【離婚問題】夫に騙されて離婚してしまった…。そんな離婚も有効なの?
夫に騙されて離婚してしまった…。そんな離婚も有効なの?
「私Aは,夫Bから,『借金の返済を滞らせている。このままでは家族に迷惑をかけるので,一時的に離婚してほしい』と頼まれ,仕方なく離婚届を書きました。1年経っても連絡がないため,夫Bの会社に電話すると離婚する前から夫Bは別の女性Cと婚姻しようとしており,実際に離婚後すぐに婚姻したとのことです。今からでも離婚を取り消すことはできないでしょうか?」こんなことをされたら絶対に許せないでしょう。今回は,夫に騙されて離婚してしまった場合に離婚を取り消すことはできるかについてお話ししたいと思います。
1 詐欺による離婚は有効か?
詐欺又は強迫によって協議離婚をした人は,その離婚の取消を裁判所に請求することができます。これは,離婚の協議は,当事者の自由な意思に基づいて成立するものであるはずですのに,詐欺などにより騙された人は自由な意思に基づいて判断できていないからです。
この場合,前でも述べたように離婚の取消を裁判所に請求しないといけません。当事者間で話し合いをして市役所等に離婚を取り消してくださいというような他の方法ではいけないのです。妻Aは夫Bに騙されていたとはいえ,,一度は合意のもとに離婚届を出していますから,,戸籍上離婚は有効となっているためです。なお,借金があることが真実で単なる借金逃れのために離婚した場合であれば離婚は有効です。今回のケースでは,Bは,本当はAと離婚してCと婚姻する意思であり,Aと再び婚姻する意思はないのに,あたかも借金逃れのための一時的な離婚であるかのように装って離婚していることから詐欺と判断されたことに注意して下さい。
2 離婚取消の方法
「裁判所に請求できる」とはいっても,裁判所に対してどのように請求すればいいかは分からないと思いますので,,今から裁判所に請求して離婚を取り消す方法をご説明したいと思います。
協議離婚の取消しは,人事に関する訴訟事件として,調停前置主義というものの適用を受けています。調停前置主義とは,人事に関する紛争は,その性質上,話し合いで終結させることが望まれるため,可能な限りは調停で結論を出すべきだという観点から,必ず1度は調停手続を経なければならないとすることをいいます。
そのため,離婚の取消しの主張をする人は,いきなり訴えを提起するのではなく,,まずは,家庭裁判所に対して,離婚取消しの調停を申し立てる必要があります。なお,離婚の取消しの主張は,詐欺又は強迫を受けた人だけで,相手方となるのは,その配偶者だけですので,,当事者の父母が離婚の取消しを請求するということはできません(相手方が死亡した場合には,検察官に対して訴えを提起することができます。)。
また,この取消しの主張は,詐欺又は強迫を受けた当事者が,詐欺を発見し若しくは強迫を免れた後3か月を経過したときや「離婚をしたということでいいですよ」というように離婚があったことを追認したときには,できなくなってしまうので注意が必要になります。
3 夫がすでに別の女性と結婚していたことはどうなるのか?
もっとも,夫Bはすでにほかの女性Cと婚姻していましたが,この結婚はさきほどのAとBの離婚との関係はどうなるのでしょうか?関係が複雑で分かりにくいと思いますので,,図を書いて説明することにします。
前でも述べたように,,①BがAを騙した後にBとCは婚姻しています。しかし,これは詐欺に基づくものであるため,②AとBとの離婚は家庭裁判所に請求することで取り消せますので,Aの離婚取消しの請求が認められることになるでしょう。取消が認められるとその行為の時点に遡って行為が無効となりますので,③AとBとの離婚は初めからなかったことになりますから,BとCが婚姻するときもAとBとの婚姻は継続していたことになります。
そのため,④BとCとの婚姻は,AとBとの婚姻関係中になされたものであり,BとCとの婚姻は家庭裁判所に請求することで取消すことができます。なお,Bのように配偶者がいるのに別の異性と婚姻した場合のことを重婚といい,刑法上の犯罪にもされています。
4 まとめ
以上のように, Aとしては①Bとの離婚を取り消すことが可能です。選択肢としてはそれだけにとどまらず,②Bとの離婚を取り消した上で,再度Bが先ほど述べたような詐欺行為を行ったことを踏まえての離婚条件を協議することも可能です。この方法を選択する場合ですと,離婚条件の中に詐欺行為を行ったことについての慰謝料を請求することになります。
さらに,Aは③B及びCに対して損害賠償請求をしていくことも可能です。これらのうちいずれの選択をするかは最終的にあなたが決めることになりますが,事案を踏まえた上でどの主張をすべきかを判断するに当たっては,法的な知識だけでなく豊富な経験が必要不可欠になってきます。そのため,このような事案でお困りの際には,離婚事件について豊富な経験を有する弁護士に相談するようにしましょう。
投稿者が分からない!記事を表示しているサイトの管理者に記事の削除を請求できる?
投稿者が分からない!記事を表示しているサイトの管理者に記事の削除を請求できる?
インターネット上に自分に対する悪口やネガティブ情報が書かれていた!そんな状況に置かれた場合,1日でも早くその記事を削除したいですよね。
しかし,投稿者が誰か分からず,その特定に時間がかかってしまったり,投稿者が分かっても投稿している人が悪意をもって投稿している場合は,なかなか記事の削除に応じてくれないですよね。
そんな場合,投稿者ではなく,その記事を表示しているサイトの管理者に,記事の削除を求めることはできるのでしょうか。
そこで,今回は,サイト管理者に対する削除依頼をテーマにお話しようと思います。
1 サイト管理者の特定
まず,サイト管理者が誰かが分からなければ,削除の依頼先が分からないため,まずはサイト管理者の情報を調査する必要があります。サイト管理者の情報については,サイト内の表示からすぐに分かる場合もありますし,サイト内からでは分からない場合もあります。
⑴ 表示されている場合
サイトのトップページや一番下の部分に「会社概要」や「運営会社」「お問い合わせ」などのリンクが張られていたり,運営会社の名前や所在地が書かれていることがあります。
そのような記載がある場合は,そこに記載されている運営会社等に削除を依頼することとなります。
⑵ 表示がない場合
サイト管理者情報について表示がない場合は,サイトのURLやドメイン名から,サイト管理者の情報に辿りつける場合もあります。これについては,IPアドレスやドメイン名の登録者などに関する情報を誰でも無料で参照できるサービスがありますので,当該サービスを利用するといいでしょう。有名なものとしては,「Whois検索」や「aguse」等があります。たとえば,「Yahoo!」で「aguse」と検索すると,「aguse.jp: ウェブ調査」というサイトが出てきますが,ここで,調べたいサイトのURLを入力すると,そのサイトに関するドメイン情報が表示されます。しかし,ドメイン情報については,ドメインを取得した業者の情報が表示されるだけで,必ずしもサイト管理者と一致していないこともあります。(おそらく,一致していないパターンの方が多いでしょう。)
そこで,そのドメイン情報が表示されている右側の「正引きIPアドレス***** の管理者情報」という表示を見ます。これについては,最初から左側のドメイン情報と同様に表示されている場合もありますが,表示されていない場合は,「WHOISで調べる」というボタンをクリックします。すると,WHOIS検索の結果が表示され,その中にサイトの情報が保存されているサーバを管理している会社(ホスティングプロバイダ)の情報が表示されることがあります。
このホスティングプロバイダは,あくまでサーバーの管理者でしかありませんので,サイト自体を管理している訳ではありません。したがって,ホスティングプロバイダに対して,ホスティングプロバイダとサーバー利用契約をしているサイト管理者の情報開示を求め,サイト管理者を特定するという作業が必要になります。そして,サイト管理者が開示されれば,そこに対して,削除を請求する形になります。
2 削除依頼の方法
⑴ お問い合わせフォーム・メール等
サイト内に,お問い合わせフォームやメールフォームが設置されている場合には,それを通じて削除依頼をすることが初動となるでしょう。
メールに書く内容としては,氏名,連絡先,削除したい記事の具体的部分の抜粋と,当該記事のURL,削除してほしい理由等を書きます。
どのような方法で削除依頼をするかを問わず,削除依頼にはコツがあるものです。サイト管理者としては,投稿者の表現の自由を尊重するためにも,書き込みに不満がある人から削除依頼が来た場合,無制限に削除対応をするわけにはいきません。そこで,ある一定の権利侵害が認められる違法な書き込みでなくては,削除は実行してくれないものです。そのため,その書き込みがどのような理由で誰の何の権利を侵害しているのかを明確に伝えなくてはなりません。
⑵ テレコムサービス協会の書式による削除依頼(送信防止措置依頼)
サイト内にお問い合わせフォーム等がない場合でも,削除依頼に関して,テレコムサービス協会という協会が提唱している書式があるため,それを用いて削除依頼をする方法が考えられます。
テレコムサービス協会とは,インターネットサービスプロバイダ(ISP),ケーブルテレビ会社,コンテンツプロバイダ,ホスティングプロバイダ等,情報通信に関わる幅広い事業者を会員とする一般社団法人で,通称「テレサ協」ともいいます。
テレサ協が提唱している書式は,別名「送信防止措置依頼書」とも言います。「テレコムサービス協会 書式」や「送信防止措置依頼書」等のワードで,検索エンジンで検索すると,書式が見つかると思います。無料ダウンロードも可能ですので,そちらを記載して,サイト管理者やホスティングプロバイダに郵送し,削除依頼をします。なお,郵送後の手続きの流れについては,別の記事に詳述しますのでそちらをご覧ください。
⑶ 裁判上の削除請求(削除の仮処分)
上述したお問い合わせフォームやテレサ協による削除依頼は,裁判外の手続きですが,何ら強制力はないため,請求をしても何ら対応をしてくれない場合も多々あります。
そこで,強制的に削除を求めるためには,裁判所を通じて,削除の仮処分を申し立てる方法があります。これは,裁判所が,当該書き込みにより,申立人の権利侵害(たとえばプライバシー侵害,名誉毀損等)があったと一応認められる場合には,一定額の担保金の供託を条件に,「削除を仮に認める」という決定を出してくれるものです。裁判所の決定が出れば,多くのコンテンツプロバイダ,ホスティングプロバイダは削除に応じてくれます。
なお,裁判上の請求ですので,簡単な手続ではなく,法律に基づいた主張やそれを裏付ける証拠の提出も必要となりますので,弁護士に依頼をされた方が良いでしょう。
3 まとめ
以上のとおり,削除請求の方法としては,任意(裁判外)の手続きとして,サイト内備え付けのお問い合わせフォーム等による方法や,送信防止措置依頼書の提出等の方法,裁判上の手続きである仮処分申立ての方法があります。
しかし,いずれの方法においても,削除を求める部分の特定や削除を求める理由(権利侵害の存在)を適切に記載する必要があり,権利侵害の有無に関しては法的判断となりますので,その分野に経験豊富な弁護士に相談されることをお勧めします。
今住んでいるアパートのオーナーさんが破産しました!賃貸借契約はどうなるの?
今住んでいるアパートのオーナーさんが破産しました!賃貸借契約はどうなるの?
【Aさんの相談】
先日、現在居住しているアパートのオーナーさんより、「この度、破産することになったので、今後の賃料振込先については追って連絡します。」との連絡がありました。私は不安になり、今のアパートの登記簿を確認したところ、私がアパートを借りる前から既にアパートには抵当権が設定されていました。現状、オーナーさんからは「出て行ってくれ。」等の話はありませんが、私は今まで通り居住を継続できるのでしょうか?また、賃料の支払いや敷金の返還はどうなるのでしょうか。教えてください。
Aさんのように、賃貸物件のオーナーさんから突如破産の連絡を受けたことがある人もいるかもしれません。そこで今回は、居住中の賃貸物件の賃貸人が破産した場合に賃貸借契約はどのように扱われるのかについてお話していきたいと思います。
1 賃貸人破産後の賃貸借契約の効力
⑴ 居住継続の可否
結論からお話しすると、賃貸人が破産しても、賃借人が対抗要件を備えていれば、破産を理由に契約を解除されることはなく、居住を継続できます。
対抗要件とは何を指すかというと、(今回のAさんのように)建物を賃借している場合は、①当該建物の引渡しを受けているか、または②建物に不動産賃貸借の登記がされていることかのいずれかを言います。また、土地を借りている場合は、土地上に賃借人名義の建物があることが対抗要件となります。
他方で、対抗要件が備わっていない場合は、破産管財人が契約を解除するか存続させるかについて決定権限を有し、賃借人はその判断に従うことになります。
この場合において、管財人が、契約存続を選択した場合は、賃借人の居住権は財団債権として保護されるため、通常通り居住ができます。
他方で、管財人が契約解除を選択した場合、賃借人は居住できず、契約解除により損害を受けている場合には、管財人に対し、損害賠償請求をできるにとどまります。なお、損害賠償請求権は、破産債権となりますので、行使するためには破産手続に参加して届出をする必要があります。
⑵ 賃料の支払いについて
破産手続開始後も賃貸借契約が継続する場合は、賃借人は当然賃料を支払う義務があります。ただ、破産手続開始後は、賃貸人の財産は、破産管財人が管理するため、賃料の振込先については、破産管財人になります。
もっとも、破産管財人が当該不動産を放棄した場合は、管財人の管理下から外れますので、振込先も変わります。破産手続開始後の賃料の振込先については、通常は管財人から通知が来るはずですが、来ない場合は管財人に問い合わせをして確認した方がいいでしょう。
なお、管財人が不動産を放棄する場合とは、例えば、賃料収入については抵当権者が差押えをしており、収入は入ってこない一方で、当該不動産の固定資産税等の支払いは発生し続けるなど、当該不動産を保有することがデメリットとなる場合等が考えられます。
⑶ 敷金の返還について
ア 敷金は戻ってくるの?
敷金が戻ってくるかどうかについては、場合を分けて考える必要があります。
①当該不動産が任意売却された場合
不動産が担保権の実行ではなく、任意売却で譲渡された場合は、賃借人が、破産手続開始時点で対抗要件を具備している限り、不動産の買受人にも賃貸借契約と敷金契約が引き継がれ、買受人(新賃貸人)に対して、敷金の返還を請求することができます。
②競売(担保権の実行)の場合
抵当権等の担保権実行に基づく競売の場合、担保権の設定よりも前に賃貸借契約が締結されている場合は、新所有者である買受人に対して賃貸借契約及び敷金契約が引き継がれます。よって、買受人を新賃貸人として、敷金の返還を請求できます。
しかし、抵当権設定後に賃貸借契約を締結している場合、抵当権者に対して賃貸借契約及び敷金契約を対抗できないため、買受人から明渡しを求められた場合は応じなければならず、敷金も買受人からは戻ってきません。
この場合、敷金返還請求権は旧賃貸人に対して有する権利のままですので、破産債権となり、配当を受けるためには届出が必要です。但し、配当を受けるためには時期的制限があるため注意が必要です。敷金返還請求権は、未払賃料や原状回復費等、賃貸借によって生じた賃借人の一切の債務を控除した残額の限度で発生するため、その具体的な金額は、不動産の明渡し完了時に初めて判明します。そのため、破産手続上で配当を受けるためには、破産手続が終了する前(具体的には、最後配当の公告がなされ、その後2週間を経過した時点)までに、賃貸借契約を解約した上で不動産の明渡しまで完了している必要があります。
③契約解除(終了)して明渡しをする場合
契約解除等、賃貸借契約終了に基づく明渡しをする場合、破産手続終了前までに明渡しを完了していれば、破産債権として配当を受けることができます。
イ 配当額はどのくらい?寄託請求とは?
破産債権の場合、残った破産者の財産を債権者全員に分配するため、配当率はかなり低いことが多いです。敷金返還請求権も破産債権ですので例外ではありません。
しかし、破産手続開始後の賃料振込時に、管財人に対して賃料の寄託請求をすることで、寄託した賃料額の限度で敷金返還請求権を保全できる制度があります。この寄託請求とは、簡単に言うと、管財人に対して「破産手続開始後に支払う賃料については、配当に回す財産とは別に管理して保管しておいてください」という請求です。
管財人は、寄託請求があると、それ以降支払われる賃料については別口座で管理しておきます。
そのため、破産手続終了時までに明渡しを完了した場合には、寄託した金額については敷金としてそのまま返還を受けることができます。
なお、破産手続終了までに明渡しが間に合わなかった場合は、前述の通り配当を受けられないため、寄託されていた賃料も他の債権者の配当に充てられることになります。
2 Aさんの場合
以上を前提にすると、Aさんは、破産手続開始時点において建物の引渡しを受けているため、破産を理由に賃貸借契約を解除される心配はなく、引き続き継続居住できます。しかし、建物には、Aさんが賃貸借契約を結ぶ前に既に抵当権が設定されているため、抵当権が実行され、競落された場合、競落人から退去を求められたら退去しなければなりません。その際、敷金返還請求権については、破産手続終了前に明渡が完了すれば、破産債権として配当を受けることができます。
3 まとめ
以上の通り、賃貸人が破産した場合は、対抗要件を具備しているかによって、居住の継続の可否が決まり、明渡のタイミングにより、敷金の取り扱いも変わってきます。
賃貸人の破産でお困りの方は、破産の経験豊富な弁護士に、ご相談することをお勧めします。
未払賃金立替払制度とは?
未払賃金立替払制度とは?
【Aさんの相談】
本日,勤務先から,「経営状況が悪いから会社を閉めることにした。今日付けで破産申立てを行ったので,申し訳ないが従業員の皆も今日付けで解雇せざるをえない。」と言われ,突然解雇されました。まだ今月分の給料も貰っておらず,退職金も支払われるのか不安です。社長に確認したところ,「未払賃金立替払制度があるからきちんと支払いはできる」と言われました。この未払賃金立替払制度とは何なのでしょうか。また,賃金や退職金は全額支払ってもらえるのでしょうか。
1 未払賃金立替払制度とは
会社などが倒産した場合,その会社の労働者は,給料などを支払ってもらえなくなる可能性があります。しかし,賃金は労働者にとって重要な収入源ですので,これが全く支払われないとなると,労働者は当面の生活が脅かされることになります。そこで,労働者を救済するための公的制度として未払賃金立替払制度が設けられています。
この制度は,使用者である事業主が倒産したために,賃金が支払われないまま労働者が退職を余儀なくされた場合に,独立行政法人(労働者健康安全機構)が当該事業主に代わって,賃金の一部を労働者に支払うという公的制度です。
2 どんな場合に未払賃金立替払制度が利用できるの?
未払賃金立替制度は,どのような場合でも利用できるというわけではなく,使用者及び労働者において以下の要件を満たす必要があります。
【使用者側の要件】
①使用者が1年以上事業活動を行っていたこと
*使用者は法人でも個人でも構いませんが,事業を開始してから1年以上経っている必要があります。よって,設立や開業直後に破産する場合には適用対象外となります。
②a)使用者が法的倒産手続を受けたこと
(法的倒産手続…破産,特別清算,民事再生,会社更生のこと)
または
b)事実上の倒産のうち労働基準監督署長の認定を受けたこと
(事業活動が停止し,再開の見込みがなく,賃金支払能力がないことについて労働基準監督署長により認定を得ることが必要です。)
【労働者側の要件】
①賃金の未払期間中に,当該使用者に雇用され,労働基準法上の労働者として勤務していた者であること
②使用者が法的倒産手続の申立て,または,事実上の倒産について労働基準監督署長の認定の申請を行った日の6か月前の日から起算して2年間以内に退職した者であること
以上の要件を満たす必要があります。
3 全部は立替えてもらえない?
立替払制度が利用できたとしても,全ての未払いの労働債権について立替払いを受けられるわけではありません。立替えの対象となる賃金の対象は限定されており,また,金額についても制限があります。立替えてもらえる賃金は以下の通りです。
①対象となる労働債権は未払いの定期賃金と退職金のみ(以下,「賃金等」といいます)
⇒解雇予告手当や賞与・ボーナス,社内預金,福利厚生として支払われる給付,通勤手当等の実費,未払賃金に対する遅延損害金は含まれていません。
②賃金等のうち,従業員の退職日の6か月前から立替払請求日までの間に支払期日が到来するもので,金額が2万円以上であること
③立替えを受けられるのは,原則として未払額の8割!
※未払分全額を支払ってもらえるわけではありませんので注意が必要です。
また,退職日時点の年齢に応じて,立替払いの上限金額は以下の通り決まっています。
退職時の年齢 | 未払賃金の上限額(A) | 立替払額の上限額(A×0.8) |
---|---|---|
45歳以上 | 370万円 | 296万円 |
30歳以上45歳未満 | 220万円 | 176万円 |
30歳未満 | 110万円 | 88万円 |
4 請求から支払いまでの手続
事業主,労働者が上記の要件を満たし,労働者健康安全機構に対して立替払いの請求をした場合には制度を利用することができます。なお,請求は,法的倒産手続開始決定又は労働基準監督署長による事実上の破産についての認定がなされた日の翌日から2年以内にする必要があります。
請求書の書式は,労働者健康安全機構において用意されているのを使用しますが,インターネットでダウンロードできます。請求書に必要事項を記載して機構に提出しますが,提出の際には証明書の添付が必要です。破産手続であれば,破産管財人の証明が必要となります。証明を受けるためには,破産申立書や賃金台帳等の資料の提出が必要となるため,通常は,事業主側でこれらを用意する形になります。なお,請求は,労働者側からも使用者側からでも可能です。
未払い賃金立替払請求書と証明書を労働者健康安全機構に提出し,同機構において審査が行われます。その審査に通れば,未払い賃金が支払われることになります。
5 まとめ
以上の通り,会社が倒産しても,一定の場合には未払賃金立替払制度により未払い額の8割を上限に支払を受けることができますので,従業員の皆さんは積極的にこの制度を活用しましょう。もっとも,適用を受けるためには,様々な要件を満たす必要があるので,自身が適用対象となるかについては破産手続に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めします。
また,請求する場合には,様々な書類を収集しなければならず,手続は複雑ですので,実際の請求手続は弁護士に依頼された方が良いでしょう。
【離婚問題】遺産分割後に新たな相続人が出てきた!どうすれば良い?
遺産分割後に新たな相続人が出てきた!どうすれば良い?
<相談内容>
父が亡くなり,相続人は私と妹です。私たち二人での遺産分割協議も無事終わり,相続登記も完了しました。ところが,その後,父の子と称する人が現れ,父の子であることを認知する旨の判決が出ました。その人は「私も相続人なので遺産分割協議に参加させて下さい。」と言ってきました。既に終えた遺産分割協議をやり直さなければならないのでしょうか。
遺産分割は,相続人全員で行わなければなりません。しかし,遺産分割を終えた後に新たな相続人が現れるというケースがあります。今回は,そのような場合,遺産分割はどう扱われるかという点についてご説明していきます。
1 原則
遺産分割協議は,共同相続人全員の合意に基づき行わなければなりません。もし一部の相続人を除外して遺産分割をしてしまった場合には,無効となります。そのため,遺産分割協議にあたっては,被相続人の戸籍を出生から死亡まで収集し,調査をして,相続人を正確に把握することが不可欠です。戸籍を調べて初めて「実は父は再婚で,前妻との間に子がいた」という事実を知るケースはよく見られます。この場合,前妻との間の子も含め遺産分割協議をしなければ無効となってしまうため,注意が必要です。相続人の一部の者の所在が不明な場合には,不在者財産管理人を選任し,遺産分割手続を進めることになります。
2 遺産分割後に新たな相続人が判明するケース
⑴ 死後認知
冒頭の相談事例のように,被相続人の死後に認知がなされる場合があります。
認知は出生のときに遡ってその効力が生じるため,遺産分割後に認知された者も相続開始のときに相続人であったということになります。しかし,この認知の遡及効は,第三者が既に取得した権利を害することができないとされています。そのため,遺産分割後に認知され相続人となった者は,遺産分割の無効を主張することはできません。そこで,このような相続人の権利を保護するために,遺産分割が終了した後に認知された者については,価額請求の方法による救済が規定(民法910条)されています。
上記の事例では,相談者と妹は,死後認知された人に対し,遺産のうち法定相続分(被相続人の子が3人なので,3分の1)に対応する価額を支払うことになるでしょう。遺産分割協議をやり直す必要はありません。
なお,これは死後認知の場合です。生前に認知されていた者に気付かず遺産分割協議をしてしまった場合には,無効となってしまうため気を付けてください。
⑵ 母子関係存在確認の裁判が確定した場合
Aさんの母が亡くなり,相続人はAさんと弟です。遺産分割協議の結果,Aさんが母のマンションを取得し,その後第三者に売却しました。しかし母には他の夫婦の子として出生届がなされた子Bさんがおり,訴訟で母子関係の存在が確認されました。Aさんと弟が行った遺産分割協議の効力はどうなるでしょうか。
遺産分割後に母子関係存在確認訴訟によって母子関係が認められた場合は,死後認知の価額請求の規定は類推適用されません。なぜなら,父子関係は認知によって形成されますが,母子関係は母の認知等は不要で,分娩の事実により当然に発生するところに違いがあるからです。
そのため,遺産分割後に母子関係が認められた者がいる場合,遺産分割は無効となり,新たに判明した相続人も含め遺産分割手続を行わなければなりません。
今回の事例でも,Aさんと弟が行った遺産分割協議は無効となり,Bさんも含め3人で遺産分割を行う必要があります。これは,遺産が第三者にわたっている場合でも変わりありません。Bさんは,Aさんがマンションを売却した第三者に対し,自己の相続持分を主張するか,マンションの売買契約を認めた上で,Aさんに対し不当利得返還請求をすることになると考えられます。また,マンションを譲り受けた第三者は,Bさんから相続持分を主張された結果,Aさんとの売買契約を解除し,Aさんに損害賠償請求をする可能性もあります。
3 まとめ
今回は,遺産分割後に新たな相続人が出現した場合についてご説明しました。
遺産分割をするにあたって,まず不可欠なのが,被相続人の戸籍を調べることです。現状で把握している相続人以外に相続分を有する人がいないか,きちんと確認することが重要です。ご自身で調べることに不安がある場合には,弁護士に相続人調査を依頼することも可能です。
また,遺産分割時に判明している相続人全員で協議を行った場合でも,今回ご説明したように後から相続人が出現する可能性もあります。遺産分割が終了し,遺産を第三者に売買してしまったケースなどでは権利関係が複雑になります。新たな相続人が出現した場合には,なるべく早急に弁護士に相談しましょう。遺産分割協議をやり直すことになっても,交渉次第では揉めないで済むこともあります。ご自身で手続を進めることなく,交渉のプロである弁護士に依頼することをお勧めします。
どんな場合に残業代の請求はできますか?
どんな場合に残業代の請求はできますか?
【Aさん】
残業しても一切残業代が支払われていません。おかしいと思って会社に聞いたところ,「雇用契約書に残業代支給なしと書いてあるでしょ?」と一蹴されました。契約書にそのような記載がある場合,一切残業代は認められないのでしょうか。
【Bさん】
残業代の支払いはありますが,残業時間に見合ってない気がします。どんなに残業が多い月でも,残業代は一定額で打ち止めになっています。残業代はどのように計算するのでしょうか。
近年,労働者保護の流れで労働法改正の動きが進んでいますが,現実社会では,Aさんの会社のように残業代を一切払わないような法令違反の会社は多数存在します。会社は様々な理由付けをして残業代の支払いを拒否してくることがあります。また,Bさんのように,残業代の支払いはあるものの,その計算が適正に行われているかについて疑わしいケースもあります。そこで,今回は,どのような場合に残業代が発生し,残業代はどのように計算するのかについてご説明したいと思います。
1 残業代が発生する場合
以下の場合には,残業代が発生していると考えられます。
①法定労働時間(1日8時間,週40時間)を超えて労働した場合
労基法は,労働者保護の見地から,労働時間に限度時間を設けています。これを法定労働時間といい,法定労働時間を超えて労働させた場合は,原則として違法であり刑事罰対象行為となります。(もっとも,36協定を締結して労基署に届ける等,会社が一定の手続きを踏んでいれば法定労働時間を超えても労働させることが可能となります。)
労基法は,法定労働時間として,1日8時間,1週間40時間と定めており,これを超えた労働時間は残業時間となり残業代が発生します。よく見かけるのは,1日あたりの法定労働時間は遵守しているものの,1週間当たりの法定労働時間を超えている場合に残業代が支払われていないケースです。例えば,1日8時間,週6日勤務の場合は,週合計労働時間は48時間ですので,週法定労働時間の40時間を超えた8時間分については残業代が発生しますので,注意が必要です。
②所定労働時間(雇用契約書や就業規則で定められた労働時間)を超えて労働した場合
雇用契約書や就業規則には,始業,終業時刻が規定されていると思いますが,「始業時刻から終業時刻までの時間から休憩時間を除いた時間」を所定労働時間と言います。例えば,始業時刻10時,終業時刻18時,休憩1時間の場合,所定労働時間は7時間となります。この場合,所定労働時間を超えて労働した時間は残業時間となりますので,例えば今述べた例で19時まで労働した場合,実労働時間は8時間で法定労働時間内ですが18-19時の労働は所定労働時間外の残業ですので,残業代が発生します。(但し,割増はつきません。)
なお,所定労働時間は,会社が自由に決めることができますが,法令に違反する定めはできませんので,法定労働時間超えの所定労働時間の設定(例えば,1日10時間等)については原則として無効となります。
2 残業代はどのように計算するの?
それでは,残業代が発生するとして,その計算はどのようにすればいいのでしょうか?
まず,残業代は以下の計算で算出します。
残業代=「①1時間あたりの賃金」×「②割増率」×「③残業時間数」
上記算定式の「①1時間当たりの賃金」については,時給制の場合は時給となります。
月給制の場合は以下の通り算定します。
★月給制の場合の1時間当たりの賃金
=基本給÷(1月あたりの平均所定労働時間数)
=基本給÷{(365日―所定休日日数)÷12×1日の所定労働時間数}
(*なお,閏年の場合は366日で計算となります。)
【例】
基本給30万
年間の休日日数105日
1日の所定労働時間数8時間の場合
⇒30万÷{(365日-105日)÷12×8時間}=1734円…「①1時間当たりの賃金」
★②の割増率とは?
・②の割増率は,残業の内容により以下の通り数字が変わります。
・法定労働時間を超えて行われた部分の残業→1.25
※所定労働時間を超えるが法定労働時間を超えない残業部分(ex,所定労働時間が7時間で,1時間残業した場合の1時間部分)については,割増はありません(=1で計算)。
・法定休日に行われた労働→1.35
・深夜帯(夜10時―朝5時)に行われた労働→0.25
★③残業時間数とは?
所定労働時間や法定労働時間を超えて労働した時間数をいいます。
3 こんな場合でも残業代は請求できるの?
①雇用契約書や就業規則に残業代は支給しないと規定されている場合
→請求できます。
(∵残業代を支払わない旨の労働契約や就業規則は,労基法に違反し無効となるため,規定の有無にかかわらず残業代を請求できます。)
②試用期間中だから残業代は支払わないと言われた!
→請求できます。
(※試用期間であっても労働契約は成立している以上,残業代は発生します。)
③年俸制だから残業代は支払わないと言われた!
→請求できます。
④固定残業手当を払っているため,それ以上は支払えないと言われた!
→固定残業代で賄えない部分については別途残業代を請求できます。
⑤タイムカードや就業規則等の資料が手元になく残業代の計算ができない!
→手元にタイムカード等の資料がなければまずは使用者に対してその開示を求めましょう。それでも開示を拒否する場合は,弁護士に依頼しましょう。
4 まとめ
以上の通り,残業代はどのような場合に発生し,どのように計算するのかについてご説明してきました。しかし,実際は,そもそも残業代を計算する上で必要な資料の開示を拒まれて残業代を算出できないケースや,証拠がなく残業時間を立証できないケース,残業時間を立証できても,会社が残業時間と認めないケース(従業員が勝手に残っていただけだ等と主張されるケース)等,様々な点が問題となります。
そのため,未払い残業代の請求をお考えの方は,労働問題に強い弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
夫が逮捕されました!今後の手続きはどうなるの?
夫が逮捕されました!今後の手続きはどうなるの?
【Aさんの相談】
先程,突然警察から,「旦那さんを傷害罪で逮捕しました。今から警察署で調べがあるので今日はご自宅には帰れません。」との連絡が入りました。私は,突然の逮捕の連絡にパニックになり,とりあえず「主人に会わせてください。」と頼みましたが,警察の方から,「接見禁止処分が付いているから今はご家族の方も会えません。連絡を取りたいなら弁護士さんを通されてください。」と言われました。親族なのに,事件の詳細も主人がいつ戻ってくるのかも全く教えてもらえず,勤務先にもどのように説明したらいいのか不安でいっぱいです。仮に弁護士さんを頼むとしても,費用がどのくらいかかるのか,また,国選弁護人や私選弁護人といった制度の違いもよく全く分かりません。
今後についてはどう対応すればいいのでしょうか。
今回は,Aさんのように,身近な人が突然刑事事件に巻き込まれた場合に,残された親族はどのように対応すればいいのか,刑事事件の流れと共にご説明していきたいと思います。
1 逮捕→勾留→起訴の流れ
逮捕後の捜査状況については,たとえ親族の方であっても捜査秘密ですので詳しい事情を教えてもらえないのが普通です。そのため,どのように手続が進んでいるのか,目に見えなくて余計に不安になることもありますが,逮捕後の手続きの流れやスケジュールについては,法律で厳格に決まっています。逮捕後の大まかな流れとしては,①逮捕→②勾留→③起訴(又は不起訴)の流れで進んでいきます。
⑴ 逮捕~勾留まで
逮捕は,短期間の身柄拘束のことで,その時間は最大でも72時間(3日間)に限られています。捜査機関は,逮捕後72時間の間に急ピッチで取り調べを進め,その人を釈放するか,引き続き捜査を続けるか判断します。
そして,捜査機関側でさらに取り調べに時間を要すると判断した場合には,検察官が裁判所に勾留請求を行い,裁判所が勾留を認めた場合には,追加で10日間身柄を拘束されることになります。この10日間は,原則的な勾留期間の長さであり,10日間で足りない場合には,さらに10日以内の範囲で勾留期間を延長できるとされています。
そのため,逮捕後最長で20日間勾留される可能性があります。(なお,内乱,外患,外交,騒擾等の重大犯罪については最大25日の勾留が可能とされています。)一般論にはなりますが,大抵の案件では勾留延長がなされる場合が多く,事実上,20日間勾留の事案が多いように思われます。
そして,検察官はこの勾留期間が満了するまでに,本人を起訴するか不起訴にするかを決め,不起訴にする場合は,勾留期間満了後は釈放されます。
⑵ 起訴後の手続
起訴された場合,通常は1~2ヶ月後に第1回公判期日が指定されます。事件の内容が複雑でなければ(簡易な事案で,被告人が犯した犯罪事実を全て認めているような場合),審理は1回のみで終わり,次回判決となることも多いです。(なお,1回目で判決まで行く場合もあります。)他方で,事件が複雑で,証拠調べに時間がかかる場合には,複数回にわたって裁判期日が開かれます。
裁判中の身柄拘束については,起訴前から勾留されている場合は,起訴後も勾留の効力は自動的に継続するため,保釈請求等により釈放されない限り,裁判が終わるまで勾留が続きます。
⑶ 本件のAさんの場合
以上の通りですので,Aさんの場合も,逮捕後最大23日間(72時間+勾留10日+勾留延長10日)身柄を拘束され,それまで家に帰って来れない可能性があります。また,起訴された場合には裁判が終わるまで帰って来れない可能性もあります。
ただ,最終的にどの程度勾留が続くのか,起訴されるのか,いつ釈放されるのかは,事案によって異なりますので,見通しが不透明です。このような状況で逮捕されたことを勤務先に伝えると,懲戒解雇扱いにされる会社もありますので,ご注意ください。
そのため,勤務先等に対しては,「体調不良で入院している」等,長期間の不在でも不自然に思われないような理由づけをして説明をしておいた方がいいでしょう。
2 弁護士は頼むべき?
刑事事件は,身体拘束が長期化すれば,社会生活上の不利益も大きく,処分の内容も今後の人生を左右する重大事ですので,どのような事件であっても弁護士はつけておくべきでしょう。しかし,弁護士を頼むとなると,まず気になるのは費用の点だと思います。
しかし,資力がない方でも弁護人は選任できます。現行の刑事訴訟制度では,本人に資力がない場合が(目安としては,月収が50万円未満とされています),国の費用で弁護人を選任できるという国選弁護人制度を設けているからです。国選弁護人制度を利用するには,一定の要件があり,起訴前の場合は,対象となる事件が限られており,一定の重大犯罪(死刑・無期・長期3年を超える懲役又は禁固の罪)の場合に限られています。他方で,起訴後に関しては,事件の内容を問わず,資力がない場合は,選任請求すれば国選弁護人が選任されます。なお,弁護人は名簿に従って裁判所が選任するため,本人や親族の側で選ぶことはできません。
3 国選弁護人と私選弁護人,どちらに頼むべき?
国選対象事件じゃない場合などで,国選弁護人を利用できない場合や,個人的に信頼している知り合いの弁護士に弁護人になってもらいたいとき等には,私選弁護人の選任を検討します。私選弁護人の場合,国選弁護人と異なり,本人や親族で弁護人を探してきて,個別に委任契約を締結することになります。この場合,費用は各弁護士事務所の基準によります。
なお,国選の場合は一般的に私選よりも報酬が安いことが多く,あまり能動的に動いてくれない弁護士も多いと言われています。そのため,国選弁護人を利用できる場合でも,あえて私選弁護人を選任するというケースもあります。なお,私選弁護人が選任された場合,国選弁護人は選任されることはありません。既に国選弁護人がついていた場合は,解任され,私選弁護人のみになります。
しかし,国選弁護人でも本当に一生懸命弁護活動を行ってくれる弁護士も多数いますので,国選弁護人だからという一事をもって判断されるのは避け,弁護人としっかり話して方針を検討されてください。
4 勾留前に弁護人を
被疑者段階での国選弁護人は,勾留されないと選任されないことになっています。そのため,逮捕段階では弁護人が付いていないケースが大多数です。この段階でも,早急に手を打てば,本来行われるはずの勾留を避け,在宅事件として釈放してもらえる可能性もありますので,早急に弁護人を依頼されることをお勧め致します。
5 最後に
以上の通り,逮捕された場合は,事案の内容にもよりますが,ある程度長期間の身体拘束も覚悟する必要があり,忍耐強く対応していく必要があります。刑事事件は,捜査機関という強大な国家権力を相手に,被疑者という弱い立場で取り調べを受けざるを得ず,捜査状況も外部からは見えないため,本人も親族も心身共に疲弊していくことが多いです。身近な人が刑事事件に巻き込まれた際は,1人で抱え込まず,まずは親身に相談に乗ってくれる弁護士にすぐに相談に行きましょう。
【婚姻問題】入籍しないとダメ?婚姻以外の男女の在り方
○入籍しないとダメ?婚姻以外の男女の在り方
現代日本には,婚姻だけでなく,様々な男女の関係があり得ます。婚約,内縁,事実婚…。言葉だけは聞いたことがあっても,その内容まではご存じでない方が多いのではありませんか? 今回は,そんな様々な男女関係についてお話していきたいと思います。
1 婚姻ってなあに?
「婚姻」という言葉は,日常的にはなじみが薄いかもしれません。婚姻とは,日常用語で言うところの「結婚」と同じだと思っていただいて構いません(厳密にいうと,婚姻の方が結婚よりも広い概念になります。)。
では,婚姻とはどのような要件を満たせば成立するのでしょうか?
我が国では,①夫婦共同生活を営む意思(以下,「婚姻意思」といいます。)を持っているだけでなく,②役所に対して婚姻届を提出することによって,法律上の婚姻をする意思を確認するという届出婚主義が採用されています。
そのため,婚姻が成立するためには,婚姻意思だけでなく,婚姻届の提出が必要になります。なお,婚姻には,ほかにも婚姻障害の不存在(再婚禁止期間内でないことや婚姻できる年齢であることなどがこれにあたります。詳しくは○○でお話ししたいと思います。)も必要となります。
このように,法律で定められた方式を踏むことが必要とされていることから,我が国では法律婚主義が採用されているといえます。これに対して,後述する婚約,内縁,事実婚といったものは法律に規定されていません。したがって,法律上,明文で認められているのは,婚姻のみということになります。それでは,その他の男女関係に何らの法的保護も認められないのでしょうか?
2 婚約ってなあに?
婚約という言葉は,日常会話でも耳にしますよね。婚約とは,将来婚姻をしようという当事者間の約束をいいます。つまり,日常的に使う婚約という言葉通りの意味であると思っていただいて大丈夫です。
もっとも,婚約が成立しているかの判断は,プロポーズの有無だけでなく,婚約指輪の授受・婚姻式場の下見・両親への挨拶・結納式の実施等,様々な事情を総合して決定するので判断が難しいかもしれません。
婚約は,婚姻の前段階にあることから,婚約の不当破棄について損害賠償請求をすることも可能です。また,婚約については他にも結納関係なども問題になることもありますが,それについては別の記事で詳しく述べたいと思います。
3 内縁ってなあに?
「内縁の妻」といった言葉を聞いたことはありませんか?長年同棲しているカップルに対して用いられたりしますよね。
(1) 内縁とは?
内縁とは,婚姻する意思をもって生活を営み,社会的には夫婦と同視して良いにもかかわらず,婚姻届を提出していないため,法的には夫婦と認められない場合を指します。
ここで,内縁関係にあるといえるかは,夫婦共同生活の実態とその継続性,性的関係の継続性,妊娠しているか否か,家族や第三者への紹介,見合い・結納,挙式など慣習上の婚姻儀礼の有無などから判断することになります。そのため,具体的な事案をみてみないとわかりませんが,ただ長年同棲しているだけというのでは内縁の妻ということは難しいかもしれません(なお,内縁関係というものは,争われる場面によって求められる度合いが異なりますので,必ず専門家に相談をしましょう。)
(2) 法的保護
もし仮に内縁が成立するとしたらどんな法的保護が認められるのでしょうか?
内縁は,婚姻届を提出していないので法律上の婚姻ということはできませんが,お互いの意思に着目すれば,婚姻と差はないのですから,婚姻に準ずる関係ということができます。そのため,婚姻関係とすべて同じとまではいえませんが,様々な法的保護を受けることができます。
具体的には,内縁関係を不当に破棄されたことに対する慰謝料請求権,内縁関係の終了に伴う財産分与,内縁関係にある者が死亡した際の居住権の保護といったものがあります。
4 事実婚ってなあに?
最近,男女の関係で増加しているのがいわゆる事実婚というものです。
事実婚とは,法律的には,内縁と同義といえるのですが,婚姻に対する考え方に違いがあると言われています。事実婚は,内縁と異なり,意識的に結婚に伴う義務(たとえば夫婦同姓など)を避けるため,意識的に婚姻届を提出していない関係を意味します。
基本的に事実婚に対する保護は,内縁関係とほぼ同じですが,子供の性や戸籍,遺族年金など,制度的な問題点に直面することがあり得ます。
5 まとめ
以上のとおり,婚姻届を提出していない状況では,その男女関係がどのような法的保護を受けられるか,判断が極めて難しいものです。これは専門家に相談をしても判断が分かれるでしょう。そのため,正確な見通しを立てるには,多数の解決事例に基づいたノウハウが必要不可欠ですので,必ず経験豊富な専門家に相談するよう心掛けてください。
【離婚問題】配偶者ビザは離婚するとどうなるの?離婚後の在留資格について
法律事務所へご相談にいらっしゃる外国の方には、離婚だけでなく配偶者ビザがどうなるのかについてもお悩みである方が多く見られます。
実際、日本に住む外国人の方にとってビザがなくなってしまうと生活の基盤を失う可能性があるのですから、配偶者ビザがどうなってしまうのかは重大な関心事だと思います。
そこで、今回は、離婚と配偶者ビザの関係についてお話しさせていただきます。
1 日本人の配偶者の在留資格
日本人と婚姻して日本に住んでいる外国人には、入管法2条の2、別表2に定められた「日本人の配偶者等」の在留資格が認められます。これが一般に配偶者ビザと呼ばれるものです。
この記事をご覧になっている方は、すでに配偶者ビザをお持ちだと思いますが、そうではない方のために念のためにお話ししておくと、「外国人配偶者と婚姻して、婚姻届さえ提出すれば入国管理局に申請する必要はない」と考えておられる方がいらっしゃいますが、これは誤りです。
配偶者ビザを獲得するためには、必ず入国管理局に申請をする必要がありますので、忘れずに申請するようにしましょう。
なお、配偶者ビザは偽装結婚の可能性があることから、必ず取得できる訳ではないことに注意して下さい。
以下の話は、配偶者ビザを取得していることを前提としてお話しさせていただきます。
2 離婚係争中(離婚に至っていない場合)の在留資格
(1) 在留資格取消の可能性
平成16年に入管法が改正され、配偶者の身分を有する者としての活動を継続して6か月以上行わないで在留している場合、配偶者ビザを取り消すことが出来るようになりました。
配偶者ビザが取り消されるかは、婚姻の実体を有していないかを同居の有無、別居の場合の連絡の有無及びその程度、生活費の分担の有無、別の異性との同居の有無などを総合的に考慮して判断されることになります。
もっとも、在留資格は正当な理由がある場合には取り消されません。
そして、離婚調停又は離婚訴訟中の場合は正当な理由があるとされています。
そのため、離婚係争中であれば正当な理由が認められますので、配偶者ビザが取り消されることはありません。
(2) 在留資格の更新
離婚係争中に在留期間が終了する場合、配偶者ビザの更新が不許可になる場合があります。
これは、配偶者ビザをもって日本に在留するためには、単に日本人配偶者との間に法律上有効な婚姻関係にあるだけでは足りず、当該外国人が日本において行おうとする活動が日本人の配偶者の身分を有する者としての活動に該当することを要するとされているからです。
とはいえ、同居・協力・扶助等の活動が事実上行われなくなっている場合であっても、その婚姻関係が実体を失って形骸化しているとまでは認められない場合について入管の不許可処分を取り消した裁判例や、日本人配偶者から提起された婚姻無効確認訴訟に応訴していたことが日本人の配偶者の身分を有する者としての活動に該当する可能性があるとした最高裁判決があるなど、更新が不許可になったとしても延長が認められたケースも存在します。
更新が認められなかった場合は在留資格の変更をすることになりますが、それよりもまず弁護士に相談して入管との交渉を依頼すべきでしょう。
3 離婚が成立した場合
(1) 在留資格の取消
配偶者ビザで日本に在留している外国人は、日本人配偶者と離婚した場合、14日以内に入管に対して届出をしなければなりません。
もっとも、この届出をしたからといって、すぐに日本から出て行かなければならない訳ではなく、在留期間のうちは日本に在留することが可能です。
(2) 在留資格の変更
日本人の配偶者と離婚し、配偶者ビザが取り消された場合や取り消されなかったとしても在留期間が終了する場合、以後は配偶者ビザの更新は出来ませんので、日本に住み続けるためには在留資格の変更が必要です。
可能性としては、①「定住者」ビザへ変更する方法、②就労ビザへ変更する方法などがあり得ます。
例えば、日本での在留期間が相当長期間の場合であれば、永住者あるいは「定住者」への変更が認められる可能性があります。
また、元夫との間に未成年・未婚の子供がいて、離婚後その子を引き取って育てる場合、その親子関係、当該外国人が当該実子の親権者であること、現に当該実子を養育、監護していることが確認できれば、「定住者」(1年)への在留資格の変更が認められます。
このように、一定の要件を満たせば離婚した後であっても、日本に在留し続けることが可能です。
4 まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は、離婚と配偶者ビザについてお話しさせていただきました。
外国人の方の離婚では、離婚そのものだけではなく、それに付随する在留資格のような行政分野も問題になってきます。
そして、離婚もそうですが、在留資格が争われたときに貴方の代理人として活動できるのは、渉外離婚の経験が豊富な弁護士だけです。
もっとも、弁護士であっても、渉外離婚事件の経験が少ないと満足のいく解決を得られない可能性もあります。
そのため、外国人の方で離婚・ビザでお悩みの方は離婚事件について経験豊富な弁護士にご相談すると解決の糸口が見えてくるかもしれません。
【離婚問題】外国人の夫(妻)と離婚することになったらどんな風に進めたらいいの?
国際結婚はピークであった2006年の約4万4,701組から減ってはいますが,2015年時点の時点でも2万976組ものカップルが国際結婚をしています(平成27年 人口動態調査より)。一方で離婚した国際結婚の夫婦の数は,1万3,675組にのぼっています。国際結婚も日本人同士の夫婦における結婚の場合よりも複雑ですが,離婚の場合はもっと複雑です。しかも,離婚の場合は婚姻の場合よりも非常に大きな精神的負担となります。そこで,今回は,外国人との離婚でお悩みの方の負担を少しでも減らせるように国際離婚の場合の手続きや注意点についてお話しさせて頂きたいと思います。以下では,日本人との婚姻数の多い中国・台湾,韓国に焦点を当ててお話し致します。
1 離婚手続の進め方
まず,知っておいてもらいたいのは,日本では,裁判所を介さず夫婦間で話し合って離婚届を役所に届ければよい協議離婚が認められていますが,諸外国において協議離婚が認められているのは中国,韓国などに限られるということです。
夫婦の常居住地が日本にある場合ですと,日本法が適用されることになりますので,例えば協議離婚を選択することも可能であり,日本では効力を生じます。しかし,夫婦のうち外国人配偶者の本国でも有効な離婚として承認されるかは,それぞれの本国法によることになります。
そこで,日本で外国人の夫(妻)と離婚することになったら,日本の法律に基づく離婚手続きと,外国人パートナーの国籍国の法律に基づく離婚手続きと2つの手続きを進めていく必要があるため,相手方の国法に基づいた裁判上の手続きをよく理解する必要があります。各国の制度概要を中国・台湾,韓国の順に見て行きましょう。
(2)国別にみる手続き
ア 中国人・台湾人との離婚の場合
中国・台湾ではいずれの国においても協議離婚が認められています(中国婚姻法31条,中華民国民法1049条)。そのため,中国人・台湾人の方と国際離婚をする場合,協議離婚をすることは可能です。
もっとも,中国では調停離婚が認められていますが,台湾では日本の調停調書が認められない場合があるので注意が必要です。そのため,台湾人の方と離婚する場合,協議離婚が望めないときは,審判離婚、裁判離婚を選択すべきでしょう。
イ 韓国人との離婚の場合
韓国でも日本と同じように協議離婚が認められています。もっとも,韓国法の場合,協議離婚の意思確認は裁判官が行うこととされていますが,日本においては「方式」の問題とされ,日本での協議離婚の成立は離婚届を提出することで足りると考えられています。
また,日本だけではなく韓国でも離婚の効力を発生させるためには,原則どおり,韓国の家庭法院で裁判官による確認を受け,韓国の役場に離婚届を提出することとなります
ちなみに,韓国においては協議離婚の場合,裁判上の離婚の場合と異なり,慰謝料等の離婚に伴う損害賠償請求を認める規定が存在しないことから,損害賠償請求はできないと考えられています。しかし,日本においては,離婚慰謝料を認めない韓国民法を適用することは公序良俗に反するとして,韓国民法の適用を排除した裁判例があるなど,韓国人との協議離婚の場合でも慰謝料を認める傾向にあると考えられます。
2 国際離婚をする際に注意しておくべきこと
(1)離婚協議書の作成
日本人同士の協議離婚でも言えることですが,協議離婚をする際には,絶対に書面で離婚協議書を作成して下さい。離婚協議書の中では,離婚することだけではなく,親権をどうするか,財産分与,慰謝料など金銭の支払いの約束についても記載して下さい。そして,金銭の支払いに関しては,「金銭を支払わなかったときは強制執行をしても構いません。」のように強制執行を受け入れる旨を記載の上,公証役場で公正証書にしておくべきです。
こういった書面を作成しておけば,裁判手続きを経ることなく,直ちに相手方の給料を差し押さえるなどの強制執行が可能になります。
もっとも,相手方が日本国外に出てしまった場合,我が国の執行管轄は外国には及びませんので,日本法に基づく強制執行はできません。現地法の手続きを踏んで強制執行手続きを申し立てることになるでしょう。
(2)金銭の支払いを求める場合は可能な限り一括請求する!
前にお話ししたことと関わってくるのですが,長期分割にすると,相手方が日本国外に出てしまった場合,日本法に基づく強制執行ができなくなってしまいます。そのため,金銭の支払いは可能な限り,一括で請求するようにしましょう。
(3)ビザ変更の手続
日本国内において離婚が成立した場合,外国人配偶者は「日本人の配偶者等」としてビザの更新が出来なくなってしまいます。もっとも,「日本人の配偶者等」としてビザを更新出来なくなってしまったとしても,更新までは日本を出て行かなくても大丈夫ですし,他のビザ,例えば「定住者」や就業ビザなどに変更することも可能です。
3 まとめ
今回は,国際離婚の手続きや注意点についてご説明させて頂きました。ピークに比べれば,国際婚姻の熱は冷めつつあるものの,社会の国際化が発達していくにつれ国際婚姻の波はまたやってくることになるでしょう。
国際離婚は,日本人同士の離婚とはかなり異なっているところが多く,付け焼刃で知識を入れたとしてもかなり難しいところがあるでしょう。まだ文献の多い中国や韓国,アメリカであれば自分で対応することも可能かと思いますが,ほとんどの諸外国との関係では経験豊富な弁護士でなければ対応することは難しいと思います。
国際離婚でお悩みの際は,離婚事件の経験豊富な弁護士にご相談下さいませ。