2017.12.07

【交通事故】遭ってしまったら何割くらい弁償してもらえるの?過失相殺について知っておきたい基礎知識

交通事故には不注意で遭遇してしまうものから、注意していても遭遇してしまうものまでありますが、総じて交通事故は、予期せぬタイミングで起きるものです。

そのため、交通事故に遭遇するとどうすればいいか分からなくなってしまうもので、そのような状況で損害賠償責任が、休業損害が、後遺障害等級認定が、過失相殺が、と知らない用語で説明されても頭には入ってこないはずです。

そこで、今回は、交通事故でよく問題になる「過失相殺」についてご説明したいと思います。

1 過失相殺ってなあに?

過失相殺という言葉は、日常でも耳にすることもあるかと思いますが、正確には、被害者側に事故の発生や損害の拡大に落ち度がある場合、損害賠償額を減額する制度を言います。
この制度は、自分の責任に基づく損害を第三者に負担させるべきではないという公平の理念に基づくものとされています。

例えば、A車とB車が衝突し、A車にだけ100万円の損害が発生した事案で、それぞれの過失割合がA:B=2:8だとします。
この場合、お互いの過失割合を考慮したうえで過失相殺を行い、BはAに対して80万円を賠償すればいいことになるのです。

2 過失割合はどのように決まるの?

過失相殺は、本来裁判所の裁量によって、個々の事件ごとに判断することが可能なはずですが、交通事故は日々大量に発生しており、同じような交通事故について裁判官ごとに判断が異なるのは望ましくありません。
そこで、裁判所や弁護士の間では、過失割合について、別冊判例タイムズ第38号や財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」(通常、「赤い本」と言われています。)を参考にして判断されています。

これらの基準表では、事件類型ごとに図を作成し事故当事者の過失相殺割合が記載されています。具体的には、歩行者対自動車・単車、歩行者対自転車、自動車対自動車、単車対自動車、自転車対自動車・単車の類型及び高速道路上の事故類型が基準化されています。
しかも、類型ごとに提示された基準を修正する要素やその修正率等まで定められていますので、事案ごとのおおよその過失割合を知ることができます。

3 こんなとき過失割合はどうなるの?

それでは、具体的事案で過失割合がどのようになっているかご紹介したいと思います。ここでは、実際によく発生している追突事故、出会い頭の衝突事故、右折時衝突事故について見て行きたいと思います。

(1) 追突事故の場合

追突事故の場合、基本的には追突された側の車両には過失がなく、追突した側の前方不注意(道路交通法70条)や車間距離不保持(道路交通法26条)等の一方的過失によるものと考えられます。そのため、赤信号や一時停止の規制、渋滞で停止した車両に追突した場合、追突した車と追突された車の過失割合は100:0ということになります。

もっとも、追突された側の車が急ブレーキをかけた場合は話が別です。急ブレーキは、危険を防止するためやむを得ない場合を除き、してはならないとされています。そのため、追突された側の車が急ブレーキをかけたために、追突してしまった場合、追突された側にも過失があると判断されることになります。
その割合は、速度違反の程度など具体的な事例にもよりますが、70:30くらいの場合が多いでしょう。

(2) 出会い頭事故の場合

次に出会い頭事故の場合をご説明します。ここでは、信号機による交通整理の行われていない同幅員の交差点で自動車同士が出合い頭に衝突した場合を見てみたいと思います。

このような交差点では一般的に左方車が優先とされているだけで(道交法36条1項1号)、それ以外に特別の優先関係がある訳ではありません。しかし、見通しのきかない交差点では、左方車は減速しない限り、自分が優先されていることに気付けないのですから、あまり左方優先を重視すべきではありません。また、同幅員の交差点においては、両車ともに徐行義務があります(道路交通法42条1項)。そのため、過失割合の判断にあたっては、両車が減速したか否かが重要となってきます。

具体的には、両車が同じくらいの速度だった場合、過失割合は左方車:右方車=4:6となります。左方車が減速したのに、右方車が減速しなかった場合、さらに左方車が有利となり、過失割合は2:8となります。これに対して、左方車が減速せず、右方車が減速した場合、過失割合は逆転し、6:4となります。

なお、これらはあくまでも基本割合なので、見通しのきく交差点だったか、夜間だったか、どちらかに著しい過失があるといえるか等により、割合が変動することになります。

(3) 交差点で右折車と直進車が衝突

交差点で右折車と直進車が衝突した場合についてご説明します。ここでは、直進車・右折車共に青信号で侵入した場合を検討しましょう。

この場合、右折車は直進車の進行を妨げてはなりません(道路交通法37条)。そのため、右折しようとした場合に、直進車が存在し速度や方向を急に変更しない限り両者が接触するおそれがあるときには、直進車が右折車に対して優先関係に立ちます。もっとも、直進車が優先されるとしても、右折する車両に注意する義務を有することには変わりがありません(道路交通法36条4項)。

したがって、直進車と右折車の過失割合は、通常、2:8となります。
もっとも、右折車が徐行をしていなかったり、ウィンカーを出していなかったりする場合、右折車に不利に、他方、直進車に時速15キロメートル以上の速度違反やその他の著しい過失がある場合などは直進車に不利に修正されることとなります。

4 過失割合を争う方法

過失割合を争う方法を簡単にですが説明させて頂きたいと思います。

過失割合は、通常、事故時の状況に基づいて判断されることになります。そのため、過失割合を争う場合、事故時の状況のうち自分に有利な事情を積極的に立証して行くことが必要になります。
裁判所が別冊判例タイムズ38号を参照して過失割合を判断することが多いことからしますと、ここで考慮されている事情のうち自分に有利なものを立証することが重要になると考えられます。具体的には、ドライブレコーダーの映像や目撃者の話などから事故時の状況を客観的に立証して行くことになります。

では、それは自分で簡単にできるかと言うとそういう訳ではありません。別冊判例タイムズ38号の類型はどうしてもモデルケースにすぎませんので、実際の事故にぴったり合致しているとは限りません。そのような場合には、類似する事故態様でどのような過失割合が認定されているのか過去の裁判例を調べてみることも必要になるでしょう。

5 まとめ

いかがでしたでしょうか?今回は、交通事故における過失相殺について簡単にご説明させて頂きました。

過失割合を争うには、先程も申しました要因別冊判例タイムズ38号における過失割合の知識だけでなく、証拠の収集方法など様々な知識が必要になってきます。自分で保険会社や弁護士と交渉するとなると、どうしても知識的に専門家に劣ってしまうから、保険会社からの提案を鵜呑みにしてしまい、思わぬ損をすることもあります。
そのため、実際に自分の事件ではいくらくらい弁償してもらえるのか弁護士に相談してみることをお勧め致します。

2017.05.01

【交通事故】交通事故の治療から治療費等の支払いまでの流れ

交通事故に遭ってしまった場合、幸運にも怪我をしなければいいのですが、必ずしも無傷で済む訳ではありません。たとえ軽い衝撃だと思っていても、次第に痛み出すということもあります。このように交通事故と怪我は切っても切り離せない関係にあります。
このように怪我が問題になるということは当然その治療も問題になってきます。交通事故での治療は保険とも密接に関係してきますので、治療から治療費等の支払いまでの流れを勉強しておきましょう。

1 交通事故後の治療の流れ

(1) 交通事故に遭ったら病院に行こう!

先程も申しましたように、交通事故にあった直後は、軽い衝撃しか感じておらず痛みを感じないことも少なくありませんが、後々、かなりの痛みやそれに伴う支障が出てくることもよくあります。
このようなおそれもあるため、交通事故に遭ったらすぐに病院に行くようにしましょう。もし受診が遅くなってしまうと、後遺症が残りやすくなるだけではなく、治療費の支払との関係でも問題になってしまうかもしれません。

すなわち、交通事故から時間が経過して病院に行った場合、その怪我が本当に交通事故による怪我なのか断定することが出来なくなってしまうことがあるのです。このように交通事故による怪我か分からないような場合ですと、交通事故による怪我ではないとして、保険会社による支払いを受けることが出来なくなってしまうおそれがあるのです。

念のため、一度、病院に行くようにしましょう。
なお、最初から病院ではなく、整骨院に行く人もいらっしゃいますが、認められない場合もありますので、まずは病院(整形外科等)に行くようにしましょう。(整骨院は医師がいるわけではないので、「通院」と認められないことがあります。)

(2) 治療費について

病院に行くとどうしても治療費がかかってきます。交通事故による怪我のための治療費は、健康保険が使えないことはほとんどありませんのでご安心ください。むしろ保険診療が可能なのに健康保険を使用しないことで加害者との示談でもめてしまうこともありますので、特別な理由がない限り、健康保険を使うようにしましょう。

そして、その際の治療費については、①被害者が一旦自分で立て替えて支払い、後日加害者の保険会社に請求する場合と、②被害者は治療費を支払わず、加害者の保険会社が直接病院に支払ってくれる場合(「一括払いの対応」と言われています。)があります。
なお、一括払いの対応は、あくまでサービスとして行われているものなので、一括払いの対応がなされるかどうかは、怪我の程度や治療期間によって変わります。

(3)治療期間について

交通事故の怪我の治療をいつまで続けるべきなのかは、怪我の部位・程度によって個別に変わってくるものであり、実際に治療をしてくれている医師の判断によることになります。ただ、例えば交通事故の相談で一番多い「むち打ち症」では一般に3~6か月程度で治癒することが多いと言われており、ある程度治療が長期化すると、保険会社の担当者から「そろそろ治療を打ち切って後遺障害診断書をとってください」と言われます。

このように言われたとしても、もう病院に行けないと言うことではなく、医師と相談して治療を続けるべきか決めてください。注意してほしいのは、ここで保険会社の言うとおりに後遺障害診断書をとってしまうと、原則としてそこに記載されている「症状固定」日以降の治療費は支払われないということです。もしまだ痛みが残っているのであれば、安易に後遺障害診断書をとらないようにしましょう。

先程「症状固定」というあまり聞きなれない言葉が出てきましたね。それでは、この「症状固定」についてお話ししていきたいと思います。

2 症状固定したらどうすればいいの?-後遺障害等級の流れ

(1) 症状固定ってなあに?

まず、「症状固定」とは医学的な用語ではありません。医師の世界では「治ったか、治っていないか」が問題になりますが、「症状固定」は損害賠償との関係で「これ以上は医学的に治らないが、治らないことを損害として評価して決着をつける」ための概念になります。そのため、この「治らないことを損害として評価できる」時点を症状固定時期と言います。要するに、これ以上治療を継続しても改善しない時点です。

(2) 後遺障害等級認定の流れ

「治らないことを損害として評価できる」時点、すなわち症状固定にあると医師が診断したら、その時点で被害者の体に残っている損害について、交通事故による後遺障害として認められるものかどうか、第三者機関に審査してもらうことになります。この審査を、後遺障害等級認定といいます。

後遺障害等級認定の申請方法には、被害者自ら行う被害者請求と、任意一括払いをしている場合に加害者の加入する任意保険会社が行う事前認定があります。事前認定では、保険会社が代わりに行ってくれますので、以下では被害者請求の方法について詳述します。

ア まずは後遺障害診断書の作成

後遺障害等級認定の手続きを行うには、まず、医師に後遺障害診断書を作成してもらうことになります。先程も申しましたように、後遺障害診断書の作成にあたってはしっかり医師と相談するようにして下さい。

イ 診療報酬明細書など必要書類の収集

この「後遺障害診断書」に加えて、これまで受けてきた治療に関する資料(診療報酬明細書や診断書)、交通事故の状況に関する資料(交通事故証明書や事故発生状況報告書)、請求者の印鑑証明書など審査資料として必要な書類を集めます。
ここで上手く書類を集めることが出来れば、事前認定の場合よりもよい後遺障害等級認定を受けることも出来ます。保険会社は被害者に対して悪意を持って、不当な申請手続をしている訳ではありませんが、被害者自身が納得できるほど一生懸命な対応をしてくれていない可能性はあります。

ウ 自賠責調査事務所による審査

上で集めた必要書類を、加害者の自賠責保険に直接提出することによって、後遺障害等級認定を受けることが出来ます。審査にかかる時間は、怪我の程度によって変わりますが、通常、1~2か月で結果の通知がなされることが多いです。

3 いよいよ保険会社との示談交渉!

後遺障害等級認定の結果の通知が来たら、その結果に基づいて、加害者の保険会社と示談交渉を始めることになります。
しかし、加害者の加入する保険会社が、被害者側から請求した金額をすんなり支払ってくれることは多くありません。
慰謝料の金額、過失割合などがよく問題になります。慰謝料は、精神的な苦痛を填補するためのものですから、具体的にいくらであると客観的に明確ではありません。また、過失割合は、被害者と加害者の言い分が食い違っている場合等に、被害者にどの程度過失があったかが問題になります。

このように損害額や過失割合等について加害者の加入する保険会社との間で交渉を進め、双方が合意できれば、示談成立となり、加害者の加入する保険会社から賠償金を支払ってもらうことになります。

示談書(承諾書、免責証書など名称が違うこともあります。)が提示されたらサインをする前に、一度、弁護士にご相談下さい。治療期間、治療日数、休業日数や収入額などから、賠償額が適正な金額であるか、提示された金額で示談すべきかなど妥当かを判断してもらいましょう。
一般的に、弁護士が介入していない場合、弁護士が介入することで通院慰謝料が増額されることが多いです。

4 保険会社と示談できなければ裁判になる

加害者の加入する保険会社との間で示談交渉を続けても、どうしてもお互いの言い分が食い違い、残念ながら示談がまとまらないこともあります。
そのような場合、財団法人交通事故紛争処理センターなどを利用したり、裁判所で加害者本人を相手方として、調停や訴訟をすることになります。

5 まとめ

今まで見てきましたように交通事故から治療の終了、解決までかなりの期間がかかってしまうことになります。
ご相談を受けていての感覚ですが、ほとんどの方が弁護士に相談されるのは保険会社との示談の段階になって希望した金額がもらえないことが判明してからになります。
弁護士に相談して頂ければ、この時点からでも増額交渉が可能ではありますが、この段階では集められる証拠も限られてしまっており、もっと早期に相談してくれていれば「もっと増額できたのに…!」と思うことも少なくありません。
ですので、保険会社の対応に不満を少しでもお持ちでしたらすぐに弁護士に相談するようにしましょう。

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