相続とは何か・・・
<ご相談者さまからのご質問>
知り合いで,相続に関する問題でもめている人がいると聞きましたが,そもそも相続について何も知りません。相続って何ですか。相続が発生するとどういうことが起きるのですか。
<弁護士からの回答>
ご親族がお亡くなりになられた方は必ず相続に直面されていますが,実際にそういった場面にならないと相続に関して意識することはないと思います。そこで,今回は,相続に関する具体的な内容の説明に入る前に,相続とはという一般的な事柄についてご説明させていただきます。
相続とは,自然人(法人ではない法人格のことをいいます。)の財産などを様々な権利・義務を他の自然人が包括的に承継することをいいます。
包括的に承継するため,贈与契約のように特定の財産等を譲り受けるというような選択はできず,すべての財産を譲り受けることになります。また,権利(財産)だけでなく義務,すなわち債務(負の遺産)も承継することになります。
民法上,「相続は死亡によって開始する。」(882条)と規定されており,かつ,「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」(896条本文)と規定されています。死亡した人の財産上の地位を承継する人のことを相続人といい,相続される財産,権利,法律関係の旧主体(死亡した人)を被相続人といいます。したがって,日本における相続とは,被相続人の死亡により,被相続人の権利・義務が包括的に相続人に承継されることをいいます。
この死亡には,実際に死亡が確認された場合だけでなく,失踪宣告や認定死亡等法律上死亡していると扱われる場合であっても相続が開始することになります(失踪宣告,認定死亡については別の機会にご説明させていただきます。)。
相続によって承継される権利・義務ですが,すべての権利・義務が承継されるわけではありません。民法では「被相続人の一身に専属したものは、この限りでない(権利・義務が承継されない)。」(896条但書)と規定されており,一身専属的な権利・義務については相続されないとされています。この一身専属的な権利・義務の具体的な内容としては,使用貸借契約における借主の地位(民法559条),委任契約における委任者・受任者たる地位などがこれにあたり,死亡しても相続されません。また,養育費を支払う義務については一身専属的な義務なので,死亡によりその義務が相続されることはありません(養育費に関する相続の問題は専門的な問題があるため,別の機会にご説明させていただきます。)。
今回は,相続一般について,相続が発生するとどういうことが起きるのかについえご説明させていただきました。次回は誰が相続人になるのかという問題についてご説明させていただきます。
相続をめぐる問題について
1 相続をめぐる問題について
自分が亡くなったとき自分の財産はどうなるのか,自分の財産をめぐって子どもや親族で争いがおきないだろうか。次男にはこれまでさんざん援助してきたので,財産については全て長男に相続させたいと思っているのだがどうしたらよいか・・・・
近年,「終活」という言葉が流行し,書店等にもエンディングノートなどが販売されており,遺言書などの相続についても馴染み深いものになってはいますが,日本人の中には,遺言を作ったり,死後の話をすることに抵抗を持たれている方は少なくありません。
しかし,相続に関する問題は,大きく分けると誰が相続人になるのかという相続人に関する問題,どの財産が相続される対象に含まれるのかという相続財産に関する問題,どの財産を誰にどのように相続させるのかという分割方法に関する問題があり,それぞれの問題の中でも多数の問題があり,その問題を解決するためには専門的な知識を要するものが多々存在します。
そして,相続に関する紛争については,必然的に親族間での紛争になります。ご親族のなかでも,親から多額の援助を受けていた人,一切援助してもえなかった人,親に寄り添い献身的に世話をしていた人がいれば,実家を離れ,まったく世話をしてこなかった人等,お亡くなりになられた人の関わり合いも様々であります。そして相続の場面になった際には,ご親族間でこれまでの長い期間の中でそれぞれが抱えた不満などが爆発してしまい,相続が原因で,親族間で深刻な対立関係が生まれてしまう可能性があります。
自分には多額の財産がないので,遺言を作らなくても問題ないだろうと考えて,相続の対策をされていない方も多くいらっしゃると思います。当事務所にも相続に関するご相談を多数お受けしておりますが,しかし,被相続人の方が多くの財産を有している場合にも紛争になることはもちろんありますが,相続財産がそこまで多額出ない場合でも同じように紛争が生じており,むしろわずかな金額の差であっても解決することができず,紛争が長期化してしまうケースも少なくありません。
このように,相続に関する問題は,事前に準備をしておかないと紛争に発展してしまう可能性が高く(「相続」が「争続」になると言われたりもします。),一度紛争に発展してしまうと,解決するまでに時間や精神面等で多大なる労力を強いられることになってしまいます。
そこで,このブログでは,相続に関し,残された家族の間での争いを起こさないためにはどうすればいいか,相続に関する紛争が生じてしまった場合,適切に解決する方法はどうすればいいか等,相続に関する全般的な問題について,よくあるご相談内容等を紹介しながら,ご説明していきたいと考えています。
離婚原因について~総論~
<ご相談者様からのご質問>
夫と離婚したいと考えています。夫は離婚することに反対しているので,裁判になるかもしれません。裁判で離婚が認められるのはどんなときですか。
<弁護士からの回答>
離婚について当事者の意向が対立している場合には,当事者間に離婚原因が存在するか否かという点が大きな争点となります。今回からは,法律上の離婚原因についてご説明させていただきます。今回は,離婚原因がどのようなものがあるのかについて総論的なお話をさせていただきます。
法定離婚原因とは,民法に規定されている離婚が認められる事由のことをいいます。離婚原因については,民法770条1項に記載されています。
①配偶者の不貞行為
②配偶者による悪意の遺棄
③配偶者の3年以上の生死不明
④配偶者の回復見込みのない強度の精神病
⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由
離婚訴訟では,離婚したいと考える当事者(通常,原告になります。)が上記の①~⑤の事由が存在することを証拠に基づいて主張,立証していくことになります。
そして裁判所において上記①~⑤の離婚原因のうち1つでも存在すると認められると判断した場合には,判決で離婚が認められることになります。
逆に,離婚原因が存在しないと判断された場合には離婚が認められないとの判決がだされることになります。
したがって,どういった場合に各離婚原因に該当するのかという点や,それを立証するためにどういった証拠が必要であるのかという点についてはきちんと理解することが重要になります。特に,上記の離婚事由のうち,①不貞行為や,⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由が認められるか(婚姻関係が破綻しているか)否かという点は,訴訟でも頻繁に争いになります。
そして,不貞行為を行っていることが明らかな場合や,別居が非常に長期にわたり,婚姻関係が破綻していることが明らかな場合については,そもそも訴訟に移行する前に解決することが多く,訴訟にて争われる場合には,不貞行為の有無関して証拠が微妙である場合や,婚姻関係が破綻しているか否かが微妙なケースが多いと思われます。
したがって,そういったケースにおいてきちんと離婚を認めてもらうためには,弁護士に依頼し,訴訟において十分な主張立証活動を行うことが必要不可欠になってきます。
次回からは,各法定離婚原因の具体的な内容についてご説明させていただきます。
相談事例記事について
当事務所では,初回相談に関しては,1時間無料にて対応させていただいていることから,日々様々なご相談をいただいております。
これまで,離婚,相続等個々の分野に関して,コラムを作成させていただきましたが,日常で発生する法律問題については,離婚,相続に限らず,あらゆる法律問題が存在しています。当事務所にご相談に来られる方もこうした様々な法律問題や,そもそも法律の問題ではないトラブルについてもご相談いただくことがございます。
そこで,この相談事例集では,ご相談にお越しいただいた方の相談内容や,社会的に問題になっている事項等を参考に,一般的な相談内容に対し,弁護士としての見解やアドバイス等をご紹介させていただくことにより,弁護士を身近なものに感じていただき,那珂川町のみならず,春日市,大野城市,太宰府市等にお住いの皆様からお気軽にご相談にお越しいただけたらと考えております。
【注意事項】
ご紹介する相談事例はあくまでも一般的な事例であるため,当事務所への個々の相談や,受任している個別の事件とは一切関係ありません。また,回答に関しても一般的な相談に対するものであるため,実際の事件の際には異なる処理が適切である場合がございます。したがって,この事例集をご覧になられた方において,相談事例と同様若しくは類似すると感じた場合でも必ず弁護士のご相談を受けることをおすすめいたします。
離婚条件について
<ご相談者様からのご質問>
夫との離婚を考えています。離婚の際には離婚すること以外にどのようなことを決めなければならないのでしょうか。
<弁護士からの回答>
これまでは,離婚するための方法や具体的な手続きについてご説明させていただきましたが,今回からは,離婚や離婚に関する法的問題の中身についてご説明させていただきます。今回は,離婚する際にどういったことが問題になるのかという離婚及び離婚に関する問題点についてご説明させていただきます。
離婚及び離婚に関する諸問題については,当事者の置かれている状況によってどこまで決めなければならないかは異なるのですが,離婚及び離婚に関する問題については以下のようなものがあります。
① 離婚原因が認められるか否か
当事者の一方が離婚の意思を争っている場合に,法律上離婚が認められるか否かという問題です。
② 親権者
未成年のお子さんがいらっしゃる場合に,どちらが親権者となるかという問題です。
③ 養育費
離婚後の子どもの生活に関する問題です。
④ 面会交流
親権者でない親と,お子さんとの間の面会の方法,回数等についての問題です。
⑤ 財産分与
同居期間中に夫婦によって形成された財産をどのように分配するかという問題です。
⑥ 慰謝料
離婚に至った原因が,一方当事者の違法な行為に該当するか否か,該当する場合には,当該行為により離婚に至ったことに関する精神的苦痛について金銭的に評価するといくらになるかという問題です。
⑦ 年金分割
同居期間に対応して,一方当事者のみが払い込んでいた年金の金額を分割する際の問題です。
また,直接離婚とは関係ないものの,離婚するまでの間の問題として以下の2点も問題になります。
⑧ 婚姻費用
別居してから離婚するまでの間における当事者間の生活費の分担に関する問題です。
⑨ 監護権者
離婚が成立するまでの間,未成年者の子どもを夫と妻のどちらが監護すべきであるかという問題です。
このような離婚及び離婚に関する問題については,上記①~⑨のすべてについて必ず判断しなければならないわけではありませんが(未成年のお子さんが要る場合には必ず親権者を決めなければなりません。),特別な事情がない限り,離婚の際に夫婦間に関する問題を決めておいた方が,後々にトラブルが起きないで済みますので,決めることができる条件については,離婚の際に決めておいた方がよいでしょう。
次回からは,各離婚条件に関する具体的な内容についてご説明させていただきます。
控訴・上告について弁護士が解説
<ご相談者からのご質問>
妻から離婚したいと言われて別居が始まりました。自分としては離婚など到底考えておらず,調停でも裁判でも離婚を争ってきましたが,先日,判決が出され離婚が認められてしまいました。自分としてはどうしても離婚はしたくありません。何か方法はありませんか。
<弁護士からの回答>
家庭裁判所での判決が確定してしまうと,法律上離婚が成立してしまい,それ以上離婚について争うことはできなくなってしまいます。そこで,今回は,離婚訴訟における不服申立制度である控訴と上告についてご説明させていただきます。
日本の裁判は三審制という制度を採用しており,第一審である家庭裁判所での判決に不服がある場合には,高等裁判所に対し控訴することができます。控訴をするためには,高等裁判所宛の控訴状という書面を第一審の家庭裁判所に提出する必要があります。控訴状の提出は,第一審の判決書が送達された日の翌日から起算して14日(2週間)以内に行う必要があり,その期間を徒過してしまうと,第一審の判決が確定してしまうので注意が必要です。
控訴状を提出してから50日以内に,不服申し立ての具体的な理由(控訴理由)を記載した書面(控訴理由書といいます。)を提出します。控訴審においても第一審と同じ流れて進むのですが,実際には,控訴理由書の記載内容で結論が決まってしまうので,控訴理由書がとても大事になってきます。
法律上控訴理由についえては制限されていないので,第一審の事実認定の誤り(事実誤認),法解釈の誤りに加え,新しい証拠が見つかった場合にも主張することが可能です。
なお,控訴審での判断に納得が行かない場合には最高裁判所に不服申立を上告として行うことができますが,上告理由には法律上制限があり,憲法違反等の場合しか認められないため,離婚訴訟については,事実上,争う場合には控訴審までになります。
もっとも,既に第一審で裁判官が第一審で現れているすべての資料をみて判断している以上,控訴審にて第一審の判断が覆る可能性は高くありません。
どのような場合に結論が覆るかについては一概にはいえませんが,第一審の判決後に新たな有力な証拠が見つかった場合や,法的評価や事実評価に著しい誤りがあると認められるような場合でなければ,結論が変更するということはないでしょう。
また,先ほど述べたとおり,控訴審では,控訴理由書でどれだけ説得的な主張や立証が行えるか否かで結論が大きく左右されるものです。したがって,控訴理由書の作成には,一審判決をよく読み込み,裁判所がどういった理由で判決を出しているのか,その理由に不合理な点はないか,その判断を覆すことができるような証拠が他にないか等を判断する必要があり,高度に専門的な作業になります。
したがって,離婚訴訟において一審判決について納得ができない場合には,なるべく早く弁護士にご相談ください。
裁判等の証拠について③
<ご相談者様からのご質問>
夫が不貞をしていたことが分かりました。他の女性の人とLINEのやり取りを写真に収めています。証拠があるので勝てますよね?
<弁護士からの回答>
ご相談にお越しいただく方から,「証拠があります。」とおっしゃっていただく際には,逆に注意をしてお話をお伺いするように心がけています。前回もお話したとおり,証拠があるから勝てるということではありません。証拠の中身が非常に重要になってきます。今回は証拠の証明力についてご説明させていただきます。
証拠を提出する目的は,主張する事実を裁判所に認定してもらうためです。したがって,証拠の中身が重要になってきます。
まず,書証(陳述書は除きます。)については記載されている内容が,主張している事実とどの程度関連性があるかが重要になってきます。ご相談者様の事例の場合,裁判等では,配偶者と女性との間の不貞行為(性行為)を立証する必要があるのですが,ご相談者様が所持しているLINEのやり取りについて,単に親密なやりとりをしているというだけでは,その証拠のみでは直ちに不貞行為を認定することは困難でしょう。LINEのやり取りが性行為を行っていることを前提とした内容である場合にはその証拠は極めて有力な内容といえるでしょう。
また,書証の場合には,その書面を作成した状況も重要になってきます。例えば相手方が不貞行為を認める旨の念書を作成した場合,相手方に暴力を振るったり脅したりして無理やり書かせてしまったような場合にはその書証の証明力は弱くなってしまいます。
次に,人証については,証言する人の地位が重要になってきます。証人が当事者と利害関係を有しているか否かによって証言の信用性が左右されることになります。また,証人の発言内容の具体性,供述態度,他の証拠(書証)との整合性等が人証の証明力を左右する事情になります。
このように証拠といってもどのような内容の証拠を有しているかによって訴訟の結論は大きく異なってきます。
ご相談をお受けする弁護士も,ご相談者様が現在保有している資料をもとに,「こういった資料はありませんか。」とお話をお伺いすることで,資料を集めていくことになります。また,現在資料を有していない場合にも,相手方との会話を録音したりなど今からでも証拠を作成することが可能な場合もあるため,証拠の作成についてもアドバイスをすることも可能です。
こちらが主張する事実がどれだけ真実であったとしても,相手方がそれを認めず,証拠もない場合にはきちんと事実を認めてもらうことはできません。そのため証拠については非常に重要になってきますので,是非一度弁護士にご相談ください。
裁判等の証拠について②
<ご相談者様からのご質問>
夫が以前,他の女性とホテルに入っていく様子を目撃したのですが,いきなりのことだったので,気が動転してしまい,写真や動画はありません。証拠がないので泣き寝入りなのでしょうか。
<弁護士からの回答>
結論から言うと,どんな事件であっても全く証拠が提出されない事件はありません。しかし,証拠の中身がとても大事であって,証拠がたくさんあるから勝てる,証拠が少ないから勝てないということはありません。今回と次回にかけて証拠の種類と証明力についてご説明させていただきますが,今回は,証拠の種類についてご説明させていただきます。
証拠には大きく分けると,①物的証拠(物証)と②人的証拠(人証)の2つがあります。
物証とは,文章や物など,ある事実を証明しようとする手段がものである場合をいいます。
民事訴訟では物自体を証拠として提出することはほとんどなく,物自体を撮影し,写真撮影報告書という書面を提出することになります。したがって,民事訴訟における物証の大半は書証ということになります(録音したものに関してはCD-R等の媒体を提出するとともに,録音内容を反訳した書面(「反訳書」といいます。)を提出することになります。
書証にはついては,証明しようとする事実と関係性が認められるものであれば全て証拠になりえます。不貞行為の事実,期間,場所,回数等を認めた念書だけでなく,事件が発生してから原告本人が自ら見たり聞いたりしたことを作成した書面(陳述書といいます。)も証拠自体にはなりえます。
人証(「にんしょう」といいます。)とは,証明しようとする手段が物ではなく人発言などである場合を言います。人証の種類としては,訴訟の当事者(原告,被告)以外の証人に話を聞く証人尋問と,訴訟の当事者から話を聞く当事者尋問があります。
ご相談者様は,ご主人の不貞に関する証拠が何もないとおっしゃられていますが,たとえば,ご相談者様が毎日日記を作成していたり(日記を書証として提出),不貞を目撃したことを誰かにメールしていたり(メールを印刷若しくは写真に収めて書証として提出),電話で話していた場合(知り合いの人の陳述書を提出若しくは,証人として発言してもらう)など,考えられる証拠はたくさんあります。
また,そういったものが何一つなくても,ご相談者様ご自身の陳述書や法廷での証言も証拠になるのです。したがって,証拠が全くないという事件はほとんどないといっていいでしょう。もっとも,証拠があるから勝てるというわけではありません。次回では,証拠の証明力についてご説明させていただきます。
裁判等の証拠について①
<ご相談者様からのご質問>
裁判では,証拠がないと勝ち目がないと聞いたりするのですが,どんなときに証拠が必要になるのですか。弁護士に相談に行くときにはどういったものを持ってくればいいのでしょうか。今回は弁護士が「証拠」について解説致します。
<弁護士からの回答>
裁判官は証拠に基づき事実を認定するため,裁判では証拠がどれだけ揃っているかが,重要になってきます。そこで,今回から数回にかけて離婚訴訟における証拠についてご説明させていただきます。離婚訴訟においてどのような場面で証拠が必要になるのかという一般論についてご説明させていただきます。
裁判では,全ての事実について証拠が必要であるというわけではありません。「当事者間で争いのある事実」について証拠により証明する必要がありまます。したがって,訴訟においてこちらが主張している事実について,相手方もその事実を認めている場合には,証拠がなくとも裁判所はその事実をそのまま認定するのが通常です(以前のコラムでは,離婚訴訟では職権探知主義を採用していると書きましたが,職権探知主義において当事者間で争いの無い事実に関してはそのまま事実認定がなされているようです。)。
ご相談いただく方からは,よく,「私が先生にお話ししていることが真実なので相手方も認めると思います」とおっしゃられるのですが,これまでの経験上,特に自分に不利な事実に関しては,相手が認めずに争いになるケースは珍しくありません。もちろん確たる証拠が既にこちらにある場合には相手も否定しようがないため認める場合もありますが,相手方において,こちらが証拠を有していないのではないかと考えている場合には,あえて真実とは異なる主張をされるケースがほとんどであります。
そして,裁判においては,単に「相手は嘘をついている!」とだけさんざん主張したとしても,中立な立場にたっている裁判官としては,どちらが嘘をついているかについては,わからないため,あまり意味をなしません。そこで,争いのある事実に関しては,証拠に基づいて主張を行う必要があります。
次に,離婚訴訟において一般的に争いになりやすい事実については,以下のような事実が挙げられます。
① 婚姻関係は破綻しているか否か
② 不貞行為の有無
③ 財産分与の金額
④ 親権者の判断に際し,同居時の監護状況等
上記①~④の争点に関して,どのようなものが証拠足りうるのかという点については,各争点の内容によって様々であり(各争点の内容をご説明する際に,具体的にどのようなものが有力な証拠になるのかという点についてもご説明させていただきます。),ご相談者様ご自身で証拠になるのではないかという資料の取捨選択を行うのはとても困難であると思います。
したがって,弁護士にご相談いただく際には,ご自身でこれは証拠にならないなというような取捨選択をするのではなく,関係ありそうな資料等についてはなるべく弁護士に渡していただき,弁護士と話し合いながら取捨選択を行うのがよいのではないかと思います。ご自身では,関係ないと思っている資料であっても,弁護士の目から見て,有力な資料になりうることは少なくありません。離婚に関するご相談の際には是非,関係しそうな資料についても併せてご持参いただくのがいいと思います。
離婚訴訟と損害賠償請求訴訟
<ご相談者様からのご質問>
夫の不貞が原因で離婚を決意しました,調停では夫は,不貞は認めているものの,離婚したくないとの主張を続けていたため,調停は不成立になりました。不貞相手の女性に対しても慰謝料を支払うよう求めていたのですが,不貞相手の女性は払いたくないとの主張を続けています。夫とは早期に離婚したいし,不貞相手の女性には,不貞をして家庭を壊した責任をきちんととってもらいたいと考えているので,それぞれ裁判をしたいと考えています。
それぞれの裁判は別々に起こさないといけないのですか。
<弁護士からの回答>
配偶者の不貞が原因で離婚に至るケースに関しては,相手方配偶者に対してだけでなく,不貞行為を行った相手方に対しても離婚に至ったことによる損害賠償(慰謝料)の請求をすることが可能です。今回は,離婚訴訟と,不貞相手に対する損害賠償請求訴訟を提訴する際の方法についてご説明させていただきます。
まず,離婚訴訟については,人事訴訟として,地方裁判所ではなく家庭裁判所に訴えを提起しなければなりません(人事訴訟法4条1項。当事者間で,地方裁判所に提訴すると合意していても合意管轄は認められません。)。また,不貞行為の相手方に対する損害賠償請求訴訟については,当該訴訟単体で提起する場合には,請求する金額にもよって異なりますが,地方裁判所若しくは簡易裁判所に提起することになります。
では,離婚訴訟と損害賠償訴訟を同時に提起する場合には,どの裁判所に提起することになるのでしょうか。この場合に,上記と同様に,家庭裁判所と地方裁判所(簡易裁判所)のそれぞれに提起しなければならないとなると,同じ不貞行為について問題としており,争点や証拠が共通しているにも関わらず別々の裁判所が取り扱うことになってしまうため,当事者にとっても不利益ですし,裁判所にとっても良いことはありません。
そこで,人事訴訟法では,「人事訴訟に係る請求と当該請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求」については,家庭裁判所に対し1つの訴えの提起で足りるとされています(17条1項)。したがって,ご相談者様の事例であっても,離婚の原因となった,配偶者と相手方の不貞行為によってよって生じた損害賠償(慰謝料)請求訴訟は,家庭裁判所に対し,離婚訴訟とともに,1つの訴訟で提起することができます。
また,最初に離婚訴訟を提起し,しばらくしてから,不貞相手に対し損害賠償請求訴訟を提起する場合であっても,離婚訴訟が係属している(行われている)裁判所に対し提起することができます(17条2項)。
逆に,先に損害賠償請求訴訟を地方裁判所若しくは簡易裁判所に提起し,後から離婚訴訟を提起する場合には,訴訟の当事者が,地方裁判所若しくは簡易裁判所に対し申し立てを行い,裁判所が相当であると判断した場合には,損害賠償請求訴訟を家庭裁判所へ移送し,1つの事件として処理すること(訴えの併合といいます。)ができます(人事訴訟法8条1項,2項)。
このように,離婚訴訟と損害賠償請求訴訟については家庭裁判所にて1つの事件として処理することができますが,離婚だけでなく,相手方からもきちんと慰謝料を取りたい場合には,専門家に依頼し,きちんと裁判で主張立証を行うことが必要不可欠ですので,是非一度弁護士にご相談ください。