弁護士コラム

2019.04.11

労働基準法とは ~不当な身柄拘束の禁止~

前回は労働基準法とは何か、労働契約において書面にて明示しなければいけないこと(絶対的明示事項)・口頭による説明でも問題ない事項(相対的明示事項)を中心にお話しいたしました。
今回は、不当な身柄拘束の禁止について見ていきたいと思います。

前回の記事はこちらから
労働基準法とは?~労働契約編~

1.不当な身柄拘束の禁止

不当な身柄拘束の禁止とは、

・賠償予定の禁止(第16条)
・前借金相殺の禁止(第17条)
・強制貯金の禁止(第18条)

上記の3つの禁止のことを指します。

(1)賠償予定の禁止
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

このように労働基準法の第16条には定められています。

例えると、「遅刻・早退したら欠勤控除とは別に3,000円マイナスとする。」

このような賠償額を予定とすることは違法であり、禁止されています。
労働者側が違約金の発生を恐れて退職ができず、事実上労働が強制させられてしまうという事態を防ぐ趣旨です。
賠償額が予定されている契約は、親権者・身元保証人が支払義務を負うような契約も含まれます。

なお、あくまで16条では金額を予定・決定していることが禁止なのであり、現実に起きた損害について賠償請求することを禁止したものではありません。

(2)前借金相殺の禁止
使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。

このように労働基準法第17条には定められています。

この条文は金銭貸借関係と労働関係を分け、債務者の身分的拘束を防止する法律です。
会社からの借金を返すために労働が強制される事態を防ぐ法律です。

重要な点として、貸付原因・期間・金利の有無など総合的に判断して、当該貸付において労働が条件となっていないことが明白な場合には、本条は適用されません。

また、賃金による相殺は、労働者が望めばそれは違法とはなりません。もっとも、その場合でも、紛争予防の観点から相殺合意書を書面で取り交わしておくべきです。

(3)強制貯金の禁止
①使用者は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない。
②使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理しようとする場合においては、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出なければならない。

この法律はあくまで、強制貯金により労働者の足止めになったり、賃金が事業資金として流用されて返還が困難になったりすることを防止するために存在しています。

従って、任意(労働者から貯蓄金を委託されて管理すること)であればその貯金は認められることになります。

(4)任意貯金の方法

任意貯金は「社内貯金」と「通帳保管」の2つに分類されます。
各手続に関する要件の比較は以下の通りです。

要件

①労使協定(貯蓄金管理協定)を締結し、所轄労働基準監督署に届け出ること
②貯蓄金管理規程の作成・周知義務
③社内貯金であれば利子をつけること(利率の最低限度は年5厘)
④社内貯金をする使用者は毎年3月31日以前1年間における預金の管理状況を4月30日までに所轄労働基準監督署に報告すること
⑤労働者が返還を請求したときは遅滞なく返還すること

社内貯金 通帳保管
労使協定の締結 必要(届出も必要)
貯蓄金管理規程 必要(届出は不要・周知は必要)
最低利率(年5厘)の義務 あり なし
管理状況報告 あり なし
貯蓄金保全措置 あり なし
中止命令 可能

2.注意すべき点

以上の通り、各条文上は、禁止事項が記載されていますが、いずれも労働者の意に反する強制労働の禁止を趣旨とするものですので、その趣旨に反しない場合は、規制が及びません。

そのため、既に述べたように、第16条(賠償予定の禁止)については、現実に起きた損害について賠償する予定であることを記載しても問題ありませんし、第17条(前借金相殺の禁止)は労働者が望めば債権と賃金の相殺は問題ありません。

第18条(強制貯金)に関しても労働者が望んで、使用者側がそれに応じ諸制度を整備すれば良いわけです。

3.まとめ

以上の通り、労働基準法では、労働者の不当な身体拘束を禁止するために各種制限がなされています。

世の中の企業には、この規制を知らずに、これらに抵触する内容の就業規則や誓約書を使っている会社が多数あります。

これらの書式は、何か企業にとって損害があった時のための事前対策として設けられていることが多いですが、その対策についての記載方法に問題があっては元も子もありません。

改めて、労働者にとって不利になっていたり、規則・誓約書により労働者を拘束してしまっていたりしていないかどうかを確認する必要があるでしょう。
また、労働者側も自分が知らないうちに拘束されている状況に追い込まれていないかどうか確認してみても良いかもしれません。

2019.04.10

従業員の退職に伴い必要な手続きと解雇について

従業員を採用するとき同様、従業員が退職するときにも従業員に対する手続き、年金事務所・ハローワークに対する手続きなどを行わなければなりません。

今回は、これらのような退職に伴い必要になる手続きと、それに関連して、従業員の解雇について詳しくご説明します。

1.退職時に必要な手続き

(1)従業員に対する手続き

従業員の退職が決定したら、退職届を提出してもらいます。この際、トラブルに発展することがないように、必ず書面で受け取りましょう
入社時にマイナンバーが分かる書類(マイナンバーカード、マイナンバーが記載された住民票の写し等)を提出してもらっていない場合は、それも受け取ります。
そして、退職日以降に、本人及び被扶養者分の健康保険被保険者証を回収します。
回収した健康保険被保険者証の取扱いについては、(2)社会保険・雇用保険の手続きでご説明します。

 また、退職の年月日と理由を労働者名簿に記載する必要があります。
死亡した場合には、その年月日と原因を記載します。

(2)社会保険・雇用保険の手続き

①社会保険

退職の翌日から5日以内に、「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届」に回収した健康保険被保険者証を添付して、所轄の年金事務所に提出します。
もし、従業員が健康保険被保険者証を紛失している場合は、代わりに「健康保険被保険者証回収不能(滅失)届」を提出しましょう。

②雇用保険

「雇用保険 被保険者資格喪失届」と、従業員から離職票の交付を希望しない旨の申し出がない限り「雇用保険 被保険者離職証明書」を準備します。
そして、退職の翌日から10日以内に、出勤簿、労働者名簿、賃金台帳、退職届など退職理由を確認できる書類を添付した上で、所轄のハローワークに提出します。
この離職票とは、失業手当を受けるために必要な書類です。
提出すると、「資格喪失確認通知書」、「雇用保険被保険者離職証明書」、「離職票-Ⅰ」、「離職票-Ⅱ」、パンフレット「離職された皆様へ」が交付されるので、離職票とパンフレットを速やかに本人に郵送しましょう。

(3)給与関連の手続き

退職日以後1か月以内に「源泉徴収票」を本人に交付します。
従業員が死亡したことによる退職の場合、死亡時にまだ支給期が到来していない給与については、所得税や住民税は非課税ですので、源泉徴収票には記載しません。

また、住民税を給与から特別徴収している場合には、「給与所得者異動届出書」を作成します。1月1日から5月31日までの間に退職する場合には、未徴収税額を最後の給与や退職金から一括して徴収します。
5月中に退職する場合、未徴収分はひと月分ではありますが、一括徴収の方法により納めることになります。

6月1日から12月31日までの間に退職する場合には、本人が自分で納付する「普通徴収」、最後の給与や退職金から差し引く「一括徴収」、特別徴収税額を次の会社に引き継ぐ「特別徴収の継続」のいずれかを選択できるので、本人に確認します。

普通徴収または一括徴収の場合は、退職した月の翌月10日までに本人の居住地の市区町村に提出します。
特別徴収の継続の場合は本人に渡し、次の会社に提出してもらいましょう。

2.解雇事由と解雇予告

これまでは、従業員が退職するときに必要な手続きについて説明してきました。ここからは、退職に関連して、経営者が気になる「解雇」についてお話します。

雇っている従業員の勤務態度などに問題があると分かった場合、会社はすぐに解雇できるのでしょうか。
実は、解雇するためにはいくつかの条件があります。それは、①解雇に正当な理由があること、②就業規則に記載されている「解雇の事由」に該当すること、③解雇禁止事由に該当しないこと、④少なくとも30日前に解雇予告を行っていることです。

③の解雇禁止事由に関して、例えば、労働基準法19条において、業務上の怪我や病気により休業する期間や産前産後の休業期間とその後30日間は解雇してはならない旨が定められています。
他にも、育児・介護休業法10条においては、育児休業の申出をしたことや、育児休業をしたことを理由に解雇してはならない旨が定められています。

次に、④の解雇予告について詳しくご説明します。
前述したように、解雇するときは少なくとも30日前に解雇の予告をしなければなりません。
解雇の予告をしない場合は、「解雇予告手当」として、30日分以上の平均賃金を支払う必要があります。20日前に解雇の予告を行い、10日分の手当を支払うといったように、手当を支払うことによって日数の短縮をすることもできます。

ただし、解雇予告については、労働基準法20条に例外が定められています。
それは、①天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合、②労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合です。
これらの場合は、解雇予告を行わなくても解雇することができますが、所轄の労働基準監督署から「解雇予告の除外認定」を受けなければならないということに注意してください。

それでは、「試用期間中」の場合はどうなるのでしょうか。
あくまで試用期間なのだから、簡単に辞めさせることができるとお考えの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、試用期間であっても、労働契約が成立している以上、解雇する正当な理由が必要です。
この場合でも、解雇予告をする又は解雇予告手当を支払う必要がありますが、採用から14日以内の試用期間中の場合であれば、解雇予告は不要です。

最後に、解雇をすると、一定期間助成金を受けられないというデメリットがあるので、注意しましょう。

3.まとめ

従業員を雇う以上、いつかは退職する日が来ます。
何のトラブルもなく、気持ちよく退職してもらえるよう、スムーズに手続きを行うことを心がけましょう。

また、従業員の解雇のお考えの方も、安易に解雇を決めると労使関係が悪化してしまうかもしれません。
まずは、従業員と話し合うなどして、解決する方法がないか考えてみましょう。

2019.04.10

【相談事例35】裁判員裁判について③~有罪か無罪、量刑の決め方は??~

【相談内容】

裁判所から通知がきて、ある事件の裁判員に選ばれることになりました。

裁判員となった以上、被告人が有罪か無罪か、どのような罪を科すのかについて私が決めなければならないのですか。私の判断でその人の人生が決まってしまうようで非常にプレシャーを感じてしまいます。

【弁護士からの回答】

以前お伝えしたように、裁判員に選ばれ、裁判に参加した場合には、起訴された被告人が有罪であるのか、無罪であるのか、有罪である場合にはどのような刑罰を科すべきなのか(量刑判断)を行う必要があります。

今回は、どのようにして有罪、無罪の判断や量刑判断を行っているかについて、ご説明させていただきます。

1 有罪無罪の判断について

先述のとおり、裁判員裁判は、裁判官3名、裁判員6名の合計9名で構成されます。
そして、量刑判断においても同じですが、有罪無罪の判断はこの9名全員で行うことになります。

有罪無罪を判断する人と、量刑を判断する人が分かれているわけではありません。
具体的は、多数決をとり、過半数により決定するのですが、多数派の中に最低でも1人裁判官が入っている必要があります。

例えば、有罪と判断したのは、裁判官2人と裁判員3人、無罪と判断したのが、裁判官1人と裁判員3人の場合、有罪と判断したのが5名と過半数でありかつ裁判官も有罪と判断しているため、結論的には有罪と判断されることになります。

一方、有罪と判断したのが、裁判員5名、無罪と判断したのが裁判官3名と裁判員1名の場合、多数決の観点では、有罪の方が過半数となっていますが、裁判官全員が無罪と判断しているため、この場合の結論は無罪と判断されることになります。

2 量刑判断について

量刑判断についても、裁判官、裁判員全員で判断することになります。
そして、量刑判断においても有罪、無罪の判断において多数決で決定することになり、かつ、裁判員と裁判官が各1名以上賛成している必要があります。

ここで、量刑の判断の場合には、有罪、無罪という2択だけではなく、法律で定められている範囲内で量刑を定めるため、裁判員や裁判官ごとに量刑に関する意見がばらばらになる場合もあり、その場合には、最も重い刑を主張した人の数に、その次に重い刑を主張した人の数を足していき、裁判官が1人以上含めて過半数に達した時点で、量刑が決定されることになります。

例として、懲役10年と判断したのが裁判員3名、懲役8年と判断したのが裁判員3名、懲役6年と判断したのが裁判官1名、裁判員1名、懲役5年と判断したのが裁判官2名の場合、過半数(5名)に達するのは、懲役8年ですが、その中に裁判官が含まれていないため、裁判官は最低1名入っているところまで下がるため、この例では、懲役6年が科されることになります。

 

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2019.04.10

労働時間とは~どこからどこまで?~

現代では、過重労働や未払い残業代によって労働時間というものが取り沙汰されていますが、そもそも労働時間とはどこの部分を指すのでしょうか。
休日の自学自習の時間、研修への参加、休憩時間、待機時間などが労働時間に当たるとして、裁判になっているケースも多々あります。
ここでは、この労働時間の該当性というものについて考えていきたいと思います。

1.過去の判例

労働時間の該当性をめぐっては、過去さまざまな裁判が行われてきました。
例えば、電気設備の設計を行う会社において、「自社の製品を家族や親せきに販売しましょう」という取組に要した時間、「WEB上での学習に要した時間」が労働時間に該当するとして時間外・休日労働手当が請求されたという事案です。

会社側は完全任意であり、業務命令でもないため、労働時間には該当しないと主張しました。
しかし判決では、①一人ひとり年間の売り上げ目標が設定されていた②上司が達成状況を評価していた③達成状況が社内システムで把握されていたなどの点をふまえて、これらは指揮監督下にあったとして、割増賃金を支払うよう命じました。

また、WEB上での学習に関しても、会社側は単なる自学自習であるため労働時間ではないと主張しましたが、結果としては労働時間であると判断されました。

理由としては、①学習内容と業務内容が密接に関連していたこと②上司がこの学習によるスキルアップを明確に求めていたこと③学習状況が管理されていたことが挙げられていました。

2.業務性と労働の過密性

過去の判例をみていくと、ある観点から判断がなされており、それは「業務性」「労働の過密性」という2点になります。

そもそも労働時間とは、過去の最高裁の判例で次のとおり示されています。

「労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない」

(三菱重工業長崎造船所(一時訴訟・会社側上告)事件=最判平12・3・9労判778・11)

つまり、労働者が使用者の指揮監督下にある状況を労働時間と定義づけたのです。

そのため、裁判の傾向としては、研修時間や休日の自学自習等の時間が業務性、つまり使用者側からの明確な指示に基づいたものであったかどうか、日々の業務と密接に関わっている内容かどうか、というところで判断されてきています。

また、労働時間には具体的な作業をしている時間だけではなく、待機時間や手待ち時間も含まれていますが、休憩時間は労働者が自由に使える労働から完全に解放された時間のことを前提としていますので、労働時間とは考えられておりません。

しかしながら、「完全に解放された時間」という定義のため、その休憩時間が労働時間であったとして裁判になった事例も多々あります。

例えば、ビルの警備員が休憩や仮眠の時間も労働時間に当たるとして時間外割増賃金を求めてきた事案がありました。

判決では、①休憩中であっても警備室に来訪する人の対応、電話の対応をしなければならなかった ②勤務中の同僚のサポートをするよう定められており、実質行動が制限されていた ③仮眠時間の帰宅を禁止されていた ④不測の事態がおこったときに直ちに動けるよう制服等を着用したままだった という点が挙げられ、本件においては労働時間に該当するとの判断が下されました。

一方で、休憩時間や仮眠時間が労働時間ではなかったと判断された事例もあります。
こちらもビルの警備員ですが、①仮眠室で寝間着に着替えて仮眠をとっていた②不審者等の対応が必要になっても勤務中の警備員が対応し、仮眠中の同僚を起こすことはなかったなどという事実関係があったため、この時間は自由を与えられ業務を完全に手放せていたとみなされました。

3.その他事例

実務において、休憩時間や研修時間だけではなく、労働時間に当たるのかどうかの判断が難しい時間があります。
例えば、業務開始前の着替えや清掃、業務終了後の片づけが労働時間に含まれるのかがよく問題となります。
扱い方としては、ここでも使用者側の指揮命令によって、それらが義務的になされているのかで判断します。

研修や朝礼、ミーティング等については、参加の自由が完全に認められていれば、原則として労働時間には該当しません。

しかしながら、以下の状況が少しでもみられるのであれば、労働時間とみなされる可能性があります。
①上司からの指示
②昇給に影響する
③職場の雰囲気的に参加せざるを得ない状況

また、出張に伴う移動時間は、労働をする場所への通勤と判断されるため、労働時間ではないとされています。
ただ、その移動に業務の意味合いが含まれている場合、例えば荷物の運搬が出張の目的だったりするのであれば、その移動時間は労働時間に該当された判例があります。

4.まとめ

労働時間と一括りにいっても、労働時間とみなされる時間、みなされない時間があり、実務での取扱はなかなか難しいというのが現状です。

裁判所の判断ポイントは、やはり使用者の指揮監督下にあったかどうかが重視されていますので、明確にするように心がけましょう。

2019.04.09

【相談事例34】裁判員裁判について②~裁判員裁判対象事件とは~

【相談内容】

仕事もせず、お金がなかったため、コンビニやスーパーなどで万引きを繰り返していました。
また、夜のタクシー等であれば使っても暗くてバレないだろうと思い、1万円札をプリンターでコピーし、偽札としてタクシーの料金の支払いに何度が使っていました。

コンビニやタクシーの防犯カメラが原因で先ほど逮捕されてしまいました。以前にも窃盗で逮捕・起訴されたことがあり、その時は裁判官1人で裁判がなされました。

今回も起訴されると思うのですが、今回も裁判官1人でそんなに時間もかからず終わりますか??

【弁護士からの回答】

このご相談事例では、結論からお伝えすると、起訴された場合には裁判員裁判として審理が行われる可能性が非常に高いです。

今回は、どのような事件が裁判員裁判として取り扱われることになるのかという裁判員裁判対象事件についてご説明させていただきます。

1 裁判員裁判対象事件とは

どのような事件が裁判員裁判対象事件になるかについては、「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」に記載されており、

①死刑又は無期の懲役・禁錮に当たる罪に関する事件(法2条1項1号)

または

②法定合議事件(法律上合議体で裁判することが必要とされている重大事件)であって故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に関するもの(法2条1項2号)

と規定されています。
簡単に言うと、①法律で死刑や無期懲役(禁固)と規定されている犯罪か、②故意の犯罪に行為により人が死亡した事件(法定合議事件であることも要件になります。)が裁判員裁判対象事件となります。

2 具体例①(法律で死刑や無期懲役にあたる罪)

殺人罪や、強盗致死罪(強盗殺人罪)、現住建造物等放火罪のように、法定刑に死刑が定められているものは裁判員裁判の対象です。

また、身代金目的略取罪、強盗致傷罪のように法定期に無期懲役等が規定されているものも対象事件になります。

ご相談者様の事例では、万引きの犯罪(窃盗罪)は裁判員裁判対象事件ではありませんが、1万円札をコピー機でコピーし、偽札をタクシーの支払いに使う行為は、通貨偽造罪及び偽造通貨行使罪(刑法148条)に該当します。

そして通貨偽造の罪は「無期又は3年以上の懲役」と規定されているため、仮に、今回の事件で窃盗罪のみならず、通貨偽造及び同行使罪についても起訴された場合には、裁判員裁判対象事件ということになります。

通貨偽造罪がこのように非常に重い罪になっている理由は、刑法自体が制定されたのが明治時代であり、当時の通貨(紙幣)には、今のように偽札防止の技術が発展していなかったため、無期懲役という非常に重い刑罰を定めておくことで犯罪を抑止する必要があったためです。

3 具体例②(故意の犯罪に行為により人が死亡した事件)

故意(意図的に、わざと)に行った犯罪行為により、人が死亡してしまった場合には、重大な事件として裁判員裁判の対象となります。

具体的な罪名としては、傷害致死罪、危険運転致死罪、保護責任者遺棄致死罪などがこれにあたります。

 

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2019.04.09

【離婚問題】子連れ離婚をする前に考えておきたいこと

日本では3組に1組の夫婦が離婚するといわれています。
このように離婚が珍しくない時代ですが、中には子どもがいる状態で離婚をする「子連れ離婚」のケースもあります。
今回は、女性が子連れ離婚を考えたとき、離婚をする前に考えておきたいことについてお話したいと思います。

1.離婚について伝える

離婚をする際に伝えるべき相手は、夫、家族(自分の両親等)、子どもです。

①夫に伝える

離婚は協議離婚が原則ですので、まずは当事者である夫に離婚の意思を伝える必要があります。
口頭で伝える場合が多いとは思いますが、面と向かって話を切り出しづらいときや、夫のDVが離婚の原因にあたる場合は、手紙やメールなどの文面で伝えても良いでしょう。
一度文面で受け止めることで、その後の話し合いまでに冷静になることができます。

夫のDVが離婚の原因の場合や夫と話ができない場合などは、離婚の意思を伝える段階から第三者(親族や弁護士など)に依頼するケースも多いです。
御自身の置かれている状況に応じて、どのような伝え方が最適かについては、一度考えてみるといいでしょう。

②家族に伝える

離婚後の生活では、経済的にも子育ての面でも家族の支えが必要になってくる場面が多いので、親などの家族にも伝えるべきでしょう。
実情としては、離婚決定後に事後報告をすることの方が多いようですが、伝える場合は離婚後のプランなどを明確にし、親が不安にならないような伝え方をするのがよいでしょう。

③子どもに伝える

最後に、子連れ離婚なので、子どもにも離婚について伝えなければいけません。子どもに十分理解力があれば、離婚時に伝える場合もあります。
まだ物心がついていない場合は、将来どのタイミングで伝えるのかを考える必要があります。

子どもからすれば、親の離婚は精神的に大きなダメージとなり、心身に不調を訴えるケースもみられます。
ご自身の感情だけを優先するのではなく、子どもの気持ちにも十分配慮し、傷つけない伝え方が大事です。

2.離婚前後の住まいを考える

離婚を考えると、別居についても考えることになるでしょう。
しかし、「夫婦の同居義務」というものが存在します。離婚をする前に一方的に家を出てしまうと、義務違反ということで、後に調停になった際などに不利に働くことがあります。
夫婦間に合意があったり、いったん距離を置いたりする場合はこの限りではありません。

また、夫のDVが離婚の原因の場合は、身の安全を守らなければならないため、もちろん違反にはなりません。
こういった背景から、別居をする際は感情的にならずに計画を立てなければなりません。

また、引っ越し先としては、①実家に帰る ②賃貸住宅 ③公営住宅 が考えられるケースです。
①実家に帰るメリットとして、
・経済的な心配が少なくて済む。
・家事・子育てに関して家族のサポートが受けられる
ということが挙げられます。

家族の援助が受けられる反面、デメリットとしては、
・両親との間で子育てに対して意見がぶつかる可能性がある。
・児童扶養手当(18歳未満の子を持つひとり親家庭等の父または母が受給対象の補助金)をもらえない可能性がある。
・親と同居していることで保育園に入りにくい、保育園にかかる費用が高くなることがある。
などが考えられます。家族とどう協力していくかが重要なので、しっかりと話し合う必要があるでしょう。

②賃貸住宅で子どもと暮らすメリットとして、
・実家暮らしのように家族の干渉を受けない
・新しい環境で生活を始められる。
一方デメリットとして、
・敷金・礼金・手数料など入居前の出費が多い。
・毎月家賃を支払う負担がある。
・ひとり親家庭を理由に入居審査で落ちることがある。(特に母子家庭)
ということが挙げられます。
新しい環境で縛りのない生活を送ることは可能ですが、経済的な負担が大きくなってしまいます。

③最後に、公営住宅で子どもと暮らすメリット
・賃貸住宅に比べ家賃が安く済む場合が多い。
・ひとり親家庭(特に母子家庭)は入居決定の抽選で優遇されることがある。
・更新制度がない。

デメリットとしては、
・希望すれば必ず入居できるわけではない。
・自治会の役員や当番が回ってくる可能性がある。
・収入の増減により家賃が変動する。
等が挙げられます。経済的な負担は賃貸に比べると少ないですが、仕事と子育てで忙しいひとり親家庭にとって、当番などの役割が回ってくると負担になってしまいます。

3.生活費の確保をする

最後に、離婚後の生活費の確保について考えていきたいと思います。
元々、夫婦共働きであっても家庭の収入は減ってしまいます。特に、専業主婦の方は就職をして収入を得ることを考えるのが一般的です。
しかし、就職活動は先が読めて、すぐに就職先が見つかるとも限らないので、離婚前から就職先を探しておくのが良いです。

また、先ほど少し触れましたが、ひとり親家庭の場合は様々な手当を受けることもできます。
いずれも、地方団体により支給されるものなので、仕組みは一様ではありませんが、
①児童扶養手当
②ひとり親家庭等医療費助成制度
③ひとり親家庭の住宅手当
などがあります。

①児童扶養手当は、所得の制限はありますが、子どもの数と所得に応じて手当が支給されます。
②ひとり親家庭等医療費助成制度は、医療機関でかかる費用を地方自治体が助成してくれる制度で、通院や入院にかかる費用が軽減されます。
③ひとり親家庭の住宅手当は、公営住宅とは別に民間賃貸住宅の家賃を補助したり手当を支給したりする制度のことです。

このような手当を受給するには、事前に地方自治体に申し込まなければいけません。
知っているだけでは利用できませんので、自分の住む自治体の制度の詳細を調べるのが良いでしょう。
申請が要りますが、利用できれば経済的に助かり、ひとり親家庭の強い味方になるでしょう。

4.まとめ

子連れ離婚は、夫婦間だけの問題ではなく、子どもも巻き込むので事前に考えておくべき事項が増えます。
感情的になりすぎず、子どもと自分たちの今後をしっかりと見据えて計画的に進めるのが良いでしょう。

2019.04.08

【相談事例33】裁判員裁判について①~裁判員裁判とは~

【相談内容】

昨年の11月頃に突然裁判所から郵便が届き、私が裁判員の候補者に選ばれたという内容が書かれていました。

私はもう裁判員になったということでしょうか。そもそも、裁判員裁判についてよくわかっていないので教えてもらえませんか。

【弁護士からの回答】

平成16年5月に「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」が成立し、平成21年5月21日から、裁判員制度が開始し、今年(平成31年)で、開始から10年が経過しようとしています。

皆様も裁判のニュースなどで裁判員裁判という名前自体は聞いたことがある方も多いと思います。
しかしながら裁判員としてどんな活動をするのかについては把握されていない方が多いと思いますので、今回から数回にかけて裁判員裁判制度についてご説明させていただきます。

1 裁判員制度とは

裁判員制度とは、一般の人が、裁判員として刑事裁判に参加し、起訴された人(被告人)が有罪か無罪か、有罪の場合にはどのような刑を被告人に科すかということを、裁判官とともに判断する制度をいいます。

重大な犯罪についての刑事裁判に一般の人が参加することにより、一般の方が持っている日常感覚や常識を刑事裁判に反映することを主たる目的として始まった制度になります(どのような事件が裁判員の対象となる事件かについては、別の機会にご説明させていただきます。)。

通常、裁判官3名、裁判員の6名、合計9名という構成(合議体といいます。)で裁判を行いますが、例外的に被告人が事実関係を争わない場合には裁判員4名、裁判官1名で審理する場合もあります。

2 裁判員の活動内容

裁判員は、裁判における審理に参加し、裁判官とともに、証拠調べを行い(書証や証言などを見聞きすることです。)、有罪、無罪の判断や有罪の場合にどのような刑を科すかという量刑についても判断することになります。

なお、法律に関する専門的な知識が必要な事項や、訴訟手続についての判断は、裁判官が行うことになります。

また、証人尋問や被告人質問の際には、裁判官のみならず、裁判員も被告人や証人に対し、質問をすることができます。

裁判員の具体的な活動内容については、別の機会にもご説明させていただきます。

3 裁判員の選任方法について

まず、全国の地方裁判所ごとに、翌年の裁判員候補者名簿をくじで選んで作成し、毎年11月頃に、裁判員候補者名簿に登録された人に対し通知を行います。

ご相談者様にも裁判員候補者名簿に登録されたという通知が来たとのことですが、この通知は、簡単にいうと、来年1年間裁判員裁判対象事件が起訴された場合に、裁判員に選ばれる可能性があるということを通知するものになるため、この通知が来た段階では、まだ裁判員になったというわけではありません。

その後、裁判員裁判対象事件が起訴された場合、事件ごとに、裁判員候補者名簿の中からくじ引きでその事件の裁判員候補者が選ばれることになります。

そして、裁判員候補者は裁判所において裁判官と面談などを行い、最終的に候補者の中から6名が裁判員として選ばれることになります。

次回は、どのような事件が裁判員裁判の対象となるかについてご説明させていただきます。

 

掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」

2019.04.05

【相談事例32】自由に名前を変えられる?~改名するためには~

【相談内容】

先日ニュースで、自身の変わった名前を変更することができた人のことを取り上げていました。

私の名前は変わった名前というわけではなく、今の名前で支障が生じたりすることはないのですが、他の名前に変えたいと考えているのですが、どのような場合に名前を変えることができるのでしょうか?

【弁護士からの回答】

数年前より、自分の子どもの名前に、キャラクターの名前や、当て字などで通常読み難い名前などのいわゆる「キラキラネーム」という言葉を多く目にするようになってから、今後、改名を希望する人が増えるのではないかと個人的には考えていました。

先日ニュースで話題になった、改名を行った方についても、同じように一般的にキラキラネームに該当しうるお名前のケースだと思います。
今回はどのよう場合に改名が認められるか等についてご説明させていただきます。

1 改名の手続きについて

改名とは、大きく分けると「氏の変更」「名の変更」の二種類があります。
「氏の変更」とは、苗字を変更する手続きであり、「名の変更」とは、苗字と名前のうち、名前を変更するものであり、いずれも戸籍法に記載されています。
いずれの手続きにおいても、裁判所の許可を得て役所へ届け出ることが必要になります。

これは、氏名というものは、その人を特定する唯一無二の呼称であるため、自由に変更を認めてしまうと、その人個人を特定することができず、社会的にも混乱が生じてしまう可能性があるため、裁判所が許可した場合に限り、氏の変更や名の変更を認めているのです。

2 「名の変更」について

上記のとおり、氏名とは、個人を特定するためのものであり、一度定められた氏名について自由に変更されてしまうと、個人の特定が困難になってしまいます。
したがって、戸籍法上、名の変更が認められるためには、「正当な事由」が必要とされています(107条の2)。

「正当な事由」が認められる場合とは、営業上の理由より先代の名を襲名する場合や、通称名を非常に長期間使用しており、通称名の方が社会的に定着しているっ場合や、同姓同名の人がいて、生活上で支障がある場合などには認められていますが、そのような事情がない場合には、従前の氏名を継続することと、改名することの利益不利益を総合的に考慮して、変更する利益が大きい場合には認められるとされています。

したがって、ニュースで取り上げられたようなキラキラメールといった珍奇な名前の場合にはその名前を使用することによる不利益が大きいと認められる場合が多いといえるため、名の変更は認められる可能性が大きいでしょう。
しかし、ご相談者様のような主観的な理由のみによる変更については、必要性がないとして一般的には認められていません。

3 「氏の変更」について

氏(苗字)については、出生により授けられ、結婚、離婚、養子縁組等身分関係が変更するときに変更される以外は、基本的に変更されるものではなく、親族関係等を基礎づけるものとして非常に重要であるため、氏の変更が認められる要件としては、戸籍法上「やむを得ない事由」が必要であるとされており(107条)、名の変更よりも厳格な要件が設定されています。

名の変更では同姓同名の人がいる場合には認められていましたが、同姓同名の場合に氏を変更することは認められていませんし、いわゆるキラキラネームの場合であっても氏を変更することは認められていません。

4 最後に

氏名というものは、個人のアイデンティティの観点から非常に重要なものですが、キラキラネーム等のように名前により、苦しい思いをされているかたもいらっしゃると思います。

現在の名前で苦しい思いをされている方であっても家庭裁判所にて許可を得なければ名前を変えることはできないため、氏名でお悩みの方は一度弁護士にご相談ください。

 

掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」

2019.04.05

【不動産】区分所有建物の管理(後編)

前編では、管理組合の概要について見ていきました。

後編では、区分所有建物を実際に管理する上で重要となる「規約」と、管理組合の内部の役割、そして管理を外部に委託する場合に利用される「管理会社」について解説していきます。

前回の記事はこちらから→「区分所有建物の管理(前編)

1 管理規約

(1)規約の意義・効力

区分所有者の団体、つまり管理組合は、規約を定めることができ、その規約は区分所有者から物件を購入した特定承継人や占有者に対しても効力が生じます。

規約は、区分所有建物にかかる権利義務の根拠となり、法律関係を整理する際の出発点となるとても重要な存在です。

(2)規約の設定・変更・廃止

規約の設定・変更・廃止は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数の決議により行われます。

(3)規約の対象事項

規約は、建物又はその敷地、附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項について定めることができます。

区分所有法は、規約の対象を区分所有者の共有に属するものに限定せず、「建物」「その敷地若しくは附属施設」としています。
さらに、「管理」だけでなくそれらの「使用」についても規約の対象事項としています。

したがって、「管理」に関する事項として、専有部分に属する配管の点検を管理組合が行うことを可能にすることも、「使用」に関する事項として、ペット飼育を制限し、あるいは、専有部分の用途を住居のみに制限することも可能となるのです。

(4)規約の限界

規約の設定、変更または廃止の決議について、一部の区分所有者の権利に「特別の影響」を及ぼすべき時は、その承諾を得なければなりません。

また、規約では専有部分若しくは共有部分又は建物の敷地若しくは附属施設について、これらの形状、面積、位置関係その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定められなければなりません。

なお、この規約の衡平性の関係では、専有部分の面積と無関係に定められた管理費・修繕積立金の負担などが問題となりえます。

(5)マンション標準管理規約

マンション標準管理規約は、規約のモデルとして、国土交通省により作成され、公表されており、実際に多くのマンションの管理規約の参考にされています。(http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html

2 管理者(理事長)

管理者は、規約による別段の定めまたは集会の決議により、選任・解任され、①共用部分、区分所有者の共有に属する建物の敷地及び共有部分以外の付属施設を保存し、②集会の決議を実行し、③その他規約で定められた権利を有し、義務を負い、④その職務に関し、区分所有者を代理するものと定められています。

なお管理者の権限のうち、共用部分若しくは区分所有者の共有に属する建物の敷地等を保存する行為は、集会の決議などを経ることなく行うことができます。

3 理事・監事

法人化された管理組合においては、区分所有法上、理事は管理組合を代表する必須の機関であり、監事も、その執行等を監査する必須の機関であるとされていますが、法人化されていない管理組合では、理事・監事の規定を置いていません。

ところが実態として、多くのマンションでは規約により理事・監事が設置されています。マンション標準管理規約では、理事は理事会を構成し、理事会の定めるところに従い、管理組合の業務を担当するとされ、理事会は、収支決算案等の総会提出議案を決議するといった役割を担っています。
監事は、一般的な法人と同様に業務の執行及び財産状況の監査を担当します。

4 管理の委託(管理会社)

・管理委託契約(標準管理委託契約書)

マンション標準管理規約においては、管理組合の業務として、管理組合が管理する敷地並びに共用部分等の保安、保全、清掃、消毒、ごみ処理やその他修繕の他、長期修繕計画の作成または変更、敷地及び共用部分等の変更及び運営、修繕積立金の運用など、多くの業務が列挙されています。

また、他にも、理事会の業務として、収支決算・予算案、事業報告・計画案、規約・使用細則などの変更案の作成など相応の知識が無ければ遂行が困難な業務が列挙されています。

そこで、マンション標準管理規約では、管理組合は、その業務の全部または一部をマンション管理業者等の第三者に委託し、または請け負わせ執行させることができると定めており、実際のところ、多くのマンションでは管理組合の業務をマンション管理業者に外部委託しています。

理事会・総会の運営についても、マンション管理業者の担当者が会議に出席し、その議事を補助ことが多く、総会の招集手続きも業者が代行することがほとんどです。

このように、管理組合の業務やその運営についての助言や事務の代行を管理会社に委託する契約が管理委託契約であり、管理組合と管理会社との法律関係はこの管理委託契約がその出発点となるのです。

管理組合と管理会社の間で発生するトラブルとして、例えば委託の範囲の理解についての齟齬が原因とみられるものが挙げられます。
両者の法律関係を整理するには、まずは管理委託契約の内容を確認することが必要となります。

なおこの点については、国交省が、管理委託契約の内容を適正化するためにモデルとして「標準管理委託契約書」を公表しており、同省のホームページからダウンロードすることができます。(http://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk3_000011.html

2019.04.04

SNSトラブルを防ぐ、ルール作りとチェック体制

気をつけたい企業におけるSNSトラブル」という記事でも前述しましたが、個人アカウント、企業アカウントに関わらず適切にSNS利用するためには、企業側でトラブルに対処できるような就業規則やガイドラインを作成し、従業員に周知させ、社内でチェックすることが重要です。

今回はSNSトラブルにも適応できる就業規則、ガイドライン作成のポイントと社内教育、社内チェック体制についてご紹介します。

1.就業規則を作成するポイント

就業規則に記載されているものは、労働者(従業員)の労働条件であり、懲戒処分などの人事措置を示す根拠でもあります。万が一、従業員がSNS上で問題を起こし、それが企業に多大な不利益を与え、重大な問題となった場合、就業規則に則って懲戒処分を検討せねばなりません。

ただ、SNSに限定した内容を就業規則に細かく記載してしまうと、流れの早いSNSのサービスに対応できず、何度も内容の変更をしなければならなくなってしまいます。
前述のとおり、就業規則を変更するには大変な時間と手間がかかるため、就業規則を作成する際には、SNSでの禁止事項を踏まえた一般的な内容にしていくことが重要です。

例えば、服務規律を定めた項目で「勤務中は業務に専念すること」等を記載すれば、業務中に不適切な行為を撮影し、SNSにアップすることが規則違反であると示すことができます。

他にも、機密保持の項目で情報の厳重管理と私的漏えいの禁止を定めることにより、SNSからの情報漏えいを防ぎ、また電子機器管理の項目では、社内PCや貸与されたスマートフォン等へのソフトやアプリの無断インストール禁止などを設けることで、貸与機器でのSNSアプリ等の使用禁止などを示すことができます。

このように、一般的に守るべき規則として記載し、SNSで生じたトラブルに対しても規則に則れるようにしていきましょう。

2.各ガイドラインを作成しましょう

(1)私的利用についてもガイドラインが必要

おおまかなルールについては就業規則で取り決め、SNSを利用する上で気をつけるべき注意点はガイドラインに記載し、適宜改正しながら運用していきましょう。

重要なのは、アルバイトやパートといった全ての従業員に対して周知してもらうよう、わかりやすく、端的に説明することです。高校生や大学生など、若い世代の人にも理解できるような文章、そして内容も長すぎると読み流されてしまうため、要点を絞ってまとめていくとよいでしょう。

具体的な内容としては、「なぜこのようなガイドラインを設けるのか」「SNSとはどのようなWEBサービスのことを指すのか」「その特徴はどんなものか」等を記載し、SNSを知らない人にも、これから利用するかもしれない人にも分かるように作成していきます。

そして一番重要な「SNSを利用する上での注意点」については、社外秘の情報、顧客情報をSNSに投稿しない勤務時間中はSNSにアクセスしない、など勤務中に起こりうる行為に対して注意を促し、また飲食店では、「有名人が来店したとしてもSNSにアップしない」など業種やサービスに合わせた内容で作成していきましょう。

事例を挙げ、読む側に想像させることで自分自身の事とし、従業員として会社に与える影響が大きいということを認識してもらうという点がポイントです。

(2)公式アカウントを運営する上でのガイドライン

公式アカウントがある企業では、運用していく際の注意点、守るべき点を従業員向けのガイドラインと区別して、公式アカウント用に作成するのが望ましいです。

いつどのようなときに、どのような内容で投稿するのか、SNS上での顧客とのやり取りの方法、トラブルが起こった際の対処法、投稿はどの端末から行うのか(個人所有のものを利用していいのかどうか)などを取り決めていきましょう。

先述したように、SNSの特性上、全ての投稿内容を上長が確認し許可を与えるというのは現実的ではありません。
しかしながら、企業の業績や売上に関わる新商品や新サービスの告知等の際には、「投稿の最終確認作業を複数人で行うこととする」といった内容にしておけば、誤った情報の拡散予防にもなります。

SNSの公式アカウントには、企業の広報的な意味合いが強いもの、担当者の性格が出やすいものなど、様々なアカウントが存在します。それぞれのタイプに合わせた内容にし、例外のないようにガイドラインを作成していきましょう。

3.SNSへの取り組みを外部へアピールする

社内へのSNS対応に加えて、外部へ取り組みをアピールする上でしておきたいのがソーシャルメディアポリシーの作成です。WEBで「ソーシャルメディアポリシー」と検索すると、様々な企業のソーシャルメディアポリシーを見ることができます。

内容としては、「各SNSの公式アカウントがあること」「SNSに対する考え方」「社員への対応」についてなどです。これらを企業のWEBサイトに掲載することで、SNSへの取り組みをしている企業としてアピールでき、トラブルが起こった際にも、企業としての方針を記載しておけば対処している姿勢を示すことができます。

さらに、新商品の情報などは、企業が正式に運営しているサイトやアカウントからのみ行うことや、運営しているWEBサイトやSNS上での意見やクレームの連絡先を掲載することで、誤った情報が予期せず広まるのを防ぐことができます。

4. 社内教育と社内チェック体制の重要性

適切な私的利用、公式アカウント運営をするには、社内での研修や講習を行うのが望ましいでしょう。
新入社員に対しては、その企業に則した利用ができるよう、入社時点での研修等に盛り込むことでSNSが企業に対して与える影響の強さなど、認識を強く持ってもらう機会にもなります。もちろん、アルバイトやパート従業員に対しても入社時に研修を行い、全体で研修内容を把握することが大切です。

講師はSNSに通じた社員や外部講師でも良いですし、肖像権や著作権などに関係する問題も多いため弁護士に依頼するという手段もあります。

就業規則やガイドラインの説明、弁護士に依頼する場合は事例なども紹介し、「自分の身になって考える」というポイントで研修を進めていくと良いでしょう。

研修後は誓約書に署名し、企業の一員であるという意識を強く持ってもらうことも重要です。
社内でのSNSチェックについては、広報担当や管理部門が業務の一環として、いわゆる「エゴサーチ」(自社名、サービス名で検索し関係性を確認)もしくは「モニタリング」(社内PCが適切に使用されているか)を行い、問題が生じた場合には削除依頼や指導等の対応をとる方法、外部専門業者にチェックを依頼する方法、などが挙げられます。

また、公式アカウントで問題が発生した場合、調査対象として投稿した端末やメール等のチェックも行うと原因の究明につながります。

ただし、調査が行き過ぎてしまうとプライバシーの侵害となる可能性もありますので、どの段階までを調査し違反と判断するのかをガイドラインに明示するなど、従業員も配慮し行うことが重要です。

5.まとめ

今回はガイドラインの作成、社内チェック体制などについて説明しましたが、いかがだったでしょうか。企業の管理部門や総務の担当をされている方は、この先起きるかもしれないトラブルへの予防策として、対応が後手にならないよう、ガイドラインについては速やかに作成していきましょう。

次回は、トラブルが起こってしまった際の対処方法についてご説明します。

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