弁護士コラム

2018.04.08

物損事故の問題点①~代車料について~

<ご相談者様からのご質問>

 物損事故に遭ったのですが,相手方の保険会社の担当者から「過失事故なので代車料は支払えません」と言われましたが本当でしょうか。

<弁護士からの回答>

 今回から数回にかけて物損事故において問題になる事項についてご説明させていただきます。今回は,物損事故の際に発生する代車料についてご説明させていただきます。

 物損事故が起きた際に,自動車の損害を回復するためには,自動車を修理する必要があります。その修理期間中に自動車を使用する必要が生じた場合,代車を使用する際の代車料は交通事故により発生した損害であるため,加害者には代車料を請求することができます。代車料が請求できる期間は,一般的に当該損傷を修理するために要する期間です。

なお,代車の車種(グレード)についてですが,代車を使用する必要性や代車使用の目的との関係で,代替できる車種(グレード)に限定されてしまうことが一般的です。例えば,外車が事故に遭った場合には,国産高級車で代替可能であると判断されることが一般的です。

このように,代車料は,交通事故により発生した損害であることから,双方に過失が認められる事故であっても,損害として発生していることに変わりはありません。したがって,ご相談者様のケースでの相手方保険会社の担当者の対応は間違っており,過失事故であっても代車料を請求することができます。

もっとも,保険会社においては,被害者ご本人のみで対応している際には,過失事故の場合には代車料を支払わないとの対応をすることがあります。そのような場合には弁護士を代理人としてつけることにより,過失事故であっても代車料は支払うべき義務があるということをきちんと説明し,相手方保険会社と交渉することができます。

ここで気を付けなければならない点としては,過失事故の場合,被った損害の全てが賠償されるわけではありません。自身の過失割合に相当する金額は支払われないことになります。したがって,代車料についても,全額が支払われるわけではなく,自身の過失割合に相当する金額については支払われないことになります。

2018.04.07

賠償に至るまでの流れ~人身事故編~

<ご相談者様からのご質問>

  交差点に入ったところで脇道から入ってきた車にぶつけられました。相手は減速せずにぶつかってきたため,とても強い衝撃で,首も肩も腰も痛いです。今日から病院で入院することになりました。仕事も休まないといけないです。今後どうなるのでしょうか。

<弁護士からの回答>

 前回ご説明したとおり,物損事故の場合には,過失割合が問題にならないときには紛争になることもなく,スムーズに解決することが多いです。もっとも,人身事故の場合には過失割合のみならず,治療期間,慰謝料等交渉すべき事項が多岐にわたります。今回は,人身事故における賠償にいたるまでの経緯についてご説明させていただきます。

1 治療

  事故に遭いケガをしてしまった場合には,まずはケガの治療を第1に優先されてください。骨折など重傷を負っている場合など,ケガが治るまでに相当の期間を要する場合には,治療が終了するまで損害額を確定することができないため,事故後直ちに示談が行われるということはありません。また,入院をした際等には仕事にでることができませんが,治療により欠勤した際の損害(休業損害といいます。)については請求することができます。相手方保険会社との交渉により,休業損害については,示談前であっても,先に支払われることが多いです。
  治療期間が経過していくと,相手方保険会社から「そろそろ治療を打ち切ってください」等といわれることがあります。治療については一般的に保険会社が判断できる事項ではなく,医師が判断すべき事項であります。したがって,弁護士が代理人としてお手伝いさせていただく際には,治療を行っている医師の診断内容を踏まえつつ,相手方保険会社に対しまだ,治療の必要性があると伝え,治療費を負担するよう交渉することになります。

2 治癒,症状固定(後遺症の申請)

  ケガの治療を継続していくと,どこかのタイミングで,ケガが完全に治った状態(治癒といいます)になるか,医師においてこれ以上治療を続けても症状が改善しない状態(症状固定といいます)のいずれかの状態になります。治癒の状態になった場合には,直ちに示談の交渉に移行しますが,症状固定の状態になった場合には,残存している症状が,後遺障害として認定された場合には後遺障害による損害(慰謝料,逸失利益)も請求することになります。後遺障害の認定を売るためには医師に後遺症診断書を作成してもらう必要があります。

3 示談~裁判

  ケガが治癒したあとや,後遺障害が認定されると損害額について,加害者側の保険会社と協議を行うことになります(双方に過失が認められる場合には過失割合についても協議を行います。)。損害額の協議が整わなかった場合には,物損事故と同様裁判によって賠償を求めることになります。
物損事故の場合には賠償額が減額されるということはありませんが,人身事故の場合には慰謝料の金額について,保険会社の基準で非常に低い金額が提示されることが多々あります。したがって,人身事故における慰謝料の交渉については弁護士を代理人として入れた方が基本的には慰謝料の金額が上がるため依頼した方がよいでしょう。

2018.04.06

賠償に至るまでの流れ~物損事故編~

<ご相談者様からのご質問>

  交差点で相手の車とぶつかってしまいました。お互いケガはありません。
  これまで交通事故に遭ったことがないので,今後どのように進んでいくのかがわかりません。ケガはないので弁護士さんに依頼しなくても大丈夫でしょうか。

 <弁護士からの回答>

  物損事故といえども,相手方の保険会社との間でトラブルになることは少なくありません。今回は,物損事故に遭ってしまった場合に事故後から解決に至るまでの一連の流れについてご説明させていただきます。

1 損害額の確定

  物損事故の場合には,基本的には,当該車両の修理費(もしくは時価額。時価額が損害になる場合については別の機会にご説明させていただきます。)が損害額となります。事故に遭った場合には,修理工場にて修理の見積もりを行い,見積が確定した後に,賠償額が決まることになります。

2 賠償額の確定

  停車中に後ろから衝突された場合など,加害者の一方的な過失(0:100)の事故の場合には,上記の損害額(修理額若しくは時価額)がそのまま賠償されることになります。賠償額の支払方法としては,修理が行われている場合には,加害者側の保険会社から直接修理工場に対し修理代金が支払われるという方法と,修理代金を加害者側保険から被害者が直接支払いを受けるといった2つの方法が考えられますが,自動車の修理が先行することが多いため,前者の方法がとられることが多いのではないかと思います。
  これに対し,交差点での事故や,双方の自動車が動いている際の事故の場合には,当該事故がどちらの過失がどの程度認められるのかという過失割合が問題になります。物損事故の場合にはこの過失割合について相手方保険会社との間で交渉する際にトラブルとなり,弁護士にご依頼いただくことが多いです。自身にも過失があると判断された場合には,自分の損害額のうち自身の過失割合に相当する金額は,賠償されません。それどころか,相手方の損害のうち,自身の過失割合に相当する金額については賠償する必要があります。具体例で説明すると,ご自身の車の修理額が40万円,相手車両の修理額が20万円,自分と相手の過失割合が20:80(自分が2割の過失,相手が8割の過失)の場合には,自車の修理代の2割(8万円)と,相手方の修理代金の2割(4万円)は負担しなければなりません。

3 示談~訴訟

  この過失割合については,相手方保険会社との間で協議を行い,協議がととのえば示談書を作成して解決するのですが,過失割合について協議が整わない場合には,裁判で賠償額を確定することになります。物損事故のみの場合の裁判は,金額も高額になることは稀であり,簡易裁判所で判断することになるため,比較的短期間機で解決することが多いですが,過失割合について複雑な事案等の場合には半年以上かかる場合もあります。
  いずれにせよ,過失割合が問題になった際には,弁護士に依頼することで,適切な過失割合をきちんと相手方保険会社に提示して交渉をすすめることができますので,是非弁護士にご相談ください。

2018.04.05

任意保険の特約について

 <ご相談者様からのご質問>

 任意保険を契約する際に,確か色々な特約もついていたと思うのですが,交通事故に遭ってしまったときに役に立つ特約というのは何かありますか。

 <弁護士からの回答>

 任意保険に関しては,各保険会社において補償内容については様々ですが,契約する際には保険の内容についてきちんと説明を受けてはいるものの,自分がどういった内容の特約が付いているのかについては,普段あまり意識していないと思われます。そこで,今回は任意保険についている特約のうち,交通事故に遭った際に役に立つ特約についてご説明させていただきます。

1 人身傷害特約,無保険車傷害特約

 停車しているところに相手方の自動車が追突してきた場合のように,相手方の一方的な過失によりケガをしてしまった際,加害者が任意保険者自賠責保険に加入していれば問題ないのですが,加害者が加入していない場合,事故により被った損害を加害者側から支払ってもらうことは現実的に難しくなってしまいます。そのような場合に,無保険車傷害特約が付いていると,自分が加入している任意保険会社から治療費や慰謝料,休業損害等が支払われることになります。
 また,無保険車傷害特約と似た内容ではありますが,人身傷害特約というものもあります。こちら側の過失の割合が大きい場合には,こちらのケガの治療費等損害額のうち,自身の過失割合に相当する額については自己負担しなければなりませんが,人身傷害特約に入っていれば,過失の割合に関係なく,治療費等損害額の全額を補填してもらえることになります。
 なお,無保険車傷害特約,人身傷害特約のいずれにも,支払うことができる限度額(保険金限度額)が設定されていますので,その限度額を超えた損害については支払いがなされないことになります。

2 弁護士費用特約

 交通事故で加害者側になった場合には,別の機会にもご説明いたしますが,加害者の任意保険会社の担当者が被害者側と交渉し,交渉が難航した場合には保険会社の費用負担で弁護士が対応することになります。
 他方で,被害者側の場合には,原則として被害者の弁護士費用については被害者ご自身が負担をしなければならず,物損事故や軽微なケガの事故の場合には,弁護士費用の負担を理由に弁護士への依頼ができないというような状況が一般的でした。
 そこで,弁護士費用特約に加入しておくと,被害者になった際に,自身の任意保険会社が依頼した弁護士の費用を負担してくれることになります。これにより,交通事故に遭われた方であっても,弁護士費用を気にすることなく,弁護士に依頼することができます。なお,弁護士費用特約を使っても保険料の等級が下がるということはありません。別の機会にもご説明いたしますが,物損事故であれ,軽微な人身事故であっても,適正な賠償を得るためには,弁護士を代理人として選任するのが一番の解決策であると考えています。
 したがって,ご自身の任意保険に弁護士費用特約がついている場合には,是非一度弁護士にご相談ください。

2018.04.04

親権者指定の判断要素

親権者指定の判断要素

<ご相談者さまからのご質問>

  夫との離婚を考えています。ですが,子どもの親権については絶対私が欲しいと考えています。親権者を判断する際にはどのような事情が考慮されるのでしょうか。

<弁護士からの回答>

 夫婦当事者間において,親権者をいずれとするかについて,合意ができている場合には,問題なく親権者は決まるのですが,当事者間で親権者について争いがある場合には,最終的には家庭裁判所において,父と母のいずれが親権者として適切であるかについて判断することになります。
 そこで,今回は,裁判における親権者指定の判断要素についてご説明させていただきます。

 家庭裁判所において,親権者を判断するときの,最も重要な基準は「子の福祉と利益」になります。すなわち,父親と母親のどちらの側で生活をすることが子の利益や福祉に資するのか(子どもの将来のためになるか)という点を基準に判断していくことになります。そこで,裁判所ではおおむね以下の要素を総合的に考慮し,親権者を判断してくことになります。

 1 父母の属性等
   子どもは,父母のいずれかの監護下におかれて養育されることから,父母に関する事情は当然判断要素になってきます。具体的には,年齢,職業,収入,健康状態,生活態度等の父母の属性や資質は判断要素になります。例えば,暴力等頻繁に行ってきた当事者の場合には親権者としての適格性を欠くのではないかと判断されることになります。

2 監護状況等
  未成年者がどのような監護状況において育っていくのかという点については,まさに子の福祉や利益に直結する問題であることから,非常に重要な判断要素になります。
   したがって,これまでの監護実績,経済状況(収入,支出借金の有無等),居住環境,教育環境,監護補助者の有無等については判断要素となります。

 3 監護への意欲
   親権者として子どもへの愛情がどのくらいあるか(従前,子にどれほど関心を注いでいたか),親権者として子をどのように育てていきたいか等の監護への意欲についても親権の判断要素となります。別の機会にご説明させていただきますが,現在子を監護している場合に,相手方配偶者との子どもとの間の面会交流に対してどれだけ協力的かという点についても判断要素となります。

 4 子の心身の状況等
   先程もお伝えした通り,親権者の判断は,子の福祉,子の利益の観点から判断されることになるため,子に関する事情についても当然に判断要素となります。具体的には,子どもの年齢,性別,健康状態,性格等に加え,現在の環境について考慮されることになります。特に現在の環境については,兄妹姉妹との関係性や,学校への通学状況,交友関係だけでなく,非監護親との間の面会交流など現在の環境についてどれほど順応しているか,現在の環境が変化すること(監護する親が変わること)により子にどのような影響が及ぼされるのかという点についても考慮されることになります。
   また,別の機会にもお伝えしますが,親権者に関する子の意向についても,判断要素になることがあります。

   以上のように,親権者を判断する際には,夫婦だけでなく子どもに関する事項も含め,様々な事情を総合的に判断することになり,非常に専門的な内容になっていることから,親権を欲しいと考えられている場合にはできるだけ早く弁護士にご相談いただいた方がよいでしょう。

2018.04.03

親権とは

親権とは

<ご相談者様からのご質問>

   先日,妻から,離婚したいと言われ,自分もこれ以上妻とはやっていけないと考えていたため,離婚に応じることにしました。妻との間には,3歳の息子が1人いるのですが,妻は息子の親権については自分(妻)が欲しいと話しています。これまで仕事中心であったため,息子については妻が中心として育てることについては私も異論はありませんが,そもそも親権ということについてよくわかっていないので教えてください。

<弁護士からの回答>

 離婚する際,夫婦の間に未成年の子がいる場合には,離婚の際に子の親権者を父か母のいずれかに指定しなければなりません。
 そこで,今回は,親権の内容についてご説明させていただきます。

 親権とは,成年に達しない子を監護,教育し,その財産を管理するため,その父母に与えられた身分上及び財産上の権利・義務のことをいい,未成年の子に対し親権を有している人を親権者といいます。
 未成年の子どもは,未熟であり1人では生活したり,内容を理解して法律行為等を行うことが困難であるため,親権者が親権を行使し,本人の生活を支え,財産などを管理していくことになります。
 親権の定義にもあるように,親権は「身上監護権」と「財産管理権」の2つに分けられます。

 「身上監護権」とは,子の身分行為に関する同意権,代理権居住指定権(子どもをどこに住まわせるのかを決める権利),懲戒権(監護や教育に必要な範囲内で懲戒,しつけを行う権利),職業許可権(子が職業を営むにあたり,その許可を行う権利)などを言います。簡単にいうと,実際に子どもとともに生活し,子どもを監護養育してく権利のことをいいます。
 また,「財産管理権」については文字通り子の財産を管理する権利です。子ども名義の預貯金を管理したり,子ども本人にかわって売買契約などの法律行為を行ったり,子が勝手に法律行為を行った場合には,親権者としてその法律行為を取り消すことができます。

 夫婦(父母)が婚姻中の場合には,親権について,父母が共同して行うことになりますが(共同親権の原則,民法818条3項本文),日本では,離婚する際には,父または母のどちらか一方しか親権者となることができません(英国やフランス等諸外国では,離婚後も元夫婦が共同して親権を有するとしている国の方が一般的なようです。)。したがって,離婚により親権者とならなかった親には上記の「身上監護権」や「財産管理権」が認められなくなります。

 したがって,離婚の際には,父と母のどちらが親権者となるかについて深刻な争いに発展するケースも少なくありません。
 次回からは,離婚の際に親権者を決める際にはどのような判断要素が考慮されることになるのかについてご説明させていただきます。

2018.04.02

よくあるご質問(離婚原因と慰謝料について)

よくあるご質問(離婚原因と慰謝料について)

<ご相談者様からのご質問>

 これまで夫とは些細なことでケンカが絶えなかったのですが,先日,大きなケンカをした際,夫から離婚して欲しいと言われて,私もこれ以上夫とは一緒にいられないと思い,離婚に応じたいと思っています。ですが,夫から離婚を切り出している以上夫が悪いので慰謝料を払ってもらいたいと考えているのですが慰謝料は認められるでしょうか。

<弁護士からの回答>

 ご相談者様からは,弁護士に対し,「相手が原因で離婚をすることになったのだから慰謝料を払ってもらえますよね。」とご質問いただくことがございます。そこで,これまで法定離婚原因についてご説明させていただきましたが,今回は,ご離婚原因と慰謝料の関係について弁護士がご説明させていただきます。

 ご相談者様の中には「離婚の原因を作った」=「慰謝料を払う義務がある」と考えられている方が非常に多くいらっしゃいます。
 しかし,離婚をしたら必ず慰謝料を支払わなければならないという決まりは,日本の法律では一切ありません。相手方において慰謝料の支払いを命じるのが相当であるような違法な行為(「不法行為」といいます。)を行ったことにより,夫婦が離婚するに至った場合に限り法律上,慰謝料を支払う義務が発生します。

 ご相談者様のケースでの離婚の原因については,夫婦喧嘩の際にご主人が離婚を切り出したと伝えたことにありますが,離婚を切り出すことが民法上の不法行為には該当しません。したがって,「離婚の原因を作った」ということが直ちに「慰謝料を支払う義務がある=不法行為に該当する」ということにはなりません。離婚の原因を作った行為が不法行為に該当するような違法な行為に該当することが必要になります。

 もちろん,不貞行為や暴力行為など「離婚の原因を作った行為」が直ちに「不法行為」に該当するケースもありますが,よくある「性格の不一致」が原因で離婚するような場合に,一方当事者が慰謝料の支払いを求め,相手方が支払いを拒んだ場合には,裁判などをしても慰謝料が認められないことが一般的です。

 もっとも,相手方が任意で慰謝料を払ってくれる場合には(この場合には厳密にいうと慰謝料という名目よりも解決金という名目の方が適切かもしれません。),金銭を受け取ることは可能です。

 弁護士にご相談いただいた際には,離婚に至るまでの経緯をお聞きした上で,法律上慰謝料の支払いが認められるのか否かについてもアドバイスをさせていただきますので,是非一度弁護士にご相談ください。

2018.03.31

婚姻を継続しがたい重大な事由について~各論③~

婚姻を継続しがたい重大な事由について~各論③~

<ご相談者様からのご質問>

  夫の両親との折り合いが合いません。夫は何とかして仲を取り持ってくれてはいるのですが,夫の両親とは根本的に合わないのだと思います。
  夫との両親との不仲を理由に離婚することはできるのでしょうか。

 <弁護士からの回答>

  これまで,「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当しうる行為についてご説明してきましたが,今回は,単にそれだけでは「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当しない事情やそれにどういった事情が加われば該当しうることになるのかを弁護士がご説明させていただきます。

1 相手方配偶者の両親との不和

   一般的にも嫁姑問題に限らず,相手方配偶者の両親との間で折り合いが合わないことにより離婚を考える方は多く,離婚調停等においても,配偶者の両親との不仲を理由に離婚を希望される方は少なくありません。
   しかし,結婚が当事者だけでなく家族の問題であったとしても,婚姻関係が破綻しているか否かの判断において考慮されるのはあくまでも夫婦当事者の関係であることから,単に相手方の両親との折り合いが悪いということのみでは「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当するとはいえないでしょう。
   もっとも,夫が妻と自分の両親との折り合いが悪いことを知っているにも関わらず両者の関係を良好にすることについて何ら努めてこなかったこと等の事情が認められる場合には離婚事由として主張できる場合があります。

2 宗教活動

  日本の憲法では,信仰の自由や宗教活動の自由が保障されていることから,相手方配偶者が特定の宗教に入信したことや宗教活動を行っていること自体をもって「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当することはありません。しかし,結婚当初宗教活動に関し,家族を巻き込まないと約束していたにも関わらず子どもたちにも宗教活動を強要していたり,宗教活動(勧誘活動や集会への参加等)にのめりこみすぎたことにより,仕事,家事,育児等をおろそかにしていたという事実が認められる場合には離婚事由として主張できる場合があります。

3 ギャンブル,浪費,借金

  ギャンブルや浪費,借金についてもそれ自体を禁じる法律等は存在しないため,ギャンブルをしていたことや,借金を有していることのみでは離婚事由たりえません。ただし,ギャンブルや浪費により家庭が経済的に困窮するような事態を招いたり,返す見込み無く借金を行い,配偶者や親族等が返済を強いられたような場合には,離婚原因として主張しうることになります。

4 犯罪を犯したこと等

  相手方配偶者が犯罪を犯したことや,それに伴い服役していたとしてもそれをもって直ちに婚姻関係が破綻していると認定されるものではありません。もっとも,犯した犯罪が殺人などの重大な犯罪である場合には犯罪の悪質性や長期間服役することが明らかであるため離婚が認められやすいでしょう。また,軽微な犯罪を何回も繰り返していたり,当事者間で次何か悪いことをして捕まったら離婚する旨誓約していたにも関わらずそれに反して再び罪を犯したような場合には離婚事由として認められうるでしょう。

  このように,婚姻関係が破綻している(「婚姻を継続しがたい重大な事由」が存在する)と主張する際にはどのような事情が有力な事情に該当するかについては,とても複雑であり,ご依頼者様ご本人での取捨選択はとても困難であると思います。したがって,離婚したいと考えられている方は,是非早めに弁護士にご相談いただき,弁護士に対し,離婚したいと考えた理由については,それが有力な事情であるかという点についてはいったん度外視して全て弁護士にお伝えいただいた方がよいと思います。

2018.03.30

婚姻を継続しがたい重大な事由について~各論②~

婚姻を継続しがたい重大な事由について~各論②~

 <ご相談者様からのご質問>

  単に離婚がしたいということだけでは簡単には離婚事由にはならないのですね。
  他には,どのような事情が離婚原因として主張しうるのでしょうか。

<弁護士からの回答>

 夫婦が結婚してから,離婚に至るまでには,当事者のみならずときには両家の家族をも巻き込んで様々なことが起きているのが通常です。一方当事者が離婚に応じていない場合,「婚姻関係を継続しがたい重大な事由」が認められるか否かについては,上記の様々な出来事についてどれだけ説得的に主張及び立証(証拠により証明することです。)できるかが重要になってきます。前回に引き続き,今回もどういった事情が該当しうるのかについてご説明させていただきます。

1 暴力,暴言(DV,モラハラ等)

  暴力や暴言等を行うことが,夫婦の関係を破綻させることにつながることは当然であり,裁判所としても,DV(ドメスティック・バイオレンス)等に対して厳しく対応しており,きちんと証拠に基づきDVとして認定される場合には,離婚事由に該当することになります。また,近年ワイドショーなどでも使われているモラハラ(モラルハラスメント)についてもDVと同視しうるような程度のものであれば離婚事由足りえるでしょう。ここで大事なのが,単に当事者が「DVだ」「モラハラだ」と主張するのみでは,足りず,あくまでも客観的に裁判所からみてDVとして評価されるうる事実が存在することが必要になってきます。また,「ドメスティック(=家庭内)」というだけあって,DVやモラハラの立証はとても困難を伴います。したがって,録音,録画,毎日日記を書く,程度がひどい場合には警察や,市などの相談窓口に連絡を取っておくなど地道な証拠集めが重要になってきます。

2 性生活の問題

  最高裁判所の判例においても夫婦間の性生活が夫婦関係の重要な要素であること自体は認めています。したがって,相手方が拒否しているにも関わらず異常な性行為(SMプレイ等)を強制させることを継続的に行っている場合などには離婚原因の1つとして主張しうる事情になりえます。
  逆に,正当な理由がないも関わらず性交渉を拒否する(いわゆるセックスレス)状態が長期間に渡り継続していた場合にも離婚事由として主張しうることになります(あくまで正当な理由もなく拒否していることが必要になりますが,長期間にわたり拒否し続けた場合には慰謝料の支払いが認められた裁判例もあります。)。

2018.03.29

各債務整理手続の特徴について~②破産と民事再生~

各債務整理手続の特徴について~②破産と民事再生~

<ご相談者様からのご質問>

   借金の額が非常に多くなってしまい,任意整理での解決は難しいのではないかと考えております。破産と民事再生はどちらの方がよいのでしょうか。

 <弁護士からの回答>

 法的整理を行うべきであると判断した場合には,原則として破産を選択することになりますが,破産手続きは,債務をゼロにする(免責)という効果が認められるものであるため,要件が定められており,要件に充足しないと破産が認められません。弁護士の立場からすると,破産の要件を充足しているのであれば破産を選択すべきであると考えます。
今回は,破産と民事再生の特徴についてご説明させていただきます。

1 破産手続について

 破産手続の一番のメリットとしては,破産によりこれまで支払ってきた債務の支払い義務を免れる(免責)点にあります。これにより債務を払うことなく新しい生活を進むことができますので,経済的な再建を図るためには,破産の要件を充足しているのであれば,破産により債務の免責の効果を得ることで借金問題を解決することが一番であると弁護士としては考えています。

 このように,破産手続は,免責という効果を与えるものであることから,破産手続を行うためには様々な制約があります。例えば,一定の財産を所有している場合にはその財産を差し出して債権者へ支払う(「配当」といいます。)必要があります。
したがって,不動産等を所有している場合には原則として財産を手放す必要があります。また,破産にいたった理由(借入を行った理由)がギャンブルや浪費など法律で定められた原因に該当する場合には,免責が認められない場合もあります。さらに,破産手続中は資格制限が認められており,保険の外交員,警備員等一定の資格の職業にはつけなくなってしまいます。
 したがって,ご相談者様より事情をお伺いする際には,上記のような破産を進めるのに障害たりうる事情がないかという点についてお聞きした上で,障害になりうる事情が存在した場合には,個人再生等をの手続きを検討していくことになります。

2 個人再生について

   個人再生のメリットとしては,破産における上記のデメリットをカバーしつつ,債務額を大きくカットできる点にあります,具体的には,要件を満たしている場合には住宅ローンを支払い続けながらそれ以外の債務をカットすることもできますし,借金の原因が,ギャンブルや浪費など非免責事由に該当する行為であったとしても問題なく債務を減額することができます。
  他方,個人再生については,あくまでも債務を支払っていくことを前提としていますので,一定の収入が継続して得られる状況でない場合には個人再生の要件を満たさないため,認められません。

   上記のとおり,借金問題について,任意整理にて解決することができない場合には,原則としては破産手続により債務をなくすことが一番の再建につながると考えています。
したがって,破産手続きか個人再生手続きのいずれを選択すべきかという点については,原則的には,破産での解決が可能であるかを模索し,破産での解決に支障が生ずるような事情が存在する場合には,個人再生による解決を検討すべきであると考えています。

   いずれにせよ,任意整理により解決が困難な状況の場合,債権者から督促状や下手をしたら裁判所から訴状等がいつ届いてもおかしくはない状況であるため,早めに弁護士にご相談ください。

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