弁護士コラム

2018.01.14

離婚訴訟の特徴(職権探知主義)について

<ご相談者様のご質問>

  民事訴訟については一度簡易裁判所ですが自分で起こしたことがあります。その時は相手が欠席したので,すぐに勝訴判決を得ることができました。したがって,離婚訴訟も自分自身でできるのではないかと考えています。離婚訴訟と民事訴訟ではなにか違いがあるのですか。

 <弁護士からの回答>

  離婚訴訟については,原則として民事訴訟法が適用され,民事訴訟法のルールにしたがって運用,進行していきますが,人事訴訟でもあることから,人事訴訟法によって,通常の民事訴訟とは異なる仕組みやルールによって運用されていく場面もあります。その中でも,離婚訴訟の中でも大きな特色である職権探知主義についてご説明させていただきます。

 私人間の法律関係については,原則として当事者の自由な意思にゆだねるべきであるという私的自治の原則にしたがって,民事訴訟においても,当事者が主張しない事実を裁判所が勝手に認定することは許されません。まこれを弁論主義といいます。これに対し,離婚訴訟の場合には,夫婦関係という身分に関する事項を扱うものであり,公益性があることから,弁論主義は採用されておらず,職権探知主義というものが採用されています。人事訴訟法20条では,「裁判所は,当事者が主張しない事実をしん酌し,かつ,職権で証拠調べをすることができる。」と規定されており,裁判所は,当事者が主張していない事実であっても判決の資料とすることができます。また,当事者に対し積極的に証拠を提出するよう求めたり,主張を促したりすることができます。

  上記の職権探知主義が採用されていることにより,相手方が答弁書も提出することなく,かつ期日に出廷することがない場合であっても,民事訴訟のように擬制自白(民事訴訟法159条)が認められていわゆる欠席判決が出されることはなく,相手方が一切出廷しない場合であっても,きちんと証拠に基づき主張を行わなければ,離婚が認められないことになります。

  このように,離婚訴訟では職権探知主義が採用されていることから,相手方が出席しないために1回で期日が終了することもなく,何度か裁判所へ出廷する必要があります。
  また,期日では,裁判官から積極的に主張立証を促され(釈明といいます。),準備書面を作成したり,証拠を準備する必要があり,簡易裁判所での民事訴訟とは異なり,おひとりで訴訟を行うことは相当困難です。
 弁護士に依頼することで,第1回目の期日から充実した主張や証拠を提出することで,早期に離婚を成立させることも可能ですので,是非弁護士にご相談ください。

2018.01.13

遠隔地での裁判について

<ご相談者様からのご相談>

 私は福岡に住んでいるのですが,東京の実家に別居した妻から離婚訴訟を提起されました。移送の申立てをしましたが,認められませんでした。離婚訴訟の期日は月に1回程度行われると聞きましたが,毎回毎回東京の家庭裁判所に行かなければならいのですか。弁護士さんに依頼する場合には東京の弁護士さんに依頼した方がいいのでしょうか。

 <弁護士からの回答>

  裁判所が遠隔地になってしまった場合には,裁判所への出廷による経済的な負担等が生じてしまいます。そこで,離婚裁判においてもすべての場面において必ず裁判所に出廷しなければならないということはなく,出廷しなくても期日を進めることができる場合があります。代理人に離婚訴訟を依頼した場合には,実際にご依頼者様ご本人が裁判所に出廷することはほとんどないのが実情です。
そこで,今回は,遠隔地での離婚訴訟に関するご説明をさせていただきます。

  日本の裁判では,進行が迅速かつ充実したものとなるように,口頭弁論期日においては,原告・被告の双方の当事者が出席することを原則としています(民事訴訟法87条1項参照。)。したがって,離婚訴訟においても,遠隔地であっても当事者が裁判所に出向き,期日に出廷することが必要になります。
  もっとも,上記の原則に対しては例外がいくつか認められています。まず,訴訟された側の被告は,原告から訴状が送達された場合には,第1回目の期日までに答弁書(訴状に対する反論の書面)を提出することになるのですが,答弁書を提出していれば,第1回目の期日については,欠席したとしても,出席して答弁書の内容を陳述したものとみなされるため(民事訴訟法158条,擬制陳述といいます。),被告の場合には第1回目の期日には出席する必要はありません。

 また,第1回目の期日以外の期日であっても,裁判所が相当と認めるときには,一方の当事者が裁判所に出廷しているときに限り,他方の遠隔地の当事者は電話にて期日に出廷することができます(電話会議システムといいます,民事訴訟法170条3項)。もっとも,この電話会議システムについては実際に利用されるケースとしては,当事者に代理人がついている場合がほとんどであり,当事者本人のみで訴訟を行う場合には,裁判所から代理人をつけるように説得されるケースが多いと思われます。

  このように,遠隔地の裁判所であっても,実際に何度も何度も裁判所に出廷するということはほとんどありません。しかし,離婚裁判のうち,当事者尋問,証人尋問(人証)手続に関しては電話会議システムを使うことができないので,実際に裁判所に出廷する必要があります。また,裁判上の和解により離婚が成立する場合には,当事者は必ず裁判所に出廷する必要があります。

 遠隔地の裁判所で裁判を行う場合のケースでよくご相談されるのが「自分の住んでいるところで弁護士を依頼すべきか,遠隔地の裁判所の近くの弁護士に依頼すべきか。」ということです。これに関しては,どちらが正しいか間違っているということはありません。しかし,私の感覚では,離婚訴訟の場合には,期日の間に弁護士との間で充実した打合せを行うことが重要であると考えているため,遠隔地の弁護士だと充実した打合せは難しく,かつ,弁護士との間での信頼関係を築くのも難しいのが一般的です。

上記のように,電話会議システムにより,実際に遠隔地の裁判所に行く機会は1回~2回程度で済むケースがほとんどですので,遠隔地の裁判所で離婚訴訟を提起された場合であっても,是非一度当事務所にご相談ください。

2018.01.12

訴状の送達について

<ご相談者様からのご相談>

  2年前に夫が突如家を出てしまい,今どこに住んでいるのかわかりません。いつまでも夫との関係をこのままにしておこうとは思いません。こんな場合でも離婚訴訟をすることができるのでしょうか。

<弁護士からの回答>

 裁判を起こすためには,訴状を相手(被告)に送達する必要があります。相手の住所が分かっている場合には何ら問題はありませんが,相手の住んでいる場所が分からない場合には,訴訟を起こすのにも若干手間がかかります。そこで,本日は,離婚訴訟における送達の方法についてご説明させていただきます。

 訴状は,裁判所から当事者に正式に通知する送達という手続きを完了して初めて手続が進行することになります。そして,送達の方法についてはいくつかあるのですか,一般的な方法として,通常送達,就業先送達,付郵便送達,公示送達があります。
 通常送達は,相手方の居場所が分かっている場合に行われる送達方法であり,住所,居所等に特別送達(書留郵便に似たものであり,宛名となっている者に対し直接渡さなければならない郵便のことです。)により送付するものです(民事訴訟法103条1項)。

  相手方の所在が分かっていない場合や相手が受け取らない場合については,まず,相手の職場が判明している場合には,就業場所送達として,勤務先への送達が認められることがあります(民事訴訟法103条2項)。
  相手が受け取らず,かつ就業場所が分からない場合には,相手方が受け取らなくても,発送したときに送達したものとみなされるという付郵便送達(民事訴訟法107条1項3項)という方法により送達をすることができます。もっとも,この付郵便送達を行うためには,相手方が住民票上の住所地に住んでいることが明らかであることが必要になります。そのため,住民票上の住所地に現地調査(インターホンを鳴らしたり,近隣の人に聞き込みをしたり,ガスメーター,電気メーター等を確認したりします。)を行い,その結果を報告書として裁判所に報告をする必要があります。

 最後の公示送達ですが,就業場所もわからず,住民票上の住所地に居住している実態がなく,相手方の所在が不明であると裁判所が判断した場合には,公示送達(民事訴訟法110条)という,裁判所の掲示板等に掲示する方法により送達を完了することができます。
  このように,相手方の所在が不明であったとしても訴訟を提起することが可能ですが,付郵便送達や公示送達をするためには,現地調査を行って報告書を作成する等専門的な作業が必要ですので,弁護士に依頼して訴訟を行うべきです。

2018.01.11

離婚訴訟の管轄について

<ご相談者様からのご質問>

  裁判となるととても大変なのですね。弁護士さんに依頼して進めようと思いますが,一つ不安な点があります。現在夫とは,別居しており夫は東京,私は実家の福岡に住んでいます。離婚調停は夫が申し立てたので,福岡の家庭裁判所で行いました。離婚の訴訟の場合は調停と異なり,夫婦それぞれの住所地の裁判所に起こすこともできると聞いたことがあるのですが,本当ですか。

<弁護士からの回答>

  離婚調停においても管轄のご説明をさせていただきましたが,離婚訴訟における管轄に関するルールは調停におけるルールと異なるルールがあるので今回は離婚訴訟における管轄をご説明させていただきます。

 まず,離婚や認知など,夫婦や親子等の関係についての争いを解決する訴訟を「人事訴訟」といい,離婚訴訟も人事訴訟に含まれます。そして,人事訴訟に関しては通常の民事訴訟とは異なる点について,人事訴訟法という法律により規定しています。離婚訴訟の管轄については,当事者つまり夫又は妻の普通裁判籍を有する地(人事訴訟法4条1項)であり,夫又は妻の住所地を管轄する家庭裁判所に訴えを提起することになります。
  離婚調停の場合には原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所が管轄でしたが,離婚訴訟の場合には,夫婦いずれかの住所を管轄する裁判所に起こすことが可能になります。夫婦の住所が違って管轄裁判所が異なるときは,夫婦のどちらが先に訴えを提起したかによってどの家庭裁判所で離婚訴訟を行うかが大きく変わってきます。したがって,離婚訴訟を起こすことを決意されている場合には早期に訴えを提起した方がよいでしょう。
  仮に,相手方が先に自身の住所地を管轄する裁判所に訴えを提起した場合,自分の都合の悪い場合には,移送の申立(人事訴訟法7条)を行うのがよいでしょう。離婚調停を行っていた裁判所に対する移送などは認められる可能性があります。

  特に,夫婦間に未成年者の子がいる場合には,親権者をいずれかにするか等を調査する必要性があることから,人事訴訟法31条において,移送をするか否かに際して,その子の住所又は居所を考慮しなければならないと規定されていることから,未成年者の子がいる場合には,移送が認められる可能性が高いと考えられます。
  仮に,移送の申立が通らなかった場合には,遠隔地の裁判所に出廷する必要があり,経済的にも時間的にも大きな負担を被ることになります。相手から先に離婚訴訟を提起された場合にはできるだけ早く弁護士にご相談ください。

2018.01.10

離婚訴訟について

<ご相談者様からのご相談>

 夫との離婚調停が先日不成立になりました。これ以上話し合いではまとまりそうにありません。裁判しかないと考えています。離婚の裁判をするにはどうしたらいいのですか。また,どのくらいで裁判は終わるのでしょうか。

 <弁護士からの回答>

  これまでは,話し合いにより離婚が成立する場合として協議離婚,調停離婚についてご説明させていただきましたが,今回からは,裁判離婚についてご説明させていただきます。裁判による離婚を考える場合それまでの協議離婚や,調停よりも時間や労力,費用がかかることになります。今回は,離婚訴訟の大まかな流れをご説明させていただきます。

 離婚訴訟を提起するためには,家庭裁判所に対して訴状という書面を作成し,収入印紙(離婚とともにどのような請求を行うかによって金額は異なります。)や切手に加えて戸籍謄本,住民票などの必要書類を準備します。
 訴状には,請求の原因として,民法が規定している離婚原因に該当していることを主張する必要があります(民法が認める離婚原因については,別の機会にご説明させていただきます。)。また,裁判の特徴として,争点(相手方が争っている事項)については,単に主張するだけでは足りず,証拠がなければ裁判官に事実を認定してもらうことはできません(これを証拠裁判主義といいます。)。したがって,訴状の提出ともに,必要な証拠についても同時に提出することが一般的です。

  訴状を裁判所に提出すると,裁判所で訴状の体裁等に間違いないか確認した後,訴状が相手方に送達されます(訴えた人を「原告」,訴えられた人を「被告」といいます。)。相手方に対しては,訴状とともに第1回目の期日についての連絡書面が入っており,その日に出廷(裁判所に行くことです)するよう求められます。通常,第1回目の期日は,訴状を提出した日から1か月程度先に指定されます。

 裁判の期日では,離婚調停と異なり,基本的に話し合いの場は設けられません(別の機会にご説明しますが,和解の場面では話し合いの機会が設けられます。)。期日では,書面が提出されたことを確認する手続(「陳述」といいます。)と証拠の原本確認等が行われた後,裁判官から,原告被告それぞれ(もしくは一方のみに)に対し,次回期日までの準備事項(書面作成,証拠の準備等)が告げられ,次回期日を当事者及び裁判官と協議して決めたら,期日は終了になります。代理人として期日に出廷する場合でも,期日でのやり取りは上記と変わらず,早いときには5分程度で期日が終了してしまうときもあります。

  そして,複数回期日及び期日間での書面でのやり取りがなされた後に,裁判官から和解の提案などが出され,和解にも応じられない場合には,争点に関し尋問等の証拠調べ手続(尋問等の証拠調べ手続については別の機会にご説明させていただきます。)を行い,争点に関する審理が尽くされた段階で判決が言い渡されます。
  判決がでれば必ず終わるというわけではありません。相手方が判決に不服がある場合には,控訴してくるため,控訴審も行われます。場合によっては控訴のさらに次の段階である上告をしてくる方もいらっしゃいます(控訴・上告については別の機会にご説明させていただきます。)。

  当事務所にご相談いただく方からは,「裁判だとどのくらいかかるのですか。」とご質問いただくことが多くありますが,裁判が終結するまでの期間に関しては,争点の数,証拠の有無・量,裁判官の意向,当事者の意向等様々な要素によりどのくらいかかるのかが大きく異なってきます。早期に和解が成立すれば数か月で終了する場合もありますし,争点が多く,当事者の感情的にも対立している事案等の場合には,第1審の判決がでるまでに1年以上かかってしまう場合も少なくありません。あくまで私の感覚にはなってしまいますが,離婚の訴訟を行うのであれば最低でも半年程度は時間を要するのではないかと感じております。

  このように,裁判となるとこれまでの調停とは異なり,訴訟に移行するまでの手間や訴訟が始まってからも書面の作成に追われ,かつ,裁判官はあくまでも法律に則って判断するため,専門的な法的主張を行う必要があります。弁護士の立場かすると,早い段階(協議の段階)から弁護士に依頼していただいた方が,早期かつ円満に解決する可能性が高いと考えておりますが,協議や調停ではなんとかご自身のみで進めていた方であっても,訴訟を起こす場合,訴訟を起こされた場合のいずれでもあっても,おひとりで進めるのはほぼ困難です。
  したがって,いよいよ離婚訴訟となった場合には,なるべく早めに弁護士にご相談していただき,代理人としてご依頼ください。

2018.01.09

調停でも離婚が成立しなかったら

<ご相談者様からのご質問>

 性格の不一致が原因で夫と離婚したいと決意し,半年前に別居をしました。これまで当事者同士での話し合いでも家庭裁判所での離婚調停においても,何回も期日を重ね協議を続けてきましたが,夫が離婚に応じてくれず,結局調停も不成立になってしまいました。
 この場合,もう裁判をするしかないのでしょうか。

<弁護士からの回答>

 当事務所にも,調停が不成立になったので,裁判したいということでご相談いただく方も少なからずいらっしゃいます。しかし,裁判を提起するとなると,調停のように簡単に申し立てることができず,費用がかかり,また,離婚が成立するために長期間かかってしまうケースもあるため,調停が不成立になったからといって,直ちに裁判に移行するかどうかについては,慎重に判断する必要があります。
 そこで,今回は,調停が不成立になった場合の今後の進め方についてご説明させていただきます。

 法律上離婚調停が不成立になった場合に自動的に離婚訴訟に移行するような仕組みにはなっていません(これに対し,婚姻費用調停,養育費調停,面会交流調停,財産分与調停などは,調停が不成立になった場合には自動的に審判に移行することになります。)。また,調停が不成立になった場合には必ず訴訟を提起しないといけないと決まっているわけではありません。さらに,離婚調停の申し立てについて回数制限や期間制限が設定されていることもありません。

 したがって,離婚調停が不成立に終わった場合に今後考えられる選択肢としては,①協議離婚を行う,②再度離婚調停を行う,③離婚訴訟を提起するという3つの方法が考えられます
 この,3つの選択肢についてどれを行うのが適切であるかについては,離婚調停を申し立てるに至った理由・原因,別居期間の長さ,子どもの有無,財産状況,調停が不成立になった経緯(条件面が折り合わないのか,感情的なもので不成立になったのか)等様々な事情を考慮しなければ判断することはできません。たとえば,相手方の不貞が原因で離婚調停を申し立てたものの,相手方が頑なに離婚に応じないような場合には,裁判に移行しても早期に離婚が認められる可能性もあるので,離婚訴訟に移行することも選択肢として十分に考えられると思います。また,相手方から生活費(婚姻費用)をもらっていない場合には,婚姻費用を支払ってもらうために婚姻費用調停を申し立てるのに併せて再度離婚調停を申し立てるという選択肢も考えられます。

 ご相談者様のケースでは,性格の不一致が原因で別居しており,まだ別居期間が半年しか経過していない状況では,直ちに離婚訴訟を提起しても,離婚が認められない可能性が十分に考えられます。そこで,別居期間を離婚が認められる程度まで延ばすという点からも,協議離婚や再度調停を申し立てるということも十分有効な選択肢として考えられると思います。調停でも駄目であったのだから今さら話し合いなんかしてもしょうがないと思われるかもしれませんが,離婚事件ではひょんなことから相手方の考えが変わったりします。代理人としてお手伝いさせていただく中でも,少し条件面で譲歩したり時間を置いたりすることで,相手方の気持ちが柔軟になり,弁護士も予期していない形で早期に離婚が成立することも多くあります。

 いずれの選択肢を採るにしても,一度調停を申し立てて第三者を入れても話し合いが成立していない状況です。基本的に当事者のみではスムーズな解決が困難な状況になっているため,代理人である弁護士を通じて進めるべきであることは間違いありません。是非一度,これまでの経緯も含めて弁護士にご相談ください。

2018.01.08

調停に代わる審判

<ご相談者様からのご質問>

夫と間で離婚調停を行っています。離婚すること,親権者についても合意をしており,財産分与等の問題も解決していますが,養育費の金額だけ折り合いがつきません。私としては夫から提示されている金額では納得できないのですが,正直なところ裁判官がきちんと判断してくれた金額であればその金額で妥協したいと考えています。この場合,当事者間で合意ができていない以上,裁判をするしかないのでしょうか。あまり時間をかけたくありません。

<弁護士からの回答>

離婚調停は,離婚することだけでなく,当事者が調停で協議してほしいと考えている離婚に関する諸条件についても合意に至らなければ離婚自体も調停では成立することはできません。調停で成立することができない場合,原則として裁判を行う必要があります。しかし,裁判を起こして離婚を成立さえるためには時間や費用がかかります。ご相談者様の事例のように,せっかく養育費以外について合意できたのにも関わらず,ご破算にして裁判にしてしまうのは,双方にとってメリットは少ないでしょう。そこで今回は,調停に代わる審判という少し変わった調停の終わりかたについてご説明させていただきます。

 ご相談者様の事例のように,養育費以外の条件に付いてはすべて当事者で合意が成立している場合,調停を成立させる方法としては,まず,養育費については離婚調停では合意せずに後日当事者間で協議,もしくは別途養育費調停を申し立てるという方法が考えられます。もっとも,相手方において養育費も含めてでないと合意できないという意向がある場合には,この方法を採ることはできません。

 そこで,このような場合には,調停に代わる審判という制度が利用される場合があります。調停に代わる審判とは,①調停委員会の調停が成立しない場合であり,②家庭裁判所が審判をするのを相当と認める場合に③調停員会を組織する家事調停員の意見を聴き,④当事者双方のための衡平に考慮し,一切の事情をみて,⑤当事者双方の申立の趣旨に反しない範囲で,家庭裁判所の裁量的な判断を行うことを言います(家事事件手続法284条)。法律上調停に代わる審判を行うためには上記の①~⑤の要件を充たしている必要があります。

 したがって,ご相談の事例の場合にもわざわざ調停を不成立にして,訴訟をするよりも,養育費の金額については,裁判官の判断にゆだねるため,調停に代わる審判の制度の利用を検討した方がよいと考えられます。
 調停に代わる審判の特徴としては,①調停に代わる審判が出された後には調停の取下げができないこと,②調停に代わる審判の告知が公示送達(当事者の所在が分からない際に行われる通知の方法です。)では行えないこと,③相手方へ告知ができない場合には取り消さなければならないことがあげられます。

 調停に代わる審判が出されると,審判書が当事者双方に送達されます。調停に代わる審判は,いわば家庭裁判所から解決案を提示して当事者を納得させようとする特徴を有しており,裁判と異なり,裁判所が強制的に判断するものではありません。したがって,調停に代わる審判は,審判書が送達された日(告知された日)から2週間以内に書面によって異議申立てがなされた場合には,調停に代わる審判の効力が失われることになります。なお,告知された日から2週間以内に異議申立てが出されない場合には,調停に代わる審判が確定し,審判書についても調停調書と同じように執行力を有することになります(調停に代わる審判により成立する離婚を「審判離婚」といいます。)。

 このように,調停に代わる審判は,相手方が異議申立てをしてしまうと,効力がなくなってしまうものなので,いかなるケースにも使えるようなものではありません。当事者間でごく僅かな金額の違いで合意ができていない場合や,相手方への感情的な理由により,体裁上合意をしたくはない場合には,異議申立てが出される可能性が少ないため,調停に代わる審判が有効とされています。

 なお,離婚,離縁に関する調停以外の調停の場合には,当事者双方が調停に代わる審判に服する旨の共同の申し出がなされた場合には,異議申立てができないと認められています。
 このように,離婚に関する些細な条件の違いにより話し合いにより解決が困難な場合には調停に代わる審判という方法により早期に離婚が成立する可能性が残されていますが,当事者同士のみで調停を進めている場合には,一方当事者に弁護士が代理人として入ることで,きちんと相手方を説得し,調停による解決を図ることも可能です。また,調停を継続すべきかそうでないかという点については非常に専門的な問題であるため,条件で揉めている場合には是非一度弁護士にご相談ください。

2018.01.07

離婚調停成立の手続き

<ご相談者様からのご質問>

 妻と離婚をしたくて,離婚調停を申し立てました。条件面での話し合いが難航しましたが,何回か調停の期日を経てようやく条件面もまとまりそうです。次回の期日で調停が成立するとした場合,何かすることはありますか。今後の流れを教えてください。

<弁護士からの回答>

 協議離婚も調停離婚も話し合いにより離婚する点では違いはありませんが,調停で離婚する際の手続きは,協議離婚とは異なったものになります。そこで本日は,離婚調停成立の手続きと調停成立後の手続きについてご説明させていただきます。

 離婚調停では,当事者間において離婚することに加えて離婚に関する諸条件(親権,養育費,財産分与等)について合意すると,調停が成立することになります。
具体的に調停がどのような形で成立するかというと,当事者で合意した内容について裁判所にてどういった文言の調停調書を作成すべきかを検討します。
そして,これまで双方の話を聞いていた調停委員に加え,担当する裁判官が当事者に対し,調停証書の内容を口頭で説明し,内容に問題ないかを確認します。
当事者双方から内容に問題がないと確認された時点で,調停が成立し,法律上は当事者間で離婚が成立することになります。このように,調停成立の日には書面になにかサインをする必要はありませんし,成立のその日に書面ができあがることはありません。

 もっとも,以前にもお話ししましたが,調停が成立する際に作成される調停調書は,執行力を有しており,そこに記載されている内容の債務を履行しないと強制執行がされてしまうという強い効力を有しています。調停成立の際には実際に調停調書の文言をみることはできません。したがって,裁判官が口頭で説明する内容が,本当に自分が合意した内容と合致するものとなっているのか,自分に不利な内容になっていないかという点については慎重に確認する必要があります。可能であれば,調停が成立するまえに,家庭裁判所に対し「調停条項案」というものを作成してもらい,その内容で合意をしても問題ないかという点を一度弁護士にご相談いただくのがよいのではないかと思います。

  また,調停成立により法律上離婚は成立するものの,自動的に戸籍が変わるわけではありません。調停成立後に家庭裁判所が作成する調停調書をもって,当事者の一方(通常は女性側になります。)が役所に行き,調停調書とともに離婚届(相手方の署名などは不要です。)を提出することにより,戸籍上も離婚したことが反映されることになります。この離婚の届出ですが,離婚調停成立の日から10日以内に行う必要があるので注意が必要です。また,本籍地ではない役所に離婚届を提出する場合には,従前の戸籍謄本が必要になります。別居して本籍地と離れたところの役所に離婚届を提出する場合にはあらかじめ戸籍謄本を準備しておいた方がよいでしょう。

2018.01.06

離婚調停における秘匿事項について

<ご相談者様からのご質問>

  夫からの激しいDVに耐えられなくなり,夫に内緒で引越先を探し,別居をしています。夫と離婚しようと思い,家庭裁判所から離婚調停の申立書をもらってきました。申立書の中に私(申立人)の住所を記載する欄があるのですが,今住んでいる住所を夫に知られてしまうと,夫が家に押しかけてきて暴力を振るわれてしまうかもしれません。住所だけでなく,職場等も夫に知られたくないのですが,どうすればいいですか。

<弁護士からの回答>

 ご相談内容にあるように,様々な理由から,相手方配偶者に住んでいるところや職場を知られたくないという方は少なくありません。
 こうした相手方に知られたくない情報について,ひとたび相手方に知られてしまうと,取り返しのつかない事態に発展してしまう可能性があります。
 そこで,本日は,相手方に知られたくない情報がある場合に,離婚調停をどのように進めて行けばよいかをご説明させていただきます。

 離婚調停の申立書には,申立人の住所を記載する必要があり,原則としては現住所を記載する必要があります。住民票を同居していた場所から移していない場合であっても現住所としては現在住んでいるところの住所地を記載する必要があります。
 もっとも,相手方が住所を知らないに,申立書にその住所を記載してしまうと,申立書は相手方に送付されますので,相手方に住所が知られてしまうことになります。そこで,相手方に住所を知られたくない場合の方法としては大きく分けると2つの方法があります。

 1つ目の方法としては,申立書に記載する住所を,相手方に知られてもよい住所,すなわち,住民票を移していない場合には,住民票上の住所地を記載するか,住民票を移している場合には,同居していた際の住所地を記載することが考えられます。
 もっとも,実際に住んでいない住所地を記載する場合には,「連絡先等の届出書」という書面に,連絡がつく電話番号や,書類の送付先を記載し,家庭裁判所に提出する必要があります。この方法では,申立書からは現住所が判明しませんが,法律上,調停の当事者には,家庭裁判所の許可を得て記録の閲覧や謄写が可能になっているので(家事事件手続法254条),上記「連絡先等の届出書」について,閲覧されてしまう可能性はゼロではありません。

 もう1つの方法としては,家庭裁判所に対し,「非開示の希望に関する申出書」を提出することにより,相手方からの閲覧や謄写の請求の際,当事者から非開示の希望が出ているという事情を斟酌してもらえるため,住所が知られないようにすることができます。この,「非開示の希望に関する申出書」は,申立書だけではなく,基本的には調停中に提出する資料全般に使用することができます。例えば,養育費の金額等を決める際の給与明細等に記載されている自分の職場が知られたくない場合には,給与明細の提出の際に,同時に申出書を提出することになります。

 この,「非開示の希望に関する申出書」ですが,提出すれば必ず非開示になるというものではありません。先程お話ししたとおり,記録の閲覧請求は,裁判所が許可した場合には認められるものですので,いくら非開示の希望が出されていたとしても,開示する必要性があると裁判所が認めた場合には,開示されてしまいます。

 上記の2つの方法ではいずれの方法でも完全に,住所を秘匿することはできません。しかし,弁護士を代理人として依頼することにより,申立書の住所地には相手方に知られてもよい住所地を記載し,連絡先については代理人の弁護士の事務所の所在地を記載することにより,相手方に現住所を知られる可能性はほぼゼロにすることができます。

 相手方に住所地を知られたくないケースとなると,離婚の問題自体も相当やっかいな状態になっていることが通常です。相手方に住所を知られずに離婚を進めたい場合には是非一度弁護士にご相談ください。

2017.12.25

調停前置主義について

調停前置主義について

<ご相談者様からのご質問>

  性格の不一致が原因で夫と別居して1年が経とうとしています。夫とこれまで離婚の話し合いを行ってきましたが,夫がいっこうに離婚に応じてくれません。夫の意思は固そうなので,調停にして,調停委員を間に入れても離婚に応じないという考えは変わらないと思います。夫と早く離婚したいので調停を経ることなく裁判にすることはできないのですか。いきなり訴訟を申し立てたらどうなるのでしょうか。

<弁護士からの回答>

  結論からお伝えすると,離婚調停を経ることなく,離婚訴訟を行うことができません。離婚調停だけでなく,家事事件に関する手続きの多くは,当事者での話し合いを経てそれでも解決できない場合に,初めて裁判官の最終的な判断にゆだねるべきであるという原則を採用しています。したがって,ご相談いただいている方の場合もいきなり離婚訴訟を起こすことはできません。今回は,離婚調停のみならず,家事調停における調停前置主義についてご説明させていただきます。

  調停前置主義とは,裁判(もしくは審判)を前に調停をしなくてはならない制度をいいます。通常の民事事件,例えばお金を貸したのに返してくれないといった紛争の場合には,交渉で解決しない場合に,訴訟に移行するか,それとも調停(民事調停)を申し立てて話し合いで解決するかについては,当事者の自由な意思に委ねられています。

  これに対し,家事事件のうち,ある一定の事件に関しては,(家事事件手続法257条1項,244条),調停前置主義が採用されています。
  家事事件において調停前置主義が採用されている主な理由は,家事事件の家事事件の場合,事件が終了したあとも親子関係などが継続していくケースもあり,そのような家庭内の問題(紛争)を,いきなり訴訟手続に持ち込んでしまい,白黒つけるという解決方法よりも,当事者が十分に協議をすることにより,できるだけ当事者双方の関係を改善することが望ましいと考えられているためです。

  家事調停において調停前置主義が採用されている事件は,離婚調停だけでなく,婚姻の無効,嫡出否認,認知の無効等に関する特殊調停事件と離婚,離縁等の一般調停事件が対象となっています(調停の種類については,別の機会にでもご説明させていただきます。)。
  調停前置主義が採用されている離婚事件に関し,調停を経ることなくいきなり離婚訴訟を提起した場合には,原則として,裁判所が職権で,事件を家事調停に付す(移す)ことになります(家事事件手続法257条2項,調停に付されることから,「付調停」と言われています。)。

  もっとも,裁判所において「事件を家事調停に付することうが相当でないとみとめるとき」には,例外的に,いきなり訴訟を起こせる場合があります。付調停の例外としては,相手方が行方不明であったり,精神障害等で協議による解決が見込めないことが明らかである場合などには認められる可能性があります。
  いずれにせよ,基本的には離婚訴訟するためには原則調停を経る必要があります。早期に離婚を進めていくためには,離婚に応じないという方であっても協議や調停において充実した活動を行い,訴訟の前に離婚が成立するのがよいと思います。そのためにも早く離婚したいと考えられているかたは,是非一度弁護士にご相談ください。

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