弁護士コラム

2017.08.12

【慰謝料】姑のせいで婚約破棄…。慰謝料をとりたい!

婚約をしたもののどうも姑とうまくいかない…。そんな悩みをお持ちの方はいらっしゃいませんか?嫁姑問題は婚姻関係を結ぶ以上,ある程度は避けられないものかもしれませんが,出来ればお互い仲良くやっていきたいものです。今回は,どうしても姑との関係が上手く行かず婚約を解消させられてしまった場合についてお話しさせて頂きます。

1 姑のせいで婚約を破棄させられたら何か請求できるの?

 では,婚約が有効に成立していたとして,姑のせいで婚約解消に至ったら何か請求できるのでしょうか?
 婚約も法的に有効な契約です。そして,姑はその婚約という契約の存在を知っているため,当事者の一方に不当に働きかけたり,不当な干渉をして婚約解消を促したりした場合,姑も不法行為者として損害賠償責任を負うことがあります。すなわち,場合によっては,姑や舅も婚約を解消させられた女性に対してお金を払わないといけないことがあるのです。

2 どんなときに実際に慰謝料の支払いが認められるの?

 では,いったいどんな事案であれば,慰謝料の支払いが認められることになるのでしょうか?実際に請求が認められた事例と認められなかった事例を紹介したいと思います。

〈慰謝料の支払いが認められた事案〉

◆事案①
女性は男性と婚姻するために勤務先を退職し,結婚式や新居の準備などを進め,男性も家具などについて注文していました。男性の母が婚約につき強硬に反対していたため,男性が挙式の1週間前に突然,仲人を通じて何の理由も示さないで,電話で婚約を破棄する旨を伝えたという事案において,裁判所は男性とその両親に対して約400万円の慰謝料の支払えと判断しました。なお,この事案においては,男性は優柔不断であって母親の反対が無ければ婚姻していたであろうという事情も認められています。この事案においては,婚約を解消した理由として「体型が劣等」などと主張しており,解消自体が信義に反するものであることを前提として,親の影響力が子供に対して強いことが考慮されています。

◆事案②
男性は,「両親が反対しても,結婚する」などと決意を明らかにし被差別部落の女性と婚約をしていました。しかし,男性の父は,被差別部落であることを聞くや一貫して婚姻に反対し,その反対の程度は,わざわざ男性を呼び戻し,男性の母とともに,考え直すよう強く説得し,さらに,別の機会にも同様に厳しく反対しており,これによって男性が女性との婚姻を重荷に感じるようにさせました。その後も,父親に会うにつれ,女性との接触を避けるようになっていきました。このような事案において,男性の両親が自分たちの意見を伝えるというレベルを超えて干渉しているとして,男性とその両親に500万円の慰謝料を支払えと判断しました。

〈慰謝料の支払いが認められなかった事案〉

男性の母親の結婚式の打ち合わせにおける言動,男性が母親の言いなりであったこと,男性の家の家風があまりに独特であったこと等から,女性は自分の両親と相談の上,婚約の解消を申し入れました。しかし,男性の熱意にほだされ一度は翻意しましたが,女性の両親が強く反対したため,女性が男性に対し,婚約の解消を申し入れた事案です。そこで,男性が婚約を破棄した女性及びその両親に対して慰謝料を請求したものですが,裁判所は慰謝料の支払いを認めませんでした。この事案では,親の反対に理由があること,女性の対応にも誠意があることなどが考慮されています。

 婚姻というのは,家と家との結びつきという側面があるものの,大人同士であれば姑などの両親の同意が無くても可能なものです。そのため,姑に対して精神的損害に対する損害賠償義務が発生するのは,その動機が部落差別や民族差別といったものである場合や方法が嘘をついて唆したりするなど公序良俗に反し,著しく不当性を帯びている場合に限られます。すなわち,ただ両親に反対されたからであるとか姑と気が合わないからといったものでは認められないのです。

4 いくらくらいの慰謝料が認められるの?

 もし仮に姑の行為が不法行為であるとした場合,いったいいくらくらいの慰謝料が認められるのでしょうか?裁判所は以下の事情などを考慮して慰謝料の額を決定していますので,一応確認しておきましょう。

・第三者の働きかけの内容
・婚約破棄に至るまでの期間
・性交渉の有無,程度
・お互いの年齢差
・被害者の年齢
・同居の有無,期間
・社会的地位や資産
・婚姻の準備の程度
・妊娠・出産の有無
・退職の有無

 などを考慮して裁判所は,慰謝料の額を判断しております。そのため,姑のせいで離婚した場合の相場は明確に「これだ」というものはないですが,婚約破棄をした当事者よりも低くだいたい30万円~100万円といったところになると思います。もっとも,先程の事案のように400万円や500万円の慰謝料が認められたものもあり,事案によって大きく変動するところだと思います。

5 まとめ

 いかがでしたでしょうか?婚姻というのは,上でも述べましたが,成人同士であれば姑などの両親の同意が無くても可能なものです。そのため,姑の行為が不法行為になるのは極めて限定的な場合に限られます。そうである以上,いくら姑が当事者同士の婚姻に関与してきているとしても姑に責任を追及するのではなく,婚約を破棄した者に対して責任を追及することを基本とすべきでしょう。
 慰謝料の額は様々な事情を考慮して判断されますので,容易に「いくらくらい認められますよ」と言えるものではありません。また,慰謝料額の判断には,専門的知識だけでなく相場観という経験が無ければ,身につかないものも影響するため,その判断は非常に難しいものです。なお,婚約破棄に正当な理由がない場合であれば慰謝料に限らず,家具や衣類の代金,退職にあたって得られなかった利益などの損害賠償なども請求できる可能性があります。
 お困りの方はぜひ同種事案について経験豊富な弁護士に相談するようにしてください。

2017.08.11

【婚姻問題】婚約っていつ成立するの?プロポーズしないと婚約ではない?

「彼とはもう10年も付き合っているのに,全然プロポーズしてくれない…。本当に結婚する気あるのかしら?」
最近は,結婚に踏み切れない男性が多くなっているようです。こんな悩みをお持ちの方も多々いらっしゃることでしょう。今回は,こういったお悩みに関するお話をしていきたいと思います。

1 事例の紹介

 私は,彼と付き合って10年になります。彼からのプロポーズはありませんが,7年前に,彼に対して「結婚してくれないなら付き合い続けるのは難しい。」と言ったところ,彼は「お前とずっと一緒にいたい。」と言ってくれたので,いずれ彼と結婚するんだろうなと思っていました。また,この話の後には,私の両親にも挨拶に来てくれました。それからも彼は,たまに将来のことを話していたので,結婚を前提に交際していると思っていました。
 しかし,先日,彼から突然,好きな人ができたから別れたいと言われました。彼は,「お前との関係は,ちゃんとプロポーズもしていないんだから,婚約なんてしていない。だから慰謝料とか払う必要はない。」と言っています。
私は,彼に対して,婚約者として,法律的に何か請求することはできないでしょうか?

2 事例への回答

 今回の相談者は,プロポーズをされていないため,彼の言うように婚約していないことになるのでしょうか?

(1) 婚約ってなあに?

婚約とは,将来婚姻をしようという当事者間の約束をいいます。つまり、日常的に用いている「婚約」と同じ意味と思っていただいて大丈夫です。
 もっとも,婚約とは文字通り,結婚することの約束ですので,「婚約が成立しているかどうか」は「結婚の約束をしていたと言えるかどうか」を検討することとなります。したがって,プロポーズの有無だけでなく,婚約指輪の授受・婚姻式場の下見・両親への挨拶・結納式の実施等,様々な事情を総合して決定します。

(2) 本事例における婚約の成否

 上でも述べたように,婚約は,将来婚姻をしようという当事者間の約束をいうため,そういった内容の合意があれば,プロポーズが無くても,婚約は成立します。
 では,本事例で,そのような内容の合意が認められるでしょうか?
相談者は,彼氏からプロポーズを受けておらず,彼氏にはそもそも婚姻をする意思がないようにも思えます。
しかし,彼氏は相談者の「結婚してくれないと別れる。」との発言に対して,「ずっと一緒にいたい。」と答えており,結婚を前提の交際をして来たと言えそうです。そのうえ,相談者の両親にも挨拶に行ったうえ,継続的に将来の話までしていますので,婚約の成立が認められる余地もゼロではないと思われます。
しかし,「ずっと一緒にいたいと答えただけであって,結婚の約束などしていない。」「相談者の両親には挨拶をしたが,それは交際している彼氏として当然の行動であって,結婚とは関係がない。」「将来の話など付き合っていれば誰でもするでしょう。」と反論されれば,それも一理あります。
このように,婚約の成立は,極めて微妙な事実認定の上に成り立つものですので,100%婚約が成立していると言うためには,やはりプロポーズの事実が欲しいところです。また,「ずっと一緒にいたいという会話」「両親に挨拶へ行った際の会話」「将来の話」等は,現実的に立証が極めて困難であり,言った言わないの水掛け論になることが多いでしょう。

(3) 法的に請求できること

 以上のとおり,婚約の成否は様々な事情を考慮して総合的に決めますが,話し合いで収まらない場合には,最終的に裁判で事実関係を立証する必要があります。そうなると,本事例では,ほとんど証拠がないかと思われます。
 仮に各種事実が立証でき,婚約の成立が認定されたとすれば,その婚約を一方的に破棄した彼に対して,慰謝料を請求することも可能でしょう。

3 まとめ

 以上のように,婚約の成否とは,極めて多数の事実関係を総合的に考慮し,それを立証する証拠を探し出す作業が必要となります。これは,過去の婚約に関する裁判例を把握しながら,裁判所がどのような証拠に基づいてどのような事実を認定し,どのような事実から婚約の成否を検討しているのかを把握していなくては,到底できない作業でしょう。(弁護士に相談をしても,弁護士によって判断が分かれるほど,微妙な事案も多数あります。)
 また,場合によっては,婚約の解消に正当な理由があるのかが問題になることや,妊娠中絶についての費用分担,慰謝料の請求といった様々な法律問題が生じている可能性もあります。
 そのため,正確な見通しを立てるには,多数の解決事例に基づいたノウハウが必要不可欠ですので,必ず経験豊富な専門家に相談するよう心掛けてください。

2017.08.10

【婚姻問題】高校生で婚姻なんてお父さん許しません!婚姻に両親の同意はいるの?

婚姻は何歳になったらできるのでしょうか?高校生3年生の女の子は,婚姻してもいいのでしょうか?自分では大人と思っていても,両親にとって未成年の子供は,まだまだ大人とは思えないものです。今回は,未成年者の婚姻と両親の同意についてお話ししたいと思います。

1 何歳から結婚できるの?

 まず,我が国では,何歳から婚姻することができるのか(婚姻可能な年齢のことを,婚姻適齢と言います。)についてお話ししたいと思います。
 民法731条によれば,男性は18歳,女性は16歳から婚姻は可能であるとされています(この年齢に満たないで婚姻した場合,当事者やその親族,検察官は,その婚姻の取消しを請求することができます。)。
 もっとも,未成年者(20歳未満)の婚姻については,お父さん,お母さん(親権者)の同意が必要であるとされていますので,未成年者であれば,婚姻が可能な年齢にあったとしても,お父さん,お母さんの同意が必要ということになります。

2 父母二人ともの同意がいるの?

 では,お父さん,お母さん二人ともの同意が必要なのでしょうか?
 結論としては,必要ありません。民法737条2項は,「父母の一方が同意しないときは,他の一方の同意だけで足りる」と規定しているので,仮に,お父さんが同意しなくてもお母さんが同意したのであれば,有効に婚姻が成立することになります。
 そのため,タイトルのように頑なにお父さんが高校生の娘の婚姻に同意していなくても,お母さんが婚姻に同意すれば,娘の婚姻は認められることになります。よって,お父さんの願いは叶わず,娘はお父さんの意思とは無関係に結婚することができてしまうことになります。

3 婚姻適齢のあらまし

 民法で現在の婚姻適齢が定められたのは,昭和22年のことです。昭和22年と言えば,終戦直後であり,当時の平均寿命は男性が約50歳,女性が約54歳という時代です。それから約70年が経ち,現在では男性が約81歳,女性が約87歳まで生きる時代となっています。確かに,昭和22年であれば,女性に16歳から婚姻を認めなければ,孫すら見ることができないですね。
 そのような時代の背景がある中で,現在,法務省が2017年通常国会へ女性の婚姻適齢を16歳から18歳へ引き上げる改正案を提出予定としていました。これは,同じく法務省から提出される予定の成人年齢を20歳から18歳へ引き下げる改正案と足並みを揃え,18歳で成人し,18歳から婚姻可能とする制度設計に組み直そうという流れによるものです。結果として,種々の事情を踏まえて改正案の提出は見送られたものの,2021年には婚姻適齢を18歳に引き上げるべく,国としては動き出しております。
 少し話は逸れますが,女性の婚姻適齢を18歳に引き上げた場合,何が起こるでしょうか?2015年に婚姻したカップル63万5000組の内,女性が16歳から17歳のカップルは1357組でした。そして,この大多数が妊娠・出産を理由に早期の婚姻に踏み切っているものと推測されます。だとすれば,今までは妊娠したからという理由で婚姻できた16歳17歳が婚姻できなくなるため,シングルマザーの人数が増える結果となります。そこで,日本としては,母子家庭に対する各種助成制度を充実させる必要性がより高まることでしょう。

4 まとめ

 以上のように,お父さん・お母さんのどちらかだけでも同意してくれれば,未成年者の婚姻も可能になりますが,どうしてもお父さん・お母さんが二人とも同意してくれないということもあります。(やはり,お父さん・お母さんを含めた親族みんなが祝福してくれる結婚が一番幸せです。どちらか一方の同意があれば良いという法律論ではなく,まずは理解を得るという作業を最優先にしてください。)

2017.08.09

【婚姻問題】婚約してたら強制的に婚姻できるの?

 「プロポーズされたのに,全然婚姻してくれる気配がない…。本当に婚姻する気あるのかしら?」そんな悩みをお持ちではありませんか?法律事務所では,このような優柔不断な彼氏をお持ちで悩んでいる方もいらっしゃいます。今回は,婚約者と強制的に婚姻できるかというトピックについてお話ししたいと思います。

1 事例の紹介

 Aさんは,長年付き合っていたBさんと婚姻しようと思い,平成21年12月25日にプロポーズしました。Bさんは,Aさんのプロポーズを喜んで受け入れました。幸せいっぱいの二人でしたが,Aさんは仕事が忙しいと言って,平成25年になっても婚姻する気配すらありません。Bさんは,プロポーズされて婚姻の約束をしていた以上,Aさんと強制的に婚姻することができるでしょうか?何か法律を使って解決することはできないのでしょうか?

2 事例への回答

(1) 婚約の成立

 婚約とは「将来婚姻しようという合意」をいいます。本件では,AさんはBさんにプロポーズをしており,Bさんもそれを受けていることから,婚約は成立しているといえます。(なお,正確に婚約が成立しているかどうかは,プロポーズの有無だけでなく,婚約指輪の授受・婚姻式場の下見・両親への挨拶・結納式の実施等,様々な事情を総合して決定します。)

(2) 法律で何かを強制するためには・・・

 まず,法律で何かを強制するためには,どんな手続きを踏まなくてはならないかという点からお話し致します。日本の法律では,債務名義(権利があると裁判所等が認めたもの。例えば判決など。)に基づいて,裁判所に強制執行を申し立てることで,強制的に権利を実現するという制度になっております。つまり,「婚約が成立しているのだから,強制的に婚姻させて欲しい。」と言うためには,裁判所で「婚約が成立しているから,婚姻する権利があります。」という判決をもらわなくてはなりません。そして,これを使って,強制執行を申し立てなくてはなりません。

(3) 履行強制の可否

 それでは,Bさんは,裁判所の強制執行を使って「Aさんと婚姻する権利」を強制的に実現することができるでしょうか?これを実現するために考えられる強制執行の方法とは,①直接強制,②代替執行,③間接強制の3種類があります。
ア 直接強制について
 直接強制とは,債務者の意思にかかわらず,国家機関が権利を直接,強制的に実現することをいいます。たとえば,不動産を差し押さえる場合などがこれにあたります。
 しかし,この方法でAさんと婚姻することはできません。婚姻して夫婦としての共同生活を営むことは,Aさんにとって重要な人格的な問題であり,国家が勝手に婚姻届を記入する訳にはいかないからです。
イ 代替執行について
 代替執行とは,第三者に債権の内容を実現させて,その費用を国家機関が債務者から取り立てることをいいます。たとえば,家賃も払わずに賃貸物件に住み続けている人がいる場合に,裁判所が引越業者に家財道具の撤去をさせ,その業者費用を賃借人に請求することなどがこれにあたります。
 しかし,この方法も用いることができません。婚姻は,第三者によって代わりにすることができないからです。
ウ 間接強制について
 間接強制とは,判決による決定事項が実現されるまでの間,裁判所が債務者に対して一定の金銭の支払義務を課すことによって,債務者を心理的に圧迫して,間接的に権利の実現を図るものをいいます。たとえば,不法占拠している人がいつまでも家を出ていかないときに,出ていかないなら毎日1万円ずつ支払えというように義務を課して,間接的に出ていかせるという目的を達成させることなどがこれにあたります。
 残念ながらこの方法も用いることができません。婚姻とはお互いの意思が合致してこそ
意味があるのに,このような方法で結ばれても実体のある婚姻生活を送ることができないからです。

3 まとめ

 以上のように,現在の日本の制度では,裁判所が「婚約が成立したこと」を認めたとしても,「婚姻を強制する」方法が用意されておりません。そのため,Bさんは婚約者であるAさんと強制的に婚姻することはできないのです。婚姻とは,相互に深い情愛のもと信頼と愛情を基礎として共同生活を営むことにその本質があることからすれば,致し方ないことかもしれませんね。
 もっとも,家事事件手続法244条に基づいて,家庭裁判所に対し「婚約の履行を求める調停」を申し立てることができます。これは,婚約したにも関わらず,婚姻に至らない場合,裁判所の調停委員会を間に入れて話し合いを行うものです。このように,話し合いによって解決を試みる方法は用意されています。
 結局,「婚約したにも関わらず,婚姻に至らない場合」には,「強制的に結婚する」のではなく,「婚約の約束を守ってくれないことを理由として慰謝料を請求する(そのような相手と結婚することは諦める)」という方法が最も現実的な選択肢となるでしょう。慰謝料を含め,どうすればいいか判断が難しいときなどには,専門家に相談してみてもいいかもしれません。

2017.08.08

【婚姻問題】婚約をちゃんと解消できるのってどんなとき?

「私は,知人に紹介された男性と交際し,プロポーズを受け,お互いの家族にも賛成されたので,彼と婚約しました。そして,先月には結婚式を行い入籍する予定でした。しかし,彼は結婚式の10日前に行方不明になり,結婚式に来ませんでした。ですので,私の方から婚約の解消を申し入れました。しかし,彼は,今頃になってあらわれて『不安になったからちょっと一人になりたかった,婚約解消なんて認められない』と言っているのですが,婚約は解消できていないのですか?」婚約関係にある二人がその関係を解消するためには何か理由が必要なのでしょうか?今回は,婚約破棄と損害賠償についてお話ししたいと思います。

1 婚約の成否

まず,初めに婚約が成立しているかどうかを検討してみたいと思います。
婚約とは,将来婚姻をしようという当事者間の合意をいいます。つまり,私たちが日常的に用いている「婚約」と同じような意味であると言えるでしょう。
 本件では,プロポーズの存在だけでなく,関係者もこれを知っており,結婚式も上げる予定だったのですから婚約が成立していると言えるでしょう(なお,婚約が成立しているかどうかは,プロポーズの有無に限らず,婚約指輪の授受・婚姻式場の下見・両親への挨拶・結納式の実施等,様々な事情を総合して決定します。)

2 婚約の解消ってできるの?

 では,婚約を解消することはできるのでしょうか?
 婚約は,当事者の合意がある場合だけでなく,一方の判断だけで解消することができます。また,当事者の一方が死亡してしまったら婚姻そのものが不可能になってしまうため当然に解消されます。そのため,婚約は,①当事者の一方が死亡した場合,②当事者が婚約解消の合意をした場合ならびに③当事者の一方が婚約解消の明示又は黙示の意思表示をした場合に解消されます。このなかで婚約解消が紛争に発展するのは,③当事者の一方が解消の意思表示をした場合のみです。では,これからどのような紛争が生じるのか見ていきたいと思います。

(1) 婚約の履行請求

婚姻は完全に自由な意思によってなされるべきですので,裁判所に「婚約の履行をせよ」と訴えを提起したとしても,現在の日本においては,裁判所が「婚約が成立したこと」を認めたとしても,「婚姻を強制する」ことはできません。そのため,裁判所の力を使って強制的に婚姻するということはできないのです。
もっとも,婚約したにも関わらず,婚姻に至らないときには,裁判所の調停委員会を間に入れて話し合いを行うという方法も考えられます。これは,「婚約の履行を求める調停」を家庭裁判所に対し,申し立てることによって可能となります。このように,話し合いによって解決を試みる方法は用意されてはいます。
 しかしながら,一度婚約破棄となって,裁判所を間に入れて話し合いをしなくてはならないほどの関係になったのであれば,それは一生を添い遂げるパートナーにはなり得ないでしょう。「婚約したにも関わらず,婚姻に至らない場合」には,「強制的に結婚する」というのはあまり現実的な選択肢とはいえません。そのため,そのような相手とは婚姻するのではなく,「婚約の約束を守ってくれないことを理由として損害賠償を請求する」という方法が最も現実的な選択肢となりそうです。

(2) 損害賠償請求

上で述べたように,いくら婚約を当事者の一方の判断のみで解消できるとしても,婚姻のできなくなる相手側としてはたまりません。そこで,婚約を解消した場合,正当な理由のない限り,婚約という契約をちゃんと履行しなかったとして損害賠償責任を負うことになります。
そのため,婚約破棄の事案では,その婚約解消に正当な理由があるのかが問題になることになります。
婚約解消における正当理由の判断は,ほぼ離婚が認められる場合の「婚姻を継続しがたい重大な事由」の判断と重なりますが,離婚がそれまでの結婚生活の積み重ねを前提とするのに対して,婚約破棄はそれまでの生活の積み重なりが無いため,比較的離婚よりも認められやすい傾向があります。
裁判例において正当理由が認められたものとしては,婚約成立後の不貞行為,結婚式直前の家出,暴力や暴言(当事者のみならず家族に対する者も含まれます),性的不能の発覚,肉体関係の強要,相手の結婚式における社会常識を逸脱した言動,経済的状態の急変,婚姻生活を維持しえない程度の疾病などがあります。これらのように今後婚姻をすることが社会通念上困難な状態となることが認められれば,婚約を破棄する正当な理由があると認められる傾向にあります。
逆に,相性方位が悪い,年回りが悪い,家風に合わない等という理由は,もちろん正当理由にならないと判断される傾向にあるといえます。

3 まとめ

 今回の相談のように,当事者の一方が結婚式に来ないということは,裁判所の判断基準からすれば,正当理由が認められる可能性が高いと思いますし,実際に男性が結婚式を不可能にした事案において,正当理由がないと判断した裁判例も見受けられます。しかし,正当理由が認められるか否かは,専門的判断が必要になるところですので,事案によっては専門家によっても結論が分かれる余地があります。もし正当理由が認められない場合であれば,損害賠償請求や結納の返還請求をすることも考えられます。
 そのため,同種事案について経験豊富な弁護士に相談することをお勧めいたします。

2017.08.07

【離婚問題】勝手に離婚届を出されそう…。何か対策はないの?

夫婦喧嘩の末,勢い余って離婚届に署名押印してしまったというケースは決して珍しいものではありません。その後,思いとどまって離婚したくない妻(夫)と,やはり離婚したい夫(妻)という構図が出来た場合,相手が勝手に離婚届を出してしまう恐れが生じてしまいます。このような場合,事前に離婚届を提出してほしくない当事者としては,何か対策をすることは出来ないのでしょうか?そこで,今回は,対策の一つとして存在する離婚届不受理申出制度についてお話しさせて頂きたいと思います。

1 不受理申出制度の意義

 別に離婚届が提出されたとしても,すぐに訂正できるんじゃないの?と思っていませんか?お互いが離婚が無効であると納得していればまだしも,話はそんなに簡単じゃありません。

(1) 離婚届が提出された後に対応したらダメなの?

協議離婚は,夫婦が離婚に合意し,離婚届を市区町村長に届け出ることで成立します。もっとも,市区村長による審査は,実質的に離婚の意思を有していたかまで行うものではなく,あくまで形式的に判断されます。そのため,当事者の一方の意思を無視して提出された離婚届が受理されることもあるのです。
 とはいえ,離婚をするには当事者に離婚をする意思が必要ですので,このような離婚届は本当は無効なはずです。しかし,一度離婚届を受理されてしまいますと,戸籍に離婚した旨が記載されてしまいます。そのため,これを抹消するには,離婚を無効とする確定判決などを得て,戸籍の訂正の申請をしなければなりません。しかも,戸籍の訂正をしたとしても不実の記載の痕跡が残ってしまうので,完全に離婚の記載を消すためにはさらに戸籍の再製を申し出る必要があります。
 離婚届を提出されてしまいますと,このように煩雑な手続きを経なければならないうえ,下手をするとそもそも離婚を無効とする確定判決などを獲得するという最初の段階で躓いてしまうこともあります。例えば,夫婦喧嘩の際に離婚届を直筆で署名押印していた場合であれば,裁判所はほぼ離婚を無効だと判断してくれません。
そこで,離婚届が提出されることを防ぐことが離婚しないための一番有効な方法になるのです。

(2) 不受理申出制度ってなあに?

 直筆で記載した離婚届がある場合,それを相手方から取り戻して破棄することが第一ですが,それが困難な場合も多いと思います。そのような場合,本人の意思に基づかない無効な届出の受理を防止する方策として,いわゆる不受理申出制度があります。この制度は,離婚届が勝手に提出されてしまう場合に備えて,仮に離婚届が提出されたとしても窓口で本人確認ができない場合は離婚届を受理しないように,あらかじめ本籍地の市区町村長に対して申し出る制度を言います。
 離婚届不受理申出がなされた場合,市区町村長が,不受理申出者本人が出頭して離婚届を提出したことが確認できなければ,これを不受理とします。そして,不受理申出者に対して,離婚届が提出されたことを通知します。
 このように,離婚届不受理申出をしていれば,離婚届が勝手に受理されることはなく,自分の知らないところで離婚が成立することを防ぐことが出来ます。なお,一度不受理申出がなされると取下げがなされない限り,無期限に有効です。

2 離婚届不受理申出の方法

 この不受理申出は,申出人本人が市区町村の役場に出頭して行うことが原則となります。
 ただ,申出は口頭で行うことは出来ず,書面で行わなければなりません。提出すべき書面は窓口に備え付けの不受理申出書がありますので,氏名,生年月日,住所,本籍等を記載して提出することになります。この際,市区町村長は,運転免許,パスポートなど顔写真付きの本人確認書類を窓口で提示する必要があり,本人確認ができない場合,申出は受理されません。
 また,先程も申しましたように市区町村の役場に出頭して行うことが原則ではありますが,疾病その他やむを得ない事由により出頭できない場合,不受理申出をする旨を記載した公正証書又は私署証書に公証人の認証を受けた書面を郵送して送付することも可能です。

3 やっぱり離婚する気になったら?

 以上のように,離婚届不受理申出をしていれば,勝手に離婚させられることはありませんが,やっぱり離婚をしようと考え直した場合にはどうすればいいのでしょうか?
 この場合,いつでも不受理届を取り下げることが可能です。もっとも,取下げにあたっても口頭で行うことは出来ず,不受理届を申し出した人が署名押印した取下書を提出する必要があります。なお,取下書には所定の様式はありませんので,取下げの意思を明確に記載して提出すれば大丈夫です。

4 まとめ

 いかがでしたでしょうか?今回は,勝手に離婚届が提出されることを防止するための方法として離婚届不受理申出制度についてお話しさせて頂きました。
 最初にも申しましたように,離婚届が提出されてしまうとこれを覆すためにはかなりの労力を要しますし、そもそも覆すことができない可能性が高いです。ですので,離婚届にサインしないことが何よりも大事ではありますが,サインしてしまった場合はすぐに離婚届不受理申出をするようにしましょう。
 しかしながら,離婚届不受理申出が間に合わないこともあるかもしれません。このような場合は,相手方が調停で離婚が無効であることに応じない限り,裁判で決着をつけるほかありません。先程も申しましたように,離婚が無効であることの判決を勝ち取ることは容易ではありません。ただ,離婚事件について豊富なノウハウを有している弁護士であれば,それも可能かもしれません。
 お悩みの際には,離婚事件について豊富なノウハウを有している弁護士にご相談してみてはいかがでしょうか?

2017.08.06

【離婚問題】熟年離婚で損しないために知っておくべきコツ

「熟年離婚」をお考えの方はいらっしゃいますか?ケースとしては,長年不満を抱いていた妻が子供の自立をきっかけに離婚を決意するパターンが多いと言われています。しかし,夫に不満があるとしても,熟年離婚をしても幸せになれるのか気になるはずです。幸せな生活を送るために必要なものは人によって違うとは思いますが,経済的に安定した生活を送ることは共通の望みだと思います。そこで,今回は,財産分与、年金分割など生活費に関する知識について、基本に熟年離婚で損しないためのコツをまとめました。

1 お金で「損」しないコツ

それでは,お金で損しないためのコツについて見て行きましょう。財産分与,年金分割,慰謝料,婚姻費用という流れでご説明させて頂きたいと思います。

(1) 財産分与

財産分与とは,夫婦が婚姻期間中に協力して形成した財産を離婚に際して分与することを言います(民法768条、771条)。そのため,婚姻期間が長ければ形成した財産も通常多くなるため,熟年離婚では財産分与でもらえる財産も高額になる傾向にあります。
財産分与の対象になる財産について具体例を挙げますと,夫婦が共同して購入した不動産,自動車,一緒に生活していた住宅の家具など家財一式,現金,有価証券,借金などが名義にかかわらず,これにあたります。
 熟年離婚における財産分与では,退職金が財産分与の対象になるかがよく問題になります。既に退職金が支払われていれば財産分与の対象になりますが,まだ未払いの場合ですと退職金の支払いが確実と言えないような場合では財産分与の対象にならないこともございますのでご注意ください。なお,退職金については全額が財産分与の対象になる訳ではなく,婚姻期間に応じて対象となる金額は変動します。

(2)年金分割

年金分割制度とは,離婚後に年金事務所に請求することにより,婚姻中の夫の年金保険納付記録の最大2分の1までを分割して妻が受け取れるという制度です。この制度を利用すれば,各家庭によりますが,月々3万円程度,年金受給額が増加することになります。この制度の利用率は,離婚件数の約1割にすぎませんが,熟年離婚では非常に有用な制度ですので絶対に覚えて下さい。
年金分割の仕組みは簡単にはご説明できませんので,ここでは省略しますが,お悩みの方は,弁護士や年金事務所に相談するようにしましょう。

(3)慰謝料

熟年離婚であっても精神的な苦痛を受けた場合,離婚した相手に対して慰謝料を請求することが出来ます。例えば,相手方の不倫,DV,モラハラなどがあれば慰謝料を請求することが出来るでしょう。なお,不倫が原因で離婚した場合は,不倫をした相手に対しても慰謝料を請求できます。
ただ,熟年離婚の原因として一番多いのは,「性格の不一致」と言われています。性格の不一致であれば,どちらに責任がある訳でもないので慰謝料を請求することは出来ませんのでご注意ください。

(4)婚姻費用

熟年離婚をした後の話ではありませんが,熟年離婚をするに際して別居することも多いと思います。離婚を前提に別居していても,いまだ婚姻関係にある以上,夫婦はお互いに助け合う義務がありますので,夫婦のうち経済力のある方がもう一方に対して生活費を支払う義務があります。これは婚姻費用と言います。
具体的な金額については当事者の話し合いで決めることになっていますが,それでもまとまらない場合は裁判所で調停,審判という手続きを行うことになります。これらの手続きにおいては,婚姻費用を算定する資料である婚姻費用算定表に基づいて話し合いが行われることになっています。

2 子供のことで「損」しないコツ

 熟年離婚においては,子供は既に成人していることが多くあまり問題になりませんが,子供が,未成年であれば親権を確保したいと思われることでしょう。
 親権者の判断は,親側の事情としては,監護に対する意欲と能力,健康状態,経済的,精神的家庭環境,従前の監護状況,子供に対する愛情の程度などを,子供側の事情としては,年齢,性別,兄弟姉妹の関係,心身の発育状況,従来の環境への適応状況,子供の希望などの要因を総合的に考慮して判断することになります。
 また,熟年離婚においては子供の年齢も15歳を超えていることも多いと思います。この場合,裁判所は子供の陳述を聴かなければならないとされており,子供の意思が相当程度考慮されますので,日頃から子供と良好な関係を築くことが大事でしょう。

3 熟年離婚はどうやってすればいいの?

熟年離婚であっても手続きの流れは通常の離婚と同じく,以下の通りです。
まずは話し合いでの解決を試みましょう。話し合いがまとまった場合に離婚協議書を作成するようにしましょう。その中では,慰謝料や財産分与,年金分割,面会交流などについても決めておきましょう。また,可能であれば公正証書にしておくことをお勧め致します。公正証書は強制執行認諾文言を挿入することで,金銭的な給付については債務名義となり,裁判を経ずに強制的に金銭を回収(強制執行)することが可能となります。
もし、離婚自体や離婚の条件がまとまらない場合には,家庭裁判所に離婚調停を申立て,裁判所で話し合うことになります。なお,離婚については合意があるのですが,財産分与や親権者などの事項について合意が出来ていないような場合などでは,審判という手続きが用いられることになりますが,あまり使用されることはありません。
もし,調停でも話し合いがまとまらない場合には裁判をすることとなります。裁判をするには家庭裁判所に対して訴えを提起することになりますが,裁判で離婚する場合は民法770条1項各号の要件を満たす必要があります。例えば,「不貞行為」や暴行,浪費癖などによって「婚姻を継続し難い重大な事由」があると認められる場合には離婚ができることになります。そのため,離婚をするための要件を満たしているかを事前に検討しておくことが必要となってきます。

4 まとめ

いかがでしたでしょうか?今回は,熟年離婚で損しないためのコツをご説明させて頂きました。熟年離婚をすると,良くも悪くも今まで長年にわたって過ごしてきたいつもの生活と全く異なる生活を送ることになります。熟年離婚した人の中には「こんなはずじゃなかったのに」と後悔している方もいらっしゃいます。熟年離婚をしても本当に幸せになれるかは,熟年離婚をしてみなければわからないものですが,熟年離婚の事件をも数多くこなしている弁護士であればある程度の見通しを立てることが可能です。
しかし,今回お話しさせて頂いたコツを使っていただければ,法律的な面で損をしてしまうことは防げます。もっとも,このコツを効率的に活用するためには,専門的な知識を有している人の手助けが必要になると思います。
そこで,熟年離婚をするかお悩みの方は、離婚事件に経験豊富な弁護士にご相談くださいませ。

2017.08.05

【離婚問題】財産分与ってどんな財産を分けるの?

離婚をする際に財産を分けるみたいだけど,財産分与の対象となる財産ってどこからどこまでを言うの?婚姻前にコツコツ貯めた私名義の貯金は?婚姻してから購入した二人の家は?夫が将来もらう退職金は?財産を分けるにあたっては,どのようなものが分けるべき財産であるかを確定することが重要になってきます。財産分与の対象になる財産をちゃんと把握していなければ,後になって後悔してしまうこともあります。そこで,今回は,離婚する際にどんな財産を分けることになるのか,お話しさせて頂きたいと思います。

1 財産分与の対象財産ってどんなもの?

 財産分与の対象になるのは,「婚姻期間中にその協力によって得た財産」です(民法768条3項)。もっとも,婚姻関係が継続していたとしても,別居後は夫婦が協力して得た財産とは言えないから,財産分与の対象となる財産は,原則として「別居時」を基準に確定されます。そのため,離婚前であっても,別居後に取得された財産については,財産分与の対象にはならないと考えられています。
そこで,夫婦が婚姻してから別居するまでの間に協力して築いた全ての財産が財産分与の対象になると考えられています。
 例えば,婚姻前に自分で貯めていた貯金は,通常,財産分与の対象にならず,婚姻後に購入した不動産や自動車などは財産分与の対象になります。不動産や自動車の名義は夫婦いずれか一方の名義になっている場合が多いと思いますが,実質的に夫婦で築いた共有財産と判断できれば,名義を問わず財産分与の対象になります。なお,夫婦が保有する財産のうち,婚姻中に取得された財産は,共有財産であることが推定されます。
 また,婚姻前に自分で貯めていた貯金であっても,婚姻後に夫婦が協力したことによって価値が維持されている場合や,価値が増加したしたことに夫婦の貢献が認められる場合には,貢献度の割合に応じて財産分与の対象とされる場合もあります。

2 財産ごとに具体的に見てみよう!

 では,実際にどのような財産が財産分与の対象になり,又は財産分与の対象にならないのでしょうか?

(1) 財産分与の対象になる財産

 財産分与の対象になるのは,先程も申しましたように,夫婦が婚姻してから別居するまでの間に協力して築いた全ての財産ですので,この期間に夫婦が協力して築き上げた財産のうち,以下のようなものが財産分与の対象になります。

ア 現金,預貯金
現金やへそくり,銀行に預けている預金は,財産分与の対象となります。

イ 不動産・車両
次に土地や建物といった不動産や自動車についても財産分与の対象となります。なお,先程も申しましたように,不動産・自動車の名義が離婚相手の名義になっていたとしても,財産分与の対象となります。

ウ 有価証券
 株券や社債などの有価証券も,財産分与の対象になります。

エ 家具・家電
ベッドやタンス,テレビ,冷蔵庫などの家具・家電についても,財産分与の対象となります。

オ 年金
厚生年金,共済年金などの年金についても財産分与の対象となります。年金を分ける際には,年金分割制度というものがございますので,この制度を利用する必要があります。この制度の概略につきましては,年金事務所に問い合わせることをお勧め致します。

カ 退職金
退職金が既に支給されている場合であれば,財産分与の対象になると考えられています。実際にこれを認めた裁判例もございます。
問題になるのは,離婚時にいまだ退職金が支給されていない場合です。退職金は在職中の労働の対価という性格に鑑み,将来支払われるべきであろう退職金についても,勤務期間に占める婚姻期間の比率を乗じた額を財産分与として認めるべきという考え方が有力ではありますが,定説がある訳ではなく,個別具体的に判断されているのが実情です。
将来支給される予定の退職金がある場合には弁護士に相談することをお勧め致します。

(2) 借金は財産分与の際にどう取り扱うの?

借金であっても,場合によっては財産分与の対象になることがあります。では,例えば,夫がパチンコのために借金をしていた場合,その借金は,財産分与の対象になるのでしょうか。
夫婦の共同生活を営むために生じた借金であれば,財産分与の対象となりますが,専ら自分のために借り入れた個人的な借金は,財産分与において考慮されないと考えられています。パチンコのために借入をした借金は,通常,専ら自分のためになされたものでしょうから財産分与においては考慮する必要はないでしょう。
もっとも,実際は,夫婦のプラスの資産からマイナスの資産を差し引いてプラスの資産がマイナスの資産を上回る場合に,その合計のプラスの財産からマイナスの財産を差し引いた残額を分与するという処理がされるのが一般的です。
 なお,住宅ローンが残っている不動産についてもそれだけで当該不動産が財産分与の対象にならない訳ではありませんので,お悩みの際は弁護士に相談するようにしましょう。

(3) 財産分与の対象とならないもの

一方で,財産分与の対象とならない代表的なものは以下の通りです。

・婚姻前に個人的に貯めていたお金
・婚姻時の嫁入り道具
・婚姻前,婚姻後を問わず相続した自分の親の財産
・洋服や靴など個人的な持ち物
・ギャンブルのためにした借金

3 まとめ

 いかがでしたでしょうか?今回は財産分与の対象にどんな財産がなるのかについてお話しさせて頂きました。財産分与の対象にどのような財産が含まれるかについては,住宅ローンが残っている場合や将来の退職金についてなど専門知識が無ければ到底対応できない複雑な問題がございます。また,当事者のみで取り決めをすると財産分与の対象財産に漏れがあったり,その計算方法を間違ってしまったりということもあります。また,住宅ローンが残っている場合,財産分与に伴ってローンの借り換えが必要な場合もありますので,金融機関の紹介ができる弁護士の方がスムーズでしょう。
 そのため,これはどうするのだろう?と思うような財産がある場合や財産分与の対象となる財産が多い場合,離婚事件について経験豊富な弁護士に依頼することをお勧めします。

2017.08.04

【離婚問題】財産を守るために嘘の離婚をしても有効なの?偽装離婚の有効性について

「事業に失敗して借金を作ってしまいました。妻の財産に借金の追及がされないように離婚できないでしょうか。」,「妻の財産に借金の追及がされないために離婚したのに,妻が再婚してくれません。あの離婚は無効のはずです。」こういったお悩みをお持ちの方はいらっしゃいませんか?今回は,本当は離婚したい訳ではないのに離婚した場合,その離婚は有効なのかお話ししたいと思います。

1 離婚ってどんなときに無効になるの?

 協議離婚が有効になるためには,「離婚の意思」が必要とされています。協議離婚は,離婚届が役場で受理された時点で成立するので,「離婚の意思」もその届出をした時点で必要とされています。
 そして,この「離婚の意思」とは,離婚の届出をする意思を言いますので,届出の際に届出の意思さえあれば,それが便宜上のものであっても離婚は有効と判断されることになると考えられています。

2 離婚が有効とされた具体例

 では,実際に離婚が裁判所において有効と判断された具体例を見て行きましょう。注意していただきたいのは,あくまでここでお話しさせて頂くのは「離婚」自体の有効性の話であることです。「離婚」自体は有効であると判断されても,その他の法令によって罰則を受けることもありますのでご注意ください。

(1) 強制執行や債権者の追及を逃れるための離婚

 まず,強制執行を免れるために,債務整理の解決までということで協議離婚をした場合や債権者の追及を免れ,家産を維持するための方便として協議離婚をした場合も離婚は有効と判断されています。
 このように強制執行や債権者の追及を免れるための離婚をする目的は,妻に責任追及が及ばないためや自分の財産を隠すためといったものが多いように感じます。しかし,夫の借金のために妻に責任追及がなされることは事実上あるかもしれませんが,法的に有効なものではありませんので気にする必要はありません。
また,債権者の手から自分の財産を守るため,つまり,今ある財産を債権者ではなく妻に財産分与として与えることは,財産の隠匿行為として自己破産の場合に免責を受けることが出来なくなってしまったり,「詐欺破産罪」とされて「10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金」という非常に重い罰則を受けてしまうこともあります。

(2) 生活保護の受給を受けるための離婚

 次に,生活保護費の支給を受ける手段として協議離婚をした場合であっても,裁判所はその協議離婚を有効と判断しています。
 これは相当意外で,一見すると裁判所が不正受給を助長しているように思えるかもしれません。しかし,これは先程も申しましたように,あくまで「離婚」それ自体の有効性についてのみの結果です。
 このように生活保護費を受給しようとしての「離婚」自体は有効なのですが,偽装離婚をして生活保護費の支給を受けた場合、公正証書原本不実記載罪として「5年以下の懲役また50万以下の罰金」に処せられることになる可能性がありますので注意して下さい。
 もしかすると,偽装離婚をしたとしても発覚しなければ大丈夫でしょ?と考えている人もいらっしゃるかもしれません。しかし,偽装離婚を早期に発見する役割を担っているケースワーカー達が,生活保護を受けている方のお宅を突如訪問し,生活の状況をチェックします。一般にその回数は,1ヶ月~数か月に1回ということが多いようですが,不正受給が疑われる場合,頻繁に視察が行われることになるでしょう。また,ご近所からの通報等もありますので,嘘を隠し通すことは難しいでしょう。

3 離婚が無効とされた具体例

 離婚意思がないと判断された例としては,①離婚届への署名を拒否した妻に対し,夫が茶碗等を手当たり次第投げつけるなどの乱暴な振舞いをしたので,妻がその場を収拾するためやむなく離婚届に署名・押印したところ,夫がそれを役場に提出し,受理されてしまった場合,②妻が離婚に同意せず「そんなもの自分で書けばいいんじゃないの」と口走って離婚届の署名押印を拒んだところ,夫が他人に妻の氏名を代書させた離婚届が受理された場合があります。
また,③夫が,離婚届作成時点では一旦離婚を承諾して署名押印したのですが,その後まもなく市職員に対し離婚届が提出された場合には止めるよう依頼しました。しかし,妻が作成から約6か月後に離婚届を提出したのでそれを知ってすぐ裁判所等に相談に行くなどをした場合でも,離婚を無効としています。
これらのように離婚届の提出時点で夫婦二人のいずれかに離婚意思がないときであれば,離婚は無効ということになるのです。

4 まとめ

 いかがでしたでしょうか?借金で生活が苦しいであるとか,妻に迷惑がかかるのではないか,ということと離婚をすべきか否かということは別の問題です。
 離婚したくて離婚する場合であればいいのですが,離婚はしたくないけど離婚した方がいいと思って離婚しようと思っている場合は,一度弁護士に相談して下さい。そもそも離婚が有効とは限りませんし,他の法律によって刑罰が科される可能性もあります。それに,同種の事案に経験豊富な弁護士に相談すれば、それまで全く気付いていなかったアドバイスを受けることもあるかもしれません。

2017.08.03

【離婚問題】財産分与に税金ってかかるの?

離婚の際に問題になってくるのが財産分与です。財産分与を考えるときに,あまり気にしていないことかも知れませんが,財産分与にも税金がかかってくることがあります。そこで,今回は,財産分与のときに問題になってくる税金について簡単にご説明させて頂きます。

1 財産を受け取る側

まずは,財産を受け取る側にかかる税金について,贈与税,不動産取得税を中心にご説明させて頂きます。

(1)贈与税について

 贈与税は,贈与により無償で財産を取得した場合に,財産を取得した人に課税されます。
しかし,財産分与は,夫婦の財産関係の清算や離婚後の生活保障のための財産分与請求権に基づき給付を受けるものと考えられるため,財産分与が行われた場合,原則として贈与税は発生しません。
もっとも,①その額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額やその他全ての事情を考慮してもなお多すぎる場合,その多すぎる部分に対して,贈与税が課税されます。例えば,本来財産分与すべき金銭が1億円,その分与の割合が夫:妻で5:5にも関わらず,夫が2,000万円,妻が8,000万円の財産分与を行った場合,妻が受け取った8,000万円の財産のうち3,000万円は「多すぎ」ますので,この部分について贈与税が課税されることになります。
 また,②離婚が贈与税や相続税を免れるために行われたと認められる場合,離婚によって受けた財産全てに対して,財産をもらった側に贈与税が課税されますので,注意が必要です。

(2)不動産取得税について-不動産の場合

しかし,何も財産分与は金銭だけにされるものではありません。そこで,次に,不動産取得税についてご説明させて頂きたいと思います。
先程も申しましたように,財産分与は,夫婦の財産関係の清算や離婚後の生活保障のための財産分与請求権に基づき給付を受けるものと考えられるため,原則として不動産取得税も課税されません。
なお,不動産取得税ではありませんが,不動産の分与を受けた場合,別途,固定資産税や所有権移転登記の際の登録免許税がかかりますので注意が必要です。ちなみに,通常,固定資産税は「固定資産評価額×1.4%(標準税率)」,登録免許税は「固定資産評価額」を基準に適切な税率を乗じたものについて課税されることになります。

2 財産を渡す側

 財産分与に際し,金銭で分与した場合,財産を渡す側は課税されませんが,土地や家屋などの不動産,株式のような金銭以外の財産を分与した場合,譲渡所得税が課税される可能性があります。そこで,どのような場合に譲渡所得税が課税されるのか見て行きたいと思います。

(1) どのような場合に譲渡所得税が課税されるの?

 財産を渡した側は,金銭以外の財産を譲渡したことにより,所得税法33条1項にいう「資産の譲渡」をしたことに該当するため,譲渡所得税が発生することになります。
課税対象となる譲渡所得の金額は,土地や建物を売った金額から不動産の購入代金などの取得費,仲介手数料など土地を売るための費用である譲渡費用(以下,この二つをまとめて取得価額と言います。)を差し引いて算出することになりますが,財産分与としての資産の譲渡があった場合,分与財産が時価で譲渡されたものとして算出されることになります。したがって,時価と取得価額の間に値上がりの利益があるときには,その利益について譲渡所得税が課税されることになるのです。つまり,資産が取得時より値下がりした場合には課税されず,値上がりした場合には課税されることになります。

ただし,夫婦の一方の単独名義で取得した財産を他方に分与する場合,同財産が実質的に見て夫婦の共有財産であるとき,他方の共有持分の部分のみを財産分与によって譲り受けることになりますので,注意が必要です。例えば,夫名義の不動産であっても,夫婦が共働きであり,2分の1の割合で共有持分を持っているとしたら,課税対象になる譲渡所得は、同不動産の時価の2分の1を基礎に算出されることになります。
 もっとも,譲渡所得税の計算は,長期譲渡所得か短期譲渡所得によって計算方法が異なりますので,それぞれの計算方法をご紹介致します。

(2) 譲渡取得税の計算はどうやってするの?

 譲渡をした年の1月1日において,所有期間が5年以上の場合の所得を「長期譲渡所得」,5年未満の場合の所得を「短期譲渡所得」と言います。
 そして,所有期間が5年を超える長期譲渡所得の場合,所得税15%(復興税加算後15.315%),住民税5%,短期譲渡所得の場合,所得税30%(復興税加算後30.63%),住民税9%になります。譲渡所得の計算は,短期長期とも共通で,譲渡収入の金額から取得価額(取得費+譲渡費用)を差し引いた金額を基礎にして行います。
 これをまとめると,

 分与財産の時価(自己の持分を超える部分) - 取得価額(取得費 + 譲渡費用) × 税率 = 税額

 となります。
例えば,共働きの夫婦において,不動産を婚姻中の平成10年5月1日に2,000万円で取得し,夫名義としていました。平成16年4月1日,その不動産を離婚に際し,財産分与しました。この時の不動産の時価は5,000万円でした。
この場合,譲渡をした平成16年1月1日の時点で既に5年を経過していますので,長期譲渡所得ということになります。そして,夫婦の持分の割合はともに2分の1ですので,財産分与を受けた不動産の価額のうち自分の持分を超える部分は2,500万円分となります。取得価額が2,000万円ですので,これを差し引いた残りの500万円について,長期所得の税率(所得税15%(復興税加算後15.315%),住民税5%)を掛けることになるのです。
 よって,取得税として76万5750円、住民税として25万円が課税されることになります。

(3) 節税方法はないの?

もっとも,財産を渡す側にかかる譲渡所得税も,①居住用財産の譲渡所得の特別控除が適用される場合,②居住用財産の長期譲渡所得の軽減税率の特例が適用される場合,③配偶者控除が適用される場合などには支払うべき税金を少なく抑えることが可能です。

ア ①特別控除(租税特別措置法35条)
財産分与として居住用財産を譲渡した場合,3,000万円の特別控除を受けることが出来ますので,財産分与の対象財産が居住用財産の場合,分与財産の時価 - 取得価額(取得費 + 譲渡費用)から,さらに3,000万円の特別控除を差し引くことが出来ることになります。すなわち,居住用財産であれば,3,000万円以上値上がりしていなければ税金はかからないことになります。
もっとも,この特例は,夫婦間の譲渡の場合には認められませんので,特例の適用を受けるためには,離婚をした後で財産分与を行う必要があります。

イ ②長期譲渡所得税についての軽減税率の特例(租税特別措置法31条の3)
さらに,①に加えて譲渡した年の1月1日において所有期間が10年間を超える居住用財産を分与した場合,税率が軽減されます。具体的には,通常の長期譲渡取得の場合,所得税15%,住民税5%の税率であったのが,分与財産の時価 - 取得価額(取得費 + 譲渡費用)が6,000万円以下の部分については,所得税率が10%(復興税加算後10.21%),住民税率が4%となります。6,000万円を超える部分については,通常の長期譲渡所得の税率と同じです。

ウ ③配偶者控除
20年以上婚姻関係を続けている夫婦間で居住用財産を譲り渡す場合,基礎控除110万円に加えて最高2000万円分(最高で合計2110万円)は税金がかかりません。

3 まとめ

いかがでしたでしょうか?財産分与の際には様々な税金が関連してくるので,事前に知っておくと損せずに済むと思います。
もっとも,税金分野はかなり細かな規定がされておりますので,弁護士であっても,必ずしも精通しているものではなく,一般の方がいざ問題に直面してそれを体系的に理解することはどうしても困難だと思います。また,離婚に伴う問題は税金だけではありません。
そこで,離婚に伴う財産分与を考えるにあたっては,税金だけでなく,離婚についても詳しい「税理士の資格を持った弁護士」にご相談することをお勧め致します。

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