【相談事例34】裁判員裁判について②~裁判員裁判対象事件とは~
【相談内容】
仕事もせず、お金がなかったため、コンビニやスーパーなどで万引きを繰り返していました。
また、夜のタクシー等であれば使っても暗くてバレないだろうと思い、1万円札をプリンターでコピーし、偽札としてタクシーの料金の支払いに何度が使っていました。
コンビニやタクシーの防犯カメラが原因で先ほど逮捕されてしまいました。以前にも窃盗で逮捕・起訴されたことがあり、その時は裁判官1人で裁判がなされました。
今回も起訴されると思うのですが、今回も裁判官1人でそんなに時間もかからず終わりますか??
【弁護士からの回答】
このご相談事例では、結論からお伝えすると、起訴された場合には裁判員裁判として審理が行われる可能性が非常に高いです。
今回は、どのような事件が裁判員裁判として取り扱われることになるのかという裁判員裁判対象事件についてご説明させていただきます。
1 裁判員裁判対象事件とは
どのような事件が裁判員裁判対象事件になるかについては、「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」に記載されており、
①死刑又は無期の懲役・禁錮に当たる罪に関する事件(法2条1項1号)
または
②法定合議事件(法律上合議体で裁判することが必要とされている重大事件)であって故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に関するもの(法2条1項2号)
と規定されています。
簡単に言うと、①法律で死刑や無期懲役(禁固)と規定されている犯罪か、②故意の犯罪に行為により人が死亡した事件(法定合議事件であることも要件になります。)が裁判員裁判対象事件となります。
2 具体例①(法律で死刑や無期懲役にあたる罪)
殺人罪や、強盗致死罪(強盗殺人罪)、現住建造物等放火罪のように、法定刑に死刑が定められているものは裁判員裁判の対象です。
また、身代金目的略取罪、強盗致傷罪のように法定期に無期懲役等が規定されているものも対象事件になります。
ご相談者様の事例では、万引きの犯罪(窃盗罪)は裁判員裁判対象事件ではありませんが、1万円札をコピー機でコピーし、偽札をタクシーの支払いに使う行為は、通貨偽造罪及び偽造通貨行使罪(刑法148条)に該当します。
そして通貨偽造の罪は「無期又は3年以上の懲役」と規定されているため、仮に、今回の事件で窃盗罪のみならず、通貨偽造及び同行使罪についても起訴された場合には、裁判員裁判対象事件ということになります。
通貨偽造罪がこのように非常に重い罪になっている理由は、刑法自体が制定されたのが明治時代であり、当時の通貨(紙幣)には、今のように偽札防止の技術が発展していなかったため、無期懲役という非常に重い刑罰を定めておくことで犯罪を抑止する必要があったためです。
3 具体例②(故意の犯罪に行為により人が死亡した事件)
故意(意図的に、わざと)に行った犯罪行為により、人が死亡してしまった場合には、重大な事件として裁判員裁判の対象となります。
具体的な罪名としては、傷害致死罪、危険運転致死罪、保護責任者遺棄致死罪などがこれにあたります。
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【離婚問題】子連れ離婚をする前に考えておきたいこと
日本では3組に1組の夫婦が離婚するといわれています。
このように離婚が珍しくない時代ですが、中には子どもがいる状態で離婚をする「子連れ離婚」のケースもあります。
今回は、女性が子連れ離婚を考えたとき、離婚をする前に考えておきたいことについてお話したいと思います。
1.離婚について伝える
離婚をする際に伝えるべき相手は、夫、家族(自分の両親等)、子どもです。
①夫に伝える
離婚は協議離婚が原則ですので、まずは当事者である夫に離婚の意思を伝える必要があります。
口頭で伝える場合が多いとは思いますが、面と向かって話を切り出しづらいときや、夫のDVが離婚の原因にあたる場合は、手紙やメールなどの文面で伝えても良いでしょう。
一度文面で受け止めることで、その後の話し合いまでに冷静になることができます。
夫のDVが離婚の原因の場合や夫と話ができない場合などは、離婚の意思を伝える段階から第三者(親族や弁護士など)に依頼するケースも多いです。
御自身の置かれている状況に応じて、どのような伝え方が最適かについては、一度考えてみるといいでしょう。
②家族に伝える
離婚後の生活では、経済的にも子育ての面でも家族の支えが必要になってくる場面が多いので、親などの家族にも伝えるべきでしょう。
実情としては、離婚決定後に事後報告をすることの方が多いようですが、伝える場合は離婚後のプランなどを明確にし、親が不安にならないような伝え方をするのがよいでしょう。
③子どもに伝える
最後に、子連れ離婚なので、子どもにも離婚について伝えなければいけません。子どもに十分理解力があれば、離婚時に伝える場合もあります。
まだ物心がついていない場合は、将来どのタイミングで伝えるのかを考える必要があります。
子どもからすれば、親の離婚は精神的に大きなダメージとなり、心身に不調を訴えるケースもみられます。
ご自身の感情だけを優先するのではなく、子どもの気持ちにも十分配慮し、傷つけない伝え方が大事です。
2.離婚前後の住まいを考える
離婚を考えると、別居についても考えることになるでしょう。
しかし、「夫婦の同居義務」というものが存在します。離婚をする前に一方的に家を出てしまうと、義務違反ということで、後に調停になった際などに不利に働くことがあります。
夫婦間に合意があったり、いったん距離を置いたりする場合はこの限りではありません。
また、夫のDVが離婚の原因の場合は、身の安全を守らなければならないため、もちろん違反にはなりません。
こういった背景から、別居をする際は感情的にならずに計画を立てなければなりません。
また、引っ越し先としては、①実家に帰る ②賃貸住宅 ③公営住宅 が考えられるケースです。
①実家に帰るメリットとして、
・経済的な心配が少なくて済む。
・家事・子育てに関して家族のサポートが受けられる
ということが挙げられます。
家族の援助が受けられる反面、デメリットとしては、
・両親との間で子育てに対して意見がぶつかる可能性がある。
・児童扶養手当(18歳未満の子を持つひとり親家庭等の父または母が受給対象の補助金)をもらえない可能性がある。
・親と同居していることで保育園に入りにくい、保育園にかかる費用が高くなることがある。
などが考えられます。家族とどう協力していくかが重要なので、しっかりと話し合う必要があるでしょう。
②賃貸住宅で子どもと暮らすメリットとして、
・実家暮らしのように家族の干渉を受けない
・新しい環境で生活を始められる。
一方デメリットとして、
・敷金・礼金・手数料など入居前の出費が多い。
・毎月家賃を支払う負担がある。
・ひとり親家庭を理由に入居審査で落ちることがある。(特に母子家庭)
ということが挙げられます。
新しい環境で縛りのない生活を送ることは可能ですが、経済的な負担が大きくなってしまいます。
③最後に、公営住宅で子どもと暮らすメリットは
・賃貸住宅に比べ家賃が安く済む場合が多い。
・ひとり親家庭(特に母子家庭)は入居決定の抽選で優遇されることがある。
・更新制度がない。
デメリットとしては、
・希望すれば必ず入居できるわけではない。
・自治会の役員や当番が回ってくる可能性がある。
・収入の増減により家賃が変動する。
等が挙げられます。経済的な負担は賃貸に比べると少ないですが、仕事と子育てで忙しいひとり親家庭にとって、当番などの役割が回ってくると負担になってしまいます。
3.生活費の確保をする
最後に、離婚後の生活費の確保について考えていきたいと思います。
元々、夫婦共働きであっても家庭の収入は減ってしまいます。特に、専業主婦の方は就職をして収入を得ることを考えるのが一般的です。
しかし、就職活動は先が読めて、すぐに就職先が見つかるとも限らないので、離婚前から就職先を探しておくのが良いです。
また、先ほど少し触れましたが、ひとり親家庭の場合は様々な手当を受けることもできます。
いずれも、地方団体により支給されるものなので、仕組みは一様ではありませんが、
①児童扶養手当
②ひとり親家庭等医療費助成制度
③ひとり親家庭の住宅手当
などがあります。
①児童扶養手当は、所得の制限はありますが、子どもの数と所得に応じて手当が支給されます。
②ひとり親家庭等医療費助成制度は、医療機関でかかる費用を地方自治体が助成してくれる制度で、通院や入院にかかる費用が軽減されます。
③ひとり親家庭の住宅手当は、公営住宅とは別に民間賃貸住宅の家賃を補助したり手当を支給したりする制度のことです。
このような手当を受給するには、事前に地方自治体に申し込まなければいけません。
知っているだけでは利用できませんので、自分の住む自治体の制度の詳細を調べるのが良いでしょう。
申請が要りますが、利用できれば経済的に助かり、ひとり親家庭の強い味方になるでしょう。
4.まとめ
子連れ離婚は、夫婦間だけの問題ではなく、子どもも巻き込むので事前に考えておくべき事項が増えます。
感情的になりすぎず、子どもと自分たちの今後をしっかりと見据えて計画的に進めるのが良いでしょう。
【相談事例33】裁判員裁判について①~裁判員裁判とは~
【相談内容】
昨年の11月頃に突然裁判所から郵便が届き、私が裁判員の候補者に選ばれたという内容が書かれていました。
私はもう裁判員になったということでしょうか。そもそも、裁判員裁判についてよくわかっていないので教えてもらえませんか。
【弁護士からの回答】
平成16年5月に「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」が成立し、平成21年5月21日から、裁判員制度が開始し、今年(平成31年)で、開始から10年が経過しようとしています。
皆様も裁判のニュースなどで裁判員裁判という名前自体は聞いたことがある方も多いと思います。
しかしながら裁判員としてどんな活動をするのかについては把握されていない方が多いと思いますので、今回から数回にかけて裁判員裁判制度についてご説明させていただきます。
1 裁判員制度とは
裁判員制度とは、一般の人が、裁判員として刑事裁判に参加し、起訴された人(被告人)が有罪か無罪か、有罪の場合にはどのような刑を被告人に科すかということを、裁判官とともに判断する制度をいいます。
重大な犯罪についての刑事裁判に一般の人が参加することにより、一般の方が持っている日常感覚や常識を刑事裁判に反映することを主たる目的として始まった制度になります(どのような事件が裁判員の対象となる事件かについては、別の機会にご説明させていただきます。)。
通常、裁判官3名、裁判員の6名、合計9名という構成(合議体といいます。)で裁判を行いますが、例外的に被告人が事実関係を争わない場合には裁判員4名、裁判官1名で審理する場合もあります。
2 裁判員の活動内容
裁判員は、裁判における審理に参加し、裁判官とともに、証拠調べを行い(書証や証言などを見聞きすることです。)、有罪、無罪の判断や有罪の場合にどのような刑を科すかという量刑についても判断することになります。
なお、法律に関する専門的な知識が必要な事項や、訴訟手続についての判断は、裁判官が行うことになります。
また、証人尋問や被告人質問の際には、裁判官のみならず、裁判員も被告人や証人に対し、質問をすることができます。
裁判員の具体的な活動内容については、別の機会にもご説明させていただきます。
3 裁判員の選任方法について
まず、全国の地方裁判所ごとに、翌年の裁判員候補者名簿をくじで選んで作成し、毎年11月頃に、裁判員候補者名簿に登録された人に対し通知を行います。
ご相談者様にも裁判員候補者名簿に登録されたという通知が来たとのことですが、この通知は、簡単にいうと、来年1年間裁判員裁判対象事件が起訴された場合に、裁判員に選ばれる可能性があるということを通知するものになるため、この通知が来た段階では、まだ裁判員になったというわけではありません。
その後、裁判員裁判対象事件が起訴された場合、事件ごとに、裁判員候補者名簿の中からくじ引きでその事件の裁判員候補者が選ばれることになります。
そして、裁判員候補者は裁判所において裁判官と面談などを行い、最終的に候補者の中から6名が裁判員として選ばれることになります。
次回は、どのような事件が裁判員裁判の対象となるかについてご説明させていただきます。
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【相談事例32】自由に名前を変えられる?~改名するためには~
【相談内容】
先日ニュースで、自身の変わった名前を変更することができた人のことを取り上げていました。
私の名前は変わった名前というわけではなく、今の名前で支障が生じたりすることはないのですが、他の名前に変えたいと考えているのですが、どのような場合に名前を変えることができるのでしょうか?
【弁護士からの回答】
数年前より、自分の子どもの名前に、キャラクターの名前や、当て字などで通常読み難い名前などのいわゆる「キラキラネーム」という言葉を多く目にするようになってから、今後、改名を希望する人が増えるのではないかと個人的には考えていました。
先日ニュースで話題になった、改名を行った方についても、同じように一般的にキラキラネームに該当しうるお名前のケースだと思います。
今回はどのよう場合に改名が認められるか等についてご説明させていただきます。
1 改名の手続きについて
改名とは、大きく分けると「氏の変更」と「名の変更」の二種類があります。
「氏の変更」とは、苗字を変更する手続きであり、「名の変更」とは、苗字と名前のうち、名前を変更するものであり、いずれも戸籍法に記載されています。
いずれの手続きにおいても、裁判所の許可を得て役所へ届け出ることが必要になります。
これは、氏名というものは、その人を特定する唯一無二の呼称であるため、自由に変更を認めてしまうと、その人個人を特定することができず、社会的にも混乱が生じてしまう可能性があるため、裁判所が許可した場合に限り、氏の変更や名の変更を認めているのです。
2 「名の変更」について
上記のとおり、氏名とは、個人を特定するためのものであり、一度定められた氏名について自由に変更されてしまうと、個人の特定が困難になってしまいます。
したがって、戸籍法上、名の変更が認められるためには、「正当な事由」が必要とされています(107条の2)。
「正当な事由」が認められる場合とは、営業上の理由より先代の名を襲名する場合や、通称名を非常に長期間使用しており、通称名の方が社会的に定着しているっ場合や、同姓同名の人がいて、生活上で支障がある場合などには認められていますが、そのような事情がない場合には、従前の氏名を継続することと、改名することの利益不利益を総合的に考慮して、変更する利益が大きい場合には認められるとされています。
したがって、ニュースで取り上げられたようなキラキラメールといった珍奇な名前の場合にはその名前を使用することによる不利益が大きいと認められる場合が多いといえるため、名の変更は認められる可能性が大きいでしょう。
しかし、ご相談者様のような主観的な理由のみによる変更については、必要性がないとして一般的には認められていません。
3 「氏の変更」について
氏(苗字)については、出生により授けられ、結婚、離婚、養子縁組等身分関係が変更するときに変更される以外は、基本的に変更されるものではなく、親族関係等を基礎づけるものとして非常に重要であるため、氏の変更が認められる要件としては、戸籍法上「やむを得ない事由」が必要であるとされており(107条)、名の変更よりも厳格な要件が設定されています。
名の変更では同姓同名の人がいる場合には認められていましたが、同姓同名の場合に氏を変更することは認められていませんし、いわゆるキラキラネームの場合であっても氏を変更することは認められていません。
4 最後に
氏名というものは、個人のアイデンティティの観点から非常に重要なものですが、キラキラネーム等のように名前により、苦しい思いをされているかたもいらっしゃると思います。
現在の名前で苦しい思いをされている方であっても家庭裁判所にて許可を得なければ名前を変えることはできないため、氏名でお悩みの方は一度弁護士にご相談ください。
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【不動産】区分所有建物の管理(後編)
前編では、管理組合の概要について見ていきました。
後編では、区分所有建物を実際に管理する上で重要となる「規約」と、管理組合の内部の役割、そして管理を外部に委託する場合に利用される「管理会社」について解説していきます。
前回の記事はこちらから→「区分所有建物の管理(前編)」
1 管理規約
(1)規約の意義・効力
区分所有者の団体、つまり管理組合は、規約を定めることができ、その規約は区分所有者から物件を購入した特定承継人や占有者に対しても効力が生じます。
規約は、区分所有建物にかかる権利義務の根拠となり、法律関係を整理する際の出発点となるとても重要な存在です。
(2)規約の設定・変更・廃止
規約の設定・変更・廃止は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数の決議により行われます。
(3)規約の対象事項
規約は、建物又はその敷地、附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項について定めることができます。
区分所有法は、規約の対象を区分所有者の共有に属するものに限定せず、「建物」「その敷地若しくは附属施設」としています。
さらに、「管理」だけでなくそれらの「使用」についても規約の対象事項としています。
したがって、「管理」に関する事項として、専有部分に属する配管の点検を管理組合が行うことを可能にすることも、「使用」に関する事項として、ペット飼育を制限し、あるいは、専有部分の用途を住居のみに制限することも可能となるのです。
(4)規約の限界
規約の設定、変更または廃止の決議について、一部の区分所有者の権利に「特別の影響」を及ぼすべき時は、その承諾を得なければなりません。
また、規約では専有部分若しくは共有部分又は建物の敷地若しくは附属施設について、これらの形状、面積、位置関係その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定められなければなりません。
なお、この規約の衡平性の関係では、専有部分の面積と無関係に定められた管理費・修繕積立金の負担などが問題となりえます。
(5)マンション標準管理規約
マンション標準管理規約は、規約のモデルとして、国土交通省により作成され、公表されており、実際に多くのマンションの管理規約の参考にされています。(http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html)
2 管理者(理事長)
管理者は、規約による別段の定めまたは集会の決議により、選任・解任され、①共用部分、区分所有者の共有に属する建物の敷地及び共有部分以外の付属施設を保存し、②集会の決議を実行し、③その他規約で定められた権利を有し、義務を負い、④その職務に関し、区分所有者を代理するものと定められています。
なお管理者の権限のうち、共用部分若しくは区分所有者の共有に属する建物の敷地等を保存する行為は、集会の決議などを経ることなく行うことができます。
3 理事・監事
法人化された管理組合においては、区分所有法上、理事は管理組合を代表する必須の機関であり、監事も、その執行等を監査する必須の機関であるとされていますが、法人化されていない管理組合では、理事・監事の規定を置いていません。
ところが実態として、多くのマンションでは規約により理事・監事が設置されています。マンション標準管理規約では、理事は理事会を構成し、理事会の定めるところに従い、管理組合の業務を担当するとされ、理事会は、収支決算案等の総会提出議案を決議するといった役割を担っています。
監事は、一般的な法人と同様に業務の執行及び財産状況の監査を担当します。
4 管理の委託(管理会社)
・管理委託契約(標準管理委託契約書)
マンション標準管理規約においては、管理組合の業務として、管理組合が管理する敷地並びに共用部分等の保安、保全、清掃、消毒、ごみ処理やその他修繕の他、長期修繕計画の作成または変更、敷地及び共用部分等の変更及び運営、修繕積立金の運用など、多くの業務が列挙されています。
また、他にも、理事会の業務として、収支決算・予算案、事業報告・計画案、規約・使用細則などの変更案の作成など相応の知識が無ければ遂行が困難な業務が列挙されています。
そこで、マンション標準管理規約では、管理組合は、その業務の全部または一部をマンション管理業者等の第三者に委託し、または請け負わせ執行させることができると定めており、実際のところ、多くのマンションでは管理組合の業務をマンション管理業者に外部委託しています。
理事会・総会の運営についても、マンション管理業者の担当者が会議に出席し、その議事を補助ことが多く、総会の招集手続きも業者が代行することがほとんどです。
このように、管理組合の業務やその運営についての助言や事務の代行を管理会社に委託する契約が管理委託契約であり、管理組合と管理会社との法律関係はこの管理委託契約がその出発点となるのです。
管理組合と管理会社の間で発生するトラブルとして、例えば委託の範囲の理解についての齟齬が原因とみられるものが挙げられます。
両者の法律関係を整理するには、まずは管理委託契約の内容を確認することが必要となります。
なおこの点については、国交省が、管理委託契約の内容を適正化するためにモデルとして「標準管理委託契約書」を公表しており、同省のホームページからダウンロードすることができます。(http://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk3_000011.html)
SNSトラブルを防ぐ、ルール作りとチェック体制
「気をつけたい企業におけるSNSトラブル」という記事でも前述しましたが、個人アカウント、企業アカウントに関わらず適切にSNS利用するためには、企業側でトラブルに対処できるような就業規則やガイドラインを作成し、従業員に周知させ、社内でチェックすることが重要です。
今回はSNSトラブルにも適応できる就業規則、ガイドライン作成のポイントと社内教育、社内チェック体制についてご紹介します。
1.就業規則を作成するポイント
就業規則に記載されているものは、労働者(従業員)の労働条件であり、懲戒処分などの人事措置を示す根拠でもあります。万が一、従業員がSNS上で問題を起こし、それが企業に多大な不利益を与え、重大な問題となった場合、就業規則に則って懲戒処分を検討せねばなりません。
ただ、SNSに限定した内容を就業規則に細かく記載してしまうと、流れの早いSNSのサービスに対応できず、何度も内容の変更をしなければならなくなってしまいます。
前述のとおり、就業規則を変更するには大変な時間と手間がかかるため、就業規則を作成する際には、SNSでの禁止事項を踏まえた一般的な内容にしていくことが重要です。
例えば、服務規律を定めた項目で「勤務中は業務に専念すること」等を記載すれば、業務中に不適切な行為を撮影し、SNSにアップすることが規則違反であると示すことができます。
他にも、機密保持の項目で情報の厳重管理と私的漏えいの禁止を定めることにより、SNSからの情報漏えいを防ぎ、また電子機器管理の項目では、社内PCや貸与されたスマートフォン等へのソフトやアプリの無断インストール禁止などを設けることで、貸与機器でのSNSアプリ等の使用禁止などを示すことができます。
このように、一般的に守るべき規則として記載し、SNSで生じたトラブルに対しても規則に則れるようにしていきましょう。
2.各ガイドラインを作成しましょう
(1)私的利用についてもガイドラインが必要
おおまかなルールについては就業規則で取り決め、SNSを利用する上で気をつけるべき注意点はガイドラインに記載し、適宜改正しながら運用していきましょう。
重要なのは、アルバイトやパートといった全ての従業員に対して周知してもらうよう、わかりやすく、端的に説明することです。高校生や大学生など、若い世代の人にも理解できるような文章、そして内容も長すぎると読み流されてしまうため、要点を絞ってまとめていくとよいでしょう。
具体的な内容としては、「なぜこのようなガイドラインを設けるのか」「SNSとはどのようなWEBサービスのことを指すのか」「その特徴はどんなものか」等を記載し、SNSを知らない人にも、これから利用するかもしれない人にも分かるように作成していきます。
そして一番重要な「SNSを利用する上での注意点」については、社外秘の情報、顧客情報をSNSに投稿しない、勤務時間中はSNSにアクセスしない、など勤務中に起こりうる行為に対して注意を促し、また飲食店では、「有名人が来店したとしてもSNSにアップしない」など業種やサービスに合わせた内容で作成していきましょう。
事例を挙げ、読む側に想像させることで自分自身の事とし、従業員として会社に与える影響が大きいということを認識してもらうという点がポイントです。
(2)公式アカウントを運営する上でのガイドライン
公式アカウントがある企業では、運用していく際の注意点、守るべき点を従業員向けのガイドラインと区別して、公式アカウント用に作成するのが望ましいです。
いつどのようなときに、どのような内容で投稿するのか、SNS上での顧客とのやり取りの方法、トラブルが起こった際の対処法、投稿はどの端末から行うのか(個人所有のものを利用していいのかどうか)などを取り決めていきましょう。
先述したように、SNSの特性上、全ての投稿内容を上長が確認し許可を与えるというのは現実的ではありません。
しかしながら、企業の業績や売上に関わる新商品や新サービスの告知等の際には、「投稿の最終確認作業を複数人で行うこととする」といった内容にしておけば、誤った情報の拡散予防にもなります。
SNSの公式アカウントには、企業の広報的な意味合いが強いもの、担当者の性格が出やすいものなど、様々なアカウントが存在します。それぞれのタイプに合わせた内容にし、例外のないようにガイドラインを作成していきましょう。
3.SNSへの取り組みを外部へアピールする
社内へのSNS対応に加えて、外部へ取り組みをアピールする上でしておきたいのがソーシャルメディアポリシーの作成です。WEBで「ソーシャルメディアポリシー」と検索すると、様々な企業のソーシャルメディアポリシーを見ることができます。
内容としては、「各SNSの公式アカウントがあること」「SNSに対する考え方」「社員への対応」についてなどです。これらを企業のWEBサイトに掲載することで、SNSへの取り組みをしている企業としてアピールでき、トラブルが起こった際にも、企業としての方針を記載しておけば対処している姿勢を示すことができます。
さらに、新商品の情報などは、企業が正式に運営しているサイトやアカウントからのみ行うことや、運営しているWEBサイトやSNS上での意見やクレームの連絡先を掲載することで、誤った情報が予期せず広まるのを防ぐことができます。
4. 社内教育と社内チェック体制の重要性
適切な私的利用、公式アカウント運営をするには、社内での研修や講習を行うのが望ましいでしょう。
新入社員に対しては、その企業に則した利用ができるよう、入社時点での研修等に盛り込むことでSNSが企業に対して与える影響の強さなど、認識を強く持ってもらう機会にもなります。もちろん、アルバイトやパート従業員に対しても入社時に研修を行い、全体で研修内容を把握することが大切です。
講師はSNSに通じた社員や外部講師でも良いですし、肖像権や著作権などに関係する問題も多いため弁護士に依頼するという手段もあります。
就業規則やガイドラインの説明、弁護士に依頼する場合は事例なども紹介し、「自分の身になって考える」というポイントで研修を進めていくと良いでしょう。
研修後は誓約書に署名し、企業の一員であるという意識を強く持ってもらうことも重要です。
社内でのSNSチェックについては、広報担当や管理部門が業務の一環として、いわゆる「エゴサーチ」(自社名、サービス名で検索し関係性を確認)もしくは「モニタリング」(社内PCが適切に使用されているか)を行い、問題が生じた場合には削除依頼や指導等の対応をとる方法、外部専門業者にチェックを依頼する方法、などが挙げられます。
また、公式アカウントで問題が発生した場合、調査対象として投稿した端末やメール等のチェックも行うと原因の究明につながります。
ただし、調査が行き過ぎてしまうとプライバシーの侵害となる可能性もありますので、どの段階までを調査し違反と判断するのかをガイドラインに明示するなど、従業員も配慮し行うことが重要です。
5.まとめ
今回はガイドラインの作成、社内チェック体制などについて説明しましたが、いかがだったでしょうか。企業の管理部門や総務の担当をされている方は、この先起きるかもしれないトラブルへの予防策として、対応が後手にならないよう、ガイドラインについては速やかに作成していきましょう。
次回は、トラブルが起こってしまった際の対処方法についてご説明します。
不貞相手に慰謝料請求ができない??④~今後の問題点について~
【ご相談者様からのご質問】
第三者に離婚慰謝料を請求することができる場面はとても限られているのですね。
今回の最高裁所の判例がでたことにより、気を付けなければならないことはありますか。
【弁護士からの回答】
これまで、不貞行為を行った第三者に対する離婚慰謝料が否定された最高裁版所の判例についてご説明させていただきましたが、今回は、上記判例が出されたことによる、今後の検討課題や、注意しなければならない事項についてご説明させていただきます。
1 注意事項~消滅時効に注意~
夫婦の一方と不貞行為を行った第三者に対しては、「離婚」慰謝料の請求は認められず、「不貞」慰謝料の請求のみ認められることになります。
そして、不貞慰謝料の場合自身の配偶者が不貞行為を行ったこと及び加害者知った時点から3年以内に訴訟を提起しなければ、消滅時効により不貞慰謝料は消滅してしまうことになります。
したがって、不貞を行った第三者に対して慰謝料請求を行う場合には、不貞行為の事実や相手方を知った日から3年以内に請求しなければならないということは認識しておいた方がよいでしょう。
2 検討課題①~離婚の有無が慰謝料金額に及ぼす影響~
従前、「不貞」慰謝料を第三者に対し請求をする場合には、当該夫婦が離婚したか否かという点が、慰謝料金額を算定する上で考慮の対象になるという考え方がありました。
もっとも、今回の判例により、離婚するか否かは、あくまでも夫婦での問題であるということであるため、この判例を素直に読むと、不貞慰謝料を第三者に対し請求する場合には、夫婦が離婚をするのか、婚姻関係を継続するのかについては、あまり影響しないようにも読めるため、「不貞」慰謝料の金額が離婚の有無により影響を及ぼすのか否かについては、今後の裁判例の蓄積を待つ必要があると考えています。
3 検討課題②~配偶者と第三者の連帯責任の範囲~
別の機会にご説明させていただきますが、不貞行為を行った配偶者と第三者は2人で不貞行為という違法な行為を行っているため、連帯して慰謝料を支払う義務をおっており、これを共同不法行為による連帯債務といいます。
今回の最高裁の判例で、配偶者に対しては、不貞慰謝料のみならず離婚慰謝料も認められるものの、第三者に対しては不貞慰謝料のみ認められることになったため、配偶者と第三者は、「不貞」慰謝料の範囲のみ連帯して責任を負うということになると解するのが自然であるため、訴訟において、配偶者に対しては、離婚慰謝料、第三者に対しては不貞慰謝料を請求した場合にはどの範囲で連帯債務を負担することになるのかについては、今後の検討課題になると思います。
4 不貞行為以外で、第三者が離婚慰謝料を負う場合はあるのか?
最高裁判所は、「当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情」がある場合には、第三者に対し「離婚」慰謝料を請求することができる旨判断しているところ、この判断が、不貞行為により離婚を余儀なくされた場合に限定した判断であるのか、それとも不貞行為に至っていなくても、第三者が暴力や脅迫により離婚を余儀なくされた場合等においても、離婚慰謝料を認めるという判断になるのかについては今後、問題になっていくと思われます。
5 最後に
これまで、数回にわたり、不貞行為に関する最高裁の判例についてご説明させていただきましたが、この判例のみならず、不貞行為の慰謝料請求は、法的に複雑であり、専門的な内容が多々ある分野ですので、慰謝料請求については、是非早めに弁護士にご相談されることをおすすめします。
不貞相手に慰謝料請求ができない??③~最高裁判例の検討~
【ご相談者様からのご質問】
先日、妻から離婚を切り出されました。理由としては、不倫相手から、離婚して一緒になろうと言われたらしく、妻も不倫相手との将来を考えているとのことでした。
妻がそう言う以上、妻との関係は考えていませんが、妻と、不貞相手に対してはきちんと慰謝料を請求したいと考えております。
しかし、先日、ニュースで、不貞相手には離婚の慰謝料が請求できないと知り、どうすればいいか悩んでいます。
【弁護士からの回答】
前回は、夫婦の一方と不貞行為を行った第三者に対する慰謝料請求に関する最高裁の判例についてご説明させていただきました。
今回は、前回ご説明した最高裁の判例の内容の解説とともに、今後検討すべき課題についてご説明させていただきます。
1 第三者には「離婚」慰謝料の請求は認められない。
前回ご説明したとおり、最高裁は、夫婦の一方と不貞行為を行った第三者に対する「離婚」慰謝料は原則として認められないと判断しました。
他方、不貞行為を行ったことを理由とする慰謝料(不貞慰謝料)については認められると判断しました。
離婚慰謝料が原則として認められないと判断した理由として、最高裁判所は、「夫婦が離婚するまでに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが、協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても、離婚による婚姻の解消は、本来当該夫婦の間で決められるべき事柄である。」と述べられています。
すなわち、不貞行為があったとしても離婚するかしないかは夫婦で決めるべき事情であるため、離婚に至ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料は、配偶者に対し請求すべきであって(最高裁も、配偶者に対しては離婚慰謝料を請求することができると判断しています。)、離婚するかしないかに関与することができない第三者に対しては原則請求することはできないと判断しました。
2 例外的に離婚慰謝料が認められる場合
上記のとおり、最高裁判所は、夫婦が離婚するか否かは夫婦で決められるべき事柄であることを理由に、第三者に対する離婚慰謝料を否定しています。
したがって、最高裁判所も、第三者が「当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情がある」場合には例外的に、第三者に対する離婚慰謝料が認められると判断しています。
どの程度の干渉があれば、特段の事情があると認められるかについては、今後、の裁判例の蓄積を待つ必要がありますが、第三者が不貞している夫婦の一方に対し、配偶者と離婚するよう積極的に働きかけた、その結果として離婚するに至った場合や、第三者自身が、不貞をしていない配偶者に対し、離婚するようメールや電話などで執拗に要請した場合などは、第三者の不貞行為等によって、離婚を余儀なくされたと認められ得るため特段の事情の有無を検討してよいのではないかと思います。
次回は、今回の最高裁判所の判例が出されたことによる、今後の検討課題や注意すべき事項等についてご説明させていただきます。
不貞相手に慰謝料請求ができない??②~各裁判所の判断は?~
【ご相談者様からのご質問】
慰謝料には、離婚慰謝料と不貞慰謝料の2種類があるのですね。
不貞が原因で離婚するのだから、不貞慰謝料だけでなく離婚慰謝料も当然、第三者にも請求できると思うのですが・・・。
【弁護士からの回答】
前回は、最高裁判例の事案のご説明と、どのような点が問題になっているのかについてご説明させていただきました。
この事件、第1審、第2審と最高裁との間で判断が分かれたのですが、ポイントは、不貞行為を行ったことと、夫婦が離婚することをどのように考えるのかというところにあります。
1 第1審及び第2審について
第1審及び第2審は、妻とAとの不貞行為により、夫と妻との間の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったものであるから、Aは両社を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負い、Aは夫に対し、離婚に伴う慰謝料を請求することができると判断しました。
すなわち、第1審及び第2審では、不貞行為を行った第三者に対しても離婚慰謝料を請求することができると判断し、原告の慰謝料請求の一部を認容しました。
判決の理由にもあるように、不貞が原因で離婚したのであるから、離婚慰謝料を支払う義務があるというのは自然なようにも思えます。
もっとも、不貞行為の第三者に対し離婚慰謝料が認められるとすると、不貞により直ちに離婚した場合には、離婚してから3年間相手から請求がない場合には、時効により、請求を逃れられることになりますが、不貞が原因で家庭内別居が続き、不貞行為から10年経過した後に、離婚したような場合には、第三者はその場合でも慰謝料を支払う義務があることになってしまい、いつまでも損害賠償を受けるリスクにさらされることになり、妥当ではないという考え方もあります。
2 最高裁判所の判断
上記第1審及び第2審の判断を不服としたAが、最高裁判所に上告を行った結果、平成31年2月19日、最高裁判所において、それまでの判決のうち、Aの敗訴部分(離婚慰謝料を認めていた部分)を取消した上で、原告である夫の請求を棄却しました。
そして、最高裁判所は、以下のような判断を行いました。
①夫婦の一方は他方に対し、その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害を求めることができる。
②夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、当該夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合はあることはともかくとして、直ちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはない
③第三者がそのこと(夫婦離婚させたこと)を理由とする不法行為責任を負うのは、当該第三者が、単に夫婦の一方との間で不法行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られる。
上記①~③の詳細な内容については次回ご説明させていただきますが、上記判断のうち②については、第三者に対し、「不貞慰謝料」は認められるものの、「離婚慰謝料」は原則として認められないと判断した点で非常に重要な判例とされています。
次回は、最高裁判所の判断の内容について解説させていただきます。
マイナンバーと特定個人情報に関する安全管理体制
平成28年1月から、社会保障、税、災害対策の3分野で行政機関などに提出する書類にマイナンバーの記載が必要になりました。
マイナンバー制度において、多くの方が懸念しているのは「個人情報の漏えい」です。
マイナンバーを取り扱う側である事業者は、外部への漏えい・紛失を絶対防がなくてはなりません。
仮にマイナンバーの情報を漏えい・紛失してしまった場合は社会的信用を失うことにもつながります。そのため安全管理対策の徹底化は急務です。
事業者は、①組織的安全管理措置(組織的に管理する)②人的安全管理措置(人的に管理する)③物理的安全管理措置(物理的に管理する)④技術的安全管理措置(技術的に管理する)の4つの安全管理対策(措置)を講じる必要があります。
前者2つがソフト面、後者2つはハード面の対応と言えますが、今回はソフト面の安全管理対策について検討してみましょう。
1.組織的安全管理措置~組織体制、取扱規定
最初にすべきは、事務における責任者を決めることです。
そのあとに事務を行う担当者を決めて、担当者の役割と取り扱うマイナンバーや「特定個人情報(マイナンバーを含む氏名、生年月日、住所等の個人情報)」の範囲を明らかにします。
事業者はマイナンバーや特定個人情報を安全に取り扱うためのルールである取扱規定等を作成したら、これに基づく運用状況を確認するため、システムログや利用実績を記録する必要があります。
例えば、マイナンバーや特定個人情報に関して、以下のような行為を記録することが考えられます。
・ファイルの利用や出力の記録
・書類や媒体等の持ち出しの記録
・ファイルの廃棄や削除の記録
・情報システムのログインやアクセスログなどの記録
そして、もし担当者が取扱規定等に違反したり、情報漏えいなどがあったりした場合に責任者へ報告するための仕組みを整えます。
複数の部署で取り扱う場合における各部署の任務も明確にしましょう。
2.組織的安全管理措置~取扱状況の把握、情報漏えいなどへの対応
事業者は、マイナンバーや特定個人情報を記録したファイルの取扱状況を確認するための手段を整備する必要があります。
例えば、管理簿を作成し、「ファイルの種類」「名称」「責任者」「取扱部署」「利用目的」「作成日」「廃棄日」「廃棄や削除の状況」「アクセス権を有する者」などを記録する等です。
なお、取扱状況を確認するための記録などには、マイナンバーを記載しないようにしてください。
情報漏えいなどがあったり、その兆候を把握したりした場合に、適切に、且つスムーズに対応する仕組みを整える必要があります。
また、情報漏えいに伴う二次被害の防止などの観点から、再発防止策を早急に公表することが重要です。例えば以下のような対応を行うことを定めておくなどです。
・事実関係の調査及び原因の究明
・影響を受ける可能性のある本人への連絡
・特定個人情報保護委員会及び主務大臣などへの報告
・再発防止策の検討及び決定
・事実関係及び再発防止策などの公表
事業者はマイナンバーや特定個人情報の取扱状況の確認を定期的に行う必要があります。整備した対策は定期的に見直し、必要があれば改善しなければなりません。
3.人的安全管理措置
事業者は、マイナンバーの事務を行う担当者に対し、適切な教育を実施することが求められます。
マイナンバーの取り扱いの留意事項や、新たな制度などに関する研修を定期的に行うなど、常に教育をすることが重要です。
また事業者は、マイナンバーの事務担当者に対し、適切な監督を行うことが必要です。
マイナンバーや特定個人情報について、「秘密保持に関する事項」を就業規則や雇用契約書に盛り込むことなどで、担当者を監督できる体制を構築する必要があります。
4.中小規模事業者の対応
中小規模事業者でも、責任者と担当者を区別することで組織的に管理することが望ましいとされています。情報漏えいなどがあった場合に備え、従業者から責任者へ報告する仕組みを確認し、責任ある立場の者が定期的な点検を実施しましょう。
中小規模事業者の実務担当者には、取扱規定等に基づく運用状況の確認において、取扱状況がきちんと分かるように記録を保存することが求められます。
その方法として、管理簿や業務日誌などにマイナンバーや業務日誌などにマイナンバーなどの入手や廃棄、本人への交付などを記載したり、事務を行う際に利用したチェックリストを保存したりするなどが考えられます。
マイナンバーや特定個人情報の取扱状況の把握においても、同様の記録・保存が必要です。
5.まとめ
マイナンバーの安全管理体制においては、組織的に管理し、情報漏えいを防いでいくことが重要です。
中小規模事業者にも、マイナンバーの事務を行う実務担当者に対し、適切な教育や監督が求められます。
教育や監督の一環として、定期的に外部の専門家による研修等を活用するのも有効です。