従業員の採用に伴い必要な手続きと注意すべきこと
従業員を採用するときには、従業員に対する手続き、年金事務所への手続き、ハローワークへの手続きなど様々な手続きを行う必要があります。そして、従業員の人数が増えてきたら、労働基準法に基づき発生する義務についても気を付けなければいけません。
いずれも忘れてしまうと後々トラブルになる可能性がある重要なことですので、詳しく説明していきたいと思います。
また、採用後のことだけでなく、従業員を雇おうとする前に確認していただきたい事項についてもご説明します。
1.採用する前に確認したいこと
まずは、これから従業員を採用しようと検討されている方に知っておいていただきたい2つのことを説明します。
1つ目は、労働保険の加入義務です。農林水産の一部の事業を除き、1人でも従業員を雇用する場合には、労働保険(雇用保険・労災保険)に加入する必要があります。これらの保険に加入していないと、ペナルティが課されたり、助成金が受けられなかったりする場合があります。
加入手続きとしては、雇用保険は「雇用保険 適用事業所設置届」を所轄のハローワークに、労災保険は「労働保険 保険関係成立届」と「労働保険概算保険料申告書」を所轄の労働基準監督署に提出します。
2つ目は、ハローワークへの求人申込みです。
採用活動をするにあたり、求人サイトや自社のホームページに求人情報を掲載するなどの方法がありますが、採用が成功するのか分からないのに掲載料を支払うことを不安に感じたり、自社のホームページを作成していなかったりする方もいらっしゃると思います。
そこでご紹介したいのが、無料のハローワークの求人を利用することです。初めて求人を出す場合には事業所登録が必要なので、まずは「事業所登録シート」を記入します。そして、求人の条件等を「求人申込書」に記入し、これらの書類を窓口で提出しましょう。
受理された後、求人票が公開されます。中高年者や障がい者などの就職困難者を雇い入れると、助成金がもらえることがありますので、申込みをする前に窓口で相談してみることをおすすめします。
2.採用決定後必要な手続き
次に、実際に従業員の採用が決定した後に必要な手続きについて説明します。
従業員を採用するときは、従業員に、①労働契約の期間に関する事項、②就業の場所、従事する業務の内容、③始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換に関する事項、④賃金の決定・計算・支払いの方法、賃金の締め切り・支払いの時期・昇給に関する事項、⑤退職に関する事項を明示しなければなりません。
この5つを絶対的明示事項といい、昇給に関する事項を除いて、書面の交付により明示する必要があります。明示は、会社から「労働条件通知書」を渡すことで足りるとされていますが、これは、絶対的明示事項が十分に記載された「雇用契約書」でも代えることができます。
会社・従業員の双方が労働条件に合意したことを残してトラブルを防ぐために、一方的に交付する労働条件通知書ではなく、雇用契約書を作成し、署名・捺印した上で、双方で保管することをおすすめします。また、労働者名簿を作成する義務があるので、入社が決定した時点で作成しましょう。
そして、各種手続きを行うために必要な書類として、採用者には、履歴書、マイナンバーカード等本人及び被扶養者のマイナンバーが分かる書類、本人及び被扶養配偶者の年金手帳、中途採用の場合は源泉徴収票と雇用保険被保険者証を提出してもらいます。そのほかにも、万が一、会社に損害を与えた際に、本人以外にも請求することができる身元保証書についても取得しておきましょう。
雇用保険や社会保険の適用対象者を採用した場合は、各保険の加入手続きをする必要があります。雇用保険の被保険者となるのは、週所定労働時間が20時間以上であり、31日以上の雇用見込みがある場合です。
手続きとしては、入社日の属する月の翌月10日までに、「雇用保険 被保険者資格取得届」を所轄のハローワークに提出します。社会保険の被保険者となるのは、法人事業所または常時従業員が5人以上の個人事業所で、常時使用される場合です。
70歳以上であれば、原則として、健康保険のみの加入となります。手続きとしては、入社日から5日以内に「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」を所轄の年金事務所に提出します。また、配偶者や子供を被扶養者とする場合には「健康保険被扶養者届」、配偶者を第3号被保険者とする場合には「国民年金第3号被保険者関係届」も一緒に提出します。
雇用保険・社会保険の手続きが完了したら、会社に交付される雇用保険被保険者証、雇用保険被保険者資格取得等確認通知書(被保険者通知用)、健康保険被保険者証を従業員に渡しましょう。
3.従業員が増えてきたら気を付けること
従業員の人数が増えてきたら気を付けなければならないことがあります。それは、就業規則の作成・届出義務です。この義務があるのは、常時10人以上の従業員がいる事業所です。従業員には、パートタイマーやアルバイトも含みます。10人未満の事業所であったとしても、作成することは自由です。
就業規則には、必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」、該当する場合に記載しなければならない「相対的必要記載事項」、記載してもしなくてもよい「任意的記載事項」があります。
例えば、退職金制度に関して規定したい場合は、相対的必要記載事項として記載します。就業規則は各会社のルールですので、会社の実態に合った内容のものを作成しないと、後々トラブルになります。
自分で作成するのは難しそうだと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そのような場合でも、インターネットにあるテンプレートを使うのではなく、必ず社会保険労務士などの専門家に依頼しましょう。
作成したら、従業員の過半数が代表と認めた者の意見を聴く必要があります。同意してもらう必要はありませんが、意見を聴き、意見書を作成・自署してもらわなければなりません。そして、就業規則に意見書と就業規則届を添付して、所轄の労働基準監督署に届け出ます。
この際、これらの書類は2部ずつ作成し、1部は提出、1部は会社の控えとして受付印をもらいます。届け出た就業規則については、配布・掲示などによって周知する義務があります。
4.まとめ
これまでに述べた通り、従業員を採用すると、多くの手続きを行う必要があるほか、義務が発生する場合があります。
忘れてしまうと労使トラブルに発展する可能性があるので、もれなく慎重に進めていきましょう。
事業者のマイナンバーの取得手続きの実務
平成27年10月からマイナンバー制度がスタートし、平成28年1月からは、社会保障、税、災害対策の行政手続きでマイナンバーが必要となりました。
そんな中、事業者は、マイナンバー法で定められた事務等のうち、税と社会保険の手続きでマイナンバーを利用することになります。
では、事業者が従業員のマイナンバーを利用する際に、総務、人事、経理など事業者の実務担当者が注意すべき点は何でしょうか?
1.事業者のマイナンバーの取得・利用・提供
マイナンバー制度の導入によって、具体的には事業者が税務署や市区町村に提出する源泉徴収票や給与支払報告書、年金事務所、ハローワークなどへの社会保険関係の手続き書類に従業員のマイナンバーの記載が必要になりました。
そのため、従業員やその扶養家族からマイナンバーを取得し、源泉徴収票や社会保険被保険者取得届などの書類にマイナンバーを記載し、各行政機関へ提出するというのが、事業者の行うマイナンバー制度実務の基本的な流れです。ちなみに、マイナンバーを記載した書類が最終的に提出される先は必ず行政機関です。それ以外の場合にマイナンバーを利用・提供することはできません。
事業者は税や社会保険の手続きに使用する場合のみマイナンバーの取得が可能となり、マイナンバーの取得手続きには、利用目的の明示と厳格な本人確認が必要とされています。
では具体的には事業者の実務担当者のマイナンバー取得手続きはどう行えばよいのでしょうか?
2.マイナンバーの取得手続き~利用目的の明示
マイナンバーを従業員から取得する際は、「源泉徴収票・給与支払報告書にマイナンバーを記載して提出します」など、個人情報保護法第18条に基づき、利用目的を特定し、本人に通知または公表する必要があります。法律で限定的に明記された場合以外で、提供を求めたり、利用したりすることはできません。そのため、仮に本人の同意があったとしても、法律で認められる場合以外でマイナンバーの提供や利用はできないことになっています。
実務においては、源泉徴収や社会保険、雇用保険など複数の目的で利用する場面がありますが、マイナンバーの利用目的の明示については、複数の利用目的を包括的に明示することも可能です。
ちなみに、利用目的を後から追加するのであれば、改めて従業員の同意を得る必要があるため、発生が予想される事務であればあらかじめ利用目的に加えておくべきでしょう。
なお、従業員へ利用目的を通知する方法としては、社内LANや就業規則による特定・通知、利用目的通知書の配布、社内掲示板への掲示などの方法があります。あくまで通知すればよいため、利用目的について従業員の同意を得る必要はありません。
現実的には、利用目的に同意が得られないのに、マイナンバーの提供をしてくれる人はいないでしょうが。。。
3.マイナンバーの取得手続き~本人確認
事業者がマイナンバーを取得する際は、厳格な本人確認を行うこととされています。
事業者の実務担当者はマイナンバーの本人確認において、「正しい番号であることの確認(番号確認)」と合わせて、「手続きを行っている者が番号の正しい持ち主であることの確認(身元確認)」を行うことになります。番号のみでの本人確認では他人のなりすましのおそれもあることから認められていません。他人のなりすまし防止のため必ず番号確認と身元確認が必要で、2つを合わせたものが本人確認です。
さて、本人確認は従業員などから確認に必要な書類を提示してもらい行うことになります。
必要書類として、個人番号カードや通知カードなどの番号確認のためにマイナンバーが記載されている書類と、個人番号カードや免許証等の写真付きの証明書など、身元確認のために本人実存を確認する書類があります。
扶養控除等申告書、個人番号報告書などのマイナンバー提出書類と、上記の番号確認のための書類と、身元確認のための書類を確認することで、本人確認がなされたことになります。個人番号カードは唯一1枚で本人確認が行える書類といえます。
尚、従業員の扶養家族のマイナンバー取得の場合はどうすればよいかというと、法律上基本的に従業員が扶養家族の本人確認を行う義務を負っています。つまり事業者の実務担当者は、扶養家族分のマイナンバーを従業員から取得するだけでよいということになります。
4.まとめ
これまで述べてきたように、事業者の実務担当者は、社会保険や税の書類作成のために、従業員などからマイナンバーを取得する必要があります。
マイナンバー取得時には、従業員に対して、「社会保険や税に関する書類作成のためにマイナンバーを記載することは義務である」ことを周知します。しかし、マイナンバー制度への理解度が低い導入当初は、マイナンバーへの提供を求めても拒まれるようなケースもあります。
従業員がマイナンバーを提供しなかったとしても、従業員などに対する罰則はありません。また、事業者がマイナンバーの提供を受けられなかったとしても、事業者に対する罰則もありません。
そのため、マイナンバーの記載がなくとも行政機関が書類を受理しないということはありません。
マイナンバーの提供を拒まれた場合は、書類提出先の行政機関の指示に従うことになりますので、事業者の実務担当者のみなさんは、提供を求めた経過や、提供を拒まれた理由等を記録・保存し、単なる義務違反ではないことを明らかにしておかれることをお勧めします。
気をつけたい企業におけるSNSトラブル
近年、インターネットの普及に伴って急速に盛り上がりを見せているSNSですが、投稿した記事や意見がいわゆる「炎上」を起こし社会的な問題になり、誤った情報などが拡散されるなど、トラブルも多く見受けられます。
コミュニケーションツールとして、また企業PRにも使用されるなど便利な一方、さまざまな危険性やリスクも存在します。今回は現状と労務側から見たリスクについて考えてみましょう。
1.SNSの概要と共通する問題点
SNSとは、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(Social Networking Service)の頭文字をとったもので、匿名もしくは実名で登録された利用者同士で、専用のWEBサイトやスマートフォンアプリを通じ、記事の投稿やメッセージのやり取りを行うサービスのことを言います。
Twitter(ツイッター)やFacebook(フェイスブック)、Instagram(インスタグラム)などが有名なSNSですが、どれも同じということはなく、ツイッターは匿名制で投稿する字数が限られていること、フェイスブックは実名登録制で学歴や職業まで記載するよう推奨していることなど、各SNSで特徴が異なります。
しかしながら、個人情報、機密情報の漏えいや執拗な友人申請、「いいね」を強要するなどのハラスメントは各SNSに共通した問題となっており、個人・企業関わらず慎重に運営していかなければなりません。
SNSでは、ブログなど他ネットサービスと同様、投稿した記事が世界中に一斉に広まるため、完全な削除が困難であることや、匿名で投稿したとしても、あらゆる情報を駆使し個人を特定されてしまうおそれもあるため、注意が必要です。
2.SNSで問題となりやすいケース
憲法にある表現の自由(第21条1項)に基づき、SNSへ自由に投稿する権利は誰にもあるとされていますが、投稿の内容については十分気をつけなければなりません。
(1)個人アカウントからの情報漏えい、業務中の不適切な行為
カメラ付き携帯電話やスマートフォンの普及によって、多くの人がいつどこでも高画質で写真撮影ができるようになり、撮影したその場ですぐにSNSへ投稿できることは気軽で便利ともいえます。
しかし、その公開されたSNSの写真中に、個人の連絡先や勤務先で開発中の新商品が写ってしまっていたらどうなるでしょうか。
個人情報が拡散され悪用されてしまったり、漏えいした新商品より先に競合他社が同様の商品を販売開始してしまい、利益が得られなくなることもあり得ます。
匿名で行われるSNSの場合、勤務先や個人情報の表記は必須ではありませんが、多くのSNSでは他SNSやブログと連携しており、連携先で記載していた情報や写真、投稿文から氏名、勤務先や学校名といった個人情報が判明することがあるのです。
また、業務中にアルバイト従業員が勤務先の食器洗浄機内や冷凍食品販売ケース内に入り、写真を撮影しSNSに投稿したところ、たちまち拡散され、飲食店やコンビニには「不衛生だ」とか「従業員の教育はどうなっているのか」など苦情が相次ぐ事態となり、大問題になったことは記憶に新しいところです。
問題を起こした各店舗の多くは、売ることができなくなった冷凍食品の廃棄や庫内の清掃、食器洗浄機の消毒もしくは機器を新品のものに入れ替えるなどの対応をせざるを得なくなり、また、小規模店舗などでは運営が困難になったとして、閉店、破産に追い込まれたケースもあるなど、損害は大変大きいものとなります。
(2)企業公式アカウントの炎上トラブル
企業が広報の一環としてSNS上に公式アカウントを得て、自社商品やサービスのPR、客とのやり取りを行うことも最近では珍しいことではありません。
人気のある企業アカウントでは、こまめに客への返信を行い、新商品の紹介をユニークな動画で紹介するなどした結果、業績が向上したケースもある中、SNS運用が適切でないケースでは、スピードを重視するあまり、充分な内容の確認をしないまま担当者のみの判断で投稿されることもあるようです。
担当者の主観的な意見がその企業全体の意見として捉えられることもあり、世論と真逆の意見を述べたり、倫理的に問題があった場合に批判や非難が殺到、いわゆる「炎上」を起こし収拾がつかなくなる事態にもなりかねません。
(3) その他のSNS上でのトラブル
上記のトラブルの他にも、
・SNSアカウントが乗っ取られ、友人登録されている取引先のアカウントへ勝手に詐欺メッセージが送られてしまう
・勤務先、同僚への誹謗中傷を実名でSNSに書き込んだところ拡散されてしまい、名誉毀損、業務妨害で訴えられる
・本来自由になされるべき行為である、従業員に対する自社アカウント投稿記事への「いいね」を強要(行き過ぎた業務命令)
・好意を寄せている同僚へSNSの友人申請を執拗に行い、拒否されたのにも関わらず申請を続けている
などの問題が日々起こっており、これまでにない新しいケースとして、労務管理側は対応に時間がかかり苦慮することもあります。
3.トラブルを防ぐための規定作り
個人アカウント、企業アカウントに関わらずSNSを適切に利用するためには、就業規則や社内規則に利用上の禁止事項を規定して従業員に徹底させ、重大な違反があった場合は規則に則って措置を行う体制を構築しておくのが望ましいとされます。
なお、就業規則を変更するためには、従業員代表者の意見を聞き、変更後の内容については労働基準監督署に届出をする必要がある等、手間がかかるのはもとより、目まぐるしく様態が変化するSNSに沿った内容に逐一変更していく、というのは現実的ではありません。
そのため、就業規則についてはSNS以外でも適応できる一般的な表記にし、SNSに対しては別にガイドラインを設け、具体的な注意点等を記載していくことが、トラブルを未然に防ぐ対策として有効となります。
ガイドラインの詳しい作成方法は後述しますが、SNSの種類、使われ方や運用方法などの把握をした上で、アルバイトやパートを含む全従業員が内容を理解できるような簡潔な文書を作成し、適宜変更や項目の追加をしながら運用していくことが重要です。
面会交流について②
【ご相談者からのご質問】
面会交流についてはいつでも子どもと自由に会える権利ではなく、子どものことを考えなければならないということは理解できました。
では、面会交流の方法はどのようにして決まるのでしょうか。相手方と話し合いで決まらない場合には裁判で決まるのでしょうか。
【弁護士からの回答】
今回は面会交流をどのように実施するかという面会交流の方法がどのように決まるのかという点についてご説明させていただきます。
1 当事者における話し合い
当事者間で離婚すること及び未成年者の親権者について合意に至った際に、非監護親と未成年者との間の面会交流について当事者間で協議する場合があります。
法律上離婚をする際に面会交流について合意ができていなくても、離婚すること及び親権者をどちらかに指定するかについて合意ができていれば離婚すること自体は可能です。
もっとも、面会交流についてはお子さんのための権利であることから、可能であれば離婚の際に当事者間で話し合っておいた方がよいのではないかと思います。
なお、離婚時に面会交流について話し合っていなかったとしても、離婚後に協議することは可能であるため、離婚時に面会について協議しておらず、お子さんと面会したいと考えられている場合にはお気軽にお問合せください。
当事者での面会交流の話し合いについて、合意に至った場合には、後々のトラブルを防ぐために、離婚が成立していないのであれば離婚協議書として、離婚が成立した後であれば、面会交流に関する合意書といった形で書面として残しておいた方が良いでしょう。書面の作成に関しても弁護士にお気軽にご相談ください。
2 調停及び審判
当事者間で面会交流に関する話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所を通じて、面会を実現することになります。面会交流に関しては、法律上、まず調停を申し立てることが必要になります(調停前置主義)。
調停においては、父母双方の希望する面会交流の条件について話し合いを行います。場合によっては、家庭裁判所の調査官という、子の監護等に関する専門の職業の方に、面会の様子などを見てもらう調査などを実施することもあります。
調停において話し合いが成立すれば、地話し合った内容をまとめた書面(調停調書)を作成することになります。
調停でも話し合いがまとまらない場合には、審判といって、家庭裁判所の裁判官が、証拠や調査官の調査結果に基づき、どのように面会をすべきであるのかについて、審判(判決と同じです。)にて判断することになります。
面会交流について①
【ご相談者様からのご質問】
妻との離婚を考えています。自分は仕事人間で、基本的に家庭のことは妻にまかせていたため、息子(5歳)の面倒は基本的に妻がみていました。
私自身で息子を育てることは困難であるため、親権者は妻でよいかと思っているのですが、親権者でなくても息子と会えると聞きました。面会交流というのですよね。
会いたいときにいつでも自由に息子と会えることができるのであれば、問題ありません。
【弁護士からの回答】
これまで、離婚に伴う未成年者の親権者についてご説明させていただきました。
今回から数回に分けて、未成年者との間の面会交流についてご説明させていただきます。今回は、面会交流の内容等、総論的な内容をご説明させていただきます。
1 面会交流とは
面会交流とは、未成年者の子を養育・監護していない親(「非監護親」といいます。)と未成年者の子とを面会させることにより、子と未成年者との交流を行うことをいいます。
離婚後の面会交流のみならず、離婚する前の段階で面会交流が問題になることもあります。
民法766条第1項には「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。」と規定されています。
「子の監護をすべき者」とは親権者のことであり、「子の監護に要する費用の分担」については別の機会にご説明する養育費のことを指します。そして、「子の面会及びその他の交流」が面会交流について規定しています(面会交流は別名「面接交渉」ともいいますが、内容は同じです。)。
2 面会交流は「親の権利」?
弁護士が作成する色々な様々ブログを見ると、面会交流については、「親の権利」であるとしているものも見かけますが、法律上、面会交流を親の権利だと明確にうたっている規定はありません。
また、権利であるという点を強調しすぎると、非監護親が会いたいときに、好きなだけ面会できるということにもなりかねません。面会交流が親の権利であるかそうでないのかという点について議論があるとは確かなのですが、私としては、面会交流はあくまでも、お子さんのために行われるものであるという点が非常に重要であると考えています。
民法766条にも「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と規定されていることから、面会交流の実施の際にもあくまでも子どものために行うものであるという意識が重要になります。
したがって、面会交流については、基本的に認められるものですが、ご相談者様がご主張するように、親が会いたいときにいつでも自由に会えるというものでもありません。
次回からは面会交流の具体的な内容についてご説明させていただきます。
親権者にこだわる理由について
【ご相談者様からのご質問】
妻と離婚を考えています。妻との間には、4歳の息子がいるのですが、息子の親権はどうしても私が欲しいです。
妻は専業主婦で、私は土日以外、基本仕事で家にはいません。また、私の実家は他県で離れており、私の代わりに息子の面倒を見てくれる人もいない状況です。
このような状況では、自分が親権者になることは不利な状況ではあるとはわかっているのですが、どうしても親権は欲しいです。これだけ親権を欲しいということを主張すればどうにかならないでしょうか。
【弁護士からの回答】
お子さんの親権について主張されるご相談者様の中にも、「これだけ、親権者になりたいと思っている」ということを熱く語られる方がいらっしゃいます。おそらく、その方は、どれだけ親権者になりたいかという点が、親権者の判断に大きく左右するのだと考えているのでしょう。
しかし、これまでもご説明してきたとおり、親権者の判断はあくまで「子の福祉」を基準に判断するものであることを親としてきちんと理解する必要があります。
そこで、今回は、親権者になりたいという思いや、親権者に固執する理由、必要性についてお話しさせていただきます。
1 親権者の判断要素と親権者の思い
これまで、何度もご説明しているように、「子の福祉」を基準に判断します。簡単に言えば、父親、母親のどちらの監護下で生活するのが、そのお子さんにとって適しているかという点を判断します。
そのような判断要素の中で、確かに、未成年者に対する愛情の深さについては、考慮要素自体になることには争いはありません。しかし、一番大事な要素としては、生活環境がどのような環境であるのかであるため、環境が悪いときに、どれだけ愛情があると主張したとしても、親権者になれるわけではありません。
したがって、調停等においては、自分が親権者としてふさわしいと思う事情を主張するときに、「どれだけ、自分がお子さんを想っているか」という点を主張するよりも、「これだけの環境を確保することができるので、こちらの環境の方が子どもの福祉の観点から適切である」という主張を行う方が効果的であると言われています。
したがって、ご相談者様の事例では、主たる監護者は相手方の奥さん(母)であり、その監護状況が問題ない場合には、親権者について争ったとしても、相手方に指定される可能性が高いでしょう。
2 親権者に固執する理由
ご相談者様の事例のように、弁護士からも客観的にみて、親権者は相手方になるのではないかと思われる状況でも、親権に固執されるご相談者は少なくありません。
しかし、そのようなご相談者様のお話を聞いてみると、親権についてよく理解をしておらず、とりあえず、親権者という名目が欲しいという意識の方も多く見受けられます。
よくよく話をきくと、現実的に、お子さんを養育することは困難である場合や、親権者でなくなると、子どもと触れあることができないと考えている方がいらっしゃるようです。
親権者でなくとも、お子さんの親であることには変わりはありません。別の機会にご説明させていただきますが、親である以上、お子さんと面会交流等で触れ合うことは親やお子さんの権利であるため、親権者でなくともお子さんと触れ合うことは十分にできるのです。
ご相談者様の事例のように、ご相談者様の元よりは相手方の監護下の方がお子さんの健全な養育には適切な環境である場合、本当にお子さんのことを考えるのであれば、監護養育については、相手方へ任せ、面会交流などによりお子さんと父親として接することでお子さんの成長を見守るということも選択肢として考えるべきではないかと考えています。
客観的に見て、相手方が親権者として適切である状況であるにもかかわらず、親権を主張するとなると、どうしても相手方の生活環境やはたまた人格等を攻撃してしまうことも少なくありません。
そうなると、離婚後、相手方が親権者となった後、お子さんとの面会交流をスムーズに行えなくなる可能性もあります。
離婚により、夫婦としての関係は終了しますが、お子さんの親としての関係まで完全に断ち切ることは通常困難です。したがって、未成年のお子さんがいらっしゃる場合には、離婚後の関係も考慮して離婚を進める必要があります。
離婚後のお子さんとの関係を考えて離婚を進めるためにも、是非一度、弁護士にご相談ください。
不貞行為と親権者について
【ご相談者様からのご質問】
妻と結婚して20年になります、娘が1人おり17歳です。1年程前から妻の様子がおかしかったのですが、先日、妻が他の男性と不貞行為を行っていることわかりました。
自分を裏切った妻とは婚姻関係を継続していくことは考えられないため、離婚を考えていますが、娘の親権については、絶対に渡したくありません。
不貞行為を行っている人は親権者としてふさわしくはないと思います。
【弁護士からの回答】
これまで、有責配偶者からの離婚請求についてご説明させていただきましたが、今回は、少し違う側面として、不貞行為と親権者の関係についてです。
ご相談者様の事例のように不貞行為をした配偶者との間で親権について問題になるケースは少なくありません。
そこで、今回は、不貞行為が親権者の判断に及ぼす影響についてご説明させていただきます。
以前にもお伝えした通り、親権者を夫と妻のいずれとすべきかについては、「子の福祉と利益」を基準に判断することになります。具体的には父母の属性、監護状況、子の心身の状態や場合よっては子の意向等を総合的に考慮して判断していくことになります。
したがって、不貞行為を行ったことが親権者としての適格性を欠くというふうにダイレクトにつながるものではありません。
ご相談者様のように、「不貞を行っているのだから親権者にはなれない」というようなロジックは働かないため注意が必要です。
もっとも、不貞行為を行っていたことにより、上記親権者の判断に影響を及ぼす場合があります。
例えば、夜に幼い子をおいて不貞相手のところに頻繁に出向いていたような場合には、育児放棄と同視し得るため、不貞行為を行ったということよりも、育児を行っていないとして、不利に判断されることになると思われます。
ご相談者様の事例では、未成年者のお子さんが17歳とある程度自立されているため、育児放棄とまで認められるかについては、不貞行為の内容にもよりますが、微妙なところではないかと思います。
また、未成年者のお子さんが、親が不貞行為を行っていることを知っていた場合には、不貞行為を行っている親に対する悪感情から、未成年者自身が拒絶する場合も少なくなりません。親権者の判断要素において、年齢が一定程度(12歳程度)になれば、未成年者自身の意向が非常に重視されることになります。
したがって、ご相談者様のケースでも、娘さん自身が、母親のことを拒絶している場合には、親権者として父であるご相談者様が指定される可能性も十分に考えられます。
他方で、娘さんが母親と一緒にいたいという意向が強い場合には、仮に、母親が不貞行為を行っていたとしても、ご相談者さまが親権者に指定される可能性は低くなるのが一般的です。
このように、親権者の判断は、相手方が不貞行為を行っているからといった単純な理屈で判断されるものではないため、親権者の判断についてお悩みの方は、是非一度、弁護士にご相談ください。
商標権とグローバル化
グローバル社会である昨今、私たちの生活は「海外」のものに囲まれています。
海外進出をしたい、もっと自社製品を有名にしたい、という思いから海外で商標権を獲得する企業もますます増えています。
そこで今回は、日本で取得した商標権は海外で通用するのか、そして最後に海外の商標制度は日本とどのように異なっているのか、ということについてお話していきたいと思います。
1.国外への商標登録
商標権というのは、日本だけでなく他の国々にも存在しています。
今の商標法の前進となる商標条例が1884年に日本で制定されました。それは、欧米先進国の影響を受けたからです。
1883年に工業所有権(現在は産業財産権と呼ばれる)の保護に関するパリ条約が締結されました。その1年後に日本でも徐々に商標制度が確立し、現在に至ったのです。
このように商標権の歴史は100年以上にもわたりますが、商標権というのは世界共通で有効なのでしょうか?
まず、結論からいうと、
日本で取得した商標権はそのままでは海外で通用しません。あくまで日本国内でのみ有効です。商標権を外国でも保護したい、というのであれば別途外国向けに登録出願が必要です。方法としては主に
①各国へ直接出願
②国際登録出願(マドリッドプロトコル)
③欧州連合商標(EUTM)
の3つがあります。それぞれについてメリット、デメリットとともに見ていきましょう。
①各国へ直接出願
各国への直接出願は、各国内の代理人を通して出願するやり方のことです。
【メリット】
・出願する国が少ない場合コストが最低限で済む。
・現地の特許庁に直接出願するので、国内出願と同じように扱われる
・パリ条約加盟国であれば優先権主張が可能なので、第三者に特許を取られない。(日本で出願したものと同じ商標で出願をする場合、日本での出願日が適用される。)
【デメリット】
・出願先がパリ条約加盟国でない場合、優先権が主張できず第三者に同一内容で特許を取られてしまう場合がある。
・複数国に出願する場合、それぞれの国の言語様式で出願する必要がある。
②国際登録出願(マドリッドプロトコル)
日本が2001年にマドリッド協定議定書に加盟したことで、国際事務局を通じて加盟各国への出願が可能になりました。
【メリット】
・日本語での出願が可能。
・複数国へ出願するときのコストが安い。(一度に複数国へ出願可能)
・国際事務局で一括管理されているため更新管理負担が軽減される。
【デメリット】
・本国登録に基づくので、商標は日本で登録したものと同じ表記でなければならない。
・指定役務、サービスの基準が日本と異なるので、同一性が認められない場合がある。
③欧州連合商標(EUTM)
欧州連合知的財産庁に出願し、登録された商標はEU加盟国すべてで有効となります。
【メリット】
・一度の出願でEU全加盟国に出願可能なのでコストが安い。
・EU加盟国の中の1か国で商標を使用していれば、商標を使用していないという理由で商標登録が取り消されることはない。
【デメリット】
・EU加盟国の中の一部の国を除いての出願は不可能なため、1か国に拒絶理由があれば登録不可。また、1か国から無効を求められたらEU全体で商標は無効となる。
以上の3つが主な外国への商標登録出願方法です。自分がどこの国や地域で商標権を持ちたいのか、どの方法が合っているのかを考えて選ぶのが良いでしょう。
2.海外の商標制度
海外に商標登録をするにはどのような方法があるのかが分かったところで、次は日本の商標制度と海外の商標制度の違いを見ていきたいと思います。
今回はアメリカを例に見ていきましょう。
①登録主義と使用主義、先願主義と先使用主義
日本では、一度商標登録出願を行い登録が完了すれば、その商標は10年間守られます。これは日本の登録主義に基づく考え方です。そして、登録されている商標は例え使われていなくても、他社が利用することは認められません。
一方、アメリカでは使用主義という考え方を採用しています。
商標を使用していれば、登録をしていなくても商標権の効力が発生します。
だったら商標登録の制度はアメリカでは必要ないのでは?と思うかもしれませんが、登録をしているほうが後で商標権の侵害などトラブルが起きた際に法的な手続きが取りやすいので、登録はしておいた方がよいのです。
また、いつから使っているのかを後に証明するのは非常に手間がかかります。
実際に使用主義という考え方は登録手続きの時にも反映されています。
アメリカでは出願の際に、商標が実際に使用されていること、もしくは今後使用する意思があることを示さなければならないのです。登録や更新の際に商標の使用宣誓書を提出しなければなりません。
日本の場合はとにかく早い「登録」が重要(先願主義)ですが、アメリカでは「使用」の意思が大事なのです。
アメリカでは同時に出願があった際は、先に使用していた方が登録に有利で、先使用主義と言われています。
②審査主義と無審査主義
日本では出願後、登録査定が出るまでの間に商標に識別性があるか、また他の商標と類似していないかなどに審査が行われます。これを審査主義といいます。
こちらに関しては、アメリカも同様に審査主義を取り入れています。
一方、無審査主義の代表国はフランスやイタリアなどが挙げられます。無審査主義の国では、出願の際の形式等に誤りがなければ実体審査を行わずそのまま商標登録されます。実質的な要件はその後異議申立てなどによって決定されます。そのため、審査終了までに期間が短いというメリットがありますが、実体審査が行われていないため、実際の商標の利用に慎重にならないといけません。
このように、国ごとでも商標制度は違うため、登録出願を検討する際はよく確認する必要があります。
3.まとめ
昨今のグローバル化にともない、様々な国の商品やサービスが日本に進出していて、日本からもたくさんの企業が海外へと事業を拡大しています。
せっかく日本で育て上げたブランドイメージも、海外では無効となってしまっては勿体ないことです。
海外での商標権取得を考える際は、商標権を持ちたい国や、その国の商標制度について認識をし、どの出願方法が適切なのかを検討しなければなりません。
日本国内での商標登録よりは少々手間やコストはかかりますが、世界で商標を守っていくことでビジネスの幅も世界へと広げることができるでしょう。
やはり、そのビジネスの将来性を考えながら、どこの国や地域で商標権を取得しておくことが重要か綿密な検討が必要ですね。
労働者としての性質~請負契約の人に労働基準法が適用される?~
昨今、働き方の多様化や人件費の抑制を理由に、請負契約や業務委託、派遣社員等の雇用ではない社員(以下、「請負・業務委託社員」といいます。)の活用が多くなってきました。
このような働き方をしている社員は、通常自社が直接雇用している労働者ではないのですが、業務の実態によって、「労働者」であるとの主張がなされ、未払い残業代や解雇の無効性を争って紛争に発展する会社が増えてきています。
では、契約上は従業員ではないのに、どういった点で雇用されている従業員だと判断されてしまうのでしょうか?
1.過去の裁判例の分析
過去、さまざまな裁判が行われてきましたが、以下の判例をもとに分析していきたいと思います。
〈内容〉
原告は被告会社と「運送請負契約」を結び配達員として稼働し、かつ被告会社の営業所で所長職に従事していた。(所長職とは、複数名の配達員の中から事業所ごとに1名選出される、被告会社と配達員らの間の窓口となる役職であった。)
原告としては、自身は被告会社の「労働者」であり、所長職の解任や配達員としての稼働停止処分は不当であるとし、解雇無効及び所長解任による賃金減額分の未払い請求を求めた。
〈判決〉
原告と被告会社の間には、配達員としての運送請負契約、所長職に任命する契約関係がそれぞれあったことを認定したうえ、配達員に関する契約は請負契約であるとして稼働停止処分は認められたものの、所長職については、被告会社と指揮命令関係があったとして「労働者」と判断し、賃金減額分の支払を命じた。
≪参考判例 東京地判平成22・4・28労判1010・25≫
今回なぜこのような判決となったかについてですが、いくつか理由が挙げられています。
契約関係においては、配達員としての請負契約は締結していたのですが、所長職に対しての契約は特に結ばれていませんでした。
また、業務の実態においては、①所長職に対する拒否権はなかったこと、②会議等がありそこで原告に対して指示命令がなされていたこと、③営業所内で伝票整理や事務的作業を行うなど場所的拘束があったこと、④所長職を誰かに代理でしてもらうことができる状態でなかったこと等が挙げられました。
そして、過去、所長職手当から源泉徴収がなされたことがあるなど、賃金としての性質を持つ手当の振込みがあったこともあり、以上をもって裁判所としては原告が被告会社の労働者であったと判断し、賃金減額分の支払を命じたのです。
2.判断ポイント
過去、この労働者性というものに関する裁判が多々行われてきており、近年の裁判では、以下の要素をもとに「労働者」か否かの判断が下されています。
(1)仕事の依頼や業務指示に対して拒否する自由があったかどうか
(2)業務における指揮監督関係があったかどうか
(3)時間や場所的自由があったかどうか
(4)職務代行が可能かどうか
(5)報酬が労働の対価となっているのかどうか
(1)仕事の依頼や業務指示に対して拒否する自由があったかどうか
会社と雇用関係にある「労働者」であれば、使用者である会社からの依頼や業務指示に拒否する自由はありません。
しかしながら、請負や業務委託等の契約であれば、その仕事を引き受けるかどうかはその人次第であり、決定権は自身にありますので、指示に対する拒否の自由が判断基準の一つとされています。
ただ、その会社専属の下請業をされている場合は、事実上拒否することは出来ませんので、これだけをもって「労働者」かどうかの判断をされることはありません。
(2)業務における指揮監督関係があったかどうか
指揮監督関係があれば、業務の進め方などで具体的な指示が及ぶことになりますので、そうなると「労働者」と判断されるおそれがあります。
そのため、請負や業務委託等の方への指示は、仕事を依頼している注文者としての立場にとどめ、実際の業務遂行に関しては、本人の裁量に任せるのが望ましいです。
なお、契約した業務内容以外の業務をさせてしまうと、使用者からの指示を受けていると判断される可能性がありますので注意してください。
(3)時間や場所的自由があったかどうか
請負・業務委託社員であれば、仕事をいつ・どこでするのかは個人の裁量に委ねられます。そのため、「労働者」と同じように勤務時間や勤務場所を明確に定めてしまうと、使用者である会社の監督下であると判断される材料となります。
また、会社の全従業員が参加する朝礼等への出席義務も指揮命令関係があると思われてしまいますので、出欠については本人に任せるのが良いでしょう。
(4)職務代行が可能かどうか
請負・業務委託社員は、すべて自身の裁量で決められる個人事業主です。
「労働者」であれば、使用者と指揮監督関係にあり雇用契約となるため、本人に代わって労務の提供をすることは出来ません。
そのため、自身の判断で自身の代わりに業務を提供する人を用意する、つまり労務の代替性が認められているかも判断のポイントとなってきます。
(5)報酬が労働の対価となっているのかどうか
本人へ支払う報酬が労務を提供している時間に応じて金額が決められているのであれば、「労働者」と判断される恐れがあります。
請負や業務委託は、仕事の完成や仕事の処理を目的としているため、一定時間働いたからといって報酬が支払われる訳ではありません。注文を受けた仕事が完成した、契約をたくさんとったなど、成果に対しての報酬となりますので、労働時間とリンクはしません。
そのため、支払われた報酬が時間給で計算されていたり、休んだ分の控除がなされていたりすると、「労働者」と同じく労働時間の提供への対価とみなされる可能性があります。
請負・業務委託社員へは成果に対する報酬、「労働者」へは労働時間に対する報酬ということをきちんと把握し、報酬額を決めるように心がけましょう。
3.まとめ
請負・業務委託社員と「労働者」の違いは、契約関係の違いにとどまらず、実際の業務内容、働き方、報酬などさまざまな要因で判断されます。
また、請負・業務委託社員は自社の「労働者」ではないので、就業規則はもちろんのこと、労働保険や社会保険、退職金制度の適用も出来ません。
トラブルを未然に防ぐためにも、請負・業務委託社員と「労働者」の違いをきちんと理解し、現代社会の多様な働き方のニーズに合わせた対応をしていきましょう。
マイナンバー制度とわたしたち
これまで、個人の情報は国や地方公共団体などそれぞれの機関内で、住民票コード、基礎年金番号、雇用保険被保険者番号などそれぞれの番号で管理され、個別の情報を照らし合わせる事務に相当の時間と労力が費やされていました。
「マイナンバー制度」の導入によって、国や自治体などで管理されている所得や年金、社会保険などが1つの番号で紐付けされます。これにより行政は、事務等の効率化がはかれ、税や社会保険料の適正な徴収などにも役立てられるとともに、国民は公的な手続きにおいて役所などの窓口を訪れる回数が減るというメリットもあります。
行政が個別の情報を照らし合わせる場面にはどのようなものがあり、どんなメリットがあるのか、具体的に見ていきましょう。
1.わたしたちの国民生活はどう変わる?
みなさん一度は耳にされたことのある「失業保険」は、雇用保険という制度の一つです。雇用保険にはいわゆる失業保険(正式には「求職者給付」の「基本手当」)とは別に、「高年齢雇用継続給付」があり、60歳時に定年となり再雇用となって賃金が下がってしまった場合に、60歳から65歳までの間賃金低下を補填する制度です。
若い世代にはなじみの薄い制度かもしれませんが、60歳~65歳から年金がもらえるというのは、よく見聞きされていると思います。
この「老齢厚生年金」と「高年齢雇用継続給付」が同時に受けられる場合、実はそれぞれを満額で受け取ることはできず、支給調整が行われることとされているのです。
国民は、それぞれの申請の際に、他方の支給を受けていることを自ら申告しなければならず、時には窓口を何度も行き来しなければならないこともありました。
その上、「老齢厚生年金」は日本年金機構が基礎年金番号で、「高年齢雇用継続給付」は都道府県労働局公共職業安定所が雇用保険番号で管理しているため、両者間での情報照会に相当の時間と労力をかけて支給調整事務が行われていました。
今後は、申請書に「マイナンバー」を記載することで国民は同時受給の申告をする必要がないので、国民の利便性の向上がはかられるとともに、照会事務が不要となるため行政の効率化がはかられます。
また、これまで同時に支給を受けてしまっていた場合、不正受給として返還を求められていましたが、これを未然に防ぐことで不正受給返還にかかる事務が削減され行政の効率化がはかられます。
国民にとっても、不知による申告漏れで返還を求められてしまうリスクがなくなり、利便性向上がはかられるとともに、より不正受給のない公平・公正な社会を実現するための社会基盤となると言うことができます。
2.そもそも「マイナンバー」って?
マイナンバー(個人番号)は、赤ちゃんからお年寄りまで、日本国内に住民票のあるすべての方に割り振られる12ケタの個人番号です。
ちなみに「マイナンバー制度」には個人に付番される「個人番号」のほかに、法人に付番される「法人番号」があり、設立登記法人、国の機関、地方公共団体、その他の法人や団体に13ケタの数字で割り当てられます。
この2つの番号には、公開に関し大きな違いがあり、法人番号はだれでも自由に利用することが可能であるのに対し、個人番号は非公開です。
個人情報が漏えいした場合に、なりすましによる被害を受ける可能性があるためで、漏えいに関しては重い罰則規定が設けられています。
3.わたしたち従業員のマイナンバーはどう使われる?
マイナンバーは赤ちゃんからお年寄りまで、と前述しましたが、お子さんが生まれた際、早速健康保険証のため勤務先に申し出て、お子さんを扶養に入れる手続きが必要になります。
平成30年10月より、家族を扶養に入れる手続きには原則マイナンバーが必須となっています。では赤ちゃんのマイナンバーはいつどのようにして分かり、いつ扶養の手続きは可能になるのでしょうか?
実は、マイナンバー通知カードは市町村に出生届が出されてから2週間~1ケ月で国から発送されます。時期の幅は、マイナンバーの振り出しが出生届の受付順に順次行われるためで、たとえばある月にその市町村に生まれた赤ちゃんが多ければ、その市町村の住民であるお子さんのマイナンバー通知カードの発送に時間がかかってしまう仕組みです。
とはいえ、出産された病院から、「お子さんの健康保険証を窓口に出してください」と催促を受けることもあります。
原則マイナンバー必須の例外として、住民票の写しの添付をもって代えることが可能です。ただし、住民票の写し等の交付申請には手数料300円がかかります。
4.わたしたちのマイナンバーを守る企業としての取り組みは?
雇用保険も全国健康保険協会管轄の健康保険も、会社の従業員として加入している制度です。「高年齢雇用継続給付」の申請手続きや扶養に入れる手続きのため、わたしたちのマイナンバーは会社に取得され利用されます。
前述のとおり、情報漏えいに関しては重い罰則規定が設けられていますが、それでは不十分です。
企業はマイナンバーを安全に管理し、外部への漏えいや紛失を防ぐために、「誰が」「どのような事務で」「どのような」マイナンバーを取り扱うかについて措置を検討することが求められます。
そしてこれらを考慮の上、マイナンバーを安全に管理するための方針(基本方針)と、安全に取り扱うためのルール(取扱規定等)を策定し、安全管理措置を講じることが求められます。
これらの企業の取り組みにより、わたしたちのマイナンバーが守られる仕組みになっています。