弁護士コラム

2018.10.04

保釈とは①

芸能人や有名人が逮捕されてしばらくすると,裁判が始まる前に保釈されたというニュースを目にすることがあります。保釈とはどういった制度なのでしょうか。

どうして逮捕されてすぐに保釈をしないのでしょうか。

 

【弁護士からの回答】

 犯罪を行い,逮捕されるといった事態が起きない限り,一般の方が保釈について知りうる機会は,上記のような芸能人などのニュースの場面でしかないのではないかと思います。そこで,今回から数回にかけて保釈についてご説明させていただきます。今回は,保釈の定義や要件をご説明させていただきます。

 

1 保釈とは

 保釈とは,刑事訴訟法により認められている制度で,被告人が一定の金銭の納付等を条件にして,勾留を停止し,身体拘束の状態から解放するものです。

 通常,犯罪を行い,逮捕され,起訴(刑事裁判にかけられることです。)されると(刑事手続きの正確な流れについては,別の機会にご説明させていただきます。),裁判が行われている期間については,留置場や拘置所いなければならず,身体が高速された状態になっています(この状態を勾留(起訴後勾留)といいます。)。起訴されてから裁判が始まるまでの期間については,事件の性質によっても異なりますが,最低でも3週間程度要するとされており(重大な事件の場合には数か月要する場合もあります。),その期間身体拘束が継続することによる不利益を回避するために,一定の要件を満たし,かつ金銭の納付をした者に対し,身体拘束から解放することを認めています。

 

2 保釈はいつからできるのか

 上記のように,保釈は,被告人,すなわち起訴された人のための制度であるため,まだ,逮捕されて起訴されていない人(被疑者といいます。)には保釈は認められていません。よく,逮捕された人やそのご親族から「すぐに保釈してください」と頼まれることがあるのですが,その際には,「残念ですが,起訴されるまでは保釈がそもそも認められていないのですよ」と説明することを繰り返しています。

 

3 保釈の要件は?

 保釈には,権利保釈,裁量保釈,義務的保釈という3つの種類があり,権利保釈は,刑事訴訟法に定めた事由(重大犯罪の場合,常習犯罪の場合,罪証隠滅の恐れがある場合)に1つも該当しない場合に必ず認められるものです。裁量保釈は,権利保釈が認められない場合であっても,裁判所が適当と認めるとき(失職の恐れがある場合,家庭の事情,逃亡や証拠隠滅の恐れの有無,捜査の進捗,示談の有無などを総合的に判断します。)に認められるものです。義務的保釈とは,あまりなされるものではありませんが,勾留による身体拘束が不当に長期間に渡っている場合に認められるものです。

 今回は,保釈の要件についてご説明させていただきました。次回は,保釈金などについてご説明させていただきます。

2018.10.02

どうして第三者委員会に弁護士が?

 ニュース等で,企業やスポーツ団体に不祥事などが起きたときに,第三者委員会というものが設置されるのを目にするのですが,第三者委員会のメンバーに弁護士の方が入っているのを見かけます。スポーツの専門家ではない弁護士がなぜメンバーに入っているのか気になりました。

【弁護士からの回答】

 ニュースでも連日,不祥事などの問題が多く報じられており,問題となっている事実等が存在したか否かについて,判断をする第三者委員会というものが設置されているのを目にされている方も多いのではないかと思います。そこで,今回は,第三者委員会における弁護士の役割についてご説明させていただきます。

 

1 第三者委員会とは

 第三者委員会という名称は,法律などで決まっているわけではなく,何らかの問題が発生したときに,当事者以外の外部の有識者によって,構成され,問題となっている事柄の存否,原因等を調査するための委員会のことをいいます。

 以前は,会社や団体内で問題が生じた際には,会社の担当者などが内々で調査をするというのが一般的でしたが,マスメディアやインターネットの発達により,こうした内部での調査に対しては,調査の客観性に対して疑念を持たれるようになったため,当事者ではない第三者に調査を依頼することにより,調査の信頼性等を確保することを目的としています。

 

2 弁護士の必要性について

 上記のように,第三者委員会では,事実の有無の調査,事実が存在した場合における適法・不適法(違法)の調査などが行われます。そして,弁護士の仕事の1つとして(弁護士の仕事の内容については,機会があればまとめてお話しさせていただければと考えています。),裁判での活動があり,裁判での弁護士の活動は,証拠に基づき事実を認定するよう裁判所に求め,または,その事実が法律の要件に該当するかしないかについて主張を行うことが求められます。

 このように,日々の業務において,弁護士は,事実の有無の判断や,事実の調査,当該事実の適法・不適法の判断等を専門的に行っているため,そのような弁護士が第三者委員会に参入することで,調査委の正確性や信頼性が確保されることになるため,多くの第三者委員会において,弁護士が委員として入ることになっています。

 もっとも,弁護士自身,団体の内部のルールやスポーツのルール等の独自の専門的分野については,知識がないのが一般的であるため,第三者委員会には,そうした当該分野の専門家や有識者もメンバーとして入ることもあります。 

 

3 最後に弁護士より

 このように,第三者委員会に弁護士が入ることにより,調査の公平性,正確性を確保することができます。もっとも,弁護士としての立場としては,企業などにおいてトラブルが発生する前に発生するリスクを発見し,リスクをなくしていくことが企業や団体にとって,とてもメリットが高いと感じています。

 したがって,企業の経営者の方には,企業の規模の大小にかかわらず,顧問弁護士をつけていただくことをおすすめしています。当事務所の顧問契約は,払い込んだ顧問料が繰り越すことができるフレックス顧問契約というものを採用しているため,是非一度ご検討ください。

 

2018.09.10

特別受益について~要件①~

【ご相談者様からのご質問】

 先日,父が亡くなりました。相続人は私と兄の2名です。兄は結婚しており,私は独身なのですが,父は,生前,兄の子供を非常にかわいがっており,兄の子供に対しては,私立の中学,高校,大学の費用のみならず,大学での1人暮らしするための家賃,生活費,お小遣い等全て父が支払ってきました。兄自身がなにかもらっていたわけではないのですが,父の援助は特別受益にはあたらないのでしょうか。

 

【弁護士からの回答】

 弁護士オフィス今回から,複数回にかけて,特別受益についてご説明させていただきます。

 今回は,どのような人が特別受益者に該当するかについてご説明させていただきます。

 

 

1 条文上の要件

 民法903条1項では,「共同相続人」と記載されていることから,共同相続人が特別受益者の対象になることは間違いありません。したがって,血縁者は当然ですが,養子縁組をした場合の養子,養親についても,特別受益者に該当することになります(この点,養子縁組の場合,養子縁組後の贈与などが特別受益に該当することは当然ですが,裁判例上,養子縁組前に取得した財産についても特別受益になると判断した裁判例がありますが,縁組前については,確定的な判断がなされているものではありません。)

 

2 相続人の配偶者や子に対する贈与について

 では,被相続人が,相続人に対してではなく,相続人の配偶者に贈与した場合や,ご相談者様の事例のように,被相続人が相続人の子(孫)に贈与していた場合には,共同相続人の特別受益と評価することができるのでしょうか。

 この点については,最高裁判所の判例があるわけではないため,確定的な結論があるわけではなりません。しかし,特別受益の制度の趣旨は,共同相続人間の公平を図る点にあることから,裁判例上,実質的に被相続人から相続人に対する贈与されたものと評価することができる場合には,配偶者や子に対する贈与であっても被相続人に対する特別受益であると判断されています。

 具体的には,贈与の経緯,贈与額,贈与の性質,贈与により得られる相続人の利益等を考慮して判断することになります。裁判例においても,ご相談者様の事例のように,孫の学費及び生活費については,本来であれば,扶養義務を負っている相続人(父)が負担すべき費用であり,当該贈与により相続人は学費や生活費を負担する必要がないという利益を得ていることから,特別受益に該当すると判断されています。 

 このように,相続人以外に対する贈与等についても特別受益に該当する可能性があるため,是非一度弁護士にご相談ください。

 

 

2018.09.07

特別受益と寄与分について~総論~

【ご相談者様からのご質問】

 先日,父がなくなりました。相続人は私と弟の2名です。父の相続財産は,預貯金が500万円のこっています。私としては,この500万円を弟と2分の1ずつ分ければいいと思っていますが,私は10年前に結婚するときに,父にお祝いとして200万円をもらっています。弟は,自分は結婚しておらず,父からなにももらっていないので,不平等ではないかと主張しています。相続財産は父が死亡した時点での財産を分けるので,私の考えで間違いないと思っています。

 それに,私は,認知症で,動くことができない父を,5年以上も1人で面倒を見てきていたにも関わらず,弟は一切父の面倒を見てきませんでした。父の病気の入院費や手術費も全部私が支払っています。私への贈与を問題にするなら,私の介護や費用の支出についてはどうなるのでしょうか。

 

【弁護士からの回答】

那珂川オフィス② これまで,複数回にわたり,相続財産についてご説明させていただきました。通常,遺産分割は,この相続財産を法定相続分にしたがって,分割するのですが,例外として,相続財産には該当しない内容を,相続人間の公平の観点から,相続財産とみなすという制度が民法上,特別受益と寄与分という制度により認められています。遺産分割の場面では,この,特別受益と寄与分について非常に親族間で揉めることが多く,論点も多岐にわたるため,今回から複数回にかけて,特別受益と寄与分についてご説明させていただきます。今回は,特別受益と寄与分に関する総論的なお話をさせていただきます。

 

1 特別受益について

 特別受益とは,民法903条に規定されており,被相続人から遺贈を受け,または婚姻,縁組のために贈与を受けることや,生計の資本のために贈与を受けることをいいます。

 被相続人から生前に贈与を受けている者(特別受益者といいます。)が他の相続人と同様に,相続財産から受け取ることができるとなると,他の相続人との公平を害するという考えからから,相続人間の公平を図るために設けられた規定です。

 

2 寄与分について

 寄与分とは,民法904条の2に規定されており,共同相続人の中に,事業に関する労務の提供,財産上の給付,療養看護等により,被相続人の財産の維持,増加に寄与した場合をいいます。

 この寄与分についても,被相続人のために何もしていない相続人と寄与分のある相続人との間の公平を図るために設けられた規定です。

 

3 みなし相続財産について

 相続財産は,原則として,被相続人が死亡時に有していた財産を基準としますが,特別受益や寄与分が認められる場合には,特別受益の額を相続財産に加算し,寄与分の額を相続財産から控除します(相続財産に特別受益の額を加算し,寄与分の額を減額したものを「みなし相続財産」といいます。)。

 そして,みなし相続財産を,法定相続分に従い,分配した後に,特別受益者の場合には,分配後の金額から特別受益の金額を控除します(特別受益の金額の方が高い場合には,特別受益者の相続分は認められません。)。また,寄与分を有する人は,分配後の金額に寄与分の金額を加算します。

 ご相談者様の事例でみると(今回は,寄与分として100万円が認められるという前提でお話しします。),相続財産(500万円)に特別受益として,ご相談者様が結婚祝いにもらった200万円を加算し,寄与分100万円を控除した金額である,600万円がみなし相続財産となります。そして,600万円を2分の1ずつ分配することになります。したがって,ご相談者様の弟は,300万円の相続分を有することになります。これに対し,ご相談者様は,分配後の300万円から,と特別受益額を控除し,寄与分を加算した200万円の相続分を有することになります。

 特別受益と寄与分については,今後具体的なご説明をさせていただきますが,このように,特別受益と寄与分の内容によっては,相続する金額が大きく異なってきますので,是非一度,弁護士にご相談ください。

 

 

2018.09.05

相続財産と可分債権について②~預貯金債権について~

【ご相談者様からのご質問】

 先日,父が無くなりました。先日,父が亡くなりました(遺言書はありません。)。相続人は私を含めて,兄と姉の合計3人です。父の遺産は,銀行に貯金が600万円ありますが,それ以外の財産はありません。調べてみると,預金の契約をしている預金者は,預金の払い戻し請求権という債権を取得していることになるとのことでした。先生のブログでは,可分債権は遺産分割を経ずに相続されるとのことであったため,預金債権についても遺産分割は不要ですよね。

 

【弁護士からの回答】

那珂川オフィス 前回,可分債権については,相続により,法定相続分に従い当然に承継する旨ご説明しております。もっとも。預金債権については,近年最高裁判所にて,異なった判断がなされておりますので,今回は,預貯金債権の取り扱いについてご説明させていただきます。

 

 

1 預金契約について

 銀行等に口座を開設した際には,銀行との間で預金契約を締結していることになります。そして,預金者には,銀行に預けている預金を引き出すことができる債権(払戻請求権)を有していることになります。この払戻請求権のことを預金債権といいます。

 この預金債権については,金銭の支払いを求める債権であり,分割して請求することができる債権であることから,可分債権であることには間違いありません。

 したがって,可分債権である以上,これまでは,通常の可分債権と同様,遺産分割を経なくとも法律上当然に相続されると理解されていました。

 もっとも,銀行実務上,亡くなった方の預貯金を引き出すためには,遺産分割協議書若しくは,相続人全員の合意を必要とし,相続人単独での払戻請求については,応じていませんでした。

 

2 最高裁判所判例について

 このようななか,平成28年12月19日に,最高裁判所において,「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」との判断が出され,従来の預貯金債権に関する判例が変更されることになりました。判例変更の理由としては,遺産分割の場面においては,被相続人の財産をできる限り対象とするのが望ましいことや,上記でご説明した銀行実務上の取り扱いも理由とされています。また,預貯金債権であったとしても実質は現金と同じ取り扱いをされているという実情も踏まえた判断となっております。

したがって,ご相談者さまの事例においても,お父様の預貯金債権については,遺産分割の対象となり,被相続人名義の預貯金を引き出すには,遺産分割協議を行う必要があります。

 このように,何が遺産分割の対象になるかという判断についても,非常に専門的な知識を有するものであるため,相続が発生した場合には,是非一度,弁護士にご相談ください。

 

 

2018.09.03

相続財産と可分債権について①

【ご相談者様からのご質問】

 先日,父が亡くなりました(遺言書はありません。)。相続人は私を含めて,兄と姉の合計3人です。父の財産整理していたところ,父が,知り合いに対し,600万円貸したことが記載された借用書がみつかりました。貸金債権も,父が有していた財産であるため,遺産分割に関する協議をして分割する必要があるのでしょうか。

 

【弁護士からの回答】

弁護士 これまでは,相続財産に含まれない財産について,ご説明させていただきましたが,今回は,相続の対象になるものの,通常の財産とは異なる扱いになる,可分債権についてご説明させていただきます。

 

 

1 可分債権と相続財産

 まず,これまで説明したとおり,民法896条により,被相続人の一身専属の権利義務以外の財産に属した一切の権利義務が相続財産になります。

 そして,相談事例の貸金債権等のように,性質上分割することができる債権を可分債権といいます(逆に,動物の引渡しを請求する権利のように分割することができない債権を不可分債権といいます。)についても,一身専属の権利ではないため当然に相続の対象となることには間違いありません。

 そして,被相続人が遺言書を作成しておらず,相続人が複数人存在する場合には,被相続人の相続財産は,遺産分割の協議が整うまでの間,共同相続人間全員による,「共有」状態となります(民法898条,)。

 したがって,相談事例においても,被相続人の貸金債権についても共有状態となり,遺産分割協議により協議を行う必要があるようにも思えます。

 

2 可分債権と遺産分割の対象

 もっとも,実務上,可分債権については,判例上,不動産等の通常の財産とは異なる取り扱いがなされています。

 すなわち,可分債権については,他の財産と異なり,相続によって,当然に共同相続人に対し,各人の法定相続分にしたがって相続されるとされています。その理由としては民法427条において,可分債権において,債権者が複数存在する場合には,各債権者が等しい割合で権利を有すると規定されていることから,相続により,取得した場合も同様であると考えられているのです。

したがって,ご相談者さまの事例でも,貸金債権(600万円)については,遺産分割を経ることなく,法定相続分にしたがい,200万円ずつ相続されることになります。

もっとも,可分債権については,民法427条で,「別段の意思表示」がある場合には,別の割合によって取得されることになります。したがって,相続人全員が,可分債権について遺産分割の対象にすることに合意した場合には,法定相続分と異なる割合にて相続することも可能になります。

今回は,可分債権一般について,ご説明させていただきましたが,同じ可分債権であっても預金債権については,近年,最高裁判所にて異なった判断がなされております。次回,預貯金に関する取扱いについてご説明させていただきます。

 

 

2018.09.01

相続財産に含まれない財産

<ご相談者様からのご質問>

先日,父が亡くなりました。私が父の長男であったため,早急に父の葬儀を執り行いました。その際の葬儀費用は300万円程度だったのですが,まとまったお金もなかったので,父が亡くなってすぐ,父名義の口座から引き出して支払いました。

 その後,父の遺産分割の話し合いになった際,私の弟たちから葬儀費用を父の預金から支出していることに不満がでました。父の葬儀費用なので,父の口座から支出することに問題はないと思うのですが,どうなのでしょうか。

 

<弁護士からの回答>

弁護士 ご親族が亡くなった場合,葬儀を実施するのが一般的ですが,この葬儀費用に関しては被相続人の預金の引き出しとの関係で問題になることが非常に多いです。今回は葬儀費用の負担の問題についてご説明させていただきます。

 

 葬儀費用とは,死者の追悼儀式に要する費用と,埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用,死亡届に要する費用,死体の運搬に関する費用及び火葬に要する費用等)をいうとされています。

この葬儀費用について,被相続人の死後に相続人間で話し合いを行い,相続人間で負担する,若しくは,相続財産より支出する旨の合意ができる場合には,その合意に基づいて,葬儀費用を負担すればよいのであって,特段問題になることはありません(実際に多くのご親族が,話し合いにより葬儀費用の負担を決めていることが多いのではないでしょうか。)。また,被相続人が遺言などで葬儀費用の負担について記載している場合や,互助会等に葬儀費用の積立などを行っている場合(通常葬儀費用の負担についても決めていることが多いです。)には,被相続が決めた内容にしたがって,葬儀費用の負担が決まることになるため,問題になることはありません。

これに対し,葬儀に費用の負担に関して,被相続人が何ら取り決めておらず,かつ,相続人間で協議が整わなかった場合にはどのように処理されるのでしょうか。実際に問題になるケースでは,ご相談者様の事例のように,被相続人がお亡くなりになってすぐに,被相続人名義の預金口座から葬儀費用を引き出し,後の遺産分割協議等で,他の相続人から預金の引き出し行為について指摘されるといったケースが非常に多いです。

ここで,葬儀費用について,相続財産から支出することが可能なのか,すなわち,葬儀費用を誰が負担すべきであるかについては,法律上明確な規定があるわけではありません。学説などでは,①共同相続人で負担すべきという考え方,②喪主が負担すべきであるという考え方③相続財産より支出すべきであるという考え方など諸説の考えがあります。

この問題に関して,名古屋高等裁判所の平成24年9月29日の判決では,葬儀費用のうち,追悼儀式に要する費用(葬式代等)については,儀式を主宰した者(自己の責任と計算において,儀式を準備し,手配等をした者)が負担すべきであると判断しました。簡単にいうと,儀式を主宰した喪主(通常,喪主が儀式を主宰することになると思うので,喪主負担となると考えても差し支えないと思います。)。

理由としては,葬式に関しては,被相続人が何ら決めていない場合には,そもそも葬式を行うのか否か,どの程度の規模の式を行うのか否か,その式にどれだけ費用をかけるのかについては,全て主宰する人が決めることができる以上,主宰者で負担すべきであると考えたのです。また,喪主が負担すべきであると考える考え方の理由として,上記裁判例の理由に加え,主催者は出席者からの香典についても受け取ることができることからも,喪主が負担すべきであると考えているようです。

このように,葬式の費用等については,何も決めていない以上,喪主負担となってしまうことから,自身のお亡くなりになったときの備えを何ら準備していないと,遺されたご家族間での争いを生んでしまう可能性があるため,弁護士に相談し,しっかりと葬式についても記載した遺言書を作成することをお勧めします。

 

 

2018.08.27

飲食店の無断キャンセルについて②

予約の段階で,お客さんとの間で契約が成立していると考えてもいいのですね。では,無断キャンセルされた場合にはいったいいくら請求できるのでしょうか。また,無断キャンセル等のトラブルを防ぐためには,どのような対策をしておくのが良いでしょうか。

【弁護士からの回答】

前回の記事では,飲食店の予約を無断でキャンセルした場合,店側はお客さんに対し,損害賠償請求を行うことができるとお伝えさせていただきました。

今回は,請求できる損害額や,トラブルを未然に防ぐための方法についてご説明させていただきます。

 

1 お客に請求することができる金額について

 損害賠償においてお客に請求することができる金額については,大きく2つの考え方があります。

 まず,予約の段階で,無断キャンセルの場合に請求することができる金額について,店と客側で合意ができている場合には,法的な観点からすると,損害賠償予定額に関する合意が成立していると認められるため,合意した金額を請求することができます。よく,旅館やホテル等の宿泊予約をする際に,旅行サイト等で,「宿泊日の7日前から,キャンセル料として宿泊代金の20%をいただきます」等と記載されているのを見かけると思いますが,利用者は,その記載を前提として予約しているため,損害賠償額に関する合意が成立していることになります。

 これに対し,損害賠償額についてあらかじめ合意ができていない場合には,実際に発生した損害を立証する必要があるのですが,これが非常に複雑であり,無断キャンセル問題が裁判等になるケースが少ない理由の1つです。予約していた飲食代金(例えば,5000円のコースを30人予約していた場合には,15万円となります。)がそのまま損害額になるかというとそうではなく,キャンセルにより空いた席にお客を入れることができたのか,料理の仕入れ額についても,損害として主張しうる損害ですが,食材についても他の客に提供することができたのではないかという点などを吟味しなくてはいけないため,損害額を確定するのに非常に手間がかかってしまいます。

 

2 無断キャンセルの問題点

 このように,無断キャンセルが起きたとしても,損害額の予定をしていない場合には,損害の算定が非常に困難になります。また,無断キャンセルにより,客側に請求することができる金額は,上記のように15万,20万円など,高額であるとは言い難い金額であるため,実際に飲食店側が裁判を起こすとなると,弁護士費用等を考えると,裁判を起こす方が,費用がかかってしまうことが多いです。さらに,予約者の情報をきちんと入手しておかないと,そもそも,予約者の所在がわからず,そもそも請求すること自体ができない場合もあります。このように,無断キャンセルが起きたとしても,現実問題として客側に請求や訴訟提起しずらいことから,無断キャンセルが横行してしまっている状況です。

 

3 飲食店側の対策について

 このように,ひとたび,無断キャンセルのトラブルに巻き込まれてしまうと,その損害を回復することは現実的に難しい場合もあるので,飲食店としては,そのようなトラブルに備えておく必要があります。

 具体的には,①予約者の身元をしっかり確認することが重要です。代表者の名前,住所,連絡先だけでなく,団体の場合には,所属団体(サークルであれば大学名,会社であれば企業名)等はきちんと確認した方がよいでしょう。所属団体について,把握しておけば,万が一,無断キャンセル等が行われたとしても,大学や会社に対し苦情の連絡を入れることで,後日,解決する可能性も残すことができます。

 また,②先程述べた通り,無断キャンセルに対する違約金についてはあらかじめ,予約者との間で合意しているという状況を作るために,電話での予約の際にはキャンセル料を伝えたり,予約サイト等にもキャンセル料について明記しておいた方がよいでしょう。

 さらに,③大人数での予約の場合には,キャンセルになった際の損害をきちんと回収できるよう,あらかじめ,予約金や,前払金等の支払いを求めておけば,無断キャンセルのリスクを防ぐこともできるし,万が一,キャンセルが起きたとしても,損害を填補することができるのではないでしょうか。

 

4 最後に

 このように,飲食店の無断キャンセルについては,きちんと対策をとっていないと,トラブルに巻き込まれてしまい,店に大きな損害を与えてしまうことにもなりかねません。当事務所では,フレックス顧問契約という業務時間が繰り越せる顧問契約のシステムをとっているため,顧問料の範囲内で,無断キャンセルに関する問題に取り組むことも可能であるため,もし,飲食店を経営されている方で無断キャンセルの等のトラブルに巻き込まれてしまった場合には,是非一度ご相談ください。

2018.08.22

飲食店の無断キャンセルについて①

飲食店を経営しているのですが,1月前に飲み放題込みのコースを50名で予約してもらっていたのですが(大学のサークルでの飲み会とのことでした),当日,1人も来なくて,代表の方に何度も連絡してもつながりません。50名での予約でしたので,その日は貸し切りにしており(予約の電話もあったのですが,お断りしました。),人数分のコースの材料も仕入れており廃棄しなければならない食材も出てしまいました。

事前にキャンセルの連絡をくれるならまだしも,何も連絡なく,あまりにもひどいと思うのですが,無断キャンセルした人に対して損害賠償の請求はできるでしょうか。

【弁護士からの回答】

 ご相談者様の事例のように,飲食店の無断キャンセルについては,予約した客側にとっては,軽い気持ちでしていることであっても,飲食店側にとっては,大きな損害を被るものであり,一時期,ニュースなどで取り上げられる問題にもなりました。そこで,今回から2回にかけて,飲食店の無断キャンセルに関する問題についてご説明させていただきます。

 

1 飲食の予約した時点での法的関係は?

 まず,お客との間で予約が完了した際には,どのような状態になるのでしょうか。これに関しては,法律で定められているわけではないのですが,一般に,予約が完了した時点で,客側からお予約した日時における飲食物の提供というサービスの提供の申し込みと店側の飲食物を提供する旨の承諾が認められるため,予約の完了の時点で,予約した日時におけるサービス提供契約が成立していると考えられています。「まだ,予約の段階だから契約は成立していないのではないですか。」という考えもあるとは思いますが,売買予約等の場合には,実際に売買を締結するか否かについては,未定であるのに対し,飲食店での予約については,その日にサービスの提供を受けることについては決定しているため,予約の時点で契約が成立していると考えるのが一般的です(個人的にはこの「予約」という言葉が使われることによって,安易な無断キャンセルが横行してしまうのではないかと考えています。)。

 

2 無断キャンセルの法的効果

 上記のように,飲食店での予約の完了の時点で,サービス提供契約が成立している以上,飲食店側はサービスを提供(場所及び飲食物の提供等)する義務(債務)を負い,客には,代金を支払う義務が発生することになります。したがって,客側が,店に何ら連絡を行うことなく,無断キャンセルをした場合には,客側の事情(帰責事由)により,代金を支払っていないことになるので,客側は,店に対し,店が被った損害を賠償する義務を負うことになります。

 また,仮に,客側がキャンセルの連絡を入れた場合でも,上記のように,いったん契約が成立している以上,客側の一方的な意思により契約を終了することはできません。客側のキャンセルの申し出に対し,店側がキャンセルを承諾し,客に賠償請求しないと約束した場合に限り,客は何のペナルティを課せられることなく,キャンセルができることになります(これを契約の合意解約といいます。)

 このように,飲食店の予約については,安易な気持ちでキャンセルしてしまうと客側にも損害賠償責任が課せられるリスクもあるため,予約についても慎重に行う必要があります。

 次回では,店から客に対する損害賠償請求や,無断キャンセルのトラブルを未然に防ぐための対策等についてご説明させていただきます。

2018.08.20

労働契約書がないのは違法?

新卒で就職し,4月から働いているのですが,働き始めてから4か月たっても,会社との間で雇用契約書を作成していません。上司には雇用契約書を作成してほしいと頼んだのですが,「ウチの会社では契約書は作っていない」と言われてしまいました。雇用保険の手続きは終わっているのですが,契約書を作成しないのは違法なのではないでしょうか。とても不安です。

 

【弁護士からの回答】

 会社員として勤務するうえで,自分がどのような労働条件で雇用されているのかについては,生活にもかかわる非常に重要な事項であることについては間違いありません。そこで,今回は,雇用契約書などの労働条件に関する書面についてご説明させていただきます。

 

1 労働条件の明示について

 労働基準法15条では,労働契約を締結する際には,労働者に対し,賃金,労働時間等の労働条件を明示することを,使用者に義務付けています。また,労働条件の明示の方法は,労働基準法施行規則にて,書面にて行うことが義務付けられています。この労働条件の明示義務については,労働者が正社員であろうがパートタイムであろうが関係なく,使用者に義務付けられているものです。

 もっとも,上記のように,労働条件に関しては書面にて明示することが義務付けられているものの,雇用契約書の作成が義務付けられているわけではありません。書面での明示の方法としては,契約書を作成するほかに,労働条件通知書等の書面を労働者に交付する方法や,就業規則を労働者に交付することでも足りるとされています。

 したがって,ご相談者様の事例でも雇用契約の締結の際に,何らかの形で労働条件に関する書面が提示されていれば,使用者にはそれ以上に,雇用契約書を作成するまでの義務はありません。

 なお,書面にて明示された労働条件が実際の労働条件と異なる場合には,労働者は即時に労働契約を解除することができます。

 

2 契約書を作成してもらえないときは

 では,ご相談者様のように,会社にて雇用契約書を作成してもらえない場合にはどのように対処すればいいのでしょうか。

 まず,ご自身が採用された際に,労働条件通知書など労働条件が記載された書面を会社から渡されていないかを確認してください。それが渡されていないのであれば,そもそも労働基準法に違反しているため,後々に,労働条件が不利な内容に変更されてしまう恐れもあるため,きちんと労働条件に関する書面を提出してもらうか,労働契約書の作成を求めた方が良いでしょう。

 それでも会社から書面等を出してもらえないということであれば,通常の会社であればそのような書面を出すことに何ら抵抗はないはずなので,問題のある会社であることは容易に想像できるため,残念ですが,合わないと感じるのであれば転職を考えるか,労働基準監督署等への相談を検討されてもよいかもしれません。

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