弁護士コラム

2018.01.30

届出をした破産債権に異議が出された!争いのある破産債権はどうなるの?

【債権者Aさんの相談】
先日,お金を貸していた友人が破産したため,裁判所に破産債権の届出を行いました。しかし,届出をした債権について,管財人から「証拠がなく,債務者本人も認めていない」という理由で異議が出されてしまいました。友人だったので,契約書等は作成しておらず,証拠はありません。けれども貸したのは事実です。この場合,貸付金について配当は受けられないのでしょうか。

債権者が破産債権の届出行った場合,債権の金額や,優先順位等について,管財人や他の債権者が異議を出すことがあります。今回は,届出をした破産債権に異議が述べられた場合,当該債権を有する債権者としてはどのように対応すればいいかについて,お話ししたいと思います。

1 異議の効果

⑴ 異議がない場合

届出債権について管財人や他の債権者から特段異議が述べられなかった場合,その債権は確定し,確定判決と同一の効力を持ちます。債権が確定すると,債権額に応じて割合的に配当を受けることになります。

⑵ 異議がある場合

異議が出されても,証拠を補充することによって債権の存在を証明すれば,異議が撤回される場合もありますが,異議が撤回されなければ,破産債権の内容が確定されず,配当は受けられません。
そこで,異議が出された破産債権を有する債権者としては,配当を受けるために債権の存在を主張立証して確定する必要があります。債権の確定手続は,異議を出された破産債権について判決等があるか否かによって債権者が行うべき手続の負担は全く異なってきます。判決等がある場合は,その債権の存在は一応確からしいと言えるため,債権者が主導して確定手続をする必要はありませんが,判決等がない場合は,債権者が主導して後述の確定手続(査定申立てや異議の訴え)を提起することになります。

 

2 査定の申立て(判決等が一切ない場合)

⑴ 査定の申立て

 争われている債権について,判決等が一切ない場合,異議を出された債権者は,債権を確定させるために,異議を述べた債権者や破産管財人を相手方として,裁判所に債権査定の申立てを行わなければなりません。なお,異議を述べる者が複数いる場合は,その全員を相手方にする必要があります。
査定の申立ては,届出債権の調査期間の末日又は調査期日から1か月以内に申立てをする必要があります。また,手続の中では審尋が予定されており,裁判所は,債権者から意見を聴取した上で,債権の存否や額等について決定する裁判を行います。
この結果について不服がある場合は,後述の査定異議の訴えを提起して争うことになります。なお,異議の訴えが提起されなければ,債権は確定します。

⑵ 査定異議の訴え

査定申立ての決定に対して異議がある場合は,異議の訴えを裁判所に提起することになります。これは,通常訴訟ですので,他の裁判と同様,債権の存否等について,証拠などを提出して主張・立証することになります。

 

3 異議が出された届出債権について既に訴訟が係属している場合

 管財人等から異議が出された破産債権について,判決等がない場合には,査定の申立てを行うのが原則です。しかし,判決は未だ出ていないものの,既に訴訟で債権の存否を争っている最中の場合には,その時点で改めて査定の申立てをするよりも,当該訴訟で提出された訴訟資料を流用した方が審理もスムーズですので,その場合は,査定の申立てではなく,係属中の訴訟を受継する形で債権の確定手続を行います。
 例を挙げると,債権者が債務者に対して貸金返還請求訴訟を提起して,債権の存否を争っていたところ,債務者に破産手続開始決定が出ると,当該貸金訴訟は中断します。そして,債権者は,破産債権の額を管財人に届出をしますが,管財人が異議を述べた場合,債権者は,査定の申立てをする必要はなく,中断していた貸金訴訟を受継して,管財人に対し,破産債権の確認訴訟を提起することになります。

4 判決等がある場合

異議が出された債権について,既に「判決等」がある場合は,当該債権を有する者が主導して手続をする必要はなく,異議を出した側(管財人や他の破産債権者)が,当該債権を有する者に対して,裁判を提起して債権の確定手続を行うことになります。
ここで,「判決等」と記載しましたが,判決は未確定の場合も含みます。また,判決だけでなく,執行力ある債務名義も含まれます。執行力ある債務名義とは,執行文の付与された確定判決,和解調書,調停調書や執行認諾文言付の公正証書等です。異議を出された届出債権が,このような執行力ある債務名義や未確定判決で認められたものである場合は,その債権の存在は一応確からしいため,それを争う側が主導して裁判を提訴する必要があります。なお,異議を出した側から結局裁判の提起がなされなければ,異議がないものとみなされ,債権はそのまま確定します。
提訴する裁判については,「破産者がすることのできる訴訟手続」(破産法129条)に限られます。「破産者がすることのできる訴訟手続」とは,未確定判決がある場合は上訴の手続になります。他方で,確定判決がある場合は,争い方によります。例えば,確定判決後,既に債権が弁済されており,存在しないという理由で争う場合には,「請求異議の訴え」を提起することになりますし,確定判決の手続そのものに瑕疵があると争うなら,「再審の訴え」を提起することになるでしょう。

5 まとめ

以上の通り,届出債権に異議が出された場合,配当を受けるためには債権の存在を証明し,債権の存否を確定しなければなりません。破産手続という特別な手続の中で行われますが,結局は,証拠を集めて債権の存在を主張立証する作業となり,通常の民事訴訟と同じような作業が必要になりますので,ご自身の債権をしっかりと認めてもらうためには,弁護士にご相談されることをお勧めします。但し,破産手続である以上,配当対象財産は限られており,苦労して認めてもらった債権であっても,債権額や債権の優先順位,配当額によっては,確定手続にかける労力や費用が見合わない可能性もあります。そこで,異議を出された場合は,そもそも確定手続に進んだ方が得なのか損なのか等,そのあたりを見極めることがまず重要となりますので,早い段階で弁護士にご相談されることをお勧めします。

2018.01.30

代襲相続について②

代襲相続について②

<ご相談者さまからのご質問>

  先日,夫が自分の実家に帰省中に,交通事故に遭いました。夫のお父さんも同乗しており,2人とも亡くなってしまいました。夫のお父さんには妻(夫の母)がおり,子供は夫以外に,夫の姉がおります。また,夫と私の間には子供が1人いるのですが,この場合,夫の父の財産に関してはどのように相続されるのでしょうか。

<弁護士からの回答>

  今回の事例においてはご相談者様のご主人とご主人のお父様がどのような順序や方法で相続が発生したかによって誰が相続人となるかが大きく異なってきます。本日は,複数の人が同時に死亡した際の取り扱いと,その際に代襲相続が認められるのかを中心にご説明させていただきます。

 民法上相続の開始時期は,被相続人が死亡した時点とされています(民法882条)。したがって,今回の事例の場合にもご主人とご主人のお父様がいつ死亡したかによって相続人の範囲も異なってきます。
 まず,事故により,お父様が現場で即死し,ご主人はその後,搬送された病院で死亡した場合,お父様が死亡した時点で,相続が発生するため,相続人はお父様の妻,子供であるご相談者様のご主人とその姉になります。そして,ご主人が亡くなったことにより,ご主人が有していた法定相続分は,妻であるご相談者様と,お子さんに相続されることになります。したがって,この場合,お父様の妻,ご主人の姉,ご相談者様,お子様の4名が相続人となり,ご主人のお父様の遺産に関しては,この4名で遺産分割協議を行うことになります。

 次に,順番が逆になり,ご相談者様のご主人が現場で即死の状態となり,その後お父様が病院で亡くなられた場合には,まず,ご主人の相続が発生し,その後,お父様の相続が発生することになります。そして,お父様の相続発生時には,ご主人は既に亡くなっていることから,相続人は,お父様の妻,ご主人の姉,そして,代襲相続によりご主人の(ご相談者様の)お子さんの3名が相続人となり,ご相談者様は相続人とはなりません。

 では,事例を変えて,ご主人とお父様が事故により即死の状態であり,厳密にどちらが先に死亡したかが分からないような場合にはどのように扱われるのでしょうか。
 民法では,数人の者が死亡した場合において,そのうちの1人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは,これらの者は,同時に死亡したものと推定するとされています(民法32条の2,同時死亡の推定といいます。)。そして,同時に死亡したとされる以上,相続開始の時点で死亡しているため,お父様とご主人との間では相続は発生しないことになります。

 また,代襲相続の要件の1つとして,相続の開始「以前」に死亡していることが必要であり,この「以前」には,同時に死亡した場合も含まれるため,この場合にも代襲相続が発生します。
したがって,結論としては,先に,ご主人が亡くなっている場合と同様に,お父様の相続に関する相続人は,お父様の妻,ご主人の姉,ご主人を代襲相続したお子さんの3名となります。
このように,複数のご親族がお亡くなりになられた場合には,相続人が誰になるのかは複雑な問題ですので,早めに弁護士にご相談ください。

2018.01.29

離婚した夫が破産しました。財産分与や慰謝料、養育費の支払いはどうなるのでしょうか。

【Aさんのご相談】

夫が浮気をしたため、夫とは離婚することにしました。離婚協議の結果、養育費として月3万円、財産分与として400万円、不貞の慰謝料として100万円を支払ってもらうことで合意し、そのうち財産分与については300万円を離婚時、残りの分と慰謝料を毎月合計10万ずつ(財産分与5万、慰謝料5万)分割で払ってもらうことになりました。
しかし、離婚後まもなく夫は破産し、先日、免責決定が出ました。免責決定を受けても、養育費や慰謝料、財産分与については支払いを続けてもらえるのでしょうか。また、既に財産分与としてもらった300万円については、破産直前に譲り受けた財産として否認されてしまうのでしょうか。

離婚に伴い、養育費、財産分与、慰謝料等について取り決めをした後に、支払義務者が破産してしまうといったケースはよく見られます。そこで、今回は、離婚に伴う各種請求権が、破産手続上どのように扱われるかについてご説明したいと思います。

 

1 破産により免責される債権とは?

 破産手続では、免責という制度があり、免責決定が出ると破産手続開始前の原因に基づいて発生した請求権(これを「破産債権」と言います。)については、原則として免除されることになります。
 しかし、免責制度は、債権者に対して及ぼす不利益も大きく、また、破産によって免責を認めることが不合理な結果を招くものもありますので、破産法は一定の債権については、免責の対象から除外する扱いをしており、これらの債権を「非免責債権」と言います。なお、非免責債権の種類は個別に破産法に規定されています。

2 Aさんの離婚に伴う各種請求権は非免責債権にあたる?
まず、前提としてAさんは、破産前に離婚が成立し、離婚条件が合意されているため、養育費、財産分与、慰謝料等の各種請求権は破産債権に該当します。
それでは、非免責債権にあたるのか、以下個別に検討していきます。

①養育費

 養育費は、「子の監護に要する費用」(民法766条1条)として、非免責債権として規定されています(破産法253条1項4号ハ)。
 よって、破産手続に影響せず支払いを受けることができます。

②財産分与

 財産分与は、夫婦共有財産の清算という意味合いでなされることが通常ですが、場合によっては今後の生活保障という扶養的趣旨、さらには慰謝料的意味合いが含まれていることもあり、財産分与のなされた趣旨に応じて実質的に判断する必要があります。
 このうち、通常の財産分与の趣旨である清算的財産分与の場合や、慰謝料の意味合いで行われた財産分与に関しては、非免責債権には当たりませんので、免責されることになります。
 これに対し、扶養的財産分与に関しては、非免責債権に該当する可能性があります。
 今回のAさんの場合、慰謝料については別途合意しているため、Aさんの財産分与請求権は、慰謝料的意味合いはないと言えるでしょうし、扶養的財産分与を基礎づける事情も見当たらないので、非免責債権には該当しないと考えられます。
 よって、財産分与請求権として残っている分割金部分については免責されてしまいます。

③不貞による慰謝料請求権

 不貞による慰謝料請求権は、不法行為に基づく損害賠償請求権に該当します。不法行為に基づく損害賠償請求権が非免責債権に該当するかについては、破産法では、「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」については非免責債権として規定されています。
 そこで、不貞行為が「悪意で加えた不法行為」と言えるかが問題になります。
 これについての最高裁の判例はありません。しかし、下級審の判断の中には、「悪意で加えた不法行為」とは、単純な故意による不法行為ではなく、積極的な害意に基づく不法行為であると解釈して、非免責債権には該当せず、免責されると判断しているものが複数あります。
 たとえば、東京地方裁判所平成15年7月31日判決では、不貞期間が5年に及び、不貞相手の女性が妻との離婚を確認することもなく男性と挙式まで挙げていたという事案において、裁判所は、「不法行為としての悪質性は大きいと言えなくもないが、不貞相手の女性から妻に対して直接向けられた加害行為はなく、全事情を総合勘案しても「悪意をもって加えた不法行為」には該当しない」と判断し、慰謝料請求権については免責されると判断しています。
 上記裁判例の立場では、よほど悪質でない限り非免責債権とされるのは難しく、本件冒頭事例のAさんの慰謝料請求権も免責されてしまうと思われます。

 

3 既に財産分与として支払いを受けた財産は否認されてしまうの?

 破産直前のように債務状況が悪化している時点で、財産を特定の債権者に支払う行為は、破産後に管財人から否認(=取消)されることがあります。
それでは、破産直前になされた財産分与についても、否認されてしまうのでしょうか。
これについては、財産分与とは、婚姻期間中に築いた夫婦の共有財産を清算する意味合いからすれば、夫婦の財産のうち2分の1に関しては、当然に相手方配偶者に分与を求める正当な権利があるといえますので、適正な金額の財産分与であれば、原則として否認の対象にならないと考えられています。
しかし、財産分与という名目で、本来求めうる適正額を大幅に上回る財産を不当に譲り受けた等の場合には、無償で財産を散逸させ、債権者を害しているといえますので、不当に過大な部分については否認対象行為になります。なお、財産分与が適正額であるか否かについては、財産の額のみならず、その形成に至った一切の事情を考慮した上で決まりますので、財産分与に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めします。

 

4 まとめ

 以上の通り、離婚に伴う各種請求権については、その性質に応じて破産手続上の取り扱いが異なってきます。特に、財産分与に関しては、財産分与合意時にどのような事情を考慮して当該金額が決められたのか等について実質的な判断を経なければ、破産によって否認されるか否か、免責されるか否かについて判断が困難ですので、元配偶者が破産してお悩みの方は、破産と離婚に強い弁護士のご相談されることをお勧めします。

2018.01.29

代襲相続について①

代襲相続について①

<ご相談者さまからのご質問>

  先日,祖父が亡くなりました。相続人には私の父を含めて祖父の子が3人いたのですが,長男である私の父は以前,祖父にひどいことをしてしまったらしく,生前に推定相続人の廃除を受けています。また,祖父の二男は祖父が死亡する前に既に亡くなっており,さらに,二男の息子も祖父が死亡する前に亡くなっておりその息子(二男の孫,祖父の曾孫)がおります。また,祖父の三男は既に自分は相続したくないとして相続放棄の手続きを完了しており,三男にも子どもがおります。
  この場合,誰が祖父の相続人になるのでしょうか。

<弁護士からの回答>

  以前にも少しお話ししましたが,民法では,相続に関するルールとして,本来相続人であった者の子等が相続人となる代襲相続というルールを採用しています。代襲相続については,これまで話してきた相続欠格,相続人の廃除等様々仕組みと関連する問題ですので,今回から数回に分けて,代襲相続にまつわる問題についてご説明させていただきます。

 代襲相続については,民法887条2項に規定してあり,被相続人の子が,①相続の開始以前に死亡したときか,②民法891条(相続人の欠格事由)の規定に該当したとき,もしくは,③廃除によって,その相続権を失ったときに,①~③に該当する者の子が相続人となるとされています。
 したがって,ご相談者様の事例では,ご相談者様のお父様(被相続人の長男)は,相続廃除されているので,相続権を失ってはいるものの,代襲相続により,ご相談者さまご自身が相続人(代襲相続の結果相続人となった者を代襲者といいます。)となります。

 また,民法887条3項では,代襲者自身に①~③の事由が発生した場合には,代襲者の子が相続人となるとされており,再度代襲相続が発生していることから再代襲相続といわれています。
 したがって,ご相談者様の事例でも,相続人の二男の方は既に亡くなられており,代襲相続が発生しておりますが,代襲者(二男の息子,被相続人の孫)も既に亡くなっているため,代襲者の子である二男の孫(被相続人の曾孫)が再代襲相続により相続人になります。

 このように,代襲相続は,相続人の死亡,相続欠格,廃除の場合には認められますが,相続人が相続放棄を行った場合,相続放棄を行うと,はじめから相続人とならなかったものとみなされるため(民法939条参照,相続放棄については別の機会にご説明させていただきます。),代襲相続は認められず,相続放棄を行った者の子は,相続人にはなりません。
したがって,ご相談者様の事例でも,相続放棄を行った被相続人の三男のお子様は,相続人にはなりません。
 代襲相続がからむと相続人が誰かという問題についてはとても複雑になってきます。相続人に関して複雑な状況が発生していると感じられた場合には,なるべく早く弁護士にご相談ください。

2018.01.28

欠格事由と廃除について(2)~相続人の廃除について②~

欠格事由と廃除について(2)~相続人の廃除について②~

<ご相談者さまからのご質問>

 相続人の廃除という方法を使えば,特定の相続人に相続させないようにすることができるのですね。どのような場合に相続人の廃除は認められるのですか。また,相続人の廃除をするためにはどのような方法があるのですか。

<弁護士からの回答>

 今回は,相続人の廃除の要件及び相続人の廃除を行うための手続きについてご説明させていただきます。
 相続人の廃除の要件は,民法892条に規定されており,①遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいいます。)が,②被相続人を虐待,被相続人に重大な侮辱を与える,もしくは,推定相続人にその他の著しい非行があった場合には被相続人において,当該推定相続人を廃除することができます。

 廃除される推定相続人は,①「遺留分」を有する推定相続人なので,配偶者,子または直系尊属(つまり兄弟姉妹以外の推定相続人になります。)が廃除の対象になります(遺留分については別の機会にご説明させていただきます。)。したがって,兄弟しか推定相続人がいない場合には,被相続人の廃除ではなく,特定の相続人に相続させない旨の遺言を作成するのがよいでしょう。
 次に,②の要件のうち,「虐待」とは,被相続人に向けられた暴力や耐え難い精神的苦痛を与えることをいいます。また,「重大な侮辱」とは,被相続人に向けたれた,名誉や感情を著しく害する行為をいいます。「その他の著しい非行」については,多額の借金を肩代わりさせた場合や,介護が必要な被相続人を全く介護しなかった場合等が該当するものですが,「虐待」や「重大な侮辱」に匹敵するような非行でありことが必要です。

 次に,相続人の廃除をするための手続きとしては,被相続人が生前に家庭裁判所に対し,推定相続人廃除審判を申し立てる方法(民法892条,俗に「生前廃除」と呼ばれています。)と,被相続人が遺言により廃除の意思を表示する方法(民法893条,「遺言廃除」と呼ばれています。)があります。
廃除が認められると,生前廃除の場合には廃除の審判が確定した時点,遺言廃除の場合には廃除の審判確定後,被相続人の死亡時にさかのぼって相続人の資格が失われる効果が発生します。生前廃除の場合には被相続人において,後日廃除した推定相続人と和解できた場合など,廃除を取りやめたい場合には,家庭裁判所への請求や遺言により廃除の取り消しをすることができます。また,遺言廃除の場合には,相続開始後,遺言にしたがって相続手続きを行う遺言執行者を選任しなければならないため,あらかじめ遺言で遺言執行者も定めでおくべきでしょう。

 このように,要件に合致し,適切に手続きを行えば相続人の廃除を行うことが可能です。しかし,審判の申立や遺言の作成など手間や専門的な作業を要することに加え,親族間での対立関係が発生したり,それまでの対立関係が悪化する等深刻な状況になりかねないため,相続廃除を希望される場合には,是非一度,弁護士にご相談ください。ご相談者さまの御意向をお聞きして円滑に解決することができるようお手伝いさせていただきます。

2018.01.28

民事再生手続ってなぁに?

【A社社長の相談】

うちの会社は飲食事業を経営しており、直近の売上は約1億円ですが、負債が約3億円あり、税金の滞納が500万円程あります。3年前に、新店舗を開店し、設備投資をしたことが原因でその後赤字に転じてしまい、現在に至っています。それまでは経営は順調でした。月末に、仕入先に対して500万円を支払わなければならないのですが、資金調達の見込みが立ちません。経営が上手くっている店舗もあるので、なんとか会社を継続したいのですが、現状の債務を完済することはできません。どうすればいいでしょうか。

今回は、A社のように、債務の完済は難しいものの、不採算部門を切り捨てれば事業再建の見込みがある場合に適する債務整理の方法として、民事再生手続についてご説明したいと思います。

1 民事再生手続とは?

 民事再生手続とは、裁判所を利用した債務整理手続の1つです。裁判所を利用する債務整理手続は、大きく分けて清算型と再建型の2つがあります。どちらの手続も、債務が一定程度免除されるため、今まで返済に充てていたお金を生活や事業に回すことができ、生活や事業を立て直すことができます。
清算型とは、破産手続のことで、原則として保有財産を全て換価して弁済に充て、返しきれない債務については免責するという手続です。他方で、再建型の手続は、一定程度債務を圧縮した上で、将来の収入を原資に長期間の弁済計画を立て、分割弁済を行って債務を整理していく手続のことです。再建型の手続には、法人も個人も利用できる一般的な手続として民事再生手続がありますが、実際は会社において利用されることが多く、個人向けの再生手続としては、小規模個人再生手続や給与所得者等再生手続が準備されています。なお、上場企業等、大規模な会社の再建手続として会社更生手続もあります。

2 民事再生手続のメリットとデメリット

 民事再生手続には、以下のとおり様々なメリットやデメリットがあります。

<メリット>

①破産に至る前の経済状況でも申立てが可能。
⇒破産する場合は、破産開始原因(債務超過又は支払不能の状態にあること)が必要となりますが、民事再生手続の場合は破産開始原因まで存在しなくとも、「破産開始原因が生じるおそれがある場合」又は「事業の継続に著しい支障を来たすことなく、弁済期にある債務を弁済することができない場合」であれば、申立てができます。
*例えば、事業用資産を売却すれば債務を返せるが、その資産を売ってしまうと事業の継続が困難になってしまうというような場合、破産手続は行うことはできませんが、民事再生手続であれば申立てが可能となります。

②現在の資産を保有し続けることが可能。(車や家を手放さなくてよい)
⇒破産手続の場合は、申立時に保有している財産を弁済原資とするため、自由財産に該当しない限り原則として全ての財産が換価の対象となりますが、民事再生手続であれば、将来  の収入を弁済原資とするため、現状保有している資産については引き続き保有することができます。

③免責不許可事由があっても問題ない。
⇒破産手続の場合、免責不許可事由があれば負債は消えず、債務整理の意味をなしませんが、民事再生手続では免責不許可事由の有無に関わらず債務整理が可能です。

④資格制限がない。
⇒破産手続の場合、職業の内容によっては資格制限が生じますが、民事再生手続の場合はその心配がありません。

⑤再生計画の定めで認められた権利を除いて、再生債務者の再生債権は免責される。
⇒再生計画が認可されると、再生計画に定められた債務を返済すれば、残りの債務は免除されます。任意整理手続と異なり、利息のみならず元本についても大幅なカットが見込めます。

⑥再生計画に反対する債権者がいても、可決要件を満たせば権利変更が生じる。
⇒任意整理の場合は、同意しない債権者がいる限り、当該債権者との間の債務については減免されませんが、再生手続では、可決要件を満たせば反対債権者も再生計画に拘束することができ、再生計画の通りに権利変更(債務の圧縮・弁済猶予等)が生じます。
 なお、可決要件は、㋐議決権を行使した議決権者の頭数による過半数が賛成し、かつ㋑議決権総額の2分の1以上の議決権を有する者が賛成することです。

<デメリット>

①費用がかかる。
⇒再生手続を申し立てる際、裁判所に費用を予納する必要がありますが、法人の再生手続の場合は最低でも数百万円はかかります。また、民事再生手続の申立ては複雑であり、通常は弁護士に依頼して行うため、弁護士費用もかかります。弁護士費用に関しては、各法律事務所によって異なりますが、法人の場合は数百万円は見込んでおいた方が良いでしょう。

②再生計画が可決・認可されると、確定判決と同一の効力を有するため、不履行の場合は強制執行が可能となる。
⇒再生計画は10年以内の期間を定めて分割弁済の計画を立てることになります。このようにわりと長期間の分割弁済計画となりますが、再生計画で決まった債務の内容については、責任を持って履行しなければなりません。不履行がある場合には強制執行が可能となりますし、再生計画の認可が取り消されてしまうおそれがあります。

③ブラックリストに載る
⇒これは、民事再生手続特有のことではなく、破産や任意整理の場合も同様ですが、ブラックリストにはのるため、クレジットカード等は作りづらくなります。

 

3 まとめ

 以上の通り、民事再生手続には、様々なメリットとデメリットがあります。なお、民事再生手続で決まった債務の内容は責任をもって履行しなければならないため、再生手続を選択する際には、慎重に見通しを立てる必要があります。債務整理にお悩みの方は、一度専門家の弁護士にご相談されることをお勧めします。

2018.01.27

否認ってなぁに?

【Aさんの相談】

2年程前から会社の経営が傾き始め,今では負債が多額に上り,多数の債権者から督促を受けている状況です。最近では,弊社の信用悪化が噂になり,多数の債権者から取り立ての電話が激しくなり,一部の大口債権者からは,私の自宅を担保にいれるよう強く求められています。いずれ破産により自宅は手放すことになるので,取り立てを免れるために担保提供しようかと考えています。しかし,先日,破産を経験した知人から,「そのようなことをしてしまうと破産した時に否認され,後々面倒なことになるよ。」と忠告を受けました。破産手続きにおける否認とはどのような制度なのでしょうか。

1 否認とは?

否認とは,経済状況が悪化した状況下で行われた一定の取引について,その行為を取消し,逸失した破産者の財産を取り戻す制度です。破産状況下では,債務者の限られた財産を巡って債権者間の利害が対立するため,一部の強引な債権者が債務者に言い寄って,自分のみに弁済を強要したり,担保を提供させたり,適正価格よりも低い価格で売買をして債権を回収するなどの行為に出ることがあります。
そこで,破産法は,破産手続開始後は,破産者の財産処分権を管財人に移してそのような行為を防止し,破産手続開始前に行なわれた行為については,管財人に否認権という権利を認め,事後的に管財人が取り消すことができるという仕組みをとっています

2 否認請求の相手方は誰?

否認請求の相手方は,破産者との間で否認対象行為を行った相手方(受益者)と,受益者からの転得者です。但し,受益者と転得者は,原則として当該取引時に否認の原因があったこと,すなわち,破産者が破産状態にあり,そのような行為をすれば他の債権者を害することになることについて知っていることが必要です。なお,例外的に,否認対象行為が贈与等の無償行為やこれと同視されるような著しく廉価な有償行為等であれば,当該行為自体が破産者の財産を害する結果を招く危険が高いことが明白であるため,受益者や転得者の主観的要件は不要となります。

たとえば,X(破産者)がY(受益者)に対し,高級車を贈与し,Yが,Z(転得者)に当該高級車を売買していたとします。ここで,各取引時に,YもZもXが破産状態であることを知っていた場合には,Xの破産管財人は,YとZに対し,各行為を否認することができます。仮に,YはXの破産状態を知っていたものの,Zは知らなかった場合は,Yに対してのみ否認することがきでます。この場合,XY間の贈与契約のみが取り消されるため,YZ間の売買契約は有効のままとなります。

3 否認されるとどうなるの?

否認されると,破産者とその相手方との間で行われた行為が取り消されることになるため,契約当事者は,契約前の状況に戻す必要があります。そのため,2で上述した事案では,Yは破産管財人に対し,高級車が手元にない以上,高級車を戻すことはできませんが,価値代替物としてZに売買した際の売買代金を取得していますので,当該売買代金を破産管財人に返還しなければなりません。また,Zに対しては,高級車がZのもとにある状態であれば,高級車を返還しなければならず,既に転売して存在しない場合には,転売代金を返還することになります。

なお,否認対象行為の取引時に,受益者も破産者から何らかの反対給付を受けている場合には,受益者は破産者に対してその返還を求めることができます。例えば,前述の高級車の事案について,XY間の取引が贈与ではなく,廉価売買だった場合で,XY間の廉価売買が否認された場合,Yは管財人に対して取得した高級車又はその価値代替物を返還しなければなりませんが,同時にYは破産者に対し,廉価売買時に支払った売買代金について返還請求をする権利を有します。

4 期間制限

否認権は,破産手続開始の日から2年を経過した場合又は否認対象行為が行われた日から20年経過した場合は,時効により消滅します。否認権の行使がいつまでも認められると,受益者や転得者の利益を害するため,否認権の行使可能時期については制限が設けられています。

5 まとめ

 以上の通り,破産法では否認という制度を設け,破産者の財産逸失行為について厳格な規制をしています。否認は,既に終わった取引を事後的に取り消す結果となるため,取り消される側の債権者にも多大な迷惑をかける形になります。また,破産者自身も免責不許可事由に該当する可能性があります。
 破産手続がまだ正式に開始していないからと言って,債権者に言い寄られて不当な財産処分をしてしまうと,後々免責不許可になったり,債権者に迷惑をかける結果となりかねませんので,債権者から言い寄られた場合には,後々否認されてしまうからという理由を説明して毅然とした態度で断ることが重要です。しかし,これらの対応は,返済が滞っている債務者の立場で行うことは難しいことがほとんどですので,早期に弁護士に相談し,適切な対応をしてもらいましょう。

2018.01.27

欠格事由と廃除について(2)~相続人の廃除について①~

欠格事由と廃除について(2)~相続人の廃除について①~

<ご相談者さまからのご質問>

 自分も高齢になってきたので,自分が亡くなったときに自分の残された財産がどのように妻や子ども達に相続されるのかが気がかりです。私には妻がと息子が2人おり,長男はとても粗暴な性格で長年私に対し暴力を振るってきました。このような親に対して不誠実な行為を行う長男には財産を相続させたくはありません。
 どうすればいいでしょうか。

<弁護士からの回答>

 前回は,相続人の欠格事由についてご説明させていただきましたが,今回から3回にわたって相続人の廃除についてご説明させていただきます。相続欠格の場合には法律上当然に相続人たる資格を喪失するものですが,相続人の廃除については被相続人の意思により相続人たる資格をはく奪するものであります。今回は,特定の相続人に相続をさせたくない場合にどのような選択肢が存在するかについてご説明させていただきます。

 特定の相続人に相続をしてほしくない場合に被相続人がとりうる方策としては(相続欠格事由に該当する行為がないことを前提としています。),①相続人に被相続人の死後,相続放棄をしてもらうことを期待する,②自分の財産のすべてを特定の相続人の相続させる(特定の相続人には相続させない)旨の遺言を作成する,③相続人の廃除を行うという3つの方策が考えられます。

 ①の方法については,被相続人の死亡前における相続放棄が認められておりませんので(民法915条1項では,相続放棄は「相続の開始があったことを知った時から」3か月以内にしなければならないと規定しており,死亡前の相続放棄を認めておりません。),いくら相続人が相続放棄すると約束していたとしても,死後,相続放棄をしない場合には,相続されてしまいます。

 ②の方法については,相続人となる予定の人(推定相続人といいます。)が兄弟しかいない場合には,兄弟には遺留分がないため(遺留分については別の機会にご説明いたします。),この方法により相続させたくない人に相続させないことが可能です。

もっとも,推定相続人が遺留分を有する配偶者や子である場合には,特定の相続人に対して一切相続をさせないという遺言を作成したとしても,後日,遺留分減殺請求権を行使されることにより,いくらか財産を回収されてしまう可能性が十分に残ってしまいます(生前に,遺留分の放棄をしてくれている場合には,こうした問題は起きませんが,遺留分の放棄を強制することはできません。
遺留分の放棄については別の機会にご説明させていただきます。)。また,残された相続人の方に遺留分にまつわるトラブルに巻き込んでしまうという側面もあります。

 そこで,被相続人において③相続人の廃除を行うことで,欠格事由に該当する場合と同様に,相続人たる資格を喪失させることができるため,自らの意思で,相続させたくない人から相続人たる資格をはく奪することができます。

 次回は,相続人の廃除に関する要件についてご説明させていただきます。

2018.01.26

破産手続で免責不許可事由があっても破産できる?

破産手続で免責不許可事由があっても破産できる?

1 裁量免責制度

個人破産の場合、免責目的で申立てをすることがほとんどだと思いますが、免責不許可事由に該当する場合、申立てを諦めるしかないのでしょうか。
破産法では、様々な免責不許可事由を規定していますが(免責不許可事由の詳細は別記事に記載しているためそちらをご覧ください。)、あわせて裁量免責制度を設けており、免責不許可事由に該当しても裁判所の裁量により免責される余地を残しています。
それでは、どのような場合に裁量免責が認められるのでしょうか。破産法では、裁量免責をする場合の要件として、「破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるとき」と規定しています。つまり、破産に至った一切の経緯を総合考慮するということですが、具体的にはどのような事情を考慮して決定しているのか、今回は裁判例をご紹介しながらみていきたいと思います。

2 過去の裁判例

<裁量免責が認められた事案>

【事案①】
破産者は、自宅購入費として3500万円全額を借入れた結果、収入の約半分を自宅取得に関する借金返済に充てざるを得ないことになり、破産を申し立てた事案です。
 裁判所は、購入当初から破産者夫婦の収入に照らして返済不能であることが容易に予想できたにもかかわらず、安易に高額な自宅を購入した行為について、免責不許可事由である「浪費」に該当すると判断しましたが、以下の事情を考慮して裁量免責としました。
*考慮された事情
・自宅の取得という目的は、それ自体正当なものであること
・金銭を費消した場合とは異なり、その時点では借入金に相当する資産(不動産)を保有するのであるから、自宅取得を一概に非難することはできないこと
・破産者の債務額が増大したのは、自宅維持のためであって汲むべき事情があること
・自宅の売却代金が一般債権者への返済に全く充てることができなかったのは、バブル経済崩壊という通常人が予想しえない事情により、自宅取得額よりも相当安価でしか任意売却ができなかったことによるものであること
・免責に対して異議申し立てをした債権者がいなかったこと
・生命保険解約金100万円を原資に任意配当を行い一応の誠意を示していること、
・破産者は交通事故の負傷により廃業せざるを得ず、高齢で健康状態もよくないこと、
・破産者は反省して更生の意欲を示していること
など

 

【事案②】
破産者(プロ野球選手)は、契約金1800万円と年俸440万円の収入がありましたが、そのほとんどは父親の債務弁済に充てられており、別途自己の債務として総額1437万円の負債があったため、破産申立てをした事案です。債務総額1437万円のうち、1069万円は4台の自動車を買い替えたことによる出費に基づく債務であったため、裁判所は、自動車の買替えは「浪費」に該当すると認定しましたが、以下の事情を考慮して裁量免責を認めました。
*考慮された事情
・破産者の債務状況が悪化したのは上記浪費の他、父親の債務弁済を強いられたり、退団を余儀なくされたことにも起因しており、一概に破産者ばかりを非難できないこと
・免責に対して異議申し立てをした債権者がいないこと
・破産者が若年で更生の見込みがあること
など

 

【事案③】
 破産者(銀行員)は、株式投資に失敗し、その損失補填のために3000万円以上を借り入れてさらに株式投資をしましたが失敗したため、破産を申し立てた事案です。
 裁判所は、当初の投資失敗の損失補填について、再度の投資ではなく銀行員としての収入に照らして堅実な返済を行うべきであって、投資のための借入れは「浪費」に該当すると認定した上、以下の事情を考慮して裁量免責を認めました。
*考慮された事情
・投資に走った当時、バブル経済の渦中にあり無理からぬ面があること
・投資が行き詰ったのは株の暴落が直接の原因であり、破産者のみを責められないこと、
・破産者は債務の弁済のために自宅を売却し、退職金も弁済に充てる等、誠実に返済の努力をしていること
・破産者は親戚等からの経済的援助を見込めない上、重度の身体障害者である母を扶養せざるを得ない立場にあること
など

 

<裁量免責が認められなかった事例>

【事案④】
ギャンブルや高額な飲食を原因とする借財で破産に至ったケース。
⇒免責不許可事由である「著しい射倖行為及び浪費」と認定した上、債務総額や、借りた後に返済の努力をしていないこと、無職であるにもかかわらず短期間で借り入れを重ねて多額の借財を負っている経緯を考慮し、裁量免責も否定しました。

3 小括

 以上のとおり、上記の裁判例に照らすと、裁量免責の際は以下の事情が判断要素とされているようです。
・債務を負担するに至った経緯
・返済できなくなった経緯
・借財時に返済不能の見通しを立てることができたかどうか
・免責について債権者が異議を述べているか
・総負債額
・返済の努力の有無・誠実性
・破産者の現在の生活状況、健康状況
・破産者の更生意欲・更生可能性
など

4 結語

 以上の通り、免責不許可事由に該当しても、破産に至った経緯につき、破産者のみを非難することが相当でない場合や、破産者の経済的更生の可能性や必要性等を総合考慮して裁量免責が認められています。結局は、破産免責という制度が誠実な債務者に対する経済的更生を保障する制度ですので、当該免責制度の趣旨に合致するのであれば、免責が認められます。
そのため、免責不許可事由に該当する方でも、すぐに諦めずに、破産の実務経験が豊富な弁護士に一度相談の上、手続の見通しを立てることをお勧めします。

2018.01.26

欠格事由と廃除について(1)~欠格事由について~

欠格事由と廃除について(1)~欠格事由について~

 <ご相談者様からのご質問>

 父が先日亡くなったのですが,父の遺言が見つかりました。ところが,遺言の中身を見た母(配偶者)が遺言を破り捨ててしまいました。私自身遺言書の内容がどのようなものであったのかは分からないのですが,父の生前の遺志がわからず,母に対してはとても憤りを感じています。こんなひどいことをした母にも相続する資格はあるのでしょうか。

<弁護士からの回答>

 相続人が誰になるのかという問題について,これまでは法定相続人,すなわち,法律上相続人となることができる親族は誰かということについてご説明させていただきました。今回からは,形式的には法定相続人に該当する者であっても,不誠実な行為をしたことより,法律上相続人となる資格を失う場合や,被相続人や他の相続人の意思に基づき相続人としての資格を失う場合として,欠格事由と相続人の廃除についてご説明させていただきます。今回は,欠格事由として法律上当然に相続人としての資格を失う場合についてご説明いたします。

 相続における欠格事由とは,相続人が当該欠格事由に該当する行為を行った場合,法律上当然に相続人たる地位(資格)を失うものをいいます。
 欠格事由については,民法891条に規定されており,891条の各号に規定されている事由に該当するものは「相続人となることができない」とされています。
 欠格事由の具体的な内容として,「故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者」(1号),「被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者」(2号,ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは除く),「詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者」(3号),「詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者」(4号),「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」(5号)があります。

 上記の欠格事由に該当する者がいる場合には,法律上当然に相続人たる地位を失うことになります。その結果,遺産分割協議については,欠格事由に該当する者を除いて遺産分割協議を行うことが可能です。
 しかし,相続欠格事由に該当する場合であっても,戸籍等で客観的に欠格事由であることが明らかにならないため,実際の遺産分割の手続では,その人が欠格事由に該当することを客観的に証明する必要があります。具体的には,自分が欠格事由に該当していると認めている場合には,その者に欠格者であることの証明書に署名いと実印を捺印してもらい,印鑑証明書を添付して登記手続等を行うことになります。他方,自分が欠格者ではないと主張している場合には,別の機会にもご説明させていただきますが,民事訴訟(相続人の地位不存在確認の訴え)により確定判決を得る必要があります。

 ご相談者様の事例では,母親が被相続人の遺言書を破棄しているため,欠格事由(民法891条5号)に該当するため,ご相談者様の母親には相続権はありません。
 欠格事由については,別の機会にもご説明しますが,代襲相続とも関連する問題であり非常に複雑であるため,是非一度弁護士にご相談ください。

1 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 53
WEB予約 Nexill&Partners Group 総合サイト
事務所からのお知らせ YouTube Facebook
弁護士法人サイト 弁護士×司法書士×税理士 ワンストップ遺産相続 弁護士法人Nexill&Partners 福岡弁護士による離婚相談所