【離婚問題】熟年離婚で損しないために知っておくべきコツ
「熟年離婚」をお考えの方はいらっしゃいますか?ケースとしては,長年不満を抱いていた妻が子供の自立をきっかけに離婚を決意するパターンが多いと言われています。しかし,夫に不満があるとしても,熟年離婚をしても幸せになれるのか気になるはずです。幸せな生活を送るために必要なものは人によって違うとは思いますが,経済的に安定した生活を送ることは共通の望みだと思います。そこで,今回は,財産分与、年金分割など生活費に関する知識について、基本に熟年離婚で損しないためのコツをまとめました。
1 お金で「損」しないコツ
それでは,お金で損しないためのコツについて見て行きましょう。財産分与,年金分割,慰謝料,婚姻費用という流れでご説明させて頂きたいと思います。
(1) 財産分与
財産分与とは,夫婦が婚姻期間中に協力して形成した財産を離婚に際して分与することを言います(民法768条、771条)。そのため,婚姻期間が長ければ形成した財産も通常多くなるため,熟年離婚では財産分与でもらえる財産も高額になる傾向にあります。
財産分与の対象になる財産について具体例を挙げますと,夫婦が共同して購入した不動産,自動車,一緒に生活していた住宅の家具など家財一式,現金,有価証券,借金などが名義にかかわらず,これにあたります。
熟年離婚における財産分与では,退職金が財産分与の対象になるかがよく問題になります。既に退職金が支払われていれば財産分与の対象になりますが,まだ未払いの場合ですと退職金の支払いが確実と言えないような場合では財産分与の対象にならないこともございますのでご注意ください。なお,退職金については全額が財産分与の対象になる訳ではなく,婚姻期間に応じて対象となる金額は変動します。
(2)年金分割
年金分割制度とは,離婚後に年金事務所に請求することにより,婚姻中の夫の年金保険納付記録の最大2分の1までを分割して妻が受け取れるという制度です。この制度を利用すれば,各家庭によりますが,月々3万円程度,年金受給額が増加することになります。この制度の利用率は,離婚件数の約1割にすぎませんが,熟年離婚では非常に有用な制度ですので絶対に覚えて下さい。
年金分割の仕組みは簡単にはご説明できませんので,ここでは省略しますが,お悩みの方は,弁護士や年金事務所に相談するようにしましょう。
(3)慰謝料
熟年離婚であっても精神的な苦痛を受けた場合,離婚した相手に対して慰謝料を請求することが出来ます。例えば,相手方の不倫,DV,モラハラなどがあれば慰謝料を請求することが出来るでしょう。なお,不倫が原因で離婚した場合は,不倫をした相手に対しても慰謝料を請求できます。
ただ,熟年離婚の原因として一番多いのは,「性格の不一致」と言われています。性格の不一致であれば,どちらに責任がある訳でもないので慰謝料を請求することは出来ませんのでご注意ください。
(4)婚姻費用
熟年離婚をした後の話ではありませんが,熟年離婚をするに際して別居することも多いと思います。離婚を前提に別居していても,いまだ婚姻関係にある以上,夫婦はお互いに助け合う義務がありますので,夫婦のうち経済力のある方がもう一方に対して生活費を支払う義務があります。これは婚姻費用と言います。
具体的な金額については当事者の話し合いで決めることになっていますが,それでもまとまらない場合は裁判所で調停,審判という手続きを行うことになります。これらの手続きにおいては,婚姻費用を算定する資料である婚姻費用算定表に基づいて話し合いが行われることになっています。
2 子供のことで「損」しないコツ
熟年離婚においては,子供は既に成人していることが多くあまり問題になりませんが,子供が,未成年であれば親権を確保したいと思われることでしょう。
親権者の判断は,親側の事情としては,監護に対する意欲と能力,健康状態,経済的,精神的家庭環境,従前の監護状況,子供に対する愛情の程度などを,子供側の事情としては,年齢,性別,兄弟姉妹の関係,心身の発育状況,従来の環境への適応状況,子供の希望などの要因を総合的に考慮して判断することになります。
また,熟年離婚においては子供の年齢も15歳を超えていることも多いと思います。この場合,裁判所は子供の陳述を聴かなければならないとされており,子供の意思が相当程度考慮されますので,日頃から子供と良好な関係を築くことが大事でしょう。
3 熟年離婚はどうやってすればいいの?
熟年離婚であっても手続きの流れは通常の離婚と同じく,以下の通りです。
まずは話し合いでの解決を試みましょう。話し合いがまとまった場合に離婚協議書を作成するようにしましょう。その中では,慰謝料や財産分与,年金分割,面会交流などについても決めておきましょう。また,可能であれば公正証書にしておくことをお勧め致します。公正証書は強制執行認諾文言を挿入することで,金銭的な給付については債務名義となり,裁判を経ずに強制的に金銭を回収(強制執行)することが可能となります。
もし、離婚自体や離婚の条件がまとまらない場合には,家庭裁判所に離婚調停を申立て,裁判所で話し合うことになります。なお,離婚については合意があるのですが,財産分与や親権者などの事項について合意が出来ていないような場合などでは,審判という手続きが用いられることになりますが,あまり使用されることはありません。
もし,調停でも話し合いがまとまらない場合には裁判をすることとなります。裁判をするには家庭裁判所に対して訴えを提起することになりますが,裁判で離婚する場合は民法770条1項各号の要件を満たす必要があります。例えば,「不貞行為」や暴行,浪費癖などによって「婚姻を継続し難い重大な事由」があると認められる場合には離婚ができることになります。そのため,離婚をするための要件を満たしているかを事前に検討しておくことが必要となってきます。
4 まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は,熟年離婚で損しないためのコツをご説明させて頂きました。熟年離婚をすると,良くも悪くも今まで長年にわたって過ごしてきたいつもの生活と全く異なる生活を送ることになります。熟年離婚した人の中には「こんなはずじゃなかったのに」と後悔している方もいらっしゃいます。熟年離婚をしても本当に幸せになれるかは,熟年離婚をしてみなければわからないものですが,熟年離婚の事件をも数多くこなしている弁護士であればある程度の見通しを立てることが可能です。
しかし,今回お話しさせて頂いたコツを使っていただければ,法律的な面で損をしてしまうことは防げます。もっとも,このコツを効率的に活用するためには,専門的な知識を有している人の手助けが必要になると思います。
そこで,熟年離婚をするかお悩みの方は、離婚事件に経験豊富な弁護士にご相談くださいませ。
【離婚問題】財産分与ってどんな財産を分けるの?
離婚をする際に財産を分けるみたいだけど,財産分与の対象となる財産ってどこからどこまでを言うの?婚姻前にコツコツ貯めた私名義の貯金は?婚姻してから購入した二人の家は?夫が将来もらう退職金は?財産を分けるにあたっては,どのようなものが分けるべき財産であるかを確定することが重要になってきます。財産分与の対象になる財産をちゃんと把握していなければ,後になって後悔してしまうこともあります。そこで,今回は,離婚する際にどんな財産を分けることになるのか,お話しさせて頂きたいと思います。
1 財産分与の対象財産ってどんなもの?
財産分与の対象になるのは,「婚姻期間中にその協力によって得た財産」です(民法768条3項)。もっとも,婚姻関係が継続していたとしても,別居後は夫婦が協力して得た財産とは言えないから,財産分与の対象となる財産は,原則として「別居時」を基準に確定されます。そのため,離婚前であっても,別居後に取得された財産については,財産分与の対象にはならないと考えられています。
そこで,夫婦が婚姻してから別居するまでの間に協力して築いた全ての財産が財産分与の対象になると考えられています。
例えば,婚姻前に自分で貯めていた貯金は,通常,財産分与の対象にならず,婚姻後に購入した不動産や自動車などは財産分与の対象になります。不動産や自動車の名義は夫婦いずれか一方の名義になっている場合が多いと思いますが,実質的に夫婦で築いた共有財産と判断できれば,名義を問わず財産分与の対象になります。なお,夫婦が保有する財産のうち,婚姻中に取得された財産は,共有財産であることが推定されます。
また,婚姻前に自分で貯めていた貯金であっても,婚姻後に夫婦が協力したことによって価値が維持されている場合や,価値が増加したしたことに夫婦の貢献が認められる場合には,貢献度の割合に応じて財産分与の対象とされる場合もあります。
2 財産ごとに具体的に見てみよう!
では,実際にどのような財産が財産分与の対象になり,又は財産分与の対象にならないのでしょうか?
(1) 財産分与の対象になる財産
財産分与の対象になるのは,先程も申しましたように,夫婦が婚姻してから別居するまでの間に協力して築いた全ての財産ですので,この期間に夫婦が協力して築き上げた財産のうち,以下のようなものが財産分与の対象になります。
ア 現金,預貯金
現金やへそくり,銀行に預けている預金は,財産分与の対象となります。
イ 不動産・車両
次に土地や建物といった不動産や自動車についても財産分与の対象となります。なお,先程も申しましたように,不動産・自動車の名義が離婚相手の名義になっていたとしても,財産分与の対象となります。
ウ 有価証券
株券や社債などの有価証券も,財産分与の対象になります。
エ 家具・家電
ベッドやタンス,テレビ,冷蔵庫などの家具・家電についても,財産分与の対象となります。
オ 年金
厚生年金,共済年金などの年金についても財産分与の対象となります。年金を分ける際には,年金分割制度というものがございますので,この制度を利用する必要があります。この制度の概略につきましては,年金事務所に問い合わせることをお勧め致します。
カ 退職金
退職金が既に支給されている場合であれば,財産分与の対象になると考えられています。実際にこれを認めた裁判例もございます。
問題になるのは,離婚時にいまだ退職金が支給されていない場合です。退職金は在職中の労働の対価という性格に鑑み,将来支払われるべきであろう退職金についても,勤務期間に占める婚姻期間の比率を乗じた額を財産分与として認めるべきという考え方が有力ではありますが,定説がある訳ではなく,個別具体的に判断されているのが実情です。
将来支給される予定の退職金がある場合には弁護士に相談することをお勧め致します。
(2) 借金は財産分与の際にどう取り扱うの?
借金であっても,場合によっては財産分与の対象になることがあります。では,例えば,夫がパチンコのために借金をしていた場合,その借金は,財産分与の対象になるのでしょうか。
夫婦の共同生活を営むために生じた借金であれば,財産分与の対象となりますが,専ら自分のために借り入れた個人的な借金は,財産分与において考慮されないと考えられています。パチンコのために借入をした借金は,通常,専ら自分のためになされたものでしょうから財産分与においては考慮する必要はないでしょう。
もっとも,実際は,夫婦のプラスの資産からマイナスの資産を差し引いてプラスの資産がマイナスの資産を上回る場合に,その合計のプラスの財産からマイナスの財産を差し引いた残額を分与するという処理がされるのが一般的です。
なお,住宅ローンが残っている不動産についてもそれだけで当該不動産が財産分与の対象にならない訳ではありませんので,お悩みの際は弁護士に相談するようにしましょう。
(3) 財産分与の対象とならないもの
一方で,財産分与の対象とならない代表的なものは以下の通りです。
・婚姻前に個人的に貯めていたお金
・婚姻時の嫁入り道具
・婚姻前,婚姻後を問わず相続した自分の親の財産
・洋服や靴など個人的な持ち物
・ギャンブルのためにした借金
3 まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は財産分与の対象にどんな財産がなるのかについてお話しさせて頂きました。財産分与の対象にどのような財産が含まれるかについては,住宅ローンが残っている場合や将来の退職金についてなど専門知識が無ければ到底対応できない複雑な問題がございます。また,当事者のみで取り決めをすると財産分与の対象財産に漏れがあったり,その計算方法を間違ってしまったりということもあります。また,住宅ローンが残っている場合,財産分与に伴ってローンの借り換えが必要な場合もありますので,金融機関の紹介ができる弁護士の方がスムーズでしょう。
そのため,これはどうするのだろう?と思うような財産がある場合や財産分与の対象となる財産が多い場合,離婚事件について経験豊富な弁護士に依頼することをお勧めします。
【離婚問題】財産を守るために嘘の離婚をしても有効なの?偽装離婚の有効性について
「事業に失敗して借金を作ってしまいました。妻の財産に借金の追及がされないように離婚できないでしょうか。」,「妻の財産に借金の追及がされないために離婚したのに,妻が再婚してくれません。あの離婚は無効のはずです。」こういったお悩みをお持ちの方はいらっしゃいませんか?今回は,本当は離婚したい訳ではないのに離婚した場合,その離婚は有効なのかお話ししたいと思います。
1 離婚ってどんなときに無効になるの?
協議離婚が有効になるためには,「離婚の意思」が必要とされています。協議離婚は,離婚届が役場で受理された時点で成立するので,「離婚の意思」もその届出をした時点で必要とされています。
そして,この「離婚の意思」とは,離婚の届出をする意思を言いますので,届出の際に届出の意思さえあれば,それが便宜上のものであっても離婚は有効と判断されることになると考えられています。
2 離婚が有効とされた具体例
では,実際に離婚が裁判所において有効と判断された具体例を見て行きましょう。注意していただきたいのは,あくまでここでお話しさせて頂くのは「離婚」自体の有効性の話であることです。「離婚」自体は有効であると判断されても,その他の法令によって罰則を受けることもありますのでご注意ください。
(1) 強制執行や債権者の追及を逃れるための離婚
まず,強制執行を免れるために,債務整理の解決までということで協議離婚をした場合や債権者の追及を免れ,家産を維持するための方便として協議離婚をした場合も離婚は有効と判断されています。
このように強制執行や債権者の追及を免れるための離婚をする目的は,妻に責任追及が及ばないためや自分の財産を隠すためといったものが多いように感じます。しかし,夫の借金のために妻に責任追及がなされることは事実上あるかもしれませんが,法的に有効なものではありませんので気にする必要はありません。
また,債権者の手から自分の財産を守るため,つまり,今ある財産を債権者ではなく妻に財産分与として与えることは,財産の隠匿行為として自己破産の場合に免責を受けることが出来なくなってしまったり,「詐欺破産罪」とされて「10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金」という非常に重い罰則を受けてしまうこともあります。
(2) 生活保護の受給を受けるための離婚
次に,生活保護費の支給を受ける手段として協議離婚をした場合であっても,裁判所はその協議離婚を有効と判断しています。
これは相当意外で,一見すると裁判所が不正受給を助長しているように思えるかもしれません。しかし,これは先程も申しましたように,あくまで「離婚」それ自体の有効性についてのみの結果です。
このように生活保護費を受給しようとしての「離婚」自体は有効なのですが,偽装離婚をして生活保護費の支給を受けた場合、公正証書原本不実記載罪として「5年以下の懲役また50万以下の罰金」に処せられることになる可能性がありますので注意して下さい。
もしかすると,偽装離婚をしたとしても発覚しなければ大丈夫でしょ?と考えている人もいらっしゃるかもしれません。しかし,偽装離婚を早期に発見する役割を担っているケースワーカー達が,生活保護を受けている方のお宅を突如訪問し,生活の状況をチェックします。一般にその回数は,1ヶ月~数か月に1回ということが多いようですが,不正受給が疑われる場合,頻繁に視察が行われることになるでしょう。また,ご近所からの通報等もありますので,嘘を隠し通すことは難しいでしょう。
3 離婚が無効とされた具体例
離婚意思がないと判断された例としては,①離婚届への署名を拒否した妻に対し,夫が茶碗等を手当たり次第投げつけるなどの乱暴な振舞いをしたので,妻がその場を収拾するためやむなく離婚届に署名・押印したところ,夫がそれを役場に提出し,受理されてしまった場合,②妻が離婚に同意せず「そんなもの自分で書けばいいんじゃないの」と口走って離婚届の署名押印を拒んだところ,夫が他人に妻の氏名を代書させた離婚届が受理された場合があります。
また,③夫が,離婚届作成時点では一旦離婚を承諾して署名押印したのですが,その後まもなく市職員に対し離婚届が提出された場合には止めるよう依頼しました。しかし,妻が作成から約6か月後に離婚届を提出したのでそれを知ってすぐ裁判所等に相談に行くなどをした場合でも,離婚を無効としています。
これらのように離婚届の提出時点で夫婦二人のいずれかに離婚意思がないときであれば,離婚は無効ということになるのです。
4 まとめ
いかがでしたでしょうか?借金で生活が苦しいであるとか,妻に迷惑がかかるのではないか,ということと離婚をすべきか否かということは別の問題です。
離婚したくて離婚する場合であればいいのですが,離婚はしたくないけど離婚した方がいいと思って離婚しようと思っている場合は,一度弁護士に相談して下さい。そもそも離婚が有効とは限りませんし,他の法律によって刑罰が科される可能性もあります。それに,同種の事案に経験豊富な弁護士に相談すれば、それまで全く気付いていなかったアドバイスを受けることもあるかもしれません。
【離婚問題】財産分与に税金ってかかるの?
離婚の際に問題になってくるのが財産分与です。財産分与を考えるときに,あまり気にしていないことかも知れませんが,財産分与にも税金がかかってくることがあります。そこで,今回は,財産分与のときに問題になってくる税金について簡単にご説明させて頂きます。
1 財産を受け取る側
まずは,財産を受け取る側にかかる税金について,贈与税,不動産取得税を中心にご説明させて頂きます。
(1)贈与税について
贈与税は,贈与により無償で財産を取得した場合に,財産を取得した人に課税されます。
しかし,財産分与は,夫婦の財産関係の清算や離婚後の生活保障のための財産分与請求権に基づき給付を受けるものと考えられるため,財産分与が行われた場合,原則として贈与税は発生しません。
もっとも,①その額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額やその他全ての事情を考慮してもなお多すぎる場合,その多すぎる部分に対して,贈与税が課税されます。例えば,本来財産分与すべき金銭が1億円,その分与の割合が夫:妻で5:5にも関わらず,夫が2,000万円,妻が8,000万円の財産分与を行った場合,妻が受け取った8,000万円の財産のうち3,000万円は「多すぎ」ますので,この部分について贈与税が課税されることになります。
また,②離婚が贈与税や相続税を免れるために行われたと認められる場合,離婚によって受けた財産全てに対して,財産をもらった側に贈与税が課税されますので,注意が必要です。
(2)不動産取得税について-不動産の場合
しかし,何も財産分与は金銭だけにされるものではありません。そこで,次に,不動産取得税についてご説明させて頂きたいと思います。
先程も申しましたように,財産分与は,夫婦の財産関係の清算や離婚後の生活保障のための財産分与請求権に基づき給付を受けるものと考えられるため,原則として不動産取得税も課税されません。
なお,不動産取得税ではありませんが,不動産の分与を受けた場合,別途,固定資産税や所有権移転登記の際の登録免許税がかかりますので注意が必要です。ちなみに,通常,固定資産税は「固定資産評価額×1.4%(標準税率)」,登録免許税は「固定資産評価額」を基準に適切な税率を乗じたものについて課税されることになります。
2 財産を渡す側
財産分与に際し,金銭で分与した場合,財産を渡す側は課税されませんが,土地や家屋などの不動産,株式のような金銭以外の財産を分与した場合,譲渡所得税が課税される可能性があります。そこで,どのような場合に譲渡所得税が課税されるのか見て行きたいと思います。
(1) どのような場合に譲渡所得税が課税されるの?
財産を渡した側は,金銭以外の財産を譲渡したことにより,所得税法33条1項にいう「資産の譲渡」をしたことに該当するため,譲渡所得税が発生することになります。
課税対象となる譲渡所得の金額は,土地や建物を売った金額から不動産の購入代金などの取得費,仲介手数料など土地を売るための費用である譲渡費用(以下,この二つをまとめて取得価額と言います。)を差し引いて算出することになりますが,財産分与としての資産の譲渡があった場合,分与財産が時価で譲渡されたものとして算出されることになります。したがって,時価と取得価額の間に値上がりの利益があるときには,その利益について譲渡所得税が課税されることになるのです。つまり,資産が取得時より値下がりした場合には課税されず,値上がりした場合には課税されることになります。
ただし,夫婦の一方の単独名義で取得した財産を他方に分与する場合,同財産が実質的に見て夫婦の共有財産であるとき,他方の共有持分の部分のみを財産分与によって譲り受けることになりますので,注意が必要です。例えば,夫名義の不動産であっても,夫婦が共働きであり,2分の1の割合で共有持分を持っているとしたら,課税対象になる譲渡所得は、同不動産の時価の2分の1を基礎に算出されることになります。
もっとも,譲渡所得税の計算は,長期譲渡所得か短期譲渡所得によって計算方法が異なりますので,それぞれの計算方法をご紹介致します。
(2) 譲渡取得税の計算はどうやってするの?
譲渡をした年の1月1日において,所有期間が5年以上の場合の所得を「長期譲渡所得」,5年未満の場合の所得を「短期譲渡所得」と言います。
そして,所有期間が5年を超える長期譲渡所得の場合,所得税15%(復興税加算後15.315%),住民税5%,短期譲渡所得の場合,所得税30%(復興税加算後30.63%),住民税9%になります。譲渡所得の計算は,短期長期とも共通で,譲渡収入の金額から取得価額(取得費+譲渡費用)を差し引いた金額を基礎にして行います。
これをまとめると,
分与財産の時価(自己の持分を超える部分) - 取得価額(取得費 + 譲渡費用) × 税率 = 税額
となります。
例えば,共働きの夫婦において,不動産を婚姻中の平成10年5月1日に2,000万円で取得し,夫名義としていました。平成16年4月1日,その不動産を離婚に際し,財産分与しました。この時の不動産の時価は5,000万円でした。
この場合,譲渡をした平成16年1月1日の時点で既に5年を経過していますので,長期譲渡所得ということになります。そして,夫婦の持分の割合はともに2分の1ですので,財産分与を受けた不動産の価額のうち自分の持分を超える部分は2,500万円分となります。取得価額が2,000万円ですので,これを差し引いた残りの500万円について,長期所得の税率(所得税15%(復興税加算後15.315%),住民税5%)を掛けることになるのです。
よって,取得税として76万5750円、住民税として25万円が課税されることになります。
(3) 節税方法はないの?
もっとも,財産を渡す側にかかる譲渡所得税も,①居住用財産の譲渡所得の特別控除が適用される場合,②居住用財産の長期譲渡所得の軽減税率の特例が適用される場合,③配偶者控除が適用される場合などには支払うべき税金を少なく抑えることが可能です。
ア ①特別控除(租税特別措置法35条)
財産分与として居住用財産を譲渡した場合,3,000万円の特別控除を受けることが出来ますので,財産分与の対象財産が居住用財産の場合,分与財産の時価 - 取得価額(取得費 + 譲渡費用)から,さらに3,000万円の特別控除を差し引くことが出来ることになります。すなわち,居住用財産であれば,3,000万円以上値上がりしていなければ税金はかからないことになります。
もっとも,この特例は,夫婦間の譲渡の場合には認められませんので,特例の適用を受けるためには,離婚をした後で財産分与を行う必要があります。
イ ②長期譲渡所得税についての軽減税率の特例(租税特別措置法31条の3)
さらに,①に加えて譲渡した年の1月1日において所有期間が10年間を超える居住用財産を分与した場合,税率が軽減されます。具体的には,通常の長期譲渡取得の場合,所得税15%,住民税5%の税率であったのが,分与財産の時価 - 取得価額(取得費 + 譲渡費用)が6,000万円以下の部分については,所得税率が10%(復興税加算後10.21%),住民税率が4%となります。6,000万円を超える部分については,通常の長期譲渡所得の税率と同じです。
ウ ③配偶者控除
20年以上婚姻関係を続けている夫婦間で居住用財産を譲り渡す場合,基礎控除110万円に加えて最高2000万円分(最高で合計2110万円)は税金がかかりません。
3 まとめ
いかがでしたでしょうか?財産分与の際には様々な税金が関連してくるので,事前に知っておくと損せずに済むと思います。
もっとも,税金分野はかなり細かな規定がされておりますので,弁護士であっても,必ずしも精通しているものではなく,一般の方がいざ問題に直面してそれを体系的に理解することはどうしても困難だと思います。また,離婚に伴う問題は税金だけではありません。
そこで,離婚に伴う財産分与を考えるにあたっては,税金だけでなく,離婚についても詳しい「税理士の資格を持った弁護士」にご相談することをお勧め致します。
【親子問題】子供の教材を妻がいっぱい買ってくる…。そんなときにも夫はお金を払わないといけないの?
「私と妻は,結婚して10年になり,子供が一人います。私の月収はだいたい30万円程度です。妻は,いわゆる教育ママで子供のためと思えば,いくらでも高価な教材を購入してしまいます。2か月前にも業者から20万円もする高額な英会話教材をローンで購入していました。もっとも,子供の教材については妻自身がパートで働いたお金を使っていたので何も言っていませんでした。しかし,妻がパートをやめてしまい,自分のお金で払えなくなると,私に対して業者から英会話教材の代金を請求されるようになりました。私は,夫として請求に応じなければならないのでしょうか?」
今回は,妻が勝手に購入したものについて夫も責任を負うのかということについてお話ししたいと思います。
1 妻の債務を夫も払わないといけないのか?
そもそも英会話教材を購入したのは妻であって,夫は何も関与していないのですから,それぞれの責任で支払うべきとも考えもありえそうです。つまり、夫が支払う必要はなく、妻が払うべきだ、ともいえそうです。
しかしながら,法律は,夫婦の共同性を重視して,婚姻共同生活のための行為(以下、日常家事といいます。)から生じた債務については夫婦に連帯責任を負わせてもよい,と考えています。
そこで、法は、妻が日常家事に関する契約を結ぶ場合,夫も連帯して責任を負うことになると規定したのです。そのため,妻が勝手に契約したとしても日常家事に関するものであれば、夫の債務でもあるといえ,妻が代金を支払わない場合には夫が代わりに代金を支払わなければならないのです。
2 日常家事ってどんなもの?
では,夫が妻の代わりに代金を支払わなければならない日常家事に関するものと認められるのはどんな行為になるのでしょう。
日常家事とは、「未成熟子を含む夫婦が日常の家庭生活を営む上で通常必要とされる一切の事項」をいうとされています。そして、その行為が日常家事にあたるかの判断にあたっては,①夫婦の社会的地位や職業,資産,収入などの内部事情,②法律行為の種類・性質などの客観的要素が考慮されます。
これだけだとわかりにくいと思いますので少し具体的な話をしてみたいと思います。たとえば,どんな家庭であっても、ディスカウントストアでの家族の食料、家具などの日用品,生活に必要な医療,娯楽・交際,教育などにかかる費用は必要だと思います。そのため、これらの費用はどんな家庭であっても日常家事にあたるといっていいでしょう。
しかし、家具を購入することがすべて日常家事に含まれるわけではありません。年収300万円くらいの家庭の妻が北欧製の家具が好みだとして、夫に無断で北欧製の家具を500万円で購入した場合はどうでしょう?直感的にもこれは日常家事ではないと感じると思います(逆に年収が1億円ある家庭で日頃も数百万円の家具を買っているような家庭ならこれも日常家事といえることもあると思います。)。
3 相談への回答
さて,これまでの話を踏まえて、今回の相談についてはどのように回答すべきでしょうか?
裁判所においても、妻が子の教材を購入したという事案について判断が分かれていますので、実際の裁判例を見てみたいと思います。
・月収約30万円,土地建物を所有している家庭がローンで18万9,000円の学習教材を購入した行為について日常家事の範囲内であると認定しました。
・300万円の借金がある家庭がクレジットで約72万5000円の学習教材を購入した行為について日常家事の範囲外であると認定しました。なお、この事案においては、子の夫婦の教育熱はそれほどのものではなかったこと、学習教材の販売員による熱心な勧誘により買わざるを得なかったことなども認定されています。
こういった裁判所の判断を踏まえると,今回の相談の場合は,相談者の月収が約30万円であり,購入した学習教材も約20万円ということですから,おそらく日常家事の範囲にあると認められることになりそうです。
4 まとめ
上でも見てきたように、日常家事にあたるかどうかは,事案によって異なり,その家庭がお金持ちであるとか教育費にお金をかける家庭であるとかそういった事情も踏まえて判断されることになります。そのため,同種の事案を経験している弁護士でなければ,的確な判断が難しいことがありますので,同種事案について経験豊富な弁護士にご依頼するようにしてください。
【離婚問題】別居中の妻から子供を取り戻したい!子供と一緒に暮らすために
別居にあたって妻が子供を連れて別居した場合,夫はただ傍観するしかないのでしょうか。そんなことはありません,すぐに対応することで子供と暮らすことができるようになるかもしれません。今回は,妻が子供を連れて別居したケースにおいて,子供と暮らすためにはどのような方法が考えられるか,どんなときに認められるかについてお話し致します。
1 どんな方法をとればいいの?
まず,忘れてならないのは,別居していたとしても離婚するまでは,子供の親権者であり監護権者(簡単に言うと世話をする人です。)は妻と夫のいずれでもなく,どちらともが親権者であるということです。そのため,民法上,親権者や監護権者を指定するのは離婚の時とされています(民法766条)。
もっとも,離婚前であっても監護権者を父母どちらかに指定することは可能です。これが監護権者指定の調停及び審判です。この手続きを経ていなければ,仮に子供を取り戻したとしても相手に取り戻されてしまうおそれがあります。
また,監護権者として指定された場合であっても,子供の引渡しを求めるのは別手続になります。そのため,監護権者指定の調停や審判を申し立てる際は,子の引渡の調停や審判も同時に申し立てることになります。そして,さらに急いで子供を取り戻したい場合であれば,審判前の保全処分を申し立てることになります。
以上が子供を取り戻すための方法になります。まとめておくと,妻が子供を連れて別居した場合,夫としてはすぐに監護権者指定及び子の引き渡し審判申立書及び審判前の保全処分を申し立てることになるでしょう。ちなみに,早く子供を取り戻そうとするのが普通ななか,月1回程度のペースで話し合いを行うのは現実的ではないので,通常,調停を申し立てることはありません。
2 どうやって判断するの?
では,実際に監護権者指定及び子の引き渡し審判及び審判前の保全処分を申し立てたとした場合,どのような事情を考慮してどちらが子供を育てるかを判断するのでしょうか。これらの申立ての判断基準は同じと考えられていますので,一括して検討したいと思います。
子の監護者指定・引渡しなど子の監護に関する処分については,「子の利益」「子の福祉」が判断基準となります。子の監護者指定・子の引渡しの判断は,当事者双方のいずれが監護者として適格かの比較衡量によって決せられます。それでは,考慮要素を確認してみましょう。
〈父母側の事情〉
監護能力,監護態勢,監護の実績(継続性),(同居時の)主たる監護者,子供との情緒的結びつき,愛情,就労状況,経済力,心身の健康,性格,生活態度,直接子に対してなされたか否かを問わず暴力や虐待の存否,居住環境,保育あるいは教育環境,親族等監護補助者による援助の有無,監護補助者に任せきりにしていないか,監護開始の違法性の有無,面会交流についての許容性など
〈子供の側の事情〉
年齢,性別,心身の発育状況,従来の養育環境への適応状況,監護環境の継続性,環境の変化への適応性,子供の意思,父母及び親族との情緒的結びつき,兄弟との関係など
以上のような様々な事情を考慮して子供をどちらが育てるべきかを比較して判断することになりますが,このなかでもとりわけ重要視されるものとして「監護環境の継続性」があります。この視点は次にお話しする子連れ別居のときにも妥当するので心に留めておいてください。
3 じゃあ妻が子供を連れて出て行った場合に違法となる余地はあるの?
さて,それでは妻が子供を連れて別居したケースでは,どういう判断がされることになるのでしょうか?
まず,確認しておきたいのは,父親の同意なく子供を連れて別居したとしても,必ずしも違法と判断されるわけではないということです。妻による子供の監護が違法とされるためには,子の年齢,意向,連れ出すにあたっての具体的経緯や態様を総合的に考慮して判断することになります。
よって,実際に子連れ別居が違法と判断されるか否かは個別の事案を見たうえでさらに様々な事情を総合的に判断して検討することになるでしょう。そして,妻が嫌がる子供に対して暴力をふるいながら連れ去った場合など違法な連れ去りと評価され得るときであれば、違法に連れ去った妻の監護状況を「監護環境の継続性」として考慮せず,また監護者としての適格性を疑わせる事情として考慮することが出来ます。
ただ,違法な連れ去りであると評価された場合であっても必ず夫が監護者になれるわけではありません。その他の事情を考慮した結果,連れ去った妻のもとで監護すべきであると判断されることもあり得るため,注意して下さい。
4 まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は子連れ別居の場合に子供を取り戻すことができるかについてお話しさせて頂きました。裁判所は上でも述べましたが,「監護環境の継続性」を重視しています。そのため,このような子連れ別居の際には、子連れ別居が違法と判断されるか適法とされるかということだけではなく,一日でも早く対応をすることが何よりも大事になります。また,すぐに対応しようとしても法律の専門家ではない場合や専門家であっても十分なノウハウのない弁護士であれば迅速に対応することができません。
よって,お困りの場合は一日でも早く経験豊富な弁護士に相談するようにしてください。
【離婚問題】子供ができない…。こんなときに離婚ってできるの?
婚姻するにあたって「子供は2人がいい」とか「子供の学費はどうしよう」とか将来のことを考える時間は幸せなものであったはずです。しかし、現実はそう甘くはなく、思ったように子作りが進まないということもあると思います。国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査(平成27年)によると、不妊を心配したことがある夫婦は35%、3組に1組の割合です。治療や検査を受けた夫婦は18.2%にもなります。また、高度な不妊治療である体外受精で生まれる子どもの数も、日本産科婦人科学会のまとめでは、平成26年は過去最高の4万7,322人になり、日本で生まれた子どもの21人に1人にあたります。
以前は,「不妊の場合は離婚も当然」とされている時代もあったようですが、現代では不妊治療の進歩も目覚ましく,そういった風潮は,もはや過去のものといってもいいのかもしれません。しかし、現代でも不妊を理由として離婚したいと考える人が少なくないのは事実です。今回は、皆さんにとっても身近な問題である不妊と離婚についてお話ししたいと思います。
1 不妊で離婚できるの?
離婚をしようとする場合には,協議離婚(当事者間での話し合いをいい,一般的な離婚のイメージだと思います。),調停離婚(裁判所を入れて当事者間で話し合いをします。),判決離婚(裁判所に離婚できるかを決めてもらうものを言います)などの方法が考えられます。
「子供がほしい」と強く思っている場合,不妊は婚姻生活を営んでいくうえで大事な問題になるということは仕方ないことかもしれません。そのため,協議離婚,調停離婚などのように当事者間で話し合うことによって離婚することの合意ができれば、離婚することは可能ということになります。
2 当事者間で話がまとまらないと離婚できないの?
しかし,お互いの間でどうしても離婚の合意ができず,判決離婚,すなわち裁判所から判決をもらって強制的に離婚することもできるのでしょうか?
まず、法律がどのような離婚原因を示しているか確認しておきたいと思います。
民法770条(裁判上の離婚)
1 夫婦の一方は,次に掲げる場合に限り,離婚の訴えを提起することができる。
① 不貞行為
② 悪意の遺棄
③ 3年以上の生死不明
④ 回復の見込みのない強度の精神病
⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由
不妊が①~④にあたらないことは明白だと思いますので、不妊症であることが,⑤「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するとすれば,離婚請求が認められることになります。それでは、不妊症は「婚姻を継続しがたい重大な事由」とまでいえるのでしょうか?
しかしながら,妻が不妊症であり,子供ができないという理由だけでは「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当しないと判断される可能性が高く,離婚することは難しいと思います。不妊症であることは本人に何の落ち度もないうえ、不妊治療は日々進歩しており夫婦が協力し合えば出産できる可能性もある以上、「婚姻を継続し難い」とはいえないからです。
離婚ができるといえるには,不妊症で子供ができないことに加えて,それを理由として暴言・暴力をふるうなど夫婦関係が極端に悪化してしまって,もはや正常な夫婦関係を回復することがどうしても不可能な場合に限られるというべきでしょう。
3 仮に離婚となったら不妊治療費はだれが払うの?
不妊治療にかかる費用というのは決して安くはありません。100万円から200万円が平均と言われるほど大きな金額になります。残念ながら離婚することになったとしても、不妊治療にかかった費用はだれが負担することになるのでしょうか。上でも述べましたが,不妊だけを理由として離婚することはできないと考えられますので,夫婦が離婚自体には合意している場合を前提として費用の分担についてお話ししたいと思います。
妻の不妊治療にかかった治療費等は,「婚姻から生ずる費用」にあたり、半分ずつ負担する、ということになると考えられます。
ここで、「婚姻から生ずる費用」といってもご存じでないのが当然と思いますのでご説明いたしますと、法律上、夫婦は,その資産,収入その他一切の事情を考慮して,「婚姻から生ずる費用」を分担しなければならないと規定されています。この「婚姻から生ずる費用」のことを婚姻費用と呼んでいます。この婚姻費用には,夫婦間の未成熟子の生活費,衣食住費,医療費などが含まれるとされています。たとえば,妻が百貨店で食材を買うことや洋服を買うことなどが典型的な行為といえます。
もっとも,あくまでこれは法律的な意見ですので,お互いに話し合って治療費の分配などをしてもらっても大丈夫ですし、こちらの方が気持ちよくまとまるかもしれません。
4 まとめ
まず夫婦でよく話し合うことが何よりも大事です。じっくりと話し合って,夫婦にとって最良の選択をすることが一番望ましいと思います。
しかし,どうしても話がまとまらず,離婚しかないという結論になってしまった場合には,弁護士に相談することも選択肢としてあります。弁護士に相談する場合であっても,家庭の事情はさまざまであり,判断が難しい場面もあるかと思います。そのため,離婚関係の事案について経験豊富な弁護士に相談することをお勧めいたします。
【離婚問題】過去の養育費って請求できるの?
離婚して私一人で子どもを養ってきたのですが,生活が厳しく,養育費を請求したい…。この場合,今後の養育費だけでなく,離婚してから今までの支払われていない養育費までまとめて請求することはできるのでしょうか?今回は,離婚から今までの過去の養育費を支払ってもらえるのか,支払ってもらえるとしたらどのような方法で請求すればいいのかなど離婚から今までの支払ってもらっていない養育費についてお話ししたいと思います。
1 いつの時点から養育費を請求できるの?
養育費の支払いは,「子供を監護していない親」が「子供を監護している親」に対して行わなくてはならないものです。養育費とは,子供を育てるためのお金ですので,実際に育てている側がもらうものであり,どちらが親権者かとは別問題ですので,気を付けましょう。また,離婚前における子供を育てるお金は,婚姻費用として支払われますので,養育費という問題が発生するのは,あくまで離婚が成立した後の話になります。
養育費の額,支払い方法は,事前に夫婦の話し合いで決めることが出来ます。このように話し合いで決めた場合,夫婦双方が署名押印した書面を残しておくことをお勧め致します。
もっとも,養育費の額,支払い方法について話し合いの際に合意をしていたか否かでいつから養育費を請求するかが変わってきますので,それぞれ合意があるか否か分けて説明させて頂きたいと思います。
(1) 養育費の額,支払い方法について合意がある場合
養育費の額,支払い方法について合意が成立している場合であれば,請求をしていなくても合意で定めた時点まで遡って請求できるのが一般的です。例えば,話し合いの中で「離婚のときから月5万円の養育費を支払う」との合意をしたとすれば,離婚のときから今までの分の養育費を請求することが出来るケースが多いでしょう。
もっとも,養育費の額,支払い方法について合意がある場合,定期給付債権として5年間の消滅時効にかかると考えられます。そのため,5年以上前の養育費については請求することが出来ない場合もありますので,養育費の支払いが滞った場合にはすぐに請求するようにしましょう。
(2) 養育費の額,支払い方法について合意がない場合
これに対して,養育費の額,支払い方法について合意がない場合における養育費の支払開始時期について,審判例は別れており,①養育費を請求した時点を基準とするという考え方と②子供が扶養してもらうべき状態にあり,扶養すべき親が扶養することが出来る経済的余力を持っているのであれば,その時点で養育費を支払うべきとしつつ,過去に遡ることで多額の負担を命じるのが公平に反する場合,相当の範囲に限定するという考え方が対立しています。
では,裁判所はどのような運用になっているのでしょうか。一般論でしかありませんが,①の考え方に従って,養育費を請求した時点(通常は養育費分担の調停又は審判の申立てのとき)から支払義務を認めることが多く,養育費の請求ができるにも関わらず,請求していなかった期間については支払義務を認めない場合が多いようです。
もっとも,この考え方はあくまで養育費を請求した時点を基準としますから,養育費分担の調停又は審判の申立て時に限られる訳ではありません。申立て以前に内容証明で養育費を請求するなど養育費請求の意思を明確にしていれば,その時点を基準として請求することが可能です。ただし,いつ養育費をちゃんと請求したのか,後に客観的に証明できなくてはなりませんので,口頭で請求するだけというのは絶対に止めておきましょう。
2 過去の養育費は,どうやって請求すればいいの?
では,過去の養育費を請求するにはどのような方法をとればいいのでしょう。
(1) まずは文書で請求してみよう
まず,子供のもう一人の親に対して内容証明郵便で養育費を請求してみましょう。注意してほしいのは,電話で養育費を請求しないということです。電話で請求した場合,本当に養育費を請求したのかを証明することが出来ず,結局,言った,言わないという水掛け論になってしまうからです。また,単なる手紙でも請求したことを後に証明できません。「いつ・どのような内容の請求書を送ったのか」を証明するためには,内容証明郵便でなくては不可能ですから,やはり内容証明郵便で請求するようにしましょう。
もし,この請求で養育費を支払ってくれるという合意ができたとしても,後の紛争を予防するため,必ず「月額いくらの養育費をいつからいつまで支払うのか」が記載された合意書を作成しておくようにしましょう。
(2) 請求してもダメなら調停を申立てよう
内容証明を使って養育費を支払ってほしいと請求しても支払ってもらえない場合,養育費分担の調停又は審判を申立てることになります。調停を申し立てるにあたっては,話し合いがまとまらなかったことを見越して,法的に整理した主張をすることが求められます。そのため,養育費分担の調停又は審判を申し立てるにあたっては,弁護士に依頼することをお勧め致します。
3 まとめ
いかがでしたでしょうか?養育費なんて必要ないと思っていても,いざ養育費が必要になった時に以前の分まで請求することは容易ではありません。そのため,一人で子供を育てることになる場合,必ず養育費について話し合いの場を設け,養育費の額,支払い方法について決めるようにしましょう。その際,公正役場に行って,「約束を守らない場合は強制執行をしても構いません。」という文言をつけた公正証書を作成していれば,養育費の支払い確保も可能になりますので,ぜひ活用しましょう。
また,養育費は親のお金ではありません。養育費は,子供が育っていくために必要なお金ですので,仮に養育費なしの生活が可能だとしても,養育費を払ってもらうことが感情的に嫌だとしても,払ってもらうようにしましょう。このお金があるかないかで,将来のお子様の人生設計に影響が出るかもしれません。
もっとも,どのように請求すればいいのか,請求するとしてどれくらい請求できるのか,具体的にいつの時点まで請求できるのかについては専門的知識が無ければ判断が難しいと思います。また,経験豊富な弁護士に相談していれば,相談段階から審判まで見越した進行をしてくれるはずです。
そのため,養育費を請求するにあたっては,すぐに経験豊富な弁護士に相談に行くようにしましょう。
【離婚問題】どんなときに裁判で離婚ってできるの?離婚原因あれこれ
相手方がどうしても離婚に応じてくれない場合,裁判によって離婚をすることになります。しかし,裁判によって離婚するためには,法律に定める離婚原因(民法第770条)がある必要があります。今回は,どういった場合に離婚が認められると法律が定めているかについてお話ししたいと思います。
1 法律の定める離婚原因
離婚をしようとする場合には,協議離婚(当事者間での話し合いをいい,一般的な離婚のイメージだと思います。),調停離婚(裁判所が間に介入して当事者間で話し合いをします。),判決離婚(裁判所に離婚できるかを決めてもらうものです。)などの方法をとることになります(審判離婚という方法もありますが,実際に使われることはほぼないので省略します。)。
協議や調停といった話し合いで「離婚しよう」という合意ができるのであれば,どんな理由でも離婚することができます。たとえば,お互いの性格が気に食わないでも,夫の足がくさいでも,妻のいびきがうるさいでも離婚ができるのです。
そのため,お互いの話し合いがどうしてもまとまらず,話し合いでは離婚ができないけど,どうしても離婚したいという場合に,やっと裁判によって離婚をできないかということが検討されることになります。このように裁判で判決を得ようという場合は,離婚を望まない当事者に対して,離婚を強制することになるのですから,その夫婦に「離婚を命じられても仕方ない。」といった事情がある場合に限って離婚を命じることができるようになっています。
それでは,実際に法律がどのような離婚原因を定めているか見てみましょう。
民法770条(裁判上の離婚)
1 夫婦の一方は,次に掲げる場合に限り,離婚の訴えを提起することができる。
① 不貞行為
② 悪意の遺棄
③ 3年以上の生死不明
④ 回復の見込みのない強度の精神病
⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由
法はこれらの場合に,裁判によって離婚することができるとしていますが,これだけだと分かりにくいと思いますので,個別に説明していきたいと思います。
2 具体的な離婚原因について
(1) ①不貞行為について
不貞行為とは,配偶者以外の異性と性的関係を持つことをいいます。日常的な言葉でいうところの不倫,浮気をいいます。これについては説明するまでもありませんよね。浮気したら離婚しないといけないということを定めたものということができます。
(2) ②悪意の遺棄について
続いて,悪意の遺棄について見てみたいと思います。
悪意の遺棄とは,正当な理由なく同居・協力・扶助義務を履行しないことをいいます。夫婦であれば,互いに助け合わなくてはなりませんが,夫が生活費すら払わずに,専業主婦の妻を置いて家を出ること等がこれに当たる可能性があります。結局は,相手が生活できない状況に追い込むことを指すので,互いの職業や収入,健康状態等,様々な事情を考慮して,悪意の遺棄に該当するか否かを検討することになります。
逆に,浮気を繰り返す夫を反省させるため,妻が家を一時出たとしても,夫は働いていて妻に支えられなくても自分で生活できますので,悪意の遺棄には当たらないでしょう。
最近では,あまり悪意の遺棄が原因で離婚がされることは少ないと言われています。
(3) ③3年以上の生死不明について
生死不明というのは,その生死が3年以上不明であるような客観状況が継続する場合をいいます。どこにいるかが分からなくとも生きていることがわかっている場合は,「生死不明」ではなく「行方不明」にあたります。そのため,例えば,大津波や飛行機の墜落事故などによって生死が不明になった場合などが該当します。昭和30年代までの戦地からの未帰還者に関する事案が多く,最近の公表例はみられません。
相手方が生死不明であるので,調停を前置することなく,公示送達によって離婚訴訟が提起されることになります。なお,生死が7年以上不明であれば,失踪宣告制度を用いることで配偶者の財産を相続することができます。
(4) ④回復の見込みのない強度の精神病について
対象となる精神病には,統合失調症,躁うつ病などの高度の精神病が該当すると判断される傾向がある反面,アルコール中毒,モルヒネ中毒,ヒステリー,神経衰弱症,認知症などは,ここにいう精神病に該当しない傾向にあります。もっとも,回復の見込みのない強度の精神病に該当しなくても,後述の⑤婚姻を継続し難い重大な事由に該当する可能性はあります。
また,回復の見込みについては,精神科医の鑑定を前提として,裁判所の裁量で判断するものとされています。
もっとも,裁判所は,精神病にり患した配偶者にも配慮して,不治の精神病にかかったことだけで離婚ができるとはしておらず,精神病にり患した配偶者の今後の生活問題を解決するための具体的な方法を講じて,ある程度の見込みが立つことを要求しています(最判昭和45年11月24日)。たとえば,治療費をずっと払っていた実績があるうえで,これからの治療費についても可能な限り支払うと約束している場合等はこれにあたり得ます。
よって,配偶者が精神病になってしまったからといってすぐに離婚が認められるということ訳ではなく,その上で配偶者の今後の生活の目途がついた場合に限って離婚ができるという事例が多いでしょう。
(5) ⑤婚姻を継続し難い重大な事由について
上で述べた①~④に該当しなくても,婚姻関係が深刻に破綻し,共同生活をすることができない場合には,離婚が認められることになります。これを「婚姻を継続し難い重大な事由」といいます。この「婚姻を継続し難い重大な事由」として主張されるものとしては,長期間の別居,性格の不一致,重大な病気への罹患,配偶者の宗教活動があまりに盛んであること,配偶者からの暴力・重大な侮辱,配偶者が働かないこと,浪費癖,借金,犯罪を行ったこと等多種多様な事情があります。そのため,離婚訴訟では大抵,この「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当することが主張され,実務上最も多い離婚原因となります。
なお,婚姻を継続し難い重大な事由の有無の判断は,以下の事情などを総合的に考慮し,最終的に夫婦関係をやり直す余地があるかどうかという観点で判断されます。
<考慮要素>
・婚姻期間
・別居あるいは家庭内別居の有無とその期間の長さ
・会話や交流の有無
・性的関係の有無
・口論・けんかの有無と程度
・双方の意思・感情
・修復の意思や行動の有無
・未成熟子の有無
・子らとの関係
・子の離婚についての意見
・訴訟態度
・不和となった原因
以上のとおり,様々な要素の総合的判断となるため,同じ事実関係であっても担当する裁判官や弁護士によっても評価が分かれ,離婚できるかどうかの結論も異なり得る問題です。ですので,正確な見通しを立てるためには,離婚事件について多数取り扱っている専門の弁護士に相談されることをお勧めいたします。
3 まとめ
以上でみてきたように,離婚の原因には様々なものがありますが,具体的事案においてこれらに該当するか否かについては,法的な判断が要求されるものも多くあり,適切な解決を図るためには,弁護士に依頼することが最善策となります。まずは,一度,経験豊富な弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
【離婚問題】どうやったら離婚できるの?(1)-離婚の仕方あれこれ
厚生労働省が発表した平成28年の人口動態統計の年間推計によれば,同年の離婚件数は,217, 000件にのぼるとの見通しがでています。これは婚姻した夫婦の約1/3が離婚していることになります。このように離婚はすでに身近な問題になっているといえます。
もっとも,離婚といっても実はいくつかの方法があり,どのような手続きが必要かご存じではないという方も多くいらっしゃると思いますので,今回は,離婚の種類とそれぞれの具体的な特徴についてみてみたいと思います。
1 離婚にはどんな方法があるの?
まずは,離婚の方法としてどんなものがあるかについてお話ししますね。離婚には,①協議離婚,②調停離婚,③審判離婚,④裁判離婚の4種類があります。以下では,それぞれの離婚について特徴を説明していきたいと思います。
2 ①協議離婚について
協議離婚とは,裁判所が介入することなく,当事者同士で話し合って離婚するかどうか,条件をどうするのかについて決定して離婚届を役所へ提出するものをいいます。離婚する夫婦の約90%がこの協議離婚をしています。
協議離婚においては,全てが夫婦の話し合いに委ねられているので,離婚に至る理由等は関係なく,財産分与や慰謝料,養育費等についても柔軟な取り決めが可能です。そのため,協議離婚では,夫のいびきがうるさいとか妻の寝相が悪いとか,そういった後述の裁判離婚では認められないような理由でも離婚することができます。
もっとも,条件については,文書に残しておかないと後々相手方から,「そんな約束はしていない。」等と言われて離婚後にもめることにもなりかねません。ようやく離婚できたのに,また相手方と連絡をとらないといけないという事態は相当なストレスでしょう。また,もめていないケースであっても,単純に条件面について双方の認識に齟齬が生じないようにするために,離婚協議書(離婚時の様々な取り決めを記載しておく文書)は作っておくべきでしょう。特に,養育費や慰謝料の支払い等の取り決めに関しては,相手方がその支払いの約束を守らなかったときに強制執行ができるよう,必ず公正証書にしておきましょう。
以上のように,協議離婚を行うに当たっては,当事者間で離婚の合意をし,離婚届を役所に提出するだけでよく,裁判所は全く関与しません。そのため,協議離婚は最も簡易かつ低コストに離婚できる方法と言えます。しかし,逆に言えば,当事者の合意で自由に取り決めができるため,離婚の条件として取り決めた内容が専門家からみれば適正とは言えない内容であったり,取り決めておくべきことについて取り決めがなされていなかったり,取り決めたけれども取り決めの仕方が不十分であったりといったリスクを抱えています。
そのため,離婚するか否かについて揉めているケースはもちろんですが,離婚すること自体に争いがないケースであっても,条件面が適正か否かについて,一度,専門家の弁護士に相談されることをお勧めします。
3 ②調停離婚について
では,協議離婚がどうしてもできない場合にはどうすればいいでしょうか?
このように夫婦間で話し合っても離婚について合意が得られない場合や離婚自体は合意できても諸条件について合意が得られなかった場合には,家庭裁判所での話し合いの手続である調停を,家庭裁判所に対して申し立てることになります。
調停においては,調停委員という第三者を仲介役にして話し合いを進めることになりますので,協議離婚と比べれば,感情的にならずに冷静に話し合いができるというメリットがあります。また,調停がまとまった場合は,判決同様の法的効果を持つ文書(調停調書)を作成することになるので,裁判所の関与の下きちんとした取り決めをすることができます。もっとも,調停は1カ月に1回程度のペースでしか進まず,1回の調停も2時間程度しか時間がとれないため,協議離婚に比べて解決までに時間がかかってしまう傾向があります。また,調停調書に記載できる内容や形式に制限があることから,協議離婚の場合に比べて柔軟な取り決めをすることは難しくなります。
なお,調停は,調停委員の関与の下,裁判所で行われますが,あくまで話し合いですので,協議離婚と同様,合意が整わなければ離婚はできません。また,調停委員は,必ずしも弁護士や裁判官等の法律の専門家ではありませんし,あくまで中立的な立場ですので,離婚についての想いや条件面について自分の立場を代弁してくれる存在ではありません。ですので,ご自身の想いをしっかりと相手方に伝えるため,調停で協議を進めている離婚条件が適正か否かを判断するため,弁護士を代理人として同行させることをお勧めします。
4 ③審判離婚について
調停が不成立に終わってしまった場合,通常は④裁判離婚の手続に移行するのですが,お互い離婚自体については合意してはいるのに,養育費などの付随的な内容に若干の意見の相違があるだけで,わざわざ裁判まで行うことは現実的ではないでしょう。そこで,離婚については合意しているけども,その他の諸条件で若干揉めている場合には,裁判所が離婚とそれに関する条件を審判という形式で一方的に判断し,離婚を認める場合があります。これを審判離婚といいます。たとえば,離婚をすること自体には互いに納得しているものの,養育費が月額3万円か,3万5000円かで揉めている場合,それを決めるために1年間くらいかかる裁判を行うことは当事者のためにもなりません。そこで,裁判所が職権で,養育費額を決定し,審判で離婚を命じることになります。
この審判に対しては夫婦双方,審判が告知された日から2週間異議を申し立てることができ,異議が出された場合,審判は効力を失うことになるため,実際上利用されることは極めて稀です(離婚全体の約0.1%程度になります。)。
5 ④裁判離婚について
調停が不成立になった場合でも,どうしても離婚したいときには,訴訟を提起して離婚を求めていくことになります。このように,裁判で離婚することを「裁判離婚」と言います。なお,最終的に和解で終結するか,判決で終結するかによって,「和解離婚」「判決離婚」と呼ばれることもあります。
訴訟の提起にあたっては,家庭裁判所に訴状という離婚を求める旨とその原因を記載した書面を提出することになります。裁判までなると,離婚原因があるか否か,各種請求が法的に認められるか否か,法律論の戦いになりますので,さすがに当事者が自分で進めることは極めて難しいでしょうから,弁護士に依頼した方がいいでしょう。
裁判離婚においては,離婚が認められるか否かを裁判官が判断するため,民法上の離婚原因が認められるか否かが最大の問題となります。そのため,夫のいびきがうるさいとか妻の寝相が悪いとかそういった理由では離婚をすることは極めて難しくなってしまいます。
もっとも,今までお話ししてきました協議離婚などとは異なり,,裁判所が法律上の離婚原因があると判断した場合には,たとえどちらかがどんなに離婚を望んでいなくても離婚が認められることになるという利点があります。では,どういった場合に,離婚が認められるのでしょうか,法律上の離婚原因について簡単にご説明しておきます。
法律上の離婚原因には,①不貞行為,②悪意の遺棄,③三年以上の生死不明,④強度の精神病に罹り回復の見込みがないこと,⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があることの5つがあります。やはり多く主張されるのは,浮気,DV等ですが,性格の不一致,高度のアルツハイマー,過度な宗教活動等の理由を離婚原因として主張する場合もあります。
なお,どんな場合に離婚できるかは事案によっても異なってきますし,真実そのような事情があったとしても,証拠をもって立証し,裁判官にその事実の存在を認めさせなければ勝訴判決は獲得できません。どのような事実をどの証拠でどのように主張立証していくかについては,法的判断を伴う専門的作業ですので,専門家である弁護士に依頼されることをお勧めします。
6 まとめ
日本の法制度上は,協議離婚,調停離婚,審判離婚,裁判離婚のいずれの手続きについても,本人のみで行うことができるとされています。しかし,上記に述べたとおり,いずれの手続きについても,法律的な知識がどうしても不可欠になってきますので,離婚手続きに不安を抱かれている方は,離婚について詳しい弁護士に相談・依頼されることをお勧めします。