかに該当する場合に限られます(民法770条1項)。
①配偶者に不貞な行為があったとき
②配偶者から悪意で遺棄されたとき
③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
このうち①の不貞とは、夫婦間の貞操義務に反すること、不倫のことです。したがって、婚姻中に配偶者以外の異性と性交渉をした場合は「不貞」にあたり、配偶者から離婚裁判を起こされ裁判所が不貞を認定すると、離婚判決が出されます。
なお、特定の異性とメールやSNSで親密なやりとりを行ったり、継続的に食事やデートに行く関係にあったとしても、性交渉に至っていない場合には「不貞」にはあたりません。
ただし場合によっては、この事実を知った配偶者がショックを受け、⑤の「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当する可能性はあります。
2.有責配偶者からの離婚請求
では反対に、不貞をした側から離婚を求めることはできるでしょうか。これは「有責配偶者からの離婚請求」と呼ばれる問題です。有責とは、夫婦関係が破綻するに至った原因を作り出した責任があるということです。
かつての最高裁判所は、有責配偶者からの離婚請求を認めてしまうと、相手配偶者は踏んだり蹴ったりであるという理由で離婚を認めませんでした(最判昭和27年2月19日)。しかしその後最高裁判所は方針を変更して、一定の要件の下では有責配偶者からの離婚請求を認めるようになりました(最大判昭和62年9月2日)。
一定の要件とは、
①別居期間が長期間に及ぶこと
②未成熟の子どもが存在しないこと
③離婚することによって配偶者が精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態にならないこと
の3要件です。
①は、5年程度以上の別居期間が必要とされるのが一般的です。したがって、再婚するために離婚判決を勝ち取るには、相当長い期間、配偶者と別居しておかなければなりません。
②の未成熟の子どもとは、未成年者という意味ではなく、まだ経済的に独立していない子どもを指します。ただし、未成熟の子どもがいても、有責配偶者からの離婚請求が認められる場合があります。例えば、高校生の子どもがいても、3歳のときから一貫して妻が育て、夫は生活費の送金を続けてきたことから、未成熟の子どもがいることは離婚請求の妨げにならないとした判例があります(最判平成6年2月8日)。
③は、様々な事情が考慮されます。裁判例の中には、約13年間もの長期間別居しているにもかかわらず、有責配偶者からの離婚請求を認めなかったものがあります(東京高判平成9年11月19日)。
この事案は、夫が不貞をして、妻とは約13年間も別居生活を続けていましたが、夫は月額約80万円の給料を得るなどの高額所得者でありながら、妻子(子は高校生と中学生)には少額を送金するのみで、やむを得ず妻が実家から援助を受けていたという事情がありました。
このような状況で離婚を認めてしまうと、ますます妻子の生活が苦しくなってしまうおそれがあることが考慮されています。
これらの3要件に照らしてみると、不貞を行った有責配偶者からの離婚請求が認められるのは、相当にハードルが高いことがわかります。
3.婚姻が破綻した後の不貞
一方、夫婦関係が破綻した後に不貞が行われた場合には、前述の考え方は当てはまらず、不貞を行った者からの離婚請求であっても離婚が認められます。なぜならこの場合は、不貞が原因となって夫婦関係が破綻したのではなく、ほかの理由で既に破綻しているからです。
とはいえ、早く離婚したいからといって自ら積極的に夫婦関係を破綻に至らせると(たとえば生活費を全く家に入れない、暴力をふるって妻を家から追い出すなど)、このこと自体が理由となって、不貞以外の理由で有責配偶者と認定されてしまい、離婚請求が認められないことになってしまいます。
どういう状態になれば夫婦関係の「破綻」といえるのでしょうか。これは一概には言えません。例えば夫婦仲が悪く口論ばかりしている、寝室が別々、性交渉がないという事情があってもこれだけではまだ破綻とは言えません。
夫婦関係が破綻したか否かは、離婚の意思が相当に固く、修復する気持ちが皆無であるといった内心の事情のほかに、ある程度の長期間別居しているといった外形的な事情を総合的に考慮して判断することになります。家庭内別居という夫婦もいますが、同じ屋根の下で生活している以上、それだけでは夫婦関係が破綻したとは言いにくいでしょう。
4.まとめ
裁判実務では、不貞を行った有責配偶者からの離婚請求はなかなか認められないのが実情です。しかし、不貞相手と再婚したい等、どうしても離婚したいと考える方も多いでしょう。その場合、有責配偶者としては、離婚裁判では敗訴してしまうリスクが高いので、裁判を回避しなければなりません。
つまり、できるだけ話合いで離婚するように、協議離婚または調停離婚で決着をつける必要があります。そのためには、高額の慰謝料や財産分与に関する相手方の要求をそのまま受け入れるといった厳しい選択を迫られることになるかもしれません。慎重に行動する必要があるでしょう。
知っていれば役に立つ!経費のこと4
自社のキャラクターやオリジナルグッズをつくりたい!でも「経費」にできるのかな・・・なんて思ったこと、ありませんか?
1.自社のキャラクターを製作しました
とある会社では、自社のキャラクターを作っています。このキャラクターの製作にかかった費用は「経費」になるのでしょうか?
世の中には、数えきれないくらいのキャラクターが存在していて、その宣伝効果は計り知れませんし、キャラクターは作ったその時だけでなく、何年間も宣伝効果が続いていきます。
ですから、制作にかかったときの費用だけを「経費」にするのではなく、いったん「資産」にして毎年少しずつ「経費」にしていくのが原則となります。
これは、最初の記事で説明をした「減価償却」のことです。
では、この宣伝効果は、何年くらい続くものなのでしょうか?これは誰にも分らないため、基準となる年数が定められています。
・キャラクターの商標登録をしたとき・・・・・10年
・キャラクターの商標登録をしなかったとき・・5年
10年というのは、商標登録の有効期限、5年というのは、通常の「減価償却」と同じ期間になります。
これは、会社やブランドのロゴを製作したときと同じ考え方になるので、新しくロゴを製作する場合にも是非参考にしてみてください。
2.「着ぐるみ」も「経費」になる?
自社のキャラクターを製作したあとに、着ぐるみを作りました。キャラクターの製作費は「減価償却」で、毎年少しずつ「経費」として計上していくのが原則でしたが、着ぐるみの製作費はどうでしょうか?
実はこれも、キャラクターを製作したときと同じように、いったん「資産」にしておいて「減価償却」で、5年かけて「経費」にしていきます。
着ぐるみを製作すると、それを着て様々なイベントに参加したり、たくさんの人と交流をしたりする機会が多くなります。一緒に写真を撮ったり、ハイタッチをしたりするだけならいいのですが、時にはパンチやキックをされることもあります。
このようなことを考えると、「減価償却期間」である5年間、着ぐるみを使うことができない可能性も出てきますよね。この場合、いったいどのようにして「減価償却」をするのでしょうか?
実は、着ぐるみを使用できる期間が1年未満であれば、制作時に「経費」とすることができるのです。
しかし、相当なダメージを受けない限り、1年以上は使用可能なはずですが、減価償却の法定耐用年数はどうなるのでしょうか。
着ぐるみの耐用年数は、耐用年数省令別表一「器具及び備品」の「看板及び広告器具」のうち、掲げられているいずれの細目にも該当しないため「その他のもの5年」と考えられることが一般的です。
3.オリジナルグッズをつくりました
自社のキャラクター、着ぐるみに続いて今度はオリジナルグッズを製作しました。会社に来て頂いたお客様に配るためです。皆さんも、会社の名前入りのボールペンやメモ帳など、1度はもらったことがあると思います。
では、これらオリジナルグッズの製作費は「経費」にできるのでしょうか?
これは、「広告宣伝費」として「経費」にすることができます。
ただし、宣伝が目的のため、オリジナルグッズには社名が入っていなければなりません。
社名だと使ってくれる人が少ないから、社名以外のものを記載したいという場合は、会社のホームページアドレスでも代用が可能です。
社名やアドレスなど、宣伝要素のある記載が何もなく、「広告宣伝費」にできないと判断された場合には、「接待交際費」となるので気をつけましょう。
では、社名入りの図書カードはどうでしょうか?
実はこれも、「広告宣伝費」として「経費」にすることができます。
条件としては、「限定された人だけでなく、不特定多数の人に配ること」「1枚あたりの単価が1000円以内であること」「現金と同等の役割を果たすものではないこと」があげられます。
宣伝につながる社名やアドレスを記載する、不特定多数の人に配るなど、「広告宣伝費」にするための条件を満たして、会社の知名度向上や、集客に役立てましょう!
4.まとめ
今回は、「広告宣伝費」についてお話をしました。
自社のキャラクターやグッズを製作し、それを様々な場面で上手く利用することで、大きな宣伝効果が期待できるはずです。
「広告宣伝費」にするための条件を満たしながら、是非会社の知名度向上や集客、売上アップにつなげてください。
経営法務リスクマネジメント ~退職に関するリスクについて~
最近、退職したいけど「退職したい」と言い出せない人のため、退職手続きを代行する「退職代行サービス」が新しいビジネスとして話題になっています。
このサービス自体は弁護士法違反ではないかなど、賛否両論がありますが、ビジネスとして成り立つほど、企業と従業員の間で退職時にトラブルが多いことを示しているのではないでしょうか。
企業としてはトラブルを最小限にとどめ円滑に退職手続きを行いたいと考えていると思います。この回では、企業側が従業員の退職に備えておくべきリスクについてご紹介致します。
1. 退職の形式
退職の形式としては大きく分けると「自己都合退職」と「会社都合退職」の二つがあります。
「自己都合退職」とは、転居や結婚または療養など自身の意思や都合に基づいて行う退職の事を指しています。
「会社都合退職」とは、企業側の経営不振や倒産などを理由として一方的に労働契約を解除する事を指しています。
それでは、自己都合退職か会社都合退職かの形式の違いにより、どのような差異が生じるのでしょうか。
まず、退職後の雇用保険(失業保険)の給付内容が異なってきます。
「自己都合退職」の場合、失業保険は退職日から3ヶ月と1週間待機しなければ給付されないのに対し、「会社都合退職」の場合には退職日から1週間後より給付が開始されます。
他にも、支給日数や最大支給額の違いがあり「会社都合退職」の方が従業員にとって優遇された扱いになっています。
これは、自分の意思で職を失った人よりも、会社の一方的な都合で職を失った人の方が保護の必要性が高いからです。
さて、では会社都合退職の方が従業員にとって都合が良いのであれば、「本来は自己都合退職であっても会社都合退職にしてあげようか」という発想もあり得ますね。
実際に、従業員が退職することは変わらないからといって、従業員からの要望に応じ、特段の理由なく「会社都合退職」として手続をしてしまう会社もあります。
しかし、会社都合退職としてしまうと、しばらくの間、助成金申請ができなくなったり、後々従業員から「企業から解雇された。解雇は不当だ!」と主張されてしまうリスクがあります。
従業員がまさかそんな不徳なことをするはずがない、と考える方が多いですが、実際にはそのことを原因として紛争が起こっていることも事実です。
仮に従業員から会社都合退職にして欲しいと要望があったとしても、会社を守るため、その要望は聞かないようにしましょう。
2. 従業員の失踪
従業員が行方不明になり失踪してしまった場合には、どのような形式で退職手続きを行えばよいのでしょうか。
一般的に解雇する際には、30日以上前に解雇予告を行うこと、もしくは、解雇予告手当を支払うことが義務付けられています。但し、次の場合には解雇予告や解雇予告手当の支払いが不要とされています。
・天災事変やその他事業を継続することが不可能である場合
・労働者の責に帰すべき理由に該当する場合
従業員が失踪した際、解雇予告を行いたくても行えないですよね。従業員が失踪し、「2週間以上の無断欠勤」があった場合には、労働者の責に帰すべき理由に該当するとされているため、労働基準監督署にて解雇予告除外認定を受けることにより、解雇予告や解雇予告手当の支払いが不要となります。
従業員を解雇する際には、会社から従業員に対する解雇の意思表示が必要となりますが、それが従業員の失踪により事実上不可能な場合には、意思表示の方法として公示送達を行うことも検討しなくてはなりません(裁判所に解雇する旨を掲示して、本人へ意思表示したものとみなす制度です)。
しかしながら、この手続きには相当の時間と労力が掛かってしまいます。
そのため、予め就業規則に無断欠勤が続いた場合について普通解雇・懲戒解雇事由として規定を定めておくと、簡易的に退職手続きを行うことができます。
3. 退職届の有効性
従業員が退職する際、意思表示として退職届を提出します。
就業規則にて、退職届の提出期間を定めている会社も多いですが、さて、従業員から就業規則にて定められている退職届の提出期限より後に提出された退職届は有効なのでしょうか。
民法では
「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する」(民法627条 第1項)
と定められています。
つまり、有期雇用契約でない従業員の場合、民法上では退職届を2週間前に提出することによって退職が認められることになっています。
就業規則にて退職届の提出期間が定められていたとしても、民法627条第1項は、強行法規(当事者の意思にかかわらず、法として画一的に適用される規定)であることから、企業側が退職時期の延長を行うことは難しいという見解が多くなされています。
「就業規則には2か月前に退職届を提出しなければならないと定めているのに、1か月を切ってから提出してきた従業員に対して、損害賠償などできないか。」というご相談も見受けられます。
しかし、民法で2週間と定められている以上、それは難しい要望となりますので、いざ退職者が出たとしても、短期間で引き継ぎが可能な業務フローの構築が会社としては不可欠となるでしょう。
4. まとめ
従業員が退職する際には様々な事情があり、気持ちよく送り出せる円満な退職だけでなく、事情によっては業務の引継ぎさえ不十分なまま、退職を認めざるを得ない状況に陥ることも考えられます。
退職時のトラブルや退職後の紛争を避けるためにも、就業規則の規定を整備し見直しを行い、専門家(弁護士や社労士)に相談しながら不備の無いように備えることでリスクマネジメントを行いましょう。
【行動科学×消費者法】法学部でもやらない「消費者契約法第1条」の読み方と啓発
私を含め、このリスクを知らないが故に損をさせられていらっしゃる消費者が多いものと考えられるため、消費者契約法第1条の読み方を記事にすることといたしました。
事業者と並んで危険性が極めて高い存在を発見しましたので、ご紹介いたします。この記事で抑えて欲しいポイントはただ一つなので下部にそのポイントを記載します。
この考えの周知がされれば、消費者問題のほとんどのものが無くなるものと思われます。年金でやっと生活できているご老人に対する詐欺や、お金を失ってしまったがゆえに命を落としてしまうような悲劇を防ぐことができるのです。
わたしたちの力で、この仕組みを周知し、今お金を奪われて危機にさらされている生命を守るために「共有」のご協力をお願いします。
1.はじめに
突然ですが、ご自身のスマホをご覧になって4月のメールを見返して目を引くメールがある方、特に4月12日に目をひくメールが届いている方はこの記事を読み、行動しなければ損をするかもしれません。
私は、4月10日にローボール・テクニック(一度契約を結んだら不利益な変更にも私たちは従ってしまう)の例として、ある有名なサイトを例に出して記事を作成しました。
実際に掲載される前の案の状態でしたが、2日後にはそのサイトは1,000円の値上げに踏み切り、大胆な判断がなされていました。疑いをもっていたサイトがローボール・テクニックを使っていたことが証明されたのです。
とはいえ、マーケティングに行動科学などのテクニックを使うのは事業者からすれば正当な範囲内の事なので事業者には何の問題もありません。
では、消費者はどのように立ち向かえばよいのでしょうか。
以下でご説明したいと思います。
2.消費者契約法第1条を捉える
改めて、消費者として事業者と結ぶ契約の恐ろしさを申し添えたいと思っています。
ここでは、消費者契約法第1条の読み方として、消費者庁から発表されている資料を用いて解説したいと思います。
多くの法律は型のようなものが決まっていて、その立法趣旨は前のほうにあります。
特に第一条に目的規定がおかれることが多く、その法律のピュアな上澄みの部分が目的に規定されます。
消費者契約法をみてみると目的が前に出ているつくりになっています。
第一条 この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合等について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とするほか、消費者の被害の発生又は拡大を防止するため適格消費者団体が事業者等に対し差止請求をすることができることとすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
消費者契約法はざっくり言うと「消費者」と「事業者」の間の「情報の質及び量・交渉力の格差」に鑑みて、「消費者の利益の擁護」を図っている法律なのです。
抽象的に書かれていますが、事業者の持つ情報(あえて知識や知恵・手法も含まれると読みます)と消費者が持つ情報は格差があまりにも大きいので、消費者の利益を擁護しましょうということを規定しているのです。
なお、消費者庁の定義では、情報の質:入手される情報の詳しさ、入手される情報の正確性、 入手される情報の整理の度合い情報の量:入手される情報量と定義されています。
消費者契約法第1条は、大半の法学部で開講される、消費者法や市民生活と法のような授業あるいは民法の授業で取り扱われないか、取り扱われはするが、パワーがあまりないがゆえにさほど重要視されないものです。
もちろん、消費者法の各条項をもって、悪徳業者を疑うのは大切ですが、手始めにもっと危険性の高い存在を疑わなければなりません。
そして、この条文をただ消費者保護の法律という視点から見たときに、それは99.9%、見えない存在なのでさらに厄介です。
このただ一文から、必死に本質をみようとしたときに、その危険性の高い存在は、うっすらと見えてきます。
それは誰のことでしょう?
それは1条の「事業者」よりも、「消費者」、つまり私達のほうだったのです。
この記事では、次の一文だけでいいので押さえて下さい。
ご自身の『判断力・解約力』を疑うという意識です。
自分は相応の対価を得ているからと思って支払い続けているお金はありませんか?
映画見放題・音楽聞き放題サービスも付いてくるなら!という考えで、毎月お金を納めていませんか?
以前も書きましたが、一度結んだ契約を、(たとえ解約する権利があっても)私たちは事実上なかなか解約できません。これは、私達自身の問題なのです。
そこで、私たちが率先して不要な契約については解約をしてゆくのが理想的な形です。
今自分が結んでいる契約の動きを観察することで解約すべきか否か検討することができます。
以前私は、毎月通信量が多く余っているのでそもそものベースプランを変えようと思い、かつて携帯電話にべったりとはりついた不要なサービスをすべて解約し、通信量も一番小さいプランへ変更しました。すると結構スッキリし、支出も減りました。
このように、契約は不都合が生じない程度に身の程にあわせてゆくことと、不要なものは解約してしまうことが重要なものと思われます。
3.おわりに
契約の評価や、契約の解約は第三者である法律事務所でも行えます。
すべての契約を把握できていない方は、一度法律事務所の無料相談を利用して、ご自身の出費に毎月どれだけのロスがあるかを把握するだけでも生活の質が違ってくるかもしれません。
労働時間の管理から考える時間外労働について
メディアで日本の働き方問題が取り上げられるようになり、多くの人が自身の労働環境について考えるようになってきています。
その中で、一番裁判にまで発展する事例として挙げられるのが、時間外労働に対するトラブルです。
ここでは、時間外労働の取り扱い方について説明したいと思います。
1.はじめに
法律によって、1日の労働時間は8時間、週については40時間以内と定められており、これを超えて労働をする場合は、割増賃金を支払わなければならないとされています。
この時間外労働をめぐって、労使間で未払い残業代の有無の論争に発展し、裁判になるケースが多々あります。
裁判の中では、時間外労働を行ったかの事実関係のほか、勤怠管理をしていなかった場合の時間外労働の認定や、労働者による自発的な時間外労働の取扱い方などが問題となることがあります。
2.過去の裁判・審判例からみる時間外労働
過去の裁判例をみていくと、時間外労働と認められた事例と認められなかった事例があります。
ある会社に長年勤めていた社員が十分な割増賃金が支払われていないとし、割増賃金や遅延損害金を請求しました。
使用者側は、会社の給与規程には「会社の命令によって残業を行った者に割増賃金を支払う」旨が明記されており、また、この社員には多数の補助者をつけていたため、時間外労働の必要性はなかったとして、未払いはないと主張しました。
本件は地方裁判所だけでなく高等裁判所まで争われ、いずれも労働者側の主張が認められ、1,000万を超える割増賃金等の支払いが命じられました。
理由としては、①担当する顧客数が他従業員と比較して著しく多かったこと、②職務日誌の記載内容からタイムカードの出退勤時間の裏付けがとれたこと、③会社代表者からの深夜勤務に対するねぎらいの言葉があったこと等が挙げられ、会社側も他従業員よりも著しい時間外労働者がなされていると認識があった(認識できた)ものとしました。
一方、認められなかった事案としては、会社側が時間外労働・休日労働に対する協定(通称36協定)が当時未締結であったため、時間外労働等を禁止した状態であったが、職員が割増賃金の支給がなくなることを懸念し、時間外労働禁止命令以降も残業を行い、その割増賃金を求めたものがありました。
裁判所は、使用者側は明確な理由のもと「時間外労働禁止」という業務命令を行っていたのにも関わらず、それに反し労働者の勝手な判断によって行われた時間外労働は労働時間ではないと示しました。
また会社側は、36協定締結までは時間外労働禁止の業務命令を繰り返し発し徹底していたため、使用者の指揮命令による時間外労働ではないと判断し、割増賃金の請求を全面的に否認しました。
3.労働時間の管理
前述の通り、労働者は原則法定労働時間内で働くことが決められており、時間外労働をする場合は36協定の協定範囲内でなければなりません。
そのため、使用者側としては、各労働者の労働日ごとの始業・終業を把握し、労働時間を管理することが求められています。
時間外労働の割増賃金の請求や労災時の注意義務違反等が裁判での争点になった際は、この労働時間管理を使用者側が適切に行っていたかも重要視されます。
では、使用者側が労働時間管理をきちんとしていなかった場合、割増賃金の請求はどう扱われるのでしょうか?
結論から述べると、労働者側から提出された資料等をもとに労働時間が推測されますので、労働者側に有利な判決が出ることがほとんどです。
やはり使用者側には労働時間を管理するという義務があるため、その義務を果たしていないために起こったこのような事案は、使用者側に責があるものと判断されることが多いです。
始業終業時刻の管理がなされていない場合の労働時間を判断する資料としては、以下のようなものが認められることがあります。
①業務日誌
②ソフト上の保存時刻
③システムのログやデータの作成・更新・保存時刻
使用者の管理外(例えば自宅などでのデータ作成)の時間も労働時間とカウントされる恐れがありますので、必ず労働時間は管理をしましょう。
そこで、具体的な労働時間の管理方法としては、2パターンが挙げられます。
①出退勤時間を使用者が毎日確認し、それを記録する
②勤怠管理システムやタイムカードを用いて確認、記録する
過去の判例においても、時間外労働の認定は、使用者が設置した機器によって打刻されたタイムカードの記載を重視するのが相当だとされており、労働者や使用者の恣意的な要素が加味されにくい客観的な記録を重要視しています。
なお、これらを基本要素として、時には使用者の残業命令書や労働者からの残業申請書などを求めることもあります。
しかしながら、直行直帰や出張が多いなど、タイムカードでの打刻が難しい場合もあります。このような時は労働者側からの自己申告に委ねざるを得ないため、使用者側は次のような対応をする必要があります。
①対象者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、きちんと自己申告をするよう説明すること
②労働者が申告する労働時間と実際の労働時間に相違がないか、実態調査を行うこと
これに加え、遠隔地で業務が終了した場合は、その都度連絡をもらって業務終了を確認する、外出先でも打刻が可能なシステムの導入を検討するなどをしたほうがいいでしょう。
物理的にどうしても無理な場合は、「みなし労働時間制」というものもありますので、直行直帰や出張等であっても労働時間の管理はしなければならないということは理解しておく必要があります。
4.まとめ
労働時間管理は義務といっても、労働者の業務内容や勤務形態によって、難しい場合ももちろんあります。
ただ、やはり労働時間管理をしていないと、割増賃金の支払を求められた際に、労働者の主張が認められてしまう恐れがあります。
そのたびに多くのコストがかかってしまいますので、そういったことを未然に防ぐためにも、労働時間及び時間外労働の管理は可能な限り行っていきましょう。
【交通事故】自動車保険は必ず加入しないといけない?必要性について
交通事故を起こしてしまったと仮定しましょう。
相手の方には怪我を負わせてしまい、さらに一生後遺障害が残るという結果になってしまいました。
このとき、あなたは相手の方やそのご家族に対してどうやって保障をしていけばいいと思いますか?
また、死亡させてしまった場合、今やその賠償金額が億を超えることも珍しくありません。
あなたはその金額を用意することができますか?
このような損害賠償に備えるための「保険制度」について、今回はご説明します。
1.保険加入の必要性
①万が一に備える
交通事故を起こしてしまった場合、車の所有車や運転者には、被害者に対して損害賠償の責任が生じます。この損害賠償に備えるのが保険です。
万一の場合に備えて必ず保険には加入しておきましょう。
②自動車保険の種類
自動車保険には、法律によって必ず加入しなければならないもの(強制保険)と、所有者や運転者が任意で加入するもの(任意保険)の2種類があります。
・強制保険(自動車損害賠償責任保険=自賠責保険)
自動車(農業作業用小型特殊自動車を除く)や原動機付自転車は、自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)、または自動車損害賠償責任共済(責任共済)に加入していなければ、運転してはいけません。要するに、ナンバーのついた車は、所有者の意思に関係なく加入する義務があります。
・任意保険(損害保険会社などの自動車保険)
強制保険で保障してもらえるのは、人身事故に限られ、しかも自損事故は含まれません。また、賠償額にも限度があり、強制保険だけでは十分に賠償できるとは限りません。高額な損害賠償や物損事故、自損事故などに備えて任意保険に加入しておきましょう。
2.保険金の請求について
①強制保険の保険金請求方法
自賠責保険は、交通事故の被害者救済を目的に国が事業として行っている保険です。
交通事故による強制保険の保険金の請求方法には、次の2つの手段があります。
・加害者請求
加害者は、被害者に損害を賠償した範囲内で、保険会社に対し保険金の支払いを請求することができます。ただし、この請求は領収書や必要書類を添えた上で、被害者に支払いをしてから3年以内に行わないと時効になります。
・被害者請求
示談が円満に解決しないような場合、被害者は加害者に損害賠償を請求する代わりに、加害者が加入している自賠責保険に対し損害賠償額の支払いを直接請求することができます。
また、さしあたりの費用として必要があれば、損害賠償額の一部を仮渡金として請求することもできます。
②任意保険の保険金請求の流れ
強制保険と同様に、任意保険の場合にも「加害者(被保険者)の請求」「被害者の請求」2つがあります。
・加害者の請求
通常、加害者は加入している損害保険会社に保険金の請求手続きを行っていれば、損害保険会社が被害者との示談交渉を代行し、示談成立後に保険金を被害者に支払ってくれます。この場合には、損害保険会社が自賠責保険の請求手続も一括して行いますので、加害者は別途に自賠責保険の請求手続きを行う必要はありません。
・被害者の請求
任意保険会社への請求は、保険契約者からの請求が原則です。
任意保険会社は、あくまで保険会社にすぎないため、被害者に対して損害賠償の支払義務を負っているわけでありません。
損害賠償の支払義務を負うのは、あくまでも加害者であり、被害者は一度加害者に請求してからでなければ、任意保険会社からの支払いを受けられません。
しかし、示談が成立しても加害者が賠償金を支払わない場合、被害者は加害者の加入している損害保険会社に被害者請求をすることになります。
ここで問題となるのが、被害者の直接請求権は保険約款上(※1)の権利であり、必ず任意保険会社対し直接請求できるとは限らないという点です。一度加害者に請求してからでなければ、任意保険会社からの支払いを受けられないというのは、被害者の方にとって大きな負担となることでしょう。
そこで、対人賠償・対物賠償等の任意保険においては、被害者は任意保険会社に対して、直接請求することが認められています。
被害者から任意保険会社に対して直接請求権が認められる場合とは、保険契約約款上で被害者が直接請求権の行使が認められている場合ということになります。
これは逆にいうと、被害の直接請求権が保険約款で規定されていない場合には、被害者から任意保険会社に対する直接請求を行ったとしても請求が通らない可能性が十分に考えられます。
だからこそ、専門家に相談しながら、手続きしたほうがよりスムーズに話が進むと考えられます。
※1 約款とは契約条項のことをいいます。企業と個人が契約する際の、決まりのようなもので、保険に関していえば、どのような条件で保険金が支払われる、支払われないなどが書かれています。
3.まとめ
事故の当事者間で話合いがつかない場合など、どうしたら良いのか分からない点が沢山出てくることだと思います。
交通事故の示談は、事故で生じた損害賠償額を話し合いで決めていくため、加害者も被害者も損害賠償額の目安を知っておかなくてはいけません。
損害賠償額の主な目安としては、保険会社基準(自賠責保険・各保険会社の支払い基準)と日弁連基準(財団法人 日本連交通事故相談センターの「交通事故損害額算定基準」)があります。
保険会社基準の場合、裁判を前提としていないため、本来受け取ることが出来る損害賠償額より低くなる可能性もあります。
もしお悩み事や不安な点等がございましたら、是非弁護士にご相談下さい。
※本記事に搭載されている内容は、あくまで一般的な流れであり、発生事故によって異なることもございます。ご了承ください。
ネットでのビジネスを始める前に知っておきたい法的リスクとポイント
最近ではインターネットが普及し、家にいながらでも様々な商品が購入でき、翌日には自宅や指定した場所に配達してくれるネットショッピングや、旅行の予定を立てた場合、宿の予約や航空券の手配などをネットで行うことができたりと、大変便利な世の中になってきました。
このようなネットビジネスは個人でも立ち上げることができ、中には多くの利益を生んでいるサービスも見受けられます。
そんなネットビジネスを始めようとする際に重要になるのが、法務です。法に則した認可を得ていなかったために業務停止命令を受けるなどのケースもあり、リスクとなる部分もあります。
今回は、ネットビジネスに必要な認可や、サービスによって異なる法的リスクについて説明します。
1.ビジネスのモデルによって法的リスクは異なる
実店舗において店や商売を始める際には、法律で定められた認可を得なければならないケースがあります。例えば、食品の販売であれば食品衛生法であったり、酒の販売であれば酒税法、旅券発行や宿泊の仲介は旅行業法などです。
これはネット上のビジネスにおいても同様で、ネットビジネス特有でもある仮想通貨を扱うサービスであれば資金決済法、景品表示法であったり、クラウドファンディングであれば出資法などが関係してくることになります。
立ち上げたいビジネスがどのようなものかを考えた際に、どのような認可が必要か、もしその認可を得ずに始めてしまうとどのような法的リスクがあるのか、ということも併せてピックアップし、洗い出すことが重要です。
2.誰と契約し、誰から利益を得るのかを明確に
法的リスクを洗い出す、といってもどうやって行えばよいのでしょうか。
まず、「誰が」「誰に」向けたサービスで、「どんなものを行う」のかを考えましょう。
例えば、ハンドメイド作家の商品を販売するサイトを開設した場合では、以下のようなケースが考えられます。
①事業者である自分と購入希望者で直接売買契約を結び、商品代金も事業者へ支払うケース。商品はハンドメイド作家から購入者へ送られる。
②事業者はハンドメイド作家や商品の紹介をサイトで行う。その商品の購入希望者はハンドメイド作家と売買契約を結び、商品代金は購入希望者がハンドメイド作家へ支払うという仲介型サイトのケース。
①では、商品に不備やクレームがあった場合、購入者と売買契約を結んでいるのは事業者ですから、事業者である自分が責任を負うことになります。
一方、②のケースでは、ハンドメイド作家と購入者が決済まで含んだ契約を結ぶという形になるため、クレーム等は事業者へは届きにくくなります。
法的リスクは①に比べて低いですが、仲介型のサービスには一定程度の規制がありサービス内容や業種によっては不可であることや、既製品をあたかもハンドメイドのように見せかけ、高額で販売していた場合などの違反に対して、事業者である自分はどのように対処すればよいかなど、不安はどちらのケースであっても起こり得るものです。
そのような不安のもととなる、予想される問題をすべて洗い出し、先手を打つことでスムーズにネットビジネスを始められるのです。
3.ネットサービスで異なる法的リスク
2.では商品販売サイトを例に出して説明しましたが、ネットが普及し技術が発展するにしたがって多様なサービスが現れてきました。
やはりサービスごとに法的リスクも異なるので注意する点も様々です。
もし多岐にわたってネット上でサービスを展開していく予定であるなら、サービスごとの特徴を知り、それぞれのリスクも把握しておきましょう。
①ECサイト
現在、実店舗で商品を販売していることを、そのままネットの世界で行うようなサービスです。実店舗では直接商品を見たり触ったりできますが、サイト上では写真や説明文を見て判断し、購入します。
その際に写真と実物のイメージが異なっていると、購入者とのトラブルにつながりかねません。
しかしながら、実物をそっくりそのまま写真にすることは物理的に無理であり、対処法としては会員登録をするタイミングなどで、責任の範囲や返金や返品についての記載をサイト内で示す必要があります。
②ショッピングモールサイト
ECサイトと同じかと思われるかもしれませんが、多くのショッピングモールサイトは「商品を売りたい」販売者と「購入したい」希望者をつなげるサービスで、どちらかと言えば仲介をし、販売者から出店料を得るというような形になるでしょう。
その場合は、販売者と購入希望者間のトラブルについて対処法を考えねばなりません。
③課金制アプリ、WEBサイト
スタートフォンアプリや、会員制(課金制)のWEBサービスを立ち上げる際も、様々なトラブルを想定しなければなりません。
スマートフォンアプリに多く見られるものは、一部のサービスが無料で使用でき、それ以上の機能を追加する場合は有料プランに移行する、というようなものです。
アプリ発売当初に世間へ周知する内容の中に、「すべて無料でできる」などとまぎらしい文言を入れてしまうなどすると、後でトラブルになり得ます。
集客を狙い、事実とは異なる表現をすることは景品表示法違反にもなり、早々に業務停止になることもあるのです。
④その他
他にも2016年頃に問題となったキュレーションサイト、まとめサイト等の著作権問題や、金融商品に関係するサービス等の資金移動業者登録についての問題などもあります。
WEBサービスとして一括りにせず、特徴から考えられるトラブルを洗い出しましょう。
4.まとめ
今回は自分でWEBサービスを立ち上げる際の法的リスクについて考えてみました。
多くはお金が発生した時点でのトラブルです。
商品を準備し、購入者に販売、フォローするまでの流れを考え、予測されるトラブルや法律に関係する部分をよく把握しておきましょう。
マイナンバーの情報漏えい時のリスク
2016年1月以降、企業は厳格な安全管理体制のもとでマイナンバー等の情報を扱うことが義務付けられました。
しかし、情報漏えいのリスクをゼロにすることは困難です。万が一、マイナンバーに関連する情報が漏えいしてしまった場合、企業にはどのようなリスクが発生するのでしょう?
1.マイナンバーに関連する情報が漏えいした場合のリスク
万が一、マイナンバーに関連する情報が漏えいした場合、企業は以下のようなリスクを抱えることになります。
(1)刑事罰の適用(番号法違反)
マイナンバー制度では、番号法によって様々な罰則が設けられており、監督機関となる内閣府の外局である個人情報保護委員会より罰則の適用を受けることがあります。
(2)民事上の損害賠償請求
企業が適切な安全管理措置を講じることなく、情報が漏えいしてしまった場合は、その番号の対象者等から民事上の使用者責任を追及され、それに伴って損害賠償を請求されるリスクが生じます。
尚、企業が、民法上の使用者責任を免れるには、以下について会社側が立証する必要があります。
・被用者の選任や監督について相当な注意を払っていたこと
・相当な注意を払っていたとしても損害が生じたであろうこと
しかしながら、情報漏えい事故でこうしたことを立証するのは非常に困難です。
仮にその証拠を提示するのであれば、システムへのアクセス記録等になりますが、それでも十分だとは言いきれません。
そういった意味でも、企業が適切な安全管理措置を講じることが肝要だと言えます。
とりわけ、個人情報保護委員会による「特定個人情報の適切な取り扱いに関するガイドライン」が求めている、企業が講じなければならない安全管理措置のうちの「技術的安全管理措置」は、きわめて重要な措置であることが分かります。
(3)社会的信用の失墜
大企業や知名度のある企業で情報漏えい事故が起これば、マスメディアが大きく取り上げ、社会的信用が失墜することもあります。特に上場企業は株価下落の要因にもなるため、非上場企業以上に安全管理体制の徹底が求められます。
事実、過去に情報が漏えいした企業のその後を見ても、顧客離れが加速したり、内定辞退が相次いだり等、企業経営に直結する問題が生じています。
2.情報漏えい時の罰則
前掲の、マイナンバーに関連する情報が漏えいした場合の3大リスクのうち、社会的信用の失墜に関しては想像に難くありません。そこで、刑事罰等の罰則と民事上の損害賠償責任、2回に分けて、もう一歩踏み込んでお話しをしたいと思います。
まず、「(1)刑事罰の適用(番号法違反)」について。
通常、問題事案があればすぐに罰則を適用するわけではありません。
もちろん、重大事案であれば別ですが、基本的には事前に指導や助言、勧告等が行われる等であり、労働基準監督署による指導等と同じようなイメージを描くと分かりやすいと思います。
3.情報漏えい時の民事上の損害賠償責任
次に、「(2)の民事上の損害賠償請求」について。
マイナンバーやそれを含む個人情報が漏えいした場合、企業はその対象者に対しての賠償を考えなければなりません。
これまでの情報漏えいの事故をひも解いてみると、Yahoo!BB顧客情報漏えい事件(2004年)やベネッセ個人情報流出事件(2014年)において、企業側は情報漏えい対象者に対して500円の金券を支払っています。
こうした事例から、マイナンバーの流出の場合も、対象者1人当たり500円支払えば済むという誤った認識も広がりました。
しかし、ベネッセ個人情報流出事件では、その後、1人当たりの損害額55、000円の支払いをめぐって集団訴訟が提起され、他の情報漏えいに関する裁判例でも1人当たり数万円以上の支払いを余儀なくされています。
500円の金券は見舞金の支払いとなるにすぎず、その額が損害賠償額になるわけではありません。
4.まとめ
情報漏えいは、外部からの不正アクセスによって起こるケースを想定しがちですが、実際には、電子メールの誤送信を中心とした誤操作に端を発するケースや、紙媒体の紛失による事故が多いのが現状です。
いわゆるヒューマンエラーによって引き起こされているケースが一般的と言えます。
したがって、いくら堅牢なセキュリティ体制に守られた情報システムを構築したとしても、従業員の誤操作等によって情報が漏えいするリスクは依然として伴うということです。
実際、日本年金機構において100万件超の年金情報が流出した事件は、職員が外部から送付された不審な電子メールを開封したことによるウィルス感染に端を発したことは、報道によってよく知られているところです。
安全管理対策については、技術面に頼り切ることはできず、企業はヒューマンエラー対策に対しても意識して、情報漏えいでトラブルが生じないように、あらかじめ対策を講じておきたいものです。
【不動産】マンションからの眺望に関する売主の説明義務
こんな時、誰に対してどんな請求をすれば良いのでしょうか?
このようなケースを考える場合には、
①眺望に関する売主の説明義務
②仲介業者の説明義務、仲介業者の説明義務と売主の説明義務との関係
という2点を理解する必要があります。
1 売主の説明義務の根拠
(1)不法行為責任
マンションを含む不動産の売買は、目的物が高額なため、契約締結に至る過程での売主の説明内容は非常に重要になります。
仮に売主の交渉段階での説明不足により買主に損害を与えた場合は、あくまで契約成立前の段階(交渉段階)で問題となる責任のため、売買契約上の責任(債務不履行責任)ではなく、民法上の不法行為に該当すると考えられることが多いようです。
(2)債務不履行責任
しかしながら、売買契約締結前(交渉段階)であっても、売主の説明義務違反として契約上の責任(債務不履行責任)を追及することができる場合があります。
そもそも、売買契約における売主の義務は、契約の目的物である財産権を買主に移転することであるため、説明義務自体は本来的な売主の義務には当たりません。
しかしながら、信義則から導かれる売買契約上の売主の付随的義務として「説明義務」があるとされるため、説明義務違反には債務不履行責任を認めることもあります。
また、契約当事者間においては、その相手方に損害を被らせないようにする信義則上の義務があるとされます。
つまり、契約締結の段階において当事者の過失によって相手方に損害を被らせた場合には、その被害を受けた当事者に損害を賠償する責任を認めるのが通説であり、判例もこれを認めています。
(3)宅建業者の説明義務
不動産の売買契約においては、宅地建物取引業者が自ら売主となったり、仲介業者として介在したりといった形態でやり取りされているケースが多く見られます。
宅地建物取引業者は、取引の関係者に対しては、「信義を旨とし誠実にその業務を行わなければならない」とされています。
特に売買契約等が成立するまでに、宅地建物取引士として、重要事項を記載した書面を交付して説明させなければならないと定められています。
2 仲介業者に委託した場合の売主の説明義務
契約当事者が宅地建物取引業者に仲介を委託する場合には、契約当事者の意思としては、原則として、重要事項の説明については自らが委託した宅地建物取引業者が行うものとしてその説明に委ねているということができます。
よって、売主本人は買主に対し説明義務を負いません。
〔例外的に売主も説明義務を負う場合〕
①大阪高判平成16.12.2
売主が買主から直接説明することを求められ、かつ、その事項が購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される場合には、売主は、信義則上、当該事項につき事実に反する説明をすることが許されないことはもちろん、説明をしなかったり、買主を誤信させるような説明をすることは許されないというべきであり、当該事項について説明義務を負う。
②東京地判平成9.1.28
売主は売買契約に向けて仲介業者に委託している以上、仲介業者を売主の履行補助者とみて、指導要綱の説明義務違反について売主も責任を負う。
3 説明義務違反の効果
(1)損害賠償
売主に説明義務違反が認められる場合、買主は、売主に対し、買主が被った損害について賠償を請求することができます。
なお、損害賠償の範囲については、信頼利益(契約締結に要した費用)の賠償を命ずる判例が多いようです。
(2)解除
売主の説明義務を信義則から導かれる売買契約上の付随的義務である(上記1の(2)参照)とした場合、説明義務違反は付随的義務の債務不履行となります。
そして、付随的義務の不履行があったとしても、原則として相手方は契約の解除をすることができないとされます。
しかしながら、付随的義務の不履行であったとしても、それが契約締結の目的の達成に重大な影響を与えるような場合については、契約を解除することが認められます。
4 眺望に関する売主の説明義務
マンションの売主が、居室からの眺望について説明する義務を負うか否かについては、建物の所有者・占有者が眺望の利益について法的保護を受けられるか否かに関わると言えます。
この点について、裁判例は
「眺望利益なるものは、個人が特定の建物に居住することによって得られるところの、建物の所有ないしは占有と密接に結び付いた生活利益であるが、もとよりそれは、右建物の所有者ないしは占有者が建物自体に対して有する排他的、独占的支配と同じ意味において支配し、享受し得る権利ではない。
元来風物は誰でもこれに接し得るものであった、ただ特定の場所からの観望による利益は、たまたまその場所の独占的占有者のみが事実上これを享受し得ることの結果としてそのものの独占的に帰属するに過ぎず、その内容は、周辺における客観的状況の変化によっておのずから変容ないし制約を被らざるを得ないもので、右の利益享受者は、人為によるこのような変化を排除し得る機能を当然に持つ者ということはできない。
もっとも、このことは右のような眺望利益がいかなる意味においてもそれ自体として法的保護の対象となり得ないことを意味するものではなく、このような利益もまた、一個の生活利益として保護されるべき価値を有し得るのであり、殊に、特定の場所がその場所からの眺望の点で格別の価値を持ち、このような眺望利益の享受を1つの重要な目的としてその場所に建物が建設された場合に用に、当該建物の所有者ないし占有者によるその建物からの眺望利益の享受が社旗観念上からも独自の利益として承認せられるべき重要性を有する者と認められる場合には、法的見地からも保護されるべき利益であるということを妨げない」(東京高決昭和51.11.11)
としています。
そして、買主側の眺望権については、売主側が不動産売買の契約前の段階で眺望をセールスポイントにしていたり、販売後に売主側が自ら眺望を妨げる行為に出たりした場合には、売主の説明義務違反が認められやすいと言えます。
他方、上記のような場合であっても、売主側で眺望に影響を与え得るような事情の有無について調査を尽くした上で買主側に対して説明をしていたような場合には、売主はその説明義務を果たしていたと認定されやすいと言えます。