欠格事由と廃除について(2)~相続人の廃除について②~
欠格事由と廃除について(2)~相続人の廃除について②~
<ご相談者さまからのご質問>
相続人の廃除という方法を使えば,特定の相続人に相続させないようにすることができるのですね。どのような場合に相続人の廃除は認められるのですか。また,相続人の廃除をするためにはどのような方法があるのですか。
<弁護士からの回答>
今回は,相続人の廃除の要件及び相続人の廃除を行うための手続きについてご説明させていただきます。
相続人の廃除の要件は,民法892条に規定されており,①遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいいます。)が,②被相続人を虐待,被相続人に重大な侮辱を与える,もしくは,推定相続人にその他の著しい非行があった場合には被相続人において,当該推定相続人を廃除することができます。
廃除される推定相続人は,①「遺留分」を有する推定相続人なので,配偶者,子または直系尊属(つまり兄弟姉妹以外の推定相続人になります。)が廃除の対象になります(遺留分については別の機会にご説明させていただきます。)。したがって,兄弟しか推定相続人がいない場合には,被相続人の廃除ではなく,特定の相続人に相続させない旨の遺言を作成するのがよいでしょう。
次に,②の要件のうち,「虐待」とは,被相続人に向けられた暴力や耐え難い精神的苦痛を与えることをいいます。また,「重大な侮辱」とは,被相続人に向けたれた,名誉や感情を著しく害する行為をいいます。「その他の著しい非行」については,多額の借金を肩代わりさせた場合や,介護が必要な被相続人を全く介護しなかった場合等が該当するものですが,「虐待」や「重大な侮辱」に匹敵するような非行でありことが必要です。
次に,相続人の廃除をするための手続きとしては,被相続人が生前に家庭裁判所に対し,推定相続人廃除審判を申し立てる方法(民法892条,俗に「生前廃除」と呼ばれています。)と,被相続人が遺言により廃除の意思を表示する方法(民法893条,「遺言廃除」と呼ばれています。)があります。
廃除が認められると,生前廃除の場合には廃除の審判が確定した時点,遺言廃除の場合には廃除の審判確定後,被相続人の死亡時にさかのぼって相続人の資格が失われる効果が発生します。生前廃除の場合には被相続人において,後日廃除した推定相続人と和解できた場合など,廃除を取りやめたい場合には,家庭裁判所への請求や遺言により廃除の取り消しをすることができます。また,遺言廃除の場合には,相続開始後,遺言にしたがって相続手続きを行う遺言執行者を選任しなければならないため,あらかじめ遺言で遺言執行者も定めでおくべきでしょう。
このように,要件に合致し,適切に手続きを行えば相続人の廃除を行うことが可能です。しかし,審判の申立や遺言の作成など手間や専門的な作業を要することに加え,親族間での対立関係が発生したり,それまでの対立関係が悪化する等深刻な状況になりかねないため,相続廃除を希望される場合には,是非一度,弁護士にご相談ください。ご相談者さまの御意向をお聞きして円滑に解決することができるようお手伝いさせていただきます。
民事再生手続ってなぁに?
【A社社長の相談】
うちの会社は飲食事業を経営しており、直近の売上は約1億円ですが、負債が約3億円あり、税金の滞納が500万円程あります。3年前に、新店舗を開店し、設備投資をしたことが原因でその後赤字に転じてしまい、現在に至っています。それまでは経営は順調でした。月末に、仕入先に対して500万円を支払わなければならないのですが、資金調達の見込みが立ちません。経営が上手くっている店舗もあるので、なんとか会社を継続したいのですが、現状の債務を完済することはできません。どうすればいいでしょうか。
今回は、A社のように、債務の完済は難しいものの、不採算部門を切り捨てれば事業再建の見込みがある場合に適する債務整理の方法として、民事再生手続についてご説明したいと思います。
1 民事再生手続とは?
民事再生手続とは、裁判所を利用した債務整理手続の1つです。裁判所を利用する債務整理手続は、大きく分けて清算型と再建型の2つがあります。どちらの手続も、債務が一定程度免除されるため、今まで返済に充てていたお金を生活や事業に回すことができ、生活や事業を立て直すことができます。
清算型とは、破産手続のことで、原則として保有財産を全て換価して弁済に充て、返しきれない債務については免責するという手続です。他方で、再建型の手続は、一定程度債務を圧縮した上で、将来の収入を原資に長期間の弁済計画を立て、分割弁済を行って債務を整理していく手続のことです。再建型の手続には、法人も個人も利用できる一般的な手続として民事再生手続がありますが、実際は会社において利用されることが多く、個人向けの再生手続としては、小規模個人再生手続や給与所得者等再生手続が準備されています。なお、上場企業等、大規模な会社の再建手続として会社更生手続もあります。
2 民事再生手続のメリットとデメリット
民事再生手続には、以下のとおり様々なメリットやデメリットがあります。
<メリット>
①破産に至る前の経済状況でも申立てが可能。
⇒破産する場合は、破産開始原因(債務超過又は支払不能の状態にあること)が必要となりますが、民事再生手続の場合は破産開始原因まで存在しなくとも、「破産開始原因が生じるおそれがある場合」又は「事業の継続に著しい支障を来たすことなく、弁済期にある債務を弁済することができない場合」であれば、申立てができます。
*例えば、事業用資産を売却すれば債務を返せるが、その資産を売ってしまうと事業の継続が困難になってしまうというような場合、破産手続は行うことはできませんが、民事再生手続であれば申立てが可能となります。
②現在の資産を保有し続けることが可能。(車や家を手放さなくてよい)
⇒破産手続の場合は、申立時に保有している財産を弁済原資とするため、自由財産に該当しない限り原則として全ての財産が換価の対象となりますが、民事再生手続であれば、将来 の収入を弁済原資とするため、現状保有している資産については引き続き保有することができます。
③免責不許可事由があっても問題ない。
⇒破産手続の場合、免責不許可事由があれば負債は消えず、債務整理の意味をなしませんが、民事再生手続では免責不許可事由の有無に関わらず債務整理が可能です。
④資格制限がない。
⇒破産手続の場合、職業の内容によっては資格制限が生じますが、民事再生手続の場合はその心配がありません。
⑤再生計画の定めで認められた権利を除いて、再生債務者の再生債権は免責される。
⇒再生計画が認可されると、再生計画に定められた債務を返済すれば、残りの債務は免除されます。任意整理手続と異なり、利息のみならず元本についても大幅なカットが見込めます。
⑥再生計画に反対する債権者がいても、可決要件を満たせば権利変更が生じる。
⇒任意整理の場合は、同意しない債権者がいる限り、当該債権者との間の債務については減免されませんが、再生手続では、可決要件を満たせば反対債権者も再生計画に拘束することができ、再生計画の通りに権利変更(債務の圧縮・弁済猶予等)が生じます。
なお、可決要件は、㋐議決権を行使した議決権者の頭数による過半数が賛成し、かつ㋑議決権総額の2分の1以上の議決権を有する者が賛成することです。
<デメリット>
①費用がかかる。
⇒再生手続を申し立てる際、裁判所に費用を予納する必要がありますが、法人の再生手続の場合は最低でも数百万円はかかります。また、民事再生手続の申立ては複雑であり、通常は弁護士に依頼して行うため、弁護士費用もかかります。弁護士費用に関しては、各法律事務所によって異なりますが、法人の場合は数百万円は見込んでおいた方が良いでしょう。
②再生計画が可決・認可されると、確定判決と同一の効力を有するため、不履行の場合は強制執行が可能となる。
⇒再生計画は10年以内の期間を定めて分割弁済の計画を立てることになります。このようにわりと長期間の分割弁済計画となりますが、再生計画で決まった債務の内容については、責任を持って履行しなければなりません。不履行がある場合には強制執行が可能となりますし、再生計画の認可が取り消されてしまうおそれがあります。
③ブラックリストに載る
⇒これは、民事再生手続特有のことではなく、破産や任意整理の場合も同様ですが、ブラックリストにはのるため、クレジットカード等は作りづらくなります。
3 まとめ
以上の通り、民事再生手続には、様々なメリットとデメリットがあります。なお、民事再生手続で決まった債務の内容は責任をもって履行しなければならないため、再生手続を選択する際には、慎重に見通しを立てる必要があります。債務整理にお悩みの方は、一度専門家の弁護士にご相談されることをお勧めします。
否認ってなぁに?
【Aさんの相談】
2年程前から会社の経営が傾き始め,今では負債が多額に上り,多数の債権者から督促を受けている状況です。最近では,弊社の信用悪化が噂になり,多数の債権者から取り立ての電話が激しくなり,一部の大口債権者からは,私の自宅を担保にいれるよう強く求められています。いずれ破産により自宅は手放すことになるので,取り立てを免れるために担保提供しようかと考えています。しかし,先日,破産を経験した知人から,「そのようなことをしてしまうと破産した時に否認され,後々面倒なことになるよ。」と忠告を受けました。破産手続きにおける否認とはどのような制度なのでしょうか。
1 否認とは?
否認とは,経済状況が悪化した状況下で行われた一定の取引について,その行為を取消し,逸失した破産者の財産を取り戻す制度です。破産状況下では,債務者の限られた財産を巡って債権者間の利害が対立するため,一部の強引な債権者が債務者に言い寄って,自分のみに弁済を強要したり,担保を提供させたり,適正価格よりも低い価格で売買をして債権を回収するなどの行為に出ることがあります。
そこで,破産法は,破産手続開始後は,破産者の財産処分権を管財人に移してそのような行為を防止し,破産手続開始前に行なわれた行為については,管財人に否認権という権利を認め,事後的に管財人が取り消すことができるという仕組みをとっています
2 否認請求の相手方は誰?
否認請求の相手方は,破産者との間で否認対象行為を行った相手方(受益者)と,受益者からの転得者です。但し,受益者と転得者は,原則として当該取引時に否認の原因があったこと,すなわち,破産者が破産状態にあり,そのような行為をすれば他の債権者を害することになることについて知っていることが必要です。なお,例外的に,否認対象行為が贈与等の無償行為やこれと同視されるような著しく廉価な有償行為等であれば,当該行為自体が破産者の財産を害する結果を招く危険が高いことが明白であるため,受益者や転得者の主観的要件は不要となります。
たとえば,X(破産者)がY(受益者)に対し,高級車を贈与し,Yが,Z(転得者)に当該高級車を売買していたとします。ここで,各取引時に,YもZもXが破産状態であることを知っていた場合には,Xの破産管財人は,YとZに対し,各行為を否認することができます。仮に,YはXの破産状態を知っていたものの,Zは知らなかった場合は,Yに対してのみ否認することがきでます。この場合,XY間の贈与契約のみが取り消されるため,YZ間の売買契約は有効のままとなります。
3 否認されるとどうなるの?
否認されると,破産者とその相手方との間で行われた行為が取り消されることになるため,契約当事者は,契約前の状況に戻す必要があります。そのため,2で上述した事案では,Yは破産管財人に対し,高級車が手元にない以上,高級車を戻すことはできませんが,価値代替物としてZに売買した際の売買代金を取得していますので,当該売買代金を破産管財人に返還しなければなりません。また,Zに対しては,高級車がZのもとにある状態であれば,高級車を返還しなければならず,既に転売して存在しない場合には,転売代金を返還することになります。
なお,否認対象行為の取引時に,受益者も破産者から何らかの反対給付を受けている場合には,受益者は破産者に対してその返還を求めることができます。例えば,前述の高級車の事案について,XY間の取引が贈与ではなく,廉価売買だった場合で,XY間の廉価売買が否認された場合,Yは管財人に対して取得した高級車又はその価値代替物を返還しなければなりませんが,同時にYは破産者に対し,廉価売買時に支払った売買代金について返還請求をする権利を有します。
4 期間制限
否認権は,破産手続開始の日から2年を経過した場合又は否認対象行為が行われた日から20年経過した場合は,時効により消滅します。否認権の行使がいつまでも認められると,受益者や転得者の利益を害するため,否認権の行使可能時期については制限が設けられています。
5 まとめ
以上の通り,破産法では否認という制度を設け,破産者の財産逸失行為について厳格な規制をしています。否認は,既に終わった取引を事後的に取り消す結果となるため,取り消される側の債権者にも多大な迷惑をかける形になります。また,破産者自身も免責不許可事由に該当する可能性があります。
破産手続がまだ正式に開始していないからと言って,債権者に言い寄られて不当な財産処分をしてしまうと,後々免責不許可になったり,債権者に迷惑をかける結果となりかねませんので,債権者から言い寄られた場合には,後々否認されてしまうからという理由を説明して毅然とした態度で断ることが重要です。しかし,これらの対応は,返済が滞っている債務者の立場で行うことは難しいことがほとんどですので,早期に弁護士に相談し,適切な対応をしてもらいましょう。
欠格事由と廃除について(2)~相続人の廃除について①~
欠格事由と廃除について(2)~相続人の廃除について①~
<ご相談者さまからのご質問>
自分も高齢になってきたので,自分が亡くなったときに自分の残された財産がどのように妻や子ども達に相続されるのかが気がかりです。私には妻がと息子が2人おり,長男はとても粗暴な性格で長年私に対し暴力を振るってきました。このような親に対して不誠実な行為を行う長男には財産を相続させたくはありません。
どうすればいいでしょうか。
<弁護士からの回答>
前回は,相続人の欠格事由についてご説明させていただきましたが,今回から3回にわたって相続人の廃除についてご説明させていただきます。相続欠格の場合には法律上当然に相続人たる資格を喪失するものですが,相続人の廃除については被相続人の意思により相続人たる資格をはく奪するものであります。今回は,特定の相続人に相続をさせたくない場合にどのような選択肢が存在するかについてご説明させていただきます。
特定の相続人に相続をしてほしくない場合に被相続人がとりうる方策としては(相続欠格事由に該当する行為がないことを前提としています。),①相続人に被相続人の死後,相続放棄をしてもらうことを期待する,②自分の財産のすべてを特定の相続人の相続させる(特定の相続人には相続させない)旨の遺言を作成する,③相続人の廃除を行うという3つの方策が考えられます。
①の方法については,被相続人の死亡前における相続放棄が認められておりませんので(民法915条1項では,相続放棄は「相続の開始があったことを知った時から」3か月以内にしなければならないと規定しており,死亡前の相続放棄を認めておりません。),いくら相続人が相続放棄すると約束していたとしても,死後,相続放棄をしない場合には,相続されてしまいます。
②の方法については,相続人となる予定の人(推定相続人といいます。)が兄弟しかいない場合には,兄弟には遺留分がないため(遺留分については別の機会にご説明いたします。),この方法により相続させたくない人に相続させないことが可能です。
もっとも,推定相続人が遺留分を有する配偶者や子である場合には,特定の相続人に対して一切相続をさせないという遺言を作成したとしても,後日,遺留分減殺請求権を行使されることにより,いくらか財産を回収されてしまう可能性が十分に残ってしまいます(生前に,遺留分の放棄をしてくれている場合には,こうした問題は起きませんが,遺留分の放棄を強制することはできません。
遺留分の放棄については別の機会にご説明させていただきます。)。また,残された相続人の方に遺留分にまつわるトラブルに巻き込んでしまうという側面もあります。
そこで,被相続人において③相続人の廃除を行うことで,欠格事由に該当する場合と同様に,相続人たる資格を喪失させることができるため,自らの意思で,相続させたくない人から相続人たる資格をはく奪することができます。
次回は,相続人の廃除に関する要件についてご説明させていただきます。
破産手続で免責不許可事由があっても破産できる?
破産手続で免責不許可事由があっても破産できる?
1 裁量免責制度
個人破産の場合、免責目的で申立てをすることがほとんどだと思いますが、免責不許可事由に該当する場合、申立てを諦めるしかないのでしょうか。
破産法では、様々な免責不許可事由を規定していますが(免責不許可事由の詳細は別記事に記載しているためそちらをご覧ください。)、あわせて裁量免責制度を設けており、免責不許可事由に該当しても裁判所の裁量により免責される余地を残しています。
それでは、どのような場合に裁量免責が認められるのでしょうか。破産法では、裁量免責をする場合の要件として、「破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるとき」と規定しています。つまり、破産に至った一切の経緯を総合考慮するということですが、具体的にはどのような事情を考慮して決定しているのか、今回は裁判例をご紹介しながらみていきたいと思います。
2 過去の裁判例
<裁量免責が認められた事案>
【事案①】
破産者は、自宅購入費として3500万円全額を借入れた結果、収入の約半分を自宅取得に関する借金返済に充てざるを得ないことになり、破産を申し立てた事案です。
裁判所は、購入当初から破産者夫婦の収入に照らして返済不能であることが容易に予想できたにもかかわらず、安易に高額な自宅を購入した行為について、免責不許可事由である「浪費」に該当すると判断しましたが、以下の事情を考慮して裁量免責としました。
*考慮された事情
・自宅の取得という目的は、それ自体正当なものであること
・金銭を費消した場合とは異なり、その時点では借入金に相当する資産(不動産)を保有するのであるから、自宅取得を一概に非難することはできないこと
・破産者の債務額が増大したのは、自宅維持のためであって汲むべき事情があること
・自宅の売却代金が一般債権者への返済に全く充てることができなかったのは、バブル経済崩壊という通常人が予想しえない事情により、自宅取得額よりも相当安価でしか任意売却ができなかったことによるものであること
・免責に対して異議申し立てをした債権者がいなかったこと
・生命保険解約金100万円を原資に任意配当を行い一応の誠意を示していること、
・破産者は交通事故の負傷により廃業せざるを得ず、高齢で健康状態もよくないこと、
・破産者は反省して更生の意欲を示していること
など
【事案②】
破産者(プロ野球選手)は、契約金1800万円と年俸440万円の収入がありましたが、そのほとんどは父親の債務弁済に充てられており、別途自己の債務として総額1437万円の負債があったため、破産申立てをした事案です。債務総額1437万円のうち、1069万円は4台の自動車を買い替えたことによる出費に基づく債務であったため、裁判所は、自動車の買替えは「浪費」に該当すると認定しましたが、以下の事情を考慮して裁量免責を認めました。
*考慮された事情
・破産者の債務状況が悪化したのは上記浪費の他、父親の債務弁済を強いられたり、退団を余儀なくされたことにも起因しており、一概に破産者ばかりを非難できないこと
・免責に対して異議申し立てをした債権者がいないこと
・破産者が若年で更生の見込みがあること
など
【事案③】
破産者(銀行員)は、株式投資に失敗し、その損失補填のために3000万円以上を借り入れてさらに株式投資をしましたが失敗したため、破産を申し立てた事案です。
裁判所は、当初の投資失敗の損失補填について、再度の投資ではなく銀行員としての収入に照らして堅実な返済を行うべきであって、投資のための借入れは「浪費」に該当すると認定した上、以下の事情を考慮して裁量免責を認めました。
*考慮された事情
・投資に走った当時、バブル経済の渦中にあり無理からぬ面があること
・投資が行き詰ったのは株の暴落が直接の原因であり、破産者のみを責められないこと、
・破産者は債務の弁済のために自宅を売却し、退職金も弁済に充てる等、誠実に返済の努力をしていること
・破産者は親戚等からの経済的援助を見込めない上、重度の身体障害者である母を扶養せざるを得ない立場にあること
など
<裁量免責が認められなかった事例>
【事案④】
ギャンブルや高額な飲食を原因とする借財で破産に至ったケース。
⇒免責不許可事由である「著しい射倖行為及び浪費」と認定した上、債務総額や、借りた後に返済の努力をしていないこと、無職であるにもかかわらず短期間で借り入れを重ねて多額の借財を負っている経緯を考慮し、裁量免責も否定しました。
3 小括
以上のとおり、上記の裁判例に照らすと、裁量免責の際は以下の事情が判断要素とされているようです。
・債務を負担するに至った経緯
・返済できなくなった経緯
・借財時に返済不能の見通しを立てることができたかどうか
・免責について債権者が異議を述べているか
・総負債額
・返済の努力の有無・誠実性
・破産者の現在の生活状況、健康状況
・破産者の更生意欲・更生可能性
など
4 結語
以上の通り、免責不許可事由に該当しても、破産に至った経緯につき、破産者のみを非難することが相当でない場合や、破産者の経済的更生の可能性や必要性等を総合考慮して裁量免責が認められています。結局は、破産免責という制度が誠実な債務者に対する経済的更生を保障する制度ですので、当該免責制度の趣旨に合致するのであれば、免責が認められます。
そのため、免責不許可事由に該当する方でも、すぐに諦めずに、破産の実務経験が豊富な弁護士に一度相談の上、手続の見通しを立てることをお勧めします。
欠格事由と廃除について(1)~欠格事由について~
欠格事由と廃除について(1)~欠格事由について~
<ご相談者様からのご質問>
父が先日亡くなったのですが,父の遺言が見つかりました。ところが,遺言の中身を見た母(配偶者)が遺言を破り捨ててしまいました。私自身遺言書の内容がどのようなものであったのかは分からないのですが,父の生前の遺志がわからず,母に対してはとても憤りを感じています。こんなひどいことをした母にも相続する資格はあるのでしょうか。
<弁護士からの回答>
相続人が誰になるのかという問題について,これまでは法定相続人,すなわち,法律上相続人となることができる親族は誰かということについてご説明させていただきました。今回からは,形式的には法定相続人に該当する者であっても,不誠実な行為をしたことより,法律上相続人となる資格を失う場合や,被相続人や他の相続人の意思に基づき相続人としての資格を失う場合として,欠格事由と相続人の廃除についてご説明させていただきます。今回は,欠格事由として法律上当然に相続人としての資格を失う場合についてご説明いたします。
相続における欠格事由とは,相続人が当該欠格事由に該当する行為を行った場合,法律上当然に相続人たる地位(資格)を失うものをいいます。
欠格事由については,民法891条に規定されており,891条の各号に規定されている事由に該当するものは「相続人となることができない」とされています。
欠格事由の具体的な内容として,「故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者」(1号),「被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者」(2号,ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは除く),「詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者」(3号),「詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者」(4号),「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」(5号)があります。
上記の欠格事由に該当する者がいる場合には,法律上当然に相続人たる地位を失うことになります。その結果,遺産分割協議については,欠格事由に該当する者を除いて遺産分割協議を行うことが可能です。
しかし,相続欠格事由に該当する場合であっても,戸籍等で客観的に欠格事由であることが明らかにならないため,実際の遺産分割の手続では,その人が欠格事由に該当することを客観的に証明する必要があります。具体的には,自分が欠格事由に該当していると認めている場合には,その者に欠格者であることの証明書に署名いと実印を捺印してもらい,印鑑証明書を添付して登記手続等を行うことになります。他方,自分が欠格者ではないと主張している場合には,別の機会にもご説明させていただきますが,民事訴訟(相続人の地位不存在確認の訴え)により確定判決を得る必要があります。
ご相談者様の事例では,母親が被相続人の遺言書を破棄しているため,欠格事由(民法891条5号)に該当するため,ご相談者様の母親には相続権はありません。
欠格事由については,別の機会にもご説明しますが,代襲相続とも関連する問題であり非常に複雑であるため,是非一度弁護士にご相談ください。
破産手続で否認される偏頗弁済ってなぁに?
【Aさんの相談】
私は現在破産を考えていますが,債権者の中にとてもお世話になった人がおり,その方から借りている100万円については何としてでも返済したいと思っています。しかし,弁護士さんに相談したところ,破産する場合は,一部の債権者のみに債務を返済することは「偏頗弁済」にあたり,免責不許可事由にあたるからその人のみに返済することはできないと言われました。しかし,その債権者の方は,私の祖父の代から,代々お世話になった方であり,その方へ不義理をするくらいであれば,破産はできないと考えています。この場合,何か方法はありませんか。
1 偏頗弁済ってなぁに?
偏頗弁済とは,偏った弁済,すなわち,一部の債権者に対してのみ,債務を弁済することを言います。破産手続は,破産手続開始決定時に残された財産を換価し,全ての債権者に債権額に応じて平等に配当する手続ですので,偏頗弁済が行われると,抜け駆け的な弁済になり,他の債権者との公平性を害するため,破産法は偏頗弁済に関する規制を設け,偏頗弁済を行った場合は,事後的に否認(=取り消す)ことができるとし,併せて,偏頗弁済を免責不許可事由として定めています。
なお,偏頗弁済が禁止されるのは,債権者間の公平性を害するという趣旨ですので,破産法は,返済行為に限らず,一部の債権者にのみ債務を負担したり,担保を提供する行為等も同様に規制しています。(以下,一部の債権者への返済,債務負担,担保提供,債務消滅行為等を併せて「偏頗行為」といいます。)
2 否認の対象になる偏頗行為とは?
偏頗行為が破産法上規制されているのは上述の通りですが,否認や免責不許可の対象となる偏頗行為の具体的要件について,以下見ていくことにします。対象となる行為類型は,大きく分けて,(1)(2)の2種類あります。
【要件】
(1)支払不能または破産手続申立て後にされた偏頗行為
*「支払不能」とは,債務者の経済状況悪化により,弁済期にある債務を,一般的かつ継続的に弁済することができない状態を言い,破産手続開始の要件となっています。
破産法が偏頗行為を規制する趣旨は,破産状態に至った後の抜けがけ的弁済による債権者間の不平等を防止する点にあるので,破産法上規制される偏頗行為は,支払不能等の債務状況悪化後のものとされています。
* 対象行為:担保供与や債務消滅行為が「既存の債務」に対してなされたものであること
⇒ 「既存の債務」に対してなされたという意味は,裏を返せば,同時交換的に行った担保供与は規制の対象にならないということです。例えば,既存の借金が返せなくなり,債権者から担保の差入れを要求されたため,後日自宅に抵当権を設定したという場合は,「既存の債務」に対してなされた担保供与として否認の対象となります。他方で,新規の融資をしてもらうために担保の設定をする行為は,担保設定と同時交換的に融資を受ける形になるため,「既存の債務」に対してなされたものに該当せず,否認の対象にはなりません。
* 債権者側の主観:偏頗行為を受けた債権者側が,債務者の支払不能状態について知っていたこと
⇒ 偏頗行為が否認されると,既に受けた弁済や担保供与の効力は事後的に否定されることになるため,債権者の利益を害することになり,その後の法律関係も不安定になります。そのため,債権者保護の見地から,否認対象となる行為については,債権者側も,偏頗行為を受けた時点で,債務者の破産状態を知っていたことが要件とされています。
(2)支払不能前30日以内になされた非義務行為
⇒ 非義務行為とは,義務なく行う行為,すなわち,義務がないにもかかわらず,担保を設定したり,本来の支払期日を前倒しして返済したり(期限前弁済),本来の返済方法とは異なる方法で返済したり(代物弁済)するとことを言います。
(1)に記載した偏頗行為は,義務に基づく行為である点で(2)と異なります。非義務行為の場合は,支払不能直前に行なわれたものも否認の対象となります。
3 破産手続終了後に借金を返済するのはOK?
以上の通り,破産手続をする場合,偏頗行為は禁止されます。それでは,お世話になった方からの借金を返済する手段はないのでしょうか。
破産により免責許可決定が出ると,債務を返済する義務は免れますが,破産手続終了後に,新たに得た収入から任意に債務相当額を弁済することは認められています。しかし,手続終了後の任意弁済が自由となると,債権者が破産者に対して,手続終了後に「任意弁済」という名目の下,債務返済を強要し,結局は弱い立場の債務者は断れずに弁済する羽目になり,経済的更生を図れなくなってしまうことが目に見えています。
そのため,実務上は,手続終了後の任意弁済に関しては,債務者が自由意思に基づいて任意に弁済したかどうかについて極めて厳格に判断され,少しでも強制の要素がある場合は無効となります。
よって,本件のAさんも,お世話になった債権者に対して,破産手続終了後に,自由意思に基づいて任意弁済をすることは禁じられていないので,そのような形でAさんの要望は叶えることができます。
4 まとめ
以上の通り,破産法では,偏頗行為が規制されており,偏頗行為を行うと事後的に否認されたり,そもそも免責許可を受けられなくなってしまう可能性がありますので,破産手続を検討されている場合は,どのような行為が偏頗行為にあたるのか,きちんと認識し,不安な方は弁護士に相談しましょう。
なお,破産する上で偏頗行為は規制されますが,破産手続終了後に自身の自由財産から返済することは可能ですので,お世話になった人への債務が消えてしまうことを気にかけて破産を躊躇されている方は,お世話になった人にその旨説明をした上で,破産手続に移行しましょう。
相続人について②~第一順位の相続人(子)にまつわる問題~
相続人について②~第一順位の相続人(子)にまつわる問題~
<ご相談者様からのご質問>
【ケース1】
祖父が先日なくなりました。祖父のこどもは私の父を含めて5人います。
私の父は祖父が亡くなるよりも数年前に亡くなっているのですが,この場合,祖父の財産は父以外の兄妹で分けることになるのでしょうか。
【ケース2】
現在,私は妊娠しています。夫が急になくなってしまいこれからの生活をどうしようかと悩んでいます。夫の両親はすでに亡くなっておりますが,夫の兄妹が6人もいます。この場合,夫の財産はわたしと夫の兄妹でわけることになってしまうのでしょうか。
子は,第一順位の相続人として相続の問題に巻き込まれる頻度が高いといえます。ケース1,ケース2の場合には子が相続人になる場面ではなさそうですが,法律上こういったケースに対する保護を及ぼしています。今回は代襲相続や胎児の問題についてご説明させていただきます。
<弁護士からの回答>
【ケース1について】
ご相談者さまのお父様は被相続人よりも先に死亡しているため,相続人にはなれず,それ以外の子4人で分割することになるかとも思われます。しかし,この場合,ご相談者様のお父様が被相続人よりも後に死亡していた場合には,被相続人の相続分をご相談者様が相続することになるため,被相続人の直系卑属がいつ死亡したかにより不平等な結果となってしまいます。そこで民法上,被相続人の子が相続の開始以前に死亡したときにはその者の子が代襲して相続人となるとされており(民法887条1項本文),これを代襲相続といいます(被相続人の子を被代襲者,被代襲者の子を代襲者といいます。)。したがって,今回のケースでも,ご相談者様が代襲者となるため,お父様の地位を引き継いで(お父様のかわりに)相続人になりますので,お父様のご兄弟とともに遺産分割協議を行うことになります。
代襲相続については他にも多くお伝えしたいことがありますので,別の機会にまとめてご説明させていただきます。
【ケース2について】
民法上「私権の享有は,出生に始まる。」(3条1項)と規定されており,権利義務の主体となることができる始期は出生時となっています。この規定に従うと,被相続人の死亡により相続が発生するところ,相続人となるためには被相続人が死亡している時点で出生している必要があり,胎児は相続人になれないことになります。
そこで,民法ではこうした胎児の権利保護を図るために,例外規定として,「胎児は,相続については,既に生まれたものとみなす。」(民法886条1項)として,相続開始時に胎児であれば相続人たりうることになります。したがって,ケース2の事例でも,胎児はすでに出生しているものとみなされるため,相続人は配偶者の奥さんと第一順位である子(胎児)ということになります。もっとも,胎児が死産してしまった場合には先程の規定が適用されなくなるため(民法886条2項),ケース2の場合でも,相続人は配偶者の奥さんと,第三順位にあたる被相続人のご兄弟6人になります。
破産手続でいう免責制度ってなあに?
1 免責制度とは
免責制度とは,債務者の経済的更生を支援するために,債務の返済責任を免除する制度です。破産手続を通じて配当を行ってもなお債務が残る場合,その債務を返済しなければならないとなると,破産手続後も債務の返済に追われ,債務者の経済的自立が妨げられてしまいます。そこで,破産法は,破産手続終了後になお残った債務については,一定の場合を除き,原則として免責することを認めています。なお,免責制度があるのは個人の債務者のみです。法人の場合は,破産手続の終結により法人格を失うため,免責による経済的更生を認める必要がないからです。
一般的に,自己破産すると借金が消えるというイメージだと思います。これは,破産手続きによって消える訳ではなく,免責されて消えるので,この点を十分に理解されておいてください。
2 申立て手続
免責手続は,破産手続とは別の手続であるため,別途免責を求める申立てをする必要があります。ただ,個人破産の場合は免責獲得目的で破産をする場合がほとんどなので,現行の制度では,個人破産の場合は,破産申立てと同時に免責申立てがなされたものとみなすという運用をしています(申立書の雛形に免責申立ての記載があり,印紙代も免責申立分を含んだ金額である1500円を納めるのが通常です)。ですので,債務者が免責されることを潔しとせず,反対の意思を有している時は,免責申立てをしないことを破産手続申立て時に表示する必要があります。なお,免責申立ては,破産手続申立てと同時ではなく,追って申立てをすることも可能ですが,破産手続開始決定が確定してから1か月を経過する日までの間に申立てをする必要があります。
3 免責不許可事由とその調査
免責により,債務者の経済的更生が図られる一方,債権者の財産権は大きく害されることになるため,免責は,全ての債務者に認められるわけではなく,誠実な債務者にのみ認められます。そこで,破産法は,一定の場合を免責不許可事由として定め,破産管財人は,免責を求める債務者に,免責不許可事由に該当する事情がないかについて調査を行い,その調査結果に基づき裁判所が免責決定を出すかどうかを判断します。なお,同時廃止事件の場合は,管財人の選任はないため,免責不許可事由の判断は,事実上本人が申述した内容に基づいて裁判所が判断することになります。
個々の免責不許可事由としてどのようなものがあるかについては,別の記事で詳述しますが,仮に免責不許可事由に該当しても,裁量免責という制度があり,裁判所の裁量で免責が認められることもあります。
もちろん,免責不許可事由があれば形式的には免責されない可能性がありますが,裁判所もそれほど形式的ではありません。免責させなくては経済的に立ち直れない人に対して,免責不許可事由があるからといって免責させなければ,その人は立ち直ることができないまま放り出されてしまいます。そのため,余程悪質なケースでなくては,裁判所は裁量免責で免責を認めてくれるケースが多い印象です。
4 免責債権と非免責債権
免責許可決定を受けると,全ての債務が消えると思っている人もいますが,免責によって消える債務と消えない債務があるので注意が必要です。
免責許可決定を受けても消えない債務を,非免責債権と呼びますが,破産法では,以下の債務を非免責債権として規定しています。
①租税債務の一部
破産手続開始前の原因に基づいて発生した租税債務のうち,破産手続開始当時に①納期限が未到来のものと,②納期限が一年以内のものについては,免責許可を受けても消えません。
②破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償債務
不法行為に基づく損害賠償債務のうち債務者の単なる故意(損害の発生について認識していた場合)に基づくものではなく,積極的な害意をもって行った不法行為に基づく損害賠償債務は免責許可を受けても消えません。このような債務が破産免責によって消えてしまうと,社会の法秩序は成り立ちません。
③故意又は重過失による不法行為のうち,他人の生命又は身体を害する不法行為に基づく不法行為に基づく損害賠償債務のうち,故意又は重過失(故意に匹敵するような重い過失)により生じたもので,それが相手の生命・身体という重大な権利を害している場合には,損害賠償債務は消えません。
④親族の扶養義務等
婚姻費用分担義務や養育費支払義務等,親族間の扶養義務に基づく債務は消えません。
⑤労働債権等
個人使用者に雇われている使用人の賃金請求権や退職金の請求権等の労働債権は消えません。また,使用人からお金を預かっていた場合は,使用人に対する預り金返還債務も消えません。
⑥破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった債務
破産者が債務があることを知りながら裁判所に申述しなかった債務については,債権者が免責に対して意見を申述する機会が事実上奪われてしまうため,債権者保護の権利から原則として消えません。但し,債権者が破産手続開始決定を知っていた場合は,債権者に申述機会があるため,この場合は非免責債権には当たりません。
⑦罰金等の債務
罰金,加療,刑事訴訟費用追徴金及び過料等は消えません。
5 保証人等に対する免責の効果
免責許可の決定は,破産者に対してのみ及びます。そのため,債権者は,破産者の保証人や連帯債務者,物上保証人等に対して従前通り請求できます。
6 まとめ
以上の通り,破産法は,免責制度を設け,債務者の経済的更生を支援しています。破産でお悩みの方の中には,「破産して債務を消すなんてお世話になっている債権者に申し訳ない。」と言って,破産手続の利用を躊躇される方もいますが,上記の通り,免責は誠実な債務者のみに法が認めた制度であり,免責されるかどうかについては裁判所による審査の上で決定される事柄ですので,何ら躊躇する必要はありません。どうしても免責を避けたいのであれば,免責の申立てを希望しない形で申立てることも可能です。
また,免責を希望して破産をお考えの方については,それが本当に消える債務なのかどうかについてはしっかりとした確認が必要です。債務のほとんどが税金等の非免責債権の場合は,免責されず,破産申立てをする意味がありません。
破産による免責についてお悩みの方は,一度破産手続に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めします。
相続人について①
相続人について①
<ご相談者さまからのご質問>
先日,夫が急になくなってしまいました。これから相続のことについて考えなければなりません。夫との間には子どもが1人おり,夫の両親もご兄弟も健在です。この場合,誰が相続人になるのでしょうか。
<弁護士からの回答>
ご家族の方がお亡くなりになられたとき,どなたが相続人に該当するのかという問題は,誰に財産を分けなければならないのかという問題だけにとどまらず,誰が相続税を負担しなければならないのかという問題にも関わってきます。そこで本日は,誰が相続人となるのかという法定相続人について総論的なお話をさせていただきます。
誰が相続人になるのかということに関するルールは民法の886条から895条に規定されており,民法上相続人となることができると規定されている人のことを法定相続人といいます。
まず,配偶者は必ず法定相続人になります(民法890条)。この配偶者については,民法が法律婚主義(婚姻届の提出により初めて法律上夫婦と認める制度のことをいいます(民法739条1項)。)を採用していることから,法律上の配偶者のみを指しており,内縁の妻や,事実婚状態のパートナーは相続人に含まれず,被相続人の財産を一切相続することができません(したがって,なんらかの理由があって法律婚ではない状態でいるパートナーに死後財産を残したい場合には遺言を作成しておく必要があります。)。
配偶者以外の法定相続人は,第一順位の相続人として子(民法887条1項),第二順位の相続人として直系尊属(最も親等の近い者,民法889条1項1号),第三順位の相続人として兄弟姉妹(民法889条1項2号)となっています。第二順位,第三順位に該当する人は自分より前の順位に該当する人がいる場合には相続人にはなれません。
したがって,ご相談者様の事例では,まず,配偶者である奥様は相続人になります。また,第一順位の相続人であるお子さんがいらっしゃるので,お子さんは相続人になります。第一順位の相続人であるお子さんがいらっしゃる以上,第二順位に該当するご両親,第三順位に該当するご兄弟は相続人にはなりません。
ご主人にどれだけ財産があったとしても一切相続財産を手にすることができません。事例を変えてお子さんがいらっしゃらない場合には第二順位のご両親が相続人になりますが,第三順位のご兄弟は相続人にはなりません。さらに事例を変えてお子さんもご両親もいらっしゃらない場合に初めてご兄弟が相続人になります。
このように,誰が相続人になるかについては,ケースによって様々です。それ以外にも相続の手続きは複雑であるため,是非一度弁護士にご相談ください。