破産手続で否認される偏頗弁済ってなぁに?
【Aさんの相談】
私は現在破産を考えていますが,債権者の中にとてもお世話になった人がおり,その方から借りている100万円については何としてでも返済したいと思っています。しかし,弁護士さんに相談したところ,破産する場合は,一部の債権者のみに債務を返済することは「偏頗弁済」にあたり,免責不許可事由にあたるからその人のみに返済することはできないと言われました。しかし,その債権者の方は,私の祖父の代から,代々お世話になった方であり,その方へ不義理をするくらいであれば,破産はできないと考えています。この場合,何か方法はありませんか。
1 偏頗弁済ってなぁに?
偏頗弁済とは,偏った弁済,すなわち,一部の債権者に対してのみ,債務を弁済することを言います。破産手続は,破産手続開始決定時に残された財産を換価し,全ての債権者に債権額に応じて平等に配当する手続ですので,偏頗弁済が行われると,抜け駆け的な弁済になり,他の債権者との公平性を害するため,破産法は偏頗弁済に関する規制を設け,偏頗弁済を行った場合は,事後的に否認(=取り消す)ことができるとし,併せて,偏頗弁済を免責不許可事由として定めています。
なお,偏頗弁済が禁止されるのは,債権者間の公平性を害するという趣旨ですので,破産法は,返済行為に限らず,一部の債権者にのみ債務を負担したり,担保を提供する行為等も同様に規制しています。(以下,一部の債権者への返済,債務負担,担保提供,債務消滅行為等を併せて「偏頗行為」といいます。)
2 否認の対象になる偏頗行為とは?
偏頗行為が破産法上規制されているのは上述の通りですが,否認や免責不許可の対象となる偏頗行為の具体的要件について,以下見ていくことにします。対象となる行為類型は,大きく分けて,(1)(2)の2種類あります。
【要件】
(1)支払不能または破産手続申立て後にされた偏頗行為
*「支払不能」とは,債務者の経済状況悪化により,弁済期にある債務を,一般的かつ継続的に弁済することができない状態を言い,破産手続開始の要件となっています。
破産法が偏頗行為を規制する趣旨は,破産状態に至った後の抜けがけ的弁済による債権者間の不平等を防止する点にあるので,破産法上規制される偏頗行為は,支払不能等の債務状況悪化後のものとされています。
* 対象行為:担保供与や債務消滅行為が「既存の債務」に対してなされたものであること
⇒ 「既存の債務」に対してなされたという意味は,裏を返せば,同時交換的に行った担保供与は規制の対象にならないということです。例えば,既存の借金が返せなくなり,債権者から担保の差入れを要求されたため,後日自宅に抵当権を設定したという場合は,「既存の債務」に対してなされた担保供与として否認の対象となります。他方で,新規の融資をしてもらうために担保の設定をする行為は,担保設定と同時交換的に融資を受ける形になるため,「既存の債務」に対してなされたものに該当せず,否認の対象にはなりません。
* 債権者側の主観:偏頗行為を受けた債権者側が,債務者の支払不能状態について知っていたこと
⇒ 偏頗行為が否認されると,既に受けた弁済や担保供与の効力は事後的に否定されることになるため,債権者の利益を害することになり,その後の法律関係も不安定になります。そのため,債権者保護の見地から,否認対象となる行為については,債権者側も,偏頗行為を受けた時点で,債務者の破産状態を知っていたことが要件とされています。
(2)支払不能前30日以内になされた非義務行為
⇒ 非義務行為とは,義務なく行う行為,すなわち,義務がないにもかかわらず,担保を設定したり,本来の支払期日を前倒しして返済したり(期限前弁済),本来の返済方法とは異なる方法で返済したり(代物弁済)するとことを言います。
(1)に記載した偏頗行為は,義務に基づく行為である点で(2)と異なります。非義務行為の場合は,支払不能直前に行なわれたものも否認の対象となります。
3 破産手続終了後に借金を返済するのはOK?
以上の通り,破産手続をする場合,偏頗行為は禁止されます。それでは,お世話になった方からの借金を返済する手段はないのでしょうか。
破産により免責許可決定が出ると,債務を返済する義務は免れますが,破産手続終了後に,新たに得た収入から任意に債務相当額を弁済することは認められています。しかし,手続終了後の任意弁済が自由となると,債権者が破産者に対して,手続終了後に「任意弁済」という名目の下,債務返済を強要し,結局は弱い立場の債務者は断れずに弁済する羽目になり,経済的更生を図れなくなってしまうことが目に見えています。
そのため,実務上は,手続終了後の任意弁済に関しては,債務者が自由意思に基づいて任意に弁済したかどうかについて極めて厳格に判断され,少しでも強制の要素がある場合は無効となります。
よって,本件のAさんも,お世話になった債権者に対して,破産手続終了後に,自由意思に基づいて任意弁済をすることは禁じられていないので,そのような形でAさんの要望は叶えることができます。
4 まとめ
以上の通り,破産法では,偏頗行為が規制されており,偏頗行為を行うと事後的に否認されたり,そもそも免責許可を受けられなくなってしまう可能性がありますので,破産手続を検討されている場合は,どのような行為が偏頗行為にあたるのか,きちんと認識し,不安な方は弁護士に相談しましょう。
なお,破産する上で偏頗行為は規制されますが,破産手続終了後に自身の自由財産から返済することは可能ですので,お世話になった人への債務が消えてしまうことを気にかけて破産を躊躇されている方は,お世話になった人にその旨説明をした上で,破産手続に移行しましょう。
相続人について②~第一順位の相続人(子)にまつわる問題~
相続人について②~第一順位の相続人(子)にまつわる問題~
<ご相談者様からのご質問>
【ケース1】
祖父が先日なくなりました。祖父のこどもは私の父を含めて5人います。
私の父は祖父が亡くなるよりも数年前に亡くなっているのですが,この場合,祖父の財産は父以外の兄妹で分けることになるのでしょうか。
【ケース2】
現在,私は妊娠しています。夫が急になくなってしまいこれからの生活をどうしようかと悩んでいます。夫の両親はすでに亡くなっておりますが,夫の兄妹が6人もいます。この場合,夫の財産はわたしと夫の兄妹でわけることになってしまうのでしょうか。
子は,第一順位の相続人として相続の問題に巻き込まれる頻度が高いといえます。ケース1,ケース2の場合には子が相続人になる場面ではなさそうですが,法律上こういったケースに対する保護を及ぼしています。今回は代襲相続や胎児の問題についてご説明させていただきます。
<弁護士からの回答>
【ケース1について】
ご相談者さまのお父様は被相続人よりも先に死亡しているため,相続人にはなれず,それ以外の子4人で分割することになるかとも思われます。しかし,この場合,ご相談者様のお父様が被相続人よりも後に死亡していた場合には,被相続人の相続分をご相談者様が相続することになるため,被相続人の直系卑属がいつ死亡したかにより不平等な結果となってしまいます。そこで民法上,被相続人の子が相続の開始以前に死亡したときにはその者の子が代襲して相続人となるとされており(民法887条1項本文),これを代襲相続といいます(被相続人の子を被代襲者,被代襲者の子を代襲者といいます。)。したがって,今回のケースでも,ご相談者様が代襲者となるため,お父様の地位を引き継いで(お父様のかわりに)相続人になりますので,お父様のご兄弟とともに遺産分割協議を行うことになります。
代襲相続については他にも多くお伝えしたいことがありますので,別の機会にまとめてご説明させていただきます。
【ケース2について】
民法上「私権の享有は,出生に始まる。」(3条1項)と規定されており,権利義務の主体となることができる始期は出生時となっています。この規定に従うと,被相続人の死亡により相続が発生するところ,相続人となるためには被相続人が死亡している時点で出生している必要があり,胎児は相続人になれないことになります。
そこで,民法ではこうした胎児の権利保護を図るために,例外規定として,「胎児は,相続については,既に生まれたものとみなす。」(民法886条1項)として,相続開始時に胎児であれば相続人たりうることになります。したがって,ケース2の事例でも,胎児はすでに出生しているものとみなされるため,相続人は配偶者の奥さんと第一順位である子(胎児)ということになります。もっとも,胎児が死産してしまった場合には先程の規定が適用されなくなるため(民法886条2項),ケース2の場合でも,相続人は配偶者の奥さんと,第三順位にあたる被相続人のご兄弟6人になります。
破産手続でいう免責制度ってなあに?
1 免責制度とは
免責制度とは,債務者の経済的更生を支援するために,債務の返済責任を免除する制度です。破産手続を通じて配当を行ってもなお債務が残る場合,その債務を返済しなければならないとなると,破産手続後も債務の返済に追われ,債務者の経済的自立が妨げられてしまいます。そこで,破産法は,破産手続終了後になお残った債務については,一定の場合を除き,原則として免責することを認めています。なお,免責制度があるのは個人の債務者のみです。法人の場合は,破産手続の終結により法人格を失うため,免責による経済的更生を認める必要がないからです。
一般的に,自己破産すると借金が消えるというイメージだと思います。これは,破産手続きによって消える訳ではなく,免責されて消えるので,この点を十分に理解されておいてください。
2 申立て手続
免責手続は,破産手続とは別の手続であるため,別途免責を求める申立てをする必要があります。ただ,個人破産の場合は免責獲得目的で破産をする場合がほとんどなので,現行の制度では,個人破産の場合は,破産申立てと同時に免責申立てがなされたものとみなすという運用をしています(申立書の雛形に免責申立ての記載があり,印紙代も免責申立分を含んだ金額である1500円を納めるのが通常です)。ですので,債務者が免責されることを潔しとせず,反対の意思を有している時は,免責申立てをしないことを破産手続申立て時に表示する必要があります。なお,免責申立ては,破産手続申立てと同時ではなく,追って申立てをすることも可能ですが,破産手続開始決定が確定してから1か月を経過する日までの間に申立てをする必要があります。
3 免責不許可事由とその調査
免責により,債務者の経済的更生が図られる一方,債権者の財産権は大きく害されることになるため,免責は,全ての債務者に認められるわけではなく,誠実な債務者にのみ認められます。そこで,破産法は,一定の場合を免責不許可事由として定め,破産管財人は,免責を求める債務者に,免責不許可事由に該当する事情がないかについて調査を行い,その調査結果に基づき裁判所が免責決定を出すかどうかを判断します。なお,同時廃止事件の場合は,管財人の選任はないため,免責不許可事由の判断は,事実上本人が申述した内容に基づいて裁判所が判断することになります。
個々の免責不許可事由としてどのようなものがあるかについては,別の記事で詳述しますが,仮に免責不許可事由に該当しても,裁量免責という制度があり,裁判所の裁量で免責が認められることもあります。
もちろん,免責不許可事由があれば形式的には免責されない可能性がありますが,裁判所もそれほど形式的ではありません。免責させなくては経済的に立ち直れない人に対して,免責不許可事由があるからといって免責させなければ,その人は立ち直ることができないまま放り出されてしまいます。そのため,余程悪質なケースでなくては,裁判所は裁量免責で免責を認めてくれるケースが多い印象です。
4 免責債権と非免責債権
免責許可決定を受けると,全ての債務が消えると思っている人もいますが,免責によって消える債務と消えない債務があるので注意が必要です。
免責許可決定を受けても消えない債務を,非免責債権と呼びますが,破産法では,以下の債務を非免責債権として規定しています。
①租税債務の一部
破産手続開始前の原因に基づいて発生した租税債務のうち,破産手続開始当時に①納期限が未到来のものと,②納期限が一年以内のものについては,免責許可を受けても消えません。
②破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償債務
不法行為に基づく損害賠償債務のうち債務者の単なる故意(損害の発生について認識していた場合)に基づくものではなく,積極的な害意をもって行った不法行為に基づく損害賠償債務は免責許可を受けても消えません。このような債務が破産免責によって消えてしまうと,社会の法秩序は成り立ちません。
③故意又は重過失による不法行為のうち,他人の生命又は身体を害する不法行為に基づく不法行為に基づく損害賠償債務のうち,故意又は重過失(故意に匹敵するような重い過失)により生じたもので,それが相手の生命・身体という重大な権利を害している場合には,損害賠償債務は消えません。
④親族の扶養義務等
婚姻費用分担義務や養育費支払義務等,親族間の扶養義務に基づく債務は消えません。
⑤労働債権等
個人使用者に雇われている使用人の賃金請求権や退職金の請求権等の労働債権は消えません。また,使用人からお金を預かっていた場合は,使用人に対する預り金返還債務も消えません。
⑥破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった債務
破産者が債務があることを知りながら裁判所に申述しなかった債務については,債権者が免責に対して意見を申述する機会が事実上奪われてしまうため,債権者保護の権利から原則として消えません。但し,債権者が破産手続開始決定を知っていた場合は,債権者に申述機会があるため,この場合は非免責債権には当たりません。
⑦罰金等の債務
罰金,加療,刑事訴訟費用追徴金及び過料等は消えません。
5 保証人等に対する免責の効果
免責許可の決定は,破産者に対してのみ及びます。そのため,債権者は,破産者の保証人や連帯債務者,物上保証人等に対して従前通り請求できます。
6 まとめ
以上の通り,破産法は,免責制度を設け,債務者の経済的更生を支援しています。破産でお悩みの方の中には,「破産して債務を消すなんてお世話になっている債権者に申し訳ない。」と言って,破産手続の利用を躊躇される方もいますが,上記の通り,免責は誠実な債務者のみに法が認めた制度であり,免責されるかどうかについては裁判所による審査の上で決定される事柄ですので,何ら躊躇する必要はありません。どうしても免責を避けたいのであれば,免責の申立てを希望しない形で申立てることも可能です。
また,免責を希望して破産をお考えの方については,それが本当に消える債務なのかどうかについてはしっかりとした確認が必要です。債務のほとんどが税金等の非免責債権の場合は,免責されず,破産申立てをする意味がありません。
破産による免責についてお悩みの方は,一度破産手続に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めします。
相続人について①
相続人について①
<ご相談者さまからのご質問>
先日,夫が急になくなってしまいました。これから相続のことについて考えなければなりません。夫との間には子どもが1人おり,夫の両親もご兄弟も健在です。この場合,誰が相続人になるのでしょうか。
<弁護士からの回答>
ご家族の方がお亡くなりになられたとき,どなたが相続人に該当するのかという問題は,誰に財産を分けなければならないのかという問題だけにとどまらず,誰が相続税を負担しなければならないのかという問題にも関わってきます。そこで本日は,誰が相続人となるのかという法定相続人について総論的なお話をさせていただきます。
誰が相続人になるのかということに関するルールは民法の886条から895条に規定されており,民法上相続人となることができると規定されている人のことを法定相続人といいます。
まず,配偶者は必ず法定相続人になります(民法890条)。この配偶者については,民法が法律婚主義(婚姻届の提出により初めて法律上夫婦と認める制度のことをいいます(民法739条1項)。)を採用していることから,法律上の配偶者のみを指しており,内縁の妻や,事実婚状態のパートナーは相続人に含まれず,被相続人の財産を一切相続することができません(したがって,なんらかの理由があって法律婚ではない状態でいるパートナーに死後財産を残したい場合には遺言を作成しておく必要があります。)。
配偶者以外の法定相続人は,第一順位の相続人として子(民法887条1項),第二順位の相続人として直系尊属(最も親等の近い者,民法889条1項1号),第三順位の相続人として兄弟姉妹(民法889条1項2号)となっています。第二順位,第三順位に該当する人は自分より前の順位に該当する人がいる場合には相続人にはなれません。
したがって,ご相談者様の事例では,まず,配偶者である奥様は相続人になります。また,第一順位の相続人であるお子さんがいらっしゃるので,お子さんは相続人になります。第一順位の相続人であるお子さんがいらっしゃる以上,第二順位に該当するご両親,第三順位に該当するご兄弟は相続人にはなりません。
ご主人にどれだけ財産があったとしても一切相続財産を手にすることができません。事例を変えてお子さんがいらっしゃらない場合には第二順位のご両親が相続人になりますが,第三順位のご兄弟は相続人にはなりません。さらに事例を変えてお子さんもご両親もいらっしゃらない場合に初めてご兄弟が相続人になります。
このように,誰が相続人になるかについては,ケースによって様々です。それ以外にも相続の手続きは複雑であるため,是非一度弁護士にご相談ください。
相続とは何か・・・
<ご相談者さまからのご質問>
知り合いで,相続に関する問題でもめている人がいると聞きましたが,そもそも相続について何も知りません。相続って何ですか。相続が発生するとどういうことが起きるのですか。
<弁護士からの回答>
ご親族がお亡くなりになられた方は必ず相続に直面されていますが,実際にそういった場面にならないと相続に関して意識することはないと思います。そこで,今回は,相続に関する具体的な内容の説明に入る前に,相続とはという一般的な事柄についてご説明させていただきます。
相続とは,自然人(法人ではない法人格のことをいいます。)の財産などを様々な権利・義務を他の自然人が包括的に承継することをいいます。
包括的に承継するため,贈与契約のように特定の財産等を譲り受けるというような選択はできず,すべての財産を譲り受けることになります。また,権利(財産)だけでなく義務,すなわち債務(負の遺産)も承継することになります。
民法上,「相続は死亡によって開始する。」(882条)と規定されており,かつ,「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」(896条本文)と規定されています。死亡した人の財産上の地位を承継する人のことを相続人といい,相続される財産,権利,法律関係の旧主体(死亡した人)を被相続人といいます。したがって,日本における相続とは,被相続人の死亡により,被相続人の権利・義務が包括的に相続人に承継されることをいいます。
この死亡には,実際に死亡が確認された場合だけでなく,失踪宣告や認定死亡等法律上死亡していると扱われる場合であっても相続が開始することになります(失踪宣告,認定死亡については別の機会にご説明させていただきます。)。
相続によって承継される権利・義務ですが,すべての権利・義務が承継されるわけではありません。民法では「被相続人の一身に専属したものは、この限りでない(権利・義務が承継されない)。」(896条但書)と規定されており,一身専属的な権利・義務については相続されないとされています。この一身専属的な権利・義務の具体的な内容としては,使用貸借契約における借主の地位(民法559条),委任契約における委任者・受任者たる地位などがこれにあたり,死亡しても相続されません。また,養育費を支払う義務については一身専属的な義務なので,死亡によりその義務が相続されることはありません(養育費に関する相続の問題は専門的な問題があるため,別の機会にご説明させていただきます。)。
今回は,相続一般について,相続が発生するとどういうことが起きるのかについえご説明させていただきました。次回は誰が相続人になるのかという問題についてご説明させていただきます。
相続をめぐる問題について
1 相続をめぐる問題について
自分が亡くなったとき自分の財産はどうなるのか,自分の財産をめぐって子どもや親族で争いがおきないだろうか。次男にはこれまでさんざん援助してきたので,財産については全て長男に相続させたいと思っているのだがどうしたらよいか・・・・
近年,「終活」という言葉が流行し,書店等にもエンディングノートなどが販売されており,遺言書などの相続についても馴染み深いものになってはいますが,日本人の中には,遺言を作ったり,死後の話をすることに抵抗を持たれている方は少なくありません。
しかし,相続に関する問題は,大きく分けると誰が相続人になるのかという相続人に関する問題,どの財産が相続される対象に含まれるのかという相続財産に関する問題,どの財産を誰にどのように相続させるのかという分割方法に関する問題があり,それぞれの問題の中でも多数の問題があり,その問題を解決するためには専門的な知識を要するものが多々存在します。
そして,相続に関する紛争については,必然的に親族間での紛争になります。ご親族のなかでも,親から多額の援助を受けていた人,一切援助してもえなかった人,親に寄り添い献身的に世話をしていた人がいれば,実家を離れ,まったく世話をしてこなかった人等,お亡くなりになられた人の関わり合いも様々であります。そして相続の場面になった際には,ご親族間でこれまでの長い期間の中でそれぞれが抱えた不満などが爆発してしまい,相続が原因で,親族間で深刻な対立関係が生まれてしまう可能性があります。
自分には多額の財産がないので,遺言を作らなくても問題ないだろうと考えて,相続の対策をされていない方も多くいらっしゃると思います。当事務所にも相続に関するご相談を多数お受けしておりますが,しかし,被相続人の方が多くの財産を有している場合にも紛争になることはもちろんありますが,相続財産がそこまで多額出ない場合でも同じように紛争が生じており,むしろわずかな金額の差であっても解決することができず,紛争が長期化してしまうケースも少なくありません。
このように,相続に関する問題は,事前に準備をしておかないと紛争に発展してしまう可能性が高く(「相続」が「争続」になると言われたりもします。),一度紛争に発展してしまうと,解決するまでに時間や精神面等で多大なる労力を強いられることになってしまいます。
そこで,このブログでは,相続に関し,残された家族の間での争いを起こさないためにはどうすればいいか,相続に関する紛争が生じてしまった場合,適切に解決する方法はどうすればいいか等,相続に関する全般的な問題について,よくあるご相談内容等を紹介しながら,ご説明していきたいと考えています。
離婚原因について~総論~
<ご相談者様からのご質問>
夫と離婚したいと考えています。夫は離婚することに反対しているので,裁判になるかもしれません。裁判で離婚が認められるのはどんなときですか。
<弁護士からの回答>
離婚について当事者の意向が対立している場合には,当事者間に離婚原因が存在するか否かという点が大きな争点となります。今回からは,法律上の離婚原因についてご説明させていただきます。今回は,離婚原因がどのようなものがあるのかについて総論的なお話をさせていただきます。
法定離婚原因とは,民法に規定されている離婚が認められる事由のことをいいます。離婚原因については,民法770条1項に記載されています。
①配偶者の不貞行為
②配偶者による悪意の遺棄
③配偶者の3年以上の生死不明
④配偶者の回復見込みのない強度の精神病
⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由
離婚訴訟では,離婚したいと考える当事者(通常,原告になります。)が上記の①~⑤の事由が存在することを証拠に基づいて主張,立証していくことになります。
そして裁判所において上記①~⑤の離婚原因のうち1つでも存在すると認められると判断した場合には,判決で離婚が認められることになります。
逆に,離婚原因が存在しないと判断された場合には離婚が認められないとの判決がだされることになります。
したがって,どういった場合に各離婚原因に該当するのかという点や,それを立証するためにどういった証拠が必要であるのかという点についてはきちんと理解することが重要になります。特に,上記の離婚事由のうち,①不貞行為や,⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由が認められるか(婚姻関係が破綻しているか)否かという点は,訴訟でも頻繁に争いになります。
そして,不貞行為を行っていることが明らかな場合や,別居が非常に長期にわたり,婚姻関係が破綻していることが明らかな場合については,そもそも訴訟に移行する前に解決することが多く,訴訟にて争われる場合には,不貞行為の有無関して証拠が微妙である場合や,婚姻関係が破綻しているか否かが微妙なケースが多いと思われます。
したがって,そういったケースにおいてきちんと離婚を認めてもらうためには,弁護士に依頼し,訴訟において十分な主張立証活動を行うことが必要不可欠になってきます。
次回からは,各法定離婚原因の具体的な内容についてご説明させていただきます。
相談事例記事について
当事務所では,初回相談に関しては,1時間無料にて対応させていただいていることから,日々様々なご相談をいただいております。
これまで,離婚,相続等個々の分野に関して,コラムを作成させていただきましたが,日常で発生する法律問題については,離婚,相続に限らず,あらゆる法律問題が存在しています。当事務所にご相談に来られる方もこうした様々な法律問題や,そもそも法律の問題ではないトラブルについてもご相談いただくことがございます。
そこで,この相談事例集では,ご相談にお越しいただいた方の相談内容や,社会的に問題になっている事項等を参考に,一般的な相談内容に対し,弁護士としての見解やアドバイス等をご紹介させていただくことにより,弁護士を身近なものに感じていただき,那珂川町のみならず,春日市,大野城市,太宰府市等にお住いの皆様からお気軽にご相談にお越しいただけたらと考えております。
【注意事項】
ご紹介する相談事例はあくまでも一般的な事例であるため,当事務所への個々の相談や,受任している個別の事件とは一切関係ありません。また,回答に関しても一般的な相談に対するものであるため,実際の事件の際には異なる処理が適切である場合がございます。したがって,この事例集をご覧になられた方において,相談事例と同様若しくは類似すると感じた場合でも必ず弁護士のご相談を受けることをおすすめいたします。
離婚条件について
<ご相談者様からのご質問>
夫との離婚を考えています。離婚の際には離婚すること以外にどのようなことを決めなければならないのでしょうか。
<弁護士からの回答>
これまでは,離婚するための方法や具体的な手続きについてご説明させていただきましたが,今回からは,離婚や離婚に関する法的問題の中身についてご説明させていただきます。今回は,離婚する際にどういったことが問題になるのかという離婚及び離婚に関する問題点についてご説明させていただきます。
離婚及び離婚に関する諸問題については,当事者の置かれている状況によってどこまで決めなければならないかは異なるのですが,離婚及び離婚に関する問題については以下のようなものがあります。
① 離婚原因が認められるか否か
当事者の一方が離婚の意思を争っている場合に,法律上離婚が認められるか否かという問題です。
② 親権者
未成年のお子さんがいらっしゃる場合に,どちらが親権者となるかという問題です。
③ 養育費
離婚後の子どもの生活に関する問題です。
④ 面会交流
親権者でない親と,お子さんとの間の面会の方法,回数等についての問題です。
⑤ 財産分与
同居期間中に夫婦によって形成された財産をどのように分配するかという問題です。
⑥ 慰謝料
離婚に至った原因が,一方当事者の違法な行為に該当するか否か,該当する場合には,当該行為により離婚に至ったことに関する精神的苦痛について金銭的に評価するといくらになるかという問題です。
⑦ 年金分割
同居期間に対応して,一方当事者のみが払い込んでいた年金の金額を分割する際の問題です。
また,直接離婚とは関係ないものの,離婚するまでの間の問題として以下の2点も問題になります。
⑧ 婚姻費用
別居してから離婚するまでの間における当事者間の生活費の分担に関する問題です。
⑨ 監護権者
離婚が成立するまでの間,未成年者の子どもを夫と妻のどちらが監護すべきであるかという問題です。
このような離婚及び離婚に関する問題については,上記①~⑨のすべてについて必ず判断しなければならないわけではありませんが(未成年のお子さんが要る場合には必ず親権者を決めなければなりません。),特別な事情がない限り,離婚の際に夫婦間に関する問題を決めておいた方が,後々にトラブルが起きないで済みますので,決めることができる条件については,離婚の際に決めておいた方がよいでしょう。
次回からは,各離婚条件に関する具体的な内容についてご説明させていただきます。
控訴・上告について弁護士が解説
<ご相談者からのご質問>
妻から離婚したいと言われて別居が始まりました。自分としては離婚など到底考えておらず,調停でも裁判でも離婚を争ってきましたが,先日,判決が出され離婚が認められてしまいました。自分としてはどうしても離婚はしたくありません。何か方法はありませんか。
<弁護士からの回答>
家庭裁判所での判決が確定してしまうと,法律上離婚が成立してしまい,それ以上離婚について争うことはできなくなってしまいます。そこで,今回は,離婚訴訟における不服申立制度である控訴と上告についてご説明させていただきます。
日本の裁判は三審制という制度を採用しており,第一審である家庭裁判所での判決に不服がある場合には,高等裁判所に対し控訴することができます。控訴をするためには,高等裁判所宛の控訴状という書面を第一審の家庭裁判所に提出する必要があります。控訴状の提出は,第一審の判決書が送達された日の翌日から起算して14日(2週間)以内に行う必要があり,その期間を徒過してしまうと,第一審の判決が確定してしまうので注意が必要です。
控訴状を提出してから50日以内に,不服申し立ての具体的な理由(控訴理由)を記載した書面(控訴理由書といいます。)を提出します。控訴審においても第一審と同じ流れて進むのですが,実際には,控訴理由書の記載内容で結論が決まってしまうので,控訴理由書がとても大事になってきます。
法律上控訴理由についえては制限されていないので,第一審の事実認定の誤り(事実誤認),法解釈の誤りに加え,新しい証拠が見つかった場合にも主張することが可能です。
なお,控訴審での判断に納得が行かない場合には最高裁判所に不服申立を上告として行うことができますが,上告理由には法律上制限があり,憲法違反等の場合しか認められないため,離婚訴訟については,事実上,争う場合には控訴審までになります。
もっとも,既に第一審で裁判官が第一審で現れているすべての資料をみて判断している以上,控訴審にて第一審の判断が覆る可能性は高くありません。
どのような場合に結論が覆るかについては一概にはいえませんが,第一審の判決後に新たな有力な証拠が見つかった場合や,法的評価や事実評価に著しい誤りがあると認められるような場合でなければ,結論が変更するということはないでしょう。
また,先ほど述べたとおり,控訴審では,控訴理由書でどれだけ説得的な主張や立証が行えるか否かで結論が大きく左右されるものです。したがって,控訴理由書の作成には,一審判決をよく読み込み,裁判所がどういった理由で判決を出しているのか,その理由に不合理な点はないか,その判断を覆すことができるような証拠が他にないか等を判断する必要があり,高度に専門的な作業になります。
したがって,離婚訴訟において一審判決について納得ができない場合には,なるべく早く弁護士にご相談ください。