法定相続分について②
法定相続分について②
<ご相談者様からのご質問>
先日,兄がなくなりました。兄は,結婚もしておらず,子どももおりません。両親も祖父母も亡くなっていますが,母は父と再婚する前に別の男性と結婚しており,その人との間にも子どもがいます。私と兄は,母が父と再婚した後に生まれたのですが,この場合,兄の財産はどのように分ければいいのでしょうか。腹違いの兄弟とはこれまで一度も関わったことがないので,話し合いをどうやって進めて行けばいいか不安です。
<弁護士からの回答>
相続手続きの際には,被相続人がお亡くなりになられていたときの状況次第で,これまで全く関わりのなかった親族と話し合いを行わなければならないことが少なくありません。前回は,配偶者との他の法定相続人との間の相続分についてご説明させていただきましたが,今回は,配偶者以外の相続人が複数にいる場合についてご説明させていただきます。
配偶者以外の相続人(子,直系尊属,又は兄弟姉妹)が複数人存在する場合についての相続分については,民法900条4号に「各自の相続分は,相等しいものとする。」と規定されています(900条4号本文)。つまり,配偶者以外の相続人が複数人存在する場合には,相続分についてその人数で等分することになります。例えば,相続人が配偶者と子ども3人の場合には,民法900条1号により配偶者が2分の1,子が残りの2分の1となり,子が3人いるため,2分の1を3等分,すなわち,子1人あたりの相続分は2分の1×3分の1で6分の1となります。
ご相談者様のお兄様を被相続人とする相続に関する相続人は,配偶者も子どもおらず,直系尊属もすでにいないことから,兄弟姉妹が相続人ということになります。
そして,兄弟姉妹はご相談者さまとお兄様の他に,父親が異なる兄弟姉妹(異父兄弟)の3人であるため,相続分はそれぞれ3分の1ずつになるように思えます。
しかし,民法900条4号但書では,「父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は,父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。」と規定されており,半血の兄弟姉妹(異父兄弟,異母兄弟)は全血の兄弟姉妹の相続分の2分の1が相続分であるとされています。したがって,ご相談者様の事例の場合には,ご相談者様とお兄様が5分の2ずつ,腹違いの兄弟は5分の1の相続分を有することになります。
ご相談者様の事例に関わらず,相続手続きの際にこれまで関わってこなかった親族の方と相続に関する話し合いを行うことは感情的な対立を生ずる危険もあり容易ではありません。
今回の事例のように,腹違いの兄弟の場合の相続分の区別については,一般の方ではご存じない方もいらっしゃると思いますので,当事者同士での話し合いではトラブルが生じてしまう可能性を否定できませんので,早めに弁護士にご相談いただくのがよいと思います。
婚姻を継続しがたい重大な事由について~各論~
婚姻を継続しがたい重大な事由について~各論~
<ご相談者様からのご質問>
よく,性格の不一致が原因で離婚するなんてことを聞くのですが,性格の不一致という法定離婚原因はありませんよね。性格の不一致が原因で離婚できるのでしょうか。
<弁護士からの回答>
前回は,法定離婚原因の1つである「婚姻を継続しがたい重大な事由」について,総論的な内容をお話しさせていただきました。今回から数回にかけて,「婚姻を継続しがたい重大な事由」になりうる具体的な事情についてご説明させていただきます。
1 性格の不一致
日本での離婚原因(離婚に関する紛争に至った原因(理由)のことを意味し,法定離婚原因とはことなります。)の約半数をしめるのが,この性格の不一致というもので,ワイドショーなどでも,芸能人夫婦が性格の不一致により離婚等と報道されることもあり,身近な言葉として認識されているのではないかと思います。
しかし,単に性格の不一致ということだけで,「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当するということはほとんどありません。夫婦とはいえ,生まれも育ちもことなる他人同士である以上性格や価値観が異なるのは当然であり,一度夫婦になった以上,単に性格や価値観が違うということのみでは離婚は難しくなります(ワイドショーで報じられている離婚については,協議離婚(当事者の合意)により離婚が成立している場合であるのがほとんどなので,性格の不一致が原因で離婚ができるとの誤解を生んでしまっているのかもしれません。)。性格の不一致については,あくまでも離婚を巡る問題に至ったきっかけ(入り口)に過ぎず,その後の夫婦関係が悪化し,修復不可能になっていることを主張,立証しなければ,離婚は認められることはないでしょう。その意味で,性格の不一致はそれ単体で主張することは少なく,後述する,別居期間に関する主張を合わせて主張を行うのが一般的です。
2 長期間の別居
以前にもお伝えした通り,夫婦関係すなわち,夫婦の共同生活関係が破綻し,その修復が困難な場合に「婚姻を継続しがたい重大な事由」が存在すると認められることになります。そして,夫婦が別居している場合には,共同生活関係がなく,その状態が長期間にわたって継続している場合には,もはや,共同生活関係を修復することは困難であると判断されることになります。したがって,裁判所において上記要件を判断する際には,夫婦の別居という事実の有無及び別居期間がどの程度存在するのかという点は非常に重要な考慮要素となります。
どのくらい,別居期間が長期になれば,婚姻関係が破綻していると認められるかについては,一律の基準があるわけではありませんが,以前は,5年程度別居期間が必要であると考えられておりましたが,最近では,2~3年程度で離婚を認める裁判例も存在している状況です。もっとも,上記裁判例においても単に別居期間のみを根拠に離婚を認めたわけではなく,以前お伝えしたように,それ以外の諸般の事情を考慮して判断しているため,離婚訴訟においても,単に別居期間が長期であることのみを主張するのではなく,別居に至った経緯や,別居期間中の経緯(復縁の申出がなされたかいなか等)を詳細に主張する必要があります。
婚姻を継続しがたい重大な事由について~総論~
婚姻を継続しがたい重大な事由について~総論~
<ご相談者様からのご質問>
夫が離婚に反対している場合には,離婚原因がないと離婚することができないのですね。夫には不貞行為もありませんし,悪意の遺棄や,精神疾患もありません。離婚原因の1つである「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する事情があるのでしょうか。私は,夫とはこれ以上一緒にやっていく意思は全くないのですが,これは,「婚姻を継続し難い重大な事由」にはならないのでしょうか
<弁護士からの回答>
民法上の法定離婚原因については,民法770条1項1号から4号において個別の離婚原因を記載しつつ,770条1項5号にて,「婚姻を継続し難い重大な事由」として,包括的な離婚原因を定めています。不貞行為などの大きな離婚原因がない場合には,この「婚姻を継続し難い重大な事由」が存在するとして離婚を求めていくことになります。裁判でも頻繁に争点になることが多い離婚原因ですので,どのような場合に「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当するかを理解して離婚に望むことはとても重要です。今回から数回にかけて,どういった場合に婚姻を継続し難い重大な事由に該当するのかをご説明させていただきます。今回は総論的な部分のお話をさせていただきます。
「婚姻を継続し難い重大な事由」とは,一般的には,婚姻関係(共同生活)が破綻し,その修復が不可能もしくは著しく困難な状況をいいます。どのような場合に婚姻関係が破綻しているのかについては,形式的に定められているわけではなく,夫婦の同居期間,同居期間中の夫婦関係,子どもの有無,別居に至った理由,別居期間,別居中のやりとり,婚姻関係に対する当事者の意思等諸般の事情を総合的に考慮して判断することになります。
ご相談者様がおっしゃられるように,当事者が再び夫婦関係を築く意思がないということは,婚姻関係が破綻していることを基礎づける事情にはなりますが,それだけで,離婚が認められることにはなりません(もし,それだけで離婚が認められるとなると,離婚したいと強く思うだけで,すべての事案で離婚が認められてしまうことになってしまいます。)。
法定離婚原因とは,以前もお話ししたように,裁判において相手方 が離婚に反対していたとしても,強制的に離婚を成立させるものであり,夫婦一方の意思に反してでも離婚を認めるべき事由であることが必要になります。したがって,「婚姻を継続し難い重大な事由」についても,民法770条1項1号から4号までに規定されている離婚原因と同程度の事情であることが必要になります(そもそも770条1項1号から4号については,それぞれが「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する事由であるとされています。)。
次回からは,「婚姻を継続し難い重大な事由」になりうる具体的な事情についてご説明させていただきます。
不貞行為に関する証拠
不貞行為に関する証拠
<ご相談者さまからのご質問>
最近,夫の様子がおかしく他に女性がいるのではないかと考えております。もし,他の女性がいたら離婚したいと考えているのですが,どういった証拠があれば夫が不貞行為をしていると裁判でも認めてもらえるのでしょうか。
<弁護士からの回答>
客観的な証拠や有力な証拠がない場合,相手方配偶者は,本当は不貞行為をしている場合であっても,不貞をしていないとして離婚や損害賠償を回避しようとすることも少なくありません。今回は,不貞行為に関する証拠についてご説明させていただきます。
前回ご説明させていただいたように,不貞行為にあたるためには,相手方配偶者が,他の異性と性的関係(性交及び性交類似行為)があることが必要になりますので,証拠についても,性的関係があったことを立証することができる証拠が必要になります。では,どういったものが,不貞行為を立証するための証拠になるのかを具体的にご説明いたします。
1 メール(LINE)でのやり取り
最近では,スマートフォン等の普及に伴い,メールやLINEでのやり取りがきっかけで,配偶者の不貞行為が発覚することも少なくありません。もっとも,配偶者が異性とメールやLINEのやり取りをしているだけでは,直ちに不貞行為を立証することにはつながりません。メールやLINEでのやり取りの内容が,不貞行為を確認できる内容,もしくは推認することができる内容である必要があります。単に,親密なやり取りであることが窺える程度の内容のである場合には,親密であったことは直接立証することができるものの,それを越えて不貞行為があったとまで推認することには無理があるでしょう。したがって,仮に,LINE等のやり取りを入手した場合には,そのやり取りで不貞行為を立証することができる内容であるかについては,一度弁護士に相談した方がいいでしょう。
2 写真や動画について
配偶者と異性がホテルや互いの家に入っていく写真や動画,2人で旅行に行っている際の写真や動画については,非常に有力な証拠になりえます。もっとも,ホテルや家に入っていく際には,ホテルの場合にはどういったホテルにはいっていったのか(ラブホテルは通常性行為などを行うことを想定しているホテルであるため,ラブホテルに入ったとなるとより有力になります。)ということや,家やホテルに滞在した時間(あまりにも短い場合だと不利になってしまいます。)が非常に重要になりうるため,より確実な証拠を得ようとするのであれば,何時に入り何時に退出したかについてもきちんと証拠に収めておくようにした方がよいでしょう。また,ごくまれにではありますが,配偶者と異性が,ベッドなどで服を着ていない状態で撮影された写真や,性交渉そのものを撮影した記録などが保管されているケースもあり,最近では,インターネットクラウドサービスにより,本人の予期していないところで,そういった写真がバックアップとして夫婦共通のPCに保存されているといったケースもあるそうです。
3 興信所などの調査報告書
上記のような証拠の収集に関しては,不貞行為については,相手にバレないようにこそこそ隠れて行うものであるため,ご自身で収集するのはとても難しい場合が多いです。興信所などに依頼を行うと,不貞行為に関する証拠をしっかり集めてもらえるという点では非常にメリットがあるのではないかと思います。もっとも,興信所等に依頼すると,調査費用等が発生してしまうところがネックになってくるため,確実に慰謝料などを回収できるのかという側面からも検討が必要です。
4 その他
上記以外で,一般的に不貞の証拠になりうるものとしては,例えば,不貞相手からのプレゼント,クレジットカードの明細,相手と宿泊したホテルの領収書等が考えられますが,上記①~③の証拠に比べて証明力の点では弱くなってしまいますが,何も資料がない場合よりはよいと思うので,手持ちの証拠で立証することができるのかについては一度資料をご持参いただいた上で,弁護士にご相談いただいた方がよいでしょう。
不貞行為とは
不貞行為とは
<ご相談者様からのご質問>
最近ワイドショーなどでも,芸能人の不倫や浮気が問題になっています。不倫や浮気と不貞行為は何か違うのですが,そもそもどういった行為が不貞行為というのでしょうか。
<弁護士からの回答>
不貞行為に関しては,離婚事件の中でも大きな争点となることが頻繁にあります。そこで,今回から数回にわけて,不貞行為についてご説明させていただきます。今回は,不貞行為の内容についてご説明し,どういった行為が不貞行為に該当するのかについてご説明させていただきます。
民法770条1項1号の不貞行為とは,「配偶者のある者が,その自由意思に基づいて配偶者以外の者と性的関係を持つこと」をいいます。夫婦は互いに,その配偶者以外の異性と性交をしてはならないという義務を負っており(これを貞操義務といいます。),その義務に違反して,配偶者以外の者と性的関係に至った場合には離婚原因となります。
不貞行為と似た言葉で,不倫,浮気という言葉もありますが,不倫,浮気は法律用語ではありませんが,不倫については,不貞行為と同じ意味合いで使用されていることが多い気がします。また,浮気については,婚姻関係にない男女間でも使用することがあるのではないかと感じています。
上記のように,不貞行為に該当するためには性的関係を持つこと(俗に言う「一線を越える」といったことになるのではないでしょうか。)が必要になります。具体的には,性交及び性交類似行為があると認められた場合には,不貞行為に該当することになります。
したがって,単に手をつないだり,キスをしたりといった程度では,不貞行為に該当しないことになります。もっとも,配偶者以外の異性とそのような行為を行うことは,正常な婚姻生活に支障をきたす事情であることは争えないため,不貞行為に該当しないとしても「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当する可能性は十分にありえます。
また,1回でも性的関係を持った場合には,不貞行為には該当することになります。また,風俗に行って性交類似行為を行った場合であっても,風俗だからお咎めなしということにはならず,不貞行為には該当することになります。
もっとも,不貞行為により離婚が認められるためには,当該不貞行為が原因で婚姻関係が破綻したことが必要になります。したがって,別の機会にもご説明しますが,離婚のために別居した後に,配偶者が他の人と性的関係を持ったとしても,その前に婚姻関係が破綻していると認められる場合には,不貞行為による離婚請求及び慰謝料請求は認められないことになります。次回は,不貞行為に関する証拠についてご説明させていただきます。
友人に誘われてタトゥーを入れた場合の相手への治療費請求
【相談事例①】
小学校5年生の娘が通う学校の一部のお友達のグループで,タトゥーを入れることが流行しているようです。針と墨を使い自分たちで入れているとのことでした。娘には,絶対にあなたはしてはいけないと強く言っているのですが,もし,娘がそのお友達に誘われてタトゥーを入れてしまった場合,相手の親などに治療費を請求できるのでしょうか。
【弁護士からの回答】
ひと昔前だと,タトゥー(入れ墨)を入れるのはやくざになる人というイメージがありましたが,海外のタレントやスポーツ選手などの影響でタトゥーを入れたいと考えている人も少なく無いと聞きます。特に中学生のお子さんの場合には,おしゃれ感覚や,「みんながやっているから自分もしてみたい」という安易な考えでタトゥーを入れてしまうのではないでしょうか。しかし,タトゥーを一度入れてしまうと,基本的に消すことは困難であり,タトゥーを入れている人に対する世間の目も厳しいものがあります。今回の相談事例では未成年のお友達同士のタトゥーについてのご相談ですが問題になりうる点について解説させていただきます。
1 刑事事件について
まず,他人にタトゥーを入れる行為については,針を使うため医療行為に該当するかが問題となり,医師免許を有していない人が他人にタトゥーを入れると,医師法違反になる可能性があります。タトゥーを入れる行為が医療行為に該当するかについては刑事事件で争われていますが,平成29年9月には大阪地裁にて,医療行為に該当する旨の判断がなされています(現在,この事件については控訴審で争われており,別の結論がなされる可能性もあります。)。
また,他人の意思に反してタトゥーを入れる場合には針を用いて身体を傷つける行為であるため傷害罪(刑法204条)に該当する行為になります。
上記犯罪については,行為者が未成年者であっても検挙され,回数が非常に多い場合には少年事件として家庭裁判所に送致されてしまう可能性があるため,お子さんには他の人にくれぐれもタトゥーを入れないよう指導しておくことが必要です。
2 民事事件について
次に,お友達にタトゥーを入れられてしまった場合には,不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条,710条)として,治療費や慰謝料を請求することができます。この点,未成年者の場合には,民法712条,714条の適用が問題になります。民法712条では,未成年者が不法行為の時点で責任能力(自己の行為の責任を弁識するに足りる能力をいいます。)を有していない場合にはその行為について,賠償責任を負わないとされています。
責任無能力者の不法行為の場合には,民法714条に規定があり原則として未成年者を監督する義務のある両親が賠償する責任を負います。
責任能力については概ね12歳~13歳ぐらいで認められると考えられているため,ご相談者様の事例では,お子さんのお友達には責任能力は認められないとして,お友達のご両親に対し損害賠償請求をすることになると思われます。
もっとも,タトゥーを入れることになった経緯として,お子さんがお友達に押さえつけられて無理やり入れられた場合には問題とはなりませんが,お友達からしつこく誘われて断りきれなかった場合や,お子さんの方から積極的に入れるよう求めた場合には,お子さんについても一定の落ち度があると認められるため,治療費や慰謝料の全額についての請求は認められないでしょう。
いずれにせよ,一度タトゥーを入れてしまうと,友人関係だけでなく,将来についても取り返しのつかない事態になってしまう可能性もあるのでお子さんにはどれだけ誘われても断るようきちんと指導するべきであると考えます。
離婚原因について~各論①~
離婚原因について~各論①~
<ご相談者様からのご質問>
離婚したいと思っても,相手が反対していると,法律上の離婚事由がないと離婚が認められないのですね。法定離婚原因の具体的な内容について教えてください。
<弁護士からの回答>
前回は,法定離婚原因の種類等について大まかにご説明させていただきました。今回からは,各法定離婚原因の具体的な内容についてご説明させていただきます。
法定離婚原因のうち,「不貞行為」と「婚姻を継続しがたい重大な事由」については,訴訟でも頻繁に争点になる離婚原因ですので,別の機会にご説明させていただき,今回は,それ以外の離婚原因の内容についてご説明させていただきます。
1 悪意の遺棄(民法770条1項2号)について
「夫婦は,同居し,互いに協力,扶助し合わなければならない。」とされており(民法757条),夫婦は相互に同居義務,協力義務,扶助義務を負っていることになります。悪意の遺棄とは,夫婦の一方が正当な理由がないのにも関わらず,上記義務を怠り,夫婦の共同生活が維持できなくなる状況を作出していることをいいます。
具体的には,一方が同居を希望しているのに,正当な理由なく家を出ていき帰ってこない場合や,収入があるにも関わらず,配偶者に生活費を渡さない場合や,正当な理由がなく家事を全くしない場合等が悪意の遺棄に該当しうる行為です。もっとも,単に別居をしていても,単身赴任や長期出張の場合や,夫婦間の冷却期間の為の別居,病気療養や出産のための別居等正当な理由に基づく別居の場合には,同居義務違反には該当せず,悪意の遺棄に該当することはありません。訴訟等においては,悪意の遺棄のみを主張することは少なく,婚姻を継続しがたい重大な事由にも該当すると主張することが一般的です。
2 3年以上の生死不明(770条1項3号)について
相手方配偶者が行方不明になり,3年以上生死不明の場合には離婚が認められます。生死不明とは,生存の証明も死亡の証明もできない状態のことをいい,所在が不明でも生存が確認される場合には,生死不明には該当しません(その場合には,悪意の遺棄や婚姻を継続しがたい重大な事由に該当する旨主張することになります。)。3年間の起算点ですが,行方不明になった時点,すなわち最後に音信があったときからとなります。最後に音信以降行方不明であることを客観的な証拠として残すためにすぐに,警察に失踪届等を提出する必要があります。
3 回復の見込みがない精神病(770条1項4号)について
専門医などが「強度の精神病」であり,かつ「回復の見込みがない」と判断した場合には,形式的には離婚事由に該当することになります。もっとも,瀬上記精神疾患を負っている配偶者は,離婚後,苛酷な状況に置かれてしまうことになることが想定されているため,裁判所において,上記要件のみを根拠に離婚を認めることに対しては非常に消極的です。具体的には,単に,上記要件に該当するのみならず。離婚後も公的な保護を受けることができる状態が確保されているなど,離婚後の生活の見通しが確保できている場合でなければ離婚を認めていないのが実情です。
次回からは,離婚訴訟等で頻繁に争点になる不貞行為と婚姻を継続しがたい重大な事由の内容についてご説明させていただきます。
自動車保険について
自動車保険について
<ご相談者さまからのご質問>
交通事故に遭うまで自動車保険についてはあまり意識していませんでした。
自賠責保険,任意保険などありますがそれぞれどういったときに使うものなのですか。
<弁護士からの回答>
交通事故の場合,被害者が被った損害について,加害者から直接支払われることは稀であり,基本的には,加害者が加入している任意保険会社から支払われることになります。今回から数回にかけて,自動車保険についてご説明させていただきます。今回は,自賠責保険,任意保険の内容についてご説明させていただきます。
自賠責保険とは,正式には,自動車損害賠償責任保険といいます。自動車損害賠償責任保険法によって自動車及び原動機付自転車を使用する際,すべての運転者への加入が義務付けられている損害保険です。自賠責保険に未加入で運行した場合には1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることになります。したがって,自動車などを運転される方は必ず,自賠責保険には加入しておいてください。
前回もお話させていただきましたが,自賠責保険で支払われるのは,交通事故に関する損害のうち,人身損害の部分のみであり,物損部分については,自賠責保険は適用されません。また,自賠責保険は保険金の限度額が低く設定されており,傷害部分(治療関係費,文書料,休業損害,入通院慰謝料)については,120万円までしか支払われず,後遺障害部分については,等級によってことなりますが,例えば,後遺障害等級14級の場合では75万円しか支払われません。
このように,自賠責保険だけでは,きちんとした賠償を行うことができず,自賠責の限度額を超えた部分については,加害者が支払わなくてはなりません。交通事故による損害については,被害者が死亡してしまったり,重度の後遺障害が残ってしまった場合には,損害額が数千万円,場合によっては数億円となるような場合も十分にあり,多額の賠償義務を負うことになってしまいます。このような事態を防ぐために,自賠責を越えた損害部分について,填補するための保険が任意保険になります。具体的には,物損部分については,任意保険の対物賠償保険が,人損部分については対人賠償保険が適用されることにより,ほとんどの事故で被害者の損害の全額を填補することができます。このように,事故を起こしてしまったとしても,自賠責保険と任意保険に加入しておけば,多額の賠償金を負担しなければならないことは避けることができるため,自動車を運転する場合には,自賠責保険だけでなく,任意保険にも加入しておいた方がよいでしょう。
交通事故の種類について
交通事故の種類
<ご相談者様からのご質問>
交通事故に遭ったときは色々しなくてはならないのですね。ところで,先ほどから先生が話している人身事故,物損事故とはそれぞれどういった内容の事故を言うのですか。おおまかなイメージはわかるのですが,人損事故と物損事故で何か違いはありますか。
<弁護士からの回答>
今回は,交通事故の種類についてご説明させていただきます。
物損事故と人身事故では,請求できる内容,適用される保険等が異なってくるので,各事故についてご説明させていただきます。
交通事故の種類は,①人身事故,②物損事故,③人身事故兼物損事故の3種類があります。
人身事故とは,交通事故により人が死傷した場合をいいます。ケガを負った場合だけでなく,死亡してしまった場合にも人身事故となります。また,運転手のみならず,同乗者がケガした場合,事故に巻き込まれた第三者がケガした場合でも人身事故になります。
物損事故とは,交通事故により人がケガをしておらず,自動車やバイクが損傷した事故をいいます。また,当事者の車両だけでなく,ガードレールや他人の敷地等を損傷してしまった場合にも物損事故に該当します。
人身事故になった場合は自動車運転過失致傷罪(死亡した場合には自動車運転過失致死罪となります。)として,刑事事件として扱われます。したがって,事故状況をきちんと把握するために,警察官にて実況見分(衝突位置,相手の車を発見した位置等を記録する捜査です。)を行い,実況見分調書を作成します。物損事故の場合には刑事事件にはならないため,実況見分調書は作成されず,簡単な事故状況報告書というものが作成されるだけです。
また,人損事故の場合には行政処分として免許の点数が加算されますが,物損事故の場合には行政処分も課されません。
自賠責保険(保険の内容については別の機会にご説明させていただきます。)は,人身傷害の際に支給される保険となっています。したがって,物損事故の場合には自賠責保険の対象になりません。加害者が任意保険(対物賠償保険)に加入していないと,保険会社からは保険金が支払われないことになってしまいます。
免許の点数がついてしまうと,仕事などで不都合が生じる場合等に,加害者側から「きちんと治療費を払うので,人身扱いにしないでほしい」と頼まれることがまれにあります。しかし,物損事故扱いになってしまうと,病院の治療費や,慰謝料(入通院慰謝料,後遺障害慰謝料)などが一切払われなくなってしまい,きちんとした賠償が受けられなくなってしまいます。したがって,交通事故でけがを負った場合には,必ず病院に行き,診断書を書いてもらい,警察に提出することで,人身事故として処理してもらうようにしてください。
交通事故にあってしまったら②
交通事故にあってしまったら②
<ご相談者様のからのご質問>
どんなに軽微な事故でもきちんと警察に届け出ないといけないのですね。警察には連絡しました。これで警察がきちんと対応してくれるので問題ないですね。
<弁護士からの回答>
事故後にしなければならないこと,すべきことについてはまだまだ存在します。特に,どういった事故であったのかということについては,後々過失割合という形で大きな争点になることがあります。事故直後からきちんと準備をしておくことでたとえ紛争になったとしてもきちんと自分の主張を認めてもらえる可能性が高まります。今回は引き続き事故直後の対応についてご説明させていただきます。
警察への連絡を行うと,通常10分程度で警察官が現場へ臨場します。警察官が臨場するまでの間に,加害者の情報を確認する必要があります。相手に対し,自動車車検証の提示を求め,加害者の氏名,住所,連絡先,職業等を確認した方がいいでしょう。また,相手方が加入している任意保険会社がどの保険会社あるかについても確認した方が良いでしょう。
次に,事故状況をきちんと記録に残しておくことが必要です。ご相談者様がおっしゃるように,警察に連絡をすれば,警察において事故状況を確認するのですが,仮に,物損事故である場合には警察において当事者の話を聞いて簡単な手書きの図を作成して終了ということがほとんどなので,事故直後の車の位置,ブレーキ痕,双方の車両の衝突箇所,損傷具合などを写真に残しておくとともに,可能であれば加害者に事故当時の運転状況(わき見をしていたか,ブレーキを踏んでいたか)等の話を聞き,録音しておくとよいでしょう(事故状況をきちんと記録しておくという意味ではドライブレコーダーがあればとてもよいでしょう。)
また,人身事故になった場合には,警察にて実況見分調書は作成され,事故状況を詳細に確認しますが,その際にもブレーキ痕などは時間が経つと消えてしまうので,同様に事故状況をきちんと記録しておくことが重要です。
最後に,必ず現場で行わなければならないわけではありませんが,ご自身が加入されている任意保険会社に連絡し,交通事故が発生したことについては報告しておいた方がよいでしょう。その際,ご自身の保険内容をご確認し,任意保険でどういった保障がされるのか,弁護士費用特約がついているか等を確認してみてください(任意保険や弁護士費用特約については別の機会にご説明させていただきます。)。
もし,弁護士費用特約がついていることが確認できた場合には,弁護士費用(相談料だけでなく,着手金,報酬金も含みます。)についても保険会社が負担してくれるので,今後の進め方などをアドバイスし,代理人としてお手伝いさせていただくことも可能ですので,是非一度弁護士にご相談ください。