【離婚問題】浮気をした側からの離婚請求は認められないの?
「別に好きな人が出来たから離婚したい」と思っても,あなたが浮気をしていたとすると,簡単に離婚できません。このように浮気をした側から離婚をしたいという話も決して少なくはありません。今回は浮気をしたとしても自分から離婚をするための方法があるのかということについてお話しさせて頂きたいと思います。
1 有責配偶者ってなあに?
まずは少し難しい話をさせてください。
先程から浮気をした側と言っておりますが,このような配偶者のことを法律的には,「有責配偶者」と言います。有責配偶者とは,自ら婚姻関係を破綻させる離婚原因を作った配偶者のことを言います。つまり,不貞行為(いわゆる浮気ですね)をした側,DVをした側のように離婚をする原因を作った人がこれにあたります。
2 有責配偶者からの離婚請求は認められるの?
たとえば,夫が妻に隠れて浮気をしたところ,浮気相手に夢中になってしまい浮気相手と結婚したいから妻と離婚したいという場合を想定してみましょう。この場合,有責配偶者である夫が妻に「浮気相手に本気になったから離婚してくれ」と言ったとしても認められるでしょうか?
こんなときに離婚を認めてしまっては,あまりに妻が踏んだり蹴ったりではないでしょうか。さすがに法もこのような我儘を許していません。
裁判所も同様で,有責配偶者からの離婚を原則として認めていません。
3 有責配偶者からの離婚請求が認められる場合とは?
では,有責配偶者からの離婚請求はいかなる場合でも認められないのでしょうか。先程も述べたように,裁判所は「原則」は有責配偶者からの離婚請求を認めてはいないのですが,「例外」も認めています。
すなわち,最高裁は,「離婚は社会的・法的秩序としての婚姻を廃絶するものであるから,離婚請求は,正義・公平の観念,社会的倫理観に反するものであってはならないことは当然で…信義誠実の原則に照らしても容認され得るもの」でなければならないとしています。そのうえで,①別居期間が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及ぶこと(別居期間),②未成熟の子がいないこと(未成熟子の不存在),③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態に置かれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が認められないこと(特段の事情の不存在)の三つの要件を満たす場合には有責配偶者からの離婚請求も認められると判断しました。
それでは,それぞれの考慮要素について少し詳しく見て行きたいと思います。
(1) ①別居期間
まず,①別居期間について見てみましょう。
長期の別居は,破綻の程度が著しいことを示しています。一般に別居期間については,5~7年程度が認容の目安にされています。ただし,結局のところ,結婚してからの期間や同居の期間,同居中の関係性や家庭内別居の有無など,多種多様な事情を考慮するので,必ずしも一律な目安が提示できるわけではありません。
(2) ②未成熟子の不存在
次に,②未成熟子がいないことについてお話ししましょう。
未成熟子とは,未成年と同じ意味ではなく,経済的に独立して自己の生活費を獲得すべき者としていまだ社会的に期待されていない年齢にある者を言います。そのため,未成年でなく成人だとしても,子供が身体障害者であって働くことが困難な場合等は,未成熟子がいるとされます。
なお,高校2年生の子供がいるのですが,3歳の時から一貫して妻が育て,夫が生活費の送金を続けていた事案において,未成熟子がいるとしても,有責配偶者からの離婚請求を認めた裁判例もあり,未成熟子の有無は個別具体的な判断をされると考えられます。
(3) ③特段の事情の不存在
最後に,③離婚を認容することが著しく社会正義に反するという特段の事情についてお話しします。裁判所は,③特段の事情として,主に次のような事情を考慮しています。
・有責配偶者が,相応の生活費を負担してきたか
・評価できる内容の離婚給付の申出がなされているか
・離婚を拒否している側の生活,収入状況
・離婚の拒否が,報復・増悪などにすぎないものか,被告側が関係修復のために真摯かつ具体的な努力をしているか
その他の事情とも併せて考慮していますが,裁判所は,経済的な問題は財産分与や慰謝料で解決しようとしている傾向があります。
さて,今までお話しした①~③の内容を踏まえて裁判所が実際にどのような判断をしているかご説明したいと思います。
〈事案の紹介〉
同居期間8年間,別居期間22年間で両者の間に子供がいません。夫は別居約14年後に浮気相手と同棲を開始しており,浮気相手との間に子供がいます。夫は開業医をしており,妻は事業に失敗し現在は甲状腺腫瘍の治療中でした。なお,夫は妻の事業失敗による借金5000万円を肩代わりしたうえ,現在月20万円の生活費を送金しています。そして,財産分与によって妻に4000万円を与え,さらに終生月20万円の送金を申し出ています。
〈裁判所の判断〉
まず,裁判所は,①別居期間及び②未成熟子の不存在について述べています。すなわち,①夫婦の「別居期間は,…約22年に及び,同居期間(約8年)や双方の年齢(控訴人(夫)が60歳,被控訴人(妻)が58歳)と対比すれば,相当の長期間であ」り,②「両者の間には子がない」として,①②の要件を満たしていると判断しました。
そして,裁判所はこれに引き続いて③特段の事情があるかを検討しています。
「被控訴人(妻)は現在も甲状腺腫瘤の治療を受けており,控訴人(夫)を頼りにし控訴人との婚姻の継続を望んでいるが,…(今までの訴訟経過を通じて)控訴人(夫)の離婚意思の固いことを認識していること」,「被控訴人(妻)は資産として(複数の不動産の)持分2分の1を所有し,控訴人(夫)から…生命保険の保険金受取人を被控訴人(妻)とした保険証券の交付を受けていること」,「控訴人(夫)は,被控訴人(妻)に対し…生活費を送金してきており,今後も引続き…送金する意向であること」,「控訴人(夫)は被控訴人(妻)に対する離婚給付として(病院についての妻の持分)2分の1の譲渡代金,離婚慰謝料及び過去の未払生活費の合計金として4000万円を支払い,かつ離婚後の生活費として…終生月20万円を支払う旨提示し…ていること」などをあげ,「被控訴人(妻)が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が存するとは認められない」として,夫からの離婚請求を認めました。
かなり細かかったかと思いますが,裁判所はこのようにさまざまな事情を考慮して,有責配偶者からの離婚請求が認められるかを判断しているのです。
(4) 婚姻の破綻
もっとも,これらの事情が仮に認められそうだとしても,そもそもの前提として妻との間で「婚姻の破綻」が認められなければなりません。仮に婚姻が「破綻」していなければ,離婚は認められないことになります。
たとえば,別居期間が20年にわたっていたとしても,月に何度か家に帰り,妻の世話を受けていた事案において,裁判所は,婚姻関係の「破綻」を認めませんでした。他方で,26年の別居期間中23年は妻宅へ月1~2回帰宅して世話を受けていたが,妻との共同生活の意思を完全に喪失していたとして,婚姻関係の「破綻」を認定したものもあります。このように事案によりますがそもそも婚姻関係が「破綻」が認められないということも十分あり得ますので十分に注意して下さい。
4 まとめ
以上で見てきましたように,有責配偶者からの離婚請求は非常に認められにくいものであるのが現状です。
しかし,前でも述べたように必ずしも離婚できないわけではありませんし,仮に現時点で前述の要件を満たしていなくても年数さえ経てば要件を満たしてしまうことになります。そのため,離婚に応じる代わりに財産分与や慰謝料として調整するなど交渉の余地があると言えます。
有責配偶者であったとしても離婚をされたい場合,有責配偶者から離婚請求をされた場合のいずれであっても一度弁護士に相談をしてみてはいかがでしょうか?
【離婚問題】別居中の夫が「お金がない」と言って婚姻費用を支払ってくれない!
離婚の話し合いや裁判をする際,別居中の夫が婚姻費用を支払ってくれない,という状況が考えられます。このような場合,婚姻費用分担請求を行って,婚姻費用をきちんと支払ってもらうことを検討しましょう。そこで,今回は,婚姻費用分担請求を考えている方のため,婚姻費用の請求方法についてお話ししたいと思います。
1 婚姻費用ってなあに?
まずは,婚姻費用という言葉にはあまり聞き覚えはないと思いますので,婚姻費用とは何か,ということからお話ししたいと思います。
夫婦は,その資産,収入その他一切の事情を考慮して,「婚姻から生ずる費用」を分担しなければなりません。この「婚姻から生ずる費用」が婚姻費用と呼ばれています。この婚姻費用には,夫婦間の未成熟子の生活費を含み,具体的には衣食住費,医療費,教育費,相当の娯楽費などが含まれます。例えば,妻がショッピングモールで食材を買うことや洋服を買うことも婚姻費用に含まれます。
そして,婚姻費用の分担は,金銭による分担に限られる訳ではなく,家事・育児を担当するといった労働による分担も含まれます。そのため,専業主婦の場合,妻は家事・育児を担当し,夫は家計担当者である妻に金銭を渡すことが婚姻費用の分担になると考えられます。
もっとも,家事労働は「これだけの時間しなければならない」と定量化出来ませんので,家事労働の過不足を法律問題に出来ず,生活費の問題は夫の渡す金銭の額についてだけ生じることになります。
2 お金がなくても婚姻費用は支払わないといけないの?
では,専業主婦の妻は,夫の生活が苦しくても婚姻費用をもらうことが出来るのでしょうか?
まず,この話の前提として夫婦はどのようにお金を分担しないといけないかについてお話ししたいと思います。
夫婦間では,お互いを扶養することが,身分関係の本質であるとともに不可欠の要素ですので,自分の生活を切り詰めてでも自分と同程度の生活をさせる義務があると考えられています。これを生活保持義務と言います。もっとも,最低限度の生活をさらに切り詰めることまで要求されている訳ではありません。
そうだとすると,たとえ自分の生活が苦しいとしてもそれが最低限度の生活でなければ,自分の生活を切り詰めて別居中の妻にも同程度の生活が出来るだけの費用を送金しなければなりません。なお,離婚についての話し合いや裁判を行っている間も,婚姻関係が続いている限り,この婚姻費用の支払いはしなければなりません。つまり,夫婦の関係が如何に悪化しても,夫婦である間は,婚姻費用を支払う義務があるのです。
3 婚姻費用はどうやって請求すればいいの?
では,婚姻費用を支払ってもらえるとしても,夫にどうやって請求すればいいのでしょうか?
(1) まずは話し合い!
まずは,夫に婚姻費用を支払わなければならないことを告げて,話し合いをしてみましょう。とはいっても,夫が「お金がない」と言って拒んでいる現状からすれば,二人で話し合ってみても平行線で実効性に欠けるかもしれません。
(2) 話し合いがまとまらないと思ったら裁判所の力を借りよう
そこで,話し合いがまとまらないときには,婚姻費用の分担を求めて,調停(調停委員を介した当事者間の話し合いを言います。)又は審判(裁判所に判断を仰ぐ方法を言います。)を申し立てることが出来ます。
一般的には,夫が話し合いに応じ,任意に支払ってくれる余地があれば,まずは夫の住所地の家庭裁判所か,当事者双方が合意で定める家庭裁判所に対して,調停を申し立てることになります。
しかし,残念ながら調停がまとまらなかった場合,調停は当然に審判手続に移行し,裁判官が判断することになります。また,相手方が話し合いに応じない場合,調停に欠席する恐れがある場合など調停をする必要がないと思えば,いきなり審判を申し立てることもできます。
もっとも,当面の生活費を欠き,このような手続きをしている余裕がない場合もあると思います。この場合,妻は調停を申し立てた場合であれば,生活費の支払いを求める調停前の仮の措置を,審判を申し立てた場合であれば,生活費の仮払い等を命ずる審判前の保全処分を申し立てることになります。なお,生活費の支払いを命じる調停前の仮の措置には10万円以下の過料の制裁がありますが,必ずしも実効性があるものではありません。これに対して,審判前の保全処分は,執行力があり強力ですので,当面の生活費を欠いているような状況であれば,婚姻費用分担の審判を申し立てるとともに審判前の保全処分を申し立てることをお勧め致します。
4 まとめ
以上のように,婚姻費用の分担は,夫婦間の話し合いによってなされることが望ましいですが,どうしても夫が婚姻費用を負担してくれない場合,家庭裁判所に対して,調停や審判を申し立てることも可能です。
もっとも,夫婦間での話し合いだけでなく調停の場合でも,離婚までの別居期間が長ければ,婚姻費用の金額も高額になるため,慎重に判断する方が多いのですが,逆に離婚までの別居期間が短い場合,どうしても金額が低くなってしまい,慎重に判断しなくなってしまうことが多いように感じます。また,別居期間が短い場合であれば弁護士に依頼しても弁護士費用の方が高くなってしまい,「損」してしまうと感じてしまう方もいらっしゃると思います。
しかし,婚姻費用の金額は,子供の養育費との関係でも参考にされます。そのため,婚姻費用の段階で弁護士を入れておらずあまりに低い金額で合意をしてしまうと,後に養育費を決める際に低額化してしまい,結果的に大きな「損」をしてしまう恐れもあります。
そこで,自分が悩んでいる問題に潜在的な問題が含まれていないか一度弁護士に相談してみることをお勧め致します。
【離婚問題】別居中の夫が子供を連れ去った!子供を取り戻すためには?
離婚に際して子供の親権をどちらが持つかで熾烈な争いになることは珍しくありません。なかには,別居中の妻の下にいる子供を夫が幼稚園から連れ去ってしまうという例もあります。このように,子供をもう一人の親権者に連れ去らわれたときにどのような対応をすべきなのでしょうか?まずは話し合いという方法が思いつくことかと思いますが,このような状況になっている以上,話し合いでの解決は難しいでしょう。そこで,今回は,子供の引渡請求をするための方法をご紹介したいと思います。
1 どんな方法があるの?
話し合いで解決が出来そうにないときは,法律上の手続きを利用して子供の引渡しを求めることになります。
別居中の夫婦間において子供の引渡しを求める方法としては,①家事事件手続法による子の監護に関する処分としての子の引渡しを請求する方法,②人身保護法による方法,③未成年者略取又は誘拐罪による刑事告訴などがあります。
以下では,これらの方法について詳しくご紹介したいと思います。
2 ①家事事件手続法による子の引渡し請求
(1) 子の引渡しを求める家事審判、家事調停
子の引渡し請求は,家庭裁判所に対して家事審判の申立てをすることができます。この場合の管轄は,子の住所地を管轄する家庭裁判所とされています。なお,審判だけでなく調停(裁判所を入れた話し合い)を申し立てることも可能ですが,この方法を選択すると1ヶ月に一回のペースで話し合いを進めることになってしまい,迅速性に欠けることから,あまり選択することは多くないと言えます。
引渡しを認めるか否かにあたって家庭裁判所は,夫婦で養育をしていた当時の子供への妻と夫の関与の程度や内容,妻が子供を実家に連れ帰った理由や経緯,妻の実家での子供の養育状況,夫への子の引渡し及び夫と子との面接についての妻の意向・子供の意向(子の年齢が上がるにつれて子の意向が重視されることになります。),夫が引渡しを受けた場合に予定されている子の養育の方法,内容,離婚の可能性や離婚した場合の親権者としての適格性などといったものを総合考慮して,子供の引渡しを認めることが子供のためになるかどうかという観点から裁判官が決定することになります。そのため,家事審判の申立書では,この視点に沿う主張・立証を的確に行う必要があるので,専門家の協力が必要になってきます。
(2) 保全処分
子に差し迫った危険があるなど,現状を放置していたのでは調停や審判による解決を図ることが困難になるというような事情がある場合,併せて,仮に子の引渡しを命ずる審判前の保全処分の申立てをすることもできます。
(3) 子供の引渡しが認められたのに相手が従わなかったらどうするの?
家庭裁判所による審判や保全処分が出ても,相手方がその決定に従わない場合,一定の要件の下で直接強制(子供を奪った親の下に行って,子供を連れてくる方法を言います。)をすることが可能です。どのような場合に要件が備わっていると考えられるかは,子供の年齢が重視されており,小学校低学年程度の年齢であれば直接強制も可能であると判断される傾向にあるようです。
なお,親が子供を抱きかかえて離さないような場合は,間接強制と言って金銭を支払わせるという心理的圧迫を加えて履行させる方法によることになります。しかし,この方法には,金銭の支払いを厭わない人や逆に資力の乏しい人には効果がないという難点があります。
3 ②人身保護法による方法(人身保護手続)
人身保護手続は,拘束されている人の自由を回復するための手続きです。そのため,現在の監護者による子の拘束に顕著な違法がある場合,人身保護請求手続を利用する余地があるとされています。
人身保護請求手続は,手続が非常に迅速であること,相手方の出頭を確保するための身柄の拘束などの手段が用意されていることといったメリットがあります。殊に子供の引渡しについて,拘束者が判決に従わない場合,2年以下の懲役又は5万円以下の罰金に処せられると規定されており,実現性が高い手続となっています。
しかし,夫婦の一方が他方に対し,共同親権に服する幼児の引渡しを人身保護手続によって請求する場合,「他方の配偶者の監護につき拘束の違法性が顕著であると言うためには,その監護が,一方の配偶者の監護に比べて,子の幸福に反することが明白であることを要する」とされており,離婚前の夫婦においての利用はかなり難しいと思われます。実際,最高裁が顕著な違法があるとして子の引渡しを認めた事案は,いずれも調停期日において成立した合意に反して実力で子を拘束したというものであり,共同親権者間の子の引渡しを巡る事件で人身保護請求手続による救済が可能なのは,調停や当事者間の合意等により監護者が定められたにもかかわらず,その調停や合意等に反して,子を連れ去ったり,子を引き渡さないというような極めて限られた事案のみということになると考えられるでしょう。
4 ③未成年者略取又は誘拐罪による刑事告訴
先程述べたような民事上の手続きだけではなく,実質的に引渡しを受ける方法として,刑事手続により解決する方法もあります。実際,親権者であったとしても,無理やり連れ去ってしまうと,未成年略取罪という犯罪が成立する可能性がありますので注意して下さい。
5 まとめ
以上のように,話し合いで解決できなかった場合,基本的には,家庭裁判所を活用した方法をとることになります。裁判所は監護権者(子供の世話をする人)を判断するにあたって「監護環境の継続性」を重視しています。そのため,子供を連れ去らわれたときは,一日でも早く対応をすることが何よりも大事になります。また,すぐに対応しようとしても法律の専門家ではない場合や専門家であっても十分なノウハウのない弁護士であれば迅速に対応することができません。
よって,お困りの場合は一日でも早く経験豊富な弁護士に相談するようにしてください。
【離婚問題】弁護士が教える養育費の決め方のコツ
離婚するにあたって,どうしても考えなければならないお金のこと…。子供の親であれば,子供に不自由はさせたくないですよね。今回は,子供を育てるための費用である「養育費」について知っておくと便利な知識をご紹介したいと思います。なお,一般に監護権者になるのは妻の場合が多いので,養育費を支払う側を元夫,養育費を支払われる側を元妻としてお話しさせて頂きます。
1 養育費はいつまでもらえる?
まずは,養育費の額を決めるにあたって重要な要素となる養育費の支払終期についてお話ししたいと思います。
(1) 基本的には20歳まで
養育費とは,経済的に独立して自己の生活費を獲得することが期待されていない年齢にある者,すなわち未成熟子に対して支払われるものですから,一般的には子供が成人する20歳までとされています。
もっとも,両親の経済力や学歴等に照らして,子供が大学に進学することが予定されている場合,20歳までではなく,「子供が大学を卒業する年の3月まで」と定めることもあります。このような場合,子供の年齢が20歳を過ぎても大学を卒業するまでは養育費を支払ってもらえることになります。最近は,一般的に大学に進学する子がほとんどですので,裁判所も基本的に大学に進学することを前提に考える傾向にあります。ですので,大学卒業までというのが基本形になりつつあると考えて良いかもしれません。
(2) 20歳まで支払わなくて良いこともあるし,減額されることもある
また,養育費を「子供が成人になるときまで」と定めていたとしても,場合によってはそれより前に支払わなくていい場合や減額が可能なこともあります。
このような定めをしている以上,本来であれば,養育費の支払は子供が成人になるまで続きます。
しかし,子供が中学校・高等学校を卒業してすぐに就職をした場合のように子供が自分で独立して生活費を獲得できるようなときにはその時点で養育費を支払わなくても良くなると考えられます。
また,支払う側の個人的事情,社会的事情の変更,例えば会社をクビになったとか,怪我をして長期入院したとかで収入が大きく減った場合や再婚して育てなければならない子供の数が増えたような場合,物価が著しく下がった場合などでは,養育費が減額されることもあり得ます。
ただし,これらも一度決めた内容を変更するのであれば,変更するための手続を経る必要がありますので,注意が必要です。
2 一括払いと分割払いどっちがお勧め?
では,以下の「2 一括払いと分割払いどっちがお勧め?」から「5 振込先口座は子供名義か元妻名義か」では,実際に養育費をどうやって支払うか,どうやってもらうかという「支払方法」についての話をしたいと思います。
「養育費を一括で支払ってほしい」との要望をたびたび耳にします。このような要望をする理由は,途中から支払ってくれなくなるのではないか,という不安によるものです。
養育費は,未成熟子の日々の生活のための費用ですから,月払いが原則です。したがって,一括払いしてもらうには養育費を支払う側との間で合意をすることが必要になります。
しかし,一括払いとなれば金額が極めて高額になること,元妻が本当に子どもの養育費として使用してくれるのかという不信感,養育費を一括払いすることで子供との縁が切れてしまうのではないかという不安感等から,養育費を支払う側が養育費の一括払いに合意することは稀です。現実的に,将来の養育費全額を一括で支払えるだけの貯金を持っている父親は本当に稀でしょう。
もっとも,仮に養育費を一括でもらえるとしても,贈与税の支払義務が発生する可能性が高く,本当に一括払いの方がいいのかは慎重に判断すべきでしょう。
なお,一括払いを選択した場合,子供のために確実に使われることを担保する方法として,養育信託という方法がございますので,ご検討の際は信託銀行に問い合わせてみることをお勧め致します。
3 養育費を払い忘れることのリスク
例えば,元夫が会社員で今月の養育費の支払が遅れたとしましょう。このような場合,普通の債権であれば,滞っている分しか差し押さえることは出来ませんが,養育費の場合は,将来の養育費をすべて差し押さえることが可能とされています。つまり,元妻は,地方裁判所に対し,将来にわたる給料債権の差押えを申し立て,これが認められると,元妻は実質的に給料天引きで養育費を受け取るのと同じ効果が期待できます。そうなると,元夫は養育費の終期まで給料の一部を差し押さえられ続けることになります。
そのため,元夫としては,養育費については絶対に支払いを忘れないように注意する必要があります。
4 養育費を手渡しすることってできる?
養育費を支払う際に「子供に手渡しをすることは出来ませんか?」とおっしゃる方もいらっしゃいます。たしかに,子供に直接気持ちを伝えることが出来るというメリットはありますが,あまりお勧めは致しません。養育費を支払ったことを立証することが困難だからです。
養育費の支払方法として一般的に用いられるのは「預貯金口座への振り込み」です。このような支払い方法を定めるにあたっては,振込先の口座だけでなく,振込日も明確に定めておく必要があります。
なお,銀行の自動送金を利用する方法もございます。これは,元夫の口座から振込日に自動で指定の口座に振り込むという方法です。この方法を採用するには,銀行に自動送金を申し込む必要がありますが,一度手続きをしておけば,今後毎回金融機関へ出向く必要がなくなるだけでなく,「3 養育費を払い忘れることのリスク」でお話ししたようなリスクのある払い忘れの可能性もなくなりますので検討してみてはいかがでしょうか。
5 振込先口座は子供名義か元妻名義か
元夫が子供を育てるための費用の分担として養育費を支払っている以上,元妻に支払うのが原則です。しかし,元妻に対する感情や子供に将来思いを伝えたいなどの理由から子供名義の預金口座に振り込みたいと思う人も多いと思います。このように子供名義の口座に振り込むとする方法も合意さえすれば可能です。つまり,養育費の振込先口座は子供名義でも元妻名義のいずれでも構いません。
なお,養育費だけでなく,解決金や財産分与の支払いがある場合,これらを同一口座に振り込むことにしていると,一部しか支払えなかった場合に何のお金を振り込んで,何のお金が滞納になっているかが分からなくなってしまいます。ですので,解決金・財産分与なども問題になる場合には別々の口座に振り込むようにすることをお勧め致します。
6 確実に養育費を獲得するための方法
最後に元夫が養育費を支払ってくれない場合を見越した対策についてお話ししておきたいと思います。
養育費について合意書を作成していれば,支払いが滞っても大丈夫と思っている方がよくいらっしゃいます。確かに,このような書面が作成されていれば裁判になった時に便利ではあるのですが,これがあるからと言って直ちに給料などを差押えて強制的に養育費を支払ってもらえる訳ではありません。このような書面だけですと,調停や裁判という手続きを経なければなりません。
そこで,給与差押等の強制執行を視野に入れるのであれば,公証役場で「強制執行をしても構いませんよ」との文言(強制執行認諾文言)を付した公正証書を作成することです。公正証書を作成しておけば,わざわざ裁判をすることなく,強制執行で相手方から養育費を回収することが可能になります。
7 まとめ
いかがだったでしょうか?今回は,養育費について知っておくと便利な知識についてお話しさせて頂きました。養育費は長期的に支払っていくものになるため,どうしても先の話として安易に期限や金額などを決めてしまう傾向にあります。また,月ごとに見てしまうと金額がどうしても安価になってしまうため,弁護士を入れるのは少し躊躇われるかもしれません。しかし,養育費の支払終期が1年でも,毎月の養育費が1万円でも変われば,総額としては数十万円単位で変わってくることも少なくありません。そのため,離婚事件に経験豊富な弁護士を入れて話し合いを行うことをお勧め致します。
【離婚問題】弁護士が教える養育費の請求方法!
離婚した後,子供の世話はどうしよう…。一人で子供を育てることは想像以上に難しいものです。一人で子供を養っていける自信があるとしても,お金はいくらあっても困るものではありません。そのため,今回は,相手から養育費をきっちりもらうために養育費はどうやって請求すればいいのかについてご説明させて頂きたいと思います。
1 養育費ってなあに?
離婚する夫婦に未成年の子供がいれば,その子供の親権・監護権(子供を世話する権利)を夫婦のいずれが有するか決める必要があります。しかし,一方の親が子供の親権者・監護権者にならなかったからといって,その親も「子供の親」であることに変わりはなく,子供を育てる義務を負っています。そして,夫婦のいずれかが子供を世話するとしても,子供を育てるにはたくさんのお金が必要になってきます。
そこで,子供を育てている親は,子供を育てていない親に対して,子供を育てていくための費用,すなわち養育費を請求することが出来ます。養育費は,先程も申しましたように,子供の親権者・監護権者ではなくても「子供の親」であることによって負担するものですので,婚姻中だけでなく,離婚した後であっても請求することが可能です。
もっとも,中には「自分の生活が厳しいから養育費なんて払えない」と言って,養育費を払わない方もいらっしゃいます。しかし,養育費の支払義務は,子どもが最低限の生活ができるための扶養義務ではなく,それ以上の内容を含む「生活保持義務」と言われています。生活保持義務とは,扶養を受ける者にも自分と同程度の生活をさせる義務を言います。つまり,養育費は子供を育てていない親が「自分の生活が厳しいから養育費なんて払えない」と言っても支払義務を免れるものではなく,生活水準を落としてでも払う必要があるお金と言えるのです。
2 養育費の決め方
養育費は,離婚のときに離婚と一緒に決めることが多いですが,何も離婚のときに決めていなかったからといって請求できなくなる訳ではありません。
(1) まずは話し合い!
養育費をどのように分担するかは,両親の話し合いによって決めることが出来ます。お互いの収入や財産,これまで子供にかけた養育費の実績,これからの生活の見通しなどを考慮して決めてください。
そして,話し合いがまとまったら必ず夫婦が署名押印した書面にその内容を記載しておきましょう。可能であれば,公証役場で「約束を守らない場合は強制執行をしても構いません。」という文言を付けた公正証書の作成までしておきましょう。このような公正証書を作成しておけば,万が一,養育費を支払ってもらえなかったときに裁判をすることなく,相手方の給料などを差し押さえることが可能になるので,活用して下さい。
(2) 二人での話し合いがダメなら調停へ
もっとも,当事者だけでの話し合いがまとまればいいのですが,必ずしもそんなに上手く行くとは限りません。そのような場合,養育費分担の調停又は審判を申し立てることになります。養育費分担の調停が申し立てられた場合,基本的に2名の調停委員が立会い,話し合いを円滑に進行してくれます。また,調停委員は調停の進行役となりますので,調停委員の説得が有利な調停成立のカギになります。
なお,調停・審判では「東京・大阪養育費等研究会」が提案した「簡易迅速な養育費等の算定を目指して-養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案-」(http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/santeihyo.pdf)が広く活用されています。ここでは,その内容については踏み込みませんが,調停・審判を進めるにあたっては目を通しておくべきでしょう。
(3) 調停でもまとまらないなら審判へ
調停がまとまらなかった場合,審判へと移行することになります。審判とは,裁判官が,当事者から提出された書類や家庭裁判所調査官の行った調査の結果等種々の資料に基づいて判断する手続を言います。審判では先程も申しました「簡易迅速な養育費等の算定を目指して-養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案-」を参考にして養育費額を決定することが一般的です。
3 養育費が支払われなくなったらどうすればいいの?
(1) 履行勧告
調停離婚や審判離婚,判決などにおいて養育費の支払を定めているにもかかわらず,養育費が支払われない場合,家庭裁判所から相手方に養育費を支払うよう勧告する(これを履行勧告と言います)ことを申し立てることが出来ます。
この履行勧告を申し立てるにあたっては,手数料も不要ですので,簡単に利用することが出来ます。
しかし,履行勧告は自発的な支払いを促すにとどまり,強制力を伴いませんので実効性に欠けるのが実情です。
(2) 強制執行
そのため,養育費の支払がなされない場合,強制執行を検討することになります。強制執行は,相手方の給与債権を差し押さえるのが一般的だと思います。
養育費を支払期限通りに支払わなければ,その分の養育費だけでなく将来分の養育費についても強制執行を申立てることができます。すなわち,一度でも養育費の支払が遅れていれば,将来の養育費の差し押さえが可能となり,滞納のたびに強制執行を申し立てる必要はありません。そのため,相手方が養育費を支払ってはいるものの,期限に遅れて支払うような場合,今後の養育費を予定通り支払ってもらうために利用することも可能となります。
4 まとめ
いかがでしたでしょうか?養育費を定めるにあたっては,「簡易迅速な養育費等の算定を目指して-養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案-」を参考にして裁判所は運用されていますので,調停・審判を行う際には,必ず確認をしておくようにしましょう。なお,これは一般的な家庭を想定して作成されていますので,特別な事情がある場合には,修正が必要になり,適切な修正をするには専門的知識が必要になります。
また,強制執行をするにあたっては,相手方に本当にその債権があるかが問題になります。給与債権以外にも強制執行の対象財産は考えられますので,実際に強制執行をする場合,どのような戦略をとっていくかなど専門家を含めて慎重に検討する必要があります。
そこで,養育費を請求するに当たっては,最初の段階で離婚事件について経験豊富な弁護士に相談することをお勧め致します。
【離婚問題】養育費っていくらくらいもらえるの?
夫(又は妻)と離婚したとしても,自分たちの子供を育てていかなければなりません。しかし,一般に専業主婦であれば離婚してしまうと収入源がなくなってしまうため,生活がどうしても苦しくなってしまうことも珍しくありません。そこで,このような場合には子供の生活費を確保する方法として,養育費を請求することになりますが,今回は養育費をいくらくらいもらえるのかという点についてお話ししたいと思います。
1 養育費ってなあに?
まずは,養育費とは何か,ということからお話ししたいと思います。
前提として,親は子供に対して,生活保持義務を負っています。生活保持義務とは,自分の生活と同程度の生活を相手方に保持させる義務のことを言います。その義務を具体化するものとして,親は子供に対して養育費を支払わなければなりません。
養育費とは,簡単に言うと子供の生活費のことです。例えば,子供の衣食住費,医療費,交通費等,生活する上で必要な費用がこれに含まれます。
2 養育費の決め方
では,この養育費はどのように定めればいいのでしょうか?
これについて,民法は,養育費算定の具体的方法,基準について何ら規定をしていません。そのため,養育費についても財産分与や慰謝料の場合と同じように話し合いで自由に決めることができます。よって,お互いが合意できる限り「全く支払わなくてもいい」とか「毎月100万円支払う」という内容で養育費の合意をしても構いません。
もっとも,話し合いで自由に決めることができるとはいえ,毎月子供のために費消する生活費として必要な金額は,家庭ごとに差はあるとしても限度はあるでしょうから,あまりに現実とかけ離れたような金額,例えば年収500万円の家庭で養育費として「毎月50万円支払え」などというもの,を請求しても,話し合いはまとまりません。
話し合いがまとまらない場合,調停を申立てることになりますが,調停でも合意に至らない場合は,話し合いではなく,裁判官が一方的に金額を決定する,審判という手続きで金額を決めることになります。
調停や審判等の裁判所での手続きでは,養育費の金額に関し,ある程度相場のようなものがありますので,これらの手続きだけでなく,二人での話し合いを有利に進めるためには,相場がいくらかを知っておくことが重要になってくるでしょう。
3 養育費はどのように決められるの?
前でお話ししたように,養育費の金額は,基本的に話し合いによって自由に決定することができますが,調停においては,「簡易迅速な養育費等の算定を目指して-養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案-」(以下,算定表といいます。)をもとに養育費を計算することが一般的です。
この算定表は,裁判所のホームページ(http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/santeihyo.pdf)にも掲載されているため,ご覧になったことがある方も多いかもしれません。この算定表では,以下の事情を考慮して金額が決定されます。
① 支払う側の年収
支払う側の年収が多ければ多いほど,養育費の金額も大きくなります。給与取得者の場合,源泉徴収票の「支払金額」が,自営業者の場合,確定申告書の「課税される所得金額」が年収に当たります。
② 受け取る側の年収
受け取る側の年収が少なければ少ないほど,養育費の金額も大きくなります。そのため,養育費を受け取る側が専業主婦の場合,高額になる傾向があります。なお,子供の養育は親子関係から導かれるものですから,たとえ受け取る側の年収の方が支払う側の年収よりも多いとしても養育費を請求することは可能です。
③ 子供の人数
養育費は,先程も申しましたように,子どもの生活費です。そのため,子どもの人数が多いほど養育費も高額になる傾向があります。
④ 子供の年齢
子供が大きくなると義務教育ではなくなるため,教育費などが小さい頃よりも多くかかる傾向があります。そのため,子どもの年齢が高いほど養育費も高額になっていく傾向があります。
4 算定表の利用手順
養育費算定にあたっては,上記の事情を考慮し,該当する算定表を参考にして金額を計算することになります。この際の算定表の利用手順は以下の通りです。以下は,実際に算定表を一緒に確認しながら読んでいただけると分かりやすいかと思います。
① 子どもの人数と年齢から利用する算定表を選ぶ。
(現行の算定表は,子どもの人数が3人までの分しか掲載されていませんので,4人以上のご家庭であれば,別途計算式による計算が必要です。これについては,養育費算定に詳しい専門家弁護士にご相談ください。)
↓
② 支払う側(義務者)の年収を確認して,算定表の縦軸の該当する金額を確認する。
この際,自営業者か給与取得者で確認すべき場所が違いますので注意が必要です。
(なお,ここでいう年収とは,先程も申しましたが,給与所得者の場合,源泉徴収票上の「支払金額」の金額を言い,自営業者の場合,確定申告書上の「課税される所得金額」の金額を言います。)
↓
③ もらう側(権利者)の年収を確認して,算定表の横軸で該当する金額を確認する。
この際,支払う側の年収と同様に自営業者か給与取得者で確認すべき場所が違いますので注意して下さい。
↓
④ 両者の年収が交差するポイントが養育費の金額になります
5 まとめ
今回は,算定表を利用した養育費の計算方法についてお話しさせて頂きました。調停における養育費の算定においては,算定表における金額が基準となります。そのため,こういった相場を知っていただくことが解決のために役に立つと思いますので,一度確認してみてください。
もっとも,算定表は,養育費や婚姻費用を簡易迅速に算定するために,典型的な家族構成について,統計資料に基づいて算出されたものです。そのため,各事案の個別的事情については考慮されていません。例えば,子供が私立の学校や大学に通っている場合については考慮されておらず,これらの費用は別途,算定表で定める費用に加えて,請求できることもあります。また,元夫婦がそれぞれ再婚して扶養家族が増えた場合や,複数の子供を夫婦が別々に引き取る場合などは,算定表は使えないため,個別に計算する必要があります。
これらの計算は,算定表が作成された背景事情や,基になった計算式を理解していないと不可能ですので,弁護士の中でも,離婚事件について研鑽を積み,多数の審判例を経験した弁護士でなければ,正確な見通しを立てることは難しいです。
養育費は,長年にわたって支払われるものですので,一見するとわずかの差に見えても年月を加味すればかなりの高額になり,お互いの生活に与える影響は大きなものになります。
ですので,小さな金額に思えても,一度,経験豊富な弁護士に相談することをお勧めします。
【離婚問題】養育費っていつまで払うの?
養育費とは,「未成熟子」の養育にかかる費用であり,扶養義務を負っている両親がこれを分担することになります。もっとも,いつまで養育費を支払わなければならないかは,話し合いによって決めることが可能です。現在の主流に従えば,「子供が成年に達するまで」と決めることになりますが,例えば,両親の話し合いで「子供が18歳になるまで」であるとか「子供が30歳になるまで」のように20歳を基準としないことも可能です。
しかし,話し合いがまとまらないこともあるでしょう。その場合は,いつまで養育費を支払わなければならないのでしょうか?今回は,養育費をいつまで支払わなければならないのかについてお話ししたいと思います。
1 養育費ってどうやって決めるの?
養育費の対象となる子は,「未成熟子」すなわち「経済的に独立して自己の生活費を獲得すべきものとしていまだ社会的に期待されていない年齢にある者」とされています。そのため,社会に出て,収入を得ることで,自らの収入で生活できるようになれば,未成熟子と言うことは出来ません。このように,「未成熟子」と「未成年者」という概念は違いますので,必ずしも養育費は20歳まで支払わなければならない訳ではなく,未成熟子であるかは何歳までといった明確な基準で決まるわけではありません。「未成熟子」に該当するかは,父母の学歴,社会的地位,資力などの家庭環境などを考慮して個別具体的に決めることになるのです。
(1) 「大学を卒業する年の3月まで」等と決めることは出来ないの?
現在の日本における大学進学率は50%を超えており,大学に進学することは決して珍しいことではありません。このような現状の下,子供が成人になる以前から「大学を卒業する年の3月まで」,「大学院を卒業する年の3月まで」等と決めることが出来ないのでしょうか?
裁判所は,先程も申しましたように,父母の学歴,社会的地位,資力などの家庭環境などを考慮したうえで養育費の支払終期を判断しています。そのため,これらの事情を考慮したうえで,通常,大学卒業以上の高等教育を受ける家庭環境であると判断される場合,親に養育費等の負担をさせることが出来ると判断すると考えられます。
裁判所においても子供の世話をしていない方の親が医師である場合や大学在学中の子供が大学を卒業することを望んでいる場合に「大学を卒業すべき年齢時まで」の養育費支払い義務を認める審判が出ています。現在では,これらの審判例よりも進んで両親が大学を卒業していたら,子供が大学を卒業するまでの養育費の支払いを認める傾向にあると言えるでしょう。
もっとも,このように「大学を卒業する年の3月まで」の養育費の支払いが認められるとしても,「大学院を卒業する年の3月まで」と定めることは難しいと思います。大学進学については一般的になってきたと言えるとしても,いまだ大学院への進学は決して一般的なものとは言えないからです。
ただ,先程申しました事情に加えて,大学院進学に対する親の意向や考え方によっては認められる余地もありますので,一度話し合いをしてもいいかもしれません。
2 20歳までと合意したら20歳まで支払えばいいの?
既に養育費の支払終期を「子供が成年に達する月まで」と決めていたとしても,必ずしも支払終期がその時までと言う訳ではありません。事後的に事情が変更された場合,養育費の支払時期の延長を求めることが出来るからです。
では,どのような事情があれば支払終期を変更することが出来るのでしょうか?
(1) 20歳以上まで支払わなければならない場合
養育費は,「経済的に独立して自己の生活費を獲得すべきものとしていまだ社会的に期待されていない」年齢にある者に対して支払われるものです。そのため,例えば,病気等によって20歳を超えても働くことが出来ないような場合,20歳を超えたからとして養育費を支払わなくてもいいのでしょうか?
このような場合に20歳になったからと言って養育費を支払わなくていいというのは酷な気がします。そのため,年齢としては経済的に独立して自己の生活費を獲得すべきと言えるとしても,病気などによって20歳を超えても働くことが出来ない場合,法律上の「未成熟子」であるとして養育費の支払いを受けることが出来ると判断した審判例もございます。
また,子供が大学在学中であって大学卒業の意思が強い場合などであれば,養育費の支払時期を大学卒業時までと延長することが可能な場合もあります。
(2) 20歳未満でも支払わなくていい場合
逆に,養育費を20歳未満でも支払わなくて良くなる場合はあるでしょうか?
まず,中学校卒業後にすぐに働き始めた場合を考えてみましょう。
このような場合であれば,子供は既に独立した経済力を持ち,社会的に独立していると言うことが出来ますので,「未成熟子」に該当しません。このことは,高校を中退して働き始めた場合であっても同様です。つまり,未成年であっても働いている場合であれば,20歳未満であっても,養育費を支払わなくていい場合もあります。
また,中学校卒業後,高校に進学せずに何もしていない場合であったり,高校に進学しても中退し何もしていない場合であったりしても,社会に出て働くことが期待されているのですから,「未成熟子」と評価できない場合もあります。
以上のような場合であれば,養育費を支払わなくて良くなる場合もあり得ます。なお,義務教育の間は,子供が学校に通っていないとしても,「未成熟子」として養育費を支払わなければなりません。
2 まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は養育費の支払終期に関することについてお話しさせて頂きました。両親が大学を卒業している場合でしたら,最終的に大学卒業時までの養育費を支払うことになるケースが多いかと思います。
もっとも,養育費を決定するにあたって,金額については皆さん注意するのですが,支払終期は先の話になるのであまり気にしない人が多いように感じます。しかし,養育費の支払終期が20歳か大学卒業時の22歳になるかで総額は百万円単位で変わってくることになりますので,養育費をいつまで支払わなければならないかは慎重に決定する必要があります。
適正な養育費の支払終期を判断するのは容易ではないと思います。そのため,離婚事件の経験豊富な弁護士に一度相談してみてください。
【離婚問題】養育費って一度決めたら変更できないの?
離婚に際して,養育費を決めたけど本当にこの金額が適正なのかな?このようなお悩みの方はいらっしゃいませんか?離婚した当時はこの金額でいいと思いっていたけど,離婚した後に会社をクビになったから養育費を減らしたい,子供が私立大学に進学するから養育費を増やしたい…。養育費を支払う側も養育費を支払われる側もいろいろと悩みがあるでしょう。今回は,そのような場合に養育費を増額出来たり減額出来たりするかお話ししたいと思います。
1 一度決めた養育費の金額を変更することは出来るの?
養育費の金額や支払い方法については,話し合いや調停などで決めることになりますので,増額や減額を求めることも可能です。
一方で,養育費を些細な事情の変化で変更出来るとしたら,極めて不安定になってしまいます。他方で,養育費の支払は相当長期間にわたるものですから,経済事情の変化や支払う側,支払われる側の事情の変更等により,実情に合わなくなることがあります。
そこで,離婚当時に予測しえなかった個人的,社会的事情の変更が生じたと認められる場合,養育費額の増減が認められます。ここで,個人的事情の変更としては,父母の勤務する会社の倒産による失業,親や子の病気,怪我による長期入院等が,社会的事情の変更としては,物価の急激な上昇による養育費の増大等,物価変動や貨幣価値の変動があった場合が該当します。
2 どのような場合に減額することが出来るの?
では,どのような事情があれば養育費の増減が認められるでしょうか?以下では,養育費を支払う側をお父さん,養育費を支払われる側をお母さんとしてお話をさせて頂きたいと思います。
(1) 養育費を減らしたいお父さん側が主張したい事情
それでは実際に養育費を減額したいお父さんはどのような事情を主張すればいいのでしょうか?
具体的には,
・ リストラなどによってお父さんの収入が大きく減少した
・ 養育費を支払われるお母さんの収入が大きく上がった
・ お父さんが再婚し,その養うべき家族が増えた
・ 養育費を支払われるべきお母さんが再婚し,子供と再婚相手が養子縁組をした
などの場合では,お父さんによる養育費の減額請求が認められる可能性があります。なお,ここで注意してほしいのは事情の変更は重大なものである必要があると言うことです。例えば,お父さんの年収が700万円だったのが,降格になって650万円になったので月々5,000円減額したいという主張では,養育費の減額請求を裁判所が認めることはないでしょう。
(2) 養育費を増額したいお母さん側が主張したい事情
では,養育費を増額したいお母さんとしてはどのような事情を主張すればいいのでしょうか?
具体的には,
・ 物価の著しい上昇があった
・ 子供が大きな病気にかかってしまった
・ 子供が学齢期に達した
などの場合には,お母さんによる養育費の増額請求が認められる可能性があります。
もっとも,進学塾に通わせたい場合や私立大学に進学することになった場合などの教育費として増額を請求することは出来るでしょうか?
養育費の増額が認められるかは,親の社会的地位,学歴,経済的余力,子の学習意欲,家庭環境等,諸般の事情を考慮して個々的に決められることになります。そのため,子供が私立大学に行きたいと言っているとの一事をもって養育費の増額が認められる訳ではなく,個別具体的な事情に応じて様々な事情を考慮して判断することになります。ただ,裁判所は,私学の入学金の負担分についての増額を認めなかったり,追加の教育費を請求した事案においても増額を認めなかったりするなど,容易には教育費の増加による養育費の増額を認めない傾向にあると言えます。
とりわけ,学費の高い私立学校への進学は,お父さんが公立学校への進学を主張しているのに私立学校に入れた場合,養育費の増額を認めるのはかなり難しいと言えるでしょう。
3 まとめ
いかがでしたでしょうか?裁判所において,養育費を変更してもらうには重大な事情変更が必要になってきます。そのため,先程も申しましたように年収が少し下がったとか,年収が少し上がったからといって当然に養育費が増減するものではありません。もっとも,重大な事情変更と言いましても,明確な基準があるわけではありませんので,具体的な事案を見て判断するしかありません。そのため,実際に養育費の増減額が認められそうかは,弁護士に相談していただく必要があります。
また,裁判所では増額が難しい事案の場合,弁護士を介して話し合いによる解決を図ることが得策なケースも多々あります。
養育費の増額や減額が出来ないかお悩みの場合には,離婚事件の経験豊富な弁護士に一度ご相談して下さい。
【離婚問題】浮気相手に騙されていた場合って,逆に慰謝料は取れないの?
不倫は一般にしてはいけないことであるとのコンセンサスがあると思います。このことは,不倫をしたら離婚することになったり,慰謝料を請求されたりすることが周知されていることからも明らかでしょう。
ただ,不倫をしていた人の中には既婚者と知らずに付き合っていたケースもあります。また,既婚者とは知っていたものの,奥さんとは離婚寸前で夫婦関係は形骸化しているものと認識したからこそ交際を始めたというケースもあります。このように,不倫といっても,既婚者に騙されて不倫に至ってしまったという人も少なからずいらっしゃいます。このような人も慰謝料をとられてしまうのでしょうか?むしろ既婚者に騙されてしまった被害者として慰謝料を取れるのではないでしょうか?今回は,浮気相手である既婚男性に騙されていた女性は慰謝料を支払わなければならないのかについてお話ししたいと思います。
1 事案の紹介
既婚男性Xとその妻Aは,平成19年に婚姻しました。同年には,子供も生まれ,X・A夫婦は夫婦として何不自由なく暮らしていました。
しかし,Xは出会い系サイトに嵌り,その中で後に浮気相手となるYと知り合いました。Xは,Yに対して,妻Aとの生活が苦痛でならないなどと度々言っていました。Yは当初Xの話を信じてはいませんでしたが,Xは妻Yとの仲が破綻しているのは間違いないとして,弁護士を入れて離婚調停中であると言ってきました。加えて,Xは弁護士を依頼していることを信用してもらうため,弁護士からの報告書を見せてきました。そのため,YはXAの婚姻関係は破綻していると信じて男女の仲になりました。
しかし,Xが見せてきた証拠はすべてXが偽造したもので,一見してわからない程精巧なものでした。
2 騙されていた人に対する妻からの慰謝料請求が認められない!
では,このような事案において妻AからYへの慰謝料請求が認められるでしょうか?
流石にこのような場合であればYへの慰謝料請求は認められません。たしかにYはXが既婚者であると知ってはいるのですが,既にXA間の婚姻関係は破綻していると過失なく信じているからです。通常であれば,裁判所は「婚姻関係が破綻していると信じました」と主張したとしても,簡単にこれを信じることはないのですが,今回のようにXが証拠まで偽造して信じ込ませていた場合であれば,Yが婚姻関係が破綻していると信じたとしても仕方がないと言えるでしょう。
3 騙されていた人は既婚者に対して慰謝料を請求できないの?
逆に,Xに騙されていたYはXに対して慰謝料を請求できないでしょうか?
このような場合,XとYの双方の不法性を比較した上で,Yの請求が認められるかが判断されることになります。
さて,どういった場合であればYの請求が認められるのか,実際の裁判例をいくつか見てみたいと思います。
〈Yの請求が認められた裁判例-①〉
Yは,就職先で上司であり妻と三人の子供を持つXと知り合いました。Xは妻と不仲であったので,Yと婚姻する意思がないにもかかわらず,妻と離婚して婚姻する旨の嘘を伝えたため,Yはその話を信じて男女の仲になり,その後,Yは妊娠しました。
YがXに妊娠した旨話すと出産を勧めてきましたが,その翌日にはYを避けるようになりました。そして,XはYが分娩した際には,費用を負担したほかは交際を絶ち,他の女性と浮気をする有様でした。
このような事案において,裁判所は「女性が情交関係を結んだ当時男性に妻のあることを知っていたとしても,その一事によって,女性の男性に対する貞操等の侵害を理由とする慰謝料請求が,民法708条の法の精神に反して当然に許されないものと画一的に判断すべきではない」として,XはYに対して60万円の慰謝料を支払うべきであるとしました。
〈Yの請求が認められた裁判例-②〉
既婚男性XはYに対して,全くの虚偽の事実やエピソードを交えて,妻との夫婦関係が破綻しており,離婚必死であるとの嘘をついてYを誤信させ男女の仲になりました。その後,Yから避妊を求められた際にも,「子供もほしいし結婚も考えている」などと話しました。その後も夫婦の間で離婚の話など全く出ていないのに,全くの虚偽の事実やエピソードを交えて,「離婚してYと暮らしたい」などと述べ,交際を続けました。ついにYは妊娠してしまいましたが,Yが中絶したいと言ってもそれを再三拒否し,結局Yは出産することになりました。
このような事案において,YにもXの言動を簡単に信じたという点で落ち度はあるとしつつも,Xは全く虚偽の事実を述べるなどその違法性の程度の方が大きいとして,XはYに対して75万円の慰謝料を支払うべきであるとしました。
このように浮気相手Yが既婚者であると知っているだけでなく,婚姻関係が破綻していると軽信した場合であっても,Xが殊更嘘をついてYとの交際を続けているのであれば,XはYに対して慰謝料を支払わなければならない場面があると言えるでしょう。
また,これらの裁判例を踏まえれば,最初に例として紹介したYの請求も認められる可能性が高いでしょう。
4 まとめ
いかがでしたでしょうか?騙されて浮気してしまった場合であれば,妻からの慰謝料請求に応じる必要がないかもしれませんし,逆に騙した男性に対して慰謝料を請求することも可能かもしれません。
騙されて交際していたのに慰謝料まで請求されてしまい,辛く何も考えたくないかもしれませんが,そういったときは一人でも自分のために動いてくれる人が助けになるものです。経験豊富な弁護士であれば,あなたの気持ちも考えた適切な対応をすることが可能です。
一度,離婚事件について経験豊富な弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
【離婚問題】別居時の生活費っていくらくらいもらえるの?婚姻費用分担額の基準
「私は1か月前に夫と別居しました。私は,夫の経営している会社を手伝っていましたが,別居してからは無職になってしまいましたので,夫に婚姻費用を支払ってくれるよう請求したいと思うのですが,いくらくらいもらえるのでしょうか?なお,私と夫の間には子供はいません。」
夫(又は妻)との間で別居したとしても,生活はしていかなくてはいけません。しかし,今回の相談者のように別居を機に無職になってしまい収入がなくなってしまうというケースも決して少なくはありません。そこで,このような場合には生活費を確保する方法として,婚姻費用を請求することになりますが,婚姻費用はいくらくらいもらえるのかという点についてお話ししたいと思います。
1 婚姻費用ってなあに?
まずは,婚姻費用という言葉にはあまり聞き覚えはないと思いますので,婚姻費用とは何か,ということからお話ししたいと思います。
前提として,夫婦は,法律上互いに生活保持義務を負っています。生活保持義務とは,自分の生活と同程度の生活を相手方に保持させる義務のことで,その義務の具体化として,相手方に対して婚姻費用を負担しなければなりません。婚姻費用とは,簡単に言うと生活費のことです。たとえば,衣食住費,医療費,交通費等,生活する上で必要な費用がこれに含まれます。
婚姻費用には,配偶者の生活費のみならず,夫婦間の未成熟子の生活費,教育費等も含まれます。なお,婚姻費用の問題は,別居したときに顕在化することが多いですが,同居中であっても請求することは可能です。(同居中の夫が生活費を渡さない等のケースがこれにあたります。)
2 婚姻費用の決め方
では,この婚姻費用はどのように決めればいいのでしょうか?
これについて,民法760条は,夫婦の「資産,収入その他一切の事情を考慮して」決せられると定めていますが,具体的にいくら払うかについての規定はありません。
そのため,婚姻費用についても財産分与や慰謝料の場合と同じように話し合いで自由に決めることができます。よって,お互いが納得している限り「全く支払わなくてもいい」とか「毎月100万円支払う」といった内容で婚姻費用についての合意をしても構いません。
もっとも,話し合いで自由に決めることができるとはいえ,毎月の生活費として必要な金額というのは,各家庭によって多少差はあるとしてもある程度決まっているでしょうから,実際の生活費に必要な金額とあまりにかけ離れた金額を請求すると,話し合いはまとまらなくなってしまいます。話し合いがまとまらない場合は,調停を申立てることになりますが,調停でも合意に至らない場合は審判という手続きで金額が決まります。審判は,話し合いではなく,裁判官が一方的に金額を決定する手続きです。
調停や審判等の裁判所での手続きでは,婚姻費用の金額に関し,ある程度相場のようなものがありますので,交渉を有利に進めるためには,相場がいくらかを知っておくことが重要になってくるのです。
3 婚姻費用はどのように決められるの?
前でお話ししたように,婚姻費用の金額については,基本的には話し合いによって自由に決定することができますが,調停においての話し合いでは,「簡易迅速な養育費等の算定を目指して-養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案-」(以下,算定表といいます。)をもとに婚姻費用を計算することが一般的です。
この算定表は,裁判所のホームページにも掲載されているため,ご覧になったことがある方も多いかもしれません。この算定表では,以下の事情を考慮して金額が決定されます。
① 支払う側の年収
支払う側の年収が多ければ多いほど,婚姻費用の金額も大きくなります。
② 受け取る側の年収
受け取る側の年収が少なければ少ないほど,婚姻費用の金額も大きくなります。そのため,専業主婦の場合には婚姻費用も比較的高額になる傾向があります。なお,収入があるから請求できないという話ではなく,収入があったとしてもその収入に差があれば,婚姻費用の請求は可能です。
③ 子どもの人数
婚姻費用には子どもの生活費や教育費も含まれます。そのため,子どもの人数が多いほど婚姻費用も高額になる傾向があります。
④ 子どもの年齢
子どもが大きくなると義務教育ではなくなるため,教育費なども多めにかかる傾向があります。そのため,子どもの年齢が高いほど婚姻費用も高額になる傾向があります。
4 算定表の利用手順
婚姻費用算定にあたっては,上記の事情を考慮し,該当する算定表を参考にして金額を計算することになります。この際の算定表の利用手順は以下の通りです。以下は,実際に算定表を一緒に確認しながら読んでいただけると分かりやすいかと思います。
① 子どもの人数と年齢から利用する算定表を選ぶ。
(現行の算定表は,子どもの人数が3人までの分しか掲載されていませんので,4人以上のご家庭であれば,別途計算式による計算が必要です。これについては,婚姻費用算定に詳しい専門家弁護士にご相談ください。)
↓
② 支払う側(義務者)の年収を確認して,算定表の縦軸の該当する金額を確認する。この際,自営業者か給与取得者で確認すべき場所が違いますので注意が必要です。
(なお,ここでいう年収とは,給与所得者の場合は,源泉徴収票上の「支払金額」の金額を言い,自営業者の場合は,確定申告書上の「課税される所得金額」の金額を言います。)
↓
③ もらう側(権利者)の年収を確認して,算定表の横軸で該当する金額を確認する。この際,支払う側の年収と同様に自営業者か給与取得者で確認すべき場所が違いますので注意して下さい。
↓
④ 両者の年収が交差するポイントが婚姻費用の金額になります
5 まとめ
今回は,算定表を利用した婚姻費用の計算方法についてお話しさせて頂きました。調停における婚姻費用の算定においては,算定表における金額が基準となります。そのため,こういった相場を知っていただくことが解決のために役に立つと思いますので,一度確認してみてください。
もっとも,算定表は,養育費や婚姻費用を簡易迅速に算定するために,典型的な家族構成について,統計資料に基づいて算出されたものですので,各事案の個別的事情については考慮されていません。たとえば,算定表で考慮されている子どもの教育費は,公立の高校までの費用ですので,私立の学校の学費や大学にかかる費用等は考慮されておらず,これらについては算定表で定める費用に加えて,請求できるケースもあります。また,子どもが4人以上の場合や,再婚して前妻と後妻の双方に子供がいるケースなどについては,算定表は使えないため,個別に計算する必要があります。
これらの計算は,算定表が作成された背景事情や,基になった計算式を理解していないと不可能ですので,弁護士の中でも,婚姻費用や養育費に関し,多数の審判例を経験した詳しい弁護士でなければ,金額について正確な見通しを立てることは難しいです。
婚姻費用は,毎月の負担となりますので,わずかであっても金額の増額又は減額は,生活に大きな影響を与える問題です。ですので,どうにか金額を増やしたい,減らしたいというような場合には,何か方法がないか経験豊富な弁護士に相談することをお勧めします。