弁護士コラム

2018.04.04

親権者指定の判断要素

親権者指定の判断要素

<ご相談者さまからのご質問>

  夫との離婚を考えています。ですが,子どもの親権については絶対私が欲しいと考えています。親権者を判断する際にはどのような事情が考慮されるのでしょうか。

<弁護士からの回答>

 夫婦当事者間において,親権者をいずれとするかについて,合意ができている場合には,問題なく親権者は決まるのですが,当事者間で親権者について争いがある場合には,最終的には家庭裁判所において,父と母のいずれが親権者として適切であるかについて判断することになります。
 そこで,今回は,裁判における親権者指定の判断要素についてご説明させていただきます。

 家庭裁判所において,親権者を判断するときの,最も重要な基準は「子の福祉と利益」になります。すなわち,父親と母親のどちらの側で生活をすることが子の利益や福祉に資するのか(子どもの将来のためになるか)という点を基準に判断していくことになります。そこで,裁判所ではおおむね以下の要素を総合的に考慮し,親権者を判断してくことになります。

 1 父母の属性等
   子どもは,父母のいずれかの監護下におかれて養育されることから,父母に関する事情は当然判断要素になってきます。具体的には,年齢,職業,収入,健康状態,生活態度等の父母の属性や資質は判断要素になります。例えば,暴力等頻繁に行ってきた当事者の場合には親権者としての適格性を欠くのではないかと判断されることになります。

2 監護状況等
  未成年者がどのような監護状況において育っていくのかという点については,まさに子の福祉や利益に直結する問題であることから,非常に重要な判断要素になります。
   したがって,これまでの監護実績,経済状況(収入,支出借金の有無等),居住環境,教育環境,監護補助者の有無等については判断要素となります。

 3 監護への意欲
   親権者として子どもへの愛情がどのくらいあるか(従前,子にどれほど関心を注いでいたか),親権者として子をどのように育てていきたいか等の監護への意欲についても親権の判断要素となります。別の機会にご説明させていただきますが,現在子を監護している場合に,相手方配偶者との子どもとの間の面会交流に対してどれだけ協力的かという点についても判断要素となります。

 4 子の心身の状況等
   先程もお伝えした通り,親権者の判断は,子の福祉,子の利益の観点から判断されることになるため,子に関する事情についても当然に判断要素となります。具体的には,子どもの年齢,性別,健康状態,性格等に加え,現在の環境について考慮されることになります。特に現在の環境については,兄妹姉妹との関係性や,学校への通学状況,交友関係だけでなく,非監護親との間の面会交流など現在の環境についてどれほど順応しているか,現在の環境が変化すること(監護する親が変わること)により子にどのような影響が及ぼされるのかという点についても考慮されることになります。
   また,別の機会にもお伝えしますが,親権者に関する子の意向についても,判断要素になることがあります。

   以上のように,親権者を判断する際には,夫婦だけでなく子どもに関する事項も含め,様々な事情を総合的に判断することになり,非常に専門的な内容になっていることから,親権を欲しいと考えられている場合にはできるだけ早く弁護士にご相談いただいた方がよいでしょう。

2018.04.03

親権とは

親権とは

<ご相談者様からのご質問>

   先日,妻から,離婚したいと言われ,自分もこれ以上妻とはやっていけないと考えていたため,離婚に応じることにしました。妻との間には,3歳の息子が1人いるのですが,妻は息子の親権については自分(妻)が欲しいと話しています。これまで仕事中心であったため,息子については妻が中心として育てることについては私も異論はありませんが,そもそも親権ということについてよくわかっていないので教えてください。

<弁護士からの回答>

 離婚する際,夫婦の間に未成年の子がいる場合には,離婚の際に子の親権者を父か母のいずれかに指定しなければなりません。
 そこで,今回は,親権の内容についてご説明させていただきます。

 親権とは,成年に達しない子を監護,教育し,その財産を管理するため,その父母に与えられた身分上及び財産上の権利・義務のことをいい,未成年の子に対し親権を有している人を親権者といいます。
 未成年の子どもは,未熟であり1人では生活したり,内容を理解して法律行為等を行うことが困難であるため,親権者が親権を行使し,本人の生活を支え,財産などを管理していくことになります。
 親権の定義にもあるように,親権は「身上監護権」と「財産管理権」の2つに分けられます。

 「身上監護権」とは,子の身分行為に関する同意権,代理権居住指定権(子どもをどこに住まわせるのかを決める権利),懲戒権(監護や教育に必要な範囲内で懲戒,しつけを行う権利),職業許可権(子が職業を営むにあたり,その許可を行う権利)などを言います。簡単にいうと,実際に子どもとともに生活し,子どもを監護養育してく権利のことをいいます。
 また,「財産管理権」については文字通り子の財産を管理する権利です。子ども名義の預貯金を管理したり,子ども本人にかわって売買契約などの法律行為を行ったり,子が勝手に法律行為を行った場合には,親権者としてその法律行為を取り消すことができます。

 夫婦(父母)が婚姻中の場合には,親権について,父母が共同して行うことになりますが(共同親権の原則,民法818条3項本文),日本では,離婚する際には,父または母のどちらか一方しか親権者となることができません(英国やフランス等諸外国では,離婚後も元夫婦が共同して親権を有するとしている国の方が一般的なようです。)。したがって,離婚により親権者とならなかった親には上記の「身上監護権」や「財産管理権」が認められなくなります。

 したがって,離婚の際には,父と母のどちらが親権者となるかについて深刻な争いに発展するケースも少なくありません。
 次回からは,離婚の際に親権者を決める際にはどのような判断要素が考慮されることになるのかについてご説明させていただきます。

2018.04.02

よくあるご質問(離婚原因と慰謝料について)

よくあるご質問(離婚原因と慰謝料について)

<ご相談者様からのご質問>

 これまで夫とは些細なことでケンカが絶えなかったのですが,先日,大きなケンカをした際,夫から離婚して欲しいと言われて,私もこれ以上夫とは一緒にいられないと思い,離婚に応じたいと思っています。ですが,夫から離婚を切り出している以上夫が悪いので慰謝料を払ってもらいたいと考えているのですが慰謝料は認められるでしょうか。

<弁護士からの回答>

 ご相談者様からは,弁護士に対し,「相手が原因で離婚をすることになったのだから慰謝料を払ってもらえますよね。」とご質問いただくことがございます。そこで,これまで法定離婚原因についてご説明させていただきましたが,今回は,ご離婚原因と慰謝料の関係について弁護士がご説明させていただきます。

 ご相談者様の中には「離婚の原因を作った」=「慰謝料を払う義務がある」と考えられている方が非常に多くいらっしゃいます。
 しかし,離婚をしたら必ず慰謝料を支払わなければならないという決まりは,日本の法律では一切ありません。相手方において慰謝料の支払いを命じるのが相当であるような違法な行為(「不法行為」といいます。)を行ったことにより,夫婦が離婚するに至った場合に限り法律上,慰謝料を支払う義務が発生します。

 ご相談者様のケースでの離婚の原因については,夫婦喧嘩の際にご主人が離婚を切り出したと伝えたことにありますが,離婚を切り出すことが民法上の不法行為には該当しません。したがって,「離婚の原因を作った」ということが直ちに「慰謝料を支払う義務がある=不法行為に該当する」ということにはなりません。離婚の原因を作った行為が不法行為に該当するような違法な行為に該当することが必要になります。

 もちろん,不貞行為や暴力行為など「離婚の原因を作った行為」が直ちに「不法行為」に該当するケースもありますが,よくある「性格の不一致」が原因で離婚するような場合に,一方当事者が慰謝料の支払いを求め,相手方が支払いを拒んだ場合には,裁判などをしても慰謝料が認められないことが一般的です。

 もっとも,相手方が任意で慰謝料を払ってくれる場合には(この場合には厳密にいうと慰謝料という名目よりも解決金という名目の方が適切かもしれません。),金銭を受け取ることは可能です。

 弁護士にご相談いただいた際には,離婚に至るまでの経緯をお聞きした上で,法律上慰謝料の支払いが認められるのか否かについてもアドバイスをさせていただきますので,是非一度弁護士にご相談ください。

2018.03.31

婚姻を継続しがたい重大な事由について~各論③~

婚姻を継続しがたい重大な事由について~各論③~

<ご相談者様からのご質問>

  夫の両親との折り合いが合いません。夫は何とかして仲を取り持ってくれてはいるのですが,夫の両親とは根本的に合わないのだと思います。
  夫との両親との不仲を理由に離婚することはできるのでしょうか。

 <弁護士からの回答>

  これまで,「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当しうる行為についてご説明してきましたが,今回は,単にそれだけでは「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当しない事情やそれにどういった事情が加われば該当しうることになるのかを弁護士がご説明させていただきます。

1 相手方配偶者の両親との不和

   一般的にも嫁姑問題に限らず,相手方配偶者の両親との間で折り合いが合わないことにより離婚を考える方は多く,離婚調停等においても,配偶者の両親との不仲を理由に離婚を希望される方は少なくありません。
   しかし,結婚が当事者だけでなく家族の問題であったとしても,婚姻関係が破綻しているか否かの判断において考慮されるのはあくまでも夫婦当事者の関係であることから,単に相手方の両親との折り合いが悪いということのみでは「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当するとはいえないでしょう。
   もっとも,夫が妻と自分の両親との折り合いが悪いことを知っているにも関わらず両者の関係を良好にすることについて何ら努めてこなかったこと等の事情が認められる場合には離婚事由として主張できる場合があります。

2 宗教活動

  日本の憲法では,信仰の自由や宗教活動の自由が保障されていることから,相手方配偶者が特定の宗教に入信したことや宗教活動を行っていること自体をもって「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当することはありません。しかし,結婚当初宗教活動に関し,家族を巻き込まないと約束していたにも関わらず子どもたちにも宗教活動を強要していたり,宗教活動(勧誘活動や集会への参加等)にのめりこみすぎたことにより,仕事,家事,育児等をおろそかにしていたという事実が認められる場合には離婚事由として主張できる場合があります。

3 ギャンブル,浪費,借金

  ギャンブルや浪費,借金についてもそれ自体を禁じる法律等は存在しないため,ギャンブルをしていたことや,借金を有していることのみでは離婚事由たりえません。ただし,ギャンブルや浪費により家庭が経済的に困窮するような事態を招いたり,返す見込み無く借金を行い,配偶者や親族等が返済を強いられたような場合には,離婚原因として主張しうることになります。

4 犯罪を犯したこと等

  相手方配偶者が犯罪を犯したことや,それに伴い服役していたとしてもそれをもって直ちに婚姻関係が破綻していると認定されるものではありません。もっとも,犯した犯罪が殺人などの重大な犯罪である場合には犯罪の悪質性や長期間服役することが明らかであるため離婚が認められやすいでしょう。また,軽微な犯罪を何回も繰り返していたり,当事者間で次何か悪いことをして捕まったら離婚する旨誓約していたにも関わらずそれに反して再び罪を犯したような場合には離婚事由として認められうるでしょう。

  このように,婚姻関係が破綻している(「婚姻を継続しがたい重大な事由」が存在する)と主張する際にはどのような事情が有力な事情に該当するかについては,とても複雑であり,ご依頼者様ご本人での取捨選択はとても困難であると思います。したがって,離婚したいと考えられている方は,是非早めに弁護士にご相談いただき,弁護士に対し,離婚したいと考えた理由については,それが有力な事情であるかという点についてはいったん度外視して全て弁護士にお伝えいただいた方がよいと思います。

2018.03.30

婚姻を継続しがたい重大な事由について~各論②~

婚姻を継続しがたい重大な事由について~各論②~

 <ご相談者様からのご質問>

  単に離婚がしたいということだけでは簡単には離婚事由にはならないのですね。
  他には,どのような事情が離婚原因として主張しうるのでしょうか。

<弁護士からの回答>

 夫婦が結婚してから,離婚に至るまでには,当事者のみならずときには両家の家族をも巻き込んで様々なことが起きているのが通常です。一方当事者が離婚に応じていない場合,「婚姻関係を継続しがたい重大な事由」が認められるか否かについては,上記の様々な出来事についてどれだけ説得的に主張及び立証(証拠により証明することです。)できるかが重要になってきます。前回に引き続き,今回もどういった事情が該当しうるのかについてご説明させていただきます。

1 暴力,暴言(DV,モラハラ等)

  暴力や暴言等を行うことが,夫婦の関係を破綻させることにつながることは当然であり,裁判所としても,DV(ドメスティック・バイオレンス)等に対して厳しく対応しており,きちんと証拠に基づきDVとして認定される場合には,離婚事由に該当することになります。また,近年ワイドショーなどでも使われているモラハラ(モラルハラスメント)についてもDVと同視しうるような程度のものであれば離婚事由足りえるでしょう。ここで大事なのが,単に当事者が「DVだ」「モラハラだ」と主張するのみでは,足りず,あくまでも客観的に裁判所からみてDVとして評価されるうる事実が存在することが必要になってきます。また,「ドメスティック(=家庭内)」というだけあって,DVやモラハラの立証はとても困難を伴います。したがって,録音,録画,毎日日記を書く,程度がひどい場合には警察や,市などの相談窓口に連絡を取っておくなど地道な証拠集めが重要になってきます。

2 性生活の問題

  最高裁判所の判例においても夫婦間の性生活が夫婦関係の重要な要素であること自体は認めています。したがって,相手方が拒否しているにも関わらず異常な性行為(SMプレイ等)を強制させることを継続的に行っている場合などには離婚原因の1つとして主張しうる事情になりえます。
  逆に,正当な理由がないも関わらず性交渉を拒否する(いわゆるセックスレス)状態が長期間に渡り継続していた場合にも離婚事由として主張しうることになります(あくまで正当な理由もなく拒否していることが必要になりますが,長期間にわたり拒否し続けた場合には慰謝料の支払いが認められた裁判例もあります。)。

2018.03.29

各債務整理手続の特徴について~②破産と民事再生~

各債務整理手続の特徴について~②破産と民事再生~

<ご相談者様からのご質問>

   借金の額が非常に多くなってしまい,任意整理での解決は難しいのではないかと考えております。破産と民事再生はどちらの方がよいのでしょうか。

 <弁護士からの回答>

 法的整理を行うべきであると判断した場合には,原則として破産を選択することになりますが,破産手続きは,債務をゼロにする(免責)という効果が認められるものであるため,要件が定められており,要件に充足しないと破産が認められません。弁護士の立場からすると,破産の要件を充足しているのであれば破産を選択すべきであると考えます。
今回は,破産と民事再生の特徴についてご説明させていただきます。

1 破産手続について

 破産手続の一番のメリットとしては,破産によりこれまで支払ってきた債務の支払い義務を免れる(免責)点にあります。これにより債務を払うことなく新しい生活を進むことができますので,経済的な再建を図るためには,破産の要件を充足しているのであれば,破産により債務の免責の効果を得ることで借金問題を解決することが一番であると弁護士としては考えています。

 このように,破産手続は,免責という効果を与えるものであることから,破産手続を行うためには様々な制約があります。例えば,一定の財産を所有している場合にはその財産を差し出して債権者へ支払う(「配当」といいます。)必要があります。
したがって,不動産等を所有している場合には原則として財産を手放す必要があります。また,破産にいたった理由(借入を行った理由)がギャンブルや浪費など法律で定められた原因に該当する場合には,免責が認められない場合もあります。さらに,破産手続中は資格制限が認められており,保険の外交員,警備員等一定の資格の職業にはつけなくなってしまいます。
 したがって,ご相談者様より事情をお伺いする際には,上記のような破産を進めるのに障害たりうる事情がないかという点についてお聞きした上で,障害になりうる事情が存在した場合には,個人再生等をの手続きを検討していくことになります。

2 個人再生について

   個人再生のメリットとしては,破産における上記のデメリットをカバーしつつ,債務額を大きくカットできる点にあります,具体的には,要件を満たしている場合には住宅ローンを支払い続けながらそれ以外の債務をカットすることもできますし,借金の原因が,ギャンブルや浪費など非免責事由に該当する行為であったとしても問題なく債務を減額することができます。
  他方,個人再生については,あくまでも債務を支払っていくことを前提としていますので,一定の収入が継続して得られる状況でない場合には個人再生の要件を満たさないため,認められません。

   上記のとおり,借金問題について,任意整理にて解決することができない場合には,原則としては破産手続により債務をなくすことが一番の再建につながると考えています。
したがって,破産手続きか個人再生手続きのいずれを選択すべきかという点については,原則的には,破産での解決が可能であるかを模索し,破産での解決に支障が生ずるような事情が存在する場合には,個人再生による解決を検討すべきであると考えています。

   いずれにせよ,任意整理により解決が困難な状況の場合,債権者から督促状や下手をしたら裁判所から訴状等がいつ届いてもおかしくはない状況であるため,早めに弁護士にご相談ください。

2018.03.28

各債務整理手続の特徴について~①任意整理~

各債務整理手続の特徴について~①任意整理~

<ご依頼者様からのご質問>

  債務整理に色々な方法があるのは分かったのですが,自分にとってどの方法が良いのかが全く分かりません。まずは,各債務整理手続きのメリットやデメリット,どういった場合に適した債務整理の方法があるのかについて教えてください。

<弁護士からの回答>

 借金問題で悩まれている方からのご相談を受け,状況を把握した段階で,弁護士は,自分が考える最適な整理の方法をご提案させていただくのですが,実際にどの方法により,債務整理を行うかについては,ご依頼者様自身で決めていただく必要がございます。そこで,今回から数回にかけて,各債務整理手続きの特徴(メリット・デメリット)をご説明し,どのような方にその債務整理の方法が適しているのかについてご説明させていただきます。今回は,任意整理(特定調停)の特徴についてご説明させていただきます。

  任意整理のメリットとしては,裁判所を利用せず,個々の債権者と直接弁護士が交渉するものであることから,財産の換価等の作業も行われないため,破産手続等の法的整理と比較すると短期間で解決できることや,家族に借金をしていることを知られたくないという場合には,家族に知らせることなく債務を整理することが可能です。
また,全ての債権者を対象とすることなく,特定の債権者に対する債務のみ整理するということも可能な点があげられます。具体的には,自動車のローンにおいて,自動車に所有権留保等が設定されている場合には,その債権者に対し受任通知を送ってしまうと,自動車が引き上げられてしまうため,自動車ローンについては,弁護士が入ることなく,従前通り支払い続け,それ以外の債務を整理するということが可能です。

  他方,デメリットとしては,法的整理と異なり,債権者の意思に反して債務をゼロにしたり,債務の額を減額することができず,あくまでも債権者との交渉により債権者が合意してくれた内容でしか債務を整理することはできません。過払い金等が発生している場合を除き,債務の総額を減額することはほんとんど難しく,通常,支払回数を従前の状態より長期にし,将来発生する利息をカットすることにより債務整理することがほんとです。そして,毎月の支払回数については,通常,3年間(36回払い)もしくは5年間(60回払い)程度の延長が可能となります。

  このような任意整理の特徴からすると,自動車や住宅等財産を有しており,そのような財産を手放したくない人,家族に借金が発覚することを避けたい人,毎月の返済が厳しいが,毎月の返済額が少なくなって利息がなくなれば返していくことができる人については任意整理による解決方法が適していると言えるでしょう。

  他方で,借金の総額が多く,支払い期間を延ばしたとしても返済していくことが困難な場合(目安として,借金総額を36回(3年間)で割った金額を毎月支払っていくことができない場合)には,任意整理による解決は困難である可能性が髙いため,破産などの法的整理することを検討した方が良いでしょう。

2018.03.27

債務整理のデメリットについて

債務整理のデメリットについて

<ご相談者様からのご相談>

  消費者金融数社から少しずつお金を借りており,毎月の返済についてはきついときもありますが,一度も滞納することなく支払っています。弁護士さんに任意整理を依頼すると毎月の支払額が減ると聞いたことがあります。毎月の支払いは問題なくできているのですが,支払額が減ると助かるので,任意整理を依頼しようかと思っています。

 <弁護士からの回答>

  前回ご説明した4つの債務整理については,基本的に借金で悩まれている方の問題を解決するために有効な手段であることは間違いありません。
しかし,債務整理のいずれの方法を選択したとしても,利用した時点で信用情報機関に事故情報が登録されてしまいます。
今回は,各債務整理手続それぞれのメリットデメリットをご説明する前に,債務整理共通のデメリットである信用情報の登録について弁護士がご説明させていただきます。

 お金を借りたいと思う人が新規に貸金業者に対して借り入れの申し込みをした際,貸金業者は,この人にお金を貸しても問題ないかを調べるために,信用情報機関(貸金業者の違い等により,3つの情報機関があります。)に対し,借り入れを申し込んできた人の信用情報を確認することになります。

  信用情報とは,入金予定日から支払いが遅れたことがあるか等に加え,自己破産,民事再生の申立てを行ったことがあるか,債務整理の申立てを行ったことがあるかなどの情報(いわゆる「事故情報」といいます。)も掲載されることになります。よく,「破産をするとブラックリストに載ってしまう」等ということを聞いたことがあるかもしれませんが,実際にブラックリストというものがあるわけではなく,上記の信用情報機関に,事故情報が登録されてしまうことを俗にブラックリストに載ってしまうといいます。

  事故情報が登録されてしまうと,ヤミ金等の違法が業者を除き通常の貸金業者の場合には,審査が通らずお金を貸してもらえなくなってしまいます。それだけでなく,事故情報が登録されてしまうと,住宅ローン,自動車ローンが組めなくなるだけではなく,新たにクレジットカードが作れなくなったり,携帯電話を新規に購入するときに発生する機種代金の分割払い(割賦払いといいます。)もできなくなってしまいます(ブラックリストについては,一生記録が残るわけではなく,各債務整理手続によって期間は異なりますが,債務整理が終了してから5年~10年間で消滅はします。)。

  前回,ご説明した4つの債務整理の方法については,法的整理のみならず,任意整理であっても,手続きを開始したことが,債権者に伝わった時点で,事故情報として登録されてしまいます。
  したがって,今後,住宅ローンを組む予定があったり,クレジット―カードを作りたいと考えられている場合には,弁護士に依頼して債務整理を行うことができなくないため,なんとかして,今まで通り,毎月きちんとお支払いしていく必要があります。

  もっとも,債務を返済していくために,新たに別のところから借入をしなければならない状況に陥っている場合には,多重債務の状態になっているため,遅かれ早かれ債務整理をしなければならない状況ですので,ブラックリストに載ってしまうことはやむを得ないといえるでしょう。早期に解決するためにも,いち早く弁護士にご相談ください。

2018.03.26

債務整理の方法について

債務整理の方法について

 <ご相談者様からのご質問>

  私は,ヤミ金からも借りていないし,消滅時効になるような債務もなさそうです。この場合には,債務整理により借金問題を解決していただけると聞きました。
 債務整理にはどのような方法があるのですか。

 <弁護士からの回答>

  法律上,返済義務が存在する場合には,債務整理により借金問題を解決することが必要になります。債務整理の方法については,いくつか種類がありどの方法により解決すべきであるかという点については,ご相談者様の情報をお聞きして弁護士が一緒に考えていくことになります。
 そこで,今回から数回に分けて債務整理の方法の内容や各手続のメリットやデメリットについてご説明させていただきます。今回は,各債務整理の内容についてご説明させていただきます。

1 任意整理について

   債務整理の方法について大きく分けると,裁判所を利用して債務整理と行う「法的整理」と裁判所を利用しないで解決する「任意整理」に分けることができます。
任意整理については,裁判所を利用しないで債務整理を行うことから,弁護士が代理人として債権者と交渉し(本人で交渉すること自体も可能ですが,通常,債権者は本人での交渉には応じてくれない場合が多いです。),①元本額を減らしたり(場合によっては過払金によりお金が返ってきたりします。),②将来の利息をカット(なくす)したり,③毎月の返済額を減らしたりすることにより,借金問題を解決することになります。

2 破産手続

   破産手続は,法的整理の方法の1つで,裁判所に対し,すべての債権者に対する債務及び,破産を希望する人の財産状況や生活状況,破産に至るまでの経緯(借金の原因等)等について資料を添付し書面にて申し立てることにより,裁判所(正確には裁判所から選任された管財人と呼ばれる弁護士が行います。)が,破産者の財産を回収,換価(金銭に替えることをいいます)し,その後,裁判所において許可がでれば,債務が免責される(支払う責任を免れる,払わなくてよいとされることをいいます。)という手続きです。別の機会でもご説明いたしますが,多くの債務により返済が困難となっている状況では,第一に破産により債務を整理することを検討することになります。

3 民事再生手続

  民事再生手続きは,破産手続と同じ法的整理の方法1つなのですが,破産手続きと異なり,債務の支払い義務をなくす(免責)ことや財産を換価することはなく,債務を一定額まで減額(圧縮)することにより,経済的な再建を図る手続きとなります(破産手続きが財産を換価し,債務をなくすような清算的な要素が強いため,「清算型」と呼ばれるのに対し,民事再生は,清算手続きを行わない法的整理であるため,「再建型」と呼ばれることがあります。)。
  破産手続と異なり,財産の換価等は基本的には行われないため,不動産など手放したくない財産がある場合や,破産することができない事情が存在する場合には,民事再生の手続きを選択することになります。

4 特定調停

  特定調停とは,裁判所を利用する手続きである点において,法的整理手続の側面を有するものではありますが,「調停」ということから,裁判所を介在して,債権者と,債務総額や支払い方法について協議を行う点では任意整理的な側面を有する手続きになります。
  現実的に,特定調停により解決するケースというのはあまり多くはありませんが,任意整理により解決が困難な場合に,裁判所を介在させることにより破産等せずとも解決することができる場合には特定調停を裁判所に申して立てることを検討することになります。

このように,債務整理の方法については上記の4つがあるのですが,それぞれ,メリット,デメリットがあり,かつ,状況によって選択すべきでない方法もございます(各手続のメリットデメリットについては,次回以降にご説明させていただきます。)。したがって,債務整理を検討されておられる場合には,是非一度弁護士に早めにご相談ください。

2018.03.23

返済義務の有無について③~過払金について~

返済義務の有無について③~過払金について~

<ご相談者様からのご質問>

  よく,テレビのCM等で,過払金により,借金が減額できたり,払いすぎた借金が返ってくるといったことを耳にするのですが,どういった場合に,借金が減額できたり,払いすぎたお金が返ってくるのですか。

 <弁護士からの回答>

  消費者金融からお金を借りた場合,借りたお金に利息を加えて返済する必要があります。しかし,最高裁判所の判例により,過去の違法な金利を支払っていた期間が一定期間あった場合には,借金の借入額が減額されたり,ときには過払金としてお金が返ってくる場合があります。そこで,本日は,過払金についてご説明させていただきます。

  貸金業者遵守すべき利息に関する法律としては,出資法(利息上限が29.2%)と利息制限法(10万円以上100万円未満の場合18%)の2種類があったのですが,従来貸金業者は,利息の上限が高い出資法に基づき,利息制限法を越えた高い金利を取っており,(利息制限法の上限金利と,出資金法の上限金利の間の利息を「グレーゾーン利息」といいます。),利息制限法を越えた利息を払っていたとしても,有効な弁済として(みなし弁済といいます。)返還が認められないとされてきました。

  しかし,最高裁平成18年1月13日判決により,利息制限法の上限利息を越えた弁済については有効な弁済とは認められず,借金についても利息制限法の範囲内の適法な利息に引き直した上で,債務の額を計算することになりました。これにより,払いすぎた利息については,元本等に充当されていくことになったため,借金の額が減少したり,場合によっては,既に元本と適法な利息を支払い終えて,消費者金融に払いすぎている状態になっている方もでてきており,その方については,消費者金融から,払いすぎた分を取り戻すことができるようになり,これを過払い金というようになりました。

  過払い金に関しては,いつから借入を行っていたか,滞納していた期間がどのくらいあるか等の様々な状況によって認められるのかということや認められる金額についても異なってきますが,消費者金融において,平成20年頃を前後に,違法な金利から適法な金利への切り替えがなされていることから,平成20年よりも前より借り入れを行っている場合には,過払により債務が減少したり,平成20年よりもだいぶ前から借入を行っており,現在も返済を続けているような方の場合には,多くの過払い金が返ってくる可能性もございます。

 もっとも,過払金については最後に取引を行ってから,10年間経過してしまうと,時効により過払金の請求もできなくなってしまいます。
  したがって,現在,借金に悩んでおられる方だけでなく,過去に債務を完済した人であっても,過払金によりお金が戻ってくることもあるため,なるべく早く,弁護士にご相談ください。

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