鞭(ムチ)打ちの刑が日本でされることは?(罪刑法定主義)
先日、シンガポールにて女性に対し、性的暴行を加えた日本人男性に対し、禁固刑(刑務所に収監される刑です)と鞭打ち20回の刑を言い渡された判決が確定したとのニュースに触れました。
判決が確定したということはこの日本人に対しては鞭打ちの刑がかせられることになるのですが、鞭打ち刑はどんな刑なのかと思って調べてみました。
シンガポールでは、鞭打ちの刑がかされることはめずらしくないらしく、観光でシンガポールに訪れた観光客が公共物に落書きをして捕まり、鞭打ちの刑が科せられることがあったそうです。
女性と51歳以上の男性には科すことができず、回数は、一般の男性は24回以内、少年の場合は10回以内とされています。
どうやら、この鞭打ちとても痛いらしく、1回打たれるだけでも失神する受刑者もおり、回数をわけて執行されるそうです。
執行のタイミングも決まっておらず、いつ執行されるかという恐怖におびえながら過ごすそうです。
ニュースのコメントでは、日本でも性犯罪などに鞭打ちの刑を科すべきだというような意見もありましたが、日本ではこのような刑罰を科すことができるのでしょうか。
まず、日本では、刑法9条で
「死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。」
とされています。
※ただし、改正がなされており、令和7年6月1日からは、懲役刑と禁固刑が「拘禁刑」という刑罰に一本化されることになります。
懲役は、「刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる」刑(刑法12条2項)で、禁固は、刑事施設に収容される点では懲役刑と同じですが、所定の作業(労働)の義務がないものです。
※一本化された拘禁刑では、刑事施設の裁量で作業がされることになります。
そして、日本では犯罪や刑罰は、法律で規定されていなければ科すことはできないため(罪刑法定主義といいます。)、
上記刑法9条で規定されている以外の刑罰を科すことはできません。したがって、現状、日本では鞭打ち刑を科すことができません
では、現行の刑法を改正して、鞭打ち刑を定めることができるのでしょうか。
最も効力が強い法律のことを「最高法規」といい、この最高法規に反する法律は無効となります。
日本での最高法規は憲法で、憲法に反する法律の規定は無効になるところ、憲法36条では
「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」
と規定されており、この「残虐な刑罰」とは、最高裁判所の判例上、「不必要な精神的、肉体的苦痛を内容とする人道上残酷と認められる刑罰」とされています。
そうなると、鞭打ち刑については、不必要に肉体的苦痛を内容とするものであり、人道上は残酷と認められることは明らかだと思うので、日本では鞭打ち刑を科すことはできません。
日本では刑罰の目的が、司法矯正といって、犯罪を犯してしまった人の社会的な更生を目指すことが目的とされていることや、戦前の明治憲法下において拷問や残虐な刑が科されていたことの反省から、残虐な刑罰は「絶対に」禁じられているのですが、シンガポールでは、犯罪を犯した人に対する制裁を科すという目的が強いようです(シンガポールでは日本に認められている執行猶予という刑事施設に収容されることを猶予する制度はありません)。
すこし、話はずれますが、日本では、今、死刑制度が「残虐な刑罰」に該当するので廃止すべきではないかと議論がなされています。
死刑については、多くの国が廃止していること、冤罪だった場合のリスク、被害者側の立場などから様々な意見がある問題ですので、今回の記事をきっかけに、死刑を残すべきかという点について検討されてみてはいかがでしょうか。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。
トイレ休憩、タバコ休憩は「休憩時間」?
コロナでのテレワークの普及や、働き方改革の一環でのフレックスタイム制の導入など、働く時間や場所が多様になっています。 しかし、そういった中でも、定時に会社に出社し、お昼頃の休憩時間に休憩を取り、定時や少し残業をして帰るというような、今まで通りの働き方をされている方も少なくありません。 そういった中で、お昼の休憩時間(タイムカードなどを打刻して休憩する時間)とは別に、トイレに行っている時間や、喫煙される方がタバコを吸いに行っている時間など、厳密にいうと働いていない時間があると思います。 そういったトイレ休憩やタバコ休憩の時間を給与が発生しない休憩時間とすることはできないかという相談がごくまれにあります。 そこで、今回は、トイレ休憩、タバコ休憩についてどういった取り扱いがなされているのかについて説明させていただきます。
1.休憩時間とは
使用者と労働者の関係について規律する労働基準法の34条1項では、
「使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少なくとも45分、8時間を超える場合においては少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない」と規定しています。そして、この「休憩時間」とは、「労働が労働から完全に離れることを保障される時間」
とされており、休憩時間に該当する場合には、その時間について、労働者に賃金を支払う必要はありません。 簡単にいうと、労働時間の途中にある労働時間でない時間を指します。そして、「労働時間」とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいいます。したがって、トイレ休憩やタバコ休憩が「休憩時間」に該当するかについては、その時間が使用者の指揮命令下に置かれている状態といえるかという点から判断することになります。
2.トイレ休憩について
トイレ休憩については、そもそも生理現象としての排泄を行うためのものであり、短時間であることから、完全に使用者の指揮命令下(労働)から解放されていることが保証されているとはいえないため、「休憩時間」には当たらないことになります。したがって、トイレ休憩の時間を休憩時間として賃金を支払わない取り扱いをすることは労働基準法違反となり認められません。
3.タバコ休憩について
近年、健康志向から喫煙者は減少していますが、喫煙者の方にとって勤務時間中一切タバコを吸わないというのはなかなか耐えられないのが実情ではないでしょうか。タバコ休憩の時間が休憩時間に該当するか否かが争われた裁判例では、「職場内で喫煙していたとしても、何かあればただちに対応しなければならないのであるから、労働から完全に解放されている状態とはいえない」として、休憩時間には該当しないとの判断がなされております。となると、厳密にいうとタバコ休憩の時間も労働時間として給与が発生していることになり、タバコを吸わない人との間の不公平感があるようにも思えますが、仕事中に飲んでよいとされるコーヒーを作っている時間などは休憩時間とならないことは争いはないと思うので、それとの対比を考えると逆にタバコ休憩のみ認めないというのは逆に問題になってしまうかなと思います。
4.トイレにこもっている場合や、何度もタバコ休憩に行く場合は?
上記でご説明したとおり、トイレ休憩やタバコ休憩が労働基準法上の「休憩時間」にあたらないとしても、例えば、病気でもないのにトイレに何十分も閉じこもっていたり(携帯を持ち込んでトイレでゲームをしているような人もいるようです)、短時間に何度もタバコ休憩を行うということは許されるわけではありません。 そのような行為を従業員が行っている場合には、職務専念義務違反として懲戒処分の対象となったり、賞与の減額事由となります。もっとも、使用者側の場合、単に「あの人はしょっちゅうトイレに行っている」というような主観的な内容だけで処分などをすることは、後々紛争に巻き込まれるリスクがあるため、タバコ休憩の時間や、理由なく離席している状況等を記録しておくことが望ましいでしょう。
5.さいごに
こうした細々した休憩について会社側が逐一管理するということは、働きづらい環境になってしまうリスクもあり、なかなか現実的ではないとは思います。 一方で、働いている人も、無配慮にタバコ休憩をしてしまうと、他の従業員から反感を買ってしまうかもしれません。使用者も労働者も、みんなで働きやすい環境にするよう心掛けてもらいたいなと思いました。
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進むカスハラ対策
以前、ブログで現在は様々なハラスメントが存在することをご紹介させていただきましたが、今回はその中でも紹介したカスタマーハラスメント、略して「カスハラ」についてご説明させていただきます。
以前の記事はこちらから:なんでもハラスメント?~現代のハラスメントの問題点~
最近のニュースで、各企業において、カスハラに対して毅然とした対応をとることを表明しているという情報に触れました。具体的には、JR東日本では、カスハラが行われた場合、乗客への対応はしない。悪質と判断した場合には警察や弁護士などに相談して、厳正に対処するという方針をホームページにも掲載しており、会社としてカスハラについては対応しないという毅然とした対応を示しています。
そもそも「カスハラ」とはいったいどういった行為を指すのでしょうか。この点、厚生労働省から出されている「カスタマーハラスメント対策マニュアル」では、カスハラの定義として「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業関係が害されるもの」と定義されており、簡単に言うと、理不尽なクレーム言動がカスハラに該当するとされています。
そして、カスハラに該当する行為の具体例としては、以下のような行為が挙げられています。
(1)要求の内容が妥当性を欠いているケース
- ・提供する商品・サービスに瑕疵(傷や欠点など)や過失が認められないにもかかわらず何かを要求する行為
- ・要求内容が商品やサービスに関係ないものであること
(2)要求実現のための手段・態様が社会通念上不相当な言動の場合
2-1.内容如何にかかわらずカスハラに該当するもの
- ・暴行や傷害などの身体的な攻撃
- ・脅迫・中傷・名誉毀損などの精神的な攻撃
- ・威圧的な言動
- ・差別的・性的な言動
- ・継続的・執拗な言動
- ・土下座の要求
- ・不退去や居座りなどの拘束的な行動
- ・従業員への個人的な攻撃や要求
2-2.内容の妥当性に照らして不相当に該当する場合がある行為
- ・商品交換の要求
- ・金銭補償の要求
- ・謝罪の要求
そして、このようなカスハラ行為について、企業が放置していたり適切な対応を取らない場合、従業員のモチベーションの低下にとどまらず、カスハラにより、従業員の心身を害するようになってしまった場合には、安全配慮義務違反等で損害賠償の対象となってしまう可能性もあります。企業が、毅然とした対応を表明しているのも、会社として従業員を守る姿勢であると表明することで、カスハラ行為自体を未然に防ぐとともに、安全配慮義務を尽くしているというアピールにもなるからであると思います。
しかし、気を付けなければいけないのは、全てのクレームが問題というわけではありません。会社の商品やサービスに欠陥やミスがあった際に、正当な方法でクレームをいう こと自体はむしろ顧客の権利であり、それすらも禁じられるわけではありません。
したがって、適正なクレームとそうでないカスハラを区別する判断が必要になりますが、その判断については、顧客の要求内容に妥当性があるか、要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当かという点を基準に判断していくことになります。
具体的な場面において、カスハラに該当するか否か判断に迷ってしまう場合もあると思います。そうした際に会社において顧問弁護士と契約していれば、その場ですぐに判断するのではなく「弊社が契約している顧問弁護士に相談した上で後日対応したいと思います」と回答することも可能になると思います。また、顧問弁護士がいるということを表明するだけでも、カスハラ行為を未然に防ぐこともできると思います。
当事務所は多数の顧問契約を締結いただいておりますので、カスハラに該当するか、どのように対処すればよいかという点について経営者の皆様に適切にアドバイスができると自負しております。当事務所の顧問契約は「フレックス顧問契約」といって、お支払いいただいた顧問料が無駄にならない顧問契約であるため、今回この記事を見られた経営者の皆様は是非一度ご検討ください。
関連記事:お客様は神様??~旅館業法の改正~
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