【離婚問題】配偶者ビザは離婚するとどうなるの?離婚後の在留資格について
法律事務所へご相談にいらっしゃる外国の方には、離婚だけでなく配偶者ビザがどうなるのかについてもお悩みである方が多く見られます。
実際、日本に住む外国人の方にとってビザがなくなってしまうと生活の基盤を失う可能性があるのですから、配偶者ビザがどうなってしまうのかは重大な関心事だと思います。
そこで、今回は、離婚と配偶者ビザの関係についてお話しさせていただきます。
1 日本人の配偶者の在留資格
日本人と婚姻して日本に住んでいる外国人には、入管法2条の2、別表2に定められた「日本人の配偶者等」の在留資格が認められます。これが一般に配偶者ビザと呼ばれるものです。
この記事をご覧になっている方は、すでに配偶者ビザをお持ちだと思いますが、そうではない方のために念のためにお話ししておくと、「外国人配偶者と婚姻して、婚姻届さえ提出すれば入国管理局に申請する必要はない」と考えておられる方がいらっしゃいますが、これは誤りです。
配偶者ビザを獲得するためには、必ず入国管理局に申請をする必要がありますので、忘れずに申請するようにしましょう。
なお、配偶者ビザは偽装結婚の可能性があることから、必ず取得できる訳ではないことに注意して下さい。
以下の話は、配偶者ビザを取得していることを前提としてお話しさせていただきます。
2 離婚係争中(離婚に至っていない場合)の在留資格
(1) 在留資格取消の可能性
平成16年に入管法が改正され、配偶者の身分を有する者としての活動を継続して6か月以上行わないで在留している場合、配偶者ビザを取り消すことが出来るようになりました。
配偶者ビザが取り消されるかは、婚姻の実体を有していないかを同居の有無、別居の場合の連絡の有無及びその程度、生活費の分担の有無、別の異性との同居の有無などを総合的に考慮して判断されることになります。
もっとも、在留資格は正当な理由がある場合には取り消されません。
そして、離婚調停又は離婚訴訟中の場合は正当な理由があるとされています。
そのため、離婚係争中であれば正当な理由が認められますので、配偶者ビザが取り消されることはありません。
(2) 在留資格の更新
離婚係争中に在留期間が終了する場合、配偶者ビザの更新が不許可になる場合があります。
これは、配偶者ビザをもって日本に在留するためには、単に日本人配偶者との間に法律上有効な婚姻関係にあるだけでは足りず、当該外国人が日本において行おうとする活動が日本人の配偶者の身分を有する者としての活動に該当することを要するとされているからです。
とはいえ、同居・協力・扶助等の活動が事実上行われなくなっている場合であっても、その婚姻関係が実体を失って形骸化しているとまでは認められない場合について入管の不許可処分を取り消した裁判例や、日本人配偶者から提起された婚姻無効確認訴訟に応訴していたことが日本人の配偶者の身分を有する者としての活動に該当する可能性があるとした最高裁判決があるなど、更新が不許可になったとしても延長が認められたケースも存在します。
更新が認められなかった場合は在留資格の変更をすることになりますが、それよりもまず弁護士に相談して入管との交渉を依頼すべきでしょう。
3 離婚が成立した場合
(1) 在留資格の取消
配偶者ビザで日本に在留している外国人は、日本人配偶者と離婚した場合、14日以内に入管に対して届出をしなければなりません。
もっとも、この届出をしたからといって、すぐに日本から出て行かなければならない訳ではなく、在留期間のうちは日本に在留することが可能です。
(2) 在留資格の変更
日本人の配偶者と離婚し、配偶者ビザが取り消された場合や取り消されなかったとしても在留期間が終了する場合、以後は配偶者ビザの更新は出来ませんので、日本に住み続けるためには在留資格の変更が必要です。
可能性としては、①「定住者」ビザへ変更する方法、②就労ビザへ変更する方法などがあり得ます。
例えば、日本での在留期間が相当長期間の場合であれば、永住者あるいは「定住者」への変更が認められる可能性があります。
また、元夫との間に未成年・未婚の子供がいて、離婚後その子を引き取って育てる場合、その親子関係、当該外国人が当該実子の親権者であること、現に当該実子を養育、監護していることが確認できれば、「定住者」(1年)への在留資格の変更が認められます。
このように、一定の要件を満たせば離婚した後であっても、日本に在留し続けることが可能です。
4 まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は、離婚と配偶者ビザについてお話しさせていただきました。
外国人の方の離婚では、離婚そのものだけではなく、それに付随する在留資格のような行政分野も問題になってきます。
そして、離婚もそうですが、在留資格が争われたときに貴方の代理人として活動できるのは、渉外離婚の経験が豊富な弁護士だけです。
もっとも、弁護士であっても、渉外離婚事件の経験が少ないと満足のいく解決を得られない可能性もあります。
そのため、外国人の方で離婚・ビザでお悩みの方は離婚事件について経験豊富な弁護士にご相談すると解決の糸口が見えてくるかもしれません。
【離婚問題】外国人の夫(妻)と離婚することになったらどんな風に進めたらいいの?
国際結婚はピークであった2006年の約4万4,701組から減ってはいますが,2015年時点の時点でも2万976組ものカップルが国際結婚をしています(平成27年 人口動態調査より)。一方で離婚した国際結婚の夫婦の数は,1万3,675組にのぼっています。国際結婚も日本人同士の夫婦における結婚の場合よりも複雑ですが,離婚の場合はもっと複雑です。しかも,離婚の場合は婚姻の場合よりも非常に大きな精神的負担となります。そこで,今回は,外国人との離婚でお悩みの方の負担を少しでも減らせるように国際離婚の場合の手続きや注意点についてお話しさせて頂きたいと思います。以下では,日本人との婚姻数の多い中国・台湾,韓国に焦点を当ててお話し致します。
1 離婚手続の進め方
まず,知っておいてもらいたいのは,日本では,裁判所を介さず夫婦間で話し合って離婚届を役所に届ければよい協議離婚が認められていますが,諸外国において協議離婚が認められているのは中国,韓国などに限られるということです。
夫婦の常居住地が日本にある場合ですと,日本法が適用されることになりますので,例えば協議離婚を選択することも可能であり,日本では効力を生じます。しかし,夫婦のうち外国人配偶者の本国でも有効な離婚として承認されるかは,それぞれの本国法によることになります。
そこで,日本で外国人の夫(妻)と離婚することになったら,日本の法律に基づく離婚手続きと,外国人パートナーの国籍国の法律に基づく離婚手続きと2つの手続きを進めていく必要があるため,相手方の国法に基づいた裁判上の手続きをよく理解する必要があります。各国の制度概要を中国・台湾,韓国の順に見て行きましょう。
(2)国別にみる手続き
ア 中国人・台湾人との離婚の場合
中国・台湾ではいずれの国においても協議離婚が認められています(中国婚姻法31条,中華民国民法1049条)。そのため,中国人・台湾人の方と国際離婚をする場合,協議離婚をすることは可能です。
もっとも,中国では調停離婚が認められていますが,台湾では日本の調停調書が認められない場合があるので注意が必要です。そのため,台湾人の方と離婚する場合,協議離婚が望めないときは,審判離婚、裁判離婚を選択すべきでしょう。
イ 韓国人との離婚の場合
韓国でも日本と同じように協議離婚が認められています。もっとも,韓国法の場合,協議離婚の意思確認は裁判官が行うこととされていますが,日本においては「方式」の問題とされ,日本での協議離婚の成立は離婚届を提出することで足りると考えられています。
また,日本だけではなく韓国でも離婚の効力を発生させるためには,原則どおり,韓国の家庭法院で裁判官による確認を受け,韓国の役場に離婚届を提出することとなります
ちなみに,韓国においては協議離婚の場合,裁判上の離婚の場合と異なり,慰謝料等の離婚に伴う損害賠償請求を認める規定が存在しないことから,損害賠償請求はできないと考えられています。しかし,日本においては,離婚慰謝料を認めない韓国民法を適用することは公序良俗に反するとして,韓国民法の適用を排除した裁判例があるなど,韓国人との協議離婚の場合でも慰謝料を認める傾向にあると考えられます。
2 国際離婚をする際に注意しておくべきこと
(1)離婚協議書の作成
日本人同士の協議離婚でも言えることですが,協議離婚をする際には,絶対に書面で離婚協議書を作成して下さい。離婚協議書の中では,離婚することだけではなく,親権をどうするか,財産分与,慰謝料など金銭の支払いの約束についても記載して下さい。そして,金銭の支払いに関しては,「金銭を支払わなかったときは強制執行をしても構いません。」のように強制執行を受け入れる旨を記載の上,公証役場で公正証書にしておくべきです。
こういった書面を作成しておけば,裁判手続きを経ることなく,直ちに相手方の給料を差し押さえるなどの強制執行が可能になります。
もっとも,相手方が日本国外に出てしまった場合,我が国の執行管轄は外国には及びませんので,日本法に基づく強制執行はできません。現地法の手続きを踏んで強制執行手続きを申し立てることになるでしょう。
(2)金銭の支払いを求める場合は可能な限り一括請求する!
前にお話ししたことと関わってくるのですが,長期分割にすると,相手方が日本国外に出てしまった場合,日本法に基づく強制執行ができなくなってしまいます。そのため,金銭の支払いは可能な限り,一括で請求するようにしましょう。
(3)ビザ変更の手続
日本国内において離婚が成立した場合,外国人配偶者は「日本人の配偶者等」としてビザの更新が出来なくなってしまいます。もっとも,「日本人の配偶者等」としてビザを更新出来なくなってしまったとしても,更新までは日本を出て行かなくても大丈夫ですし,他のビザ,例えば「定住者」や就業ビザなどに変更することも可能です。
3 まとめ
今回は,国際離婚の手続きや注意点についてご説明させて頂きました。ピークに比べれば,国際婚姻の熱は冷めつつあるものの,社会の国際化が発達していくにつれ国際婚姻の波はまたやってくることになるでしょう。
国際離婚は,日本人同士の離婚とはかなり異なっているところが多く,付け焼刃で知識を入れたとしてもかなり難しいところがあるでしょう。まだ文献の多い中国や韓国,アメリカであれば自分で対応することも可能かと思いますが,ほとんどの諸外国との関係では経験豊富な弁護士でなければ対応することは難しいと思います。
国際離婚でお悩みの際は,離婚事件の経験豊富な弁護士にご相談下さいませ。
【離婚問題】外国人の配偶者と離婚するときに知っておきたい知識!
現代日本では,国際化の影響を受け,昨年にも2万組を超える日本人と外国人の夫婦が結婚し,国際結婚が身近なものになってきています。しかし,何も幸せな話ばかりではありません。国際結婚が増えるにつれ,どうしても国際離婚の数も増加しています。そこで,今回は,離婚後も後悔をしないために外国人の配偶者と離婚する場合に知っておきたい知識をご紹介したいと思います。なお,前提として夫婦とその子供が日本で暮らしているものとします。
1 子供の問題
まず,外国人の配偶者との離婚で気になるのがお子さんのことだと思います。日本人同士の場合と異なり,外国人との離婚となりますとどうしても国を跨ぐことが多くなりますので,子供に会うのが難しく問題が大きくなってしまいます。そのため,知識を身に着けることで後悔を防ぎましょう!
まず,前提としてお話ししておきたいのが,子供の親権や面会交流といった親子関係については,通則法32条が適用されることが多く,子供が日本国籍を有する場合には日本法に従うことになると考えられることが多いということです。このように判断された場合,子供が日本国籍を有している場合は,親が外国人であったとしても,日本人同士の両親の子供と同様に考えることが出来ます。そのため,以下は通則法32条が適用されることを前提としてお話しさせて頂きます。
(1) 親権
先程申しましたように,子供が日本国籍である場合,親権については日本法が適用されることになります。そのため,父母が離婚する場合,未成年の子供がいるときは,父母の一方を親権者と定めなければなりません(民法819条1項,2項)。
他方で,子供の国籍が外国人配偶者の親と同じである場合,その外国の法律が適用されることになります。このときは,適用される外国法を基に検討することになります。
これらのいずれでもない場合,通常,子供は日本にいることが前提でしょうから,日本法が適用されることになります。
(2) 面会交流
先程申しましたように,子供が日本国籍である場合,面会交流についても日本法が適用されることになります。例えば,離婚後に子供の親権者に日本人の親がなった場合,外国人である方の親には子供との面会交流権が原則として認められることになります。
もっとも,日本人の両親の場合と同様,子供が同居する親権者とその再婚相手と暮らしており,面会交流を許すと心理的な混乱を招く恐れがあると考えられる場合などには例外的に面会交流が認められないこともあります。
(3) 養育費
今までは通則法32条が適用されることを前提としてお話しさせて頂きました。しかし,養育費の場合は,親族関係から生ずる扶養義務については,扶養準拠法という特別法が制定されており,通則法の適用がありません。そのため,養育費については,通則法32条が適用されないことになります。
すなわち,扶養を受ける子供の「常居所」地があるときは,その常居所地法によることになります。常居所とは,人が常時居住する場所で,相当長期間にわたって居住する場所を言います。
例えば,子供が日本に相当長期間にわたって居住しているのであれば,日本法が適用されることになります。このような場合は,未成年の子供は親に扶養を請求する権利を有していますから(民法877条),これに従って養育費を請求することができます。
もっとも,養育費については,子供が今後どの国で養育されるのか,外国人配偶者が外国に行ってしまった場合,外国人配偶者の財産が外国にある場合など当該外国の法律をもとに考えなければならず,専門的な知識を必要とします。
2 お金の問題
離婚には子供の問題だけでなく,どうしてもお金の問題も関係してきます。そのため,次はお金に関する問題について説明しておきましょう。
(1) 慰謝料請求
離婚に伴う慰謝料については,①離婚そのものによる慰謝料と②離婚に至るまでの暴力や不貞行為と言った個々の不法行為による慰謝料の二つがあり,これらは分けて考えられています。そのため,以下では,この2つを峻別して説明させて頂きたいと思います。
ア 離婚そのものによる慰謝料
離婚そのものによる慰謝料は,離婚の際における財産的給付の一環をなすものですから,離婚の効力に関する問題として離婚の準拠法の適用を受けることになります。そのため,夫婦が日本に住んでいる場合,離婚そのものによる慰謝料については,日本法に従って判断されることになります。
イ 個々の不法行為による慰謝料
この場合,どこの国の法律を適用するかについて考え方が分かれており,問題が生じます。つまり,暴力,不貞行為などの不法行為が日本ではなく,外国で行われた場合,どこの国の法律を適用するかについて見解が分かれているのです。
そのため,例えば,韓国で夫から妻に対して暴力が振るわれ,日本で離婚するといった場合,韓国法を適用すべきか,日本法を適用すべきかが争われることになるのです。どちらを適用すべきと主張するかは,日本法だけでなく韓国法についても詳しい知識が必要となりますので,専門家に相談するようにしましょう。
ウ 慰謝料の金額
外国人との離婚の慰謝料が争われる場合,日本とその外国人の本国の物価の違いが慰謝料に影響するかが問題となりますが,これについては具体的事例を見てみないことには結論を話すことがどうしても困難です。ただ,あまり物価の違いが影響することは少ないかと思います。
(2) 財産分与請求
財産分与請求も,離婚そのものによる慰謝料と同様に,離婚の準拠法の適用を受けることになると考えられています。そのため,夫婦が日本に住んでいる場合,財産分与についても,日本法に従って判断されることになります。
3 まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は,外国人配偶者と離婚する場合の注意点についてお話しさせて頂きました。国際離婚は,どうしても日本法だけではなく外国法の知識も必要となってしまいますので,専門家に依頼しなければ対応することが難しいと思います。
とりわけ養育費においては複雑な知識が求められる一方,慰謝料請求については裁判例が分かれており,適切な法的主張が求められる場面が多く存在しています。そのため,専門家の中でも経験豊富な弁護士に依頼することが求められます。
そこで,一度,経験豊富な弁護士に相談するようにしましょう。
【離婚問題】別れた妻が再婚したのですが養育費って支払わないといけないのですか?
「離婚後、養育費を支払っていたのに,別れた妻が再婚し,経済的に豊かになったのに同額の養育費を支払い続けないといけないの?」このようなお悩みをお持ちの方は決して少なくないと思います。養育費は長年にわたって支払われるものですので,同額の養育費を支払うことが不適切な場面もあります。そこで,今回は,養育費を受け取っている元妻が再婚した場合,養育費を減額することが出来るかお話ししたいと思います。
1 一度決めた養育費の額って変更出来るの?
(1) 養育費の額って変更出来るの?
養育費は,長期間にわたって支払われるものです。そのため,離婚当時に予測できなかった個人的,社会的事情の変更が生じたと認められる場合,養育費の額を変更することが可能です。
(2) 変更できるのってどんな場合?
先程も申しましたように,離婚当時に予測しえなかった個人的,社会的事情の変更が生じたと認められる場合,養育費の額を変更することが認められます。
具体的には,
・ 支払う側の勤めていた会社が倒産したことによって収入が大きく減った
・ 支払う側が大怪我をしてしまった事によって収入が大きく減った
・ 子供が病気や怪我をして入院・その他の医療費が必要になった
などの事情が認められる場合,養育費の金額を変更出来る可能性があります。
2 別れた妻が再婚した場合、養育費の減額は請求できるの?
では,別れた妻が再婚したことは養育費の減額事情に当たるのでしょうか?
子供を育てている親が再婚したかどうかは,養育費を支払っている親の扶養義務に直接、影響を与えるものではありません。そのため,養育費を受け取っている別れた妻が再婚したとしても,必ずしも養育費を減額できる訳ではありません。
(1) どのような事情があれば養育費の減額を請求できるの?
子供を連れて親が再婚しても再婚相手と連れ子との間に,当然には親子関係は発生せず,養子縁組をして初めて法律上の親子関係が発生します。養子縁組により,養親である再婚相手が連れ子に対して扶養義務を負うのは当然ですが,それにより実親の扶養義務が当然になくなる訳ではありません。
ただし,再婚により,通常,子供は養親と共同生活をしながら扶養されることになりますので,養親が一次的に扶養義務を負い,実親は二次的な扶養義務者になると考えられます。そのため,再婚相手が養子縁組をした場合,養育費の減額を認めた審判例があるなど裁判所においても養育費の減額を認める傾向にあると言えます。
(2) 養子縁組をしていないと養育費は減額出来ないの?
もっとも,再婚相手との間で養子縁組がなされていないとしても,減額が認められない訳ではありません。養育費が減額されることになるかは,元妻の再婚相手が経済的に余裕がある場合,元妻の収入が離婚時に比較して増えている場合など再婚後の経済状況が良好であること,養育費を支払っていた元夫の収入が大きく減少している場合や元夫も再婚して扶養する家族が増えた場合など元夫側の経済的状況が悪化したことといった事情を考慮して判断されることになります。
例えば,再婚相手が養子縁組はしないものの,経済的に豊かで子供の養育費を含め,生活費全般を負担する意思も能力もあるような場合には養育費の減額請求が認められる可能性があります。
3 養育費減額はどうやってすればいいの?
(1)まずは話し合い!
まずは,元妻に養育費の減額をしてもらえないか話し合いを持ちかけてみましょう。話し合いに際しては,あまり感情的にならず,あなたの収入が離婚時よりも減少していることの資料(給与明細、収入証明など)を示して説得するようにしましょう。
(2)話し合いでまとまらなければ、養育費減額調停!
いくら話し合いをしても,元妻が減額を拒むような場合やそもそも話し合いが出来ない場合,養育費減額調停の申し立てをしましょう。
養育費減額調停を申し立てるにあたっては,以下の資料を揃えるようにしましょう。
・ 養育費調停申立書
・ 事情説明書
・ 調停に関する進行照会書
・ 未成年者の戸籍謄本
・ 申立人の収入関係資料(源泉徴収票、給与明細など)
・ 収入印紙(子供一人につき1,200円)
・ 郵便切手代(800円前後)
これらの資料を揃えたうえで,元妻の住所地の家庭裁判所に養育費減額調停を申し立てるようにしましょう。なお,離婚の際に,申立てをする裁判所を定めていた場合には,その家庭裁判所に申し立てることになります。
4 まとめ
今回は別れた妻が再婚した場合に養育費を減額することが出来ないかお話しさせて頂きました。子供が再婚相手に引き取られたとしても,あなたも子供の親である以上,経済的に援助をしたいと思うところでしょう。しかし,そうは言っても養育費の負担は経済的に重いものだと思います。そのため,少しでも負担を減らしたいというのが人情でしょう。
もっとも,養育費の減額を認めさせるのは決して容易ではありません。自分で交渉しようにも一度別れた相手との交渉になりますからお互いどうしても感情的になってしまい,話し合いを行うのは困難でしょう。しかし,交渉経験の豊富な弁護士に依頼することで養育費の金額だけでなく,その他の支払方法などの細かい事情についても調整することが出来る可能性があります。
交渉経験豊富な弁護士に相談してみてはいかがでしょうか?
【財産】長年同棲していた彼と別れちゃった…。財産ってどうなるの?
「私と彼は,婚姻届を出さないまま,夫婦として同居し,長い間,彼の経営するレストランを手伝ってきました。しかし,最近どうしても夫とうまくいかず,別れようかと思っています。関係の解消に際して財産はどうなるのでしょうか?」今回は,内縁関係の解消においても財産分与が認められるのかについてお話ししたいと思います。
1 内縁関係ってなあに?
内縁とは,婚姻する意思を持って共に生活を営み,社会的には夫婦として認められているにも関わらず,法の定めた手続を行っていないため,法律的には夫婦と認められない場合をいいます。
ここで,内縁関係といえるかは,夫婦共同生活の実態とその継続性,性的関係の継続性,妊娠の有無,家族や第三者への紹介,見合い・結納,挙式等,慣習上の婚姻儀礼の有無等から判断することになります。
2 内縁関係の解消でも財産分与ってされるの?
離婚する場合,二人で築き上げてきた財産について,財産分与を行うというのが一般的な理解でしょう。では,婚姻届を提出していなければどうなるのでしょうか?内縁関係の解消にあたって財産分与がされるのでしょうか?
この点について,裁判所は,内縁関係の解消にあたっても夫婦関係同様,財産分与がされることを認めています。つまり,法律婚も内縁も,同じく夫婦として共同生活を営み,同じく協力して財産を築き上げた以上,別れる際には適正に財産を分けましょうと考えられています。
では,財産分与において分けるべき財産とは,どのようなものを指すのでしょうか?
この点は,離婚における財産分与と同様の議論ですので,そちらも参考にしていただければと思いますが,夫婦が協力して築き上げた共有財産が財産分与の対象となります。これに対して,内縁関係前から有していた財産や相続にて取得した財産などは特有財産として財産分与の対象とはなりません。
また,一般的に言われる財産分与とは,「清算的財産分与」と呼ばれるもので,夫婦で築き上げた共有財産を適正に清算することを目的としていますが,他にも「扶養的財産分与」や「慰謝料的財産分与」と呼ばれるものも存在します。したがって,分与すべき財産が決まっても,それをどのように分与すべきかは,多種多様な事情を考慮して決することとなります。
3 相談への回答
今回の相談の場合,長期間にわたり夫婦として同居し,内助の功だけでなく,夫の経営するレストランを実際に手伝ってきたのですから,内縁の夫名義となっている財産が築き上げられる過程において,内縁の妻が寄与していると考えられます。よって,夫婦共有財産の清算として,内縁の夫名義となっている財産についても,財産分与が可能であると考えられます。
また,内縁解消後,自立が困難な場合には,継続的な生活費を財産分与として受け取ることも検討しなくてはなりません。
もっとも,具体的な金額がどの程度となるかは,一度詳細にお話を伺った上で,共有財産や寄与度を確定させなくては分かりません。そこで,内縁関係解消に伴う財産分与でお悩みの方は,豊富な経験やノウハウを有する弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
【親子問題】絶対に親になりたい!親権者はどうやって決めるの?
離婚をする際には,「子供をどちらが引き取るのか?」という話が大きな話題になることがよく見られます。これは法律的には,「親権・監護権」をどちらが持つかという問題になります。そのため,今回は,子供を引き取るため,親権・監護権の内容やその決め方などをお話ししたいと思います。
1 親権ってなあに?
「親権」という言葉は,日常的にもよく用いられていますが,これを定義すると,未成年者の子供を監護・養育し,その財産を管理し,その子どもの代理人として法律行為をする権利義務のことを言います。一見すると親の権利のように見えますが,子供が社会に出て生活できるように育てるという意味で親の義務という側面もあります。
成年に達しない子供は親の親権に服することになり,その親権は父母が共同して行使することが原則です。ただし,父母が離婚する場合,父母が共同して親権を行使することはできませんから,父母のいずれかを親権を行使する親権者として定める必要があります。そのため,父母が協議上の離婚をする場合は,その協議で親権を行使する親権者を定め,裁判上の離婚をする場合は,裁判所が父母の片方を親権者と定めることになります。
具体的な親権の内容としては,身上監護権と財産管理権の2つがあります。
〈身上監護権〉
① 居所指定権(親が子供の居所を指定する権利)
② 懲戒権(子供に対して親が懲戒・しつけをする権利)
③ 職業許可権(子供が職業を営むにあたって親がその職業を許可する権利)
④ 身分法上の行為(婚姻など)に関する同意権,代理権
などがあります。要するに,子供の肉体的な生育を図る監護と精神的な成長を図る教育を含むものがこれにあたります。
〈財産管理権〉
① 包括的な財産の管理権
② 子供の法律行為に対する同意権(民法5条)
2 親権者を決める手続
協議離婚の場合,話し合いにより夫婦のどちらか片方を親権者と決めます。未成年の子供がいる場合に離婚をするためには,親権者も同時に決めないと離婚はできません。離婚届には親権者を記載する欄が設けられており,親権者を記載しなければ離婚届自体を,役所で受け付けてもらえないからです。
離婚の際に取り決めるべき条件は複数あり,財産分与・慰謝料等については,離婚後に条件を決定することも可能ではありますが,親権者の決定だけは離婚する際に絶対取り決めねばなりません。
もっとも,親権者をいずれにするかが話し合いで決まらない場合,親権者の指定を求める調停を家庭裁判所に申し立て,裁判所における調停の話し合いを通じて親権者を決めていくことになります。親権の帰属は離婚の条件でも重要なものですので,親権をどちらにするか決まらない場合には,離婚調停の申立をしてしまって,その調停の中で親権の話し合いもしていくことになるでしょう。
親権者の決定について調停でも折り合いがつかない場合,親権者指定の審判手続に移行し,裁判所の判断により親権者を指定してもらうことになります。また,離婚調停で親権者の折り合いがつかず,離婚の条件がまとまらないために離婚調停が不調に終わったような場合,離婚訴訟を提起して離婚の成否や離婚の条件について争うことになります。このときに,離婚の条件のひとつとして親権をどちらにするかを裁判所に判断してもらうよう申立をすれば,裁判所が判決で親権者をどちらにするか決めることになります。
3 どうやって親権者って決めるの?
では,調停がまとまらない場合,裁判所はどうやって親権者を決めているのでしょう。
親権者の指定においては,子供の利益を最優先して考慮されなければなりませんが,だいたい裁判所の判断が必要になる事案においては,父母ともに子供に対する愛情と監護能力を有していることが多いため,下記の事情を総合考慮して決めることになります。
〈父母側の事情〉
監護能力,監護態勢,監護の実績(継続性),(同居時の)主たる監護者,子供との情緒的結びつき,愛情,就労状況,経済力,性格,生活態度など
〈子供の側の事情〉
年齢,性別,心身の発育状況,従来の養育環境への適応状況,監護環境の継続性,環境の変化への適応性,子供の意思など
また,15歳以上の子供の親権を審判や訴訟で定める場合には,裁判所が子供本人の意思を聞く必要があります。そのため,子供の年齢が上がれば上がるほど,親権者の決定には,子供自身の意思がかなり重要となってきます。なお,逆に子供が幼ければ幼いほど,親権の争いについては母親が有利といわれています。
4 まとめ
以上のように,子供の親権がどちらになるかは様々な事情を考慮して決定されるものですから,事案にあった的確な主張をすることが求められます。そのためには,同種事案について経験豊富な弁護士に相談して,事情を説明することが大事になってくると思われます。子供の親権者が誰になるかというのは,親だけでなく,子供の一生を左右する重大な問題です。なお,親権に関する争いを見ていると,「自分が育てた方が子供のためになる」という主張ではなく「あんな父親が育てては,子供がダメになる」といった,相手方の人格批判に近い主張がよく見受けられます。どのような母親でも父親でも,子供にとっては大切な母親と父親です。親権者をいずれにするかは,子供のための問題ですので,相手方に対する感情論は横に置いて,客観的に子供の将来にとって良い結論を導くことができるよう,心掛けましょう。
【親子問題】親権者じゃなくても子供を育てることは出来るの?
離婚の最大の争点となることも多い「子供の親権」。離婚の際に子供の親権者は必ず決めなければなりません。親権の有無は,子供の世話をしたい親だけでなく,世話をされる子供の人生にも大きな影響を与えます。もっとも,親権者になることが出来ずとも,子供の世話をすることは出来ます。そこで,今回は,子供の親権者と子供の世話をする監護権者を分けること(以下では、このことを親権と監護権の分属と言います。)についてお話しさせて頂きたいと思います。
1 親権と監護権って違うの?
「親権」については,日常よく耳にするかと思いますが,「監護権」について日常的に耳にすると言う方は少ないのではないでしょうか。ですので,まずは,親権と監護権について説明させて頂きたいと思います。
(1) 親権ってなあに?
親権とは,未成年者の子供を監護・養育し,その財産を管理し,その子どもの代理人として法律行為をする権利義務のことを言います。具体的な内容としては,身上監護権と財産管理権の2つがあります。
身上監護権には,①居所指定権(親が子供の居所を指定する権利),②懲戒権(子供に対して親が懲戒・しつけをする権利),③職業許可権(子供が職業を営むにあたって親がその職業を許可する権利),④身分法上の行為(婚姻など)に関する同意権,代理権などがあります。つまり,身上監護権には子供の身体的な成長を図る監護と精神的な成長を図る教育が含まれているのです。
他方で,財産管理権には,①子供の財産管理権そのもの,②財産行為の代理権,③子供のする法律行為に対する同意権などがあります。
(2) 監護権ってなあに?
親権の説明の中で申しましたように,親権の中には身上監護権というものがあります。親権の中でもこの身上監護権のみを取り出して,親が子供を監護・教育する権利義務を「監護権」と言っています。簡単に言いますと,子供の傍で子供を育て,教育することに関する権利・義務のことを「監護権」と言うことになります。
監護権は親権の一部ですから,原則として親権者がこれを行使します。
2 親権を父親に、監護権を母親に、とした決め方(親権と監護権の分属)をすることは可能か?
では、親権と監護権の分属は認められているのでしょうか・
親権者と監護権者は一致した方が,一般に子どもの福祉に資すると考えられています。
しかし,子供の福祉という観点からすれば,父母が離婚した後も,財産管理権を持つ親と監護権を持つ親とが協力し合う形が望ましいこともあり得ることから,親権者と監護権者を分けて帰属させることも可能であると考えられています。例えば,①母親に浪費癖があり、財産管理については父親が適切なのですが,子供が幼く母親を監護権者とした方が子供の世話をすることが望ましいとき,②父母双方が親権者となることに固執している場合で,親権と監護権を分属することが子供の精神的安定に効果があると解されるとき,③父母のいずれが親権者になっても子供の福祉にかなう場合,出来るだけ共同親権の状態に近づけるために親権者と監護権者を分けるときなどがあります。
3 親権と監護権を分属するための手続
では、親権と監護権を分属させる場合、どのような手続きをすればいいでしょうか?
離婚の際に未成年者の子供の親権者と監護権者を分けることは,父母間の協議で定めることが出来ます。
もっとも,父母の協議が出来なかったり,まとまらなかったりすることもあると思います。このような場合,家庭裁判所が親権者や監護者を定めることになります。
裁判所は,判決で離婚を命じる場合,親権者又は監護者を定めますが,その際,どちらを親権者とするのが子供の利益になるかを検討し,場合によっては,父又は母の一方を親権者とし,他方を監護者とすることになります。
また,離婚時に監護権者と親権者を分けずに一方に定めたとしても,その親権者が監護者としてふさわしくないことがあるので,裁判所は,申立てにより,親権者をそのままとしたうえで他方を監護権者とすることも出来ます。
4 親権と監護権を分けた場合の問題点
もっとも,このように親権者と監護権者とを分けることは父母ともに一見するとメリットがあるため,両者の納得を得やすく解決方法として便利なように思えますが,何もメリットだけではありません。
まず,親権と監護権を分属させると,どうしても子供のための権利を行使出来ない場面がありますので,完全な親権を求めて紛争が再燃してしまうことがあります。
また,各種手当を申請しようとすると,親権者と監護権者が異なることから,現実的な不都合が生じてしまい,親権者の協力が必要となってしまうこともあり得ます。
さらに,離婚後も父母の信頼関係が維持されていれば良いのですが,父母の関係が悪化しているような場合ですと,父母の対立関係を強めてしまい,結果として子供に悪影響が及ぶかもしれません。
5 まとめ
今回は,親権と監護権を分属することが出来るかについてお話しさせて頂きました。子供のことを考えますと,普通は親権者と監護権者を同じ人にすることが望ましいのでしょうが,場合によっては親権者と監護権者を分属することが望ましいこともあるでしょう。
子供のためにも早期に子供に関する事件に経験豊富な弁護士に相談することをお勧め致します。
【内縁】結婚していないけど長年連れ添った相手が亡くなったときって財産はどうなるの?
愛し合っているからといって必ずしも婚姻届を提出し,婚姻関係を法的に結ばなければならないわけではありません。愛し合っているとしても,何らかの理由で内縁の妻(夫)として,婚姻届けを提出せずに夫婦関係を維持している人もいらっしゃいます。
しかしながら,内縁関係はあくまでも法律上の制度である婚姻関係と比較すると,法的な保護が十分ではない面が見られますが,いくつかの権利と義務は夫婦と同様のものが保障されています。今回は,内縁関係があるにすぎない場合でも相続権があるのかだけでなく,内縁の夫が亡くなったときに,その財産を内縁の妻にあげることができるかについてお話ししたいと思います。
1 内縁関係に与えられる法的保護
内縁とは,婚姻届を提出していないため法律上婚姻関係にあるとは認められていないものの,婚姻意思を持って生活を営み,周りから見れば夫婦と同視できる状況にある男女関係を言います。内縁関係が認められた場合,その当事者には,単なる交際関係とは異なる法的な保護が与えられることになります。
具体的には,不当な内縁関係の破棄や不貞行為(いわゆる不倫ですね。)には慰謝料の支払い義務が発生しますし,内縁関係継続中に共同して構築した財産については財産分与が認められることになります。それでは,このような権利義務のほか内縁の妻に配偶者相続権は認められるのでしょうか?
民法は,「配偶者+子等(直系卑属),父母等(直系尊属),兄弟姉妹」を法定相続人として定めていますが,「配偶者」には,法律上の婚姻関係にある者のみが該当し,内縁の配偶者に相続権を認めるものではありません。そのため,内縁の妻は,法定相続人として相続が認められないので,内縁の夫が死亡したとしても相続によって自動的に財産を得ることはできないことになります。では,内縁の妻に財産を残すことはできないのでしょうか?
もちろんそんなことはありません。内縁の妻に財産を残すための方法として,以下で説明しますように,遺言による方法や贈与という方法がございます。
2 内縁の妻に財産をあげるために
では,内縁の夫が内縁の妻に財産をあげるためには具体的にどのような方法を用いればいいでしょうか?
(1) 遺言による方法
まず,内縁の夫が,遺産の一部又は全部及び祭祀財産を内縁の妻に遺贈するという趣旨の遺言書を作成する方法が考えられます。もっとも,法定相続人がいるかいないかによってどの程度の財産を与えることができるかが分かれてきますので,場合を分けて検討してみましょう。
ア 法定相続人がいる場合
法定相続人には,「配偶者+子等(直系卑属),父母等(直系尊属),兄弟姉妹」があたります。これらの者がいる場合,遺言が無ければ,これらの法定相続人が財産を相続することになりますので,内縁の妻は遺言なくして財産を取得することができません。
もっとも,遺言を作成している場合であっても,内縁の妻が全財産を取得できるとは限りません。遺留分というものがあるからです。遺留分とは,被相続人が財産を処分したとしても奪われることのない相続財産の一定割合を言います。
例をあげてみたいと思います。父,母,長男,長女の4人家族がいるとします。ある日,父が「長男に全財産を相続させる」という遺言を残して死亡したときであっても,母と長女は一定の財産を受け取ることができます。これを遺留分と言うのです。
そのため,たとえ亡くなった本人が「全財産を内縁の妻に相続させる」と遺言していたとしても,亡くなった人に子や配偶者などがいる場合,相続財産を受け取ることを請求する事ができます。なお,兄弟姉妹しかいない場合,このような制度はありませんので,内縁の妻に全財産を遺贈するとの遺言が存在していれば,全財産を内縁の妻に遺贈することが可能となります。
イ 法定相続人がいない場合
法定相続人がいない場合,遺言など何もしていなければ相続財産は国庫に帰属するのが原則となります。しかし,内縁の妻に全財産を譲り渡す旨の遺言書が作成していれば,内縁の妻に全財産を遺贈させることができます。
(2) 生前贈与・死因贈与
内縁の夫が内縁の妻に対し,贈与によって財産の全部又は一部を移転する方法もあります。被相続人が生前に内縁の妻に対する贈与を行った場合はもちろん,被相続人の死亡により効力が発生する贈与契約(死因贈与)が締結されていた場合も財産が承継されることになります。
なお,明示的に書面などで贈与契約がなされていない場合でも,履行が終了していることなどが認定できれば,贈与の取消が認められないこともありますが,書面によらない贈与は取り消すことができますので,やはり書面として残しておくべきでしょう。
これらの贈与については,相続人に対する生前贈与と異なり,相続開始から1年以上前の贈与であれば,遺留分減殺の対象とならない可能性もあります。
3 内縁の夫が何も対策をしていないときには財産をもらえないの?
内縁の夫が財産をあげるためにとる方法としてはこの2つが考えられますが,仮にこのような方法をとっていないときであっても,内縁の妻に財産の所有権が認められることがありますのでご紹介させて頂きます。
(1) 特別縁故者への財産分与
内縁の妻は法定相続人とはなることができませんが,内縁の夫に法定相続人となるべき者がいない場合,遺言や贈与と言った方法をとっていないとしても,家庭裁判所に申し立てをすることによって「特別の縁故があった者」として内縁の妻が相続財産の全部又は一部を取得することができるときもあります。ただし,特別縁故者として遺産を取得するには,相続財産管理人を家庭裁判所に選任してもらうなど,相当に煩雑な手続きが必要となりますし,手続完了までに相当の時間(1年など)を要する場合が多いため,あまりお勧めできません。
(2) 共有
また,遺言や贈与といった方法をとらなかったために,,子や配偶者などの相続人から内縁の夫の財産であると主張されている場合であっても,当該財産は内縁夫婦の協力によって築かれた財産であるとして解決することも考えられます。共同経営の実体があったり,費用負担をしている事実があったりすれば,共有持分が認めることになるでしょう。
しかし,内縁の妻が高齢・病弱であるなどして財産形成に貢献していない場合,この構成を採用しても保護することが難しいと言わざるを得ません。
4 まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は,内縁の夫の財産を内縁の妻にあげるための方法などについてお話しさせて頂きました。
もっとも,,内縁の配偶者に相続人がいる場合,,贈与を取り消されたり,,遺留分減殺請求をされたりする可能性があります。そのため,,配偶者の方の将来の生活にもかかわってきますので,,経験豊富な弁護士に依頼することをお勧め致します。
また,適切な対策を講じるためには,生前贈与と遺言書を上手く組み合わせて行わなくてはなりませんが,その場合には贈与税の問題が発生します。そのため,税務に強い弁護士に相談されることが最善の方法でしょう。
【婚約解消】結納や婚約指輪って返してもらえるの?
日本では,結納という伝統があります。もし結納をすませた後に婚約が解消された場合,その返還を求めることができるのでしょうか?また,婚約指輪や婚約中のプレゼントは返してもらえるのでしょうか?今回は,婚約解消をした場合に結納や婚約指輪などの贈り物を返してもらうことができるかということについてお話させて頂きます。
1 結納ってなあに?
まず,結納についてご確認しておきたいと思います。
結納とは,婚約の成立を確認することを目的とする贈与であって,伝統的に社会的な慣習として行われてきたものです。つまり,結納とは,両家が親類となって「結」びついたことを祝い,贈り物を「納」め合うということを意味するものなのです。
結納にはこのような意味合いがあることから,裁判所においても「結納は,婚約の成立を確証し,あわせて,婚姻が成立した場合に当事者ないし当事者両家間の情誼(人と付き合ううえでの義理)を厚くする目的で授受される一種の贈与である」としています。つまり,結納には,「婚約の成立」を示すという意味合いと「婚姻が成立した場合に両者・両家の仲を良くする」という目的があるといえます。
2 結納の返還
では,婚約後,婚姻(結婚)に至らなかった場合などに結納の返還を求めることができるのでしょうか?
結納には,前でもお話ししたように「婚約の成立」を示すという意味合いと「婚姻が成立した場合に両者・両家の仲を良くする」という目的があるといえます。そのため,結納の授受があったものの,婚姻が成立しなかった場合などには,結納の目的が達成できなくなるため,結納をあげた人(通常,結納をあげるのは男性ですので,以下では男性ということにします。)は,結納を返してもらえることになります。もっとも,婚約解消に双方の合意があるときには,当事者間でいくら返すのかといった条件を自由に決めることができます。
(1) 結納をあげた人が悪くて婚約を解消したときも返還してもらえるの?
婚約を解消した場合,男性が結納を返還してもらえることは上でも確認したとおりです。しかし,女性に原因があって婚約が解消した場合はまだしも,男性が浮気して婚約を解消した場合でも結納を返還してもらえるのでしょうか?
結論から言えば,男性側が浮気をした場合には,結納の返還は認められない傾向にあると言えるでしょう。浮気をしたような場合にまで結納の返還を求めることは誠意に欠けており許されないと考えているようです。
もっとも,裁判所によって判断が分かれており,確実に結納の返還は認められないというわけではありません。
ちなみに,結納を受け取った女性の側にも落ち度がある場合,お互いの落ち度を比較して,男性側の落ち度の方が女性の落ち度よりも大きければ返還を請求することができず,女性の落ち度と同等又は小さければ,結納金の返還が許されると判断している裁判例もあります。
(2) 婚姻した場合,返還しなくていいの?
結納は,先程もお話ししたように「婚姻が成立した場合に両者・両家の仲を良くする」という目的があることを前提とすると,婚姻が成立した場合は,結納の目的は達成されているため,返還を求めることができないことになりそうです。
しかし,裁判例をみると,法律上の婚姻が成立した場合であっても,婚姻期間が短く,夫婦としての実態がなかったような場合,例外的ではありますが結納の返還が認められる余地があります。それでは,どんな場合に結納の返還が認められたか,逆に認められなかったのか,裁判例を紹介致したいと思います。
〈結納の返還が認められた事例〉
・挙式後約2か月にわたって事実上の夫婦として生活していましたが,二人の間に法律上の婚姻関係は成立しておらず,当事者間が特に親しくなることもなかったという事案
・法律上の婚姻生活は3か月存在したのですが,そのうち20日程度同棲したに過ぎず,ほとんど実家にいた事案
・婚姻後2年が経過しその間に子供が一人生まれたが,当初から結納を受け取った側が婚姻を継続する意思がなく,婚姻前からずっと浮気を続けていた事案
〈結納の返還が認められなかった事例〉
・挙式後約8か月夫婦生活を続け,その間に婚姻の届出も完了しており,法律上の婚姻が成立していた事案
・挙式後約1年間事実上の夫婦として生活をしていた事案
これらの裁判例などからすると,婚姻が成立した場合には当初からよっぽど悪意を持っていたり,あまりに短期間であったりしない限り,結納の返還を求めるのは難しいことになりそうです。また,仮に認められたとしても全額の返還ということはほとんど認められないことになると思われます。
3 結納以外の費用も返してもらえるの?
上でお話ししたように結納については婚姻をしていなければ,返還してもらえる可能性が高いと思います。では,婚約指輪や婚約中にあげたプレゼントなども返還してもらえるのでしょうか?
(1) 婚約指輪
まず,婚約指輪について見てみましょう。
婚約指輪についても結納の場合と似ていて,「婚約の成立」を示すという意味合いと「婚姻の成立」という目的があると言えます。そのため,婚姻に至らなかったのであれば、婚約指輪も返してもらえる可能性が高いと言うべきでしょう。
もっとも,婚約指輪を返してもらっても使い道はないことが多いでしょうし,換金しても大きく値下がりしてしまっているので,婚約指輪ではなく,婚約指輪を購入したときと同じ代金を請求することはできないのでしょうか?
これについては,婚約指輪を渡した際,もらった女性が婚姻をしないと思っていた場合でもない限り,購入代金の請求までは認められないと考えられます。つまり,婚約指輪そのものを返還すればよく,婚約指輪を購入した際の代金相当額までは請求できないことになります。
(2) 婚約中のプレゼント
次に,婚約中にあげたプレゼントについて見てみましょう。
婚約中に男性があげたプレゼントは,任意で行った贈与であるため,原則としてプレゼントの返還を請求することはできないでしょう。
しかしながら,裁判例においては,例外的に,プレゼントの返還を認めたものもあります。その裁判例では,このような婚約中の贈与は,将来自分の妻になる者になされるという特殊な契機を持つのであり,まったく返還を認めないのも可哀想だからということで,婚約解消の原因が女性の責められるべき事情にある場合や贈与された金品が,男性の地位・収入に比して不当に高価高額である場合,その物品を女性の手元に残しておくことが無意味である場合などにおいては,男性は女性に対して返還を請求することができるとしました。
このように何らかの特別な事情がある場合には,婚約中にあげたプレゼントについても返還が認められることがありそうです。
4 まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は結納や婚約指輪などの贈り物の返還が認められるのかということについてお話しさせて頂きました。
婚姻関係の解消について合意がある場合であれば,当事者間で条件を話し合う中で,結納の返還などについても決めていくことになるでしょう。その場合にあっては,なにも現物で返す必要はなく,金銭など別のもので清算することも可能です。この場合には,合意書などを作成しておき,婚姻解消後のトラブルを防ぐべきでしょう。
また,いろいろとお話ししたように,結納と婚約解消に関する問題は簡単に判断できるものではなく,婚約解消に至った経緯や,婚約中の生活の実態等を総合的に判断犯する必要がありますので,適切な解決を図るためには,専門的な法的知識だけでなく婚約に関する事件について豊富な経験が必要になるものです。そのため,お困りの際には婚約に関する事件について豊富な経験を持つ弁護士にご相談ください。
【離婚問題】妻が宗教にハマってしまった…。離婚ってできるの?
夫婦で宗教観が違うとしても,それだけでは裁判上の離婚事由にあたりません。日本においては信仰の自由が認められているため,夫婦であってもお互いの宗教観を尊重しなければならないのです。しかしながら,夫婦で信仰が異なるとやはり日常生活に支障を来たすこともあるかと思います。そこで,裁判所も一定の場合には「宗教」それ自体に問題があるのではないことは認めつつ,「家庭が崩壊していること」を問題として離婚ができることを認めています。今回は,どのような場合に離婚ができるかについてお話ししたいと思います。
1 宗教活動を理由に離婚できるのはどんなとき?
「宗教活動」を理由として離婚が認められるためには,それが「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)にあたる必要があります。ここで,確認しておきたいのは「宗教」それ自体を離婚事由としているわけではないということです。日本においては,信仰の自由が認められているため,特定の「宗教」を信仰することは何の問題もないのです。
しかし,「宗教」自体に問題がないとしても,夫婦は生活共同体であるから,いくらでも好きなだけ信仰していいというわけではありません。あくまで,「宗教活動」が夫婦の生活に重大な支障を及ぼさない程度,すなわち「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたらないものである必要があるのです。
「宗教活動」が「婚姻を継続し難い重大な事由」が認められるか否かは,宗教活動の程度,家庭生活への支障の程度,協力義務違反があるとまでいえるか,別居期間,子の年齢,精神的ギャップの大きさ,関係修復の困難性などから判断されることになります。
もっとも,実際にどんな場合に離婚が認められているかは具体例を見てみないとわからないと思います。ですので,今から離婚が認められた裁判例と離婚が認められなかった裁判例を3つほどご紹介したいと思います。
〈離婚が認められた事例①〉
夫の実家は,代々,神道を信仰しており,夫婦の家にも神棚がありました。しかし,妻は婚姻後,エホバの証人を信仰するようになり,神棚を夫の実家に返還するなどしたため,夫の実家との関係が悪化しました。そのような中,妻は未成熟の子供たちをエホバの証人に入信させ,夫の父の葬儀に出席しないなどの行動をとりました。このような諍いは10年余りに及んでおり,完全な別居期間も約2年間に達していました。
裁判所は,このような事情の下,今後,どちらか一方が共同生活維持のため,相手方のために譲歩するとことは期待できないとして,婚姻関係はもはや継続し難いまでに破綻しているものと認めるのが相当と判断し,離婚を認容しました。
〈離婚が認められた事例②〉
妻は婚姻後エホバの証人を信仰するようになりましたが,当初は週に1時間程度聖書の勉強会に参加する程度でした。しかし,その後熱心な信者となり,家事をないがしろにし始めた上,子供を集会に連れて行くようになりました。その頃,夫は妻に信仰を止めるよう説得しましたが,逆に妻は夫に対し入信を勧め,夫の反対を無視して子供たちを集会に連れて行き続けました。そのため,夫は妻に対して離婚と慰謝料の支払いを請求しました。
裁判所は,このような事情の下,夫婦間の婚姻関係は既に破綻していると判断しました。また,信仰の自由があることを認めつつも,夫婦の一方が自己の信仰の自由のみを強調し,相手の生活や気持ちを無視した結果,婚姻を継続し難い重大な事由があると認められる場合には,その者にも婚姻関係破綻の原因があるとする一方で,当事者双方が,それぞれ相手方の考え方や立場を無視して頑なな態度をとり,婚姻関係を円満に継続する努力を怠ったことが婚姻関係破綻の原因であると考えられるとしました。その結果,当事者双方の責任を認め,夫からの離婚請求を認める一方で慰謝料の支払いは否定しました。
〈離婚が認められなかった事例〉
妻は婚姻後エホバの証人を信仰するようになりましたが,夫との同居中の宗教活動は1週間に1時間の聖書の勉強会に出席する程度のものであり,日常の家事や子供の教育に支障はありませんでした。しかし,夫とその実家は創価学会を信仰しており,先祖崇拝を巡って対立が生じてしまいました。その後,二人は別居することになりましたが,別居からしばらくの間は双方が婚姻の継続を希望していたという事案です。
裁判所は,このような事情の下,夫が妻の信仰の自由を尊重する寛大さをもって,妻への理解を図る積極的な態度をとれば,婚姻関係を修復する余地があるとして,離婚を認めませんでした。
以上の裁判例を見てもらっても分かりますように,裁判所は「宗教」を問題としているわけではありません。あまりに熱心に「宗教」を信仰していることで夫婦生活に支障を来していることを問題としているのです。
2 宗教にハマった妻から慰謝料や親権をとることはできるの?
では,仮に離婚が認められたとして,慰謝料や子供の親権までも無条件に認められるのでしょうか?少しだけお話ししたいと思います。
(1) 慰謝料の話
慰謝料を請求するためには,「相手のせいで婚姻関係が破綻した」ということを主張する必要があります。そのため,単に相手が「宗教」にハマったというだけでは慰謝料請求は認められず,相手の「宗教活動」によって婚姻関係が破綻してしまったとまで言えないといけないのです。すなわち,相手の宗教活動があまりに熱心で家事などに支障を来し,夫婦生活を破綻させたような場合であれば,離婚だけでなく慰謝料請求も認められることになります。
(2) 親権の話
では,親権はどうでしょう?妻の宗教を信じていない側からすれば,できるだけ子どもを宗教から遠ざけ,引き取りたいと願うこともあるかもしれません。
しかし,妻が宗教にハマっていたとしても,虐待などの事情が認められなければ,宗教にハマっていることを不利益に評価することはありません。あくまで親権者の判断においては,子供を育てることへの意欲と能力,健康状況,経済的・精神的家庭環境,居住・教育環境,従前の監護状況,子に対する愛情の程度や子供の年齢・性別,子の希望などの事情を総合的に考慮することになるでしょう。
夫が,親権を勝ち取るためには,子供の養育実績を作ること,相手が虐待をしている証拠や子供を育てていないことの証拠を収集しておくことが大事になってきます。
3 まとめ
以上,「宗教活動」を理由とする離婚について見てきましたが,いかがでしたでしょうか?宗教活動を原因として裁判離婚が認められる場合と言うのは必ずしも多くはありません。そのため,宗教活動を理由として離婚するためには,出来れば協議離婚か調停離婚の段階で決着をつけることが望ましく,どうしても初動が大事になってきます。経験豊富な弁護士であればそういった場合でも適切なアドバイスをすることが可能ですので,一度経験豊富な弁護士に相談してみてください。