弁護士コラム

2018.03.02

特別縁故者について①

特別縁故者について①

 

 

 

<ご相談者様からのご質問>

【ケース①】
10年以上内縁関係にあった夫が先日亡くなりました。席を入れていなかった理由は,夫には前妻との間の子がいたためそのお子さんに配慮してのことでした。夫の財産については一切受け取ることができないのでしょうか。

【ケース②】
10年以上内縁関係にあった夫が先日亡くなりました。夫には配偶者も子どももおりません。夫の両親等も既に亡くなっています。夫の財産については一切受け取ることができないのでしょうか。

<弁護士からの回答>

  ケース①とケース②でご相談者様が置かれている状況についてはほとんど同じに思えますが,結論自体は異なります。今回は,内縁配偶者の相続と特別縁故者についてご説明させていただきます。

 以前にもお話ししましたが,法定相続人である「配偶者」とは,法律上の配偶者のみであり,事実婚状態の内縁の妻は法定相続人にはなりません。もっとも,内縁の妻に関しては,単に婚姻届が提出されていないだけで,その実質は法律上の配偶者と同じであることから,法律上の配偶者と同様の保護が図られています。具体的には,内縁関係を解消する際には財産分与の請求だけでなく,相手方に帰責事由が存在する場合には,内縁関係解消を原因とする慰謝料請求を行うことも可能です。

 しかし,内縁状態の場合,配偶者が死亡してしまうとすべて相続の手続により進んでしまうため,パートナーの死後に財産分与の規定を準用などして財産を得ることもできません(最高裁判所平成12年3月10日決定)。したがって,ケース①の場合には,ご相談者様のパートナーを被相続人とする相続における相続人は,お子さんになられるので,ご相談者様は財産を一切得ることができません(財産を得るためには,パートナーに遺言を作成してもらう必要があります。)。

 では,ケース②の場合にはどうでしょうか。ケース①と異なり,ご相談者様のパートナーの方には法定相続人がいらっしゃいません。別の機会に詳しくご説明させていただきますが,相続人が存在しないと最終的に判断された場合には,被相続人が有していた財産は国庫(国の財産)に帰属することになります。しかし,死亡した人に相続人が存在しない場合等であっても,「被相続人と生計を同じくしていた者」,「被相続人の療養看護に努めた者」,など「被相続人と特別の縁故があった者」(特別縁故者といいます。)がいる場合には,その者からの請求により,家庭裁判所が相当と認めるときには,相続財産の全部又は一部を取得することができます(民法958条の3第1項)。したがって,ご相談者様の場合にも,相続人ではないものの,特別縁故者に該当する場合には財産を取得することができます。

 次回は,特別縁故者の要件や,家庭裁判所への申立て方法等についてご説明させていただきます。

2018.03.01

法定相続分について⑤

法定相続分について⑤

<ご相談者様からのご質問>

今では非嫡出子と嫡出子の法定相続分は同じなのですね。私は以前(平成15年頃)父の相続の際,遺産分割の審判を行ったのですが,その際は,非嫡出子として,他の兄弟よりも低い相続分しかもらえませんでした。その審判はとうの昔に確定してしまっているのですが,今からどうにかすることはできませんか。

<弁護士からの回答>

 前回は,非嫡出子と嫡出子との間で相続分を区別している規定が憲法違反であるとした平成25年9月4日の最高裁判所の決定についてご紹介させていただきましたが,上記最高裁判所の決定は,当該決定が出された以前の相続に関しては影響を及ぼすのでしょうか。今回は,上記最高裁判所の決定の効力が及び範囲についてご説明させていただきます。

上記最高裁判所の決定は,平成25年9月4日に出されていることから,平成25年9月4日以降に発生した相続に関しては,全ての相続に関し非嫡出子であっても嫡出子と同じ法定相続分を取得することになります。
また,上記最高裁判所の決定は,平成13年7月に被相続人が死亡し,相続が開始された事件であったため,平成13年7月時点における,民法900条4号但書のうち非嫡出子と嫡出子の相続分に関する規定(「本件規定」といいます。)の有効性について判断しており,「本件規定は,遅くとも平成13年7月当時において,憲法14条1項に違反していたものというべきである。」としています。この判事からすると,平成13年7月以降に発生した相続すべてについて効力を及ぼすように思えます。

しかし,上記最高裁決定は,平成13年7月から平成25年9月までの間に発生した相続において,本件規定が有効であることを前提として解決した遺産分割の事件が多数存在することから,過去に解決した事件についてまで効力が及ぶとすると,法的な安定性を害することから,本決定の違憲判断は平成13年7月から本決定までの間に開始された他の相続について,本件規定を前提としてされた遺産分割の審判,その他の裁判,遺産分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではないとしています。

したがって,最高裁判所の決定を素直に読むと,平成13年7月1日以降に開始した相続について,「確定的なものとなっ」ていない場合には,非嫡出子と嫡出子は同じ法定相続分を有することになり,審判などで「確定的なものとなっ」ている場合には,もはや非嫡出子の相続分を争えないことになります。そうすると,ご相談者様の事例においても,すでに審判が確定している以上,残念ながら成立した遺産分割の効力を改めて争うことはできません。

なお,平成13年7月1日よりも前に発生した相続(確定的な法律関係が存在しないことを前提としています。)について,本件最高裁決定の効力が及ぶかについて,本件決定は直接判断をしているわけではありませんが,本件決定が,「その相続開始時点での本件規定の合憲性を肯定した判断を変更するものではない。」と判断していることに加え,平成12年6月30日に発生した相続を対象として,本件規定を合憲であると判断したものがあるため(最高裁判所平成21年9月30日決定),少なくとも平成12年6月以前に発生した相続については,本件決定の効力は及ばないと判断される可能性が高いといえます。

ご自身が婚外子である場合,上記のとおり以前に発生した相続であっても,嫡出子と同じ相続分をご主張できる場合は十分にございますので,遺産分割等を進める前に是非一度弁護士にご相談ください。

2018.02.28

法定相続分について④

法定相続分について④

<ご相談者さまからのご質問>

  先日(平成28年12月),父が亡くなりました。父と母との間の子供は私だけだと思っていました。しかし,相続手続きのために戸籍を取り寄せていたら,父に母以外の女性との間に子どもがおり,父が認知をしていたことがわかりました。母も私も今回はじめて知りとてもショックなのですが,この場合,父の財産はどのように分けられることになるのでしょうか。

<弁護士からの回答>

  なかなかドラマチックな展開になっていますね・・・普通に生活している方が戸籍を見る機会は,ご自身が結婚や離婚をするときや相続のときしかないのが通常ですので,相続をきっかけにそれまで知らなかった事実が明らかになるケースも少なくありません(現に,上記と同じようなご相談をいただいたこともございます。)今回は,嫡出子と非嫡出子の法定相続分についてご説明させていただきます。

  法律上の夫婦(婚姻関係にある男女)から生まれた子どものことを嫡出子といいます(なお,嫡出子には「推定される嫡出子」と「推定されない嫡出子」の2種類がありますが,その説明に関しては別の機会にさせていただきます。)。そして,法律上の婚姻関係のない男女の間に生まれた子どものことを非嫡出子といいます。したがって,ご相談者様の事例の場合には,ご相談者様が嫡出子となり,今回の戸籍の調査で判明したお父様とお母様ではない女性との間の子が非嫡出子となります(非嫡出子は婚外子とも呼ばれています。)。

  従前,民法では,嫡出子と非嫡出子との間で相続分について区別をしていました。配偶者以外の相続人が複数人存在する場合(子が2人,兄弟が3人いる場合などです。)に関して規定している民法900条4項の但書では,「嫡出でない子の相続分は,嫡出である子の相続分の二分の一とし」と規定されており,非嫡出子は嫡出子の2分の1の相続分しか有しないとされていました。
  しかし,この規定に関しては,非嫡出子が嫡出子と同じ子であるにもかかわらず,父母が婚姻関係にあるかないかという子自身の意思により選択することができない事情により,相続において大きな不利益を被るのは不平等ではないかとの批判が多くありました。

そして,平成25年9月4日,最高裁判所において,民法第900条4号但書の規定のうち非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分は,法の下の平等に反し違憲(憲法違反)であると判示しました(最大決平成25年9月4日)。また,平成25年12月5日に,民法の一部を改正する法律が成立し,民法900条4号但書の規定のうち,非嫡出子と嫡出子との間の相続分に関する部分は削除されました。
したがって,上記最高裁決定が出された平成25年9月4日以降に発生した相続は全て,非嫡出子であっても嫡出子と同じ法定相続分となるため,ご相談者様の事例でも,法定相続分は配偶者であるご相談者様のお母さまが2分の1,ご相談者様の別のお子さん(婚外子)がそれぞれ4分の1(2分の1×2分の1)ずつとなります。

次回では,上記最高裁決定の効力の及ぶ範囲についてご説明させていただきます。

2018.02.27

法定相続分について③

法定相続分について③

<ご相談者様からのご質問>

   先日父が亡くなりました。家族は母と子が私含めて3人いましたが,私の弟2人(A,B)は,父が死ぬ前に亡くなっており,Aには子どもが2人(C,D)Bには子どもが1人(E)おります。Bは,子どもが生まれてすぐに奥さんと一緒に交通事故で亡くなっており身寄りが他にいなかったため,私の父が養子縁組をして育てていました。この場合,父の財産については誰がどれだけ相続することになるのでしょうか。

<弁護士からの回答>

   ご相談者様の事例では,代襲相続が発生していることに加え,代襲相続人の1人が被相続人と養子縁組を行っていることが相続分の判断を複雑にしています。そこで今回は,代襲相続人の相続分と相続人の資格が重複した場合の取り扱いについてご説明させていただきます。

   まず,被相続人(ご相談者様の父)の配偶者は当然相続人となります。また,子であるご相談者様も相続人になることに争いの余地はありません。さらに,ご相談者様の弟2人(A,B)は被相続人が死亡する前に亡くなっているため,A,Bのそれぞれの子ども(C,D,E)は代襲相続人に該当します。そして,代襲相続人の相続分は「その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。」(民法901条1項本文)と規定されており,かつ,代襲相続人が複数の場合には,その著経緯存続が受けるべきであった相続分を法定相続分に従って分配します(民法901条1項但書,900条)。
   また,Bの子どもEは,被相続人と養子縁組を行っており,Eは代襲相続人であるとともに,子でもあるということになり,相続人の資格が重複していることなりなりますが,相続人の資格が重複している場合であっても,各資格に基づく相続分を合算して取得することができます。

   以上をもとに,本件の各人の相続分についてみると,配偶者(ご相談者様のお母さま)は2分の1の相続分を有することになります。そして,子は,養子縁組をしたEを含めると4人となるので,まず,子の相続分としては,2分の1×4分の1で8分の1となります。したがって,ご相談者様は8分の1の相続分を有します。そして,Aの子ども(C,D)は代襲相続人として,Aの相続分(8分の1)を法定相続分にしたがい,それぞれ取得することになるため,C,Dの相続分はそれぞれ8分1×2分の1の16分の1となります。

   最後に,Eは養子縁組による子としての相続分8分の1に加え,Bの代襲相続人としての相続分を合算した4分の1(8分の2)が相続分ということになります。
ご相談者さまの事例だけでなく,被相続人のお子さんの人数が多い場合や,被相続人の方が大往生され高齢でお亡くなりになられた場合,養子縁組や相続放棄等が絡んでくると,相続人が誰であるか,誰がどれだけの相続分を有しているかの判断が非常に複雑になってきます。当事務所では,遺産分割協議の代理人としてお手伝いさせていただく前提として,戸籍収集サポート(戸籍を収取し,相続関係図を作成)や,相続サポート(戸籍収集サポートに加え,財産関係の調査,遺産分割協議書の作成)等も取り扱っておりますので,是非お気軽にお問合せください。

2018.02.26

法定相続分について②

法定相続分について②

<ご相談者様からのご質問>

  先日,兄がなくなりました。兄は,結婚もしておらず,子どももおりません。両親も祖父母も亡くなっていますが,母は父と再婚する前に別の男性と結婚しており,その人との間にも子どもがいます。私と兄は,母が父と再婚した後に生まれたのですが,この場合,兄の財産はどのように分ければいいのでしょうか。腹違いの兄弟とはこれまで一度も関わったことがないので,話し合いをどうやって進めて行けばいいか不安です。

<弁護士からの回答>

  相続手続きの際には,被相続人がお亡くなりになられていたときの状況次第で,これまで全く関わりのなかった親族と話し合いを行わなければならないことが少なくありません。前回は,配偶者との他の法定相続人との間の相続分についてご説明させていただきましたが,今回は,配偶者以外の相続人が複数にいる場合についてご説明させていただきます。

 配偶者以外の相続人(子,直系尊属,又は兄弟姉妹)が複数人存在する場合についての相続分については,民法900条4号に「各自の相続分は,相等しいものとする。」と規定されています(900条4号本文)。つまり,配偶者以外の相続人が複数人存在する場合には,相続分についてその人数で等分することになります。例えば,相続人が配偶者と子ども3人の場合には,民法900条1号により配偶者が2分の1,子が残りの2分の1となり,子が3人いるため,2分の1を3等分,すなわち,子1人あたりの相続分は2分の1×3分の1で6分の1となります。

 ご相談者様のお兄様を被相続人とする相続に関する相続人は,配偶者も子どもおらず,直系尊属もすでにいないことから,兄弟姉妹が相続人ということになります。
そして,兄弟姉妹はご相談者さまとお兄様の他に,父親が異なる兄弟姉妹(異父兄弟)の3人であるため,相続分はそれぞれ3分の1ずつになるように思えます。

 しかし,民法900条4号但書では,「父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は,父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。」と規定されており,半血の兄弟姉妹(異父兄弟,異母兄弟)は全血の兄弟姉妹の相続分の2分の1が相続分であるとされています。したがって,ご相談者様の事例の場合には,ご相談者様とお兄様が5分の2ずつ,腹違いの兄弟は5分の1の相続分を有することになります。
 ご相談者様の事例に関わらず,相続手続きの際にこれまで関わってこなかった親族の方と相続に関する話し合いを行うことは感情的な対立を生ずる危険もあり容易ではありません。

今回の事例のように,腹違いの兄弟の場合の相続分の区別については,一般の方ではご存じない方もいらっしゃると思いますので,当事者同士での話し合いではトラブルが生じてしまう可能性を否定できませんので,早めに弁護士にご相談いただくのがよいと思います。

2018.02.24

婚姻を継続しがたい重大な事由について~各論~

婚姻を継続しがたい重大な事由について~各論~

<ご相談者様からのご質問>

  よく,性格の不一致が原因で離婚するなんてことを聞くのですが,性格の不一致という法定離婚原因はありませんよね。性格の不一致が原因で離婚できるのでしょうか。

<弁護士からの回答>

 前回は,法定離婚原因の1つである「婚姻を継続しがたい重大な事由」について,総論的な内容をお話しさせていただきました。今回から数回にかけて,「婚姻を継続しがたい重大な事由」になりうる具体的な事情についてご説明させていただきます。

1 性格の不一致

日本での離婚原因(離婚に関する紛争に至った原因(理由)のことを意味し,法定離婚原因とはことなります。)の約半数をしめるのが,この性格の不一致というもので,ワイドショーなどでも,芸能人夫婦が性格の不一致により離婚等と報道されることもあり,身近な言葉として認識されているのではないかと思います。
 しかし,単に性格の不一致ということだけで,「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当するということはほとんどありません。夫婦とはいえ,生まれも育ちもことなる他人同士である以上性格や価値観が異なるのは当然であり,一度夫婦になった以上,単に性格や価値観が違うということのみでは離婚は難しくなります(ワイドショーで報じられている離婚については,協議離婚(当事者の合意)により離婚が成立している場合であるのがほとんどなので,性格の不一致が原因で離婚ができるとの誤解を生んでしまっているのかもしれません。)。性格の不一致については,あくまでも離婚を巡る問題に至ったきっかけ(入り口)に過ぎず,その後の夫婦関係が悪化し,修復不可能になっていることを主張,立証しなければ,離婚は認められることはないでしょう。その意味で,性格の不一致はそれ単体で主張することは少なく,後述する,別居期間に関する主張を合わせて主張を行うのが一般的です。

2 長期間の別居

 以前にもお伝えした通り,夫婦関係すなわち,夫婦の共同生活関係が破綻し,その修復が困難な場合に「婚姻を継続しがたい重大な事由」が存在すると認められることになります。そして,夫婦が別居している場合には,共同生活関係がなく,その状態が長期間にわたって継続している場合には,もはや,共同生活関係を修復することは困難であると判断されることになります。したがって,裁判所において上記要件を判断する際には,夫婦の別居という事実の有無及び別居期間がどの程度存在するのかという点は非常に重要な考慮要素となります。

 どのくらい,別居期間が長期になれば,婚姻関係が破綻していると認められるかについては,一律の基準があるわけではありませんが,以前は,5年程度別居期間が必要であると考えられておりましたが,最近では,2~3年程度で離婚を認める裁判例も存在している状況です。もっとも,上記裁判例においても単に別居期間のみを根拠に離婚を認めたわけではなく,以前お伝えしたように,それ以外の諸般の事情を考慮して判断しているため,離婚訴訟においても,単に別居期間が長期であることのみを主張するのではなく,別居に至った経緯や,別居期間中の経緯(復縁の申出がなされたかいなか等)を詳細に主張する必要があります。

2018.02.23

婚姻を継続しがたい重大な事由について~総論~

婚姻を継続しがたい重大な事由について~総論~

<ご相談者様からのご質問>

  夫が離婚に反対している場合には,離婚原因がないと離婚することができないのですね。夫には不貞行為もありませんし,悪意の遺棄や,精神疾患もありません。離婚原因の1つである「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する事情があるのでしょうか。私は,夫とはこれ以上一緒にやっていく意思は全くないのですが,これは,「婚姻を継続し難い重大な事由」にはならないのでしょうか

<弁護士からの回答>

 民法上の法定離婚原因については,民法770条1項1号から4号において個別の離婚原因を記載しつつ,770条1項5号にて,「婚姻を継続し難い重大な事由」として,包括的な離婚原因を定めています。不貞行為などの大きな離婚原因がない場合には,この「婚姻を継続し難い重大な事由」が存在するとして離婚を求めていくことになります。裁判でも頻繁に争点になることが多い離婚原因ですので,どのような場合に「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当するかを理解して離婚に望むことはとても重要です。今回から数回にかけて,どういった場合に婚姻を継続し難い重大な事由に該当するのかをご説明させていただきます。今回は総論的な部分のお話をさせていただきます。

 「婚姻を継続し難い重大な事由」とは,一般的には,婚姻関係(共同生活)が破綻し,その修復が不可能もしくは著しく困難な状況をいいます。どのような場合に婚姻関係が破綻しているのかについては,形式的に定められているわけではなく,夫婦の同居期間,同居期間中の夫婦関係,子どもの有無,別居に至った理由,別居期間,別居中のやりとり,婚姻関係に対する当事者の意思等諸般の事情を総合的に考慮して判断することになります。
 ご相談者様がおっしゃられるように,当事者が再び夫婦関係を築く意思がないということは,婚姻関係が破綻していることを基礎づける事情にはなりますが,それだけで,離婚が認められることにはなりません(もし,それだけで離婚が認められるとなると,離婚したいと強く思うだけで,すべての事案で離婚が認められてしまうことになってしまいます。)。

 法定離婚原因とは,以前もお話ししたように,裁判において相手方 が離婚に反対していたとしても,強制的に離婚を成立させるものであり,夫婦一方の意思に反してでも離婚を認めるべき事由であることが必要になります。したがって,「婚姻を継続し難い重大な事由」についても,民法770条1項1号から4号までに規定されている離婚原因と同程度の事情であることが必要になります(そもそも770条1項1号から4号については,それぞれが「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する事由であるとされています。)。

 次回からは,「婚姻を継続し難い重大な事由」になりうる具体的な事情についてご説明させていただきます。

2018.02.22

不貞行為に関する証拠

不貞行為に関する証拠

<ご相談者さまからのご質問>

 最近,夫の様子がおかしく他に女性がいるのではないかと考えております。もし,他の女性がいたら離婚したいと考えているのですが,どういった証拠があれば夫が不貞行為をしていると裁判でも認めてもらえるのでしょうか。

<弁護士からの回答>

 客観的な証拠や有力な証拠がない場合,相手方配偶者は,本当は不貞行為をしている場合であっても,不貞をしていないとして離婚や損害賠償を回避しようとすることも少なくありません。今回は,不貞行為に関する証拠についてご説明させていただきます。

 前回ご説明させていただいたように,不貞行為にあたるためには,相手方配偶者が,他の異性と性的関係(性交及び性交類似行為)があることが必要になりますので,証拠についても,性的関係があったことを立証することができる証拠が必要になります。では,どういったものが,不貞行為を立証するための証拠になるのかを具体的にご説明いたします。

1 メール(LINE)でのやり取り

 最近では,スマートフォン等の普及に伴い,メールやLINEでのやり取りがきっかけで,配偶者の不貞行為が発覚することも少なくありません。もっとも,配偶者が異性とメールやLINEのやり取りをしているだけでは,直ちに不貞行為を立証することにはつながりません。メールやLINEでのやり取りの内容が,不貞行為を確認できる内容,もしくは推認することができる内容である必要があります。単に,親密なやり取りであることが窺える程度の内容のである場合には,親密であったことは直接立証することができるものの,それを越えて不貞行為があったとまで推認することには無理があるでしょう。したがって,仮に,LINE等のやり取りを入手した場合には,そのやり取りで不貞行為を立証することができる内容であるかについては,一度弁護士に相談した方がいいでしょう。

2 写真や動画について

 配偶者と異性がホテルや互いの家に入っていく写真や動画,2人で旅行に行っている際の写真や動画については,非常に有力な証拠になりえます。もっとも,ホテルや家に入っていく際には,ホテルの場合にはどういったホテルにはいっていったのか(ラブホテルは通常性行為などを行うことを想定しているホテルであるため,ラブホテルに入ったとなるとより有力になります。)ということや,家やホテルに滞在した時間(あまりにも短い場合だと不利になってしまいます。)が非常に重要になりうるため,より確実な証拠を得ようとするのであれば,何時に入り何時に退出したかについてもきちんと証拠に収めておくようにした方がよいでしょう。また,ごくまれにではありますが,配偶者と異性が,ベッドなどで服を着ていない状態で撮影された写真や,性交渉そのものを撮影した記録などが保管されているケースもあり,最近では,インターネットクラウドサービスにより,本人の予期していないところで,そういった写真がバックアップとして夫婦共通のPCに保存されているといったケースもあるそうです。

3 興信所などの調査報告書

 上記のような証拠の収集に関しては,不貞行為については,相手にバレないようにこそこそ隠れて行うものであるため,ご自身で収集するのはとても難しい場合が多いです。興信所などに依頼を行うと,不貞行為に関する証拠をしっかり集めてもらえるという点では非常にメリットがあるのではないかと思います。もっとも,興信所等に依頼すると,調査費用等が発生してしまうところがネックになってくるため,確実に慰謝料などを回収できるのかという側面からも検討が必要です。

4 その他

 上記以外で,一般的に不貞の証拠になりうるものとしては,例えば,不貞相手からのプレゼント,クレジットカードの明細,相手と宿泊したホテルの領収書等が考えられますが,上記①~③の証拠に比べて証明力の点では弱くなってしまいますが,何も資料がない場合よりはよいと思うので,手持ちの証拠で立証することができるのかについては一度資料をご持参いただいた上で,弁護士にご相談いただいた方がよいでしょう。

2018.02.21

不貞行為とは

不貞行為とは

<ご相談者様からのご質問>

 最近ワイドショーなどでも,芸能人の不倫や浮気が問題になっています。不倫や浮気と不貞行為は何か違うのですが,そもそもどういった行為が不貞行為というのでしょうか。

<弁護士からの回答>

不貞行為に関しては,離婚事件の中でも大きな争点となることが頻繁にあります。そこで,今回から数回にわけて,不貞行為についてご説明させていただきます。今回は,不貞行為の内容についてご説明し,どういった行為が不貞行為に該当するのかについてご説明させていただきます。

民法770条1項1号の不貞行為とは,「配偶者のある者が,その自由意思に基づいて配偶者以外の者と性的関係を持つこと」をいいます。夫婦は互いに,その配偶者以外の異性と性交をしてはならないという義務を負っており(これを貞操義務といいます。),その義務に違反して,配偶者以外の者と性的関係に至った場合には離婚原因となります。
不貞行為と似た言葉で,不倫,浮気という言葉もありますが,不倫,浮気は法律用語ではありませんが,不倫については,不貞行為と同じ意味合いで使用されていることが多い気がします。また,浮気については,婚姻関係にない男女間でも使用することがあるのではないかと感じています。

上記のように,不貞行為に該当するためには性的関係を持つこと(俗に言う「一線を越える」といったことになるのではないでしょうか。)が必要になります。具体的には,性交及び性交類似行為があると認められた場合には,不貞行為に該当することになります。

したがって,単に手をつないだり,キスをしたりといった程度では,不貞行為に該当しないことになります。もっとも,配偶者以外の異性とそのような行為を行うことは,正常な婚姻生活に支障をきたす事情であることは争えないため,不貞行為に該当しないとしても「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当する可能性は十分にありえます。
また,1回でも性的関係を持った場合には,不貞行為には該当することになります。また,風俗に行って性交類似行為を行った場合であっても,風俗だからお咎めなしということにはならず,不貞行為には該当することになります。

もっとも,不貞行為により離婚が認められるためには,当該不貞行為が原因で婚姻関係が破綻したことが必要になります。したがって,別の機会にもご説明しますが,離婚のために別居した後に,配偶者が他の人と性的関係を持ったとしても,その前に婚姻関係が破綻していると認められる場合には,不貞行為による離婚請求及び慰謝料請求は認められないことになります。次回は,不貞行為に関する証拠についてご説明させていただきます。

2018.02.20

友人に誘われてタトゥーを入れた場合の相手への治療費請求

【相談事例①】

小学校5年生の娘が通う学校の一部のお友達のグループで,タトゥーを入れることが流行しているようです。針と墨を使い自分たちで入れているとのことでした。娘には,絶対にあなたはしてはいけないと強く言っているのですが,もし,娘がそのお友達に誘われてタトゥーを入れてしまった場合,相手の親などに治療費を請求できるのでしょうか。

 

【弁護士からの回答】

 ひと昔前だと,タトゥー(入れ墨)を入れるのはやくざになる人というイメージがありましたが,海外のタレントやスポーツ選手などの影響でタトゥーを入れたいと考えている人も少なく無いと聞きます。特に中学生のお子さんの場合には,おしゃれ感覚や,「みんながやっているから自分もしてみたい」という安易な考えでタトゥーを入れてしまうのではないでしょうか。しかし,タトゥーを一度入れてしまうと,基本的に消すことは困難であり,タトゥーを入れている人に対する世間の目も厳しいものがあります。今回の相談事例では未成年のお友達同士のタトゥーについてのご相談ですが問題になりうる点について解説させていただきます。

 

1 刑事事件について

  まず,他人にタトゥーを入れる行為については,針を使うため医療行為に該当するかが問題となり,医師免許を有していない人が他人にタトゥーを入れると,医師法違反になる可能性があります。タトゥーを入れる行為が医療行為に該当するかについては刑事事件で争われていますが,平成29年9月には大阪地裁にて,医療行為に該当する旨の判断がなされています(現在,この事件については控訴審で争われており,別の結論がなされる可能性もあります。)。

  また,他人の意思に反してタトゥーを入れる場合には針を用いて身体を傷つける行為であるため傷害罪(刑法204条)に該当する行為になります。

  上記犯罪については,行為者が未成年者であっても検挙され,回数が非常に多い場合には少年事件として家庭裁判所に送致されてしまう可能性があるため,お子さんには他の人にくれぐれもタトゥーを入れないよう指導しておくことが必要です。

2 民事事件について

  次に,お友達にタトゥーを入れられてしまった場合には,不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条,710条)として,治療費や慰謝料を請求することができます。この点,未成年者の場合には,民法712条,714条の適用が問題になります。民法712条では,未成年者が不法行為の時点で責任能力(自己の行為の責任を弁識するに足りる能力をいいます。)を有していない場合にはその行為について,賠償責任を負わないとされています。

  責任無能力者の不法行為の場合には,民法714条に規定があり原則として未成年者を監督する義務のある両親が賠償する責任を負います。

  責任能力については概ね12歳~13歳ぐらいで認められると考えられているため,ご相談者様の事例では,お子さんのお友達には責任能力は認められないとして,お友達のご両親に対し損害賠償請求をすることになると思われます。

  もっとも,タトゥーを入れることになった経緯として,お子さんがお友達に押さえつけられて無理やり入れられた場合には問題とはなりませんが,お友達からしつこく誘われて断りきれなかった場合や,お子さんの方から積極的に入れるよう求めた場合には,お子さんについても一定の落ち度があると認められるため,治療費や慰謝料の全額についての請求は認められないでしょう。

  いずれにせよ,一度タトゥーを入れてしまうと,友人関係だけでなく,将来についても取り返しのつかない事態になってしまう可能性もあるのでお子さんにはどれだけ誘われても断るようきちんと指導するべきであると考えます。

 

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