離婚調停の管轄について
離婚調停の管轄について
<ご相談者からのご質問>
これまで東京で夫と子ども2人と生活していましたが,離婚を考えて子を連れて福岡市にある実家に別居してきました。離婚調停を申し立てることを検討していますがどの裁判所に申し立てる必要がありますか。東京の家庭裁判所に申立てなければいけないときには必ず裁判所まで行かないといけないのでしょうか。
<弁護士からの回答>
ご結婚され同居されているご夫婦であっても,離婚を考え,別居する際には,仕事の関係で,近隣に引越しをされる方もいれば他県にあるご実家に帰られるかたもいらっしゃります。このように,離婚を前提として別居をする際に,当事者が別々の県や地域等で生活を行うようになると,離婚調停について,どこの裁判所に申し立てなければいけないかという点で問題になることがあります。そこで,本日は,離婚調停をどこで行うかという管轄の問題についてお話しさせていただきます。
離婚調停は,家庭裁判所に申し立てを行うのですが,どの家庭裁判所でも自由に申し立てをすることができるというわけではなく,法律上,原則として離婚調停は相手方の住所地を管轄する(取り扱う)裁判所に申し立てをしなければなりません(家事事件手続法245条1項)。したがって,ご質問された方の場合には,原告として家庭裁判所へ申し立てる必要がありますが,他方で,相手が離婚調停を申し立てる場合には,反対に福岡家庭裁判所に離婚調停を申し立てることになります。
このように,原則は相手方の住所地を管轄する裁判所に申し立てる必要があるのですが,例外的に別の場所でも認められる場合があります。その例外の1つが,当事者が合意をしている場合には,当事者の住所に関わらず,全国どこの家庭裁判所であっても調停を行うことができます。当事者が管轄に合意することを合意管轄といい,当事者が合意している場合には,通常,管轄合意書という当事者が管轄について合意していることを証する書面を作成し,申立書等の書類と一緒に合意した裁判所に申し立てることになります(家事事件手続法245条2項,民事訴訟法11条2項,3項)。
また,相手から合意を得られない場合であっても,法律上,「事件を処理するために特に必要があると認めるとき」に限り,管轄外の家庭裁判所であっても調停を起こすことが可能となります(裁判所が職権で自ら事件を処理することから「自庁処理」といいます(家事事件手続法9条)。)どういった場合に自庁処理が認められるのかについて,一律の基準があるわけではないのですが,例えば幼い子どもがおり調停に出席する際に預けることができる人がいない場合や,経済的な事情や,病気等で遠隔地の裁判所に赴くことが困難になる場合などを主張していくことになります。特に離婚の際にお子さんの親権について争いになっている場合には,後日お話ししますが,家庭裁判所の調査官がお子さんの様子を自宅に訪問するなどして確認するケースがあり,調査を容易にすることができるという点も自庁処理を希望する際には主張すべき事由になります。
とはいえ,調停は本来相手方の住所地で行うべきものであるため,自庁処理が認められるためには,相当な理由がないと認められません。また,自庁処理を行うかの判断を決める際には必ず相手方の意見も聞かなくてはならないため,相手方側の都合から自庁処理に反対する場合には,原則通り相手方の住所地で調停が行われることになると考えておいた方がよいと思います。
相手方の住所地での調停を行うとなっても必ず調停に出席しなければならないわけではなく,弁護士を代理人につけていれば弁護士のみ調停に出席することも可能ですし,場合によっては,電話会議システムにより実際に裁判所に行かなくても電話にて調停に参加することも可能な場合があります。もっとも,代理人がついている場合であっても,離婚が成立する際には必ず本人が裁判所へ行き裁判官の面前で離婚することや他の条件について間違いがないかを確認することが求められているので少なくとも1回は裁判所に赴く必要があります。
どの裁判所に申し立てるべきかという問題は非常に専門的な問題でもあるので,是非一度弁護士にご相談ください。
離婚調停について③
離婚調停について③
<ご相談者からのご質問>
離婚調停はある程度時間がかかってしまうものなのですね。あくまでも話し合いということなので,自分1人でやってみようと思いますが大丈夫でしょうか。
<弁護士からの回答>
当事務所は,離婚事件等家事事件についてご依頼いただく件数が比較的多いため,私もご依頼者様の代理人として,ご依頼者さまとともに家庭裁判所へ赴き,調停に出席することが,多々あります。調停の待合室でご依頼者様とお待ちしていると,お一人で調停に臨まれている方のため息や,悩まし気なお顔を拝見することが多々あります。調停も必ずしもつけなければいけないわけではありませんが,調停もケースによっては,協議離婚による場合よりも感情的な対立が激しくなってしまい,ご自身のみでは対応が難しくなってしまうケースが多いです。本日は,離婚調停における注意点についてご説明させていただきます。
以前にもお伝えした通り,調停では当事者同士面と向かって話し合いを行うのではなく,中立的な第三者である調停委員に話をするため,当事者同士の感情的な対立を避けることができるというメリットがあります。
しかし,この調停委員の方はあくまでも中立的な立場にたって調停を進めなくてはいけないのですが,調停委員も人間ですので,話を進めていく中で夫婦のどちらか一方の肩をもって話を進めて行こうとするケースは少なくありません。例えば,相手方からこちらが不貞をしたとして離婚と慰謝料を請求されているケースで,こちらは事実無根であると主張しているにも関わらず,不貞行為をしているだろうという前提で話を進められたため,話にならないとして,当事務所にご相談いただいた方もいらっしゃいました。
また,調停委員もなるべく早期に調停を成立させるために動く傾向にあるため,本来であれば中立・公正な立場でなければいけないのにもかかわらず,多少強引に進めてくる調停の方も多くとはいいませんが,少なからず存在することは事実です。調停委員をこちらから選ぶことも,替えてほしいと頼むことも基本的にはできません。
したがって,中立性・公平性な調停員にあたるか,そうでない調停委員にあたるかは,いわばギャンブルのような側面も有しております。中立性・公平性に反する調停員に当たってしまった場合には,たとえこちらの主張が法的に正当性を有している主張であるしてもきちんと耳を傾けてくれず,最終的に自分に不利な内容で調停をまとめるよう押し切られたまま,調停が成立してしまうというケースも少なからずあるようです。当事務所にご相談に来られた方もはじめは自分ひとりで調停を行っていたのだが,調停委員と折り合いが合わず,これ以上1人では進められないとして代理人を依頼される方もいらっしゃいます。
調停の段階できちんと弁護士を代理人として入れておくことで,調停委員からの提案が法的に妥当でない場合には代理人としてきちんとその旨の伝え,不利な内容で離婚に応じることがないように進めることが可能になります。また,こちらの主張の正当性をきちんと伝えることで,ある意味調停委員を味方につけて,解決に向けて,相手方を説得してくれる方向に導くことも可能です。
したがって,調停を申し立てることを考えられている方や,相手方から調停を申し立てられた場合には是非,ご相談いただければと考えております。
次回では,離婚調停を申し立てる裁判所の場所(管轄)のお話をさせていただきます。
離婚調停について②
離婚調停について②
<ご相談者様からのご質問>
離婚調停の大まかな流れについてはわかりました。期日は月に1回しか行われないのですね。調停はだいたい何回くらいで終わるのでしょうか。
<弁護士からの回答>
当事務所にご相談に来られる方から「調停は何回で終わりますか。」というご質問をいただくことが多いのですが,法律上何回で調停を終了させなければいけないということは決まっていません。
今回は,離婚調停の終結の方法についてご説明させていただきながら上記質問にご回答させていただきます。
前回お話ししたとおり,離婚調停は,当事者がそれぞれ30分ずつ交互に調停委員を介し,離婚に向けた話し合いを行います。1回の期日は2時間程度で終了し,約1か月後に次の期日が設定され,次回期日までの間に,資料を準備したり,相手方からの条件に応じることができるか否かを検討したりします。
調停の終了の具体的な内容についてですが,話し合いがまとまった場合には①調停成立により,調停調書(裁判所が作成する合意内容を記載した書面です。調停調書については別の機会にご説明させていただきます。)を作成し,離婚が成立して終了となります。他方,話し合いがまとまらない場合には,②不成立(「不調」といいます。)となり,離婚は成立しないまま,調停の手続きが終了することになります。また,申立人において,これ以上調停を続けたくないと考える場合には,③調停を取り下げることで,調停の手続きを終了することができます。また,別の機会にご説明させていただきますが,争点につき裁判官が判決と同じように判断する④調停に代わる審判という方法により調停が終了する場合もあります。以上のように調停の終わり方については大きく分けると①~④の種類がありますが,ほとんどの事件では,①か②,すなわち,調停の成立か不成立により終了します。
ご質問にあった,調停が何回で終了するかについてですが,先程お話ししたとおり,法律上,調停を何回で終了しなければならないということは決まっていません。調停は話し合いによる解決を模索する手続きであるため,回数を重ねることで,話し合いがまとまる可能性がある場合にはずっと続くことになります。
離婚調停の場合には,当事者が離婚すること自体には応じていたとしても調停の中で他の条件について合意していない場合には,調停は成立しません。そこで,一般的に争点が多い案件ほど,長期化する傾向にあります。
他方で,調停当初から全く主張が食い違い,話し合いがまとまる余地がない場合には比較的短期間で調停が不成立になります。
このように,調停が何回で終了するかについては,当該ご夫婦のおかれている状況や,争点の数,相手方がどこまで話し合いに応じる意向があるかによってことなってくるため,「ケースバイケースで異なってきます。」という回答しかできないところではありますが,通常,3~4回の期日を行い,話し合いを続けて行けば,調停が成立する見込みがあるかについては判断が可能かと思われますので,調停に移行することを検討される場合には,だいたい3~4か月程度かかるかもしれないという点を念頭において進められるのがよいのではないかと思います。
次回では,離婚調停における注意点についてご説明させていただきます。
離婚調停について
離婚調停について
<ご相談者様からのご質問>
夫と離婚したいのですが,いくら話し合っても離婚に応じてくれません。離婚調停という言葉は聞いたことがあるのですが,そもそも調停とはなんですか。
<弁護士からの回答>
離婚の件が増えている現代では,調停により離婚が成立する件数も一定程度存在します。そこで,これから数回に分けて離婚調停についてご説明させていただきます。
今回は,はじめに離婚調停の一般的な内容とおおまかな流れについてご説明させていただきます。
離婚調停とは,正式には夫婦関係調整調停といいますが,夫婦間において離婚の話し合い(協議)ができないときや,うまく進まないときに,裁判所に間に入ってもらい,離婚するかどうかや,離婚に関する条件ついて話し合う手続きのことをいいます。夫婦関係調整調停には,離婚しようという場合ではなく,夫婦関係をやり直したい場合に申立てる調停(「円満調停」ともいいます。)もありますが,離婚したいと希望して調停を申し立てる場合を「離婚調停」と呼んでいます。
離婚調停の場合,離婚を希望する人が,相手方の住所地を管轄する家庭裁判所(管轄裁判所といいます。調停に関する管轄については,別の機会にご説明させていただきます。)に対し,必要事項を記載した申立書と戸籍謄本等の添付資料を提出し,離婚の調停を申し立てます(調停を申し立てた人のことを「申立人」といい,逆に調停を申し立てられた人のことを「相手方」といいます。)。すると,相手方に申立書が送付され,申立てを行った日から1か月後をめどに第1回目の期日が開かれることになります。
具体的な調停の進み方についてですが,調停は,裁判所が間に入る点で協議離婚とは異なりますが,あくまで話し合いにより合意しなければ離婚が成立しない点では,協議離婚と同じになります。
裁判所が間に入るとお伝えしましたが,厳密にいうと,男性と女性の調停委員(弁護士,裁判官等の法曹資格を持っていない一般の方です。元公務員の方などがなられているので,若干年齢が高めの方がなられているのが通常です。)2名が間に入り,夫婦それぞれの話を30分程度ずつ交互に話を聞いていくことになります(申立人と相手方の待合室は別の部屋になっており,相手方が調停委員に話をしているときは,それぞれの待合室で待機していることになります。)。1回の期日では2時間程度で終わり,離婚が成立するか,話し合いが決裂するかが決まるまで何度か期日を重ねて話し合いを重ねていくことになります。
このように,調停では,当事者同士で面と向かった話し合いをするのでなく(調停で当事者が顔を合わせることは調停が成立する最後の時など限られており,ほとんどありません。),調停委員が夫婦それぞれの話を聞き,離婚やその他の条件について当事者の合意に至ることができるよう話し合いを進めていくことになります(離婚調停では,親権者,養育費,面会交流,財産分与,慰謝料,年金分割等離婚の際に通常決めるべき条件についても同時に話し合うことができます。)。
離婚調停のメリットは,上記のように,調停員という中立な第三者が間に入るので感情的になってしまい話し合いができないという状況は比較的防ぐことができます(場合によっては,より感情的になってしまう可能性もあるのですが,それについては別の機会でご説明させていただきます。)。また,別の機会にも説明しますが,調停が成立した際に裁判所において作成する調停調書は,以前お話した公正証書と同じように,執行力があり,相手方が債務を履行しない場合には直ちに強制執行を行うことが可能です。
他方,調停のデメリットとしては,調停の期日は,1月ごとに2時間程度しか実施されないため,1回の期日で集中して充実した協議を行うことが困難であり協議離婚と比べてスピーディーな解決にはそぐわない点と,期日は平日にのみ実施されるため,特に勤務されている男性の場合には調停の期日に出席(出廷といいます。)することが困難となるケースが見受けられます。
次回からは,離婚調停での終結の方法についてご説明させていただきます。
公正証書について
公正証書について
<ご相談者さまからのご質問>
インターネット等で「公正証書」という言葉を聞いたのですが,公正証書とは何ですか,どういった場合に公正証書を作成した方がいいのでしょうか。
<弁護士からの回答>
これまでご説明してきた離婚協議書もこれからご説明する公正証書による離婚協議書のいずれも,作成をすれば,夫婦に権利義務(債権債務)が発生することに変わりはありません。しかし,相手方が金銭債務(お金を支払う義務のことです。)を履行しなかった場合に債権,すなわちお金を回収する際に,通常の協議書と公正証書とでは大きく進め方が異なってきます。そこで,本日は,公正証書の内容をご説明するとともに,どういった場合に公正証書を作成した方が良いのかについてご説明させていただきます。
公正証書とは,公証人方に基づき法務大臣に任命された公証人が作成する文章のことを言います。公正証書の場合には,通常文書を作成する当事者(委任状があれば代理人でも可能です。)が公証役場に行き,公証人の前で作成することの意思を確認し,確認がとれた上で作成されます。
これまでお話ししてきた当事者(もしくは弁護士)が作成する離婚協議書は,私文書であるのに対し,公正証書は公文書になります。
公正証書と私文書の1番の違いは,公正証書には執行力が認められている点にあります。
まず,公正証書でも私文書の協議書であっても,作成をすると,記載されている条項通りの権利義務が発生すること自体に違いはありません。
しかし,相手方が金銭債務(養育費や慰謝料,財産分与等において,金銭を支払う義務(債務)のことをいいます。)を履行しない場合に,私文書の離婚協議書の場合には,強制執行(預貯金や給料を差し押さえる手続きをいいます。)をするためには,裁判や調停,審判などを起こして判決等の強制執行をするための効力(債務名義といいます。)を得る必要があります。これに対して,公正証書の場合には,上記で説明したとおり,公証人が作成する公正証書であることから,相手方が金銭債務を履行しなかった場合には直ちに強制執行をすることが可能になります。
このように,金銭債務について,相手方が履行しない場合には公正証書を作成しておけば直ちに強制執行を行うことが可能になり,債権を回収できる可能性が高くなります。したがって,相手方から養育費を払ってもらう場合や,慰謝料や財産分与等について一括ではなく,分割で支払ってもらう場合には,後々に支払われなくなる可能性があるため,きちんと回収できるよう,公正証書で作成しておいた方がよいでしょう。
なお,すべての公正証書がこのような強制執行をする効力を有しているわけではなく,公正証書の中に,「この公正証書に記載した金銭債務の履行を怠ったときは,直ちに強制執行を受けても異議がないことを承諾した。」という文言(強制執行認諾文言といいます。)が入っている必要があります。
当事務所では,離婚協議書について公正証書にて作成を希望される方がいらっしゃる場合には,協議書の作成だけにとどまらず公証役場との日程調整や当日,公証役場への付き添い若しくは代理人として出頭することもさせていただいておりますので,公正証書の作成を考えられている場合には,是非一度ご相談ください。
離婚協議書について②
離婚協議書について「2」
<ご相談者様からのご質問>
離婚に関して争いがないとしても,離婚協議書は作っておいた方がいいのですね。インターネット等で,離婚協議書の書式等を見つけたのですが,これを参考にして自分で作ってみます。
<弁護士からの回答>
インターネットが一般家庭にも普及するようになって,今では,「離婚協議書 テンプレ」等と入力すると,離婚協議書の見本を参考にして,ご自身でも離婚協議書を作成すること自体は可能です。しかし,何も考えずにそういった書式をもとに協議書を作ってしまうと,せっかくトラブルを防ぐために書面を作成したのに,その書面が原因でトラブルに発展してしまう可能性が出てきてしまいます。そこで,本日は,離婚協議書を作成する際の注意点についてご質問させていただきます。
前回のブログで,離婚協議書では当事者が合意した内容であればある程度自由に条項を作成することができ,作成をすれば,条項の内容にしたがった権利義務(債権債務)が発生するとお伝えしましたが,当事者が合意をしたからといって,どんな内容でも有効になるかというとそうではなく,一般常識とは明らかにかけ離れた内容であると(公序良俗違反といいます。)無効になってしまう場合があります。
例えば,通常の家庭でそこまで資力や収入がないのにも関わらず,慰謝料の金額として4億円払うということを合意したとしても,払えないことは明らかであり,非常識な金額であるため無効となるのが一般的です(もっとも,大富豪の場合の離婚の際には,そこまで非常識な金額ではないとして,有効となるケースもあるかもしれません。)。また,未成年者のお子さんの生活費(養育費)を払わないという合意(養育費不支給条項といいます。)については,裁判例において無効と判断されています(養育費不支給条項の有効性については別の機会にご説明いたします。)。
先程述べたとおり,離婚協議書については,皆様ご自身でも作成することは可能です。しかし,法的な知識に詳しくない方がご自身で作成してしまうと,上記のように無効な内容の協議書を作成してしまう可能性が生じてしまいます。
また,内容が無効でないとしても,書式では,その書式が夫側,妻側どちらに有利な内容であるかについては基本的に説明がないのが一般的であることから(前提として,離婚の条件は,一方に有利な内容であるならば他方には不利な内容になるのが一般的です。),何も考えずに,書式をそのまま利用してしまうと,知らぬ間に自分に不利な内容で協議書を作成してしまう可能性は否定できません(基本的に一度作成した協議書の効力をあとから「やっぱりなしで。」と言って否定することはよほどの事情がない限り困難といっていいでしょう。)。
このように,ご自身のみで離婚届を作成すると,せっかくトラブルを防ぐために作成した協議書が原因で後々にトラブルが起ってしまうことになりかねません。弁護士に協議書の作成を依頼することにより,そういった内容面でのトラブルが発生することを防ぐことができますので,是非一度,離婚協議書の作成についてご相談ください。また,相手方が離婚協議書を作成してきた場合には決してその場で署名をせず,いったんは持ち帰り,弁護士に「この内容でサインをしてしまって問題がないか」とご相談ください。よく,「離婚協議書にサインをしてしまったのだが問題ないか。」とご相談に来られる方がいらっしゃるのですが,弁護士ともいえども,一度サインをしてしまったものを覆すことは基本的に難しいので,サインをされる前に是非一度ご相談ください。ご相談者様に少しでも不利にならないようアドバイスをさせていただきます。
離婚協議書について①
離婚協議書について「1」
<ご相談者様からのご質問>
夫が離婚に応じてくれ,離婚届にも署名してくれました。養育費も財産分与もあとできちんとしてくれると言っているので特に問題なく離婚することができそ
うです。
<弁護士からの回答>
以前のブログでも書きましたが,離婚届には,離婚することと,未成年者のお子さんがいらっしゃる場合には親権者を決めさえすれば提出することができ,それ以外の条件については,離婚をするだけであれば,離婚届作成の時点で決める必要はありません。しかし,離婚届のみ作成し,それ以外の条件についてきちんと合意内容を書面に残しておかないと,せっかく離婚が成立したのに,その後も相手とのトラブルに巻き込まれてしまうかもしれません。そこで,本日は,協議離婚の際に作成すべき離婚協議書についてご説明させていただきます。
離婚協議書とは,夫婦の当事者間で離婚及び離婚に関するその他の条件について合意した内容を記載した書面です。離婚という身分関係に関わってくるものではありますが,売買契約書や,消費貸借契約書と同じく契約書です。
離婚協議書では,①離婚すること②離婚届をどちらが提出するか等の離婚届に関する事項③未成年者の親権者に関する事項④親権者でない親と子との間の面会交流に関する事項,④財産分与に関する事項,⑤慰謝料に関する事項,⑥年金分割に関する事項等を盛り込むことが一般的です。そして,離婚協議書では,上記①~⑥の事項について,当事者が合意をすればある程度自由かつ柔軟に決定することが可能です。例えば,面会交流について,月1回日帰りとしつつも,長期休暇の際には,宿泊を伴い面会交流を認めたり,慰謝料について総額を決め,頭金をまず支払い,残額を分割払いにするなども決めることができます。
さらに,離婚協議書の中には,上記の一般的な事項だけにとどまらず,様々な内容について,当事者が合意さえすれば盛り込むことが可能です。例えば,もう相手方配偶者から接触してもらいたくないと考えている場合には,「正当な理由がない限り接触しないことを誓約する。」というような条項(「接触禁止条項」といいます。)を盛り込むことにより相手方に対し正当な理由がないかぎり接触してはいけないという義務(債務)を負わせることが可能になります。
厳密にいうと,これらの条件について書面で作成しないと,効力(権利や義務)が発生しないかというとそうではなく,口頭であっても当事者が合意をしていれば効力自体は認められます。しかし,口頭だけで約束をしておくと,後々に相手から「そんな約束をした覚えはない」等を言われてしまい,一度約束した事項について遵守してくれなくなってしまう可能性が大きく,最終的には裁判をしなくてはならない可能性も出てきます。また,裁判では,合意の存在について証拠をもって主張する必要があるので,口頭での約束しかしていないと証拠がなく,負けてしまう可能性も出てきてしまいます。
そこで,離婚協議書を作成することによって,裁判で勝てるように証拠をきちんと残しておくことができますし,何より,書面に残しておくことで,相手方との間でトラブルになることを未然に防ぐことができます。
離婚の条件について当事者で合意した内容をきちんと書面に残しておくことは,自分だけなく相手方にとってもメリットになることなので,離婚について当事者間で今現在特に争いがないとしても,離婚協議書はきちんと作成しておいた方が良いと考えます。
離婚届不受理申出制度
離婚届不受理申出制度
<ご相談者からのご質問>
離婚届を勝手に出されてしまうこともあるのですね。
勝手に離婚届を出されないようにするにはどうすればいいのですか。
<弁護士からの回答>
前回のブログでは,勝手に離婚届を提出されてしまうと,それを元に戻すまでにとても苦労するということをお話しさせていただきましたが,今回は,相手に勝手に離婚届を提出されることを事前に防ぐための制度である,離婚届不受理申出制度についてご説明させていただきます。
離婚届不受理申出とは,役所に対し,配偶者が提出する離婚届を受け付けないで欲しいと申し出ることにより,申出後に配偶者が離婚届を提出したとしても役所にて離婚届を受理しなくなる制度です。
不受理の申出は,離婚届不受理申出書(役場の戸籍係か,市区町村によっては,役所のホームページからダウンロードできます。)。の必要事項を記入し,基本的に届出をする人の本籍地に提出することで不受理の申出が受け付けられます。
なお,不受理の申出に関しては,特定の人から提出された離婚届のみ不受理にするのか,誰が提出したかにかかわらず,一律に不受理にするのかについて選ぶことができます。
この不受理申出の制度は,自分が作成していないのに,相手が勝手に離婚届を作成し,離婚届が提出されることを防ぐことができるだけでなく,その場の勢いに任せて一度は離婚届に署名押印をしてしまった後に,冷静に考えてやはり離婚したくないと考えを改められた場合には,この不受理申出をしておくことで,離婚が成立することを防ぐことができます。
したがって,過去に離婚届を作成されたことがあり,いつ相手方に出されてしまうかわからないような状態の方はなるべく早く不受理の申出をされた方が良いと思います。
この不受理申出の制度ですが,あくまでも協議離婚において,勝手に離婚が成立することを防げるのであって,不受理の申出をしていても,調停や裁判などで離婚が認められた場合には,調停調書や判決書等を役場に持参することにより離婚が成立してしまいます。
また,一度,不受理申出をすると,その申出は取り下げるまではずっと有効になります(以前は,市区町村に受理されてから6か月間という有効期限があったのですが,法律の改正により,平成20年5月1日以降の申出については有効期限が廃止されました。)。したがって,一度不受理申出をした後に,夫婦で離婚することに合意し離婚届を提出することになった場合には,不受理申出を取り下げる必要があります(取り下げは,必要事項を記載した取下書を役場に提出することで可能です。)。
勝手に離婚届を出されてしまったら
勝手に離婚届を出されてしまったら
<ご相談者さまからのご質問>
先日,妻がいきなり離婚したいと言ってきて,離婚届にサインするように迫ってきました。私としては妻と離婚する気はなく,離婚届にサインをする意思はありません。私がサインをしなければ離婚は成立しないので,何もしなくても問題はありませんよね。
<弁護士からの回答>
相手方が一方的に離婚を迫っている場合には,自分の知らないところで相手方が勝手に離婚届を提出してしまう可能性があります(そんなこと現実にあるわけないと思われている方もいらっしゃると思われますが,離婚届を勝手に出してしまわれる方は意外に多くいらっしゃいます。)。協議離婚はお互いが合意をしていないと成立しないので,勝手に離婚届を提出されたとしても後で覆すことは可能ですが,皆様の想像以上に時間や手間がかかる作業になります。そこで,今回は2回にわたり,相手方に勝手に離婚届を出されることを防ぐことができる離婚届不受理申出制度についてご説明させていただきます。本日は離婚届不受理申出制度の説明に入る前に,そもそも離婚届が勝手に出されてしまうようなことがあり得るのかという点と,勝手に離婚届が出されてしまった際の対応等についてご説明させていただきます。
まず,前提として,離婚届については,双方が離婚することに合意し,それぞれが離婚届に署名押印している必要があり,夫婦の一方が勝手に離婚届を作成し離婚届を提出したとしても,離婚に関する合意が存在しないため,離婚は無効になります。しかし,離婚届は必要事項を記載して役場に提出をすれば簡単に受理されてしまい,離婚届の筆跡が夫婦本人の筆跡であるかどうかの確認はされませんし,離婚届に押す印鑑は実印である必要はなく(印鑑証明も不要です。)認印で足ります。加えて,離婚届は(婚姻届も同様ですが,)夫婦がそろって提出する必要はなく,夫婦の一方だけでも提出することが可能となっております。
このように離婚届については,離婚届が夫婦で作成されているかのような外形を作出すれば受理自体はしてもらうことが可能であるため,離婚することに反対されている夫婦の一方が勝手に離婚届を作成し,提出してしまうことは少なくありません。(ごく稀に当事務所にも,「勝手に作成して,提出してしまってはダメなのですか」とご質問いただくことはありますが,相手に無断で離婚届の署名を自分で行い,印鑑を押して提出することは,有印私文書偽造・同行使罪に該当する犯罪行為です(戸籍に間違った離婚の記録がなされると電磁的公正証書原本不実記録罪という犯罪にも当たります。)ので,くれぐれもお控えください。)。
勝手に離婚届が提出されてしまった場合であっても,夫婦のどちらかに離婚する意思,もしくは離婚届を提出する意思がない以上,無効になります。
この,法律上は無効な離婚についても,いったん受理されて離婚の記載がなされている戸籍について,役所の方がすぐに訂正してくれるということはありません。戸籍を基に戻すためには,家庭裁判所に対し,協議離婚が無効であることを確認する調停を申し立て,「合意に相当する審判」というものを得て,審判書(判決書のようなものです。)を役所届けでる必要があります。もっとも,この調停では相手が合意をしないと合意に相当する審判を出すことができないため,相手方が合意をしていない場合には,家庭裁判所に対し,協議離婚無効確認訴訟を行い,無効であることの判決を得る必要があります。
このように,勝手に離婚届を提出されてしまったとしても,最終的には離婚を無効にするとはできるものの,それまでに多大な時間と労力(精神的,経済的な負担)がかかってしまいます。
次回のブログでは,こうしたトラブルに巻き込まれないために,勝手に離婚届けを提出することが防ぐことができる。離婚届不受理申出制度についてご説明させていただきます。
協議離婚のメリット・デメリット
協議離婚のメリット・デメリット
<ご相談者様からのご質問>
離婚届に書いてもらうだけで離婚が成立するのですね。簡単そうなので,自分でやってみようと思います。協議であれば弁護士に依頼する必要はありませんよね。
<弁護士からの回答>
ご自身のみで相手方と離婚の話し合いをすることも,弁護士を代理人として相手方と離婚の話し合いをすることも協議離婚であることには変わりません。結論から言うと必ずしも協議離婚で弁護士に依頼しなければならないということはありません。しかし,弁護士に相談することなくご自身のみで協議離婚を進めると,協議中だけでなく,協議終了後にもトラブルが残ってしまう可能性が非常に高いといえます。本日は,協議離婚のメリット・デメリットを説明しつつ,協議離婚を進めていく上での注意点をご説明させていただきます。
協議離婚の一番のメリットは,当事者が離婚することに合意をしている場合には,離婚届を作成し提出するだけ離婚が成立するため,ご質問にあるように時間がかからずに簡単に離婚することができる点があげられます。しかし,協議離婚というだけあって,当事者双方が離婚することに合意していない場合には協議離婚は一切認められないという点はデメリットといえるでしょう。したがって,相手方配偶者が頑なに離婚しないという意向が強い場合には協議を続けても離婚が成立する必要は高いとはいえないので,調停離婚,裁判離婚に移行するのが一般的です。
協議離婚をすすめる際の注意点としては,当事者同士だけで協議をすすめようとすると,お互い感情的になってしまい,協議が進まない場合や,相手から一方的に言われるがままに進めてしまい,自分に不利な内容のまま離婚が成立してしまう可能性があります。離婚する際に一度決めたことを後々になかったことにしたり,覆したりすることは基本的にできません。安易に向こうからの提案に応じてしまうと取り返しがつかないことになってしまいます。また,離婚届以外に離婚協議書等を作成しておかないと,養育費や財産分与,お子さんとの面会交流などの離婚に付随する条件について,離婚後もトラブルに発展してしまう可能性があるので注意が必要です。
協議離婚の段階からであっても弁護士を代理人として入れることにより,相手方と感情的になることなくスムーズに協議を進めることが可能になるだけでなく,こちらに有利もしくは,不利にならないように協議を進めていくことが可能になります。
また,既に離婚の条件については問題なく合意に至っている場合であっても,法的に問題がない,離婚協議書を作成するためには,専門家である弁護士に相談し,協議書の作成を依頼することが必要です(離婚協議書については別の機会に改めてご説明させていただきます。)。
協議離婚を考えられている方は,是非一度,弁護士に離婚に至る経緯や希望する離婚の条件などをご相談ください。