離婚原因について~各論①~
離婚原因について~各論①~
<ご相談者様からのご質問>
離婚したいと思っても,相手が反対していると,法律上の離婚事由がないと離婚が認められないのですね。法定離婚原因の具体的な内容について教えてください。
<弁護士からの回答>
前回は,法定離婚原因の種類等について大まかにご説明させていただきました。今回からは,各法定離婚原因の具体的な内容についてご説明させていただきます。
法定離婚原因のうち,「不貞行為」と「婚姻を継続しがたい重大な事由」については,訴訟でも頻繁に争点になる離婚原因ですので,別の機会にご説明させていただき,今回は,それ以外の離婚原因の内容についてご説明させていただきます。
1 悪意の遺棄(民法770条1項2号)について
「夫婦は,同居し,互いに協力,扶助し合わなければならない。」とされており(民法757条),夫婦は相互に同居義務,協力義務,扶助義務を負っていることになります。悪意の遺棄とは,夫婦の一方が正当な理由がないのにも関わらず,上記義務を怠り,夫婦の共同生活が維持できなくなる状況を作出していることをいいます。
具体的には,一方が同居を希望しているのに,正当な理由なく家を出ていき帰ってこない場合や,収入があるにも関わらず,配偶者に生活費を渡さない場合や,正当な理由がなく家事を全くしない場合等が悪意の遺棄に該当しうる行為です。もっとも,単に別居をしていても,単身赴任や長期出張の場合や,夫婦間の冷却期間の為の別居,病気療養や出産のための別居等正当な理由に基づく別居の場合には,同居義務違反には該当せず,悪意の遺棄に該当することはありません。訴訟等においては,悪意の遺棄のみを主張することは少なく,婚姻を継続しがたい重大な事由にも該当すると主張することが一般的です。
2 3年以上の生死不明(770条1項3号)について
相手方配偶者が行方不明になり,3年以上生死不明の場合には離婚が認められます。生死不明とは,生存の証明も死亡の証明もできない状態のことをいい,所在が不明でも生存が確認される場合には,生死不明には該当しません(その場合には,悪意の遺棄や婚姻を継続しがたい重大な事由に該当する旨主張することになります。)。3年間の起算点ですが,行方不明になった時点,すなわち最後に音信があったときからとなります。最後に音信以降行方不明であることを客観的な証拠として残すためにすぐに,警察に失踪届等を提出する必要があります。
3 回復の見込みがない精神病(770条1項4号)について
専門医などが「強度の精神病」であり,かつ「回復の見込みがない」と判断した場合には,形式的には離婚事由に該当することになります。もっとも,瀬上記精神疾患を負っている配偶者は,離婚後,苛酷な状況に置かれてしまうことになることが想定されているため,裁判所において,上記要件のみを根拠に離婚を認めることに対しては非常に消極的です。具体的には,単に,上記要件に該当するのみならず。離婚後も公的な保護を受けることができる状態が確保されているなど,離婚後の生活の見通しが確保できている場合でなければ離婚を認めていないのが実情です。
次回からは,離婚訴訟等で頻繁に争点になる不貞行為と婚姻を継続しがたい重大な事由の内容についてご説明させていただきます。
自動車保険について
自動車保険について
<ご相談者さまからのご質問>
交通事故に遭うまで自動車保険についてはあまり意識していませんでした。
自賠責保険,任意保険などありますがそれぞれどういったときに使うものなのですか。
<弁護士からの回答>
交通事故の場合,被害者が被った損害について,加害者から直接支払われることは稀であり,基本的には,加害者が加入している任意保険会社から支払われることになります。今回から数回にかけて,自動車保険についてご説明させていただきます。今回は,自賠責保険,任意保険の内容についてご説明させていただきます。
自賠責保険とは,正式には,自動車損害賠償責任保険といいます。自動車損害賠償責任保険法によって自動車及び原動機付自転車を使用する際,すべての運転者への加入が義務付けられている損害保険です。自賠責保険に未加入で運行した場合には1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることになります。したがって,自動車などを運転される方は必ず,自賠責保険には加入しておいてください。
前回もお話させていただきましたが,自賠責保険で支払われるのは,交通事故に関する損害のうち,人身損害の部分のみであり,物損部分については,自賠責保険は適用されません。また,自賠責保険は保険金の限度額が低く設定されており,傷害部分(治療関係費,文書料,休業損害,入通院慰謝料)については,120万円までしか支払われず,後遺障害部分については,等級によってことなりますが,例えば,後遺障害等級14級の場合では75万円しか支払われません。
このように,自賠責保険だけでは,きちんとした賠償を行うことができず,自賠責の限度額を超えた部分については,加害者が支払わなくてはなりません。交通事故による損害については,被害者が死亡してしまったり,重度の後遺障害が残ってしまった場合には,損害額が数千万円,場合によっては数億円となるような場合も十分にあり,多額の賠償義務を負うことになってしまいます。このような事態を防ぐために,自賠責を越えた損害部分について,填補するための保険が任意保険になります。具体的には,物損部分については,任意保険の対物賠償保険が,人損部分については対人賠償保険が適用されることにより,ほとんどの事故で被害者の損害の全額を填補することができます。このように,事故を起こしてしまったとしても,自賠責保険と任意保険に加入しておけば,多額の賠償金を負担しなければならないことは避けることができるため,自動車を運転する場合には,自賠責保険だけでなく,任意保険にも加入しておいた方がよいでしょう。
交通事故の種類について
交通事故の種類
<ご相談者様からのご質問>
交通事故に遭ったときは色々しなくてはならないのですね。ところで,先ほどから先生が話している人身事故,物損事故とはそれぞれどういった内容の事故を言うのですか。おおまかなイメージはわかるのですが,人損事故と物損事故で何か違いはありますか。
<弁護士からの回答>
今回は,交通事故の種類についてご説明させていただきます。
物損事故と人身事故では,請求できる内容,適用される保険等が異なってくるので,各事故についてご説明させていただきます。
交通事故の種類は,①人身事故,②物損事故,③人身事故兼物損事故の3種類があります。
人身事故とは,交通事故により人が死傷した場合をいいます。ケガを負った場合だけでなく,死亡してしまった場合にも人身事故となります。また,運転手のみならず,同乗者がケガした場合,事故に巻き込まれた第三者がケガした場合でも人身事故になります。
物損事故とは,交通事故により人がケガをしておらず,自動車やバイクが損傷した事故をいいます。また,当事者の車両だけでなく,ガードレールや他人の敷地等を損傷してしまった場合にも物損事故に該当します。
人身事故になった場合は自動車運転過失致傷罪(死亡した場合には自動車運転過失致死罪となります。)として,刑事事件として扱われます。したがって,事故状況をきちんと把握するために,警察官にて実況見分(衝突位置,相手の車を発見した位置等を記録する捜査です。)を行い,実況見分調書を作成します。物損事故の場合には刑事事件にはならないため,実況見分調書は作成されず,簡単な事故状況報告書というものが作成されるだけです。
また,人損事故の場合には行政処分として免許の点数が加算されますが,物損事故の場合には行政処分も課されません。
自賠責保険(保険の内容については別の機会にご説明させていただきます。)は,人身傷害の際に支給される保険となっています。したがって,物損事故の場合には自賠責保険の対象になりません。加害者が任意保険(対物賠償保険)に加入していないと,保険会社からは保険金が支払われないことになってしまいます。
免許の点数がついてしまうと,仕事などで不都合が生じる場合等に,加害者側から「きちんと治療費を払うので,人身扱いにしないでほしい」と頼まれることがまれにあります。しかし,物損事故扱いになってしまうと,病院の治療費や,慰謝料(入通院慰謝料,後遺障害慰謝料)などが一切払われなくなってしまい,きちんとした賠償が受けられなくなってしまいます。したがって,交通事故でけがを負った場合には,必ず病院に行き,診断書を書いてもらい,警察に提出することで,人身事故として処理してもらうようにしてください。
交通事故にあってしまったら②
交通事故にあってしまったら②
<ご相談者様のからのご質問>
どんなに軽微な事故でもきちんと警察に届け出ないといけないのですね。警察には連絡しました。これで警察がきちんと対応してくれるので問題ないですね。
<弁護士からの回答>
事故後にしなければならないこと,すべきことについてはまだまだ存在します。特に,どういった事故であったのかということについては,後々過失割合という形で大きな争点になることがあります。事故直後からきちんと準備をしておくことでたとえ紛争になったとしてもきちんと自分の主張を認めてもらえる可能性が高まります。今回は引き続き事故直後の対応についてご説明させていただきます。
警察への連絡を行うと,通常10分程度で警察官が現場へ臨場します。警察官が臨場するまでの間に,加害者の情報を確認する必要があります。相手に対し,自動車車検証の提示を求め,加害者の氏名,住所,連絡先,職業等を確認した方がいいでしょう。また,相手方が加入している任意保険会社がどの保険会社あるかについても確認した方が良いでしょう。
次に,事故状況をきちんと記録に残しておくことが必要です。ご相談者様がおっしゃるように,警察に連絡をすれば,警察において事故状況を確認するのですが,仮に,物損事故である場合には警察において当事者の話を聞いて簡単な手書きの図を作成して終了ということがほとんどなので,事故直後の車の位置,ブレーキ痕,双方の車両の衝突箇所,損傷具合などを写真に残しておくとともに,可能であれば加害者に事故当時の運転状況(わき見をしていたか,ブレーキを踏んでいたか)等の話を聞き,録音しておくとよいでしょう(事故状況をきちんと記録しておくという意味ではドライブレコーダーがあればとてもよいでしょう。)
また,人身事故になった場合には,警察にて実況見分調書は作成され,事故状況を詳細に確認しますが,その際にもブレーキ痕などは時間が経つと消えてしまうので,同様に事故状況をきちんと記録しておくことが重要です。
最後に,必ず現場で行わなければならないわけではありませんが,ご自身が加入されている任意保険会社に連絡し,交通事故が発生したことについては報告しておいた方がよいでしょう。その際,ご自身の保険内容をご確認し,任意保険でどういった保障がされるのか,弁護士費用特約がついているか等を確認してみてください(任意保険や弁護士費用特約については別の機会にご説明させていただきます。)。
もし,弁護士費用特約がついていることが確認できた場合には,弁護士費用(相談料だけでなく,着手金,報酬金も含みます。)についても保険会社が負担してくれるので,今後の進め方などをアドバイスし,代理人としてお手伝いさせていただくことも可能ですので,是非一度弁護士にご相談ください。
交通事故に遭ってしまったら①
交通事故に遭ってしまったら①
<ご相談者様からのご質問>
先程,交差点で交通事故に遭いました。私が交差点を直進しようとしたら,対向車線から相手の車がいきなり右折してきたのです。幸いケガはなさそうです。相手の方からは自分が悪いので,車の修理費は全て持つので警察は呼ばないでくれと言われています。きちんと対応してくれるのであればわざわざ警察まで呼ばなくてもいいのではないかと思ってしまうのですが。
<弁護士からの回答>
ご相談者さまの事例のように,相手方から警察を呼ばないで欲しいと言われることは少なくありません。相手の言葉を信じて,警察を呼ばないと後々で面倒なことに巻き込まれてしまう可能性は非常に高いです。今回から数回にかけて,交通事故が発生直後にしなければならないこと,しておいた方が良いことについてお話させていただきます。
事故が発生したら,すぐに,ご自身や同乗者等にお怪我をなされている方などがいるかを確認し,けが人がいる場合には早期に救出することが必要です。このとき,ご相談者さまのように,目立った外傷がない場合であっても,あとから症状が出る場合もあるため,大きなケガをしていなように見えても,痛みがある場合などには念のため救急車を呼んでおいた方が良いでしょう。
ケガの状況の確認が済み次第,必ず警察へ連絡を入れてください。これは事故の内容がケガをしておらず,車の損傷のみである物損事故の場合であっても必ず連絡することが必要です。その理由としては,交通事故にかかる車両等の運転手には,事故が発生した際に警察に報告する義務を有している(道路交通法72条1項)だけではなく,警察に事故の届出をしなければ,後日,相手方の保険会社や,ご自身の保険会社に保険金を請求する際に,そもそも交通事故が発生したことの証明をすることができなくなってしまいます。警察に届出をすることで,物損事故の場合であっても,交通事故が発生したことの証明書(交通事故証明書といいます。)が作成されるので,どのような事故であっても必ず警察に連絡してください。
ご相談者様の事例のように,相手方から職場でのペナルティや,事故による免許の違反点数がついてしまうことを避けるために警察に連絡するのをやめて欲しいと言われることはまれにですが存在します(特に事故の加害者から言われることがあります。)。しかし,相手からいくら,治療費や修理費を全額払う旨言われていたとしても必ずその申出は断るようにしてください。上記のように,警察に届け出なかったことにより,後々保険金の請求をすることができない若しくは困難になってしまったり,相手の所在が分からなくなり,被害者であるにもかかわらず最終的に,損害を賠償してもらえなくなる可能性が十分に考えられます(事故証明書を取得しておけば,相手方の住所地や自賠責の保険会社などの情報が判明するため,所在不明というような状況は防ぐことができます。)。
したがって,そのような申出があった場合には,自動車を運転している以上,交通事故が起きた際には,法律上警察を呼ぶ義務があることをきちんと理解してもらい,必ず警察に連絡するようにしてください。
交通事故に関する問題について
交通事故に関する問題について
近年,技術の発達に伴い,衝突回避システム等を搭載した自動車が普及される時代になってきました。こうした技術に確信に伴い,近年交通事故の件数は減少しています。しかしながら,日本では1年間に約50万件以上の交通事故が発生しています(平均にすると1日約1600件,1分に1件以上発生していることになります。)。
交通事故に関しては,運転中のほんの少しの気のゆるみで取り返しのつかない事態に発展してしまう可能性があるだけでなく,自分は問題ない運転をしていたにも関わらず,被害者として事故に巻き込まれてしまう可能性も否定できません。
交通事故はあらかじめ起きることが分かっているものではなく,突然発生します。いきなり交通事故にあってしまいどうすればいいかわからないまま,現場での対応,病院への通院,相手方保険会社とのやり取り等(治療期間のやりとり,過失割合のやり取り,代車が認められるのかなど・・・・交通事故の被害に遭われた方でここが一番大変なところだと思います。)に負われてしまいます。
上記の各場面できちんと対応しなければ,事故により被った被害をきちんと回復することができなくなってしまう可能性も否定できません。
軽微な物損事故であれば,金額はそこまで大きくないので大きな問題にはならないかもしれませんが,重大な事故で,重篤な後遺障害が残ってしまった場合には,ケガを抱えたままで生活をしていかなければきちんとした賠償を得ることができなければ,今後のご自身の生活だけでなくご家族の生活もままならない可能性も否定できません。
相手方保険会社から提示される賠償金額は,ご本人のみで交渉にあたっている場合には,残念ながら極端に低額である場合がほとんどであり,相手からの書面にサインをしてしまうと,やっぱりその金額では納得できないと思っても後から主張することは原則としてできないので,それを知らずにサインをしてしまうときちんとした金額での賠償を受けることができません。
今回のコラムでは,これまで,多くの交通事故案件に携わってきた弁護士として,交通事故にまつわる問題やよくご質問いただく事項等をご相談者さまからのご質問という形で紹介し,弁護士としてご質問に回答するという形でご説明させていただきます。もし,事故に遭われてしまった場合でも,このコラムをお読みいただき,これから何をすべきなのかということを把握していただけることで,事故に遭われた不安を少しでも解消できければと考えております。
破産手続の管財事件と同時廃止事件って何ですか?
破産事件は,申立後の手続きの流れとして,大きく分けると管財人が選任される管財事件と,管財人が選任されないまま手続きが終了する同時廃止事件の2種類があります。
そこで,今回は,この2種類の手続きの違いと,どちらの手続きになるかについての判断基準について,お話しをさせていただきます。
1 管財事件と同時廃止事件とは
⑴管財事件
管財事件とは,破産手続開始決定と同時に,裁判所が管財人を選任し,管財人が破産者の保有資産を管理し,換価手続等を進めていく手続です。
個人破産の場合,破産手続は免責許可を得るために行われることが多いため,「破産手続=免責のための手続」として認識されているかもしれませんが,本来,破産手続とは,破産者の財産を換価して債権者に公平に分配していくことを主眼とする手続ですので,負債額の調査,保有資産の管理,換価,配当がメインであり,当該手続を担う職位として管財人が選任されます。管財人は,公平中立に手続を進める義務があるため,通常は,裁判所が事案の内容や難易度に応じて弁護士を選任します。
なお,破産法上は,管財事件を原則形態としており,管財事件になった場合は,管財人の報酬も発生します。そのため,破産手続申立時に裁判所に納める費用(予納金)は,その分高くなります。(予納金の金額は,事案の内容や各裁判所によっても異なりますが,最低でも20万は必要になるところが多いようです。なお,破産事件を申立てにかかる必要費用がどのくらいなのかについては,別記事で改めてお話しします。)
⑵同時廃止事件
同時廃止事件は,「同廃(ドウハイ)事件」として呼ばれることも多いですが,破産手続開始決定と同時に,破産手続を終了(廃止)するという取り扱いをする手続です。
破産手続は,前述の通り,破産者の財産を換価して,債権者に分配する手続を予定しているため,分配すべき財産がない場合は,破産手続を開始しても意味がありません。そのため,手続開始と同時に手続を廃止するという方法を取ります。(なお,手続を開始しても意味がないなら,破産開始決定を出す必要がないのではないかと疑問を思われる方もいるかもしれませんが,破産手続開始決定がなされなければ,免責許可が下りないため,破産手続開始決定を出す意味はあります。)
同時廃止事件になると,管財人は選任されないため,手続は比較的早く終わります。
2 管財事件と同時廃止事件の判断基準
それでは,どのような事件が管財事件となり,どのような事件が同時廃止事件となるのでしょうか。この点については,破産法上は明確な基準はなく,各裁判所の運用も異なっているようです。以下では,某裁判所の判断基準をご紹介致します。
<某裁判所が同時廃止事件として処理する運用基準>
⑴原則
某裁判所では,法人ではなく個人破産の申立てであり,かつ破産手続開始決定時に債務者が保有する資産の総額が50万円に満たない場合は,原則として同時廃止手続で処理されています。
⑵例外
しかし,⑴の原則に該当する場合でも,以下の①~⑥類型に該当する場合は,管財人による調査が必要となるため,同時廃止事件ではなく,管財事件として処理されています。
ア 類型①(法人代表者型)
債務者が法人の代表者に就任しているが,法人については破産申立てをしておらず,債務者個人のみ破産申立てをしている場合
(法人と個人の財産混同,隠匿の可能性もあるため調査が必要です。)
イ 類型②(個人事業主型)
債務者が現に又は過去6か月以内に個人事業を営んでいる場合
(アと同様,事業と個人の財産の混同,隠匿の可能性もあるため調査が必要です。)
ウ 類型③(資産調査型)
保証債務や住宅ローンを除いた債務が3000万円以上ある場合
(負債額が極端に大きいため,借入の際に何らかの資産が担保となっている可能性があり,調査が必要と考えられます。ただ,資産がないことが明らかである場合は,調査不要ですので,管財事件ではなく同時廃止事件になります。)
エ 類型④(否認対象行為調査型)
偏頗弁済(特定の債権者のみに弁済して債権者の公平を害している場合)がされており,当該行為を否認(取り消し)して財産を取り戻す必要がある場合や,否認対象行為を調査する必要がある場合
(財産の取戻し請求等は管財人が行うため,管財事件となります。)
オ 類型⑤(免責調査型)
債務者に免責不許可事由が存在する可能性があり,事実の調査が必要な場合
(事実の調査が必要である以上,管財事件となります。なお,免責不許可が明らかな場合は調査不要のため,同時廃止事件として処理されます。)
カ 類型⑥(財団形成型)
資産の中に不動産があり,換価の余地がある場合や,過払金返還請求訴訟が係属中であり,勝訴の見込みがある場合等,換価対象となる財産が見込まれる場合
(換価業務は管財人が行うため,管財事件となります。)
3 まとめ
以上の通り,同時廃止事件と管財事件では,どちらの手続になるかによって,申立時に裁判所に納める費用(予納金)の金額が大きく変わってくるため,その見極めは重要になります。つまり,どちらの手続になるかを明確に見極めなくては,申立時に必要な費用の額が異なるので,破産のために貯めなくてはならない金額が変わって来ます。しかし,その見極めは困難なことも多く,また振分基準に関しては,各裁判所の運用に委ねられていることが多いため,まずは,破産事件を多く取り扱っている経験豊富な弁護士にご相談されることをお勧めします。
法定相続分について①
法定相続分について①
<ご相談者様からのご質問>
自分が亡くなったとき誰にどのように財産が相続されることになるのかが気になっています。法律ではどのような割合で相続財産が分けられることになっているのですか。また,法律で決まっている割合と異なる割合で相続させることはできないのですか。
<弁護士からの回答>
これまでは,相続において誰が相続人となるかについてご説明させていただきましたが,今回から数回にかけて,相続人に対しどのように財産が分けられるのかという法定相続分についてご説明させていただきます。
以前にもご説明しましたが,法定相続人は,配偶者,第1順位の相続人である子,第2順位の直系尊属(親,祖父母等),第3順位の兄弟姉妹となります。したがって,相続人が配偶者しかいない場合には,配偶者が被相続人の相続財産を全て相続します。配偶者がいない場合には第1順位の子が,子もいない場合には,第2順位の直系尊属が,子も直系尊属もいない場合には,第3順位の兄弟姉妹が被相続人の財産を全て相続することになります(子,直系尊属,兄弟姉妹がそれぞれ複数名いる場合については別の機会にご説明させていただきます)。
では,相続人が,配偶者と子,配偶者と直系尊属,配偶者と兄弟姉妹であるような場合にはそれぞれ,どのように相続財産を分けるのでしょうか。
民法では,上記のように配偶者と他の相続人がいる場合(この場合の相続人を共同相続人といいます。)に,相続分に応じて被相続人の権利義務を承継すると規定しています(民法899条)。
そして,共同相続人間の相続分についても民法では規定しており,これを法定相続分といいます。
まず,子と配偶者が相続人である場合には,法定相続分はそれぞれ2分の1となります(民法900条1号)。
次に,配偶者と直系尊属(親,祖父母等)が相続人である場合には,法定相続分は,配偶者が3分の2,直系尊属が3分の1となります(900条2号)。
また,配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合には,法定相続分は,配偶者が4分の3,兄弟姉妹が4分の1となります(900条3号)。
このように,共同相続人間ではどのように相続されるのかについては,法定相続分という形で法律上規定されていますが,相続分に関しては,遺言という形で,被相続人の意思に基づき自由に設定することができ,これを指定相続分といいます(民法902条1項)。指定相続分は法定相続分に優先するため,法定相続分と異なった割合で財産を相続させたい場合には,遺言を作成する必要があります。
もっとも,相続分の指定については,遺留分の問題や,遺言をどのように作成するかによって,後々のトラブルが生じる可能性がありますので,ご自身で作成するのではなく,弁護士に作成を依頼するのがよいでしょう。
破産するとどうなるの?家族や職場に知られますか?
皆さんは、「破産」という言葉に対して、どのようなイメージをお持ちでしょうか。破産という言葉に抵抗心を抱かれる方は多いと思いますが、中には、破産することがまるで罪を犯すことであるかの様に罪悪感を抱かれる方や、極度に否定的なイメージを抱いている方もいらっしゃいます。
また、「選挙権がなくなる」「職場に通知が行く」「会社を辞めさせられてしまう」等、誤った先入観を持たれている方も多く、本来であれば破産することがその人にとって最適であるにもかかわらず、誤ったイメージのために破産に踏み出せない人も多くいらっしゃいます。
そこで、今回は、破産したら債務者(破産者)に対してどのような法的効果が生じるのかについてお話しようと思います。
1 破産の事実は第三者に知られますか?
破産すると、身内や職場に破産した事実が知られてしまうと思っている方もいます。
しかし、法的には、破産したからといって、当然に身内や職場に破産の事実についての通知が来ることはありません。
法的には、破産した場合、官報に、破産者の氏名と破産した事実が載りますが、官報以外に破産の事実を第三者に知らせることは義務付けられていません。官報とは、法律の制定・改定等があったときに、その内容を国民に対して知らせるために国が出している新聞のようなもので、一般の方であれば、日常生活の中で官報を目にする機会はほとんどないでしょう。ですので、法的には、第三者が破産の事実を知る機会としては、官報を見る以外にないため、破産の事実を知る人はごく一部の人に限られます。
しかし、事実上破産の事実が広がってしまうということはよくあります。例えば、破産手続を申し立てる際、債権者に対しては、債権を調査するために通知を送るため、債権者に対しては破産予定であることは知られてしまいます。また、破産する場合、保証人にも通知が行きますので、債権者や保証人に対しては、事実上破産の事実が知られてしまうでしょう。
ですので、身内や職場に破産の事実を知られるのではないかと不安に思われているのであれば、身内や職場に対して借入をしていたり、保証人になってもらったりしていない限り、破産の事実を知られることはありませんが、破産の事実を知った債権者から破産の噂が広まってしまうという事実上のリスクはあります。
2 破産した場合に債務者に生じる効果
次に、破産した場合、債務者(破産者)にどのような法的効果が生じるかについてみていきます。
①説明義務
破産する場合、破産者は、債務や資産の状況、破産に至った経緯等について、裁判所や債権者に説明する義務を負います。そのため、裁判所から出頭を求められたら、出頭しなければならず、出頭を拒んだ場合は、強制的に引致される可能性もあります。
②居住地の制限
上記のとおり、破産者は諸々の説明義務を負っていますので、当該説明義務を果たすために、裁判所と連絡がつく状況を確保する必要があります。そのため、債務者は転居の際や旅行・出張等で居住地を離れる場合には、裁判所の許可が必要になります。
なお、居住地の制限は、上記の通り、破産者に逃亡を防止して説明義務を履行させるために課されるものですので、裁判所から、「この家に住みなさい」「この家は家賃が高いから居住を認めない」等といった具体的な居住地を指定されるような制限ではありません。
③重要財産開示義務
破産者は、不動産、現金、有価証券、預貯金等の重要な財産について開示義務を負い、その内容を記載した書面を裁判所に提出する義務があります。この書面は、破産管財人や債権者等の利害関係人に閲覧されるものになり、閲覧の制限はできません。
なお、①の説明義務及び③の重要財産開示義務に違反した場合は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金の対象となり、免責不許可事由にも該当します。
④郵便物の管理
破産手続に破産管財人が選任されている場合、破産手続きが終わるまでの間、破産者に対して届く郵便物については、管財人が郵便物を管理し、中を見ることができるとされています。これは、郵便物の中から、新たに破産者の財産を発見することもありますし、財産が隠匿されていないかを確認する契機となるため、管財人が郵便物を管理することになっています。
⑤資格の制限
破産した場合、職種によっては資格制限を受ける場合もあります。例えば、弁護士や税理士、公認会計士等の仕業や、宅地建物取引士、貸金業者、生命保険募集人等、各種法令によって制限される資格が規定されています。また、後見人等、他人の財産を管理する役職については欠格事由となります。
なお、資格については、永久的に制限されるわけではなく、免責許可の決定が確定すれば資格制限は外れ、従前通り業務に従事できます。
⑥信用情報の毀損、ブラックリストへの掲載等
破産する場合、債権者に対して通知を送るため、事実上ブラックリストに載ることになります。そのため、破産後一定期間はローンやクレジットが組めなかったり、借入れを拒否される等の支障が生じ得ます。なお、ブラックリストへの掲載は、法的効果ではなく、事実上行われていることですので、どのくらいの期間ブラックリストに掲載されるのかについての明確な基準はありません。5~10年と言われることもありますが、破産後もすぐにカードが作れたというケースもあり、取り扱いはケースによって異なるようです。
なお、信用情報の毀損は、必ずしも破産手続特有のものではなく、債務整理手続として弁護士が債権者に対して受任通知を送付する場合でも生じるものといえます。ですので、破産せざるを得ない状況の方々は、すでに滞納が多数発生しており、すでに信用情報が毀損されている場合が通常です。だとすれば、破産してもしなくても、信用情報は毀損されている状況ですので、これを恐れて破産を躊躇するのはあまり意味がないでしょう。
3 まとめ
以上のように、破産した場合は、債務者(破産者)に対して諸々の義務や法的効果が生じますが、実際の生活では、クレジットカードが作れなかったり、一定の職業の場合は資格が制限される等の支障が生じる程度で、選挙権が奪われたり、会社をクビになったり、近所の人に知られたり等の法的効果はありません。
破産という言葉の響きに、極度のマイナスイメージを抱いて破産を躊躇される方が多いですが、破産は、経済的更生を確保するために法的に認められた権利ですので、有効に活用すべきです。まずは、弁護士と相談をして、ご自身が破産した場合に日常生活にどのような支障が発生するのか、詳しく検討してみましょう。
多重債務問題にお悩みの方や、破産手続きに不安を抱かれている方は、早いうちに一度弁護士にご相談されることをお勧めします。
代襲相続について③
代襲相続について③
<ご相談者さまからのご質問>
先日,私の母方の祖父がなくなりました(祖母は既に亡くなっており,祖父には兄が1人おります。)。母は祖父が亡くなる前に既に亡くなっていたのですが,祖父の相続手続きのために,戸籍を取り寄せていたら,実は,母と祖父は血がつながっておらず,養子縁組を行っていたことが分かりました。母と祖父の関係について知らなかったので大変ショックなのですが,この場合,私は,代襲相続により祖父の相続人になるのでしょうか。
<弁護士からの回答>
相続の手続きを行うと,被相続人の戸籍をたどっていく必要があり,その中で,ご相談者様の事例のようにそれまで知らなかった身分関係が明らかになることは少なくありません。特に今回のように養子縁組にまつわる問題は多くあり,これまでお話ししてきた,代襲相続との関係で複雑な問題があるため,ご相談事例に即してご説明いたします。
ご相談者様の事例では,ご相談者様のお母さまは祖父の養子であり,「被相続人の子」にあたり,そして,お母さまは,祖父が亡くなる前に死亡しているため,「相続の開始以前に死亡」していることという代襲相続の要件も満たしています。
もっとも,代襲相続に関する規定では,「被相続人の直系卑属でない」場合には,代襲者にはなれず,代襲相続は認められないとされています(民法887条2項但書)。そこで,養子の子であるご相談者様が「被相続人の直系卑属」に該当するか否かが問題となります。
民法では,養子と養親については,養子縁組の日から同一の親族関係を生ずるとされており(民法727条),養子は,養子縁組を行った時点で,実子と異ならない身分関係を有することになります。したがって,養子縁組後に生まれた養子の子については,実子の子と異なりませんので,縁組後に生まれた子は,養親の「直系卑属」に該当することになります。
ご相談者様の事例でも,お母さまと祖父が養子縁組をした後に,ご相談者様が生まれた場合には,被相続人の直系卑属に該当するため,代襲相続により,祖父の相続人は,ご相談者様お一人となります。
これに対し,養子縁組の前に生まれた子(養子の連れ子)の場合には,親が養子になったことにより,自動的に連れ子が養親と身分関係を有することにはなりません。したがって,ご相談者様の事例で,お母さまと祖父が養子縁組を行う前に,ご相談者様が生まれていた場合には,ご相談者様は祖父(被相続人)の「直系卑属」には該当しないため,代襲相続は認められません(この場合,祖父の相続人は,祖父の兄1名となります。)。
被相続人において養子の連れ子にも相続をさせたい場合には,養子の連れ子との間で直接養子縁組を行う必要があります。
このように,養子縁組を行う場合には,後の親族関係にも大きく影響を及ぼすことになりますので,一度弁護士にご相談いただくのがよいと思います。