弁護士コラム

2018.02.16

交通事故に遭ってしまったら①

交通事故に遭ってしまったら①

<ご相談者様からのご質問>

 先程,交差点で交通事故に遭いました。私が交差点を直進しようとしたら,対向車線から相手の車がいきなり右折してきたのです。幸いケガはなさそうです。相手の方からは自分が悪いので,車の修理費は全て持つので警察は呼ばないでくれと言われています。きちんと対応してくれるのであればわざわざ警察まで呼ばなくてもいいのではないかと思ってしまうのですが。

<弁護士からの回答>

 ご相談者さまの事例のように,相手方から警察を呼ばないで欲しいと言われることは少なくありません。相手の言葉を信じて,警察を呼ばないと後々で面倒なことに巻き込まれてしまう可能性は非常に高いです。今回から数回にかけて,交通事故が発生直後にしなければならないこと,しておいた方が良いことについてお話させていただきます。

 事故が発生したら,すぐに,ご自身や同乗者等にお怪我をなされている方などがいるかを確認し,けが人がいる場合には早期に救出することが必要です。このとき,ご相談者さまのように,目立った外傷がない場合であっても,あとから症状が出る場合もあるため,大きなケガをしていなように見えても,痛みがある場合などには念のため救急車を呼んでおいた方が良いでしょう。
 ケガの状況の確認が済み次第,必ず警察へ連絡を入れてください。これは事故の内容がケガをしておらず,車の損傷のみである物損事故の場合であっても必ず連絡することが必要です。その理由としては,交通事故にかかる車両等の運転手には,事故が発生した際に警察に報告する義務を有している(道路交通法72条1項)だけではなく,警察に事故の届出をしなければ,後日,相手方の保険会社や,ご自身の保険会社に保険金を請求する際に,そもそも交通事故が発生したことの証明をすることができなくなってしまいます。警察に届出をすることで,物損事故の場合であっても,交通事故が発生したことの証明書(交通事故証明書といいます。)が作成されるので,どのような事故であっても必ず警察に連絡してください。

 ご相談者様の事例のように,相手方から職場でのペナルティや,事故による免許の違反点数がついてしまうことを避けるために警察に連絡するのをやめて欲しいと言われることはまれにですが存在します(特に事故の加害者から言われることがあります。)。しかし,相手からいくら,治療費や修理費を全額払う旨言われていたとしても必ずその申出は断るようにしてください。上記のように,警察に届け出なかったことにより,後々保険金の請求をすることができない若しくは困難になってしまったり,相手の所在が分からなくなり,被害者であるにもかかわらず最終的に,損害を賠償してもらえなくなる可能性が十分に考えられます(事故証明書を取得しておけば,相手方の住所地や自賠責の保険会社などの情報が判明するため,所在不明というような状況は防ぐことができます。)。
したがって,そのような申出があった場合には,自動車を運転している以上,交通事故が起きた際には,法律上警察を呼ぶ義務があることをきちんと理解してもらい,必ず警察に連絡するようにしてください。

2018.02.15

交通事故に関する問題について

交通事故に関する問題について

  近年,技術の発達に伴い,衝突回避システム等を搭載した自動車が普及される時代になってきました。こうした技術に確信に伴い,近年交通事故の件数は減少しています。しかしながら,日本では1年間に約50万件以上の交通事故が発生しています(平均にすると1日約1600件,1分に1件以上発生していることになります。)。

 交通事故に関しては,運転中のほんの少しの気のゆるみで取り返しのつかない事態に発展してしまう可能性があるだけでなく,自分は問題ない運転をしていたにも関わらず,被害者として事故に巻き込まれてしまう可能性も否定できません。

 交通事故はあらかじめ起きることが分かっているものではなく,突然発生します。いきなり交通事故にあってしまいどうすればいいかわからないまま,現場での対応,病院への通院,相手方保険会社とのやり取り等(治療期間のやりとり,過失割合のやり取り,代車が認められるのかなど・・・・交通事故の被害に遭われた方でここが一番大変なところだと思います。)に負われてしまいます。
上記の各場面できちんと対応しなければ,事故により被った被害をきちんと回復することができなくなってしまう可能性も否定できません。
軽微な物損事故であれば,金額はそこまで大きくないので大きな問題にはならないかもしれませんが,重大な事故で,重篤な後遺障害が残ってしまった場合には,ケガを抱えたままで生活をしていかなければきちんとした賠償を得ることができなければ,今後のご自身の生活だけでなくご家族の生活もままならない可能性も否定できません。

 相手方保険会社から提示される賠償金額は,ご本人のみで交渉にあたっている場合には,残念ながら極端に低額である場合がほとんどであり,相手からの書面にサインをしてしまうと,やっぱりその金額では納得できないと思っても後から主張することは原則としてできないので,それを知らずにサインをしてしまうときちんとした金額での賠償を受けることができません。

今回のコラムでは,これまで,多くの交通事故案件に携わってきた弁護士として,交通事故にまつわる問題やよくご質問いただく事項等をご相談者さまからのご質問という形で紹介し,弁護士としてご質問に回答するという形でご説明させていただきます。もし,事故に遭われてしまった場合でも,このコラムをお読みいただき,これから何をすべきなのかということを把握していただけることで,事故に遭われた不安を少しでも解消できければと考えております。

2018.02.01

破産手続の管財事件と同時廃止事件って何ですか?

破産事件は,申立後の手続きの流れとして,大きく分けると管財人が選任される管財事件と,管財人が選任されないまま手続きが終了する同時廃止事件の2種類があります。

そこで,今回は,この2種類の手続きの違いと,どちらの手続きになるかについての判断基準について,お話しをさせていただきます。

1 管財事件と同時廃止事件とは

⑴管財事件

管財事件とは,破産手続開始決定と同時に,裁判所が管財人を選任し,管財人が破産者の保有資産を管理し,換価手続等を進めていく手続です。
個人破産の場合,破産手続は免責許可を得るために行われることが多いため,「破産手続=免責のための手続」として認識されているかもしれませんが,本来,破産手続とは,破産者の財産を換価して債権者に公平に分配していくことを主眼とする手続ですので,負債額の調査,保有資産の管理,換価,配当がメインであり,当該手続を担う職位として管財人が選任されます。管財人は,公平中立に手続を進める義務があるため,通常は,裁判所が事案の内容や難易度に応じて弁護士を選任します。
なお,破産法上は,管財事件を原則形態としており,管財事件になった場合は,管財人の報酬も発生します。そのため,破産手続申立時に裁判所に納める費用(予納金)は,その分高くなります。(予納金の金額は,事案の内容や各裁判所によっても異なりますが,最低でも20万は必要になるところが多いようです。なお,破産事件を申立てにかかる必要費用がどのくらいなのかについては,別記事で改めてお話しします。)

⑵同時廃止事件

 同時廃止事件は,「同廃(ドウハイ)事件」として呼ばれることも多いですが,破産手続開始決定と同時に,破産手続を終了(廃止)するという取り扱いをする手続です。
破産手続は,前述の通り,破産者の財産を換価して,債権者に分配する手続を予定しているため,分配すべき財産がない場合は,破産手続を開始しても意味がありません。そのため,手続開始と同時に手続を廃止するという方法を取ります。(なお,手続を開始しても意味がないなら,破産開始決定を出す必要がないのではないかと疑問を思われる方もいるかもしれませんが,破産手続開始決定がなされなければ,免責許可が下りないため,破産手続開始決定を出す意味はあります。)
 同時廃止事件になると,管財人は選任されないため,手続は比較的早く終わります。

2 管財事件と同時廃止事件の判断基準

 それでは,どのような事件が管財事件となり,どのような事件が同時廃止事件となるのでしょうか。この点については,破産法上は明確な基準はなく,各裁判所の運用も異なっているようです。以下では,某裁判所の判断基準をご紹介致します。

<某裁判所が同時廃止事件として処理する運用基準>

⑴原則

某裁判所では,法人ではなく個人破産の申立てであり,かつ破産手続開始決定時に債務者が保有する資産の総額が50万円に満たない場合は,原則として同時廃止手続で処理されています。

⑵例外

しかし,⑴の原則に該当する場合でも,以下の①~⑥類型に該当する場合は,管財人による調査が必要となるため,同時廃止事件ではなく,管財事件として処理されています。

ア 類型①(法人代表者型)
  債務者が法人の代表者に就任しているが,法人については破産申立てをしておらず,債務者個人のみ破産申立てをしている場合
 (法人と個人の財産混同,隠匿の可能性もあるため調査が必要です。)

イ 類型②(個人事業主型)
  債務者が現に又は過去6か月以内に個人事業を営んでいる場合
 (アと同様,事業と個人の財産の混同,隠匿の可能性もあるため調査が必要です。)

ウ 類型③(資産調査型)
  保証債務や住宅ローンを除いた債務が3000万円以上ある場合
 (負債額が極端に大きいため,借入の際に何らかの資産が担保となっている可能性があり,調査が必要と考えられます。ただ,資産がないことが明らかである場合は,調査不要ですので,管財事件ではなく同時廃止事件になります。)

エ 類型④(否認対象行為調査型)
  偏頗弁済(特定の債権者のみに弁済して債権者の公平を害している場合)がされており,当該行為を否認(取り消し)して財産を取り戻す必要がある場合や,否認対象行為を調査する必要がある場合
 (財産の取戻し請求等は管財人が行うため,管財事件となります。)

オ 類型⑤(免責調査型)
  債務者に免責不許可事由が存在する可能性があり,事実の調査が必要な場合
(事実の調査が必要である以上,管財事件となります。なお,免責不許可が明らかな場合は調査不要のため,同時廃止事件として処理されます。)

カ 類型⑥(財団形成型)
  資産の中に不動産があり,換価の余地がある場合や,過払金返還請求訴訟が係属中であり,勝訴の見込みがある場合等,換価対象となる財産が見込まれる場合
 (換価業務は管財人が行うため,管財事件となります。)

3 まとめ

  以上の通り,同時廃止事件と管財事件では,どちらの手続になるかによって,申立時に裁判所に納める費用(予納金)の金額が大きく変わってくるため,その見極めは重要になります。つまり,どちらの手続になるかを明確に見極めなくては,申立時に必要な費用の額が異なるので,破産のために貯めなくてはならない金額が変わって来ます。しかし,その見極めは困難なことも多く,また振分基準に関しては,各裁判所の運用に委ねられていることが多いため,まずは,破産事件を多く取り扱っている経験豊富な弁護士にご相談されることをお勧めします。

2018.02.01

法定相続分について①

法定相続分について①

<ご相談者様からのご質問>

 自分が亡くなったとき誰にどのように財産が相続されることになるのかが気になっています。法律ではどのような割合で相続財産が分けられることになっているのですか。また,法律で決まっている割合と異なる割合で相続させることはできないのですか。

<弁護士からの回答>

  これまでは,相続において誰が相続人となるかについてご説明させていただきましたが,今回から数回にかけて,相続人に対しどのように財産が分けられるのかという法定相続分についてご説明させていただきます。

  以前にもご説明しましたが,法定相続人は,配偶者,第1順位の相続人である子,第2順位の直系尊属(親,祖父母等),第3順位の兄弟姉妹となります。したがって,相続人が配偶者しかいない場合には,配偶者が被相続人の相続財産を全て相続します。配偶者がいない場合には第1順位の子が,子もいない場合には,第2順位の直系尊属が,子も直系尊属もいない場合には,第3順位の兄弟姉妹が被相続人の財産を全て相続することになります(子,直系尊属,兄弟姉妹がそれぞれ複数名いる場合については別の機会にご説明させていただきます)。

では,相続人が,配偶者と子,配偶者と直系尊属,配偶者と兄弟姉妹であるような場合にはそれぞれ,どのように相続財産を分けるのでしょうか。
民法では,上記のように配偶者と他の相続人がいる場合(この場合の相続人を共同相続人といいます。)に,相続分に応じて被相続人の権利義務を承継すると規定しています(民法899条)。
そして,共同相続人間の相続分についても民法では規定しており,これを法定相続分といいます。

まず,子と配偶者が相続人である場合には,法定相続分はそれぞれ2分の1となります(民法900条1号)。

  次に,配偶者と直系尊属(親,祖父母等)が相続人である場合には,法定相続分は,配偶者が3分の2,直系尊属が3分の1となります(900条2号)。
  また,配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合には,法定相続分は,配偶者が4分の3,兄弟姉妹が4分の1となります(900条3号)。

  このように,共同相続人間ではどのように相続されるのかについては,法定相続分という形で法律上規定されていますが,相続分に関しては,遺言という形で,被相続人の意思に基づき自由に設定することができ,これを指定相続分といいます(民法902条1項)。指定相続分は法定相続分に優先するため,法定相続分と異なった割合で財産を相続させたい場合には,遺言を作成する必要があります。

もっとも,相続分の指定については,遺留分の問題や,遺言をどのように作成するかによって,後々のトラブルが生じる可能性がありますので,ご自身で作成するのではなく,弁護士に作成を依頼するのがよいでしょう。

2018.01.31

破産するとどうなるの?家族や職場に知られますか?

 皆さんは、「破産」という言葉に対して、どのようなイメージをお持ちでしょうか。破産という言葉に抵抗心を抱かれる方は多いと思いますが、中には、破産することがまるで罪を犯すことであるかの様に罪悪感を抱かれる方や、極度に否定的なイメージを抱いている方もいらっしゃいます。
 また、「選挙権がなくなる」「職場に通知が行く」「会社を辞めさせられてしまう」等、誤った先入観を持たれている方も多く、本来であれば破産することがその人にとって最適であるにもかかわらず、誤ったイメージのために破産に踏み出せない人も多くいらっしゃいます。
 そこで、今回は、破産したら債務者(破産者)に対してどのような法的効果が生じるのかについてお話しようと思います。

1 破産の事実は第三者に知られますか?

 破産すると、身内や職場に破産した事実が知られてしまうと思っている方もいます。
しかし、法的には、破産したからといって、当然に身内や職場に破産の事実についての通知が来ることはありません。
 法的には、破産した場合、官報に、破産者の氏名と破産した事実が載りますが、官報以外に破産の事実を第三者に知らせることは義務付けられていません。官報とは、法律の制定・改定等があったときに、その内容を国民に対して知らせるために国が出している新聞のようなもので、一般の方であれば、日常生活の中で官報を目にする機会はほとんどないでしょう。ですので、法的には、第三者が破産の事実を知る機会としては、官報を見る以外にないため、破産の事実を知る人はごく一部の人に限られます。
 しかし、事実上破産の事実が広がってしまうということはよくあります。例えば、破産手続を申し立てる際、債権者に対しては、債権を調査するために通知を送るため、債権者に対しては破産予定であることは知られてしまいます。また、破産する場合、保証人にも通知が行きますので、債権者や保証人に対しては、事実上破産の事実が知られてしまうでしょう。
 ですので、身内や職場に破産の事実を知られるのではないかと不安に思われているのであれば、身内や職場に対して借入をしていたり、保証人になってもらったりしていない限り、破産の事実を知られることはありませんが、破産の事実を知った債権者から破産の噂が広まってしまうという事実上のリスクはあります。

2 破産した場合に債務者に生じる効果

 次に、破産した場合、債務者(破産者)にどのような法的効果が生じるかについてみていきます。

①説明義務

 破産する場合、破産者は、債務や資産の状況、破産に至った経緯等について、裁判所や債権者に説明する義務を負います。そのため、裁判所から出頭を求められたら、出頭しなければならず、出頭を拒んだ場合は、強制的に引致される可能性もあります。

②居住地の制限

 上記のとおり、破産者は諸々の説明義務を負っていますので、当該説明義務を果たすために、裁判所と連絡がつく状況を確保する必要があります。そのため、債務者は転居の際や旅行・出張等で居住地を離れる場合には、裁判所の許可が必要になります。
 なお、居住地の制限は、上記の通り、破産者に逃亡を防止して説明義務を履行させるために課されるものですので、裁判所から、「この家に住みなさい」「この家は家賃が高いから居住を認めない」等といった具体的な居住地を指定されるような制限ではありません。

③重要財産開示義務

 破産者は、不動産、現金、有価証券、預貯金等の重要な財産について開示義務を負い、その内容を記載した書面を裁判所に提出する義務があります。この書面は、破産管財人や債権者等の利害関係人に閲覧されるものになり、閲覧の制限はできません。
 なお、①の説明義務及び③の重要財産開示義務に違反した場合は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金の対象となり、免責不許可事由にも該当します。

④郵便物の管理

 破産手続に破産管財人が選任されている場合、破産手続きが終わるまでの間、破産者に対して届く郵便物については、管財人が郵便物を管理し、中を見ることができるとされています。これは、郵便物の中から、新たに破産者の財産を発見することもありますし、財産が隠匿されていないかを確認する契機となるため、管財人が郵便物を管理することになっています。

⑤資格の制限

 破産した場合、職種によっては資格制限を受ける場合もあります。例えば、弁護士や税理士、公認会計士等の仕業や、宅地建物取引士、貸金業者、生命保険募集人等、各種法令によって制限される資格が規定されています。また、後見人等、他人の財産を管理する役職については欠格事由となります。
 なお、資格については、永久的に制限されるわけではなく、免責許可の決定が確定すれば資格制限は外れ、従前通り業務に従事できます。

⑥信用情報の毀損、ブラックリストへの掲載等

 破産する場合、債権者に対して通知を送るため、事実上ブラックリストに載ることになります。そのため、破産後一定期間はローンやクレジットが組めなかったり、借入れを拒否される等の支障が生じ得ます。なお、ブラックリストへの掲載は、法的効果ではなく、事実上行われていることですので、どのくらいの期間ブラックリストに掲載されるのかについての明確な基準はありません。5~10年と言われることもありますが、破産後もすぐにカードが作れたというケースもあり、取り扱いはケースによって異なるようです。
 なお、信用情報の毀損は、必ずしも破産手続特有のものではなく、債務整理手続として弁護士が債権者に対して受任通知を送付する場合でも生じるものといえます。ですので、破産せざるを得ない状況の方々は、すでに滞納が多数発生しており、すでに信用情報が毀損されている場合が通常です。だとすれば、破産してもしなくても、信用情報は毀損されている状況ですので、これを恐れて破産を躊躇するのはあまり意味がないでしょう。

3 まとめ

 以上のように、破産した場合は、債務者(破産者)に対して諸々の義務や法的効果が生じますが、実際の生活では、クレジットカードが作れなかったり、一定の職業の場合は資格が制限される等の支障が生じる程度で、選挙権が奪われたり、会社をクビになったり、近所の人に知られたり等の法的効果はありません。
 破産という言葉の響きに、極度のマイナスイメージを抱いて破産を躊躇される方が多いですが、破産は、経済的更生を確保するために法的に認められた権利ですので、有効に活用すべきです。まずは、弁護士と相談をして、ご自身が破産した場合に日常生活にどのような支障が発生するのか、詳しく検討してみましょう。
 多重債務問題にお悩みの方や、破産手続きに不安を抱かれている方は、早いうちに一度弁護士にご相談されることをお勧めします。

2018.01.31

代襲相続について③

代襲相続について③

<ご相談者さまからのご質問>

   先日,私の母方の祖父がなくなりました(祖母は既に亡くなっており,祖父には兄が1人おります。)。母は祖父が亡くなる前に既に亡くなっていたのですが,祖父の相続手続きのために,戸籍を取り寄せていたら,実は,母と祖父は血がつながっておらず,養子縁組を行っていたことが分かりました。母と祖父の関係について知らなかったので大変ショックなのですが,この場合,私は,代襲相続により祖父の相続人になるのでしょうか。

<弁護士からの回答>

  相続の手続きを行うと,被相続人の戸籍をたどっていく必要があり,その中で,ご相談者様の事例のようにそれまで知らなかった身分関係が明らかになることは少なくありません。特に今回のように養子縁組にまつわる問題は多くあり,これまでお話ししてきた,代襲相続との関係で複雑な問題があるため,ご相談事例に即してご説明いたします。

  ご相談者様の事例では,ご相談者様のお母さまは祖父の養子であり,「被相続人の子」にあたり,そして,お母さまは,祖父が亡くなる前に死亡しているため,「相続の開始以前に死亡」していることという代襲相続の要件も満たしています。

  もっとも,代襲相続に関する規定では,「被相続人の直系卑属でない」場合には,代襲者にはなれず,代襲相続は認められないとされています(民法887条2項但書)。そこで,養子の子であるご相談者様が「被相続人の直系卑属」に該当するか否かが問題となります。

  民法では,養子と養親については,養子縁組の日から同一の親族関係を生ずるとされており(民法727条),養子は,養子縁組を行った時点で,実子と異ならない身分関係を有することになります。したがって,養子縁組後に生まれた養子の子については,実子の子と異なりませんので,縁組後に生まれた子は,養親の「直系卑属」に該当することになります。

  ご相談者様の事例でも,お母さまと祖父が養子縁組をした後に,ご相談者様が生まれた場合には,被相続人の直系卑属に該当するため,代襲相続により,祖父の相続人は,ご相談者様お一人となります。

  これに対し,養子縁組の前に生まれた子(養子の連れ子)の場合には,親が養子になったことにより,自動的に連れ子が養親と身分関係を有することにはなりません。したがって,ご相談者様の事例で,お母さまと祖父が養子縁組を行う前に,ご相談者様が生まれていた場合には,ご相談者様は祖父(被相続人)の「直系卑属」には該当しないため,代襲相続は認められません(この場合,祖父の相続人は,祖父の兄1名となります。)。
  被相続人において養子の連れ子にも相続をさせたい場合には,養子の連れ子との間で直接養子縁組を行う必要があります。

  このように,養子縁組を行う場合には,後の親族関係にも大きく影響を及ぼすことになりますので,一度弁護士にご相談いただくのがよいと思います。

2018.01.30

届出をした破産債権に異議が出された!争いのある破産債権はどうなるの?

【債権者Aさんの相談】
先日,お金を貸していた友人が破産したため,裁判所に破産債権の届出を行いました。しかし,届出をした債権について,管財人から「証拠がなく,債務者本人も認めていない」という理由で異議が出されてしまいました。友人だったので,契約書等は作成しておらず,証拠はありません。けれども貸したのは事実です。この場合,貸付金について配当は受けられないのでしょうか。

債権者が破産債権の届出行った場合,債権の金額や,優先順位等について,管財人や他の債権者が異議を出すことがあります。今回は,届出をした破産債権に異議が述べられた場合,当該債権を有する債権者としてはどのように対応すればいいかについて,お話ししたいと思います。

1 異議の効果

⑴ 異議がない場合

届出債権について管財人や他の債権者から特段異議が述べられなかった場合,その債権は確定し,確定判決と同一の効力を持ちます。債権が確定すると,債権額に応じて割合的に配当を受けることになります。

⑵ 異議がある場合

異議が出されても,証拠を補充することによって債権の存在を証明すれば,異議が撤回される場合もありますが,異議が撤回されなければ,破産債権の内容が確定されず,配当は受けられません。
そこで,異議が出された破産債権を有する債権者としては,配当を受けるために債権の存在を主張立証して確定する必要があります。債権の確定手続は,異議を出された破産債権について判決等があるか否かによって債権者が行うべき手続の負担は全く異なってきます。判決等がある場合は,その債権の存在は一応確からしいと言えるため,債権者が主導して確定手続をする必要はありませんが,判決等がない場合は,債権者が主導して後述の確定手続(査定申立てや異議の訴え)を提起することになります。

 

2 査定の申立て(判決等が一切ない場合)

⑴ 査定の申立て

 争われている債権について,判決等が一切ない場合,異議を出された債権者は,債権を確定させるために,異議を述べた債権者や破産管財人を相手方として,裁判所に債権査定の申立てを行わなければなりません。なお,異議を述べる者が複数いる場合は,その全員を相手方にする必要があります。
査定の申立ては,届出債権の調査期間の末日又は調査期日から1か月以内に申立てをする必要があります。また,手続の中では審尋が予定されており,裁判所は,債権者から意見を聴取した上で,債権の存否や額等について決定する裁判を行います。
この結果について不服がある場合は,後述の査定異議の訴えを提起して争うことになります。なお,異議の訴えが提起されなければ,債権は確定します。

⑵ 査定異議の訴え

査定申立ての決定に対して異議がある場合は,異議の訴えを裁判所に提起することになります。これは,通常訴訟ですので,他の裁判と同様,債権の存否等について,証拠などを提出して主張・立証することになります。

 

3 異議が出された届出債権について既に訴訟が係属している場合

 管財人等から異議が出された破産債権について,判決等がない場合には,査定の申立てを行うのが原則です。しかし,判決は未だ出ていないものの,既に訴訟で債権の存否を争っている最中の場合には,その時点で改めて査定の申立てをするよりも,当該訴訟で提出された訴訟資料を流用した方が審理もスムーズですので,その場合は,査定の申立てではなく,係属中の訴訟を受継する形で債権の確定手続を行います。
 例を挙げると,債権者が債務者に対して貸金返還請求訴訟を提起して,債権の存否を争っていたところ,債務者に破産手続開始決定が出ると,当該貸金訴訟は中断します。そして,債権者は,破産債権の額を管財人に届出をしますが,管財人が異議を述べた場合,債権者は,査定の申立てをする必要はなく,中断していた貸金訴訟を受継して,管財人に対し,破産債権の確認訴訟を提起することになります。

4 判決等がある場合

異議が出された債権について,既に「判決等」がある場合は,当該債権を有する者が主導して手続をする必要はなく,異議を出した側(管財人や他の破産債権者)が,当該債権を有する者に対して,裁判を提起して債権の確定手続を行うことになります。
ここで,「判決等」と記載しましたが,判決は未確定の場合も含みます。また,判決だけでなく,執行力ある債務名義も含まれます。執行力ある債務名義とは,執行文の付与された確定判決,和解調書,調停調書や執行認諾文言付の公正証書等です。異議を出された届出債権が,このような執行力ある債務名義や未確定判決で認められたものである場合は,その債権の存在は一応確からしいため,それを争う側が主導して裁判を提訴する必要があります。なお,異議を出した側から結局裁判の提起がなされなければ,異議がないものとみなされ,債権はそのまま確定します。
提訴する裁判については,「破産者がすることのできる訴訟手続」(破産法129条)に限られます。「破産者がすることのできる訴訟手続」とは,未確定判決がある場合は上訴の手続になります。他方で,確定判決がある場合は,争い方によります。例えば,確定判決後,既に債権が弁済されており,存在しないという理由で争う場合には,「請求異議の訴え」を提起することになりますし,確定判決の手続そのものに瑕疵があると争うなら,「再審の訴え」を提起することになるでしょう。

5 まとめ

以上の通り,届出債権に異議が出された場合,配当を受けるためには債権の存在を証明し,債権の存否を確定しなければなりません。破産手続という特別な手続の中で行われますが,結局は,証拠を集めて債権の存在を主張立証する作業となり,通常の民事訴訟と同じような作業が必要になりますので,ご自身の債権をしっかりと認めてもらうためには,弁護士にご相談されることをお勧めします。但し,破産手続である以上,配当対象財産は限られており,苦労して認めてもらった債権であっても,債権額や債権の優先順位,配当額によっては,確定手続にかける労力や費用が見合わない可能性もあります。そこで,異議を出された場合は,そもそも確定手続に進んだ方が得なのか損なのか等,そのあたりを見極めることがまず重要となりますので,早い段階で弁護士にご相談されることをお勧めします。

2018.01.30

代襲相続について②

代襲相続について②

<ご相談者さまからのご質問>

  先日,夫が自分の実家に帰省中に,交通事故に遭いました。夫のお父さんも同乗しており,2人とも亡くなってしまいました。夫のお父さんには妻(夫の母)がおり,子供は夫以外に,夫の姉がおります。また,夫と私の間には子供が1人いるのですが,この場合,夫の父の財産に関してはどのように相続されるのでしょうか。

<弁護士からの回答>

  今回の事例においてはご相談者様のご主人とご主人のお父様がどのような順序や方法で相続が発生したかによって誰が相続人となるかが大きく異なってきます。本日は,複数の人が同時に死亡した際の取り扱いと,その際に代襲相続が認められるのかを中心にご説明させていただきます。

 民法上相続の開始時期は,被相続人が死亡した時点とされています(民法882条)。したがって,今回の事例の場合にもご主人とご主人のお父様がいつ死亡したかによって相続人の範囲も異なってきます。
 まず,事故により,お父様が現場で即死し,ご主人はその後,搬送された病院で死亡した場合,お父様が死亡した時点で,相続が発生するため,相続人はお父様の妻,子供であるご相談者様のご主人とその姉になります。そして,ご主人が亡くなったことにより,ご主人が有していた法定相続分は,妻であるご相談者様と,お子さんに相続されることになります。したがって,この場合,お父様の妻,ご主人の姉,ご相談者様,お子様の4名が相続人となり,ご主人のお父様の遺産に関しては,この4名で遺産分割協議を行うことになります。

 次に,順番が逆になり,ご相談者様のご主人が現場で即死の状態となり,その後お父様が病院で亡くなられた場合には,まず,ご主人の相続が発生し,その後,お父様の相続が発生することになります。そして,お父様の相続発生時には,ご主人は既に亡くなっていることから,相続人は,お父様の妻,ご主人の姉,そして,代襲相続によりご主人の(ご相談者様の)お子さんの3名が相続人となり,ご相談者様は相続人とはなりません。

 では,事例を変えて,ご主人とお父様が事故により即死の状態であり,厳密にどちらが先に死亡したかが分からないような場合にはどのように扱われるのでしょうか。
 民法では,数人の者が死亡した場合において,そのうちの1人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは,これらの者は,同時に死亡したものと推定するとされています(民法32条の2,同時死亡の推定といいます。)。そして,同時に死亡したとされる以上,相続開始の時点で死亡しているため,お父様とご主人との間では相続は発生しないことになります。

 また,代襲相続の要件の1つとして,相続の開始「以前」に死亡していることが必要であり,この「以前」には,同時に死亡した場合も含まれるため,この場合にも代襲相続が発生します。
したがって,結論としては,先に,ご主人が亡くなっている場合と同様に,お父様の相続に関する相続人は,お父様の妻,ご主人の姉,ご主人を代襲相続したお子さんの3名となります。
このように,複数のご親族がお亡くなりになられた場合には,相続人が誰になるのかは複雑な問題ですので,早めに弁護士にご相談ください。

2018.01.29

離婚した夫が破産しました。財産分与や慰謝料、養育費の支払いはどうなるのでしょうか。

【Aさんのご相談】

夫が浮気をしたため、夫とは離婚することにしました。離婚協議の結果、養育費として月3万円、財産分与として400万円、不貞の慰謝料として100万円を支払ってもらうことで合意し、そのうち財産分与については300万円を離婚時、残りの分と慰謝料を毎月合計10万ずつ(財産分与5万、慰謝料5万)分割で払ってもらうことになりました。
しかし、離婚後まもなく夫は破産し、先日、免責決定が出ました。免責決定を受けても、養育費や慰謝料、財産分与については支払いを続けてもらえるのでしょうか。また、既に財産分与としてもらった300万円については、破産直前に譲り受けた財産として否認されてしまうのでしょうか。

離婚に伴い、養育費、財産分与、慰謝料等について取り決めをした後に、支払義務者が破産してしまうといったケースはよく見られます。そこで、今回は、離婚に伴う各種請求権が、破産手続上どのように扱われるかについてご説明したいと思います。

 

1 破産により免責される債権とは?

 破産手続では、免責という制度があり、免責決定が出ると破産手続開始前の原因に基づいて発生した請求権(これを「破産債権」と言います。)については、原則として免除されることになります。
 しかし、免責制度は、債権者に対して及ぼす不利益も大きく、また、破産によって免責を認めることが不合理な結果を招くものもありますので、破産法は一定の債権については、免責の対象から除外する扱いをしており、これらの債権を「非免責債権」と言います。なお、非免責債権の種類は個別に破産法に規定されています。

2 Aさんの離婚に伴う各種請求権は非免責債権にあたる?
まず、前提としてAさんは、破産前に離婚が成立し、離婚条件が合意されているため、養育費、財産分与、慰謝料等の各種請求権は破産債権に該当します。
それでは、非免責債権にあたるのか、以下個別に検討していきます。

①養育費

 養育費は、「子の監護に要する費用」(民法766条1条)として、非免責債権として規定されています(破産法253条1項4号ハ)。
 よって、破産手続に影響せず支払いを受けることができます。

②財産分与

 財産分与は、夫婦共有財産の清算という意味合いでなされることが通常ですが、場合によっては今後の生活保障という扶養的趣旨、さらには慰謝料的意味合いが含まれていることもあり、財産分与のなされた趣旨に応じて実質的に判断する必要があります。
 このうち、通常の財産分与の趣旨である清算的財産分与の場合や、慰謝料の意味合いで行われた財産分与に関しては、非免責債権には当たりませんので、免責されることになります。
 これに対し、扶養的財産分与に関しては、非免責債権に該当する可能性があります。
 今回のAさんの場合、慰謝料については別途合意しているため、Aさんの財産分与請求権は、慰謝料的意味合いはないと言えるでしょうし、扶養的財産分与を基礎づける事情も見当たらないので、非免責債権には該当しないと考えられます。
 よって、財産分与請求権として残っている分割金部分については免責されてしまいます。

③不貞による慰謝料請求権

 不貞による慰謝料請求権は、不法行為に基づく損害賠償請求権に該当します。不法行為に基づく損害賠償請求権が非免責債権に該当するかについては、破産法では、「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」については非免責債権として規定されています。
 そこで、不貞行為が「悪意で加えた不法行為」と言えるかが問題になります。
 これについての最高裁の判例はありません。しかし、下級審の判断の中には、「悪意で加えた不法行為」とは、単純な故意による不法行為ではなく、積極的な害意に基づく不法行為であると解釈して、非免責債権には該当せず、免責されると判断しているものが複数あります。
 たとえば、東京地方裁判所平成15年7月31日判決では、不貞期間が5年に及び、不貞相手の女性が妻との離婚を確認することもなく男性と挙式まで挙げていたという事案において、裁判所は、「不法行為としての悪質性は大きいと言えなくもないが、不貞相手の女性から妻に対して直接向けられた加害行為はなく、全事情を総合勘案しても「悪意をもって加えた不法行為」には該当しない」と判断し、慰謝料請求権については免責されると判断しています。
 上記裁判例の立場では、よほど悪質でない限り非免責債権とされるのは難しく、本件冒頭事例のAさんの慰謝料請求権も免責されてしまうと思われます。

 

3 既に財産分与として支払いを受けた財産は否認されてしまうの?

 破産直前のように債務状況が悪化している時点で、財産を特定の債権者に支払う行為は、破産後に管財人から否認(=取消)されることがあります。
それでは、破産直前になされた財産分与についても、否認されてしまうのでしょうか。
これについては、財産分与とは、婚姻期間中に築いた夫婦の共有財産を清算する意味合いからすれば、夫婦の財産のうち2分の1に関しては、当然に相手方配偶者に分与を求める正当な権利があるといえますので、適正な金額の財産分与であれば、原則として否認の対象にならないと考えられています。
しかし、財産分与という名目で、本来求めうる適正額を大幅に上回る財産を不当に譲り受けた等の場合には、無償で財産を散逸させ、債権者を害しているといえますので、不当に過大な部分については否認対象行為になります。なお、財産分与が適正額であるか否かについては、財産の額のみならず、その形成に至った一切の事情を考慮した上で決まりますので、財産分与に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めします。

 

4 まとめ

 以上の通り、離婚に伴う各種請求権については、その性質に応じて破産手続上の取り扱いが異なってきます。特に、財産分与に関しては、財産分与合意時にどのような事情を考慮して当該金額が決められたのか等について実質的な判断を経なければ、破産によって否認されるか否か、免責されるか否かについて判断が困難ですので、元配偶者が破産してお悩みの方は、破産と離婚に強い弁護士のご相談されることをお勧めします。

2018.01.29

代襲相続について①

代襲相続について①

<ご相談者さまからのご質問>

  先日,祖父が亡くなりました。相続人には私の父を含めて祖父の子が3人いたのですが,長男である私の父は以前,祖父にひどいことをしてしまったらしく,生前に推定相続人の廃除を受けています。また,祖父の二男は祖父が死亡する前に既に亡くなっており,さらに,二男の息子も祖父が死亡する前に亡くなっておりその息子(二男の孫,祖父の曾孫)がおります。また,祖父の三男は既に自分は相続したくないとして相続放棄の手続きを完了しており,三男にも子どもがおります。
  この場合,誰が祖父の相続人になるのでしょうか。

<弁護士からの回答>

  以前にも少しお話ししましたが,民法では,相続に関するルールとして,本来相続人であった者の子等が相続人となる代襲相続というルールを採用しています。代襲相続については,これまで話してきた相続欠格,相続人の廃除等様々仕組みと関連する問題ですので,今回から数回に分けて,代襲相続にまつわる問題についてご説明させていただきます。

 代襲相続については,民法887条2項に規定してあり,被相続人の子が,①相続の開始以前に死亡したときか,②民法891条(相続人の欠格事由)の規定に該当したとき,もしくは,③廃除によって,その相続権を失ったときに,①~③に該当する者の子が相続人となるとされています。
 したがって,ご相談者様の事例では,ご相談者様のお父様(被相続人の長男)は,相続廃除されているので,相続権を失ってはいるものの,代襲相続により,ご相談者さまご自身が相続人(代襲相続の結果相続人となった者を代襲者といいます。)となります。

 また,民法887条3項では,代襲者自身に①~③の事由が発生した場合には,代襲者の子が相続人となるとされており,再度代襲相続が発生していることから再代襲相続といわれています。
 したがって,ご相談者様の事例でも,相続人の二男の方は既に亡くなられており,代襲相続が発生しておりますが,代襲者(二男の息子,被相続人の孫)も既に亡くなっているため,代襲者の子である二男の孫(被相続人の曾孫)が再代襲相続により相続人になります。

 このように,代襲相続は,相続人の死亡,相続欠格,廃除の場合には認められますが,相続人が相続放棄を行った場合,相続放棄を行うと,はじめから相続人とならなかったものとみなされるため(民法939条参照,相続放棄については別の機会にご説明させていただきます。),代襲相続は認められず,相続放棄を行った者の子は,相続人にはなりません。
したがって,ご相談者様の事例でも,相続放棄を行った被相続人の三男のお子様は,相続人にはなりません。
 代襲相続がからむと相続人が誰かという問題についてはとても複雑になってきます。相続人に関して複雑な状況が発生していると感じられた場合には,なるべく早く弁護士にご相談ください。

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