相続財産に含まれない財産
<ご相談者様からのご質問>
先日,父が亡くなりました。私が父の長男であったため,早急に父の葬儀を執り行いました。その際の葬儀費用は300万円程度だったのですが,まとまったお金もなかったので,父が亡くなってすぐ,父名義の口座から引き出して支払いました。
その後,父の遺産分割の話し合いになった際,私の弟たちから葬儀費用を父の預金から支出していることに不満がでました。父の葬儀費用なので,父の口座から支出することに問題はないと思うのですが,どうなのでしょうか。
<弁護士からの回答>
ご親族が亡くなった場合,葬儀を実施するのが一般的ですが,この葬儀費用に関しては被相続人の預金の引き出しとの関係で問題になることが非常に多いです。今回は葬儀費用の負担の問題についてご説明させていただきます。
葬儀費用とは,死者の追悼儀式に要する費用と,埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用,死亡届に要する費用,死体の運搬に関する費用及び火葬に要する費用等)をいうとされています。
この葬儀費用について,被相続人の死後に相続人間で話し合いを行い,相続人間で負担する,若しくは,相続財産より支出する旨の合意ができる場合には,その合意に基づいて,葬儀費用を負担すればよいのであって,特段問題になることはありません(実際に多くのご親族が,話し合いにより葬儀費用の負担を決めていることが多いのではないでしょうか。)。また,被相続人が遺言などで葬儀費用の負担について記載している場合や,互助会等に葬儀費用の積立などを行っている場合(通常葬儀費用の負担についても決めていることが多いです。)には,被相続が決めた内容にしたがって,葬儀費用の負担が決まることになるため,問題になることはありません。
これに対し,葬儀に費用の負担に関して,被相続人が何ら取り決めておらず,かつ,相続人間で協議が整わなかった場合にはどのように処理されるのでしょうか。実際に問題になるケースでは,ご相談者様の事例のように,被相続人がお亡くなりになってすぐに,被相続人名義の預金口座から葬儀費用を引き出し,後の遺産分割協議等で,他の相続人から預金の引き出し行為について指摘されるといったケースが非常に多いです。
ここで,葬儀費用について,相続財産から支出することが可能なのか,すなわち,葬儀費用を誰が負担すべきであるかについては,法律上明確な規定があるわけではありません。学説などでは,①共同相続人で負担すべきという考え方,②喪主が負担すべきであるという考え方③相続財産より支出すべきであるという考え方など諸説の考えがあります。
この問題に関して,名古屋高等裁判所の平成24年9月29日の判決では,葬儀費用のうち,追悼儀式に要する費用(葬式代等)については,儀式を主宰した者(自己の責任と計算において,儀式を準備し,手配等をした者)が負担すべきであると判断しました。簡単にいうと,儀式を主宰した喪主(通常,喪主が儀式を主宰することになると思うので,喪主負担となると考えても差し支えないと思います。)。
理由としては,葬式に関しては,被相続人が何ら決めていない場合には,そもそも葬式を行うのか否か,どの程度の規模の式を行うのか否か,その式にどれだけ費用をかけるのかについては,全て主宰する人が決めることができる以上,主宰者で負担すべきであると考えたのです。また,喪主が負担すべきであると考える考え方の理由として,上記裁判例の理由に加え,主催者は出席者からの香典についても受け取ることができることからも,喪主が負担すべきであると考えているようです。
このように,葬式の費用等については,何も決めていない以上,喪主負担となってしまうことから,自身のお亡くなりになったときの備えを何ら準備していないと,遺されたご家族間での争いを生んでしまう可能性があるため,弁護士に相談し,しっかりと葬式についても記載した遺言書を作成することをお勧めします。
飲食店の無断キャンセルについて②
予約の段階で,お客さんとの間で契約が成立していると考えてもいいのですね。では,無断キャンセルされた場合にはいったいいくら請求できるのでしょうか。また,無断キャンセル等のトラブルを防ぐためには,どのような対策をしておくのが良いでしょうか。
【弁護士からの回答】
前回の記事では,飲食店の予約を無断でキャンセルした場合,店側はお客さんに対し,損害賠償請求を行うことができるとお伝えさせていただきました。
今回は,請求できる損害額や,トラブルを未然に防ぐための方法についてご説明させていただきます。
1 お客に請求することができる金額について
損害賠償においてお客に請求することができる金額については,大きく2つの考え方があります。
まず,予約の段階で,無断キャンセルの場合に請求することができる金額について,店と客側で合意ができている場合には,法的な観点からすると,損害賠償予定額に関する合意が成立していると認められるため,合意した金額を請求することができます。よく,旅館やホテル等の宿泊予約をする際に,旅行サイト等で,「宿泊日の7日前から,キャンセル料として宿泊代金の20%をいただきます」等と記載されているのを見かけると思いますが,利用者は,その記載を前提として予約しているため,損害賠償額に関する合意が成立していることになります。
これに対し,損害賠償額についてあらかじめ合意ができていない場合には,実際に発生した損害を立証する必要があるのですが,これが非常に複雑であり,無断キャンセル問題が裁判等になるケースが少ない理由の1つです。予約していた飲食代金(例えば,5000円のコースを30人予約していた場合には,15万円となります。)がそのまま損害額になるかというとそうではなく,キャンセルにより空いた席にお客を入れることができたのか,料理の仕入れ額についても,損害として主張しうる損害ですが,食材についても他の客に提供することができたのではないかという点などを吟味しなくてはいけないため,損害額を確定するのに非常に手間がかかってしまいます。
2 無断キャンセルの問題点
このように,無断キャンセルが起きたとしても,損害額の予定をしていない場合には,損害の算定が非常に困難になります。また,無断キャンセルにより,客側に請求することができる金額は,上記のように15万,20万円など,高額であるとは言い難い金額であるため,実際に飲食店側が裁判を起こすとなると,弁護士費用等を考えると,裁判を起こす方が,費用がかかってしまうことが多いです。さらに,予約者の情報をきちんと入手しておかないと,そもそも,予約者の所在がわからず,そもそも請求すること自体ができない場合もあります。このように,無断キャンセルが起きたとしても,現実問題として客側に請求や訴訟提起しずらいことから,無断キャンセルが横行してしまっている状況です。
3 飲食店側の対策について
このように,ひとたび,無断キャンセルのトラブルに巻き込まれてしまうと,その損害を回復することは現実的に難しい場合もあるので,飲食店としては,そのようなトラブルに備えておく必要があります。
具体的には,①予約者の身元をしっかり確認することが重要です。代表者の名前,住所,連絡先だけでなく,団体の場合には,所属団体(サークルであれば大学名,会社であれば企業名)等はきちんと確認した方がよいでしょう。所属団体について,把握しておけば,万が一,無断キャンセル等が行われたとしても,大学や会社に対し苦情の連絡を入れることで,後日,解決する可能性も残すことができます。
また,②先程述べた通り,無断キャンセルに対する違約金についてはあらかじめ,予約者との間で合意しているという状況を作るために,電話での予約の際にはキャンセル料を伝えたり,予約サイト等にもキャンセル料について明記しておいた方がよいでしょう。
さらに,③大人数での予約の場合には,キャンセルになった際の損害をきちんと回収できるよう,あらかじめ,予約金や,前払金等の支払いを求めておけば,無断キャンセルのリスクを防ぐこともできるし,万が一,キャンセルが起きたとしても,損害を填補することができるのではないでしょうか。
4 最後に
このように,飲食店の無断キャンセルについては,きちんと対策をとっていないと,トラブルに巻き込まれてしまい,店に大きな損害を与えてしまうことにもなりかねません。当事務所では,フレックス顧問契約という業務時間が繰り越せる顧問契約のシステムをとっているため,顧問料の範囲内で,無断キャンセルに関する問題に取り組むことも可能であるため,もし,飲食店を経営されている方で無断キャンセルの等のトラブルに巻き込まれてしまった場合には,是非一度ご相談ください。
飲食店の無断キャンセルについて①
飲食店を経営しているのですが,1月前に飲み放題込みのコースを50名で予約してもらっていたのですが(大学のサークルでの飲み会とのことでした),当日,1人も来なくて,代表の方に何度も連絡してもつながりません。50名での予約でしたので,その日は貸し切りにしており(予約の電話もあったのですが,お断りしました。),人数分のコースの材料も仕入れており廃棄しなければならない食材も出てしまいました。
事前にキャンセルの連絡をくれるならまだしも,何も連絡なく,あまりにもひどいと思うのですが,無断キャンセルした人に対して損害賠償の請求はできるでしょうか。
【弁護士からの回答】
ご相談者様の事例のように,飲食店の無断キャンセルについては,予約した客側にとっては,軽い気持ちでしていることであっても,飲食店側にとっては,大きな損害を被るものであり,一時期,ニュースなどで取り上げられる問題にもなりました。そこで,今回から2回にかけて,飲食店の無断キャンセルに関する問題についてご説明させていただきます。
1 飲食の予約した時点での法的関係は?
まず,お客との間で予約が完了した際には,どのような状態になるのでしょうか。これに関しては,法律で定められているわけではないのですが,一般に,予約が完了した時点で,客側からお予約した日時における飲食物の提供というサービスの提供の申し込みと店側の飲食物を提供する旨の承諾が認められるため,予約の完了の時点で,予約した日時におけるサービス提供契約が成立していると考えられています。「まだ,予約の段階だから契約は成立していないのではないですか。」という考えもあるとは思いますが,売買予約等の場合には,実際に売買を締結するか否かについては,未定であるのに対し,飲食店での予約については,その日にサービスの提供を受けることについては決定しているため,予約の時点で契約が成立していると考えるのが一般的です(個人的にはこの「予約」という言葉が使われることによって,安易な無断キャンセルが横行してしまうのではないかと考えています。)。
2 無断キャンセルの法的効果
上記のように,飲食店での予約の完了の時点で,サービス提供契約が成立している以上,飲食店側はサービスを提供(場所及び飲食物の提供等)する義務(債務)を負い,客には,代金を支払う義務が発生することになります。したがって,客側が,店に何ら連絡を行うことなく,無断キャンセルをした場合には,客側の事情(帰責事由)により,代金を支払っていないことになるので,客側は,店に対し,店が被った損害を賠償する義務を負うことになります。
また,仮に,客側がキャンセルの連絡を入れた場合でも,上記のように,いったん契約が成立している以上,客側の一方的な意思により契約を終了することはできません。客側のキャンセルの申し出に対し,店側がキャンセルを承諾し,客に賠償請求しないと約束した場合に限り,客は何のペナルティを課せられることなく,キャンセルができることになります(これを契約の合意解約といいます。)
このように,飲食店の予約については,安易な気持ちでキャンセルしてしまうと客側にも損害賠償責任が課せられるリスクもあるため,予約についても慎重に行う必要があります。
次回では,店から客に対する損害賠償請求や,無断キャンセルのトラブルを未然に防ぐための対策等についてご説明させていただきます。
労働契約書がないのは違法?
新卒で就職し,4月から働いているのですが,働き始めてから4か月たっても,会社との間で雇用契約書を作成していません。上司には雇用契約書を作成してほしいと頼んだのですが,「ウチの会社では契約書は作っていない」と言われてしまいました。雇用保険の手続きは終わっているのですが,契約書を作成しないのは違法なのではないでしょうか。とても不安です。
【弁護士からの回答】
会社員として勤務するうえで,自分がどのような労働条件で雇用されているのかについては,生活にもかかわる非常に重要な事項であることについては間違いありません。そこで,今回は,雇用契約書などの労働条件に関する書面についてご説明させていただきます。
1 労働条件の明示について
労働基準法15条では,労働契約を締結する際には,労働者に対し,賃金,労働時間等の労働条件を明示することを,使用者に義務付けています。また,労働条件の明示の方法は,労働基準法施行規則にて,書面にて行うことが義務付けられています。この労働条件の明示義務については,労働者が正社員であろうがパートタイムであろうが関係なく,使用者に義務付けられているものです。
もっとも,上記のように,労働条件に関しては書面にて明示することが義務付けられているものの,雇用契約書の作成が義務付けられているわけではありません。書面での明示の方法としては,契約書を作成するほかに,労働条件通知書等の書面を労働者に交付する方法や,就業規則を労働者に交付することでも足りるとされています。
したがって,ご相談者様の事例でも雇用契約の締結の際に,何らかの形で労働条件に関する書面が提示されていれば,使用者にはそれ以上に,雇用契約書を作成するまでの義務はありません。
なお,書面にて明示された労働条件が実際の労働条件と異なる場合には,労働者は即時に労働契約を解除することができます。
2 契約書を作成してもらえないときは
では,ご相談者様のように,会社にて雇用契約書を作成してもらえない場合にはどのように対処すればいいのでしょうか。
まず,ご自身が採用された際に,労働条件通知書など労働条件が記載された書面を会社から渡されていないかを確認してください。それが渡されていないのであれば,そもそも労働基準法に違反しているため,後々に,労働条件が不利な内容に変更されてしまう恐れもあるため,きちんと労働条件に関する書面を提出してもらうか,労働契約書の作成を求めた方が良いでしょう。
それでも会社から書面等を出してもらえないということであれば,通常の会社であればそのような書面を出すことに何ら抵抗はないはずなので,問題のある会社であることは容易に想像できるため,残念ですが,合わないと感じるのであれば転職を考えるか,労働基準監督署等への相談を検討されてもよいかもしれません。
自然災害と賠償責任
先日,台風が私の住んでいる地域を襲いました。とても強い風であったため,隣の家の堀が倒れ,そのブロックが飛んできて,私の家の窓ガラスを割ってしまいました。隣の家の所有者に家の補修を請求しても良いのでしょうか?自然災害なので自己負担になるのでしょうか?
【弁護士からの回答】
平成29年の九州北部豪雨や,今年の西日本豪雨等,温暖化の影響なのか,自然災害と多くの人が命を落とされてしまう事態が生じています。
そこで,今回は,自然災害が原因で生じたトラブルについてご説明させていただきます。
1 過失責任の原則
契約関係がある場合以外で,他の人が被った損害を賠償する義務を負う際には,請求されている人に落ち度(過失)がある必要があります。このように,不不法行為の損害賠償責任については,過失がなければ賠償責任を負わないことを過失責任の原則といいます。
この過失責任の原則からすると,地震や台風などの自然災害が原因で発生した損害については,他人の故意又は過失によって発生した損害ではないため,原則として誰かに損害賠償を請求することはできません。
2 工作物責任
上記の過失責任の原則の例外として,土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害を与えた場合には,占有者(損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときには免れます。)または所有者が損害賠償責任を負うことになります。土地の工作物とは,人工的作業によって土地に接着されたものをいい,コンクリートのブロック塀などは土地の工作物に含まれます。
3 本件について
本件のブロック塀も土地の工作物に含まれることについては,争いはないと思われます。したがって,本件での争点は,近隣のブロック塀に「瑕疵」が存在していたかになります。具体的には,台風が来る以前から塀が崩れかかっていた場合には瑕疵が認められるでしょう。もっとも,従前から瑕疵があることに関しては,事故後に立証することは難しいので,台風が起きる前にそのような瑕疵があると思われる箇所を写真などで撮影しておくことでもない限り損害賠償請求は難しいのではないかと思います。
4 最後に
このように,災害をきっかけとした事故であっても,場合によっては工作物の所有者(民法717条2項では竹木の植栽などに瑕疵がある場合も賠償責任を認められているので,例えば倒れかかっている樹木を放置していた場合には,樹木の所有者が賠償責任を負うことになります。)が賠償責任を負わなければならない事態も発生しますので,災害に備えて家や樹木などの点検も必要になってくるのではないかと考えています。
いらない土地を放棄することはできるのか?
古くなった実家の処分を考えています。父のも母も亡くなり,だれも実家に住んでいないため,実家を処分しようと考えていたのですが,先日,実家の登記を取得したところ,土地は私名義になっているのですが(父から相続しました。)建物自体は,祖母名義になっていました。父は叔父との2人兄弟であり,叔父が存命のため,祖母の相続人は私と叔父の2人になるのですが,叔父との関係が悪く,おそらく遺産分割等で協議をすることは困難ではないかと思います。このままだと,使えない不動産についていつまでも固定資産税などを支払い続けなくてはいけなくなってしまうため,土地や建物の所有権を放棄したいと考えているのですが,できるのでしょうか。
【弁護士からの回答】
相続手続きを行っておらず,不動産等について,多数の,相続人が存在することになってしまい,被相続人名義のままの不動産が残っているということも少なくありません。ご相談者様のご質問にあるように,土地の所有権を放棄することができれば,不要な土地の固定資産税等を回避できるのでしょうか,不動産の所有権の放棄はできるのでしょうか(なお,祖母名義の建物については相続分の放棄が可能ですがこれについては別の機会にご説明させていただきます。)。
1 権利の放棄について
民法は,私的自治の原則という制度を採用しており,権利の行使や放棄については,当事者の自由な意思に基づいて行使することができるという原則を採用しています。したがって,誰かに対し債権を有しているとしても,債権を行使するのか放棄するのかについては,債権者の自由な意思に委ねられています。したがって,債権については債権者の意思で自由に放棄することができます。
2 所有権の放棄
上記のように,私的自治の原則からすると,不動産の所有権という権利を放棄することも自由にできるようにも思えます。もっとも,結論からお伝えすると,現時点では,不動産の所有権の放棄については認められていないというのが現状です。
先程お伝えした,私的自治の原則にしたがえば,権利の放棄も自由行使することができますが,私的自治の原則には,権利の行使については第三者の利益を害するような場合には公序良俗に反するとして,権利行使が制限されるという側面があります。したがって,権利の放棄についても,第三者の利益を害する場合には放棄が認められないということになります。
そして,不動産について自由な放棄が認められてしまうと,建物の場合には老朽化した建物があふれかえってしまうおそれもあり,倒壊などにより近隣の住民に損害を被る恐れなどが否定できないため,一般的に不動産の所有権の放棄は認められないとされています(実際,不動産の登記実務上では,放棄による所有権の滅失登記などは一切認められておりません。)。
3 今後の課題
このように,自由な所有権放棄が認められていない以上,不要な土地を処分する場合には,誰かに売却するか,相続の始まった時点で相続放棄をする以外に方法が考えられない状況になります。したがって,遺されたご家族が困らないように生前に財産を処分しておくか,相続が判明した時点ですぐに相続放棄等の対応を行う必要があるため,ご親族がお亡くなりになった場合にはすぐに,弁護士にご相談ください。
もっとも,ご相談者様の事例では,相続放棄の申述期間も経過してしまっているでしょうし,建物が祖母名義であることから,土地の買い手もなかなかつかないのではないかと思います。この場合,遺産分割調停や審判等で建物についてもご相談者様名義にして,土地と一緒に売却することになると思われます。
このように,土地の放棄が制度として認められていないこともあり,現在,日本では,空き家として放置されている不動産が非常に多く,社会問題になっています。
このような状態を解消するためにも,不動産の放棄の制度や,一定期間空き家状態となっている不動産に関して,国庫の帰属とするような立法措置により解消していくしかないのではないかと感じています。
政治家,芸能人のゴシップは名誉毀損?
【相談事例⑮】
前回の記事で,不貞をしているのを公にしたら名誉毀損罪が成立し,損害賠償を請求することができると記載されていたのですが,芸能人の不倫や,政治家の不倫が週刊誌などで報じられているのは名誉毀損として出版社等は罪に問われないのでしょうか。
【弁護士からの回答】
近年,週刊誌により,芸能人や政治家の不倫などのスキャンダルが頻繁に報じられていますが,このような週刊誌によるスキャンダルに関する報道と,名誉毀損罪若しくは,損害賠償請求の関係についてご説明させていただきます。
1 はじめに
前回の記事でお伝えした通り,他の異性と不倫(不貞)をしているという事実は,一般的に公にされた人の名誉を毀損することは明らかであり,それは,公にされる人が芸能人であっても政治家であっても,名誉が害されることに変わりはありません。
2 政治家の場合
刑法230条の2の2項では,名誉毀損罪に該当する行為が,「公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には,事実の真否を判断し,真実であることの証明があったときは,これを罰しない。」と規定されており,政治家(国会議員)も公務員であるため,名誉を毀損する内容が真実である場合(もしくは虚偽であったとしても真実であると信じたことについて,確実な資料等により相当の理由があると認められる場合)には,名誉毀損罪は成立しないことになります。これは,国会議員等の政治家は,国民の代表として,いわゆる「公人」として存在している以上,公人に関する事項は,公人の名誉よりもその事実を周囲に発表することにより国民の利益(表現の自由や知る権利)を尊重すべきと考えられているからです。
3 芸能人の場合
では,スキャンダルを報じられたのが,芸能人の場合はどうでしょうか。芸能人は当然,公務員ではありません。また,刑法230条の2第1項では,「公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には,事実の真否を判断し,真実であることの証明があったときは,これを罰しない。」と規定していますが,芸能人のスキャンダルが,公共の利害や公益とは無関係であることは明らかであると思います。
したがって,芸能人のスキャンダルに関しては,名誉毀損罪が成立しうることになりますし,プライバシー権を侵害しているとして,損害賠償を請求しうることになります。芸能人として世間にみられる立場である以上,プライバシー権を放棄しているというような極端な考えもありますが,そのような考え方は一般的ではありません。
しかし,名誉毀損罪として処罰の対象となるためには,被害者が告訴をしなければならず,告訴がなければ犯罪として処罰することはできません(これを親告罪といいます。)。したがって,週刊誌によるスキャンダルのほとんどのケースでは,罪自体は成立しうるものの,暴露された芸能人が,今後の活動の影響などを考えて,告訴をしていないのではないかと考えられます。
また,民事訴訟においても,損害賠償として請求することができる金額は多くて数百万程度であり,内容によっては数十万程度しか認められない場合もあります。したがって,マスコミ側としても,そのような少額の賠償を払うリスクよりも,その内容を記事にすることによる利益を優先してしまっているのではないかと考えています。
とはいえ,ひとつのマスコミの記事により,芸能人としての活動やその後の人生まで大きく変えられてしまう人も少なくないと思いますので,マスコミの報道の仕方についても,行き過ぎた取材は報道に対しては,裁判所での制裁だけではく世間としての見方も変えなくてはならないのではないかと感じています。
SNSで嫌がらせを受けたら
【相談事例⑭】
先日,知り合いから,夫が女性と不貞をしているなどとSNSで書き込んでいる人がいると教えてもらい,その人の書き込みをみると,確かに主人が不貞をしている書き込みが頻繁になされていました。(その書き込みは誰であっても見ることができる状態になっています。)。一瞬主人を疑ってしまいましたが,主人にも確認をとり,不貞の事実等全くなく,嘘の事実であることが分かりました。その書き込みにより非常に迷惑をしています。こういったケースはどのような対応を行えばいいのでしょうか?
【弁護士からの回答】
インターネットが非常に普及するようになっている現代においては,上記のようなSNS上でのトラブルが非常に多いです。そこで,今回は,SNS上での名誉毀損への対策についてご説明させていただきます。
1 はじめに
ご相談者様の事例では,ご主人が他の女性と不貞行為をしているという情報がSNS上で誰からも見ることができる状況になっています。このように一般的に社会的な信用(名誉)を損なうような内容が,不特定多数の人が見られるような状況に置いた場合には,刑法上の名誉毀損罪(刑法230条)が成立します。また,同時に個人のプライバシー権を違法に侵害しているため,民法上の不法行為にも該当するため,慰謝料等損害賠償請求もすることができます。ご相談者様の場合,ご主人が不貞をしているという事実は,虚偽の事実ですが,仮に,ご主人の不貞の事実が真実であったとしても,名誉毀損罪は成立しますし,損害賠償を支払わななければならないことには変わりありません(真実の場合には一定の要件を満たせば犯罪が成立せず,損害賠償の義務を負わない場合がありますが,それについては,次回ご説明させていただきます。)。
2 削除請求
このような,名誉毀損的な書き込みがなされている場合,最初に行うべきことは,書き込みを削除することが考えられます(後述する刑事告訴や民事訴訟まで行うことを予定している場合には,書き込みの証拠を確保する必要があるため,書き込んでいるページをプリントアウト等しておくとよいでしょう。)。書き込みを削除する方法としては,SNSの場合,書き込みの削除フォーム等やメールにより運営者(管理者)に対して書き込みの削除を依頼することが考えられます。
このような任意での削除方法がない場合や,管理者において任意での削除に協力してくれない場合には,削除請求に関する仮処分(民事保全手続になります。)や削除請求の訴訟を提起することになります。
3 刑事手続
次に,違法な書き込みを行っている人を刑事処分にしてほしいと考える場合には,①被害届の提出若しくは②告訴状の提出が考えられます。①の被害届とは,犯罪の被害にあった事実を捜査機関に対し申告する書面になります。被害届を提出するためには,被害者の情報,被害の日時や被害内容,加害者に関する情報(加害者不明でも出すことは可能です。)等申告する必要があります。被害届に関しては,告訴状と比べると簡易な手続で届出を行うことが可能ですが,被害届でとどまる場合には,捜査機関において事件性が低いとして捜査をしてくれない場合もあります。
②の告訴状とは,犯罪の事実を告知する点では被害届と同じなのですが,告訴に関しては,加害者への処罰を求めることも含まれることに加え,仮に,告訴が受理された場合には,捜査機関において捜査を開始する義務及び,検察官において起訴するか否かの判断を告訴した人に対して伝える義務が生じることになります。
被害届よりも告訴の方が具体的に被害を防止するためには効果的であることには間違いありませんが,告訴が受理されるためには,確実に有罪となる見込みがある場合でなければ受理されることはないため,告訴状にはしっかり証拠等を添付して提出する必要があります。したがって,告訴状を提出することを考えられている場合には,是非,一度弁護士にご相談ください。
4 損害賠償請求(民事訴訟)
名誉を毀損する書き込みを行っている相手方に対し,損害賠償を請求したいと考えられる場合には,まず,書き込みをしている相手方を特定する必要があります。特定する方法としては,SNSの管理者側に存在している発信者(書き込みを行った人です。)のIPアドレスを特定する必要があります。具体的には,管理者に対し,上記情報を開示するよう交渉を行うか,交渉に応じない場合には,裁判所に対し,発信者情報開示請求の仮処分や訴訟を申し立てることになります。
IPアドレスを入手することができると,発信者がインターネットを使用している際に経由しているプロバイダが判明したら,プロバイダに対し,発信者情報(氏名,住所)等を開示してもらうために,発信者情報開示訴訟を行うことになります。
上記訴訟を経てようやく書き込みを行った人の情報が分かり,損害賠償請求交渉や訴訟を行うことができます。このように,発信者情報の開示に関しては時間と手間が非常にかかってしまうのが現状です。
5 さいごに
違法な書き込みの被害に遭っている場合には,ますは,書き込みを早急に削除するために書き込みを消去することが非常に重要です(インターネットの上の情報は一度出てしまうと完全になくすことはほぼ不可能といって差し支えないと思います。)。インターネットの被害に遭われている方は是非一度弁護士にご相談ください。
懲戒解雇の妥当性
【相談事例⑬】
従業員が無断欠勤を頻繁に繰り返している従業員がいます。その従業員のせいで他の従業員に迷惑がかかっており,会社全体の士気も下がってしまっている状況です,その従業員を懲戒解雇にしたいが,解雇できるのでしょうか?
【弁護士からの回答】
今回は,従業員の無断欠勤と懲戒解雇についてのご相談です。無断欠勤は即解雇等としている会社もあると聞きますが,懲戒解雇についてのトラブルは,労働審判等会社にとって非常に不利益になる等のトラブルのもとになることが非常に多いので,注意が必要です。
1 懲戒解雇の要件について
懲戒解雇とは,従業員が懲戒事由に該当する行為を行ったことを理由として,雇用契約を解消(解雇)することをいいます。懲戒解雇は,労働者に対する制裁的な処分であり,かつ,解雇という労働者の生活に大きな影響を与える処分であるため,懲戒解雇が認められるための要件は非常に厳格にさだめられています。
まず,懲戒解雇は,労働者にペナルティを与える懲戒処分であるため,どのような行為を行ったら懲戒解雇処分を受けるということが就業規則に規定されている必要があります。従業員が10名以下の企業では,就業規則の作成義務がないため,就業規則自体を作成していない企業も少なからずいらっしゃいますが,就業規則を作成していない企業の場合には,従業員がどれだけ悪質な行為を行ったとしても,懲戒解雇にすることはできず,普通解雇により解雇を行うことになります。その場合には,解雇予告手当等を支払わなくてはならないため,どれだけ規模の小さい会社であったとしても就業規則は作成しておいた方がよいでしょう。
次に,懲戒解雇が有効に認められるための要件としては。懲戒解雇に合理的理由及び社会的妥当性が認められることが必要になります(労働契約法16条)。具体的には,たとえ,就業規則に懲戒解雇事由が規定されていたとしても,その事由により解雇されることがあまりにも不当な場合には,解雇が認められないことになります。極端な例ですが,就業規則に「就業時間を1分でも遅刻した場合には懲戒解雇とする」と規定されおり,実際に1分遅刻した場合に解雇が認められるわけがないことは分かると思います。したがって,就業規則には,懲戒解雇処分を科しても不当ではないと認められるような事由を記載しておく必要があります。
2 無断欠勤について
無断欠勤に関する懲戒解雇事由としては,「14日連続で正当な理由がなく無断欠勤をし,出勤の催促に応じない場合」に懲戒解雇とするという規定を就業規則においているのが一般的です。14日間連続とされている理由については,労働基準監督署の認定を受けて解雇予告手当を支払わなくてよい場合(労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合,労働基準法20条)として,2週間以上正当な理由なく無断欠勤していることが要件とされているため,一般的な就業規則では,14日間とされています。
では,無断欠勤が14日間連続ではなく,10日間欠勤して,しばらく出勤してまた10日間欠勤しているような場合はどうでしょうか。
この場合,14日間連続で無断欠勤していない以上,上記の規定に基づいて懲戒解雇をすることはできません。もっとも,通常の就業規則では,無断欠勤をしたときに,けん責処分(単に注意をするのみの処分です。)とし,けん責処分を複数回行ったとき,もしくは,無断欠勤が7日以上に及んだときは,減給,出勤停止若しくは降格処分とし,さらに,減給等の処分を受けたにもかかわらず,改悛(改善)の見込みがないときに懲戒解雇処分とする規定が存在します。したがって,14日連続で無断欠勤をしていない場合であっても無断欠勤をした都度,けん責処分や減給,降格処分などを科していくことで,懲戒解雇を行うことも可能になります。
3 最後に
使用者である経営者の方においては,あまり意識をされていないことが多いと思いますが,懲戒解雇処分というものは,先ほども述べたとおり,非常に重い処分であるため,軽々と行ってしまうと,労働審判等の紛争に巻き込まれるなど,本来の経済活動に充てることができた時間を余計な手間にとられてしまうリスクもあるため,懲戒解雇をすると考えた際には非常に慎重になる必要があります。当オフィスも那珂川町だけでなく,春日市,大野城などの中小企業様の顧問弁護士として,従業員の解雇に関する問題も多く取り扱っておりますので,是非一度お問合せください。
更新拒絶等の「正当な事由」とは
【相談事例⑫】
(前回の続き※事案の内容は前回の記事をご覧ください。)
賃貸人に出て行けと言われたとしても,それに必ずしも応じなければいけないわけではないのですね。ただ,賃貸人が立退料を支払えば出て行かなくてはならないと聞いたことがありますが本当でしょうか。
【弁護士からの回答】
前回の記事で,建物賃貸借契約の更新拒絶や,解約の通知は,借地借家法28条に「正当な事由」が無い場合には認められないとご説明させていただきましたが,今回は正当な事由の有無の判断要素についてご説明させていただきます。
1 はじめに
更新拒絶等の要件である「正当な事由」の考慮要素については,同じく借地借家法28条に規定されており,28条に規定されている要素を総合的に考慮して,「正当な事由」が認められるか否かを判断することになります。
2 建物の使用を必要とする事情
賃貸人と賃借人のそれぞれにおいて,当該建物の使用を必要とする事情があるか否かを判断し,どちらの必要性が高いと言えるのかを判断することになります。「正当な事由」の判断要素の中において,この「必要性」という要件は最も重要な考慮要素となります。すなわち,賃貸人における建物使用の必要性が賃借人における建物使用の必要性よりも大きい場合には,「正当事由」が認められる方向に働きます,逆に,賃借人における建物使用の必要性の方が大きい場合には,「正当事由」が否定される方向に働きます。また,当事者双方の建物使用の必要性に差がない場合には,後述する他の要素を補充的に考慮して判断していくことになります。
3 建物の賃貸借に関する従前の経過
契約期間,更新状況,前回の更新時に賃貸人と賃借人との間でどのような話し合いを行っていたか,敷金の支払いの有無,家賃滞納の有無等が考慮されることになります。具体的には,何度も更新を重ねており,前回の更新時には退去の話など一切なされていなかった場合には,正当事由が否定される方向に働きます。
4 建物の利用状況
建物が,賃貸借契約で定められた用法に従い使用されているかなどが考慮要素になると言われていますが,ほとんど考慮要素としての意味はないと言われています(用法違反の場合には,債務不履行により賃貸借契約が解除されてしまうため,更新拒絶等が問題になることがあまりありません。)
5 財産上の給付の申し出(立退料)
賃貸人が賃借人に対し,金銭(立退料)や代替する賃貸物件を提供する等の財産上の給付を申し出た際には,その申出は正当事由の考慮要素となります。ここで注意が必要なのは,財産上の給付の申し出があれば必ず「正当な事由」に該当するというものではありません。すなわち,正当な事由に該当するか否かは上記のように,建物の使用を必要とする事情をメインに判断するため,賃貸人がいくら立退料を提供したとしても,賃借人が当該建物を使用する必要が非常に高い場合には,正当事由がないと認められる場合があるということです。逆に,賃貸人で建物を使用する必要性が非常に高い場合や,建物の老朽化により早急に取壊しが必要な場合等には,立退料を支払わないとしても,正当な事由が認められると判断されることもあります。
6 最後に
このように,建物賃貸借契約における更新拒絶に関しては,賃貸人側であろうと賃借人側であろうと非常に複雑な問題があることから,賃借人の方賃貸人の方いずれであっても,契約の更新の際には是非一度弁護士にご相談ください。