【親子問題】親権者じゃなくても子供を育てることは出来るの?
離婚の最大の争点となることも多い「子供の親権」。離婚の際に子供の親権者は必ず決めなければなりません。親権の有無は,子供の世話をしたい親だけでなく,世話をされる子供の人生にも大きな影響を与えます。もっとも,親権者になることが出来ずとも,子供の世話をすることは出来ます。そこで,今回は,子供の親権者と子供の世話をする監護権者を分けること(以下では、このことを親権と監護権の分属と言います。)についてお話しさせて頂きたいと思います。
1 親権と監護権って違うの?
「親権」については,日常よく耳にするかと思いますが,「監護権」について日常的に耳にすると言う方は少ないのではないでしょうか。ですので,まずは,親権と監護権について説明させて頂きたいと思います。
(1) 親権ってなあに?
親権とは,未成年者の子供を監護・養育し,その財産を管理し,その子どもの代理人として法律行為をする権利義務のことを言います。具体的な内容としては,身上監護権と財産管理権の2つがあります。
身上監護権には,①居所指定権(親が子供の居所を指定する権利),②懲戒権(子供に対して親が懲戒・しつけをする権利),③職業許可権(子供が職業を営むにあたって親がその職業を許可する権利),④身分法上の行為(婚姻など)に関する同意権,代理権などがあります。つまり,身上監護権には子供の身体的な成長を図る監護と精神的な成長を図る教育が含まれているのです。
他方で,財産管理権には,①子供の財産管理権そのもの,②財産行為の代理権,③子供のする法律行為に対する同意権などがあります。
(2) 監護権ってなあに?
親権の説明の中で申しましたように,親権の中には身上監護権というものがあります。親権の中でもこの身上監護権のみを取り出して,親が子供を監護・教育する権利義務を「監護権」と言っています。簡単に言いますと,子供の傍で子供を育て,教育することに関する権利・義務のことを「監護権」と言うことになります。
監護権は親権の一部ですから,原則として親権者がこれを行使します。
2 親権を父親に、監護権を母親に、とした決め方(親権と監護権の分属)をすることは可能か?
では、親権と監護権の分属は認められているのでしょうか・
親権者と監護権者は一致した方が,一般に子どもの福祉に資すると考えられています。
しかし,子供の福祉という観点からすれば,父母が離婚した後も,財産管理権を持つ親と監護権を持つ親とが協力し合う形が望ましいこともあり得ることから,親権者と監護権者を分けて帰属させることも可能であると考えられています。例えば,①母親に浪費癖があり、財産管理については父親が適切なのですが,子供が幼く母親を監護権者とした方が子供の世話をすることが望ましいとき,②父母双方が親権者となることに固執している場合で,親権と監護権を分属することが子供の精神的安定に効果があると解されるとき,③父母のいずれが親権者になっても子供の福祉にかなう場合,出来るだけ共同親権の状態に近づけるために親権者と監護権者を分けるときなどがあります。
3 親権と監護権を分属するための手続
では、親権と監護権を分属させる場合、どのような手続きをすればいいでしょうか?
離婚の際に未成年者の子供の親権者と監護権者を分けることは,父母間の協議で定めることが出来ます。
もっとも,父母の協議が出来なかったり,まとまらなかったりすることもあると思います。このような場合,家庭裁判所が親権者や監護者を定めることになります。
裁判所は,判決で離婚を命じる場合,親権者又は監護者を定めますが,その際,どちらを親権者とするのが子供の利益になるかを検討し,場合によっては,父又は母の一方を親権者とし,他方を監護者とすることになります。
また,離婚時に監護権者と親権者を分けずに一方に定めたとしても,その親権者が監護者としてふさわしくないことがあるので,裁判所は,申立てにより,親権者をそのままとしたうえで他方を監護権者とすることも出来ます。
4 親権と監護権を分けた場合の問題点
もっとも,このように親権者と監護権者とを分けることは父母ともに一見するとメリットがあるため,両者の納得を得やすく解決方法として便利なように思えますが,何もメリットだけではありません。
まず,親権と監護権を分属させると,どうしても子供のための権利を行使出来ない場面がありますので,完全な親権を求めて紛争が再燃してしまうことがあります。
また,各種手当を申請しようとすると,親権者と監護権者が異なることから,現実的な不都合が生じてしまい,親権者の協力が必要となってしまうこともあり得ます。
さらに,離婚後も父母の信頼関係が維持されていれば良いのですが,父母の関係が悪化しているような場合ですと,父母の対立関係を強めてしまい,結果として子供に悪影響が及ぶかもしれません。
5 まとめ
今回は,親権と監護権を分属することが出来るかについてお話しさせて頂きました。子供のことを考えますと,普通は親権者と監護権者を同じ人にすることが望ましいのでしょうが,場合によっては親権者と監護権者を分属することが望ましいこともあるでしょう。
子供のためにも早期に子供に関する事件に経験豊富な弁護士に相談することをお勧め致します。
【内縁】結婚していないけど長年連れ添った相手が亡くなったときって財産はどうなるの?
愛し合っているからといって必ずしも婚姻届を提出し,婚姻関係を法的に結ばなければならないわけではありません。愛し合っているとしても,何らかの理由で内縁の妻(夫)として,婚姻届けを提出せずに夫婦関係を維持している人もいらっしゃいます。
しかしながら,内縁関係はあくまでも法律上の制度である婚姻関係と比較すると,法的な保護が十分ではない面が見られますが,いくつかの権利と義務は夫婦と同様のものが保障されています。今回は,内縁関係があるにすぎない場合でも相続権があるのかだけでなく,内縁の夫が亡くなったときに,その財産を内縁の妻にあげることができるかについてお話ししたいと思います。
1 内縁関係に与えられる法的保護
内縁とは,婚姻届を提出していないため法律上婚姻関係にあるとは認められていないものの,婚姻意思を持って生活を営み,周りから見れば夫婦と同視できる状況にある男女関係を言います。内縁関係が認められた場合,その当事者には,単なる交際関係とは異なる法的な保護が与えられることになります。
具体的には,不当な内縁関係の破棄や不貞行為(いわゆる不倫ですね。)には慰謝料の支払い義務が発生しますし,内縁関係継続中に共同して構築した財産については財産分与が認められることになります。それでは,このような権利義務のほか内縁の妻に配偶者相続権は認められるのでしょうか?
民法は,「配偶者+子等(直系卑属),父母等(直系尊属),兄弟姉妹」を法定相続人として定めていますが,「配偶者」には,法律上の婚姻関係にある者のみが該当し,内縁の配偶者に相続権を認めるものではありません。そのため,内縁の妻は,法定相続人として相続が認められないので,内縁の夫が死亡したとしても相続によって自動的に財産を得ることはできないことになります。では,内縁の妻に財産を残すことはできないのでしょうか?
もちろんそんなことはありません。内縁の妻に財産を残すための方法として,以下で説明しますように,遺言による方法や贈与という方法がございます。
2 内縁の妻に財産をあげるために
では,内縁の夫が内縁の妻に財産をあげるためには具体的にどのような方法を用いればいいでしょうか?
(1) 遺言による方法
まず,内縁の夫が,遺産の一部又は全部及び祭祀財産を内縁の妻に遺贈するという趣旨の遺言書を作成する方法が考えられます。もっとも,法定相続人がいるかいないかによってどの程度の財産を与えることができるかが分かれてきますので,場合を分けて検討してみましょう。
ア 法定相続人がいる場合
法定相続人には,「配偶者+子等(直系卑属),父母等(直系尊属),兄弟姉妹」があたります。これらの者がいる場合,遺言が無ければ,これらの法定相続人が財産を相続することになりますので,内縁の妻は遺言なくして財産を取得することができません。
もっとも,遺言を作成している場合であっても,内縁の妻が全財産を取得できるとは限りません。遺留分というものがあるからです。遺留分とは,被相続人が財産を処分したとしても奪われることのない相続財産の一定割合を言います。
例をあげてみたいと思います。父,母,長男,長女の4人家族がいるとします。ある日,父が「長男に全財産を相続させる」という遺言を残して死亡したときであっても,母と長女は一定の財産を受け取ることができます。これを遺留分と言うのです。
そのため,たとえ亡くなった本人が「全財産を内縁の妻に相続させる」と遺言していたとしても,亡くなった人に子や配偶者などがいる場合,相続財産を受け取ることを請求する事ができます。なお,兄弟姉妹しかいない場合,このような制度はありませんので,内縁の妻に全財産を遺贈するとの遺言が存在していれば,全財産を内縁の妻に遺贈することが可能となります。
イ 法定相続人がいない場合
法定相続人がいない場合,遺言など何もしていなければ相続財産は国庫に帰属するのが原則となります。しかし,内縁の妻に全財産を譲り渡す旨の遺言書が作成していれば,内縁の妻に全財産を遺贈させることができます。
(2) 生前贈与・死因贈与
内縁の夫が内縁の妻に対し,贈与によって財産の全部又は一部を移転する方法もあります。被相続人が生前に内縁の妻に対する贈与を行った場合はもちろん,被相続人の死亡により効力が発生する贈与契約(死因贈与)が締結されていた場合も財産が承継されることになります。
なお,明示的に書面などで贈与契約がなされていない場合でも,履行が終了していることなどが認定できれば,贈与の取消が認められないこともありますが,書面によらない贈与は取り消すことができますので,やはり書面として残しておくべきでしょう。
これらの贈与については,相続人に対する生前贈与と異なり,相続開始から1年以上前の贈与であれば,遺留分減殺の対象とならない可能性もあります。
3 内縁の夫が何も対策をしていないときには財産をもらえないの?
内縁の夫が財産をあげるためにとる方法としてはこの2つが考えられますが,仮にこのような方法をとっていないときであっても,内縁の妻に財産の所有権が認められることがありますのでご紹介させて頂きます。
(1) 特別縁故者への財産分与
内縁の妻は法定相続人とはなることができませんが,内縁の夫に法定相続人となるべき者がいない場合,遺言や贈与と言った方法をとっていないとしても,家庭裁判所に申し立てをすることによって「特別の縁故があった者」として内縁の妻が相続財産の全部又は一部を取得することができるときもあります。ただし,特別縁故者として遺産を取得するには,相続財産管理人を家庭裁判所に選任してもらうなど,相当に煩雑な手続きが必要となりますし,手続完了までに相当の時間(1年など)を要する場合が多いため,あまりお勧めできません。
(2) 共有
また,遺言や贈与といった方法をとらなかったために,,子や配偶者などの相続人から内縁の夫の財産であると主張されている場合であっても,当該財産は内縁夫婦の協力によって築かれた財産であるとして解決することも考えられます。共同経営の実体があったり,費用負担をしている事実があったりすれば,共有持分が認めることになるでしょう。
しかし,内縁の妻が高齢・病弱であるなどして財産形成に貢献していない場合,この構成を採用しても保護することが難しいと言わざるを得ません。
4 まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は,内縁の夫の財産を内縁の妻にあげるための方法などについてお話しさせて頂きました。
もっとも,,内縁の配偶者に相続人がいる場合,,贈与を取り消されたり,,遺留分減殺請求をされたりする可能性があります。そのため,,配偶者の方の将来の生活にもかかわってきますので,,経験豊富な弁護士に依頼することをお勧め致します。
また,適切な対策を講じるためには,生前贈与と遺言書を上手く組み合わせて行わなくてはなりませんが,その場合には贈与税の問題が発生します。そのため,税務に強い弁護士に相談されることが最善の方法でしょう。
【婚約解消】結納や婚約指輪って返してもらえるの?
日本では,結納という伝統があります。もし結納をすませた後に婚約が解消された場合,その返還を求めることができるのでしょうか?また,婚約指輪や婚約中のプレゼントは返してもらえるのでしょうか?今回は,婚約解消をした場合に結納や婚約指輪などの贈り物を返してもらうことができるかということについてお話させて頂きます。
1 結納ってなあに?
まず,結納についてご確認しておきたいと思います。
結納とは,婚約の成立を確認することを目的とする贈与であって,伝統的に社会的な慣習として行われてきたものです。つまり,結納とは,両家が親類となって「結」びついたことを祝い,贈り物を「納」め合うということを意味するものなのです。
結納にはこのような意味合いがあることから,裁判所においても「結納は,婚約の成立を確証し,あわせて,婚姻が成立した場合に当事者ないし当事者両家間の情誼(人と付き合ううえでの義理)を厚くする目的で授受される一種の贈与である」としています。つまり,結納には,「婚約の成立」を示すという意味合いと「婚姻が成立した場合に両者・両家の仲を良くする」という目的があるといえます。
2 結納の返還
では,婚約後,婚姻(結婚)に至らなかった場合などに結納の返還を求めることができるのでしょうか?
結納には,前でもお話ししたように「婚約の成立」を示すという意味合いと「婚姻が成立した場合に両者・両家の仲を良くする」という目的があるといえます。そのため,結納の授受があったものの,婚姻が成立しなかった場合などには,結納の目的が達成できなくなるため,結納をあげた人(通常,結納をあげるのは男性ですので,以下では男性ということにします。)は,結納を返してもらえることになります。もっとも,婚約解消に双方の合意があるときには,当事者間でいくら返すのかといった条件を自由に決めることができます。
(1) 結納をあげた人が悪くて婚約を解消したときも返還してもらえるの?
婚約を解消した場合,男性が結納を返還してもらえることは上でも確認したとおりです。しかし,女性に原因があって婚約が解消した場合はまだしも,男性が浮気して婚約を解消した場合でも結納を返還してもらえるのでしょうか?
結論から言えば,男性側が浮気をした場合には,結納の返還は認められない傾向にあると言えるでしょう。浮気をしたような場合にまで結納の返還を求めることは誠意に欠けており許されないと考えているようです。
もっとも,裁判所によって判断が分かれており,確実に結納の返還は認められないというわけではありません。
ちなみに,結納を受け取った女性の側にも落ち度がある場合,お互いの落ち度を比較して,男性側の落ち度の方が女性の落ち度よりも大きければ返還を請求することができず,女性の落ち度と同等又は小さければ,結納金の返還が許されると判断している裁判例もあります。
(2) 婚姻した場合,返還しなくていいの?
結納は,先程もお話ししたように「婚姻が成立した場合に両者・両家の仲を良くする」という目的があることを前提とすると,婚姻が成立した場合は,結納の目的は達成されているため,返還を求めることができないことになりそうです。
しかし,裁判例をみると,法律上の婚姻が成立した場合であっても,婚姻期間が短く,夫婦としての実態がなかったような場合,例外的ではありますが結納の返還が認められる余地があります。それでは,どんな場合に結納の返還が認められたか,逆に認められなかったのか,裁判例を紹介致したいと思います。
〈結納の返還が認められた事例〉
・挙式後約2か月にわたって事実上の夫婦として生活していましたが,二人の間に法律上の婚姻関係は成立しておらず,当事者間が特に親しくなることもなかったという事案
・法律上の婚姻生活は3か月存在したのですが,そのうち20日程度同棲したに過ぎず,ほとんど実家にいた事案
・婚姻後2年が経過しその間に子供が一人生まれたが,当初から結納を受け取った側が婚姻を継続する意思がなく,婚姻前からずっと浮気を続けていた事案
〈結納の返還が認められなかった事例〉
・挙式後約8か月夫婦生活を続け,その間に婚姻の届出も完了しており,法律上の婚姻が成立していた事案
・挙式後約1年間事実上の夫婦として生活をしていた事案
これらの裁判例などからすると,婚姻が成立した場合には当初からよっぽど悪意を持っていたり,あまりに短期間であったりしない限り,結納の返還を求めるのは難しいことになりそうです。また,仮に認められたとしても全額の返還ということはほとんど認められないことになると思われます。
3 結納以外の費用も返してもらえるの?
上でお話ししたように結納については婚姻をしていなければ,返還してもらえる可能性が高いと思います。では,婚約指輪や婚約中にあげたプレゼントなども返還してもらえるのでしょうか?
(1) 婚約指輪
まず,婚約指輪について見てみましょう。
婚約指輪についても結納の場合と似ていて,「婚約の成立」を示すという意味合いと「婚姻の成立」という目的があると言えます。そのため,婚姻に至らなかったのであれば、婚約指輪も返してもらえる可能性が高いと言うべきでしょう。
もっとも,婚約指輪を返してもらっても使い道はないことが多いでしょうし,換金しても大きく値下がりしてしまっているので,婚約指輪ではなく,婚約指輪を購入したときと同じ代金を請求することはできないのでしょうか?
これについては,婚約指輪を渡した際,もらった女性が婚姻をしないと思っていた場合でもない限り,購入代金の請求までは認められないと考えられます。つまり,婚約指輪そのものを返還すればよく,婚約指輪を購入した際の代金相当額までは請求できないことになります。
(2) 婚約中のプレゼント
次に,婚約中にあげたプレゼントについて見てみましょう。
婚約中に男性があげたプレゼントは,任意で行った贈与であるため,原則としてプレゼントの返還を請求することはできないでしょう。
しかしながら,裁判例においては,例外的に,プレゼントの返還を認めたものもあります。その裁判例では,このような婚約中の贈与は,将来自分の妻になる者になされるという特殊な契機を持つのであり,まったく返還を認めないのも可哀想だからということで,婚約解消の原因が女性の責められるべき事情にある場合や贈与された金品が,男性の地位・収入に比して不当に高価高額である場合,その物品を女性の手元に残しておくことが無意味である場合などにおいては,男性は女性に対して返還を請求することができるとしました。
このように何らかの特別な事情がある場合には,婚約中にあげたプレゼントについても返還が認められることがありそうです。
4 まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は結納や婚約指輪などの贈り物の返還が認められるのかということについてお話しさせて頂きました。
婚姻関係の解消について合意がある場合であれば,当事者間で条件を話し合う中で,結納の返還などについても決めていくことになるでしょう。その場合にあっては,なにも現物で返す必要はなく,金銭など別のもので清算することも可能です。この場合には,合意書などを作成しておき,婚姻解消後のトラブルを防ぐべきでしょう。
また,いろいろとお話ししたように,結納と婚約解消に関する問題は簡単に判断できるものではなく,婚約解消に至った経緯や,婚約中の生活の実態等を総合的に判断犯する必要がありますので,適切な解決を図るためには,専門的な法的知識だけでなく婚約に関する事件について豊富な経験が必要になるものです。そのため,お困りの際には婚約に関する事件について豊富な経験を持つ弁護士にご相談ください。
【離婚問題】妻が宗教にハマってしまった…。離婚ってできるの?
夫婦で宗教観が違うとしても,それだけでは裁判上の離婚事由にあたりません。日本においては信仰の自由が認められているため,夫婦であってもお互いの宗教観を尊重しなければならないのです。しかしながら,夫婦で信仰が異なるとやはり日常生活に支障を来たすこともあるかと思います。そこで,裁判所も一定の場合には「宗教」それ自体に問題があるのではないことは認めつつ,「家庭が崩壊していること」を問題として離婚ができることを認めています。今回は,どのような場合に離婚ができるかについてお話ししたいと思います。
1 宗教活動を理由に離婚できるのはどんなとき?
「宗教活動」を理由として離婚が認められるためには,それが「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)にあたる必要があります。ここで,確認しておきたいのは「宗教」それ自体を離婚事由としているわけではないということです。日本においては,信仰の自由が認められているため,特定の「宗教」を信仰することは何の問題もないのです。
しかし,「宗教」自体に問題がないとしても,夫婦は生活共同体であるから,いくらでも好きなだけ信仰していいというわけではありません。あくまで,「宗教活動」が夫婦の生活に重大な支障を及ぼさない程度,すなわち「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたらないものである必要があるのです。
「宗教活動」が「婚姻を継続し難い重大な事由」が認められるか否かは,宗教活動の程度,家庭生活への支障の程度,協力義務違反があるとまでいえるか,別居期間,子の年齢,精神的ギャップの大きさ,関係修復の困難性などから判断されることになります。
もっとも,実際にどんな場合に離婚が認められているかは具体例を見てみないとわからないと思います。ですので,今から離婚が認められた裁判例と離婚が認められなかった裁判例を3つほどご紹介したいと思います。
〈離婚が認められた事例①〉
夫の実家は,代々,神道を信仰しており,夫婦の家にも神棚がありました。しかし,妻は婚姻後,エホバの証人を信仰するようになり,神棚を夫の実家に返還するなどしたため,夫の実家との関係が悪化しました。そのような中,妻は未成熟の子供たちをエホバの証人に入信させ,夫の父の葬儀に出席しないなどの行動をとりました。このような諍いは10年余りに及んでおり,完全な別居期間も約2年間に達していました。
裁判所は,このような事情の下,今後,どちらか一方が共同生活維持のため,相手方のために譲歩するとことは期待できないとして,婚姻関係はもはや継続し難いまでに破綻しているものと認めるのが相当と判断し,離婚を認容しました。
〈離婚が認められた事例②〉
妻は婚姻後エホバの証人を信仰するようになりましたが,当初は週に1時間程度聖書の勉強会に参加する程度でした。しかし,その後熱心な信者となり,家事をないがしろにし始めた上,子供を集会に連れて行くようになりました。その頃,夫は妻に信仰を止めるよう説得しましたが,逆に妻は夫に対し入信を勧め,夫の反対を無視して子供たちを集会に連れて行き続けました。そのため,夫は妻に対して離婚と慰謝料の支払いを請求しました。
裁判所は,このような事情の下,夫婦間の婚姻関係は既に破綻していると判断しました。また,信仰の自由があることを認めつつも,夫婦の一方が自己の信仰の自由のみを強調し,相手の生活や気持ちを無視した結果,婚姻を継続し難い重大な事由があると認められる場合には,その者にも婚姻関係破綻の原因があるとする一方で,当事者双方が,それぞれ相手方の考え方や立場を無視して頑なな態度をとり,婚姻関係を円満に継続する努力を怠ったことが婚姻関係破綻の原因であると考えられるとしました。その結果,当事者双方の責任を認め,夫からの離婚請求を認める一方で慰謝料の支払いは否定しました。
〈離婚が認められなかった事例〉
妻は婚姻後エホバの証人を信仰するようになりましたが,夫との同居中の宗教活動は1週間に1時間の聖書の勉強会に出席する程度のものであり,日常の家事や子供の教育に支障はありませんでした。しかし,夫とその実家は創価学会を信仰しており,先祖崇拝を巡って対立が生じてしまいました。その後,二人は別居することになりましたが,別居からしばらくの間は双方が婚姻の継続を希望していたという事案です。
裁判所は,このような事情の下,夫が妻の信仰の自由を尊重する寛大さをもって,妻への理解を図る積極的な態度をとれば,婚姻関係を修復する余地があるとして,離婚を認めませんでした。
以上の裁判例を見てもらっても分かりますように,裁判所は「宗教」を問題としているわけではありません。あまりに熱心に「宗教」を信仰していることで夫婦生活に支障を来していることを問題としているのです。
2 宗教にハマった妻から慰謝料や親権をとることはできるの?
では,仮に離婚が認められたとして,慰謝料や子供の親権までも無条件に認められるのでしょうか?少しだけお話ししたいと思います。
(1) 慰謝料の話
慰謝料を請求するためには,「相手のせいで婚姻関係が破綻した」ということを主張する必要があります。そのため,単に相手が「宗教」にハマったというだけでは慰謝料請求は認められず,相手の「宗教活動」によって婚姻関係が破綻してしまったとまで言えないといけないのです。すなわち,相手の宗教活動があまりに熱心で家事などに支障を来し,夫婦生活を破綻させたような場合であれば,離婚だけでなく慰謝料請求も認められることになります。
(2) 親権の話
では,親権はどうでしょう?妻の宗教を信じていない側からすれば,できるだけ子どもを宗教から遠ざけ,引き取りたいと願うこともあるかもしれません。
しかし,妻が宗教にハマっていたとしても,虐待などの事情が認められなければ,宗教にハマっていることを不利益に評価することはありません。あくまで親権者の判断においては,子供を育てることへの意欲と能力,健康状況,経済的・精神的家庭環境,居住・教育環境,従前の監護状況,子に対する愛情の程度や子供の年齢・性別,子の希望などの事情を総合的に考慮することになるでしょう。
夫が,親権を勝ち取るためには,子供の養育実績を作ること,相手が虐待をしている証拠や子供を育てていないことの証拠を収集しておくことが大事になってきます。
3 まとめ
以上,「宗教活動」を理由とする離婚について見てきましたが,いかがでしたでしょうか?宗教活動を原因として裁判離婚が認められる場合と言うのは必ずしも多くはありません。そのため,宗教活動を理由として離婚するためには,出来れば協議離婚か調停離婚の段階で決着をつけることが望ましく,どうしても初動が大事になってきます。経験豊富な弁護士であればそういった場合でも適切なアドバイスをすることが可能ですので,一度経験豊富な弁護士に相談してみてください。
【慰謝料】姑のせいで婚約破棄…。慰謝料をとりたい!
婚約をしたもののどうも姑とうまくいかない…。そんな悩みをお持ちの方はいらっしゃいませんか?嫁姑問題は婚姻関係を結ぶ以上,ある程度は避けられないものかもしれませんが,出来ればお互い仲良くやっていきたいものです。今回は,どうしても姑との関係が上手く行かず婚約を解消させられてしまった場合についてお話しさせて頂きます。
1 姑のせいで婚約を破棄させられたら何か請求できるの?
では,婚約が有効に成立していたとして,姑のせいで婚約解消に至ったら何か請求できるのでしょうか?
婚約も法的に有効な契約です。そして,姑はその婚約という契約の存在を知っているため,当事者の一方に不当に働きかけたり,不当な干渉をして婚約解消を促したりした場合,姑も不法行為者として損害賠償責任を負うことがあります。すなわち,場合によっては,姑や舅も婚約を解消させられた女性に対してお金を払わないといけないことがあるのです。
2 どんなときに実際に慰謝料の支払いが認められるの?
では,いったいどんな事案であれば,慰謝料の支払いが認められることになるのでしょうか?実際に請求が認められた事例と認められなかった事例を紹介したいと思います。
〈慰謝料の支払いが認められた事案〉
◆事案①
女性は男性と婚姻するために勤務先を退職し,結婚式や新居の準備などを進め,男性も家具などについて注文していました。男性の母が婚約につき強硬に反対していたため,男性が挙式の1週間前に突然,仲人を通じて何の理由も示さないで,電話で婚約を破棄する旨を伝えたという事案において,裁判所は男性とその両親に対して約400万円の慰謝料の支払えと判断しました。なお,この事案においては,男性は優柔不断であって母親の反対が無ければ婚姻していたであろうという事情も認められています。この事案においては,婚約を解消した理由として「体型が劣等」などと主張しており,解消自体が信義に反するものであることを前提として,親の影響力が子供に対して強いことが考慮されています。
◆事案②
男性は,「両親が反対しても,結婚する」などと決意を明らかにし被差別部落の女性と婚約をしていました。しかし,男性の父は,被差別部落であることを聞くや一貫して婚姻に反対し,その反対の程度は,わざわざ男性を呼び戻し,男性の母とともに,考え直すよう強く説得し,さらに,別の機会にも同様に厳しく反対しており,これによって男性が女性との婚姻を重荷に感じるようにさせました。その後も,父親に会うにつれ,女性との接触を避けるようになっていきました。このような事案において,男性の両親が自分たちの意見を伝えるというレベルを超えて干渉しているとして,男性とその両親に500万円の慰謝料を支払えと判断しました。
〈慰謝料の支払いが認められなかった事案〉
男性の母親の結婚式の打ち合わせにおける言動,男性が母親の言いなりであったこと,男性の家の家風があまりに独特であったこと等から,女性は自分の両親と相談の上,婚約の解消を申し入れました。しかし,男性の熱意にほだされ一度は翻意しましたが,女性の両親が強く反対したため,女性が男性に対し,婚約の解消を申し入れた事案です。そこで,男性が婚約を破棄した女性及びその両親に対して慰謝料を請求したものですが,裁判所は慰謝料の支払いを認めませんでした。この事案では,親の反対に理由があること,女性の対応にも誠意があることなどが考慮されています。
婚姻というのは,家と家との結びつきという側面があるものの,大人同士であれば姑などの両親の同意が無くても可能なものです。そのため,姑に対して精神的損害に対する損害賠償義務が発生するのは,その動機が部落差別や民族差別といったものである場合や方法が嘘をついて唆したりするなど公序良俗に反し,著しく不当性を帯びている場合に限られます。すなわち,ただ両親に反対されたからであるとか姑と気が合わないからといったものでは認められないのです。
4 いくらくらいの慰謝料が認められるの?
もし仮に姑の行為が不法行為であるとした場合,いったいいくらくらいの慰謝料が認められるのでしょうか?裁判所は以下の事情などを考慮して慰謝料の額を決定していますので,一応確認しておきましょう。
・第三者の働きかけの内容
・婚約破棄に至るまでの期間
・性交渉の有無,程度
・お互いの年齢差
・被害者の年齢
・同居の有無,期間
・社会的地位や資産
・婚姻の準備の程度
・妊娠・出産の有無
・退職の有無
などを考慮して裁判所は,慰謝料の額を判断しております。そのため,姑のせいで離婚した場合の相場は明確に「これだ」というものはないですが,婚約破棄をした当事者よりも低くだいたい30万円~100万円といったところになると思います。もっとも,先程の事案のように400万円や500万円の慰謝料が認められたものもあり,事案によって大きく変動するところだと思います。
5 まとめ
いかがでしたでしょうか?婚姻というのは,上でも述べましたが,成人同士であれば姑などの両親の同意が無くても可能なものです。そのため,姑の行為が不法行為になるのは極めて限定的な場合に限られます。そうである以上,いくら姑が当事者同士の婚姻に関与してきているとしても姑に責任を追及するのではなく,婚約を破棄した者に対して責任を追及することを基本とすべきでしょう。
慰謝料の額は様々な事情を考慮して判断されますので,容易に「いくらくらい認められますよ」と言えるものではありません。また,慰謝料額の判断には,専門的知識だけでなく相場観という経験が無ければ,身につかないものも影響するため,その判断は非常に難しいものです。なお,婚約破棄に正当な理由がない場合であれば慰謝料に限らず,家具や衣類の代金,退職にあたって得られなかった利益などの損害賠償なども請求できる可能性があります。
お困りの方はぜひ同種事案について経験豊富な弁護士に相談するようにしてください。
【婚姻問題】婚約っていつ成立するの?プロポーズしないと婚約ではない?
「彼とはもう10年も付き合っているのに,全然プロポーズしてくれない…。本当に結婚する気あるのかしら?」
最近は,結婚に踏み切れない男性が多くなっているようです。こんな悩みをお持ちの方も多々いらっしゃることでしょう。今回は,こういったお悩みに関するお話をしていきたいと思います。
1 事例の紹介
私は,彼と付き合って10年になります。彼からのプロポーズはありませんが,7年前に,彼に対して「結婚してくれないなら付き合い続けるのは難しい。」と言ったところ,彼は「お前とずっと一緒にいたい。」と言ってくれたので,いずれ彼と結婚するんだろうなと思っていました。また,この話の後には,私の両親にも挨拶に来てくれました。それからも彼は,たまに将来のことを話していたので,結婚を前提に交際していると思っていました。
しかし,先日,彼から突然,好きな人ができたから別れたいと言われました。彼は,「お前との関係は,ちゃんとプロポーズもしていないんだから,婚約なんてしていない。だから慰謝料とか払う必要はない。」と言っています。
私は,彼に対して,婚約者として,法律的に何か請求することはできないでしょうか?
2 事例への回答
今回の相談者は,プロポーズをされていないため,彼の言うように婚約していないことになるのでしょうか?
(1) 婚約ってなあに?
婚約とは,将来婚姻をしようという当事者間の約束をいいます。つまり、日常的に用いている「婚約」と同じ意味と思っていただいて大丈夫です。
もっとも,婚約とは文字通り,結婚することの約束ですので,「婚約が成立しているかどうか」は「結婚の約束をしていたと言えるかどうか」を検討することとなります。したがって,プロポーズの有無だけでなく,婚約指輪の授受・婚姻式場の下見・両親への挨拶・結納式の実施等,様々な事情を総合して決定します。
(2) 本事例における婚約の成否
上でも述べたように,婚約は,将来婚姻をしようという当事者間の約束をいうため,そういった内容の合意があれば,プロポーズが無くても,婚約は成立します。
では,本事例で,そのような内容の合意が認められるでしょうか?
相談者は,彼氏からプロポーズを受けておらず,彼氏にはそもそも婚姻をする意思がないようにも思えます。
しかし,彼氏は相談者の「結婚してくれないと別れる。」との発言に対して,「ずっと一緒にいたい。」と答えており,結婚を前提の交際をして来たと言えそうです。そのうえ,相談者の両親にも挨拶に行ったうえ,継続的に将来の話までしていますので,婚約の成立が認められる余地もゼロではないと思われます。
しかし,「ずっと一緒にいたいと答えただけであって,結婚の約束などしていない。」「相談者の両親には挨拶をしたが,それは交際している彼氏として当然の行動であって,結婚とは関係がない。」「将来の話など付き合っていれば誰でもするでしょう。」と反論されれば,それも一理あります。
このように,婚約の成立は,極めて微妙な事実認定の上に成り立つものですので,100%婚約が成立していると言うためには,やはりプロポーズの事実が欲しいところです。また,「ずっと一緒にいたいという会話」「両親に挨拶へ行った際の会話」「将来の話」等は,現実的に立証が極めて困難であり,言った言わないの水掛け論になることが多いでしょう。
(3) 法的に請求できること
以上のとおり,婚約の成否は様々な事情を考慮して総合的に決めますが,話し合いで収まらない場合には,最終的に裁判で事実関係を立証する必要があります。そうなると,本事例では,ほとんど証拠がないかと思われます。
仮に各種事実が立証でき,婚約の成立が認定されたとすれば,その婚約を一方的に破棄した彼に対して,慰謝料を請求することも可能でしょう。
3 まとめ
以上のように,婚約の成否とは,極めて多数の事実関係を総合的に考慮し,それを立証する証拠を探し出す作業が必要となります。これは,過去の婚約に関する裁判例を把握しながら,裁判所がどのような証拠に基づいてどのような事実を認定し,どのような事実から婚約の成否を検討しているのかを把握していなくては,到底できない作業でしょう。(弁護士に相談をしても,弁護士によって判断が分かれるほど,微妙な事案も多数あります。)
また,場合によっては,婚約の解消に正当な理由があるのかが問題になることや,妊娠中絶についての費用分担,慰謝料の請求といった様々な法律問題が生じている可能性もあります。
そのため,正確な見通しを立てるには,多数の解決事例に基づいたノウハウが必要不可欠ですので,必ず経験豊富な専門家に相談するよう心掛けてください。
【婚姻問題】高校生で婚姻なんてお父さん許しません!婚姻に両親の同意はいるの?
婚姻は何歳になったらできるのでしょうか?高校生3年生の女の子は,婚姻してもいいのでしょうか?自分では大人と思っていても,両親にとって未成年の子供は,まだまだ大人とは思えないものです。今回は,未成年者の婚姻と両親の同意についてお話ししたいと思います。
1 何歳から結婚できるの?
まず,我が国では,何歳から婚姻することができるのか(婚姻可能な年齢のことを,婚姻適齢と言います。)についてお話ししたいと思います。
民法731条によれば,男性は18歳,女性は16歳から婚姻は可能であるとされています(この年齢に満たないで婚姻した場合,当事者やその親族,検察官は,その婚姻の取消しを請求することができます。)。
もっとも,未成年者(20歳未満)の婚姻については,お父さん,お母さん(親権者)の同意が必要であるとされていますので,未成年者であれば,婚姻が可能な年齢にあったとしても,お父さん,お母さんの同意が必要ということになります。
2 父母二人ともの同意がいるの?
では,お父さん,お母さん二人ともの同意が必要なのでしょうか?
結論としては,必要ありません。民法737条2項は,「父母の一方が同意しないときは,他の一方の同意だけで足りる」と規定しているので,仮に,お父さんが同意しなくてもお母さんが同意したのであれば,有効に婚姻が成立することになります。
そのため,タイトルのように頑なにお父さんが高校生の娘の婚姻に同意していなくても,お母さんが婚姻に同意すれば,娘の婚姻は認められることになります。よって,お父さんの願いは叶わず,娘はお父さんの意思とは無関係に結婚することができてしまうことになります。
3 婚姻適齢のあらまし
民法で現在の婚姻適齢が定められたのは,昭和22年のことです。昭和22年と言えば,終戦直後であり,当時の平均寿命は男性が約50歳,女性が約54歳という時代です。それから約70年が経ち,現在では男性が約81歳,女性が約87歳まで生きる時代となっています。確かに,昭和22年であれば,女性に16歳から婚姻を認めなければ,孫すら見ることができないですね。
そのような時代の背景がある中で,現在,法務省が2017年通常国会へ女性の婚姻適齢を16歳から18歳へ引き上げる改正案を提出予定としていました。これは,同じく法務省から提出される予定の成人年齢を20歳から18歳へ引き下げる改正案と足並みを揃え,18歳で成人し,18歳から婚姻可能とする制度設計に組み直そうという流れによるものです。結果として,種々の事情を踏まえて改正案の提出は見送られたものの,2021年には婚姻適齢を18歳に引き上げるべく,国としては動き出しております。
少し話は逸れますが,女性の婚姻適齢を18歳に引き上げた場合,何が起こるでしょうか?2015年に婚姻したカップル63万5000組の内,女性が16歳から17歳のカップルは1357組でした。そして,この大多数が妊娠・出産を理由に早期の婚姻に踏み切っているものと推測されます。だとすれば,今までは妊娠したからという理由で婚姻できた16歳17歳が婚姻できなくなるため,シングルマザーの人数が増える結果となります。そこで,日本としては,母子家庭に対する各種助成制度を充実させる必要性がより高まることでしょう。
4 まとめ
以上のように,お父さん・お母さんのどちらかだけでも同意してくれれば,未成年者の婚姻も可能になりますが,どうしてもお父さん・お母さんが二人とも同意してくれないということもあります。(やはり,お父さん・お母さんを含めた親族みんなが祝福してくれる結婚が一番幸せです。どちらか一方の同意があれば良いという法律論ではなく,まずは理解を得るという作業を最優先にしてください。)
【婚姻問題】婚約してたら強制的に婚姻できるの?
「プロポーズされたのに,全然婚姻してくれる気配がない…。本当に婚姻する気あるのかしら?」そんな悩みをお持ちではありませんか?法律事務所では,このような優柔不断な彼氏をお持ちで悩んでいる方もいらっしゃいます。今回は,婚約者と強制的に婚姻できるかというトピックについてお話ししたいと思います。
1 事例の紹介
Aさんは,長年付き合っていたBさんと婚姻しようと思い,平成21年12月25日にプロポーズしました。Bさんは,Aさんのプロポーズを喜んで受け入れました。幸せいっぱいの二人でしたが,Aさんは仕事が忙しいと言って,平成25年になっても婚姻する気配すらありません。Bさんは,プロポーズされて婚姻の約束をしていた以上,Aさんと強制的に婚姻することができるでしょうか?何か法律を使って解決することはできないのでしょうか?
2 事例への回答
(1) 婚約の成立
婚約とは「将来婚姻しようという合意」をいいます。本件では,AさんはBさんにプロポーズをしており,Bさんもそれを受けていることから,婚約は成立しているといえます。(なお,正確に婚約が成立しているかどうかは,プロポーズの有無だけでなく,婚約指輪の授受・婚姻式場の下見・両親への挨拶・結納式の実施等,様々な事情を総合して決定します。)
(2) 法律で何かを強制するためには・・・
まず,法律で何かを強制するためには,どんな手続きを踏まなくてはならないかという点からお話し致します。日本の法律では,債務名義(権利があると裁判所等が認めたもの。例えば判決など。)に基づいて,裁判所に強制執行を申し立てることで,強制的に権利を実現するという制度になっております。つまり,「婚約が成立しているのだから,強制的に婚姻させて欲しい。」と言うためには,裁判所で「婚約が成立しているから,婚姻する権利があります。」という判決をもらわなくてはなりません。そして,これを使って,強制執行を申し立てなくてはなりません。
(3) 履行強制の可否
それでは,Bさんは,裁判所の強制執行を使って「Aさんと婚姻する権利」を強制的に実現することができるでしょうか?これを実現するために考えられる強制執行の方法とは,①直接強制,②代替執行,③間接強制の3種類があります。
ア 直接強制について
直接強制とは,債務者の意思にかかわらず,国家機関が権利を直接,強制的に実現することをいいます。たとえば,不動産を差し押さえる場合などがこれにあたります。
しかし,この方法でAさんと婚姻することはできません。婚姻して夫婦としての共同生活を営むことは,Aさんにとって重要な人格的な問題であり,国家が勝手に婚姻届を記入する訳にはいかないからです。
イ 代替執行について
代替執行とは,第三者に債権の内容を実現させて,その費用を国家機関が債務者から取り立てることをいいます。たとえば,家賃も払わずに賃貸物件に住み続けている人がいる場合に,裁判所が引越業者に家財道具の撤去をさせ,その業者費用を賃借人に請求することなどがこれにあたります。
しかし,この方法も用いることができません。婚姻は,第三者によって代わりにすることができないからです。
ウ 間接強制について
間接強制とは,判決による決定事項が実現されるまでの間,裁判所が債務者に対して一定の金銭の支払義務を課すことによって,債務者を心理的に圧迫して,間接的に権利の実現を図るものをいいます。たとえば,不法占拠している人がいつまでも家を出ていかないときに,出ていかないなら毎日1万円ずつ支払えというように義務を課して,間接的に出ていかせるという目的を達成させることなどがこれにあたります。
残念ながらこの方法も用いることができません。婚姻とはお互いの意思が合致してこそ
意味があるのに,このような方法で結ばれても実体のある婚姻生活を送ることができないからです。
3 まとめ
以上のように,現在の日本の制度では,裁判所が「婚約が成立したこと」を認めたとしても,「婚姻を強制する」方法が用意されておりません。そのため,Bさんは婚約者であるAさんと強制的に婚姻することはできないのです。婚姻とは,相互に深い情愛のもと信頼と愛情を基礎として共同生活を営むことにその本質があることからすれば,致し方ないことかもしれませんね。
もっとも,家事事件手続法244条に基づいて,家庭裁判所に対し「婚約の履行を求める調停」を申し立てることができます。これは,婚約したにも関わらず,婚姻に至らない場合,裁判所の調停委員会を間に入れて話し合いを行うものです。このように,話し合いによって解決を試みる方法は用意されています。
結局,「婚約したにも関わらず,婚姻に至らない場合」には,「強制的に結婚する」のではなく,「婚約の約束を守ってくれないことを理由として慰謝料を請求する(そのような相手と結婚することは諦める)」という方法が最も現実的な選択肢となるでしょう。慰謝料を含め,どうすればいいか判断が難しいときなどには,専門家に相談してみてもいいかもしれません。
【婚姻問題】婚約をちゃんと解消できるのってどんなとき?
「私は,知人に紹介された男性と交際し,プロポーズを受け,お互いの家族にも賛成されたので,彼と婚約しました。そして,先月には結婚式を行い入籍する予定でした。しかし,彼は結婚式の10日前に行方不明になり,結婚式に来ませんでした。ですので,私の方から婚約の解消を申し入れました。しかし,彼は,今頃になってあらわれて『不安になったからちょっと一人になりたかった,婚約解消なんて認められない』と言っているのですが,婚約は解消できていないのですか?」婚約関係にある二人がその関係を解消するためには何か理由が必要なのでしょうか?今回は,婚約破棄と損害賠償についてお話ししたいと思います。
1 婚約の成否
まず,初めに婚約が成立しているかどうかを検討してみたいと思います。
婚約とは,将来婚姻をしようという当事者間の合意をいいます。つまり,私たちが日常的に用いている「婚約」と同じような意味であると言えるでしょう。
本件では,プロポーズの存在だけでなく,関係者もこれを知っており,結婚式も上げる予定だったのですから婚約が成立していると言えるでしょう(なお,婚約が成立しているかどうかは,プロポーズの有無に限らず,婚約指輪の授受・婚姻式場の下見・両親への挨拶・結納式の実施等,様々な事情を総合して決定します。)
2 婚約の解消ってできるの?
では,婚約を解消することはできるのでしょうか?
婚約は,当事者の合意がある場合だけでなく,一方の判断だけで解消することができます。また,当事者の一方が死亡してしまったら婚姻そのものが不可能になってしまうため当然に解消されます。そのため,婚約は,①当事者の一方が死亡した場合,②当事者が婚約解消の合意をした場合ならびに③当事者の一方が婚約解消の明示又は黙示の意思表示をした場合に解消されます。このなかで婚約解消が紛争に発展するのは,③当事者の一方が解消の意思表示をした場合のみです。では,これからどのような紛争が生じるのか見ていきたいと思います。
(1) 婚約の履行請求
婚姻は完全に自由な意思によってなされるべきですので,裁判所に「婚約の履行をせよ」と訴えを提起したとしても,現在の日本においては,裁判所が「婚約が成立したこと」を認めたとしても,「婚姻を強制する」ことはできません。そのため,裁判所の力を使って強制的に婚姻するということはできないのです。
もっとも,婚約したにも関わらず,婚姻に至らないときには,裁判所の調停委員会を間に入れて話し合いを行うという方法も考えられます。これは,「婚約の履行を求める調停」を家庭裁判所に対し,申し立てることによって可能となります。このように,話し合いによって解決を試みる方法は用意されてはいます。
しかしながら,一度婚約破棄となって,裁判所を間に入れて話し合いをしなくてはならないほどの関係になったのであれば,それは一生を添い遂げるパートナーにはなり得ないでしょう。「婚約したにも関わらず,婚姻に至らない場合」には,「強制的に結婚する」というのはあまり現実的な選択肢とはいえません。そのため,そのような相手とは婚姻するのではなく,「婚約の約束を守ってくれないことを理由として損害賠償を請求する」という方法が最も現実的な選択肢となりそうです。
(2) 損害賠償請求
上で述べたように,いくら婚約を当事者の一方の判断のみで解消できるとしても,婚姻のできなくなる相手側としてはたまりません。そこで,婚約を解消した場合,正当な理由のない限り,婚約という契約をちゃんと履行しなかったとして損害賠償責任を負うことになります。
そのため,婚約破棄の事案では,その婚約解消に正当な理由があるのかが問題になることになります。
婚約解消における正当理由の判断は,ほぼ離婚が認められる場合の「婚姻を継続しがたい重大な事由」の判断と重なりますが,離婚がそれまでの結婚生活の積み重ねを前提とするのに対して,婚約破棄はそれまでの生活の積み重なりが無いため,比較的離婚よりも認められやすい傾向があります。
裁判例において正当理由が認められたものとしては,婚約成立後の不貞行為,結婚式直前の家出,暴力や暴言(当事者のみならず家族に対する者も含まれます),性的不能の発覚,肉体関係の強要,相手の結婚式における社会常識を逸脱した言動,経済的状態の急変,婚姻生活を維持しえない程度の疾病などがあります。これらのように今後婚姻をすることが社会通念上困難な状態となることが認められれば,婚約を破棄する正当な理由があると認められる傾向にあります。
逆に,相性方位が悪い,年回りが悪い,家風に合わない等という理由は,もちろん正当理由にならないと判断される傾向にあるといえます。
3 まとめ
今回の相談のように,当事者の一方が結婚式に来ないということは,裁判所の判断基準からすれば,正当理由が認められる可能性が高いと思いますし,実際に男性が結婚式を不可能にした事案において,正当理由がないと判断した裁判例も見受けられます。しかし,正当理由が認められるか否かは,専門的判断が必要になるところですので,事案によっては専門家によっても結論が分かれる余地があります。もし正当理由が認められない場合であれば,損害賠償請求や結納の返還請求をすることも考えられます。
そのため,同種事案について経験豊富な弁護士に相談することをお勧めいたします。
【離婚問題】勝手に離婚届を出されそう…。何か対策はないの?
夫婦喧嘩の末,勢い余って離婚届に署名押印してしまったというケースは決して珍しいものではありません。その後,思いとどまって離婚したくない妻(夫)と,やはり離婚したい夫(妻)という構図が出来た場合,相手が勝手に離婚届を出してしまう恐れが生じてしまいます。このような場合,事前に離婚届を提出してほしくない当事者としては,何か対策をすることは出来ないのでしょうか?そこで,今回は,対策の一つとして存在する離婚届不受理申出制度についてお話しさせて頂きたいと思います。
1 不受理申出制度の意義
別に離婚届が提出されたとしても,すぐに訂正できるんじゃないの?と思っていませんか?お互いが離婚が無効であると納得していればまだしも,話はそんなに簡単じゃありません。
(1) 離婚届が提出された後に対応したらダメなの?
協議離婚は,夫婦が離婚に合意し,離婚届を市区町村長に届け出ることで成立します。もっとも,市区村長による審査は,実質的に離婚の意思を有していたかまで行うものではなく,あくまで形式的に判断されます。そのため,当事者の一方の意思を無視して提出された離婚届が受理されることもあるのです。
とはいえ,離婚をするには当事者に離婚をする意思が必要ですので,このような離婚届は本当は無効なはずです。しかし,一度離婚届を受理されてしまいますと,戸籍に離婚した旨が記載されてしまいます。そのため,これを抹消するには,離婚を無効とする確定判決などを得て,戸籍の訂正の申請をしなければなりません。しかも,戸籍の訂正をしたとしても不実の記載の痕跡が残ってしまうので,完全に離婚の記載を消すためにはさらに戸籍の再製を申し出る必要があります。
離婚届を提出されてしまいますと,このように煩雑な手続きを経なければならないうえ,下手をするとそもそも離婚を無効とする確定判決などを獲得するという最初の段階で躓いてしまうこともあります。例えば,夫婦喧嘩の際に離婚届を直筆で署名押印していた場合であれば,裁判所はほぼ離婚を無効だと判断してくれません。
そこで,離婚届が提出されることを防ぐことが離婚しないための一番有効な方法になるのです。
(2) 不受理申出制度ってなあに?
直筆で記載した離婚届がある場合,それを相手方から取り戻して破棄することが第一ですが,それが困難な場合も多いと思います。そのような場合,本人の意思に基づかない無効な届出の受理を防止する方策として,いわゆる不受理申出制度があります。この制度は,離婚届が勝手に提出されてしまう場合に備えて,仮に離婚届が提出されたとしても窓口で本人確認ができない場合は離婚届を受理しないように,あらかじめ本籍地の市区町村長に対して申し出る制度を言います。
離婚届不受理申出がなされた場合,市区町村長が,不受理申出者本人が出頭して離婚届を提出したことが確認できなければ,これを不受理とします。そして,不受理申出者に対して,離婚届が提出されたことを通知します。
このように,離婚届不受理申出をしていれば,離婚届が勝手に受理されることはなく,自分の知らないところで離婚が成立することを防ぐことが出来ます。なお,一度不受理申出がなされると取下げがなされない限り,無期限に有効です。
2 離婚届不受理申出の方法
この不受理申出は,申出人本人が市区町村の役場に出頭して行うことが原則となります。
ただ,申出は口頭で行うことは出来ず,書面で行わなければなりません。提出すべき書面は窓口に備え付けの不受理申出書がありますので,氏名,生年月日,住所,本籍等を記載して提出することになります。この際,市区町村長は,運転免許,パスポートなど顔写真付きの本人確認書類を窓口で提示する必要があり,本人確認ができない場合,申出は受理されません。
また,先程も申しましたように市区町村の役場に出頭して行うことが原則ではありますが,疾病その他やむを得ない事由により出頭できない場合,不受理申出をする旨を記載した公正証書又は私署証書に公証人の認証を受けた書面を郵送して送付することも可能です。
3 やっぱり離婚する気になったら?
以上のように,離婚届不受理申出をしていれば,勝手に離婚させられることはありませんが,やっぱり離婚をしようと考え直した場合にはどうすればいいのでしょうか?
この場合,いつでも不受理届を取り下げることが可能です。もっとも,取下げにあたっても口頭で行うことは出来ず,不受理届を申し出した人が署名押印した取下書を提出する必要があります。なお,取下書には所定の様式はありませんので,取下げの意思を明確に記載して提出すれば大丈夫です。
4 まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は,勝手に離婚届が提出されることを防止するための方法として離婚届不受理申出制度についてお話しさせて頂きました。
最初にも申しましたように,離婚届が提出されてしまうとこれを覆すためにはかなりの労力を要しますし、そもそも覆すことができない可能性が高いです。ですので,離婚届にサインしないことが何よりも大事ではありますが,サインしてしまった場合はすぐに離婚届不受理申出をするようにしましょう。
しかしながら,離婚届不受理申出が間に合わないこともあるかもしれません。このような場合は,相手方が調停で離婚が無効であることに応じない限り,裁判で決着をつけるほかありません。先程も申しましたように,離婚が無効であることの判決を勝ち取ることは容易ではありません。ただ,離婚事件について豊富なノウハウを有している弁護士であれば,それも可能かもしれません。
お悩みの際には,離婚事件について豊富なノウハウを有している弁護士にご相談してみてはいかがでしょうか?