不貞相手に慰謝料請求ができない??①~最高裁判例の争点とは~
【ご相談者様からのご質問】
1年前に夫がほかの女性と不倫していることが判明しました。現在、夫とは離婚協議中なのですが、夫が離婚に応じてくれないのと親権等の問題があり、まだまだ離婚については長引きそうです。
夫の不倫相手へ慰謝料については、夫との離婚が解決してからゆっくり請求しようと考えています。
【弁護士からの回答】
先日、最高裁判所において、不貞行為を行った第三者への慰謝料請求に関する重要な判決が出されました(テレビのニュースでも報道されていたので、一般の方でも知られている方もいらっしゃるかもしれません。)。
もっとも、ニュースの見出しなどでは、「不貞行為を行った第三者に対し慰謝料を請求できない」というような誤った情報を与えるような内容も見受けられました。
そこで今回から、最高裁判例の事案の概要や争点(何が法的な問題となったのか)についてご説明するとともに、最高裁判所がどのような判断を行ったのかについてご説明させていただきます。
1 事案の概要
原告の夫は、平成6年3月に妻となる女性と婚姻し、その年の8月に長男、平成7年に長女をさずかりました。しかし、夫は仕事のため帰宅しないことが多く、妻も働くようになった平成20年12月以降は、夫婦の間で性交渉がない状態になっていました。
その後、妻は入社した直後に会社で知り合った男性(訴訟の被告です。以下、Aとします。)と親密になっていき、平成21年6月以降、Aと不貞行為に及ぶようになりました。
そして、夫は、平成22年5月頃、妻とAの不貞関係を知るに至りましたが、そのまま同居を続けていました。また、妻とAとの不貞関係は、同じころ解消しました。
夫と妻はそのまま同居を続けていましたが、平成26年4月頃、長女が大学を進学したのを機に、夫と別居し、半年間夫のもとに帰ることも連絡を取ることもなかったため、夫において平成26年11月頃、離婚調停の申し立てを行い、平成27年2月に調停離婚が成立しました。
そして、離婚成立後、夫から不貞相手のAに対し、妻とAが不貞行為を行ったことにより夫婦が離婚するに至ったとして慰謝料請求等を500万円の支払いを求める訴訟を行いました。
2 問題点
今回の事案で問題となるのが、慰謝料請求権の消滅時効との関係で、「何を原因とする慰謝料請求を行うか」という点にあります。
まず、慰謝料請求権は、不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条、710条)であり、かかる請求権の消滅時効は、被害者が「損害及び加害者を知った時から三年間」になります(民法724条)。
そして、不貞と離婚の関係では、「不貞行為を原因とする慰謝料」(「不貞慰謝料」といいます。)と、「離婚を余儀なくされたことによる慰謝料」(「離婚慰謝料」といいます。)の2つの慰謝料があり、各慰謝料では、時効期間の開始時期(起算点といいます。)が異なります。
すなわち、不貞慰謝料は、不貞行為をされたことにより被った精神的苦痛が損害になります。したがって、時効の起算点、すなわち「損害及び加害者を知った時」というのは、不貞行為の事実及び不貞行為の相手方を知ったときになります。
最高裁判例の事例では、夫は平成22年5月ころ妻とAの不貞の事実を知っているため、3年後の平成25年5月の時点で、時効期間が満了してしまい、夫はAに対し、「不貞」慰謝料が請求できないことになってしまいます。
これに対し、「離婚慰謝料」の場合には、離婚を余儀なくされてしまったことによる精神的苦痛が損害になります。したがって、「損害」を知ったときが時効期間の起算点になるため、離婚慰謝料の場合には、離婚した時が起算点となります。
最高裁判例の事例でも、「離婚」慰謝料の構成をとれば、離婚をしたのが平成27年2月であるため、そこから3年以内であれば離婚慰謝料を請求することができます。
おそらく夫(原告)の訴訟代理人も不貞慰謝料では時効期間の問題があるため、離婚慰謝料として構成して訴訟提起したのでしょう。
したがって、最高裁判例での一番の争点は、「不貞行為を行った第三者(夫婦以外の不貞行為の当事者)に対し、「離婚」慰謝料を請求することができるか」という点になり、この点について、最高裁判所が初めて判断を行ったことで注目が集まっていました。
次回には、上記争点について、第1審、第2審理及び最高裁判所がどのような判断を下したかについてご説明させていただきます。
【不動産】区分所有建物の管理(前編)
区分所有建物の管理について、前後編の2回に分けて見ていきましょう。
前編では、主に管理組合の成り立ちやその役割について説明していきます。
1 区分所有法と区分所有建物の管理の概要
マンションで共同して生活していくためには、玄関ホールや廊下の清掃、エレベーターの保守点検といった日常的なものから、建物全体の補修といった中長期的な修繕計画に基づく建物の修繕まで、多種多様な管理行為が必要となります。そして、当然にこういった管理を行う役割を担う人が必要となります。
(1)区分所有法上の管理に関わる規定
区分所有法は、区分所有者の共有に属するマンションの共用部分の管理について、建物の保存行為を除き、その決定を、①区分所有者らで構成される管理組合の集会決議、または②規約によるものとして、③管理者(管理組合が法人である場合は、管理組合法人)がこれらの管理組合の決議や規約を執行するものと定めています。
しかしながら実際のところ、マンションを管理していくためには多くの知識と労力が必要とされるため、専門業者の助力が必要な場合が圧倒的に多くなるため、外部へ委託されているのが一般的です。
次に、管理組合の内部組織について見てみましょう。
区分所有法は、法人化されている管理組合については理事・監事の規定を置いていますが、法人化されていない管理組合についてはこれらの規定を置いていません。
しかしながら実際のところは、法人化されていない管理組合であっても上記のような役職が設置され、管理組合の意思決定が行われることが一般的となっています。
つまり、実際のマンションの管理は、区分所有法に規定のない管理委託契約により外部に委託され、具体的な管理組合の内部組織は規約により構成されていることが多いため、区分所有法のみの理解ではマンション管理に関わる法律関係を理解することはできないということです。
以下に、管理組合、管理規約、理事長(管理者)、理事・監事、管理会社(管理の委託)について順次解説していきます。(管理規約以降の項目は後編にて)
2 管理組合
(1)管理組合の成立
区分所有者は、その個々人の意思にかかわらず、建物等を管理するための団体の一員となり、所有者全員で建物等の管理のための団体を構成し、この団体を「管理組合」といいます。
(2)管理の対象物
管理組合が管理する対象は、どういった物になるのでしょうか?
区分所有法では、区分所有者の共有に属する①共用部分と②建物の敷地及び共用部分以外の付属施設(これらに関する権利を含む)の管理・変更に関する事項は管理組合の集会の決議または規約によるとしており、これらが管理組合による管理の対象物となります。
管理組合による管理の対象物として区分所有法3条に列挙されているのは「建物」「その敷地」「付属施設」であり、上記にある①共用部分・②建物の敷地及び共用部分に限定されているわけではありません。
更に、規約では「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理または使用に関する区分所有者相互の事項(法30条)」について定めることができるため、管理の対象物を、規約によって上記①や②以外に拡大することも可能なのです。
なお、専有部分に属する物は、当然ながらその部分の区分所有者自身が管理することが原則ですが、例えば水道管を思い浮かべると分かるように、その枝管・支管が専有部分に属する設備であっても、その本管は共用部分に属しており、配管としては構造上一体となっているため、専有部分・共用部分に関わらず一体的に管理する方が効率的な管理対象もあります。
そういった場合にも、規約によって区分所有者ではなく管理組合がその管理を行うよう定める事が可能となっています。
(3)管理組合の法的性格と権限
1の(1)でも少し触れましたが、区分所有建物の管理組合には、①法人化されている場合と②法人化されていない場合の2つのケースが想定されます。
①法人化されている場合
管理組合そのものが権利・義務の主体となり得る
管理組合法人は、その事務に関して区分所有者らを「代理」するものであり(法47条6項)、管理組合法人の法律行為の効果は最終的には区分所有者に帰属します。
②法人化されていない場合
管理組合の法的性格は、その組織の実態に応じて判断されることとなり、組合内で規約を定めて集会が行われている場合は、その多くが権利能力なき社団と判断されます。
また、①と同様に②の管理組合における管理者も、その職務に対し、あくまでも「区分所有者」を代理するもの(法26条2項)と定められています。
つまり、管理組合が法人化しているか否かに関わらず、区分所有建物の管理に関する法律関係は、その本来的な権利・義務の帰属主体が組合ではなく区分所有者にあるということを理解する必要があるのです。
(4)決議の効力と決議事項
管理組合の決議の効力は、決議当時の組合の構成員のみならず、その特定承継人にも及び、更には建物又はその敷地若しくは附属施設の使用方法につき賃借人などの占有者にも及びます。
なお、区分所有法が定めている決議事項は表1の通りで、「区分所有者及び議決権の各過半数」で決するべき普通決議事項(法39条)と決議用件が加重された特別決議事項があります。
また、区分所有法に規定されていない事項についても、区分所有法や公序良俗、その他の法律に反しない範囲で、規約で集会の決議事項とすることも可能です(法30条1項)。
【普通決議事項】
1 | 18条本文 | 区分所有者の共有に属する共用部分の管理に関する事項 |
---|---|---|
2 | 21条、18条本文 | 区分所有者の共有に属する敷地または付属設備の管理に関する事項 |
3 | 25条1項 | 管理者の選任・解任 |
4 | 26条4項、47条8項 | 管理者等に対する訴訟追行権の授権 |
5 | 33条1項但書、42条5項、45条4項 | 法人でない管理組合において管理者がないときの規約、集会議事録、書面決議の書面の保管者の選任 |
6 | 39条3項 | 集会における電磁的方法による議決権の行使 |
7 | 41条 | 集会の議長の選任 |
8 | 49条8項、50条4項、25条1項 | 管理組合法人の理事および監事の選任・解任 |
9 | 49条5項 | 理事が数人ある場合の代表理事の選任または共同代表の定め |
10 | 49条の3 | 理事の代理人の選任の禁止 |
11 | 52条1項本文 | 管理組合法人の事務 |
12 | 55条の3 | 管理組合法人の清算人の選任 |
13 | 57条2項・4項 | 区分所有者等の共同利益は違反行為の停止等の請求の訴訟提起 |
14 | 57条3項・4項、58条4項、59条2項、60条2項 | 区分所有者等の共同利益は違反行為に関する法57条から60条までの訴訟に関する管理者等への訴訟追行権の授権 |
15 | 61条3項 | 建物の小規模一部滅失の際の復旧 |
【特別決議事項】
1 | 17条1項 | 区分所有者の共有に属する共用部分の変更 |
---|---|---|
2 | 21条、17条1項 | 区分所有者の共有に属する敷地または付属設備の変更 |
3 | 31条1項 | 規約の設定・変更・廃止 |
4 | 47条1項 | 管理組合の法人化 |
5 | 55条1項3号、2項 | 管理組合法人の解散 |
6 | 58条1項・2項 | 区分所有者等の共同利益は違反行為に対する専有部分の使用禁止請求 |
7 | 59条1項・2項 | 区分所有者の共同利益は違反行為に対する区分所有権等の競売請求 |
8 | 60条1項・2項 | 占有者の共同利益は違反行為に対する引き渡し請求 |
9 | 61条5項 | 建物の大規模一部滅失の際の復旧 |
10 | 62条 | 建物の建て替え |
(5)決議の限界
管理組合の決議といえども、区分所有法の規定に反することは勿論できません。
区分所有法では、集会の招集・議事の手続について34条以下に規定を置いています。
また、決議の内容についても、決議の内容が公序良俗に反してはならず、かつ区分所有法の規定に反することもできません。
後半に続きます。
【相談事例31】~迷惑動画④動画の拡散や実名を晒すのは違法?~
【相談内容】
先日、僕が通っている大学の同級生が身内のSNSで迷惑動画をアップしていました。
迷惑動画を投撮影することは悪いことですよね?動画を拡散するだけでなく、彼の名前や出身大学などを投稿して懲らしめたいと考えています。
【弁護士からの回答】
自らの正義感や面白半分などという理由により、迷惑行為を撮影した動画を拡散したり、ネット上で迷惑動画などの問題行動を行った当事者の個人情報を探し当て、その情報を拡散することが頻繁になされています。
ニュースなどでは、迷惑動画を撮影した人などを問題視するものが多く、動画を拡散したり、個人情報を晒したりする人の問題については取り上げられていることがなかったため、今回、そのような行為の法的リスクについてご説明させていただきます。
1 肖像権、プライバシー権侵害
判例上認められている個人の生活上の自由(権利)として、承諾なしにその容貌、姿態を撮影されないことが認められており、これを、肖像権やプライバシー権といいます。
したがって、迷惑動画を拡散することは、承諾なしにその容貌などを不特定多数の人に拡散してしまう行為であるため、肖像権やプライバシー権を侵害する行為として損害賠償の対象になりうる行為です。
迷惑動画を撮影するという行為自体は違法なのですが、違法な行為をした人は肖像権が失われるという考え方はなされておりません。
したがって、迷惑動画を撮影した人を拡散する行為も違法な行為に該当しうることになります。(逮捕された容疑者などを無断で撮影し、報道する行為についても肖像権との関係では一応問題となりうるといえるでしょう。)。
2 個人情報の拡散について
迷惑動画の拡散に加えて、動画に映っている人の氏名、住所、出身大学等個人情報についても拡散した場合にはどのような問題があるのでしょうか。
自分自身で行っているので、自業自得という側面は否定できないものの、特定の人物が店の信用を損なうような行為を行っているということは、一般的にその人の名誉を毀損する内容であることが一般的であるため、個人情報を含めて動画を拡散した場合には、かかる行為が民事上違法な行為であることに加え、名誉毀損罪として刑事責任を問われてしまう可能性も否定できません。
以前にご説明したことがありますが、名誉毀損行為を行ったとしても公益的な目的である場合には、違法性が認められない場合もありますが、いわゆるジャーナリズムとは異なり、一般の人がSNSで拡散する行為は、面白半分である場合やリツイート数や「いいね」の数を稼ぐためであることが多いと思われますので、違法性が否定される場合は少ないでしょう。
3 まとめ
スマートフォン及びSNSの普及により、今では誰でも簡単に情報発信をすることができる時代であり、迷惑動画に限らず、ほんの軽い気持ちで投稿したことで他人に多大なる損害を与えてしまう場合や、自分自身を傷つけてしまうことが容易に想定されます。
技術の進歩は素晴らしことですが、それに伴って、技術を用いる人のリテラシーの向上も進歩に比例して必要不可欠になっていると思います。
もし、自分の行うとしている行為が、法的に問題があるのではないかと不安を抱いた場合には、行動を起こす前に弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例30】~迷惑動画③会社側の対策は?~
【相談内容】
個人で居酒屋を営んでいます。うれしいことに毎日繁盛しており、自分や家族だけでは到底手が回らなくなってきてしまったため、一挙に学生さんのバイトを3名採用することになりました。
ですが、最近話題の迷惑動画の投稿による炎上騒動などを目にするようになり、他人事ではないなと思ってしまいました。
学生のアルバイトなどを雇うにあたって、迷惑動画等の迷惑行為を防止するためにはどのような手だてがあるのでしょうか。
【弁護士からの回答】
これまでは、迷惑動画を投稿した側のリスク等についてご説明させていただきました。
今回は、迷惑動画を投稿されないよう、店側としてどのような対策をとればよいのかについて、純粋な法律問題ではないとは思いますが、弁護士としてアドバイスできる範囲でご説明させていただきたいと思います。
1 指導及び管理
まず、入社する従業員に対し、迷惑動画の投稿などを絶対に行わないよう指導すること及び、万が一そのようなことをした場合に店側として従業員に対し損害賠償等法的措置を講ずるという毅然した態度を示しておくことにより、迷惑動画の投稿行為自体を抑制することが期待できるでしょう。
この指導などについては、迷惑動画の投稿のみならず、仕事上知りえた個人情報を流出しないことなど仕事を実施する上での禁止事項をきちんと認識してもらう際に有効であると考えられます。
また、職務中の携帯電話の使用を禁じることや、職場で携帯電話を預かるといった選択肢もありうるところではありますが、その際には、家族からの緊急の連絡などへの対応が困難になりその際の法的責任などの問題もあり、採用する際には慎重な対応が必要になるでしょう。
2 身元保証契約
前回もご説明させていただいたとおり、学生の従業員が迷惑動画等の不法行為を行ったとしても、親に賠償責任を追及することはできません。
そこで、親族等を身元保証人とすることで、仮に従業員が会社に損害を与える行為を行った際には、身元保証人に対し、賠償額を請求することができることになります。
したがって、損害を確実に回収するためには、入社時に身元保証契約を作成するのがよいでしょう。
もっとも、身元保証契約を締結するためには、契約書が必要であり、他人の損害を肩代わりする契約であるため、要件が厳格に定められており、せっかく身元保証契約を締結したとしても、要件を充足していない場合には身元保証契約は無効になってしまうことになります。
したがって、身元保証書を作成する際には、弁護士に作成を依頼するか、作成した契約書が有効な内容になっているのかについて、一度弁護士に相談されることをおすすめします。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例29】~迷惑動画問題②親の賠償責任は?~
【相談内容】
迷惑動画を投稿してしまうと、とても大変なのですね。息子にもくれぐれもしないようにしっかり言い聞かせておきます。
ひとつお聞きしたいのですが、万が一息子が迷惑動画を投稿してしまい、損害賠償をしなければならない場合、法律上親である私も賠償責任を負わなければならないのでしょうか。
【弁護士からの回答】
前回は、迷惑動画を投稿してしまったことによる、投稿者にどのようなリスクがあるのかについてご説明させていただきました。
今回は、親の法的責任についてご説明させていただきます。
1 誰が賠償責任を負うのか
結論からお伝えすると、迷惑動画を投稿したお子さんが賠償責任を負い、親御さんが賠償責任を負うことは原則として賠償責任を負うことはありません。
民法714条では、責任無能力者が不法行為を行った場合、監督責任者が賠償責任を負うと規定されており、お子さんが責任無能力者の場合には親御さんが責任を負うことになりますが、一般的に14歳以上のお子さんの場合には責任能力は認められると言われているため、アルバイトができるようなお子さんの場合には監督責任者である親が賠償責任を負うことはありません。
上記民法714条以外に民法上子どもが不法行為を行ったら親が賠償しなければならないと規定されているわけではないので、お子さん自身が賠償責任を負うことになります。
もっとも、親御さんはあくまでも法律上責任を負わないだけであって、アルバイトなどで働いていたお子さんが多額の賠償を行うことは困難であるため、事実上家族も支払いを余儀なくされてしまうのが通常だと思います。
2 身元保証契約
上記のように、お子さんが不法行為を行ったとしても原則として親御さんが賠償責任を負うことはありません。
もっとも、お子さんが入社するときに親御さんにおいて身元保証契約書等に署名・押印していた場合には、親御さん(身元保証人)も賠償責任を負う場合があります。
身元保証契約とは会社(使用者)が採用した労働者(従業員)の行為によって会社が被った損害を、本人にかわって保証する契約になります。
お子さんが入社する際には、とくに意識せずにこの身元保証契約書に署名・押印されている親御さんがほとんどであると思いますが、身元保証契約を締結した場合には迷惑動画の投稿に限らず、お子さんの職場での行為により親御さん自身も多大な賠償責任を負ってしまう可能性があることを理解する必要があるでしょう。
この身元保証契約ですが、法律により有効期間が定められており(身元保証に関する法律第1条、2条)、不法行為を行った時期が有効期間外である場合には賠償責任を負うことはありません。
また、使用者側から提示された賠償額については、その金額が適正な金額であるのかについては精査をすう必要がある場合もありますので、お子さんが入社の際に身元保証契約を締結しており、会社から賠償の請求をされた場合には、是非一度ご相談ください。
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「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例28】~迷惑動画問題①どのようなリスクが?~
【相談内容】
今度大学に入学する息子が飲食店でアルバイトすることになったのですが、最近、ニュースでコンビニや飲食店の従業員による迷惑動画が取り上げられているため、他人事ではないと感じてしまいます。
自分の息子に限ってそのようなことはないとは思うのですが、もし、息子が職場で迷惑動画を撮影し、その動画が流出することになってしまった場合、息子や私たちにどのようなリスクがあるのでしょうか。
【弁護士からの回答】
ここ数日、コンビニや飲食店の従業員が、店内の商品や食材等を雑に扱う様子などを撮影されたいわゆる迷惑動画がネット上に公開、拡散され、話題になっています。
先日、迷惑動画を撮影した従業員に対し、勤務していた店舗を経営する企業が、法的措置を講ずると発表したこともあり、軽い気持ちでふざけて撮影し、投稿した動画により、多大な迷惑や損害を被ることについては、知れ渡っているのではないでしょうか。
そこで、今回は、迷惑動画を撮影し投稿したことによりどのような法的責任が発生するのかについてご説明させていただきます。
1 刑事責任
店の従業員が、店の商品や食材を雑に扱った動画を撮影し公開することにより、そのお店ではそのように雑に商品を扱い提供させているという虚偽の情報を世間一般に公開している形になるため、迷惑動画を撮影し、公開する行為は、偽計業務妨害罪若しくは信用棄損罪(刑法第233条)が成立する可能性があります。
このように、軽はずみな気持ちで迷惑動画を投稿してしまうだけで、悪質な場合には逮捕されてしまう可能性があることは理解する必要があると考えています。
2 損害賠償責任
上記のように、従業員が違法な行為を行っている以上、不法行為として従業員には迷惑動画を行ったことにより、店舗(企業)が被った損害を賠償する民事上の責任を負うことになります。
賠償額として店の信用低下による売り上げ減少額にとどまらず企業の株価下落による損害まで請求できるのかという、不法行為と損害との因果関係の問題があり、今後の裁判例の蓄積を待つ必要はありますが、数百万円単位での賠償額が認められたとしても不自然ではありません。
3 その他の損害
迷惑動画を投稿した従業員については、解雇等懲戒処分を受けてしまうことは当然ですが、それ以外に怖いのが、ネット上で本人の氏名、住所、大学、家族、交友関係等の個人情報が特定されてしまうところにあると思います(個人情報の特定に関しては別の機会にご説明させていただきます。)。
いったんネット上に公開された個人情報については、削除することは事実上不可能であり、一生残ってしまうことになってしまうため、軽はずみに投稿してしまうことにより、取り返しのつかない事態になってしまうため、迷惑動画の投稿は絶対に辞めた方がよいでしょう。
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「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例27】~インフルエンザでも出勤強要、違法では?~
【相談の内容】
土曜日にちょっと人が多いところに行ったため、日曜日非常に高熱が出たため、今朝病院に行ったらインフルエンザと診断されました。
すぐに会社に連絡し、休む連絡をしたところ、上司から「忙しい時期なんだから出社しろ」と言われました。
インフルエンザなのに出社なんかしたら会社に迷惑をかけてしまうだけだと思うのですが・・・・
【弁護士からの回答】
2019年は全国各地でインフルエンザが猛威を振るっており、福岡でも、1月に、警報レベルでの感染者が報告されるに至りました。
インフルエンザウイルスは、飛沫感染のみならず接触感染も認められるウイルスであり、インフルエンザであるにも関わらず、無理に会社などに出社してしまうと、他の従業員に移してしまうなど多大な迷惑をかけることになってしまうため、通常の企業であればインフルエンザに感染した従業員に関しては、欠勤させ、他の従業員に対する感染を防ぐという企業が一般的であると認識しています。
では、ご相談者様の事例のとおり、従業員がインフルエンザに感染したにもかかわらず、上司や会社において出勤を強制した場合には、どのような問題になるのかご説明させていただきます。
1 安全配慮義務違反
使用者と労働者との間の契約(雇用契約)関係を規律する労働契約法5条では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と規定されており、かかる規定は、使用者側に労働者の安全を確保するための義務、すなわち、安全配慮義務を負っていることを記載している規定であると言われています。
したがって、使用者側としても、自由に従業員を出勤させることができるというわけではなく、労働者の安全を確保しなければならないという点での制約を受けることになります。
そして、インフルエンザであることが診断書などで客観的に判明している場合に、当該インフルエンザに感染した従業員を出勤させることは、従業員の体調をさらに悪化させることにつながり、当該従業員の身体の安全を害する行為であることに加え、ウイルスに感染した従業員を出勤させたことにより、他の従業員にウイルスが感染し、他の従業員の体調が悪化することで、他の従業員の身体を害する行為にも当たりうるものです。
したがって、インフルエンザに感染した従業員を無理に出社させることは、当該従業員のみならず他の従業員に対しても安全配慮義務違反し、会社や上司において、損害賠償の支払を余儀なくされることになる可能性があります。
2 パワーハラスメント
近年、パワハラの件数が増加してきたことを踏まえ、厚生労働省では、このパワーハラスメントに該当しうる行為として6つの類型を挙げており、その中の1つの類型として、「過度な要求:業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制仕事の妨害」というものがあります。
そして、インフルエンザに感染した従業員を強制的に出席させる行為は、過大な要求として、パワハラ行為に該当する可能性があり、その場合には使用者若しくは上司において、パワーハラスメントに伴う損害賠償(慰謝料)を請求される可能性も否定できません。
3 労働安全衛生法違反
また、労働安全衛生法では、「事業者は、伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものにかかった労働者については、厚生労働省令で定めるところにより、その就業を禁止しなければならない」と規定しており(同法68条)、厚生労働省で定める省令では、就業が禁じられる場合として「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかった者」(労働安全衛生規則61条)を規定しています。
インフルエンザウイルスに感染した従業員については「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかった者」と認定されることになると思われます。
したがって、就業が禁じられているインフルエンザに感染した従業員を強制的に出社させることは、上記労働安全衛生法に違反し、事業者(使用者)には6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科される可能性があります(労働安全衛生法119条1号)。
4 最後に
このように、インフルエンザウイルスに感染してしまった、従業員を強制的に出勤させてしまった場合には、損害賠償請求のリスクだけでなく、刑事罰を科されるリスクも存在することになります。
インフルエンザにウイルスに感染してしまった場合には、仕事に行かず他の人に感染を拡大させないことが、従業員本人のみならず、企業にとっても一番重要なことではないかと考えています。
今回の相談事例のような従業員の出退勤に関してはトラブルになりやすい場面であるため、早めに弁護士にご相談されることをおすすめします。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」
【相談事例26】弁護士の仕事とは③~裁判業務について~
【質問内容】
弁護士さんのお仕事といったら裁判で活躍するというのが印象的ですが、裁判ではどのようなことをされているのですか。
テレビドラマであるように毎回毎回法廷で相手方と言い争っていると思うととっても大変ですね。
【弁護士からの回答】
テレビドラマなどでは、弁護士が法廷で依頼者側の主張を延々と述べ、その主張の優劣で裁判の結論が変わるかのような演出がなされていることが多くみられます。
確かに、刑事裁判においては、被告人の代理人として裁判官や裁判員に対し、無罪であることや、量刑を軽くするために、法廷で発言することがありますが、民事裁判の場合はそのような機会はほとんどなく、実際に行われている裁判の期日の内容は皆さんが抱いている裁判のイメージと大きく異なると思われます。
そこで、今回は、裁判業務についてご説明させていただきます
(刑事裁判や民事裁判の具体的な内容については、別の機会にご説明させていただきます。)
1 刑事裁判について
刑事裁判では、起訴された被告人の代理人(弁護人)として被告人が無罪の場合には無罪を主張し、罪を犯したことは間違いないとしても、被告に有利な証拠(情状)を提出することにより、量刑を減刑するよう活動を行います。
その活動のなかで、証人に対し質問(尋問といいます)したり、被告人に対し質問を行ったりする尋問手続きという手続きがあるのですが、その尋問手続きは、テレビドラマで見ているように、弁護士が法廷で証人に対し質問を行うことになります。
また、裁判の終盤には、検察官の方から被告人がこれだけ悪いことをしているので厳罰にすべきであるというようなことを主張する論告・求刑という手続きがあり、それに対し、弁護側として、犯人ではない、犯罪は成立しない、犯罪は成立するとしても、このような事情が存在するので、刑を軽くすべきであるというような主張を行う弁論という手続きがあります。
別の機会にご説明させていただきますが、裁判員裁判においては、先ほどの尋問手続きと、この弁論でどのような主張を行うかによって、裁判員が受ける印象も大きく異なってくるとも言われているので、弁護士の腕の見せ所であるともいえると思います。
2 民事裁判について
民事裁判における弁護士の役割は、刑事裁判とは大きく異なり、基本的には弁護士が法廷で発言するような期間はほとんどといっていいほどありません。
具体的には裁判までの期日までに、書面を作成して証拠を作成し事前に裁判所と相手方にて出し、裁判では、その書面と証拠を提出したことを確認したうえで、次回の期日までに提出すべき書面(相手方の反論や、こちら側の主張の補充などです。)などを確認して、1回の期日が終わります。
時間にすると平均して10分程度で終わるのが通常かもしれません。ご依頼いただいた方も裁判に一度出席したいとの意向で、期日に出廷される方もいらっしゃるのですが、1回の期日があまりにも短く終わってしまうので拍子抜けしてしまう方も少なくありません。
そのように、主張を行い続けていった上で、争点に関し、刑事事件と同様に証人や当事者に対し尋問手続を行います。
もっとも、民事裁判においては証人尋問における証言の重要性はあまり高くなく、証人尋問前の書面や証拠が非常に重要となります。
3 最後に
このように、刑事裁判や民事裁判において弁護士が行う活動は様々ですが、基本的に裁判所で活動をできるのは弁護士のみであるため、裁判を起こす、裁判を起こされたという事態になったらなるべく早期に弁護士にご相談ください。
掲載している事例についての注意事項は、こちらをお読みください。
「相談事例集の掲載にあたって」
相談事例集の掲載にあたって
当事務所では、初回相談に関しては、1時間無料にて対応させていただいていることから、日々様々なご相談をいただいております。
これまで、離婚、相続等個々の分野に関して、コラムを作成させていただきましたが、日常で発生する法律問題については、離婚、相続に限らず、あらゆる法律問題が存在しています。
当事務所にご相談に来られる方もこうした様々な法律問題や、そもそも法律の問題ではないトラブルについてもご相談いただくことがございます。
そこで、この相談事例集では、ご相談にお越しいただいた方の相談内容や、社会的に問題になっている事項等を参考に、一般的な相談内容に対し、弁護士としての見解やアドバイス等をご紹介させていただくことにより、弁護士を身近なものに感じていただき、那珂川町のみならず、春日市、大野城市、太宰府市等にお住いの皆様からお気軽にご相談にお越しいただけたらと考えております。
【注意事項】
ご紹介する相談事例はあくまでも一般的な事例であるため、当事務所への個々の相談や、受任している個別の事件とは一切関係ありません。
また、回答に関しても一般的な相談に対するものであるため、実際の事件の際には異なる処理が適切である場合がございます。
したがって、この事例集をご覧になられた方において、相談事例と同様若しくは類似すると感じた場合でも必ず弁護士のご相談を受けることをおすすめいたします。
事業者に求められるマイナンバーの安全管理
平成27年10月からマイナンバー制度がスタートし、平成28年1月からは、社会保障、税、災害対策の行政手続きでマイナンバーの利用が始まりました。
事業者は、マイナンバー法で定められた事務等のうち、税と社会保険の手続きでマイナンバーを利用します。個人の重要な情報であるマイナンバーに関し、事業者はどのように安全管理を行うべきでしょうか。
1.事業者によるマイナンバーの安全管理の基本的な流れ
事業者がマイナンバーを取り扱う上での安全管理に関しては、特定個人情報保護委員会のガイドライン(事業者編)」で規定されています。
これにより、事業者はマイナンバーを安全に管理し、外部への漏えいや紛失を防ぐために、「どのような事務でマイナンバーを取り扱うか?」「どのようなマイナンバーを取り扱うか?」「誰がマイナンバーを取り扱うか?」についての措置を検討することになっています。
これらを考慮しつつ事業者は、マインバーや特定個人情報を安全に管理するための方針である基本方針と、安全に取り扱うためのルールである取扱規定を策定します。
そして以下の4つの安全管理措置を講じることになります。
・組織的安全管理措置
・人的安全管理措置
・物理的安全管理措置
・技術的安全管理措置
まとめると、事業者のマイナンバーの安全管理の基本的な流れは、①措置の検討 ②基本方針と取扱規定の策定 ③安全管理措置 を講じることとなります。
今回は安全管理措置を講じる前段階として、措置の検討と基本方針・取扱規定の策定についてお話ししますので、しっかり準備を整えていきましょう。
2.マイナンバーの安全管理~措置の検討
マイナンバーを安全に管理し、外部の漏えいや紛失を防ぐ上で、まずは「どのような事務でマイナンバーを取り扱うか?」について明確にしておかなければなりません。
頭書のとおり、事業者はマイナンバー法で定められた事務等のうち、税と社会保険の手続きでマイナンバーを利用します。
税関係の事務としては源泉徴収票や給与支払報告書の作成事務、社会保険関係の事務としては、健康保険・厚生年金保険の届出や給付を受ける事務、雇用保険の届出や給付を受ける事務です。
次に、「どのようなマイナンバーを誰が取り扱うか?」を明確にします。前段で明確にした事務について、取り扱うマイナンバーや特定個人情報の範囲を明確にしていきます。
具体的には、それぞれの事務において書類に記載されるマイナンバーと、それに関連付けて管理される「氏名」「生年月日」といった個人情報を洗い出すことです。
尚、特定個人情報とはマイナンバーを含む個人情報を指します。
マイナンバーにさまざまな情報を関連付けると、万が一情報が漏えいした場合などに被害が大きくなることも予想されますので、必要最小限の情報に限定した方がよいでしょう。
一般的には従業員と扶養家族のマイナンバーと氏名、生年月日となります。
そして措置の検討の最後は、マイナンバーや特定個人情報を「誰が取り扱うか?」です。
事業者は、事業者内でマイナンバーを取り扱う事務を行う担当者を明確にしておく必要があります。
事業者によっては個人名を特定することが困難な場合も想定されます。そのような場合は、例えば総務部人事担当者などとし、担当者が特定できれば構いません。
3.マイナンバーの安全管理~基本方針の策定
事業者はマイナンバーを安全に管理するための基本となる方針「基本方針」を策定します。
作成は任意ですが、会社組織としての方向性をきちんと示す手段として非常に重要だと思われます。尚、基本方針を策定する場合は、以下の項目を盛り込んでください。
・事業者の名称
・関係法令・ガイドラインなどの遵守
・安全管理措置に関する事項
・質問・苦情処理の窓口など
4.マイナンバーの安全管理~取扱規定の策定
マイナンバーや特定個人情報を安全に取り扱うためのルールとして取扱規定等を作成することは事業者の急務と言えます。事務の流れを整理し、具体的な取り扱いを定めます。
例えば、以下のような段階ごとに「誰が」「どのように」取り扱うかを検討し、取扱規定を定めます。
・取得する段階(社員からマイナンバーの報告を受けるなど)
・利用する段階(届書にマイナンバーを記載するなど)
・保存する段階
・提供する段階(届書を役所に提出するなど)
・廃棄・削除する段階
5.まとめ
従業員が100人以下の中小規模事業者については、新たに取扱規定として作成しなくとも、日頃使用している業務マニュアルや業務フロー図、チェックリストなどにマイナンバーや特定個人情報の取り扱いを加えるなどの形で構わないこととされています。
中小規模事業者では、事務で取り扱うマイナンバーや特定個人情報が少なく、取り扱う担当者なども限定的であると考えられるので、事業者の負担が軽くなるよう特例的な方法も認められています。
担当者が変更になった場合等も、責任ある立場の者が確実な引継ぎを確認していれば問題ありません。業務フロー図やチェックリストなどを活用して徹底管理するなどの対応をすすめていただきたいものです。